「杁」はなぜ愛知にだけあるのか:方言漢字が残した地形と藩の歴史
ゆる言語学ラジオ名古屋での公開収録で、水野は会場に一つの漢字を見せた。木偏に「入」と書く「杁」である。堀元は知らない字だと言ったが、客席では半分以上が読み方まで分かると手を挙げた。水野によれば、この字は「方言漢字」であり、愛知県の地形と歴史がこの一字に詰まっているという。今回の回はこの主張を順に説明していく。
漢字にも「方言」がある
水野は方言漢字を、地図上で分布を見たときに特定の地域に偏って使われている漢字と定義する。最初の例は宮城県の「ゆりあげ」という地名に使われる、門構えの中に水を書く字である。埼玉県の地名に使われる字なども挙げ、こうした字が一部の地域にまとまって分布していると説明した。
方言漢字には字そのものだけでなく、読み方や表記の違いも含まれる。沖縄では「城」を「グスク」と読み、「中城(なかぐすく)」という姓がある。「南風」を「はえ(フェー)」と読む例もあり、南風原(はえばる)という名が挙がった。表記の例は「すし」で、魚偏に旨の「鮨」、「寿司」、「寿し」、魚偏に「作」の旁を付けた「鮓」などがあり、地域によって使い方に差がある。水野は、日本で漢字が統一的に使われているように見えても、細かく見るとそうではないと述べる。
堀元は、学校で常用漢字を習う以上、全国で統一されていくのではないかと疑問を出した。水野は、県名や有名な市の名に使われながら常用漢字から外されていた字もあると答える。例は新潟の「潟」で、新潟県民以外はなかなか書けないのではないかという。堀元はこれに対して札幌の「幌」を挙げた。札幌出身の堀元は書けるが、他の地域の人はあまり書かないかもしれない。北海道にはアイヌ語由来の「ポロ」を含む地名が多く、「野幌(のっぽろ)」などもある。北海道に偏って使われるという意味で、これも方言漢字とみなせると水野は説明した。
辞書にない字を地元で作る
方言漢字にはさらに進んだ段階がある。中国の辞書にも載っていない字を、その土地で作ってしまうケースだ。冒頭の「杁」がそれにあたる。
ここで水野は、元になった中国語に存在しない字を作るのは「間違った字」ではないのか、という疑問を投げかけた。堀元は「レギュレーション違反」だと応じ、それが許されるなら子どもに意味不明な組み合わせの字を付けてもいいことになると冗談を続けた。水野はこの疑問を保留したまま、まず「杁」を詳しく見ていく。
「杁」の読み・分布・身近さ
「杁」は「いり」と読む。日本で作られた国字なので、中国語での読みにあたる音読みは存在しない。姓としては引っ越しなどで全国にいるが、地名としては愛知県と岐阜県に集中している。
名古屋の人が見覚えのある理由として、水野は地下鉄鶴舞線の「いりなか」駅を挙げる。駅名はひらがな表記だが、これは常用漢字の前身にあたる当用漢字の時期にひらがなになっただけだという。市バスの停留所では「杁中」と漢字で書かれている。ほかにも名鉄名古屋本線の「二ツ杁」駅や、愛知高速交通東部丘陵線(リニモ)の「杁ヶ池公園」駅がある。マンションや病院の名前にも出てくるほどで、愛知県民にはなじみが深い。
一方で、愛知を出た人は外でまったく見かけないことに気づく。水野はこれを、愛知ではどこにでもあるのに県外に出ると見当たらないスガキヤにたとえ、「杁」は「ローカルチェーン」のようなものだと言った。堀元は北海道版の例としてびっくりドンキーを挙げた。全国にあるが北海道が発祥で、国道を走っていたら400メートル先にまた店舗があったという体験を話している。
「杁」とは何か:川から田へ水を引く設備
「杁」の意味は、用水路の水門や取水口である。川から水を農業用水路へ引き入れる設備を「いり」と呼んだ。堀元は地名用に雰囲気で作った字かと思っていたが、そうではない。「いり」という言葉と設備が先にあり、後からそれを書くための字が作られたという順番だと水野は説明する。
字が作られたのは尾張藩の中とされ、最古の用例は1609年である。この時期にはすでに木偏で書かれていた。なぜ木偏なのかについては、水路関係の設備にほかにも木偏の字があり、それに揃えたという説があるという。堀元は水に関係するならさんずいの方がいいのではと問い、水野は当時の設備が木製だったからではないかと推測した。ただし水野自身、ここは確定的なことは分からないと留保している。
なぜ尾張で生まれたのか:丘陵地と木曽川
なぜほかの地域ではなく尾張でこの字ができたのか。水野は、愛知の地形図を見れば説明がつくと言う。尾張エリアには丘陵地を示す濃い緑色の地域が多い。
水野は、かつて「村長」だった堀元に、田をつくるなら高い所と低い所のどちらがいいかと尋ねた。堀元は、斜面を開墾すると土がどんどん崩れてきて、石を積んで止めるのが大変だったと話が脱線しかけた。水野が付け加えたのは水の問題である。水路の水は低い方へ流れるので、高い所には水路を作りにくい。丘陵地が多い尾張は農業に不利で、川の水を丘陵地へ引くために「杁」に頼っていた、と水野は説明する。
分布を見るとこの説明がさらに裏付けられるという。「杁」を含む地名は一宮市と犬山市に多く、木曽川に沿って並んでいる。二ツ杁町、杁前などがあり、木曽川に直接面した位置にある町名もある。水野は、木曽川の水を杁で取り込んで稲作をし、灌漑設備を整える中で杁の世話になったため、杁の付く地名が多く残ったと述べた。堀元はこれを、木曽川は「杁の聖地」だったとまとめた。
もう一つ注目されたのが、木曽川から離れた内陸に杁の地名が固まっている地域である。万博が開かれた長久手だ。水野によれば、当時の長久手では水が枯れる渇水期に備えてため池を盛んに作っていたという記録が行政文書に残っている。雨水を溜める池を作り、そこで実際に杁を使っていた。「杁ヶ池」という地名もある。本来なら池が先にあって杁を付けるはずだが、杁が池の名前にまでなったのは、杁を付けすぎたせいで後から名前が付いたのだろうと二人は推測した。
東の三河には「圦」がある
