焼き鳥の会食から100%子会社化へ イルグルム岩田社長が語るアタラ買収の経緯

YouTubeで開く ↗
概要

M&A専門のYouTubeチャンネル「M&A BANK」で、MCの島袋直樹氏が、東証スタンダード上場のイルグルム(証券コード3690)代表取締役CEOの岩田進氏に話を聞いた。岩田氏は前回の回にも出演しており、今回は2度目の登場である。テーマは、インターネット広告業界で上流のコンサルティングとインハウス化支援を手がけるアタラの株式取得だ。

11分で読めます

島袋氏によれば、イルグルムは2026年5月19日に株式取得の基本合意を公表した。6月12日に株式譲渡契約を締結し、7月1日にクロージングする予定である。ツール会社のイルグルムはなぜコンサル会社を傘下に入れたのか。取引先を100%子会社にするまでにどんなやり取りがあったのか。岩田氏は、戦略上の理由と、当初は100%取得など考えていなかったという交渉の経緯を語った。

イルグルムの事業と、インハウス化という追い風

岩田氏は自社を次のように紹介した。前身の株式会社ロックオンを2001年に創業し、約7年前に現在の社名へ変更した。主力は広告効果測定の「アドエビス(AD EBiS)」と、ECのオープンソース「EC-CUBE」である。2014年に当時のマザーズ市場へ上場し、直近でスタンダード市場へ移った。現在はマーケティング関連のAIプロダクトの開発を続けている。

買収の背景について、岩田氏は「インハウス化」が強い追い風になっていると述べた。これまで広告代理店に任せていた運用を社内で行う動きで、大手では楽天、報道されている例ではライザップなどが切り替えを進めているという。岩田氏はこれを大きなムーブメントと捉え、テクノロジー企業としてインハウス化を支援する方針を取ってきた。具体的には、前回の動画で紹介した「アドエビス キャンペーンマネージャー」や、従来からの効果測定ツールを提供している。

ツールだけでは埋まらない「専門スキル」と「組織体制」

岩田氏は画面共有で、富士フイルムビジネスイノベーションの調査を示した。インハウス化を進められない理由を尋ねたアンケートで、1位は専門スキル、2位は組織体制、3位はツールだったという。イルグルムが提供しているのは3位のツールにあたる。1位と2位は顧客企業に任せるか、顧客が別途依頼する支援会社に委ねている状況だった。

島袋氏はこれを次のように整理した。以前は広告ニーズがあれば代理店に丸投げし、代理店が各種ツールで運用していた。AIの登場とツールの充実で「自社でもできる」と考える企業が増えると、社内の体制づくりを支え、知見を継続的に更新してくれるコンサルタントが必要になる。岩田氏はこの整理に同意した。ツールだけを求める顧客にはイルグルムの提案が合っている。一方、インハウス化全体に課題を感じている顧客に対しては、上の2つ、つまりスキルと体制の問題に手を出せていないことが自社の課題だったという。

パートナー制度の一社だったアタラ

この課題に対して、イルグルムはもともとパートナー制度を用意していた。イルグルムがデータとAIエージェントを提供し、コンサルやBPOは提携先が担う。両方をセットで顧客に提案する仕組みである。アタラはアタラ単独ではなく数社あるパートナーの一社として、この制度に参加していた。

島袋氏は、この関係を販売店に近いと表現した。そのうえで、販売店が他社に売却されれば自社製品が置き換えられるリスクがある、と指摘した。今回のグループ化はそのリスクを避けるためなのか、それとも別の景色を見るためなのか、と尋ねた。

岩田氏は、自社の約20年の立ち位置から説明した。アドエビスを単品で提供していた頃、日本の広告代理店の大半と取引していた。医者と医療機器にたとえれば、イルグルムは体温計のような医療機器だけを作り、患者に接する医者の役割は各社に任せてきた。しかしインハウス化の領域では、支援できるパートナーがまだ少ない。裏方に徹するだけでは価値を届けにくいことが重要な課題として見えてきた、と岩田氏は言う。そこで、自らフロントに立ってインハウス市場そのものを啓発していくべきだと考えた。パートナーの中で最も有望だったアタラをグループに迎え、自社の責任でインハウス支援を提供する方向へ戦略を切り替えた、というのが岩田氏の説明である。

