AI・半導体市場の次の主役と日本の勝機――技術革新がもたらす構造変化
楽待 RAKUMACHIAIの急速な普及と半導体需要の急増を背景に、市場では巨額の資金が動いている。しかし、目先の株価の乱高下や「AIバブル」の議論の裏では、科学研究のあり方やサプライチェーンの地政学的構造を塗り替える、より根本的な変化が進みつつある。
本対談では、エンジニアの中島聡氏とエコノミストのエミン・ユルマズ氏が、エンジニアリングと金融という異なる視点から、AIおよび半導体産業の将来像、過熱するハードウェア市場のリスク、そして米中対立下における日本の製造業の役割について議論を展開した。
逼迫する電力インフラと「特化型エージェントAI」の台頭
AIの普及において、まず物理的な制約として浮上しているのが電力インフラの不足である。エミン氏は、データセンターの新設ラッシュに対して供給電力が全く追いついておらず、株式市場ではまだ十分に評価されていないと指摘する。このボトルネックを解消するため、代替エネルギー関連の産業が再び脚光を浴びる可能性が高いと見ている。
一方、ソフトウェア領域では、汎用型AIから業界特化型のエージェントAIへのシフトが重要な転換点として挙げられた。エミン氏はトムソン・ロイターが中国のオープンソースモデルをベースに約60億円を投じ、自社保有の金融データを取り込んだ独自のエージェントAIを構築した事例を紹介した。医療や金融といった分野では、人類全体のデータを網羅した汎用AIよりも、特定のドメイン知識に絞り込んだモデルの方が実用性が高いという見方である。
中島氏もこの見解に同意し、企業がAPI経由で自社の機密データを外部のAIプラットフォームに送信することへの警戒感を指摘した。トヨタ自動車の製造ノウハウのように、自社内に蓄積されたデータを安全に活用するためには、オープンソースを活用して自社環境でカスタマイズ・運用する動きが自然な流れとなる。両氏は、こうした業界特化型モデルの構築やパッケージ化を支援するSaaS型ビジネスが、今後のソフトウェア業界において有力なモデルになり得ると分析している。
「中央銀行化」するNVIDIAと供給過剰のリスク
現在の市場を牽引するNVIDIAについて、エミン氏は警戒感を示す。同社が圧倒的な独占状態にあり、旺盛な需要が将来も継続する前提で5兆ドル規模の時価総額が織り込まれているが、この前提には脆弱性が潜んでいると論じる。
エミン氏は、NVIDIAを単なるハードウェア企業ではなく「AI世界の中央銀行」と表現する。自社製チップの購入者に対して間接的に信用を供与・循環させるような構造を抱えている場合、流動性危機に陥りやすい。対比として挙げられたキオクシアなどの伝統的なメモリメーカーは、好不況のサイクルに左右されつつも、製造した製品を販売する純粋な製造業モデルであり、巨額のレバレッジを伴う金融的な無茶はしていない。
もしデータセンター投資に急ブレーキがかかる、CUDAを経由しない代替技術が普及する、あるいは競合他社が安価な半導体を投入して製品がコモディティ化した場合、過去のITバブルにおける光ファイバーの過剰敷設と同様の事態が起こり得ると警告する。原油価格が急落した時のように、現在は1個あたり数万ドルで取引されているGPUであっても、コモディティ化が進めば中古市場で供給過剰に陥るリスクがあるという。
フィジカルAIがもたらす科学技術の加速と市場の変容
中島氏は、次の大きな波として「フィジカルAI」を挙げる。これは自動運転や人型ロボットにとどまらず、創薬、新素材の研究、数学の未解決問題の解明など、科学技術の進歩そのものをAIが加速させる領域を指す。
人類の歴史において、博士号を取得して基礎研究に携わる人材は全人口の極めて限られた割合に過ぎなかった。しかし、電力を供給するだけで研究者レベルの知能が何万人、何億人分も稼働する環境が整いつつある。さらに、次世代のAI自体をAIが設計・開発する段階に入れば、進化のスピードは人間の理解の及ばない領域に達する。中島氏は、目先のバブル論争よりも、科学技術の進展速度そのものが非連続に跳ね上がる点こそが本質的な変化であると主張する。