堀元は、長久手以外の地域は渇水を恐れていなかったのかと質問した。水野はここが今回の「もう一つの肝」だと応じる。杁がそれほど便利なら全国にあってもいいはずだが、愛知では尾張をはさんで東側に別の字が分布している。土偏に「入」と書く「圦」(いり)である。
会場で「圦」を見たことがある人を尋ねると、手を挙げたのは5人ほどに減った。この字は愛知の東側、静岡寄りの三河に多い。岡崎市の「大圦」、西尾市の「圦下」、豊田市の「縦圦」などの地名がある。Googleマップで分布を並べると、西は木偏、東は土偏とくっきり分かれていた。同じものを指しているのに、東西でまったく違う字が使われているのである。
幕府の推奨とお触書、それでも残った木偏
水野によれば、この東西の違いの原因は江戸幕府にある。幕府は土偏の「圦」を推奨していた。それにもかかわらず尾張は木偏の「杁」を使い続けたため、幕府はこれを問題視して、土偏を使うようお触書を出している。
堀元はこれを「同調圧力だ」と言ったが、直前には漢字は統一した方がいいと主張していた。規格がバラバラなのは許せず、充電ケーブルを10年前からType-Cに統一してほしいと言い続けているという。漢字がバラバラだと認知資源を使うし、Unicodeに収録するときにもどちらを収録するか混乱する、と幕府側の理屈にも理解を示した。それでも幕府に言われると同調圧力に感じるという堀元に、水野は「天邪鬼」だと突っ込んだ。
結局、尾張はお触書を無視して木偏を使い続け、現代まで「杁」が残った。その理由として水野が挙げたのは、尾張と三河の統治の違いである。徳川家康を出した三河は江戸時代に幕府の直轄地だった。一方、尾張は御三家の一つである尾張徳川家、つまり尾張藩が治めていた。隣り合っているのに支配の仕組みがまったく違う。
堀元はこれを、三河は本部の直営店、尾張は独自メニューを出すフランチャイズ店にたとえた。そこから話はコメダに移った。堀元が新宿のコメダ珈琲店に行くと60分や90分の時間制限が貼ってあり、東京のカフェでは普通のことだという。水野は時間制限のあるコメダは「夏休みのない夏」のようなものだと言い、愛知の人は2〜3時間いるのが当然だと話した。会場もこれにうなずいていた。
話を戻すと、水野は、本部が土偏にしろと言っても、御三家という独立性の強い権力者がいたために無視し続けられた、その結果が木偏と土偏の分布に表れているとまとめる。「杁」はいわばレジスタンスの字であり、地名や姓にも付いていたから変えることができなかったという歴史を語っているのだという。
方言漢字は「タイムカプセル」
堀元は、木偏でも土偏でもどちらでもいいのではないか、直せと言われたら直せばいいのではないかと疑問を出した。水野は、ドライに見ればそうだが、「杁」には愛知の地形の特徴と、尾張と三河の統治体制の違いという歴史が残っており、それに愛着を持つ人もいると答えた。隣はこの字、うちはこの字というアイデンティティになっているので、直せと言われても譲れないのだという。
水野は方言漢字の研究者の言葉を引用した。方言漢字は先人たちの愛着や意識に基づく文化財であり、祖先からの情報の宝庫で、いつでも開けられるタイムカプセルのようなメディアだ、というものだ。中国に由来がなかったり音読みがなかったりするから正しい字ではない、という批判は根拠のない規範意識であり、そこまで徹底するわけにはいかない、とも研究者は述べているという。
実際、方言漢字は明治より前から批判を受けてきた。正しさに立脚していないとして使用が絶たれることが危惧され、市町村合併などで実際に消えた例もある。水野が挙げたのは、埼玉県八潮市の「垳(がけ)」という土偏に「行」と書く字だ。この字が消えそうになったとき、地域の人が保存運動を展開して「垳を守る会」を作り、現在は方言漢字をテーマにした学会のような催しも開かれているという。
塾の「山田プリント」と「杁」は同じか
この話を聞いて堀元は、学生時代に自分も同じことをしていたと話し出した。大手チェーンの学習塾でアルバイト講師をしていたときのことだ。全国の教室で同じ本部のテキストを使うが、全国向けなので最大公約数的になっていて「魂がこもっていない」。堀元が働いていた神奈川の東横線沿いの教室には、東横線沿いの受験生に最適化したテキストであるべきだという考えがあった。
10年ほど前に山田さんという人がオリジナルプリントを作り、「山田プリント」として代々受け継がれていた。堀元の代には山田さんを知る人はいなかったが、新人はまず山田プリントを渡され、それで授業をした。本部から標準テキストを使うよう注意されても、山田プリントを守り抜いて授業を続けたという。堀元は「杁」とまったく一緒だと言い、方言漢字を潰して統一しようという発想は「経済性に囚われた愚かな人間の発想」だとまで言い出した。水野は、さっきまで統一派だったのにとして、サイクス・ピコ協定を結んだフランスも驚く二枚舌だと返している。
愛知の人も歴史を知らない
水野はもう一つのポイントとして、愛知の人でもこの歴史は知らないことを挙げた。「杁」という字は知っていても、どんな歴史があり、いつ使われ始めたのかは、自分で調べなければ分からない。さらにほとんどの人は、「杁」が方言漢字だということ自体に気づいていないという。会場で「この辺りばかりで見る字だ」と思っていた人を尋ねると、手を挙げた人は少なかった。
調べる手がかりとして水野が紹介したのが、昨年ごろに出た『方言漢字事典』だ。手元に置いておけば、自分の県や旅行先の県の方言漢字を引くことができる。最近は方言漢字の写真を撮りに行く「方言漢字ツーリズム」をする漢字好きもいるという。漢字YouTuberのあびさんは埼玉県で「垳」の写真を撮って大喜びしていたそうだ。漢検1級保持者の仲間と車で移動しながら、漢検辞典の意味を1番から順に言って熟語を当てるゲームで盛り上がっていたという話も出た。堀元はそれが楽しいのかと繰り返し首をかしげていた。
高校生の論文が先行研究になった
