夫の死後に出てきた大量の成人向けDVDをどうするか:北関東の「利根書店」が縮小市場で店舗を増やした理由

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概要

レンタルビデオが急速に姿を消し、成人向け映像もネット配信やサブスクリプションが主流になった。その中で、群馬県太田市発祥のセルDVDチェーン「利根書店」は、社員が入社した17年前の11店舗から33店舗まで店を増やしている。取材班は埼玉県の深谷店と物流センターを訪ね、同社で17年働く男性社員に話を聞いた。この社員は「絶倫食品研究所」所長という肩書きも持つ。話題はラブドール売り場から始まり、常連客の声、業界の縮小、故人が遺したコレクションの買い取りサービス「男の終活」、そして自社開発の「絶倫カレー」にまで及んだ。

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10万点以上を置く国道沿いの大型店

深谷店について、社員は「ちょっと大人向けなものが多いお店」と説明する。取り扱いはトータルで10万点以上になるだろうという。店頭には自社開発の「絶倫食品」シリーズのカレー、スパイス、コーヒーが並ぶ。コーヒーには、この業界で人気の素材だというアルギニンやシトルリンを使っている。

店内で目を引くのはラブドールの売り場だ。深谷店は業界の最高峰とされるメーカー、オリエント工業と提携した取扱店舗になっている。展示品には81万円や82万円の値札がつき、別メーカーの製品にも50万円のものがある。高いものでは70万〜80万円、100万円近くに達し、取材者は「ちょっとした中古車」だと驚いていた。手の甲の血管まで再現した製品もある。社員によれば中国メーカーの品質がかなり上がっており、展示品にも中国製が混ざっている。男性モデルも置かれ、女性モデルより少し高いものの、値段はだいぶ下がってきたという。

ラブドールの販売数は月に1〜2体程度で、もっと売れる月もあるという。価格が価格なので、ネットで注文するのは不安だという客が、千葉など遠方から実物を見に来る。車で来てそのまま持ち帰れることも大きい、と社員は見ている。手袋をすれば実物に触ることもできる。取材者はオリエント工業の製品と中国製の製品を触り比べ、「やっぱメイドインジャパン」と言いつつ、中国製も「いい勝負」「追い上げてきてる」と感想を述べた。社員は、実際に触れて確かめられることがリアル店舗の良さだと話す。写真を撮りたいという需要も高く、ラブドールの写真集を出す人もいるという。

18禁エリアに並ぶもの:サプリ、神社、ローション

18禁エリアに入るとまずドリンクや小物が並ぶ。社員によると、精力系のサプリメントは東京オリンピックの頃にコンビニが扱いをやめたため業界が大きな打撃を受け、今では利根書店のような店でないと買えなくなりつつある。

売り場の一角には「巨根神社」がある。宇都宮方面にあった秘宝館が閉館する際に一部を譲り受けたものだという。常連はその存在を知っており、元旦に参拝に来る客もいるそうだ。ローションは業務用と見まがうほどの量が並び、TENGAの上位モデルや電動製品、プロ仕様から手軽なものまで揃う拘束具など、品揃えは幅広い。社員は「あらゆるニーズにお答えするのが我々の使命」だと言う。下着やコスチュームの棚には大人用のおむつもある。広い売り場を持ち、車で来て周囲に気づかれずに持ち帰れるのは郊外型のリアル店舗ならではだ、と取材者は受け止めていた。

毎月1日に値下がりする中古DVDの価格体系

中古DVDの売り場には独自の価格の仕組みがある。値段は777円、666円、555円、444円、333円と段階的に分かれ、毎月1日に1段階ずつ下がる。777円の棚は新入荷なので、前日まで店になかった商品を狙って来る客も多い。

社員はこの仕組みの理由を、商品数が多すぎて値札を貼り替える余裕がないからだと説明する。安く売るにはそういうコストを削る必要があり、在庫を循環させる狙いもあるという。333円の棚には20年近く前の作品も含まれている。

ネット全盛の時代に店舗が残っている理由について、社員はこう語る。レンタルは一気に衰退したが、セルビデオの店はそれほど急ではない緩やかな衰退にとどまり、まだこれだけの市場が残っている。それは好きな人が多いからで、趣味として捉えてよいのではないか。店にはお宝探しの面もあり、SNSでは「ディグる」(掘り出す)と表現する客もいる。自分にぴったりの究極の1枚を探しているのだという。取材当日は開店30分前から駐車場がかなり埋まっており、取材者は予想以上の人出に驚いていた。

