「最後は綺麗な家で」――一時退院する夫のために、リビングの景色を変える片付け

YouTubeで開く ↗
概要

片付けの専門家・古堅純子さんが、一軒家に4人で暮らす家族のもとへ「緊急レスキュー」に向かった回である。依頼主の妻によると、闘病中の夫は入院しており、まもなく一時退院して自宅に戻る。夫は「最後は綺麗な家で過ごしたい」と話しているという。古堅さんはふだん物を無理に捨てさせず、一日で景色を変えるために物を「寄せて隠す」手法を取っている。しかし今回は、妻の姉がトラックを用意して手放す物を運び出す態勢を整えていた。夫が過ごすリビングを、夫の目線から見てどう整えるか。便利さと景色のどちらを優先するか。ピアノを手放すか。家族がいくつもの決断を重ねた一日の前編である。

10分で読めます

トラックで待っていた姉と、「最後は綺麗な家で」という願い

古堅さんが到着すると、家の前に大きなトラックが止まっていた。妻の姉が自分の家の車で手伝いに来ており、前日から不要品を積み込んでいたという。姉は古堅さんの番組を見て知っていて、妹は「大困り」なのだと本人より先に説明した。

リビングダイニングの隣は寝室で、妻によると体調の悪い夫がいる。夫はこの日は病院にいた。古堅さんが「見える景色は整えた方がいいかな」と言うと、妻は夫が「最後は綺麗な家で過ごしたい」と話していると明かした。古堅さんは「最後は」という言葉を聞き流せず、事情を尋ねた。夫は入院中で、30日に一時退院できる見込みだという。日がないため、急いで取りかかることになった。

夫は釣りが好きで、家族の休みに体調が良ければ行きたいと、自分で道具をそろえていた。古堅さんは「叶えてあげたいね」と応じている。夫は古堅さんが来ることを知らないまま入院したが、番組は妻に見せられていて、「魔法使いやな」と言っていたそうだ。妻は、片付けるよう言われても押し込むだけになり、物の場所が分からなくなって引っ張り出し、元通りになってしまうと話した。

古堅さんは、自分はふだん一日で景色を変えるために物をどこかに寄せて隠すだけだと説明した。今回は寄せる先が外のトラックでもよいのかと確認すると、妻はそれでよいと答え、古堅さんは「初ですね」と応じた。そのうえで、無理に捨てろとは言わないが、こういう状況なら片付けに振り回されず家族との時間を大切にしてほしいと心の底から思う、と話している。

夫のベッドから見える景色と、動かない収納

リビングには夫のベッドが置かれていた。古堅さんはまず、夫が寝ている位置から見える目線を確かめた。収納を全部閉めてしまえばいいわけでもなく、テレビが見やすい角度も考えなければならない。

リビングにはピアノもある。19歳の娘が習っていたものだが、今はほとんど弾いていない。妻は姉に持ち帰ってほしいと頼んでおり、夫とも「なくなってもいいのでは」と話していたという。仮置きの机もあった。17歳の息子は高校を移るために勉強中で、夫が「自分のそばで勉強して」と言って机を置いたのだそうだ。夫は朝早くから夜遅くまで働き、子どもと関わる時間が少なかった。古堅さんはこれを、父親が子どもと一緒の時間を持ちたがっているのだと受け止めた。

妻自身が「私がしでかしてる」と言う収納もあった。扉を開けると、トイレットペーパーなどが詰め込まれ、中に棚やキャビネットまで入れてあって、物が動いていない。自作の棚には非常食のつもりの食材があったが、結局は賞味期限切れになっていた。妻はこの収納を夫の物だけを入れるような、使える場所にしたいと考えていた。夫の服などが入った引き出しは、前にベッドが来てしまって開かない。古堅さんは、この部屋の景色もよくないので、物をなるべく収納に収めてすっきりさせた方がよいと話した。そうすれば周囲を動きやすくなり、何かあったときにすぐ駆けつけられる、というのが理由である。

リビングのクローゼットはとても深く、妻は「超使いにくい」と言う。奥の引き出しに何が入っているかは、何年も前に入れたきりで本人も分からない。手前には妻の仕事の物や夫が使う物があり、ここは使われていた。古堅さんは、奥には動かさない物しか入れられないと指摘した。棚の上に物を並べてはいるが、物の「もろ出し」が多すぎるという見立てである。