焼き鳥の席では「1%でも2%でも」という話だった

島袋氏は、ロールアップを含む買収の相談が増えていると前置きし、既存の取引先をどう口説いてグループに迎えたのかを尋ねた。岩田氏は、上場後の約10年で12件ほどのM&Aを行ってきたので進め方はケースバイケースだとしたうえで、今回の経緯を順に話した。

アタラがパートナープログラムに参加したのは前年の12月ごろである。取り組み自体は順調に進んでいたため、トップ同士で食事に行こうという話になり、12月後半に会食の場が設けられた。店は焼き鳥屋だった。

岩田氏は、この時点でM&Aを持ちかけるつもりはなかったと強調した。「うちと一緒にやろう」と押すような場ではなかった。パートナーシップはお互いにとって良いので加速させたい、御社の課題は何か、といった一般的な社長同士の会話だったという。その流れで、この取り組みを世の中に伝えるには資本提携があったほうが一体感が伝わりやすい、という話が出た。岩田氏がアタラにそうした資本提携の実績があるかを尋ねると、他にもあったという返答だった。その場でも、100%やマジョリティは想定していなかった。1%でも2%でも資本関係があれば見え方が変わり、関係も深まる、という程度の提案だったと岩田氏は振り返る。

島袋氏はこれを勉強になる点として受け止めた。焼き鳥を食べながら機を見て「100%どうですか」と切り出したわけではない。資本業務提携でお互いのコミットを少し強めようという話の延長線上に、今回の案件があったということだ。岩田氏はアタラを業界のパイオニアとして尊敬しており、同社が100%子会社になるとは「みじんも思ってなかった」と話した。

翌日のお礼メールから100%取得の協議へ

状況が変わったのは会食の翌日だった。背景として岩田氏は、アタラの創業者で業界で著名な杉原氏が、会食の前日に社長を退任していたことを明かした。COOだった石長氏(字幕表記)が社長に就任し、株主は杉原氏やほかの創業メンバー、エンジェル投資家などだったという。

岩田氏は翌日、先輩にあたる杉原氏にお礼を送り、資本の話に可能性があるならもう少し議論させてほしいと添えた。杉原氏からは、資本業務提携を含めた件は新社長にある程度任せている、との返答があった。そこで岩田氏が石長氏と話すと、意外な答えが返ってきた。アタラは100%やマジョリティも含めて今後の資本戦略を検討しており、一部では他社とも話が進んでいる、というのである。

アタラが他社の傘下に入れば、各社が独立したままパートナーシップを組むという岩田氏の構想は実現できなくなる。島袋氏も、主要取引先を他社に取られるのはマイナスだと相づちを打った。そこで岩田氏は、自社もマジョリティ、場合によっては他社が提案している100%を含めて提案と協議を進めたいと申し出た。岩田氏の言葉では、話は「いきなりそっちの方向に切り替わった」。

買収後の役割分担:工程1〜2はアタラ、3〜5はイルグルム

島袋氏はIRの観点から、今後どの顧客層を狙うのか、エンタープライズを深掘りするのか、SMBの数を増やすのかを尋ねた。

岩田氏はスキーム図を示して説明した。顧客に対する支援工程を1〜5に分けると、イルグルムはこれまでアドエビスやACM(AIエージェントでマーケティング業務を効率化するプロダクト)で4と5を担っていた。一部で個別のSIも手がけていたので、実質的には3〜5である。今回、アタラの加入によって1と2の上流工程が加わる。

1と2では、主にエンタープライズ企業に深く入り込み、コンサルやBPOを行う。その過程で得た知見のうち、テクノロジーで提供したほうがよいものは、個別のAIエージェントとして作ったり、プロダクトの改善に反映したりする。コンサルのノウハウを組み込んだプロダクトは、引き続き単体で月額数万円程度で販売する。つまり、上流の1・2ではエンタープライズを支援し、4・5ではミドルやスモールの企業にプロダクトを売る。この両面で支援するのがイルグルムのビジョンだと岩田氏は述べた。

エンタープライズとは直接取引、メディアバイイングは行わない

島袋氏は、エンタープライズ領域には電通や博報堂といった大手代理店、アクセンチュアなどのコンサル会社が深く入り込んでいると指摘した。そのうえで、それらの下請けに入るのか、顧客と直接取引するのかを尋ねた。岩田氏の答えは「直取り」で、インハウス支援に関しては、という条件付きである。広告代理事業は行わず、メディアバイイングもしない。インハウス化したい企業にコンサル、BPO、テクノロジーを提供する形だという。島袋氏は、イルグルムのイメージがツール会社からインハウス支援会社へ変わってきた、と感想を述べた。