24時間リサイクルボックス

店頭には、同社が「利根書店を支えるシステムの1つ」と呼ぶリサイクルボックスがある。店内でも買い取りはしているが、営業時間は24時間ではない。それに、買い取りに出すのが恥ずかしい人や、店員とやり取りしたくない人もいる。そうした人はボックスに投函すればよい。社員によれば、1日で「数万」入ることもあるという。

取材班がのぞくと、朝に回収した直後のようだったが、底には落下の衝撃を和らげるクッションが敷かれていた。投函品の多くは黒いビニール袋に入っており、これは中身が見えないように利根書店が配っている袋だという。「このご時世でも袋無料で」配っていると社員は話す。不要になった商品を引き取り、次に見たい人の手に渡すという循環を、取材者と社員は「本当に循環」と表現した。

常連客が語る40年の趣味とサイン会

取材日には女優のサイン会が開かれていた。社員がイベントを担当していた頃から7〜8年通っているという常連客は、利根書店のサイン会の「大ファン」だと話す。東京、特に秋葉原でも多くのイベントがあるが、都内の店は狭い。利根書店では会場内で座って順番を待てる、フレンドリーな雰囲気が気に入っているという。会場で話を聞いた客の年齢は73歳と65歳だった。

リアル店舗に来る理由を尋ねると、サイン会に参加したいこと、DVDを物として手に取って買いたいことを挙げ、自分は「アナログ人間」なのだろうと答えた。家族には内緒で、箪笥の裏や段ボール箱にしまっているという。日活のピンク映画から数えると趣味歴は40年ほどになる。

この趣味がどんな存在かと聞かれると「ストレス解消」だと答えた。管理職で上と下の板挟みになるため、作品の好みは仕事の立場とは逆になるという。ほかにもギター、パソコン、キャンピングカーなど多くの趣味があり、これもその1つで、「ボケ防止の一環」だとも話していた。

コロナで変わったイベント

10年以上イベントに通う中で感じた変化を問われ、常連客は「めちゃくちゃあります」と答えた。以前は、今ではコンプライアンス上できない過激な企画が行われていたが、それを「コロナが全部ぶっ壊した」という。この客の説明では、イベント内容はホームページで誰でも見られたため、外部から問題視される圧力があった。コロナ明け以降はアイドルの握手会の延長のような普通のイベントになったという。日本のモラルから外れることをすると批判されるので、過激なイベントは台湾、タイ、マカオなどで行われ、女優もそちらに行っている、というのが客の見方だ。規制の緩い時代のイベントを体験したことを、客は楽しそうに振り返っていた。

こうした変化で客が減った面もあるだろうと客は話す。それでも通い続けるのは、独特の楽しい雰囲気と「この空間が好き」だからだという。

17年前、リーマンショック後にアルバイトで入社

案内役の社員は44歳で、入社17年目になる。群馬県太田市の出身だ。27歳のとき、勤めていた製造業の会社がリーマンショックで厳しくなり、生活の支えだった残業代が一気にカットされた。職業安定所で利根書店の求人を見つけ、アルバイトとして入った。地元の男性にとって利根書店は「利根書店と言えば」という存在だったが、当時は今ほど大きくなかったという。

その場で応募を決めたわけではなかった。気になって同社のホームページを隅々まで読んだところ、創業者(当時の社長、現会長)の履歴書が掲載されていた。大学時代は環境オタクで電気をあまり使わずに過ごしたこと、地元のスーパーに就職したが面白くなかったこと、最終的に父親と一緒に利根書店を立ち上げたことなどが、赤裸々に書かれていた。面白い仕事がしたかった社員は、店自体の面白さもあって入社を決めた。アルバイトから正社員になるケースは同社では珍しくないという。

神社、「男の終活」、絶倫食品の3つは、いずれも社員が広報として仕掛けたものだ。利根書店を生かしてどう面白くするかを考えるのが好きで、それを受け入れてくれる会社だからなお好きだと話す。二次元関連の店舗につけた「深谷のアキバ」というキャッチコピーも、定期的にネットで話題になるという。ただ、それが結果として売上にどうつながっているかは分からない、とも付け加えた。

