地面師、浜名湖の乱交パーティー摘発、坂口杏里――ライター河合桃子が現場で見てきたこと

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概要

ライターの河合桃子は、積水ハウスから55億円をだまし取った地面師事件の関係者を取材し、本にまとめた。ほかにも、いわゆる「生活安全課」が扱うような性風俗関連の事件、結婚詐欺、坂口杏里の長期取材などを手がけてきた。街録chのインタビューで河合は、地面師の連絡役だった男との出会い、獄中の地面師たちとのやり取り、性風俗をめぐる摘発の実態、そしてシングルマザーとして記事を書き続ける生活について語った。話の中心にあるのは、事件の当事者に直接会い、その人となりを確かめようとする取材姿勢である。

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地面師グループの連絡役「加藤」

河合の本の中心人物は「加藤」と呼ばれる男だ。インタビュアーは、Netflixのドラマ『地面師たち』で綾野剛が演じた役の半分ほどのモデルになっているのではないかと尋ね、河合は「半分」くらいの感じだと答えた。ドラマの綾野剛の役は取引相手との商談にも同席するが、加藤は商談には一切出ず、連絡役だけを務めていた。河合によれば、パスポートの作成や、なりすまし役の手配を頼みに行くといった役割を担っていたという。

加藤が事件に関わった経緯について、河合は、挫折して借金を背負い、それを一発で返そうとして闇に踏み込んでいったのだと説明する。最近の特殊詐欺に加担する若者も、借金を一気に返したい一心で関わるケースが多いと河合は見ている。年齢も時代も違うが、置かれた境遇は同じだと感じたという。

なりすまし役を手配する時点で、普通なら何かおかしいと気づくはずだ。河合が「これが詐欺だと思わなかったのか」と聞くと、詐欺の先輩たちは「地面師」という言葉を使わないのだと加藤は答えた。役者を用意する詐欺の案件では、眉毛を使ったしぐさなどで「役者の案件だ」「偽物だ」と合図を送り合う。加藤が「それは悪いことなんじゃないか」と言うと、「詐欺だけど、役者さえ捕まらなければ大丈夫」と返され、捕まらないならいいのか、と受け入れてしまったらしい。

加藤の生い立ちは特殊なものではない、と河合は言う。新卒で入った会社がブラック企業だったといった事情もあったかもしれないが、それよりも、周囲に金を簡単に稼いでぱっと使ってしまう人間ばかりがいたことが不幸の始まりだったのではないか、と河合は考えている。擁護するつもりはないと断ったうえで、若いうちにそういう人たちしか周りにおらず、それが当たり前になっていれば抜け出せないのではないか、金を使うこと以外に仕事のやりがいを見つけられなかったのではないか、と推測する。

外見は詐欺をしそうには見えない、人当たりのいい「普通のおじさん」だという。特にハンサムでもスタイルがいいわけでもなく、キャッチャーをやっていたので『ドカベン』のようながっしりした体つきだと河合は描写する。

加藤と知り合う前、仲間の溜まり場になっていたのは新橋の古い駅ビル、ニュー新橋ビルの中の喫茶店だった。そこには「兄貴分」のような人物がいて、金に困っていた加藤はその兄貴分から金を借り、「借りたんだから手伝え」という流れもあったようだ。弱みを握られて犯罪に巻き込まれていった、という見方にも河合は同意している。

本ができるまでと、獄中からの反論

執筆のきっかけはNetflixのドラマだった。ドラマを見た河合は、ドラマとの違い、つまり現実を書きたいと思い、加藤に何度か持ちかけた。ドラマとしては面白いが、現実にはあんなに簡単にはだませないし、あんなに人が死ぬこともない、その違いを書けば面白いはずだ、と話したという。取材を始めてから、加藤の視点だけでは書けないと考え、刑務所にいる関係者と手紙のやり取りや面会を重ねた。本の出版前には、週刊ポストで3回の短期連載も書いている。