今日どうしたいかと聞かれた妻は、夫が過ごす場所から見えるリビングの景色を変えたいと答えた。古堅さんは、寄せたり隠したりするより、不要な物を一気に手放してすっきりさせる方針だと確認した。

2階:夫婦の元寝室と、大容量の収納

作業前に古堅さんは2階も見て回った。途中で息子が帰宅し、手伝ってもらうことになった。

かつて夫婦がシングルベッド2台で寝ていた部屋は、「泥棒に入られた後」のような状態だった。古堅さんは、片付けようとした結果こうなったのだろうと見る。空の入れ物がたくさん転がっており、妻も自分が几帳面ではないと認めた。妻は現在、階下のソファで寝ている。夫がつらいときにベルを鳴らして呼ぶからだ。この部屋はたまに娘が使う程度だが、妻は今後、自分がよく眠れる部屋にしたいと考えている。

部屋のクローゼットは大きく、夫婦2人の服が入っていた。キャスター付きの収納用品も目についた。妻は古堅さんの動画を見て、リビングなどで使えると思って買ったが、まったく使っていないという。古堅さんは、使う場所のそばになければすぐには使えないと指摘した。ほかにもウォークイン収納や階段上の収納があり、古堅さんは、これだけ大容量の収納があるならかなりの物を寄せられると判断した。

息子の部屋と「いない人の部屋はやらない」理由

息子の部屋は、入口のすぐ前に家具が置かれていた。古堅さんは、入口が入りづらいと物がどんどんたまるので、今後はここに物を置かないよう息子に伝えた。部屋の中は寝るだけの状態で、古堅さんは、父親が「俺のそばで勉強しろ」と言う理由が分かったと話している。

部屋には段ボールがいくつもあった。届いたばかりで、まだ組み立てていない家具や椅子だという。ロフトベッドを処分し、夫婦の寝室にあったベッドを1台移して、息子はそこで寝るようになった。背板が浮いてぼこぼこになった収納家具もトラック行きになった。息子によると、あふれていた本はすでに売ったという。姉の分が3袋、自分の分が1〜2袋ほどで、それだけ処分してもまだ物が残っている。

ここで古堅さんは、最近は家にいない人の部屋には手をつけないと決めていると話した。以前、帰省しない息子の部屋だけを片付けずにおいたところ、家中が綺麗なのに自分の部屋だけ散らかっていると、帰ってきた息子が怒ったという話を聞いたそうだ。一方で、こだわりのある部屋や好きな物が多い部屋は本人抜きでは触りづらい。今回は息子が帰ってきたので、片付ける部屋が一つ増えたことになる。

こうしてこの日の範囲は、2階の2部屋と1階のスペースに決まった。古堅さんは、暮らしを見直すことはこの家族にとってプラスになることが多いはずだとし、父親が退院してくる前に景色と気分を変えて再出発しようと呼びかけた。家族で気合を入れて作業が始まった。

「便利」か「景色」か:方向性を決める

作業中、姉妹の意見はたびたび食い違った。ピアノについて、妻は姉に持ち帰ってもらってよいと言う。姉は、物がなくなれば1台くらい置けるのではないか、プロが来てくれるのだから、と話した。夫も弾かないからいらないと言っているそうだ。

古堅さんは、弾かないのは「ここにあるから」だと考えた。寝室にもなっている場所では、弾ける人がいても音がうるさいと思われてしまう。弾ける場所にあれば弾く気にもなるので、置き場所を変えるだけでも価値はあるという。

そのうえで古堅さんは、判断の軸を示した。手に取りやすい場所に物が並んでいる暮らしか、すっきり片付いた景色のよい暮らしか。便利を取るか景色を取るかで結果が変わる。この家は便利そうだが景色が悪い状態なので、どちらの方向で行くのかを妻に尋ねた。妻の答えは「景色」だった。古堅さんは、それがはっきりしているなら並べて出してある物は別の場所に移すと決めた。その場所になくてよい物は2階に上げるかトラックに積み、「父ちゃんの視界から物をなくそう」と方針を固めた。空間があるだけで気持ちが変わる、というのが古堅さんの考えである。