こうした知能の爆発的進化は、金融市場の構造にも影響を及ぼす。エミン氏は、かつて人間が行っていた株式売買がアルゴリズム取引に置き換わった歴史に触れつつ、人間を遥かに凌駕する超知能(スーパーインテリジェンス)が台頭した場合、市場の非効率性(インエフィシエンシー)が瞬時に解消され、投資家が得られる超過リターン(アルファ)が消失すると指摘する。価格形成が完全に合理化されれば、現在のような人間による株式市場の存在意義自体が問い直されるため、現代の投資家は「裁量で市場の歪みから利益を得られる最後の世代」になる可能性があると論じた。
米中対立の激化と日本の製造基盤が持つ優位性
地政学的な分断が進むなか、米国は製造業やサプライチェーンの「脱中国」を推進しているが、国内回帰は容易ではない。中島氏は、米国の労働力や教育水準の課題から、米国内だけで製造業を完結させることは困難であり、信頼できるパートナー国に頼らざるを得ない構造があると分析する。
特に重要となるのがロボットのハードウェアやレアメタルなどの重要部材である。中島氏は、米国が中国製ドローンや中国製部品を含むロボットの排除を検討する動きに触れ、現状では西側諸国の部品だけで高性能ドローンを製造することすら難しい現状を指摘した。また、強力な磁石などに不可欠なネオジムなどのレアアース精錬において、中国が環境負荷を引き受ける形でシェアを独占してきた経緯がある。環境負荷を抑えながら高純度の素材を精錬する技術開発など、緻密な工夫が求められる領域は日本が得意とするところであり、韓国との適切な役割分担も含めて西側諸国のサプライチェーンを支える大きな好機になると述べる。
エミン氏も、米国における造船能力の衰退や防衛用迎撃ミサイルの製造能力不足を例に挙げ、米国が製造業の基盤を大きく損なっている実態を追認する。一方、日本には鉄鋼、機械、非鉄金属、ガラス、土石といった基幹産業の技術が残っている。加えて、足元の為替環境や人民元切り上げへの米国の圧力などを考慮すると、コスト面でも中国での製造優位性が薄れ、日本回帰の条件が整いつつある。
ただし、両氏とも国内の課題を看過しているわけではない。エミン氏は、昭和や平成初期と異なり国内の労働力人口が減少しているため、ロボット活用や労働環境の抜本的な見直しが不可欠であると指摘する。中島氏は、有名大学から大企業へ進む従来のホワイトカラー偏重の教育観を見直し、実際に手を動かしてものづくりを担う高専(高等専門学校)や現場の技術者がより高く評価され、相応の報酬を得られる社会構造への転換が必要であると訴えた。
海外投資家が注目する日本の隠れた技術と「10倍株」の条件
米国市場では、知名度の高くない日本企業が持つ固有の技術が再評価される現象が起き始めている。中島氏によれば、TOTOのセラミックス技術や味の素の素材技術が、実は最先端の半導体製造プロセスにおいて不可欠な役割を果たしているといった情報が、米国の投資家の間で発掘され話題になっているという。
日本には約4,000社の上場企業が存在するが、エミン氏の指摘では、英語の調査レポートが恒常的に提供されている企業は150社から200社程度にとどまる。市場の大半を占める企業の情報が海外に届いておらず、極めて割安な状態で放置されているケースが多い。米国では優秀な技術者が会社を辞めてベンチャーを立ち上げる傾向が強いのに対し、日本では優れた技術者が既存の大企業内に留まって研究を続ける傾向があり、これが事業の多角化や思わぬ技術的ブレークスルーを生む土壌になっている。
今後10年間で株価が10倍になる「テンバガー」の可能性について、中島氏はAI創薬や新素材開発の領域を挙げる。10年前にNVIDIAのジェンスン・フアンCEOがGPUのAIへの応用を示唆していたのと同様に、現在はAIを用いた創薬や材料開発の有効性を示す状況証拠が揃いつつある。AIによる創薬を実現した企業や、その基盤技術を提供する企業の中から、将来の急成長株が現れる蓋然性は高いと見る。
ただし、エミン氏は日本企業における経営体制の違いに留意する必要があると補足する。数年で交代するサラリーマン社長のもとでは、10年単位の時間を要するAI投資やリスクテイクへの意思決定が先送りされやすい。過去の事例を見ても、思い切った事業変革によって急成長を遂げるのは、創業家や筆頭株主が明確なリーダーシップを握っているオーナー企業であることが多いと分析している。