獄中の地面師たちはその記事を読んでいた。「全くの嘘です」「加藤に指示もしていないし、自分はやってもいない」「あなたは嘘を書きましたね」といった手紙が届いたと河合は話す。インタビューの前日にも、主犯格の一人とされる土井という人物から手紙が来たばかりだった。加藤の指示役、つまりドラマでいう「ハリソン」にあたる人物とは、毎日のように電話でやり取りしていたのだから、関わっていないはずがない、と河合は言う。それでも本人は関わっていないと言い張る。この事件で最も顔が知られた一人であるカミンスカス操ですら、無罪だ、冤罪だと主張しているという。

「もう一人のハリソン」北田との面会

河合によれば、実際の事件では、ハリソンのさらに上に「もう一人のハリソン」のような人物がいた。北田という人物で、積水ハウスの事件では逮捕されたものの不起訴になり、別の地面師事件で捕まって現在服役中だという。河合はこの北田と直接面会することができた。

北田は、捕まらないためにどうだませばいいかを考えていたと語ったという。捕まっていない事件もたくさんあり、それで30年間生きてきたとも言っていた。自分は個人は狙わず、企業を狙ってきたとも話したそうだ。河合は、この人物は確かに頭がいいと感じた。

一方、カミンスカスや土井とは手紙のやり取りしかしていない。河合の印象では、彼らは暴力的な悪事は働かないが、金を盗んだりちょろまかしたりすることに長けた人たちだ。全員に共通するのは「おしゃべりおじさん」であることだという。聞いてもいないことまでべらべら話す。1億円ほどを手にしながら、逮捕後に起訴されず釈放されたメンバーもいて、そうした人も会って話すとよくしゃべる、と河合は笑いながら話した。

インタビュアーが、なぜ犯行に及んだのかをあまり問い詰めないのかと尋ねると、河合は、悪さを責めるよりも興味の方が勝っているのかもしれない、と答えている。

殺人事件と地面師をつないだ接点

河合が加藤と知り合ったのは、ある殺人事件の取材がきっかけだった。ハプニングバーのオーナーだった夫婦の夫が殺害され、自宅の床下に埋められた事件である。犯人は、地面師事件の主犯格の男、つまりカミンスカスがよく通っていたフィリピンパブの女性だった。河合はこの女性とカミンスカスが写っている写真を手に入れ、写っているのが本当に本人かを確かめるため、知人を通じて加藤を紹介してもらったという。

動機については当時、金銭トラブルと言われていたと河合は振り返る。女性は単独ではなく恋人と共謀して殺害したとされ、殺された夫婦の息子とこの女性がかつて交際していたという話もあった。カミンスカスが女性に多額の金をつぎ込み、部屋を与えたり高級ネックレスを買い与えたりしていたことで金銭感覚が狂ったのも動機の一つではないか、とも言われていたという。インタビュアーが、まったく関係のない事件がつながっていることに驚くと、河合は「そうなんですよ」と応じた。

浜名湖「120人乱交パーティー」摘発の顛末

河合がもともと多く書いてきたのは、生活安全課が扱うような性風俗関連の事件である。その一例として語ったのが、週刊文春などでも大きく取り上げられた浜名湖の乱交パーティー摘発だ。

浜名湖の別荘のような場所に120人が集まったもので、その界隈では毎年「全国大会」と称して開かれていたパーティーだったという。参加はカップルが条件で、男性だけ、女性だけの単独参加はできない。120人は60組のカップルだった。なぜ浜名湖なのかというと、日本の真ん中、「へそ」だから、日本の真ん中で集まろうというコンセプトだったと河合は説明する。

摘発のきっかけは警察へのたれ込みだった。薬物などいろいろなものが出てくるはずだという情報があり、当時の地元警察署が主導して、河河合の話では100人以上の警察官が水上からも上陸するほどの大がかりな態勢をとった。ところが、性行為以外には何も出てこず、薬物も見つからなかった。主催者2人と数名がその場で逮捕されたが、在宅捜査に切り替わり、最終的には不起訴になったという。河合は、ただ集まりたい人たちが集まっていただけだったと言いつつ、別荘を貸した側からすれば勝手に何をしているのかという話にはなる、とも付け加えた。