DVDの伸び悩みとアダルトグッズの伸長

17年前と比べた市場の変化について、社員はメーカーの製造枚数が減っていることを挙げたうえで、一番大きいのはアダルトグッズの台頭だと話す。DVDは伸び悩み、売りにくい商材になっている。一方でグッズは電動化やスマートフォンと連動するIoT製品などで進化が続いている。現在は新品DVD、中古DVD、アダルトグッズが同社の3本柱だという。

社員はTENGAの影響を大きいと見る。TENGAのブランディングがうまく、アダルトグッズをおしゃれな印象でプロモーションしたことで、使うハードルがかなり下がった。以前は40代以上の男性が客の7割を占めていたが、今では20〜30代も普通に来店し、彼らはDVDよりグッズを多く買っていく。女性だけの客やカップル客も増えている。社員はアダルトグッズを、ある意味で「生活を豊かにするもの」だと考えているという。

4,000店から700〜800店へ、それでも11店が33店に

業界の規模について、社員の説明はこうだ。かつては個人店を含めて4,000店舗あったと言われる。社員が入社した頃には1,300〜1,500店ほどに減っており、今は実質700〜800店ほどになっているのではないか。小さな個人店や小規模チェーンが消え、利根書店のような地方の大型チェーンがそれを引き継いでいる。同社も数年前、茨城県で9店舗ほどをM&Aで一度に引き継いだ。各地方に大きなチェーンが残っているのが、今のセルビデオ業界の姿だという。

土地を貸してもらえなくなる問題もある。建物の老朽化に加えて世間体もあり、親の代では貸してくれていた地主が、子どもの代になると「こういうお店には貸したくない」という空気になるのではないか、と社員は推測する。同じような大手チェーンが全国にあり、業界を支えていかなければならない。自分たちはメーカーではないので作品は作れない、とも話した。

それでも利根書店は、入社時の11店舗から33店舗へ3倍に増えた。社員は、客のさまざまなニーズに応えようと品揃えを増やした結果、売上もついてきたのだと説明する。しっかり探せば刺さらないものはないと思う、とも言う。1〜2時間の滞在は当たり前で、半日いる客もいる。50代、60代の客にはバイタリティがあると社員は感じている。

東京への出店を検討したこともあったが、社員は電車社会では客の流れがまったく違うと話す。買い取りに持ち込むにしても、電車ではリュックや袋に10枚程度入れるのが限度だろう。車社会の利根書店では、段ボール3〜4箱を持ち込む客も普通にいる。国道沿いにあること自体が、この商売の条件になっている。

物流センター:「血液のように」DVDを回す

取材班は、社員が同社の「心臓部」と呼ぶ物流センターも訪れた。棚には主に中古DVDが大量に並び、店舗にあった商品は大体ここにもあるという。

各店舗から商品をいったん集め、再び各店に振り分ける。店舗は茨城から長野まであるため、茨城で売れなかったDVDが長野で売れることもある。センターの担当者はこれを「血液のように」DVDを回していると表現し、だから心臓部なのだと説明した。2週間に1回ほど商品が店舗を巡り、常連客にどれだけ新しい品揃えを見せられるかが重要だという。長く売れない在庫は、店内で値下げすることもあれば、センターに送って別の商品と入れ替えることもある。

「男の終活」:夫や父の遺品整理に悩む女性からの相談

利根書店は「男の終活」という名前で、ネットや電話で申し込みを受け、段ボールで送ってもらう宅配買い取りを行っている。始まりは、社員が広報のネタを探して買い取りの拠点を訪ね、話を聞いたことだった。拠点には月に1〜2回、女性から相談の電話が来ていた。夫や父親が亡くなり、成人向けDVDが大量に出てきて困っている。どうすればいいか調べてここにたどり着いた、という内容だった。

「大丈夫ですよ」と対応し、無事に買い取りが終わると、女性たちは非常に安堵したという。電話口で泣いた客もいた。身内を亡くした大変な時期で、遺品を整理していたら出てきたものであり、恥ずかしさもあって親戚にも相談しにくい。社員は、実際に相談が来ている以上、表に出ていない同様の問題はもっとあるだろうと考え、「男の終活」と名付けて広報した。サービス自体は以前からあり、そこに名前をつけた形だ。

量は10本、20本ならまだしも、100本、200本、多い時は1,000本に及ぶ。最大は1万2,000本だった。社員自身が現場で対応したのは8,000本の案件で、持ち主はおそらく一人暮らしだった。故人もその甥も利根書店の客で、故人は甥に、家にあるものをどうにかしてほしいと頼んでいたらしいという。