半導体産業の多層的な構造と長期投資のアプローチ
半導体市場への投資手法について、対談では個別のリーダー企業だけでなく、製造装置、検査機器、周辺部材などを網羅的に捉える視点が議論された。
一口に半導体といっても、回路設計、ウェハ製造、露光、エッチング、洗浄、パッケージング、検査など工程は多岐にわたり、それぞれに特化したニッチトップ企業が存在する。中島氏は、NVIDIAのような単独の勝者を追い続けるだけでなく、ブロードコムやAMD、メモリ関連企業、あるいは光半導体のような新技術を開発する企業など、複数のレイヤーに分散してエクスポージャーを取ることの合理性を説く。例えば、RFIDタグのように生活に浸透している技術でも、それを支える部材や装置のサプライチェーンを遡ることで、本質的な強みを持つ企業が見えてくる。
エミン氏は、半導体産業が世界的なメガトレンドである以上、目先の市場の過熱や一時的な下落サイクルを過度に恐れる必要はないと述べる。積立投資を前提とするならば、初期段階での相場の下落はより低い価格で口数を買い増す好機となる。個別の技術トレンドをすべて追い切れない投資家にとっては、世界のリーダー企業、ニッチトップ企業、新世代企業などに分散されたファンドを活用し、ドルコスト平均法で長期的に関わっていく手法がリスク管理の観点からも現実的であるとした。
終わりに:人型ロボットが日常に溶け込む未来へ
対談の締めくくりとして、中島氏は将来のメタトレンドとして「人型ロボット」の普及に言及した。技術開発が進み、月額3万円程度で家事、料理、マッサージ、身の回りのケアなどをこなす人型ロボットがリースされる時代が訪れれば、人々の生活様式や家事労働の概念は一変する。
AIの進化は、単なるデジタル空間内の情報処理にとどまらず、物理世界を動かすフィジカルAIやロボティクスと融合することで、現実社会と産業のあり方を根底から再定義しようとしている。金融市場における短期的な価格変動の背後で、技術と製造基盤の優位性がどこへ移転していくのか。その長期的な潮流を見極める複眼的な視点が、今まさに求められている。
ソフトバンクはAI世界のヘッジファンド、NVIDIAはAI世界の中央銀行。中央銀行だからこそ債務危機に陥りやすいんですよ。AIバブルが崩壊するとか小さい話なんです。AIがもうはるかに人間を超えて賢くなっていくっていうのが、多分間もなく訪れます。そうなったら人間を滅ぼしたりしないんですかね。恐ろしい時代にエントリーする可能性は高くなっています。AIが暴走して人間を全部滅ぼすウイルスを独自に開発させるってこともなきにしもあらずです。AIが新しい薬を発見する時代が今来ようとしています。10年後にはそのAIが発見した薬のために今の株価が10倍になっている会社が必ずありますよ。今まで中国頼みにしていたものはもはや日本に来る。フィジカルなものにおいてはやっぱり日本は得意です。日本に今輝けるチャンスが来ているのかな。製造業やものづくりを大事にしないと駄目ですよ、国というのは。不動産投資を学ぶなら楽待。
楽待チャンネルをご覧の皆さん、こんにちは。フリーアナウンサーの佐田志歩です。前編ではAI・半導体を巡る世界の動きと業界の現状について取り上げました。後編では「AI・半導体分野、次の主役は?」をテーマに、引き続き中島聡さんとエミン・ユルマズさんにエンジニアとエコノミストの視点から業界の見通しを語っていただきます。よろしくお願いいたします。
早速本題に入っていきましょう。エミンさんはこれまでもAIバブルを論じてこられたかと思いますが、そんな中でもAI・半導体の中で引き続き伸びていくと思う分野や、成長を規定している分野があればぜひ教えていただきたいです。
1つは電力インフラですね。電力インフラが全く足りないので、ここは絶対に伸びていきそうです。あとはデータセンター投資が続けば、部品屋さんやコンポーネントのところも伸びていくので、そのあたりも引き続きあると思います。ただ、電力が全く足りていない分、株式市場ではまだ評価もされていないので、オルタナティブエネルギーがもう1回盛り上がる可能性もあります。トランプさんの政策が逆風になっていた面もありますからね。