ハプニングバーが摘発されるのは公然わいせつにあたるからだが、河合によれば、何人以上なら「公然」なのかという明確な基準はないらしい。二人の男女以外に不特定の人が加わり、警察が公然わいせつと認めればそれで逮捕されてしまう。今もその点を裁判で争っている人がいるはずだという。無理やり連れてこられてやらされた女性がいるなら問題だが、やりたい男女が集まっているだけなのに被害者はどこにいるのか、という声が当事者たちから上がっていると河合は伝えた。

一方で、デリヘルなど風俗で働く女性を雇い、ホテルを貸し切って男性を集め、素人が参加しているように見せかけて商売にしている乱交パーティーもあるという。無許可営業にあたり、実際にそうした主催者が逮捕された例もある。河合は、この界隈にもいろいろあることを面白がってしまうところがある、と話した。

名古屋の結婚詐欺男――組織化された「劇場型」

殺人ではないが、自分の中で熱かった事件として河合が挙げたのが、名古屋の結婚詐欺男の事件だ。被害者は30人ほど、被害総額は3億円ほどにのぼったという。結婚詐欺はふつう男が単独で女性をだますが、この男は秘書役や指示役を従えていた。その役割分担が地面師に似ていると感じ、熱を入れて取材したという。

手口は毎回同じだったと河合は説明する。男は女性とのデートに必ず秘書役を連れて3人で行き、途中で「財布がない」と言い出す。すると秘書役が「財布がないなら明日の契約はどうなるんですか」と芝居を始め、契約にいくら必要だという話になり、男が女性に「1週間後に必ず返すから貸してくれないか」と頼む。財布はクリスチャン・ルブタンのものだったらしい。手の込んだ劇場型の手口だと感じた河合は、当時の記事も地面師を思わせる書き方にしたと振り返る。

坂口杏里の長期取材

河合は坂口杏里を5、6年ほど取材してきた。タレント時代の取材はしておらず、彼女がタレントをやめてAVに出演し、その後歌舞伎町のバーで働き、FTMの人と結婚したあたりからの付き合いだという。八王子での万引き事件の後にも何度か取材したが、今は取材していない。

河合の見立てでは、坂口は現在、ライブ配信アプリ「ふわっち」の配信者たちの「おもちゃ」のようにされている。福岡あたりにいる配信者の支援を受け、その人のアパートに転がり込んで暮らしているようだという。ふわっちには他の配信者と対談形式で配信する「ミラー配信」のような仕組みがあり、それをすれば自分も稼げるため、配信者たちが坂口を奪い合っているような状況になっている、と河合は説明する。ランキングでは上位にいるはずだが、結局は彼女を使って金を稼ごうとしているのではないか、と河合は言う。

タレント時代はマネージャーや事務所に守られていたが、今は35歳の大人の女性として、自分で決め、責任を持って自立しなければならない。それができていない、と河合は見る。支援してくれる人がいる限りそれを続けるだろうが、40代になれば支援する人もいなくなるだろう、と精神科医も話していたという。

八王子の事件の後に坂口が身を寄せていた男性について、インタビュアーが、生活保護を受けながらふわっちで投げ銭をしていたのではないかと尋ねると、河合は、一般の人なのでどこまで言っていいかわからないとしたうえで、その男性は配信はしておらず視聴していただけで、ずっと坂口のファンだったと話していたと答えた。河合は自宅前まで行き、男性も取材している。

二人ともサイゼリヤが好きで、八王子近くの店に朝も昼も夜も通っていた。河合がほぼ丸一日同行した日、夜は別の店にしようと提案したが、坂口は「サイゼリヤがいい」と言い、昼も夜もサイゼリヤだった。必ず頼むのはエスカルゴのオーブン焼き、小エビのカクテル、ディアボラ風ハンバーグだったという。

頼る先の男性の収入が下がっているのかという問いには、収入が低い人が悪い人だとは限らないし、高くても悪い人はいる、問題は坂口に関わる人がどういう気持ちで関わっているかだ、と河合は答えた。