水野は、方言漢字の本の著者である研究者が、方言漢字は市民でも簡単に研究・発表ができると言っていることを紹介した。自分の家の近くにある字を見つけて、郷土史などを調べて発表すればよい。
実例として挙げたのが、今回の台本でも参考にした西島さんの論文「『杁』という字について」である。2007年ごろ、当時東海高校1年生だった西島さんが書いたもので、水野はこの字の歴史がよくまとまった先行研究だと評価する。この論文は漢字能力検定協会の研究奨励賞で佳作を取った。西島さんはその後、精神科医になったが、傍らで方言漢字や文字学の学会に出席したり、医学と漢字に関する本を出したりしているという。水野は、漢字学の道には進まなかったものの研究を続けている点に胸を打たれたと話し、自由研究はした方がいいと強く思ったと述べた。
読みを当てるだけでなく、字を作った
最後に水野は、「杁」は愛知と岐阜に集中する字だが、愛知の歴史や地理的要因をかなり残しているので、中国に根拠がないからといって消すわけにはいかないとまとめた。堀元は、日本人は中国の漢字に日本語の読みを当てたことがよく発明として語られるが、字を勝手に作ったという意味ではもう一段階先の改造をしたとも言えると付け加えた。それがアイデンティティに結びついている点も含めて、言葉の面白さだと二人は締めくくった。
番組は視聴者に、自分の地域だけで使われている字があればコメント欄で教えてほしいと呼びかけた。水野は愛知のほかの例として金偏の字など、いくつかの地名の字を挙げ、『方言漢字事典』にも載っているので調べてみてほしいと述べて話を終えた。
[音楽] ゆる言語学ラジオ。堀元さん。はい。まずはこの漢字をご覧ください。はい。知らん字ですね。木偏に入るという字なんですけれども、知らない。
おそらく堀元さんとか周りの人はね、これ知らないと思うんですよ。で、今これ名古屋の会場で公開収録をしてるんですけれども、この字知ってる人どれぐらいいますか?はい。はい。あ、え、めっちゃいる。嘘。え、俺知らんよ。だいぶよね。あ、ちなみに読み方分かる人はどれぐらいいます?ほら、めちゃくちゃいますよね。
半分以上。え、でも僕結構うんちくおじさんだから日本人平均より色々もの知ってる気がするんですけど。それってあんまり堂々と自分で言ったりはしないですね。確実に知ってると思うんですけど。恥とかがないんですかね?民衆が知ってるようなことなら僕確実に知ってるんですけど。物は知ってて恥を知らないってことですか?すごいですけど。なんで俺知らないんだろう?
実はですね、この漢字、方言なんですよ。は、方言に漢字あんの?方言に漢字があって、実際に方言漢字という概念があるんですね。でも漢字って日本全国で統一されたもんじゃないんですか?それがそんなことがない。そして実はこの木偏に入るというこの漢字に愛知県の全てが詰まってるんだという話を今回したいと思います。でかいじゃない。
じゃあ、その方言漢字ってのが何なのかっていう話をここからしていきたいんですけれども、端的に言うと地図上で分布を見た時にやたらとある地域で使われてる漢字のことを方言漢字と言うんですね。例えばちょっとここに出しますけれども、宮城県にある閖上っていうね、一番上のこの門構えに水。見たことないわ、この字。見たことないっすよね。うん。埼玉県所沢市にある林…。全く読めんな。はい。この林の八の字ですね。草に泡かっていうこの字とかっていうのが一部の地域に偏在的に分布してるんですよね。
これは字レベルですけど、他にもレベルがありまして、例えば読み方で分かりやすいと、沖縄だと城をグスクって読む苗字とかあり、中に城って書いて中城さんとかいますよね。そうですね。とか、南に風でフェー。あれ、え、ちょ、なんかネイティブみたいになってんじゃない?南風原とか、ハエバルさんとかいますよね。ちょ、うちの母をフェって言った気がします。あ、そうなんだ。へえ。南に風でね、フェですよね。いや、知らないですけど。ちょっと知らなかって読むとかも結構その沖縄とかでよく見られますよね。
あとはね、表記とかも方言漢字に含めることがあって、例えばお寿司のすしっていろんな表記ありますよね。ありますね。魚偏に旨いって書いた鮨とか、寿に司会の司で寿司とか。そうです。あと寿にひらがなのしとか、それから魚偏に作るの右の部分。ああ、あんま見たことないな。はい。それもすしなんですよね。これ地域レベルで結構差があったりするというように、日本で漢字が統一的に使われてるってのは、実は細かいレベルで見ていくとそんなことがないんですね。
なるほど。でもさ、学校で習うじゃない。はい。常用漢字みたいに習うわけで、それやってるうちにだんだん日本中統一されていきそうですけどね。でも例えば県とか有名な市に使われてるけど常用漢字から外されていたものとかもありますよね。新潟の潟とかさ、めっちゃ難しい字、そういえば。はい。そうですね。新潟県民以外、潟って書けないですよね。書けるよ。
ただ、確かに一瀉千里の瀉と間違えるみたいのあるかもしれない。てかわからん。一瀉千里がもう浮かんでないわ。脳内に浮かんでないし。干潟の潟と一瀉千里の瀉は多分違いますよね。だから一瀉千里が浮かんでないから、その話広げるのやめてください。あの、だから一に、あの車に千里。車を説明してくるよ。え、一瀉千里の瀉が浮かんでねえんだよ。瀉血の瀉じゃないかな。あ、瀉血の瀉か。はいはい。
多分その新潟の潟の、旁の方を変えると瀉血の瀉になるはずなんですけど、新潟の潟とかもなかなか見ない。ぶっちゃけ俺からすると干潟の潟だろうとか思うんですけれども。はい。はい。干潟も漢字で書かないからな。そうですよね。てか札幌の幌とかどうよ?あ、確かに札幌の幌、俺札幌出身だから書けるけどみんなあんまり書かないかもしれないね。幌別とかね。
北海道の方にはアイヌ由来の地名でホロがつくものが結構ありますけれども、それもだから北海道に偏在しているという意味で方言漢字と見なせるということですね。そうだわ。北海道にめっちゃあるわ。野幌とかね、上野幌とか。野幌とかあんの?うん。って地名があるんですよ。のってどうやって書くの?え、野原の野。あ、ちっちゃいつが入るんだ、それで。そう、野原の野に札幌のポロで野幌です。へえ。だから北海道の方は多分書けますよね、簡単に。