もう1つは、いわゆるAIのキラーアプリみたいなものがまだ色んな分野で出ていない気がします。いわゆるエージェントAIが活躍する時代がすぐそこまで来ているんじゃないかなと思っていて、面白いかもしれません。この前面白かったのは、トムソン・ロイターが独自のAIエージェントを作ったらしいんですよ。中国のオープンソースモデルをベースにして、60億円くらいかけて彼らが持っているすべてのフィナンシャルデータを取り込ませたんです。
今のAIって全人類のデータを全部取り込んでいますが、そんな必要性はないですよね。金融だったら金融情報だけでいいし、医療だったら医療だけでいい。ブルームバーグも似たようなことをやると言っていますが、日本のフィナンシャルデータだけを取り入れたエージェントなどもできるんじゃないかと思ったりしているので、そういう特化型のブームが来そうな気はしますね。
やっぱりAPIでOpenAIとかに自分たちのデータを投げるのを嫌がっている会社もいっぱいあるんですよね。そうすると自分たちでコントロールしたい。自分たちでコントロールするなら別に汎用じゃなくてよくて、自分たちの業界に特化したデータであれば、トヨタ自動車が今まで自動車を作ってきたノウハウなどをつぎ込んでも外に漏れないわけです。それは十分ありですし、最近はそのあたりの環境も整ってきたので、オープンソースのものを使ってカスタマイズして自社で使うというのは増えると思います。
それをSaaSみたいにパッケージにして売ってくれるところが出てくるかもしれません。ソフトウェアカンパニーがどう生き残るかを考えた時、1つの答えはそこにあるかもしれませんね。全員が社内にAIの分かる人を雇えるわけではないですし、大企業でもそんなに人材がいるわけではないですから。SaaS企業のビジネスモデルの転換も含めて、ちょっと面白くなりそうな気はします。インターネットだって最初はブラウザとメールだけでしたが、そこから動画サイトやSNSが生まれ、スマホに載って色んなものに発展していきました。だから今見えていないキラーコンテンツやキラーアプリを誰がどう売っていくかというところが本当の勝者かもしれません。AI時代のGoogleがどこにあるのかは、まだ見えていないのかもしれません。
逆に、慎重に見ている分野や現時点でバリュエーションが過熱している分野はありますでしょうか?
例えばNVIDIAなどはめちゃくちゃ過熱していると思います。独占しているからあれだけの株価がついているし、今の需給が永遠に続く想定で5兆ドル規模の時価総額がついています。しかし、NVIDIAやCUDAを通さなくてもAIができるようになるとか、もっと安く半導体を設計・提供するライバルが出てくるとか、データセンター投資そのものにブレーキがかかった時には、一気にドミノ倒しになる可能性があります。そのど真ん中にあるのがNVIDIAです。
NVIDIAはもはや単なるGPUメーカーではなく、中央銀行なんです。中央銀行だからこそ流動性危機に陥りやすい。例えばキオクシアは、ここから崩れたって痛くも痒くもないわけですよ。今利益が出ていますが無茶なことはやっていないし、メモリを作って売っているだけで、買ってくれる会社にお金を貸したり無茶な融資をしているわけではないですからね。シクリカルなのでブームが一服して利益が下がっても、半導体サイクルの一環としてビジネス上よくある話です。儲かった時の蓄えもあります。
しかし今のNVIDIAは中央銀行のような存在なので、そうはいかない。日本の銘柄で言うとソフトバンクグループも同様です。強いて言えばソフトバンクはAI世界のヘッジファンド、NVIDIAはAI世界の中央銀行だと僕は思っています。ITバブル時の光ファイバーと同じルートを辿ると、そもそもGPUがものすごくダブついてくる可能性がある。今1個500ドルや1000ドルで作ったGPUを3万ドルで売るという殿様商売をしていますが、セカンドハンドで「手元に余っているから引き取ってくれ」という時代が来るかもしれない。半導体がコモディティ化すればするほどダブつきは起きやすくなります。原油が一時期1バレル150ドルからコロナ禍でマイナスになったのと同じ現象ですね。
中島さんは、業界の中で次の主役として注目している分野はありますでしょうか?