自分も結局は記事にしたいから近づいているのだろうと言われるかもしれない、と河合は認める。そのうえで、自分にも娘がいること、坂口には兄がいるがほぼ疎遠で連絡もつかないこと、義理の父親とも疎遠で身寄りがない状況であることを挙げ、当時は老婆心から取材以上の気持ちで関わっていたところがあったと話す。その気持ちは今も変わらないが、近づきすぎるのはよくないと気づいたという。後段では、坂口は生活保護を受けるかどうかの瀬戸際にいる女性であり、そういう現場をきちんと知りたくて取材していた面もある、とも語っている。

羽田のヤンキー時代

河合の出身は東京都大田区の羽田で、本人いわく「マイルドヤンキーエリア」だ。川を越えれば川崎という土地である。同い年の仲間で「天下一武道会」を開き、勝った人を表番、裏番にするという遊びをして、河合は裏番のような立場になった。とはいえ参加者が多かったわけではなく、1回戦か2回戦ほどだったという。

当時の主流はミニスカートにルーズソックスだったが、河合はロングスカートを履いていた。地元の「ヤング」という制服改造店で、背が高いから丈を90センチにしてほしいと注文したところ、店の人に「90センチはあなたが初めて」と言われたという。『チャンプロード』などのヤンキー雑誌に投稿される「ヤンキーポエム」も、投稿こそしなかったがノートに書きためていた。中学2年の終わりごろ、交際していた彼氏が少年院に似た施設に入ったときには、漫画の主人公になったような気分で「会いたい」といった言葉を書いたという。

それをきっかけに、自分も生まれ変わろうと中学3年から髪を黒く戻して真面目になった。高校は誰も知らないところに行こうと、羽田中学からは3、4人しか進学しない六本木の城南高校を選び、ヤンキー仲間と決別したと語っている。

ゲームライターから事件取材へ

河合の世代は就職氷河期で、卒業後は編集プロダクションに就職した。1週間会社から帰れないような職場で、今でいうブラックに近かったという。その後独立した。

この編集プロダクションはゲームの攻略本を作る会社で、河合はもともとゲームライターだった。発売前の開発中のソフトをメーカーから入手し、全ステージをクリアして宝のありかなどを確認する。メーカーにとっても攻略本が出るのはありがたいので、そうした協力があり、資料をもらえることもあったという。格闘ゲームなら、昇竜拳を出した瞬間を撮影しなければならない。手はコントローラーでふさがっているため、機械を接続して足でペダルを踏んで撮る。技の前の動きや回転しながら上昇する姿も何枚も撮ったという。河合はファミコン世代で、ゲームも好きだった。

ゲームの仕事が廃れて連載もなくなっていく中で、河合は秋葉原の「オタク事件簿」のような連載を担当した。秋葉原は事件が起こる場所でもあったという。当時、ラブドールに声優が声を当て、客が望むシチュエーションに合わせて演じてくれる風俗店があった。女性の自分は体験できないため、知人に行ってもらって話を聞き、記事にしたという。ゲームから離れていったのは、ゲームより事件の方が面白いと思ったからだと河合は言う。ゲームのノウハウしかない中でどうやって事件を書けたのかと問われると、興味を持つかどうかに尽きると答えた。性風俗関連の事件を扱うようになって10年ほどになる。

現在は集英社オンラインなどにも記事を書いている。事件はXで起きているような時代だが、X上で完結させるのではなく、いわゆる「こたつ記事」から出て現場に行くことを生業にしている、と河合は言う。人と話すと本当のことが見えてくる。それが本当かどうかわからない部分もあるが、こたつにいるだけでは得られないものがある、というのが河合の考えだ。

ソープランド摘発と内部告発

最近の動きとして河合が挙げたのが、新潟、仙台、吉原と続いたソープランドの摘発である。これまでの摘発は警察のさじ加減に左右される部分があったが、最近は、店で働いていた女性が「ここで売春が行われている」とたれ込み、それが摘発につながるパターンが出てきたという。