3年ほど前に新聞やテレビで取り上げられて以降、直近の集計では女性からの申し込みが月20件ほどあるという。年齢は20代から80代まで、平均は50代ほどで、娘の世代から妻の世代にあたる。人が亡くなるのは突然のことが多い。社員は、生前に数十枚、20〜30枚程度に減らしておけば遺族の負担はそもそも小さくなると考えている。報道の後には、自分で整理しようと店頭に持ち込む客もいたと報告を受けたという。ただ、この世代は買い取りを利用し慣れていないのではないかとも社員は見ており、宅配買い取りやリサイクルボックスに入れるだけでも減らしていけると呼びかける。

査定の実際:全品チェックする理由

1万本や8,000本でも、すべて査定する。値がつきやすいのは基本的に新しい作品で、レジェンド女優の作品には「この女優ならいくら以上」といった基準もある。

買い取れないものもある。代表的なのは海賊版と、無修正などの違法なものだ。社員の理解では、単純所持は罪にならないが所有権を移すことがNGなので、引き取りすらできない。大量のコレクションに違法品が混ざっていることもあるため、1本目だろうが最後の1本だろうが全部チェックする。スピード査定は同社の強みだと社員は話す。

開発に2年かけた「絶倫カレー」

最後に取材班は絶倫食品を試食した。開発はほぼ社員1人で(もう1人研究員がいるという)、カレー作りのためにスパイスから始めたのが出発点だ。カレーとスパイスの開発に合わせて2年をかけた。一度品切れになっていたが、各店舗から上がってくる日報に「絶倫カレーもうないの」という客の声が寄せられ、ファンの要望で8月中旬に復刻再販する予定になっている。スパイスやコーヒーを含めた絶倫食品シリーズの出荷は約3万食。価格は500円に税が加わる程度だという。

取材者の感想では、カレーは王道のビーフカレーに近く、程よい辛さの中に味わったことのない独特の風味がある。社員はシトルリンの影響ではないかと言い、「漢方っぽい」と表現する人もいるという。大きめの肉が入っている点も工夫したところだ。食べた後の効果を報告する感想は来ておらず、むしろプレゼント需要が多い。ゴルフコンペの賞品、誕生日やバレンタインの贈り物、結婚式の二次会の景品などに使われている。

スパイスは粉薬のような見た目で、単体では漢方のような味がし、取材者はクラフトコーラに似た雰囲気もあると話した。持ち歩けるサイズなので、名刺代わりに渡せばそれだけで話のネタになると社員は勧める。カレーの休止中に生まれた「ゼツリンハニー」をカレーにかけてみると、辛さと漢方風の後味に甘さが加わって「渋滞」し、わざわざかけなくてもいいという結論になった。絶倫コーヒーは少し濃いめで、香りにアルギニンらしさを感じるかもしれないという。これにハニーを入れるとエナジードリンクをコーヒーに入れたようになり、やはり渋滞した。ハニーは単体ならおいしいと好評だった。

社員によれば、絶倫カレーの開発が決まったのはコロナ直前で、すぐにコロナ禍に入った。閉塞感のある時代だからこそ笑える商品を作ろうという出発点があったという。ネタ商品はまずいことも多いが、食品メーカーではないにしても、そういうものは作りたくない。ネタになり、なおかつできる限りおいしく、少し個性的なもの。みんなでわいわい言いながら楽しんでほしいというのが狙いだ。

業界を残すために:次は「オタクの終活」

今後の目標について、社員は店舗を増やすことに加え、業界全体を考える必要があると話す。利根書店だけが生き残ることはありえない。メーカーの製造枚数が減れば業界全体に影響するが、メーカーにもコストの事情がある。販売店にできるのは販売する場を守ることであり、そのためにはあの手この手で売上を確保していかなければならない。地方には他にも面白い店があり、最初に入店するハードルは高いが、入ってみれば意外と面白いものがたくさんある、とも語った。

「男の終活」の派生として社員が考えているのが「オタクの終活」だ。二次元関連商品を集めてきたオタクの第1世代が60代を超えつつあり、コレクションの行き先が社会問題化する可能性があると見ている。オタクはレア物にこだわる人が多くコレクション性が高いので、大切なコレクションを残すならこうした店に任せてほしいという考えだ。眉をひそめられることも多い業界だが、必要としてくれる客はいるし、社会的に必要とされる部分もある。社員は、今後もそうした形でやっていければと話した。