ざっくり言うと、僕はフィジカルAIが一番大きいかなと思います。フィジカルAIは結構広くて、自動運転やロボットもそうですが、AIを使った創薬や素材研究などですね。Googleの人たちなどが明らかに目指しているのは、AIによって科学技術の進歩そのものが加速されることです。新しい薬を発見したり、数学の新しい解法を見つけたりといった科学の進化をAIが担う時代が来つつあります。人類の中で博士課程を修了した人なんてごくわずかですが、電気を入れれば何万人、何億人もの博士がいるような状況が間もなくできようとしています。彼らが新しい薬や科学の法則を見つけ始めると、科学はとんでもなく進歩します。
ですから、AIバブルが崩壊するとか小さい話なんですよ。科学の進歩がこれまでとは比較できないほど加速します。さらに次世代のAIはAI自身が作るので、加速度的に進化していく。そのうちAIがどう動いているのか人間に分からなくなり、遥かに人間を超えて賢くなっていくのが間もなくやってきます。20年、30年先の話ではありません。
そうなったら、人間を滅ぼしたりしないんですか?
分からないですけどね。株の話とは次元の違う話かもしれませんが、そういう変化の時代だというのが僕の認識です。
それは僕も同感ですね。投資家目線では株が上がる下がるという話ばかりになりますが、AIのポテンシャルや危険性も含めて、恐ろしい時代に突入する可能性は高くなっています。人間が悩んでいた病気に対して、個々人に合わせた治療法や薬品開発、今まで何十年もかかっていたタンパク質解析などが簡単にできるようになる一方で、AIが暴走して人類を滅ぼすウイルスを独自に開発する可能性もなきにしもあらずです。そういう未来がすぐそこまで来ています。
それを聞くと直近のチャートやAIバブルなどは小さな次元の話に思えてきますね。
著書『エブリシング・ヒストリー』の中でも書いたのですが、私たちは多分、株取引をやっている最後の世代なんですよ。スーパーインテリジェンスのAIができたら、人間が相場で勝てるわけがありません。相場自体がなくなると思います。昔からアルゴリズム取引などはありましたが、それでも人間には100%勝てなかった。しかし人間以上の知能を持ったものが来たら勝てるわけがないし、そもそも相場が存在する意味があるのかという話になります。
相場に非効率性があるからこそ、我々は「割安だ」「過大評価されている」と判断して利益を得られるわけです。でも全てAIによって合理的に動くとしたら、あらゆる情報が瞬時に織り込まれてアルファがなくなってしまいます。だから私たちが相場で儲けられる最後の世代です。あと20年くらいあるかどうかですね。
AI・半導体分野で、今後日本にはどんなチャンスがあるのか伺っていきたいです。フィジカルAIなどは日本が活躍できる分野ではないかという声も聞かれますが、中島さんいかがでしょうか?