っていうように、土地ごとに漢字の使用実態が違うっていうまず話があり、そしてもっとでかいレベルとして、その地で勝手に中国とかの辞書にも載ってない字を作っちゃうっていうレベルまでいくことがあるんですよね。ああ、オリジナル漢字ってことですね。はい。で、それが先ほど見せた木偏に入るなんですよ。へえ。だから東海地方で作られた漢字ってことですかね。
そうですね。で、ここでちょっと考えてみて欲しいのは、それっていいのっていう。うん。つまり、漢字の元となった中国語には全く存在しない漢字を作ってるとか言うけど、間違った字を作ってるんじゃないのっていう疑問って湧いてきませんか。うん。レギュレーション違反ですよね。そうだよね。漢字作っちゃダメですよね。だってそれが許されるんだったら、じゃあ俺子供にわけわかんない組み合わせの漢字つけるけどいいんですかっていう話になりますよね。
なんでそんなねじ曲がった性格でそういうアウトプットするのかわかんないですけど。やっぱ変な名前つけたいじゃない、子供に。え、例えば?いや、だからXZなんとかなんとかみたいなさ。イーロン・マスクの何でしたっけ?イーロン・マスクの子供の名前。記号みたいなやつと変な意味のやつが入る名前のやつね。あ、付けようとして却下されてたんじゃなかったかな?なんかでもXの後になんか続いて、それはオッケーになったんじゃ、確かそうだよね。そうみたいなことをね、したくなるわけじゃないですか。
まあ織田信長もね、自分の子供に奇妙丸ってつけてますし。生まれた瞬間奇妙な顔してたからね。大体奇妙だろう、赤ちゃんは。[音楽]
一旦じゃあ、その木偏に入るあの字についてまず見ていきましょうか。うん。名古屋の方言漢字ですね。まずこの字、読み方としてはですね、「いり」って読むんですね。はあはあ。あ、じゃあそのままだね。入るって入ってるもんね。音読みはですね、存在しません。え、音読みないんすか?はい。で、音読みってのはその中国でどのように読まれてるかっていう。それそうだ。日本で生まれてんだから中国での読みがないんだ。
そう。はい。なので音読みは存在しない国字になりまして、愛知県と岐阜県などで主に見られる字です。うん。だから地名でめちゃくちゃ使われてるってことですかね。そうですね。これ苗字になってることもあるんですけど、苗字だと引っ越したりすることもあるから一応全国的にいるんですけど、地名レベルで見ると愛知県と岐阜県に集中的に見られる字になります。
で、多分皆さんがこの杁の字を見たことある理由は、鶴舞線っていう名古屋の地下鉄の中でいりなかっていう駅がね、あるんですよね。はあはあ。で、このいりなか、今ひらがな表記になっているんですけれども、これは結構使う駅で、当用漢字っていう常用漢字の一個手前の、国が定めた、一旦この字で行きましょうっていうようなものの時にひらがな表記になっただけで、他の地名とかだと漢字で書かれてることが多いですし、実際これ杁中って市バスの停留所もあるんですけど、その時はこんな感じで漢字表記になってるんですよね。
ああ、みんな見覚えがめっちゃあるってことですね。そうですね。多分だから見たことあるっていう人は、こういう感じで町の地名を見てこの字を知ったんだと思いますね。なるほど。だって半分以上の人知ってますって手あげてたもんね。そうそうそう。
他にも杁中以外にも、名鉄名古屋本線の二ツ杁駅っていうような駅とか、あとはですね、愛知高速交通東部丘陵線っていうまたこれ路線の杁ヶ池公園っていう駅があったりとかするんで、もうこれは駅レベルでもそうですし、マンション名とかもう病院名とかそんなレベルにも出てくるぐらいかなりメジャーな漢字なんですね。愛知県民にはやたらと馴染み深い。逆に愛知から出てった人からすると、なんか全然見ないなみたいな、スガキヤみたいな感じ。その、愛知にむっちゃあんのに。あるわ。全然ないじゃん、外でみたいな。ローカルチェーンだったのかあれって後で気づくやつね。ありますね。そう。だからいわば杁はローカルチェーンみたいなものなんですよね。
ちなみにね、北海道民でそれあるある言うと、びっくりドンキーそうで。びっくりドンキー。びっくりドンキーって全国にあるじゃないですか。うん。でもね、皆さんが思ってる12倍北海道にあるんですよ。僕前びっくりしたの、国道車で走ってて、びっくりドンキーあって、400m先にびっくりドンキーあって。え、嘘だろ。セブン-イレブンみたいなドミナント戦略。コンビニみたいな扱い。え。もうだからその地域の食を全部びっくりドンキーが支えてるみたいな。
え、なんでそれは儲かんの、なんで?多分そう、1軒目のびっくりドンキーでまずおろしそハンバーグディッシュ食べて、2軒目でパインバーグディッシュ食べるんだと思います。食べすぎだろ。ってぐらいあるから。あれって何?北海道発?そう、北海道資本なんすよあれ。あ、そうなんだ。で、関東に出てきたからだ。だから関東にもあるからさ、俺全国チェーンだと思ってたんだけど、少ないなと思って。で、後から調べたらあれ北海道のやつだったんだって気づきました。
愛知のね、ローカルチェーンはね、あんまね、東京で味が通用しないことが多いので。悲しい。ないんですよ。スガキヤだけ頑張ってるから、関東だと。そうね。今日の昼連れてってくれたね、岐阜タンメン。全く知らなかったもん、俺。ね、岐阜タンメン皆さん知ってますよね。ものすごいうなずいてる。いいですね。やっぱ地域食出てね。楽しいな、地方イベント。はい。
じゃあちょっとその杁の分布を見てみましょうか。Googleマップで尾張エリア、尾張ってのは愛知県の西側ですね、三重とかに近い方で検索するとですね、こんな感じ。いっぱいあるの?いっぱいあるし、杁中以外にもね、さっき言った二ツ杁とか杁ヶ島とか、やたらと集中してますよね、この辺りに。一旦なのでこんな感じで、やたらと名古屋の近辺に杁があることを確認しました。はい。はい。
