テスラはなぜ次々世代チップをサムスンに託したのか:中島聡氏が語る165億ドル契約の意味

YouTubeで開く ↗
概要

テスラは、次々世代の自動運転用AIチップ「AI6」の製造をサムスンに任せる契約を結んだ。元マイクロソフトのソフトウェアエンジニアでテスラ株を長期保有する中島聡氏は、このニュースを「久しぶりにワクワクする話」として取り上げた。動画の形式は、ChatGPTの音声機能にインタビュアー役を任せ、中島氏が答えるものだ。

8分で読めます

中島氏は冒頭で時間軸について断っている。影響が出るのは2028年かそれ以降だと氏は見ており、ニュースを聞いて株を買っても3カ月や半年で儲かる話ではない。氏はこの契約を、テスラに長期で投資する価値があるかを判断する材料として位置づけ、株主として応援したくなる話だと述べた。

1:58

契約の中身:165億ドルの購入約束とテキサスの専用工場

中島氏によると、報道の要点は次の二つである。

  • テスラは165億ドル(氏の換算で約2.5兆円)分のAI6チップをサムスンから購入すると約束した。
  • 見返りに、サムスンはテキサス州に、テスラのAI6だけを製造する半導体工場を建てる。

1チップあたりの価格や購入数量は公表されていない。それでも、専用工場を建てさせるほどの量をテスラが約束していることは確かだと氏は言う。

2:40

前提:中核技術を自社で持つテスラ

中島氏はまず前提として、テスラは事業の中核になる部分を自社で手がける会社だと説明する。例として電池、自動運転技術、AI研究を挙げた。自動運転に必要なチップも、NVIDIAなどから買わず自社設計品を使っている。中島氏はこれを非常に重要だと見ており、その供給に長期のコミットメントをしたことを高く評価している。

AI4・AI5・AI6の世代関係

今回のAI6は、次世代のさらにその次にあたる。中島氏は世代ごとの状況を次のように説明した。

現在使われているのはAI4で、「ハードウェア4(HW4)」と呼ばれる第4世代ハードウェアに載っている。中島氏自身のモデルYもこれを搭載している。AI4はサムスン製で、7nm級のプロセスで作られている。氏によれば、AI4だけでもかなり高い性能の自動運転が動き、すでに人間のドライバーとほぼ同等の安全性で運転できる。

テスラが目指すのは、人間より10倍安全といった水準だ。そのためには車両側に載せるチップ、つまりエッジコンピューティングの性能をさらに上げる必要がある、と中島氏は説明する。そこで開発されたのが次世代のAI5である。性能はAI4の4〜5倍とされ、設計は完了し、試作も始まっている。量産開始は2026年で、テスラ車への搭載は早くてもその年になる。製造はTSMCで、現行iPhoneのチップと同じ3nmプロセスを使う。

AI6は、本格的な量産が2028年ごろになるだろうと中島氏は見ている。性能もプロセスもまだ公表されていない。氏は、性能はAI5のさらに2〜3倍、プロセスは3nmより微細な2nmあたりになるのではないかと推測している。

なぜ業界が驚いたのか:TSMCの独占と歩留まり問題

中島氏によれば、AI6をサムスンに任せる判断は半導体業界にとって驚きだった。理由は製造技術の現状にある。

氏の説明では、実用化されている中で最も高性能なのは3nmプロセスで、ここはほぼTSMCの独壇場だ。サムスンも同等のものを作ろうとしているが、歩留まりがなかなか上がらない。歩留まりとは、作った製品のうち不良品を除いて使えるものの割合である。たとえば100個作って80〜90個使えれば商売になるが、20個や10個ではチップ1個あたりのコストが高すぎて成り立たない。サムスンはこうした問題を抱えている、と中島氏は言う。

その結果、最先端の高性能チップはApple、クアルコム、NVIDIAのいずれもTSMCに発注している。AI5もTSMCに発注済みだ。最先端プロセスの量産技術をまだ確立していないサムスンに次々世代を頼むこと自体に、かなりのリスクがあると中島氏は指摘する。

TSMC一強がもたらす価格問題

それでもなぜTSMCではなくサムスンなのか。中島氏は、TSMCしか選択肢がないために、価格や製造ラインの確保で顧客がTSMCの言いなりになっている点を挙げる。

AppleやNVIDIAほどの規模になれば大量発注ができるので、対等に近い立場で交渉でき、ラインも確保できる。ただし価格はどうしても高くなる。中島氏によれば、TSMCは3nmから2nmへ移行する際に価格を2倍ほどに上げると言っており、トランジスタ1個あたりのコストも上がるとされている。TSMCだけに頼っている限り、この値上げは受け入れるしかない。

そのため業界全体が、サムスンやインテルにも頑張ってほしいと思っている、と中島氏は言う。競争が働けば価格が下がるからだ。しかし他社が追いつけず、各社はやむなくTSMCに頼み続けてきた。テスラはその状況の中でサムスンに行くと決めた。中島氏は、これはおそらくイーロン・マスク氏の鶴の一声だろうと推測している。