地政学的に明らかな分断が起こりつつあり、アメリカは超党派で脱中国を進めたいと考えています。しかし、全てをアウトソースしてしまった結果、素材や部品を国内に取り戻そうとしても簡単ではありません。アメリカの労働者の教育水準は日本と比べると低いですから、パートナー国から買うしかない。そこに日本や韓国は最高の立ち位置にいます。アメリカのサプライチェーンの悩みを解決してあげる立場として、ものすごく力を入れるべきだと思います。
アメリカ政府が「中国製のロボットや部品を含んだロボットは売ってはいけない」と言い出す可能性はかなり高いので、日本はその準備をしておくべきです。「準備ができたから規制してもいいですよ」とトランプさんに言ってあげれば喜ばれますよ。ロボット本体だけでなく、ネオジムなどのレアアース・レアメタルもそうです。中国に止められたらアメリカの産業が止まってしまうため、アメリカは中国に対して思い切った経済制裁ができません。そこを解決してあげるパートナーになれれば大歓迎されます。精錬時の公害問題などを高い技術でクリアして提供していく。日本にとって今が大チャンスだと思います。
アメリカに足りないのは製造業なんですよね。造船能力を失い、ミサイルが足りなくなってもすぐに作れない状況に陥っています。今から製造業をゼロから立ち上げようとすると膨大な時間とお金がかかります。一方で日本には、鉄鋼、機械、非鉄金属、素材、ガラス・土石といった基盤産業がまだ残っていて技術も失われていません。フィジカルなものにおいては、今まで中国頼みだったものが日本に来る可能性があります。
足元の円安に加え、最近アメリカは中国に対して「人民元が安すぎる」とプラザ合意のような人民元切り上げの圧力をかけ始めています。そうなると中国での製造コストが上がり、日本で作る方が安くなります。昭和や平成前半と違って労働力不足という問題はありますが、ロボットで乗り切るのかどうかも含め、フィジカルな分野は日本の得意領域ですから、日本が輝けるチャンスが来ている気がしますね。
日本の自動車産業のピラミッドの下にはたくさんの会社があります。電気自動車の時代になってそのまま放っておくと潰れてしまいますが、その人たちをロボットやドローンへうまくシフトさせる工夫が必要です。日本の現場で叩き上げられた超優秀な技術者がたくさんいるので、日本でしか作れないロボットを作ってほしいですね。戦後は航空産業や防衛産業にアメリカの規制がかかっていましたが、これからは逆にアメリカから制限されず、サポートされる時代になるかもしれません。
教育も変える必要があります。有名大学に入って一流上場企業へ行くという昔の成功方程式が未だに続いていますが、今はフィジカルAIの時代ですから、本来なら高専などが大人気になるべきなんです。ホワイトカラーの仕事はますます減っていく一方で、高専出身者は引く手あまたです。本当に世界が変わるというのはこういうことだと思います。
本当に技術者やエンジニアがもっと重宝されるべきです。私自身も工学部を出て証券会社に行きましたが、金融は新しいものを作っているわけではないですからね。私たちの電気や水を支えてくれている人たちこそ、高い給料をもらって働くべきです。アメリカもものづくりを軽視したからこそ今落ちぶれているわけで、日本もエンジニアや技術者が高い給料をもらえる時代が来てほしいですね。アメリカでは今データセンターの配線工事ができる電気工事士が足りず、給料が跳ね上がっています。まさにブルーカラー回帰が起きています。
米中対立は日本にとって間違いなく追い風です。株にもお金が集まっていますし、アメリカへの不安感から日本がオルタナティブな投資先になりつつあります。世界的な日本人気も高まっています。ただ、こういうチャンスは50年や80年に1回しか来ないものなので、これを活かせるかどうかは政治や政策次第ですね。
最近、日本の企業を発掘するアメリカ人が増えているんですよ。日本には素晴らしい技術を持っていても知名度が低くてバリュエーションが抑えられている企業がありますが、アメリカ人がそれを見つけてくるんです。「TOTOのセラミック技術が実は半導体プロセスですごい役割を果たしているから買え」とか、「味の素の技術が半導体に役立っているから買え」といった盛り上がりがアメリカ人の間で起きています。日本企業は発信があまり得意ではないので、英語で情報を届けてあげればもっと買われるようになると思います。