で、杁って何っていう。うん。意味教えてくれよって。そうですよね。これ何かって言うと、用水路の水門とか、あるいは取水口って言われるような、ちょっとここ今写真また出しましたけれども、川から水を農業用の水路とかに引き入れるところ。はあはあ。それを杁と言ったみたいなんですね。ああ、でもちゃんと意味はあるんすね。意味はあります。はい。
なんかてっきり地名つける時に雰囲気でつけちゃっただけで、その単体としての意味はない漢字なのかなと思ったんですけど、そうではないんだ。はい。あ、そうです。元々いりっていうもの自体は存在していて、後から表記としてこれができたっていう順番なんですよ。あ、いりっていう概念はみんな知ってて、漢字を勝手に作って当てちゃったってことですね。
はい。で、どこで作られたかって言うと、尾張藩の中で作られたらしい。江戸時代にもう用例があるんですよ。なるほど。1609年に最古の用例があるんで。だいぶ前だな。はい。この時期にはすでにいりが木偏に入るで書かれていたみたいなんですよね。うん。
で、なんでこれ木偏なのかというと、水路に使うような設備で木偏を使った漢字があったから、それに揃えたんじゃないかみたいなことが言われています。なるほど。まあ水路に関係あるならさんずいとかの方がいい気しますけどね。ああ、そうですね。それでもいいんですけど、木製なんじゃないかな、当時の。あ、そもそも杁というものが木製だから木偏の方がはまるみたいなことかな。そうですね。
ちょっとここについては確定的なことは分からないんですけれど、いずれにせよ現状ある説明としては、その樋とかの字形に合わせたっていう説が唱えられていました。なんでこれが他の地域ではなくて尾張でできたのかってのにも、これは明快な説明がありましてですね、愛知の地形を見てもらえれば分かるんですね。特徴ありましたっけ?はい。ちょっとこれ今また愛知県の地形を出しているんですけれども、特に尾張のエリアですね。左半分見てもらうと、丘陵って書いてある濃い緑色の地域が多いですよね。
だから丘ってことですよね。ちょっと高い場所ってこと。そう。細かい丘みたいなとこがあるわけですけど、堀元さん、ほら村長だったじゃないですか。そうでしたね。じゃあ田畑を作る時って、高いとこか低いとこか、どっちが好ましいかわかりますか。それ低いとこじゃないですか?そうですよね。なんで低いとこがいいんですか?高いとこなんて行くの大変だしね。で、またね、角度があるとね、そこ畑にするの大変なんですわね。
斜面やばいよ。開拓してるとさ、もう土ボロボロボロボロ落ちてくから、もうまず垂直にしなきゃいけなくて、垂直にするために土盛るんだけど、これが大変なんすわ。あ、もう大丈夫です。全然、どんどんどんどん落ちてくから。盛るたびに土がもうすごいなっていう。石とか積んでね、なかなか土落ちないようにとかね、工夫して大変でしたね、あの時期はね。あ、ちょ、そ、大変か聞いてないです。でもそうだね。平地がいいよね。
あともう一個は、堀元さんの口から出てこなかったけど、水をね、やる時に、水路って高いとこから低いとこに流れますから。水持ってけないよね。そうそうそう。高いとこに作れないんですよね。でも見てください。もう丘陵地だらけ。確かに。だから困るわけですよね。不利ですね。不利なんですよ。で、この川の水をその丘陵地に引くために利用したのが杁だったと。はあ。だから愛知県のこのエリアでは杁をかなり頼りにしていたということが言われているみたいなんですね。うん。
ごめん。杁の定義って、川から農業用水を引っ張ってくるあれ?そうですね。水路の水門とか取水口を杁と言って、だから多分川から持ってきてんだよね。そうですね。川から水を農業水路に導き入れるものですね。はあはあはあはあ。なるほど。だから普通の低地だったら、そんなにいろんなとこで杁を活用しなくても農業がうまくいってたんだけど。低地だったらそうですね、多分。尾張だと丘がいっぱいあるから、頑張って杁を使ってなんとか水を行き渡らせないとってやってたってこと。そうそうそう。そういう頼りにしていたっていうことなんですね。
この視点でもう一回、杁っていう漢字の分布を見てもらうと、一層面白いことが見えてきまして。はい。愛知出身の人だと分かると思うんですけど、一宮市と犬山市にね、すごい多いんですよ。ほう。オレンジ色の線が引いてあると思うんですけれども、これ木曽川なんですよ。で、木曽川沿いに結構分布してるやついません?二ツ杁町とか、杁前とか、枠杁町とかかな。あと木曽川沿いに思いっきり大杁町っていう、今黄色の蛍光で塗りつぶされちゃってる。木曽川にめっちゃ直撃する位置にありますね。そう。見にくくなっちゃってますけど。っていう風に、やたらと木曽川沿いに分布してるんですよね。
はい。だからこれは木曽川の水を杁で引いてきて田畑の耕作栽培をしていたっていうこと。だから木曽川が杁の聖地みたいな。はい。めちゃくちゃみんなが杁を作ってた川だったってことですね。そうです。そうです。で、その水で稲作が栄えて、それで灌漑設備を整備していく中で杁にお世話になったから、杁地名がすごい多いんですよね。なるほど。
で、さらにもう一個ね、面白いとこがあって、右にさ、飛び地的にさ、内陸なのに杁が密集してるエリアありますよね。杁の群生地がありますね。ありますよね。これ長久手っていう、万博やったところなんですよ。はあ。で、全然その木曽川沿線じゃないじゃないですか。うん。
だから一見よくわからないように見えるんですけど、これなんでかって言うと、長久手がこの当時、水がこう乾いちゃう渇水期に備えて、やたらとため池を作ってたらしいんですよ。うん。そういう記録が行政文書に残っていて。だから水枯れちゃったら困るからここにダム作っとこうみたいなイメージ。そう。水不足恐れてたから杁がやたらここにあるんですよ。はあ。地名に出てきちゃったわけですね。はい。雨が溜められるような池をこう作って水の確保をしていて、で、そこで杁を実際使っていたんですね。はい。なるほど。