河合は告発した女性本人を取材した。女性には自分なりの思いがあったようだが、不当に解雇されたことへの反発もあったらしい。河合が「ここで働いてお金を得たのに、恩はないのか」と改めて聞くと、それは自分の実力によるものだと答えた。河合はそれを批判するつもりはなく、はっきりした意思があるならそうですか、と受け止めたという。何に対しても、良い悪いという自分の意見を入れずに話を聞きたい気持ちがある、と河合は語った。

AIは文字起こしだけ

AIの発達で働き方は変わりそうかと問われると、河合は、AIが取材してくれるわけでも原稿を書いてくれるわけでもない、と答えた。指示すれば書くかもしれないが、自分が使っているのはICレコーダーの音声のAI文字起こしだけで、それを整えさせることもしない。AIを駆使している人もいるようだが、自分は企画書もAIでは作らない。AIで作った企画書は見ればわかるから、という。

シングルマザーとして書き続ける

今後やりたいこととして、河合は人の話を聞いて支援するような仕事を挙げた。離婚前からカウンセラーのような役割に関心があったが、公認心理師の資格は大学に入り直すなど時間もお金もかかるため難しい。自身がシングルマザーであることもあり、母子家庭の支援の動きや、その現場を取材してみたいと話す。

シングルマザーになって10年ほどで、子どもは2人いる。離婚当時、上の子は小学校に上がるころ、下の子は保育園の年長くらいだった。夜に取材へ行くときは実家に預け、送り迎えをしなければならず、それが大変だった。何をしてどうやって今に至ったのかわからないほど大変だったという。

仕事がストレス解消になっていたのかと聞かれると、河合は「難しい」と答えた。本を書いていた時期は、単発の原稿を書きながら長期の取材と執筆も進めていたので、気が狂いそうだった。それでも仕事があるから生きていけるし、自信にも安定にもなっている。一方で辛くもあり、なんとも言えない、というのが河合の答えだった。

「3万円貸して」――元地面師からの無心

子育てをしながらの地面師取材では、こんなこともあった。60代の元地面師の男性から「今月大変だから3万円でもいくらでもいいから用意できないか」「60代のおじさんが一人で生きていくのも大変なのよ」と言われたのだ。河合は、49歳で子ども2人を抱えて生きている方が大変です、と思ったという。

河合はその場で断りきれず、曖昧にして返事をしなかった。すると当日にLINEで「どうですか」「待ってます」と連絡が来たため、どうしても貸せないと断った。すると「今後の付き合いもあるんだから、そういういい加減なことはやめてよ」「当日に断るのはないでしょう」と逆に怒られたという。なぜ自分が怒られるのかと思いつつ、「大変失礼いたしました」と返したと河合は笑う。

この男性はかつて1億5000万円ほどを手にしたが、とっくになくなっているという。貸してもらう代わりに湯沢のマンションを担保にすると言ってきたが、湯沢のマンションを担保にされても困るし、それなら売ればいいのではないか、と河合は思った。ただ貸してほしいと言えば済むのに、そういう複雑なことを言ってくるところが詐欺師っぽい、と河合は話した。それでも取材に協力してもらったことには感謝しており、新宿の居酒屋「どん底」を好むこの男性のために、ボトルを入れてあげたという。

加藤のその後

本の中では、加藤はまだ危うい場所にいるような曖昧な書き方をした。だがその後、加藤は就職が決まり、会社勤めをしているという。河合は、もう犯罪はしないのではないかと思っているし、そう願いたいと語った。

50歳近い前科者の就職は、協力雇用主として登録された会社であっても非常に難しい、と河合は言う。加藤が就職できたのは、人に好かれる力という彼の唯一の才能によるものだと河合は見ている。本に登場する加藤の兄も、あいつは昔から人に好かれる術を知っている、と話していた。職場では社長に冗談で「お前は詐欺師だからな」と言われることもあるらしいが、それも軽口を叩き合える関係の表れだという。前科者にとっては犯罪をしない環境にいることが一番大事であり、今の加藤の状況はとてもいいことだろう、あとは見守るしかない、と河合は締めくくった。