テスラの狙い:競争相手を育て、価格競争を起こす

中島氏は、テスラにとっての意味を二つに整理する。一つはTSMCの競争相手を育てること。もう一つは、TSMCとサムスンのどちらからでも買え、場合によっては両方から買える状況を作り、価格競争によってコストを下げることだ。

氏はこれを、テスラだけでなくAppleやNVIDIAにとっても重要な話だと強調する。サムスンが2nm世代で高い歩留まりを達成し、TSMCと正面から競える量産体制を作れれば、業界全体にとって朗報になる。時期は2027年や2028年と少し先でも構わない、と氏は言う。ただし、誰かがそのリスクを取らなければならない。テスラがそれを引き受け、しかも165億ドルの購入を約束した点がすごい、というのが中島氏の評価だ。

マスク氏自らがサムスンの工場改善に関わる

中島氏がもう一つ大きいと見ているのは、マスク氏自身がサムスンの工場に入り込み、生産設備の効率化や歩留まり改善を手伝うと表明したことだ。

中島氏によれば、マスク氏はCEOとしては珍しく、現場のエンジニアに直接話しかけることで知られている。歩留まりを下げているもの、生産性を落としているものをエンジニアから聞き取り、解決に必要な手配をする。外から部品を買ってくることもあれば、他の部署に何かをさせることもある。部署の壁を越える、CEOにしかできない仕事であり、テスラの工場が速いペースで進化してきたのはこのやり方によるものだと中島氏は見ている。それを工場建設の見返りとして、ある意味無料でサムスンに提供するのだから、サムスンにとっても大きな話だという。

もっとも、会社をまたいだ取り組みなので、うまくいくかどうかは分からないと中島氏は留保している。うまくいけば、サムスンはTSMCに追いつき、場合によっては追い越せるかもしれず、テスラという顧客も得る。テスラ、NVIDIA、AppleといったTSMCの顧客にとっても、競争相手が育つのは良い話だと氏は述べた。

165億ドルを賭けられる理由:ロボタクシーとオプティマス

テスラは相当なキャッシュフローを持つ会社だが、それでも165億ドルの約束は大きい。普通なら社運を賭けるレベルの勝負だと中島氏は言う。それでも賭ける価値があるとテスラが判断した理由として、氏はチップの用途を挙げた。

AI6は、現在販売されているテスラ車の自動運転用だけでなく、これから量産が始まろうとしているロボタクシーや、人型ロボット「オプティマス」にも搭載される予定だという。数量は公表されていないが、中島氏はとてつもない数を約束しているのだろうと推測する。極端に言えば、AppleのiPhone並みの数をサムスンに作らせ、それを載せたロボタクシーや人型ロボットを世界中で売っていくのがテスラのビジネスだ、という見方である。中島氏はこれを「ハイリスク・ハイリターンの大風呂敷」と呼びつつ、テスラのファンや株主にとってはたまらなく面白い話だと語った。

ウォール街はこのニュースに反応できない

中島氏が「非常に面白い」と感じているもう一つの点は、市場の反応だ。結果が2027年や2028年まで出ないニュースに、プロのアナリストはほとんど反応できないと氏は言う。直感的には「これは」と思うかもしれない。しかし彼らは来期の売上や1年後の利益を計算式で出して株価を予測しているので、これほど先の話は株価に織り込みようがない。このニュースを根拠に「半年後に株価が上がる」という予測はまず出てこない。

そのため、久しぶりの大ニュースでありながらウォール街はほぼ反応していない、と中島氏は指摘する。

投資判断についての断り

最後に中島氏は、この話を聞いて株を売買する人もいるかもしれないとして、判断は必ず自己責任でしてほしいと断った。株を買えとも、買えば儲かるとも言うつもりはないという。さらに、自身がすでにテスラ株を保有しており、今回の話は「思いっきりポジショントーク」なので、その点は割り引いて聞いてほしいと付け加えた。

15:55

ChatGPTインタビューの混乱

インタビュアー役のChatGPTは、中島氏の解説が終わった後で、AI5とAI4の性能差を尋ねたり、今回の発表をAI5のことだと取り違えたりした。中島氏が「本当のニュースはAI6のほうだよね」と訂正する場面もあった。中島氏は「今日は放送事故ばかりだね」と苦笑し、撮り直しも考えたが、これもChatGPTをインタビューに使っている影響だとしてそのまま公開している。

締めくくりに、中島氏はこのニュースを改めて「とてもワクワクする話」とまとめた。結論として残ったのは、テスラがリスクを取ってサムスンを育てることで、TSMC一強の半導体業界に競争が生まれるかどうかという問いである。その答えが見えてくるのは、早くても2027〜2028年だと中島氏は見ている。