だからこそ地名にこの杁、杁ヶ池とかありますからね。もはや確実に。だから杁使って池があったんでしょうね、ここに。なんかすごいすね。本来は池が先にあってそこに杁をつけたはずだから、池に杁ヶ池って名前つくはずがないんですけど。鶏が先か卵が先かみたいな話になりますけど。うん。はい。はい。はい。多分池を最初に作って、そこに杁がつきすぎちゃったせいで、後から名前が杁ヶ池になったんでしょうね。多分そういうことなんじゃないですかね、きっと。うん。っていう風に、やたらとこの長久手にだけ飛び地的に杁があるんですね。
え、逆に言うと、だから他の地域はそんなに水が乾く時期を怖がってなかったってことですかね。うん。いい質問ですね。そこがね、今回のもう一個の肝でして、だったらさ、日本全国にこの木偏に入るの杁があっても良くないですか?便利なんだし。そう。うん。で、これ答えを言うとですね、愛知のこの尾張を挟んで別の漢字が分布してるんですよね。あ、そうなんだ。はい。それがですね、こちらの土偏に入るの圦なんですよ。
ああ、こっちも知らん字だな。こっちも知らん字か。まあこっちもあんまり見ないとは思うんですけれども、これちょっと今日来てる愛知県の会場のお客さんに聞いてみたいんですけど、この字見たことある人はどれぐらいいますか?あれ?少な。お、全然ない。あ、めっちゃ減った。もう本当5人ぐらいすね。そうか。
これですね、三河っていう愛知の東側にはやたらとあるんですよ。うんうん。静岡寄りってことよね。静岡寄りの方ですね。例えば岡崎市に大圦っていう地名があったりとか、西尾市に圦下っていう地名があったりとか、豊田市に縦圦っていう地名があったりとかするんですよね。
土偏の圦の分布見てみましょうか。これまたGoogleマップで出すとこんな感じなんですよ。うん。豊田市より東にちょこちょこある。はい。そうですね。で、なんか左上に二ツ杁っていうのが出ちゃってるんですけど、これ木偏なので、Googleが間違えて出してるだけなので。だからやたらと愛知の東側にしかこの土偏の圦が出てこないんですよね。
面白い。しかもまた密集地みたいなとこあるじゃん。ありますね。道の駅みたいなとこあるね。しかもこれも矢作川にかなり近いエリアですよね。うん。一応ちょっと分布見比べてみますか。二個横に並べたもの作ったので。くっきり分かれてる。くっきりと。面白い。これ西は木偏で東は土偏。めっちゃ面白いっすね。そう分布してるんですよ。同じものを表してんのに東西で漢字が全く違うんだ。
はい。で、これなんでなのっていう、これが今回の話の肝なんですけど、これね、幕府のせいなんですよ。はい。はあ。どういうこと?幕府はですね、土偏の圦の方を推奨していたんですよ。ほう。で、なのに尾張でその木偏の方ができたって言ったじゃないですか。だから尾張だけやたらと、このまま使い続けてたんですよね、この木偏の方を。で、実はそれ問題視して御触書とか出してるんですよ。え、だから、お前らに土偏を使いなさいと。
同調圧力だ。そう。でもあなた、さっきまで漢字統一した方がいいみたいなこと言ってましたよね。僕やっぱさ、規格がバラバラだと許せないんですよ。うん。充電ケーブルがさ、独自規格でさ、Lightningじゃないとここ刺さんないんすよみたいなやつ腹立つから、全部Type-Cで統一してくれって10年前から言い続けてるんですけど。はい。そういう感じですよね。やっぱ漢字がね、バラバラだと認知資源を取りますから、やっぱ統一した方がいいですよね。
うん。え、でも同調圧力だって言ってたじゃないですか。でも、まあ幕府のそれは同調圧力かなって。うん。ああ、だから推奨してるんだ。いや、うん。でも、まあ統一した方がいいですけどね。統一した方がいいですけど、幕府から統一しろよって言われると同調圧力だとはなります。なんだお前は。天邪鬼だから。どっちに向かって歩いて生きてんの?お前は。まっすぐ進めよ。[音楽] いや、すいません。すいません。
でも僕確かにどっちかというと幕府側かも。統一してほしいってことですよね。うん。だって書き方いっぱいあったらさ、大変じゃん。Unicodeに収録する時もさ、どっちの偏のやつ収録すればいいんだって混乱するから、みんなが。うん。でも結局ならなかったし、現代でもこの木偏の杁の方残ってるわけですよね。え、さ、御触書出たのに続けたってこと?そう。この木偏の杁、御触書が来てたのに無視し続けてたんです。すげえ。
なんでかって言うとですね。気骨があるからってこと?もうええて、その何でも言えるやつ、もういいって。その気骨ある。気骨あるからじゃないですか?気骨あるからって、何でも言えるとは思うんですね。
これなんでかっていうとですね、愛知県ってさっきから言ってるように尾張と三河ってあるじゃないですか。これ歴史によると全然違うんですよ。ああ。どう違うかというとですね、縦に割った時に三河エリアって徳川家康を輩出してますよね。だからここ、江戸時代って幕府の直轄地だったんですよ。はい。はい。でも尾張の方は尾張徳川家っていう、徳川御三家があったじゃないですか。はいはいはい。そのうちの一個、尾張藩が持っていたから。なるほど。ここ隣り合ってるのに全然ノリ違うんですよ。
へえ。だから三河は幕府の直営店で、尾張はフランチャイズ店みたいな。あ、そんな感じですかね。全然テイストが違うわけだ。フランチャイズがその独自メニュー出しちゃってるタイプだから、例で言うとコメダとか、ルノアールもそうかな。結構なくていいですけどね。そこの例えば別にね。あ、でもコメダって言ったら分かりやすいかもしんないですね。
新宿にあるコメダ珈琲店に僕一回行ったことあるんですけど、新宿のコメダ、なんか60分とか90分みたいなこと貼ってて。いや、普通じゃない?いや、もう衝撃受けてるから。え、東京のカフェ、大体長時間の時は60分とか90分とかでご退席いただきますって書かれてますよね。え、でも時間制限のあるコメダって、夏休みのない夏みたいなもんじゃないですか?そんなことないと思うけどな。別にそんな重要なことじゃなくない?