対象となる企業規模について、岩田氏は、広告費が大きい企業ほどインハウス化を望む傾向があると説明した。小規模な企業はインハウス化しても効果を得にくい。インハウス化の流れにあるのは、年間の広告出稿額が5億円や10億円を超える企業で、そこをコンサルとBPOでカバーする。それより小さいミドル・スモール層には、従来どおりテクノロジーで対応する。これが岩田氏の言う「両建て」の戦略である。

大手専業代理店と競合しないのかという問いには、岩田氏は「お客様次第」と答えた。インハウス化を強く望む企業は増えており、代理店が丸ごと請け負う市場とは住み分けになるだろう、というのが岩田氏の見方だ。

データを誰が持つか:島袋氏の実感

島袋氏は自身の事業から問題意識を語った。同氏はクラブピラティスの80数店舗の広告運用を代理店に委託している。その経験から、データをAIに学習させていく時代に、それを代理店に持たせるのか社内で持つのかは大きな問題だと感じているという。代理店に預けたデータが類似の形で競合に使われるのは「めっちゃ嫌」だ。データを自社で蓄積し、社内で整備できるようにしなければ一気に逆転されかねない。そう考える企業は増えているはずだ、と島袋氏は述べた。さらに、情報が乱立するなかで「データ保有できた企業が残る」と思っている、と続けた。岩田氏はこれに「まさにそこ」「そうだと思います」と同意した。

インハウス化の利点:コストより速度と質

岩田氏は、インハウス化の利点としてよく挙げられる3点を順に検討した。最も分かりやすいのはコスト削減である。ただ、代理店への発注をやめても、社内体制の構築やBPO、ツールの導入が必要になる。どこまでコストが下がるかは分からない部分があると岩田氏は認めた。

一方で岩田氏が重視するのは、スピードと質である。スピードについては、社内なら島袋氏が「今日これを変えて」と言えばその日の午後には変わっている、と例を挙げた。質については、コンバージョンや体験申込の数が増えるだけではあまり意味がないと述べた。LTVを見ながら獲得を進めるべきだという。ロイヤルカスタマーがどの流入元から来ているかを確かめて入口を調整するには、その後のCRMやLTVのデータが要る。しかしそうしたデータは外部に出せない。だから、そこまで含めたチューニングができる点が、インハウス化の大きな価値だと岩田氏は説明した。

島袋氏はスピードの問題を補足した。代理店に頼むと、クリエイティブの切り替えに2〜3営業日かかる。シンガポールで知り合った、会社を売却済みの元大手メディア運営者は、広告を自社で運用していたという。その人物によれば、外部に任せると広告効果が合わなくなる。例として、先日地震があったが、地震の最中に広告を配信してしまうと効果が合わなくなる。天気に合わせてクリエイティブを変えることも、外部委託ではできない。島袋氏は、手元にAIとデータがあれば事前に予測して自社で対応できるようになる、その支援をするということか、と確認した。岩田氏はそのとおりだと答えた。

視聴者向けの提案と、仲間を求める姿勢

問い合わせ方法を聞かれた岩田氏は、概要欄から問い合わせてほしいと答えた。そのうえで、インハウス化を望む企業と広告代理店に任せたい企業とではニーズが違い、今インハウスが注目を集めていると述べた。さらに、この領域はイルグルム1社ではできないので仲間を強く求めており、一緒に動いていきたいと話した。

番組恒例の視聴者特典として、岩田氏は2つを示した。1つ目はエンタープライズ向けで、インハウス化が向いているかどうかや、実施時に想定される課題を助言する初期コンサルティングを無償で提供する。岩田氏は当初5社と言いかけ、島袋氏に促されて10社とした。インハウス化には体制づくりや社内と社外の切り分けなど、代理店に丸ごと任せていたときにはなかった課題がある。まずは実施するかどうかの前段階で助言が必要になる、というのが岩田氏の説明だった。2つ目は、前回の動画でも紹介したAIエージェント製品ACMの2カ月無料トライアルである。

アタラの加入によって、イルグルムは工程1〜5をつなぐ体制を整えた。ただし岩田氏自身は、インハウス支援を1社で担いきれるとは考えておらず、パートナーを求め続ける姿勢を示した。代理店との住み分けが実際にどう進むかは「お客様次第」だと岩田氏は述べており、この点は今後の動きを見る必要がある。