直近でもMLCC関連で太陽誘電、村田製作所、TDKなどが注目されていますが、アメリカには同種の企業があまりないため、外国人が太陽誘電などを大量に買っているのを見かけました。
日本の上場企業約4000社のうち、証券会社が英文レポートを出してカバーしているのはせいぜい150社から200社程度、全体の数パーセントしかありません。ほとんど知られていないからこそ、彼らが本格的に発掘しに来たらすごいことになりますよ。アメリカなら技術者が独立して起業するところを、日本はTOTOのような大企業の中に残って開発を続けます。マルチプルはつきにくいですが、優秀な人材が大企業に残っているという意味では大きなチャンスです。海外勢に高値で買われる前に、まず日本の個人投資家に発掘して買ってほしいですね。
AI・半導体分野で、今後もテンバガーになるような株は生まれるのでしょうか?中島さんは10年以上前からNVIDIAをお持ちですよね。
なぜ10年前にNVIDIAに気づけたかというと、実は情報はあったんですよ。ジェンスン・フアンCEOが10年前から「GPUはAIに使える」と言っていて、そういう時代が来ると思って買いました。今その構図にぴったりなのが創薬です。AIが新しい薬を発見する時代が来ようとしています。10年後にはAIが発見した薬によって今の株価が10倍になっている会社が必ずあります。AI創薬の世界が来るという状況証拠は十分揃っていますから、あとはどの会社かを見極めるだけです。製薬会社かもしれないし、技術を持つIT企業かもしれません。
今見えているど真ん中ではなく、AIを使って別の分野で革新的なことを成し遂げる企業がたくさん出てくるはずです。金融、医療、素材、教育など、色んな分野に潜んでいます。単にAIという言葉を掲げているだけではなく、本物かどうかを見極める必要があります。素材分野でも「これからはAIの時代だから技術者を雇う」とトップが宣言して投資している会社など、アンテナを張っておくといいと思います。素材や創薬はロボットなどに比べてまだこれからですから、テンバガーを狙いやすい分野です。
日本でテンバガーが出る場合、オーナー企業か社長が筆頭株主の会社の方が出やすいですね。思い切ったリスクを取れるのはオーナー企業だからです。サラリーマン社長だと任期が3年程度で終わってしまうため、10年かかるようなAI創薬への大型投資などは決断しにくい。さらに会長や相談役が残っていて権限が縛られていることも多いですから、創業者やオーナーがリーダーシップを発揮している企業に注目するのがいいと思います。
テンバガーを狙うなら、興味のある分野の株を1株単位でもいいから少しだけ買ってみるのがおすすめです。少額でも身銭を切ると自分ごとになって勉強し始めますからね。そうやって詳しくなりながら、10年スパンでじっくり保有していく姿勢が大切です。金曜日に買って月曜日に売るような短期トレードではテンバガーは取れません。
ここからは、実際の投資の選択肢として2つのファンドをご紹介します。1本目は「半導体関連 世界株式戦略ファンド(愛称:半導体革命)」です。日本を含む世界の半導体関連企業に投資するファンドで、投資対象を「リーダー企業」「ニッチトップ企業」「新世代企業」の3タイプに分けて投資しているのが特徴です。エミンさん、このようにタイプを分けて投資することについてどう思われますか?
リスクの分散になりますし、半導体セクター全体に網羅的にエクスポージャーを持てるのが一番大きなメリットですね。自分で個別株を少しずつ買い集めるのが難しい人にとっては、手軽に分散投資ができる良い仕組みだと思います。
ポートフォリオを見ると、ニッチトップ企業がおよそ57%と組み入れの中心になっており、大型株だけでなく中小型株もバランスよく含まれています。中島さん、今後の半導体市場ではリーダー企業とニッチ企業、どちらにより大きな成長機会があると思われますか?