え、60分のコメダから何を得るんだ?いや、だからコーヒーゆっくり1時間飲んで出たらいいじゃん。え、だってせっかくなのに60分で出る。そんなもうね、早すぎるって。ああ、そうなんすか。ダベりたいじゃん。愛知の人ってコメダに2時間も3時間もいるってこと?いるよ。そりゃうん。当たり前みたいな。あ、みんな頷いてる。うん。すげえ。衝撃ですよね、90分で出るコメダ。みんな頷いてる。俺が敵だったのか。そうなんですよ。知らんかった。
みたいな感じで、本部直営のところとフランチャイズのところで全然違う。しかも本部がフランチャイズに対して木偏やめろ、土偏にしろって言ったのに、結局御三家っていう独立したような、権力の強いトップがいたから、それを無視し続けた結果がこの木偏と土偏に詰まってると。なるほどね。
つまりこの木偏に入るって、レジスタンスでもあるんですよね。権力がこのような字に統一しなさいって言ったんだけれども、このエリアにある文化だから、これはもはや地名とか苗字にもね、付いてるから、だから変えることができなかったっていう歴史を雄弁に語っているんですよね。
なんかさ、不思議だね。いや、文字なんて別にね、木偏だろうが土偏だろうがどっちでもいいじゃんっていう。直せって言われたら直しましたでいい気するけどね。確かにドライに見たらそうだけど、ここまで話してきたように、この木偏に入るの方って、まず愛知の地形的な特徴、それから歴史的な特徴ですよね。この尾張と三河の統治体みたいなのが違うこととかも残っていて、それで愛着を持ってる人もいるわけですよ。そう、だからもうアイデンティティなんだ。うん。隣のやつはこれ、うちはこれだからね。いや、直せって言われても譲れないんだ。
そういうことです。だからこの方言漢字の研究者が言ってることをそのまま引用すると、方言漢字ってのは先人たちの愛着や意識に基づく文化財なのだと。はあはあはあ。で、それは祖先からの情報の宝庫となっており、いつでも開けられるタイムカプセルのようなメディアになっているんだってことを言っていたんですよね。なるほどね。だからこそその土地の人たちは、統一しろと言われても使い続けたのかもしれないわけです。あ。
だから方言漢字って、確かに中国に由来がなかったり読みがなかったりして正しい漢字ではないっていう風に言う人がいるんですけど、これは根拠のない規範意識で、そんなことまで徹底するわけにはいかないっていうようなことを言っていたんですよね。うん。なるほどね。
実際、明治より前からずっとですね、方言漢字って批判を受けていまして、ローカルのね、その正しさっていうものに立脚してないものだって言って、使用が絶たれることを危惧されていましたし、具体的に市町村の合併とかで消えたりしたんですよね、結構。そうか。地名もね、どんどん変わってきますもんね。
はい。そうなんですよ。そういったことがあって、埼玉県のね、八潮っていう、あの道路陥没しちゃった、最近。あそこでがけっていう、土に行くっていう、あのなんだ、土偏に御幸の、あの天皇がほら行くじゃん。行の御幸。うん。あの御幸の方。あの、行く。行く。え?行う。行う。うん。うん。あ、行く。行くの説明してた今。うん。ええ。
じゃ、その行くだとさ、そのなんか育てるとかも出てくるじゃん。そのぽくなるから。ちょ、パッと出たのが御幸だったの。うん。え、行動の行とかでよくないですか?だ、行動とかそうパブリックのロードだと思うから、御幸ぐらいがいいだろうと思ったの。御幸も絶対色々ある気するけどな。ああ、話が通じんな、この子は。漢字観が合わないですね。うん。
まあその土偏に行くは垳って読むんですけど、これもその方言漢字なんですが、この方言漢字の研究が進んでいった時に、実はこの垳が消えそうになっていたので、地域の人が保存運動を展開しまして、垳を守る会っていう会を作って、今だと定期的にここでその方言漢字サミットっていう、どちらかって学会みたいなことをやったりしていると。
そう。崖守るのめっちゃ大変なんですよね。その土をさ、一生懸命上から掘って下に持って、落ちてかないようにして、石とかでなんとか止めてね。あれきついすよね。それ村を守る会です。それ多分、村を守る会ですね。[音楽]
だから今回お伝えしたかったのは、実はその土地でしか使われてない漢字ってのが、歴史とかその土地の情報を残したりしていることがあるので、何でもかんでも統一規格にしようっていうのは文化に対する軽視であろうということな。あのね、その話聞いたら、俺学生時代やってたわって思い出しましたわ。何をやってたんですか?
