片付けたいのは母親だけ――母と娘の持ち物が入り組む3階建ての家(前編)

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概要

整理収納の専門家・古堅純子が、3人家族が暮らす3階建ての一戸建てを訪ねた回の前編である。依頼主は母親で、小学6年生になる娘の部屋を作りたいと考えている。ところが、その部屋には母親自身の本や服、生け花の道具が残っている。さらに、家族のなかで「片付けたい」と思っているのは母親1人だけだった。古堅は家の状況と家族の関係をどう読み、何を優先したのか。前編は、作業の方針を決めて大型家具の移動に取りかかるところで終わる。

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2階のリビングダイニング――仕事場と食卓と娘の置き場を兼ねる

築10年ほどの家で、2階がリビングとダイニング、キッチンになっている。キッチンには鍋がずらりと並び、古堅は「鍋大好きだね」と声をかける。母親は料理が好きだという。

ダイニングテーブルは母親の仕事場を兼ねている。仕事をする母親の前で、娘が絵を描いて過ごすことも多い。ただ、ここは家族が食事をする場所でもあり、食べるたびに物をどかす必要がある。古堅は、食事の場所がこうなっているのは大ごとだと受け止めた。

リビングには、収まりきらない娘の物が山になっている。古堅はこの家の構造に原因を見る。玄関から2階に上がると、家族はそこで荷物を下ろし、上着を脱いでしまう。物の定位置が3階にあっても、そこまではなかなか持っていけない。古堅は自分も面倒くさがりだからよくわかると話した。そのうえ収納が少ない。母親はロッカーのような収納を足して工夫したが、それもあふれている。

夫婦2人の家に子どもの物が増えていった経緯

母親は、家の使い方が変わってきた経緯を説明した。もともとは夫婦2人の家で、1階に夫の部屋、3階に母親の物、2階が共用スペースという分担だった。子どもが生まれて物が増えると、母親の物が3階から2階へ下りてきた。そこへ娘の物もどんどん増え、収まらなくなった。1階の夫の部屋はそこで完結していて、見てはいけない場所になっている。古堅は、手をつけられるのは2階と3階だと整理した。

リビングに置かれた本は、もともと3階にあった母親の本である。以前、母親は片付けの人を1日だけ頼んだことがある。そのとき3階は片付き、本は2階に下ろした。どこかにしまうつもりだったが、そのまま長い月日が過ぎた。3階もその後だんだん元の状態に戻ったという。

母親は、自分は物を捨てられるほうだと話す。ただし本だけは捨てにくい。捨てられないのは娘と夫で、母親自身は「本当全部捨てたいぐらい」だという。3階へ向かう途中には、夫と娘の趣味の小物やグラス類も並ぶ。グラスは、母親が旅先で買い集めているスターバックスのカップだった。古堅は「そりゃ散らかるわね」と笑った。

3階の「子ども部屋にしたい部屋」

3階には2部屋ある。右側が寝室で、左側が子ども部屋にしたいのにできていない部屋だ。左の部屋を開けると物がぎっしり詰まっていて、片付けの途中らしいゴミ袋も置かれていた。母親は、この部屋を見ると心が沈むと話す。

娘は11歳で、この部屋に座って何かをすることはあるので、子ども部屋としてある程度は使われている。ただ、片付けはまったくできていない。幼い頃の物も捨てきれずに残っている。娘は『鬼滅の刃』が大好きだ。古堅は、鬼滅のグッズとメルヘン調の物が混ざってごちゃごちゃに見えると指摘した。娘の部屋なのだから、娘がなりたい部屋にするのがいいという考えだ。

問題は、この部屋に母親の物が多く残っていることだった。上の棚は母親の本で埋まっている。生け花用の花瓶もあるが、ほかの物になじんでいて目立たない。もともと母親の部屋だったため、クローゼットの中もほぼ母親の服である。娘の服は右側の下のほうに少しあるだけで、大部分は寝室に押し出されている。

古堅は、ここがいちばんの問題だと言う。クローゼットの中が母親の物で埋まっていれば、娘の物を隠す場所がない。一方で古堅は、クローゼットを空けたとしても12歳の持ち物としては多い、とも伝えた。そこで折り合いをどうつけるかが課題になる。捨てても寄せても、古堅としてはどちらでもよいという。

母親は、片付いたらこの部屋にベッドを入れたいと考えている。古堅は、長さ2メートルの物体が入るのだから相当なスペースを空ける必要があると指摘した。ただ、その年頃になれば自分の部屋で寝たくなるのは当然だとも受け止めた。

寝室――母と娘の服が「クロス」している

寝室は一見整っていた。しかし右側だけが荒れていて、古堅は「ここだけ見ると素敵なのに、こっちを見るとどうしたって感じ」と表現した。娘の服は寝室にあり、母親の服は娘の部屋にある。持ち物が部屋をまたいで交差しているので、入れ替えなければならないと古堅は判断した。娘は使った物を戻すのが苦手なのかという問いに、母親はうなずいた。