ベッドとテレビの位置をめぐる試行錯誤

最も時間をかけて議論したのは、夫のベッドとテレビの位置だった。古堅さんが気にしていたのは、体の向きによってテレビを見るのがつらくならないかという点である。テレビの配線がどこにあるか、子どもたちはテレビを見ないこと、夫がつらいときは横向きで寝ていること、体調のよいときは起き上がっていることなどを確かめながら、いくつもの配置を検討した。

姉は、夫はテレビを見ながら家族の様子も見られる空間を気に入るはずだと話した。ベッドを向こうに寄せすぎると、家族が夫に背を向ける形になる。頭の向きを変えれば、少し頭を上げてテレビも家族も見られる。そうした意見を出し合い、最終的にはベッドを縦向きに置き、テレビを夫の近くに持ってくる形に落ち着いた。途中で妻が「テレビも持って帰って」と冗談を言い、姉が止める場面もあった。

ピアノの決断

ピアノについては、作業中にも姉妹でもめた。姉は自分を「捨てすぎる人」だと認めつつ、持ち帰ると言う。一方で、もう少し片付けが進んでから最後に決めればいいという声もあり、結論は一度先送りされかけた。姉は5月にまた来る予定なので、そのときに持ち帰る案も出た。

そこへ、娘から「ピアノはいらない」と連絡が入った。古堅さんも実は、ピアノをリビングに置くと夫の位置から角が見えてしまうので、別の場所に移せないか相談しようと思っていたという。娘の意向がはっきりしたので、ピアノは姉が引き取ることになった。この日は雨が降っていて運び出せないため、ひとまず窓際の壁に寄せ、次に車を着けたときに窓から出せる状態にしておくと決めた。ベッドの移動は家族全員で持ち上げ、声をかけ合いながら慎重に運んだ。

アフター:夫の目線で整えたリビング

夫が2日後に戻ってくるという時点で、リビングの仕上がりが披露された。テレビは夫のベッドのすぐ近くに置かれ、いつでもつけたり消したりできるようになった。家族は「ホテルみたい」と口をそろえた。古堅さんは、テレビを別の位置に置くとよい場所がなかったので、いっそ夫の近くに持ってきたと説明している。ピアノはこの日は運び出せず元の場所に残っているため、撤去後に写真を1枚撮ってもらい、父親が帰宅したときの反応と一緒に送ってほしいと頼んだ。

古堅さんは、いま自分から見えている景色は完全に父親から見える景色であり、この日は父親の目線になって整えたと話した。カウンターの上に山積みだった物もすべて撤去し、拭き上げてある。病気と闘っている父親に、少しでもよい環境で頑張ってほしいという思いを込めたという。

収納も作り直された。部屋の奥にあたる収納には、思い出をいつでも振り返れるようにアルバムを並べた。家族がそろってアルバムを見たりテレビを見たりする時間を持ってほしい、というのが古堅さんの願いだ。右側の収納には夫の好きな釣り道具や漫画を並べ、すぐに出し入れできるようにした。古堅さんは、ゴールデンウィークにはこれで家族で釣りに行ってほしいと話している。

妻の物は、腰の高さに見える形で放り込める収納にまとめた。古堅さんは、腰高の収納はとても使いやすいと言う。妻はまめな性格ではなく、一つのことをやると他が何もできなくなる。だからこそ楽に家事や介護ができるようにすれば、夫や家族との時間も取れるようになる、というのが古堅さんの考えだ。そのうえで、片付けに振り回されないよう、今後は物をあまり増やさないで暮らしてほしいと伝えた。

家族の感想と、まだ残る2階

息子は、物が取りやすくなって便利だと答え、病院の準備品を出せる場所があると父親も準備しやすいと付け加えた。古堅さんは、作業中はいろいろ言うのにアフターになると語彙がなくなる家族のなかで「一番まともな感想」だと笑った。姉は「見違えた」と言う。どこに何を戻せばいいかが一目で分かるので、片付けが苦手な妹でも続けられるのではないか。在庫がどれだけあるかが分かれば、もう余計には買わないだろう、とも話した。

1階はこうして整った。ただし、リビングに山のようにあった物は大量に2階へ上げてある。2階の片付けは次回に続く。