僕、大手のチェーンの学習塾でバイトしてたんですよ。で、塾の先生やってたんですけど、全国的にそのチェーンで使われるテキストってのがあるわけですよ。はあ。本部から来るテキストで、これはだから北海道の教室でも東京の教室でも同じものを使っているんですけど、このテキストの出来がそこまで良くないというか、なんか言うたら魂こもってないよねと。うん。ああ、はいはい。全国で使う用のテキストだから、最大公約数的なものになっちゃっている。でもそうじゃないんだと。
僕が働いてたのが神奈川の東横線の教室だったんですけど、もう東横線沿いの受験生に最適化された、こいつらにはこの一問を解かせたいみたいなものを詰め込んだテキストであるべきだっていう思想がありまして。おお、いいじゃん。うちの教室で10年ぐらい前に、オリジナルプリントを作ろうみたいな運動があって、それ作った人が山田さんなんで、山田プリントって言われるものがあったんですよ。で、この山田プリントがめちゃくちゃ使い勝手いいっていうことで、代々継承されていきまして。
僕の代はもう山田さんなんて全く知らないんですよ。知らないんですけど、山田プリントをお前はまず読みなさいって言われて、入ったら山田プリント渡されて、それを使って授業するんですよ。それがもう我々のアイデンティティになってて。うん。で、本部からある時怒られたんですね。いや、標準のテキストあるんだから、標準のテキスト使って授業してくださいって言われたんすけど、いや、この山田プリントを守り抜かなきゃいけないんだって言って、山田プリントで頑なに授業し続けたんですよ。うん。
杁と全く一緒ですから。全く一緒ですよ。だから、それ垳を守る会と一緒ですよ、埼玉県の。俺を守る会やってたの?そう。学生時代に。で、方言漢字サミット開いてた。
いや、だからね、良くないですよ。その方言漢字を潰して統一した方がいいみたいなのは。便利だから規格を合わせましょうみたいな発想っていうのは、もう経済性に囚われた愚かな人間の発想ですよね。やめてください皆さん。そんなこと言うの。お前が言ってた。うん。フランスもびっくり。サイクス・ピコ協定を結んだフランスもびっくりの二枚舌出た。そう。すぐコロコロ変えちゃいますからね、言ってること。[音楽]
あ、でもそう思ったわ、本当に。だからアイデンティティになってきますもんね。ずっとその漢字を使って、その地名でも喋ってたら変えたくないもんね。はい。で、しかもこれはね、もう一個ポイントとしてあるのは、愛知の人でもこの歴史は知らないっていうことですね。あ、そうか。なんとなくみんな木偏に入るっていうあの字を使っているだけなんだ。
杁の字のことは知ってても、そこにどういった歴史があってとか、いつぐらいに使われ始めてとかっていう情報は積極的に取りに行かなければアクセスできないだろうし、あと多分ほとんどの人は杁が方言漢字であることに気づいてないです。うん。うん。他のエリアでも使われると思ってると思うので。ちなみにこの杁という字が、この辺りでばっかり見るなって思ってた方?あ、確かに。あ、でも全然少ないね。他の人気づいてなかったってこと。
はい。なので是非ともこういう方言漢字を見たら、面白がり方っていっぱいある。こういう字がどうして使われるようになったんだろう。さっきも言ったように先人たちから届いたタイムカプセルでもあるので、よかったら調べてもらえるといいと思いますし、もしこれぞと思ったらですね、こんな感じでね、方言漢字事典が去年かなに出たんですよ。え、こんなニッチな事典あるんだ。はい。
なのでまずこれ手元に置いておけば、それこそパラパラパラって見て、自分の県とか自分が旅行に行く県の方言漢字を調べるみたいな使い方ができますので、これ買ってもらえるといいと思いますし、結構最近だと漢字好きの人で、方言漢字ツーリズムみたいな、方言漢字の写真撮りに行くだけの旅行する人とか。え、どうしたんですか?いや、ちょっと申し上げにくいんすけど、楽しいんですか?え、それ。
漢字YouTuberのアビさんとかは、埼玉県に行って垳の写真撮って大喜びしてましたよ。垳あったって。楽しいんすか?それ。でもなんかなくないですか?同じ漢検一級保持者の人たちで車で運転してって、漢検辞典っていうね、漢検の出題範囲の辞典の意味を1番から順に言ってって熟語当てるゲームとか、大盛り上がりしてましたよ。はい。楽しいんすか?え、だから楽しいでしょ?そりゃ。めっちゃおもろいでしょ。すごいいろんな世界ありますね。
でもだから、歩いてると身近にこういうのあるかもしれないし、本の著者の笹原先生も言ってたんですけど、方言漢字は市民でも簡単に発表とかはできると。自分の家の近くにあるようなものを見つけて、それを例えば郷土史とかを探してみて発表するとかって簡単にできますし、実は今回の台本で使ったうちの一つの論文、西嶋さんっていう方の2007年とかの研究はですね、東海高校の1年生が書いた論文。高校生が行けるんだ。
はい。「杁」という字についてっていう論文。西嶋佑太郎さんが当時東海高校1年生の時に書いたもの。これがもうすごくこの歴史についてよくまとまっている先行研究なので。すげえ。え、今回の台本もそれ参考に?あ、もちろんです。はい。へえ。で、結局この漢字能力検定、漢検の研究奨励賞の佳作を取ってますね、この論文は。
なんかそう考えると夢ありますよね。自分の身近な地名集めていって調べたら、それだけで論文になって発表の機会を与えられるんだね。はい。そうですね。西嶋さんはその後、精神科医かなを今やられてるんですけど、その傍らでこういった方言漢字とか文字学とかの学会とかにも出席されたり、あとなんか本で医学にかける漢字の本とか出してましたね。はい。はあ。だから結局、なんだかんだ漢字学者にはならなかったけれども、そういった研究とかはやられてるっていうことで、それもちょっと胸熱でしたね。素晴らしいすね。やっぱ自由研究した方がいいんだなっていうのをめっちゃ思いました。
はい。ということで今回は方言漢字、木偏に入ると書いて杁という字について見てきました。はい。はい。これが愛知県とか岐阜県の辺りにやたらと集中してるんですけど、実はそこに愛知の歴史とか地理的な要因の情報をかなり残しているので、必ずしも中国に根拠がない漢字だからと言って消すわけにもいかない。
ある意味で、日本人はよく漢字に訓読みをつけるっていう発明をしたみたいなこと言われるじゃないですか。元々漢字って音読みしかないのに、日本語に当てはめて読み方を当てたのもすごいって言ってるけど、勝手に作るって意味では、もう一段階先の改造をしたとも言えるということですね。うん。そうですね。で、しかもそれがアイデンティティに結びつくっていうのはエモいですね。そうですね。そこも含めて、やっぱまた言葉の面白さっていう感じがしますね。うん。うん。
なんか是非ですね、皆さんもこの漢字うちの周りだけ使われてるなみたいなのあれば、コメント欄に残していただければこれ盛り上がるんじゃないですか?そうですね。愛知だと他だと、あの金偏に当て先の当てとか、さがのさの部分。全然読めねえよ。ア島とかっていう地名が多分あると思います。字が浮かんでないです。ア、あの味覚の実にさっきのやつでアって読むんですけど、あれとかも方言漢字事典に載っているので、よかったらご自身で調べてみたりしていただければと思います。
それでは引き続き、面白かった方はチャンネル登録、高評価、感想のコメントをお待ちしております。お寄せいただけると幸いです。以上で終わりにしましょう。ありがとうございました。ありがとうございました。
堀元さん、うまく話せなくて悩むことってありません?よくあります。そんな悩みを抱える方にぴったりな本を書きました。ほう。タイトルは『会話の0.2秒を言語学する』。会話のわずかな間にフォーカスした一冊です。是非皆さん買ってください。うん。
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