ハイパースケーラーなどの分野はリーダー企業が勝ち続けるストーリーもありますが、半導体はニッチな分野がとても面白いです。NVIDIAの1強状態から、AMDやブロードコム、光半導体、メモリなど、どこが次に大きく伸びるか分からない時に、ポートフォリオで抑えておく戦略は理にかなっています。自分で全てを勉強する時間が取れないなら、ファンドに任せるのは賢い選択だと思います。
組み入れ上位銘柄を見ると、AMDやSTマイクロエレクトロニクスのほか、RFIDを手掛ける企業なども入っています。例えばユニクロのセルフレジで商品をカゴに入れるだけで会計ができるのはRFID技術のおかげです。生活を便利にしてくれる技術のリーダー企業であれば、技術の普及とともに伸びていくという考え方ですね。
アドバンスト・エナジーやバイコアなど、個人ではなかなか気づきにくい銘柄が入っているのも面白いですね。特に海外の半導体銘柄は日本語の情報が少なく、専門性も高いため個人で調べるのは大変です。日頃から身近な製品の技術を逆引きして調べるようなエンジニア的なリサーチができないのであれば、プロに任せてファンドで投資するのが無難で安心だと思います。
「半導体革命」は設定来、世界株式のインデックス(MSCI ACWI)を上回るパフォーマンスを残しています。運用はグローバルに拠点を持つマニュライフ・インベストメント・マネジメントが行っており、専門チームの綿密なリサーチに基づいて銘柄が選定されています。特定の一社に依存せず、世界中の半導体サプライチェーンに幅広く投資できるのが強みです。
続いて2本目は、「半導体関連 日本株式戦略ファンド(愛称:半導体ジャパン)」です。こちらは日本の半導体関連企業を主要投資対象としており、製造装置や部材など、日本企業が高いシェアと技術力を持つ分野に着目して投資しています。中島さん、日本の得意分野の中で今後特に注目される領域はありますか?
例えば大日本印刷が印刷技術を応用してスタンプのように微細な半導体を作る技術を開発していたりします。ASMLに市場を取られてしまった露光装置の領域でも、1世代前のものでも圧倒的に安く作れる技術などが出てくれば面白いですね。上位銘柄にある東京エレクトロンなどの装置メーカーや素材メーカーを含め、日本には強い企業がたくさんあります。
上位銘柄はどれも素晴らしい会社ばかりです。製造装置はすでにかなり株価が上がっていますが、素材系や、ディスコのように特殊な強みを持つニッチな製造装置メーカーにはまだアップサイドがあると感じます。日本株の半導体ポートフォリオを自分で10銘柄組もうとしたら、まさにこういう顔ぶれになりますね。個人で東京エレクトロン、ディスコ、アドバンテストなどを単元で揃えようとすると何百万円もかかってしまいますが、ファンドなら少額から分散して投資できるのが大きなメリットです。TOPIXを上回る成果を出している点も魅力的ですね。
積立投資であれば、目先の割高・割安や相場の上げ下げは気にしなくていいんですよ。仮にAIバブルが崩壊して一時的に下がったとしても、半導体の進化自体は止まりませんし、積立なら下落時に安く多く口数を買えるので、スタートしたばかりの人にとってはむしろ好都合です。短期トレードではなく20年、30年の長期目線で資産形成をするなら、目先の上下動に一喜一憂せず、ドルコスト平均法で淡々と積み立てていくのが一番楽で賢い方法です。
今回ご紹介した「半導体革命」と「半導体ジャパン」には、基準価額の水準に応じて分配金が支払われる予想分配金提示型の毎月決算タイプも新たに設定されました。詳しい商品内容や費用等は最新の目論見書をご確認ください。それでは最後にお二人から一言ずつメッセージをいただけますでしょうか。エミンさん、お願いします。
中島さんとのお話は視点が違って本当に面白いですね。金融の視点だけでなく、エンジニアリングの視点や社会的なアスペクトなど、色んな人の意見を聞くことが大切です。AIという生活を根本から変える大きな革命をどう評価するのか、ぜひ様々な視点を今後の参考にしていただければと思います。
僕が最後に一つ言いたかったのは、人型ロボットへの期待です。人型ロボットが普及して月3万円くらいでリースできるようになれば、料理、掃除、洗濯、マッサージまで全部やってくれる時代が来ます。生活を劇的に変えるメタトレンドとして人型ロボットの進化にもぜひ注目してほしいですね。本日はありがとうございました。
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