寝室のクローゼットには、もともと夫の服が入っていた。夫が撮影前夜に空けてくれたという。古堅は、夫が自分の痕跡をすべて自室に移したのだと受け取った。家族として協力的でありがたい、とも評価している。

ここで古堅は、自身の基本的な考え方を話した。限られた部屋数で暮らすなら、1部屋につき1人というルールにしないと難しい。この年頃の娘と部屋を共有する形にすると「コメント欄が荒れる」と冗談めかして言う。そのうえで、自分はどんな形でもその家族が幸せならそれでよいという立場だと述べた。ただ、年頃の子が自分の部屋を欲しがるなら、物より人を優先しないと難しいという。母親もそれは理解していて、だからこそ娘の部屋を作りたいのだと答えた。

ベッド下には季節物を入れ、衣替えをしている。古堅は、物を逃がす場所として悪くないと評価した。一方で、掃除が行き届いていない点も率直に指摘した。母親は掃除が好きではないと認める。古堅は、物がたくさんあると掃除したい気持ちにならないのだと説明した。大きなスーツケースについては、見えていても不自然ではない物だと言う。見せたくない物を扉の中に隠す方針を考えよう、と後の相談に回した。

2階の既存収納の「稼働率」

2階に戻ると、古堅はダイニングの狭さに気づいた。後から足した収納家具で空間が詰まっている。一方で、母親が「収納がない」と言っていたキッチン側にも、実は収納があった。

中を開けると、タオル、子どもの下着、食材、食器が混在していた。何でも入っているが、実際に出し入れしているのはタオルくらいだという。使わない食器が、手の届く良い位置を占めていた。古堅は、ここの稼働率を上げないといけないと指摘した。既存の収納を使い切り、足りない分を別の家具で補うならよい。しかし、使われない収納を残したまま収納家具を増やすと、散らかす場所を増やしているように見えるという。

母親の希望と、古堅の進め方

改めて何をしたいかを聞くと、母親は「物を片付ける場所を作りたい」と答えた。扉の中には物が押し込まれているだけなので、一度全部出してオーガナイズし、何がどこにあるかわかる状態にしたいという。花を飾るのは好きで、片付いたダイニングに花を飾るのが理想だと話した。

古堅は、1つ1つの収納を丁寧にオーガナイズしていたら1日では終わらないと説明した。自分たちのやり方は、まず稼働している物をいったん寄せて、元になる「景色」を作ることだ。収納の中を整えるのはその後になる。収納ごとに細かく整理していては、リビングくらいはできても、娘の部屋までは届かないかもしれないという。

そこで優先順位を確認した。母親の最優先は娘の部屋だった。3階で母親の衣類と娘の衣類を分けることが「絶対第1優先」だという。リビングダイニングについては、母と娘の物が入り込んでいるのを分けたいと話した。娘の物は3階へ上げ、3階にある母親の本などは2階へ下ろす。2階のリビングダイニングを母親の物だけにして、母親の定位置にしたいという希望だ。入りきらない分は寝室に置く。

古堅は、上下の入れ替えはできると答えた。細かい収納の整理は、母親がある程度自分で整理しないとできないので、時間をかけてゆっくり進めてほしいと伝えた。今回の目標は3つに整理された。娘の部屋を作ること、ダイニング周りを物々しくない景色にすること、そして花を飾れる状態にすることである。

「片付けたいのはママ1人」という懸念

作業に入る前、古堅はもう一つの懸念を口にした。この家で片付けたいと思っているのは母親1人だけで、それがわかってしまうから、本当にやっていいのか迷うという。入り口の段階で家族の足並みをそろえておかないと、結局同じ状態に戻ってしまうからだ。

母親は「こんな中で住みたいのかなって思う。私はもう住みたくない」と答えた。古堅はその気持ちもわかると受け止めた。まず母親の物を引き取り、どれだけスペースが空くかを見ながら、やれることをやろうと方針を固めた。

ベッドの位置とワードローブの大移動

3階では、ベッドをどこに置くかの検討から始まった。部屋の一方は天井か壁が斜めになっていて、ベッドを置ける向きが限られる。扉の開閉も確保しなければならない。検討の結果、ベッドを壁に寄せて置き、空いた側に収納を並べる案に落ち着いた。

そのためには、娘の部屋にある大きなワードローブを動かす必要がある。子ども部屋には大きすぎるうえ、服が多いのは母親のほうだ。ただ、寝室でワードローブが置ける位置も斜めの壁に当たる。そこで、寝室のベッドの頭側に回して向きを変える「3階大工事」を母親に提案した。背の低い家具は逆に娘の部屋へ移す。

ワードローブは重く、倒して横にしないと部屋から出せない。途中で危ないと判断し、力のある人をもう1人呼んだ。狭い空間で、段差や上部に気をつけながら押したり支えたりを繰り返す。しかし向きを変えようとしても曲がらず、ベッドなどに阻まれてそれ以上進まない状態に陥った。

前編はここで終わる。母親が念願とする娘の部屋が本当にできるのかは、次回に持ち越された。