ガンダム第17話「アムロ脱走」はなぜ主人公を闇へ送り出したのか:岡田斗司夫の3回連続講義

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概要

機動戦士ガンダム第17話「アムロ脱走」は、主人公の少年が仲間を捨て、ロボットと共に夜の闇へ消えていくラストで知られる回だ。岡田斗司夫はこの回を約2時間20分、3回に分けて解説している。岡田が注目するのは、脱走という結末そのものではない。アムロが「みんなから冷たくされたから」という単純な理由ではなく、少しずつ追い込まれていく過程である。岡田によれば、何気ない冒頭の日常描写が後半の伏線になっており、その構成の見事さを味わってほしいという。

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冒頭の合体訓練と夜の砂漠

アバンでは、ホワイトベースの苦しい戦いを語る暗い調子のナレーションに、ガンダムのドッキング(作中でいう空中換装)の訓練映像が重なる。アムロのパイロット視点で、赤いビーコンを目印にパーツが空中から降りてきて合体する。ロボットアニメで最大の見せ場になるはずの合体を、タイトル前の地味なナレーションの後ろで見せる。岡田はこれを、戦争とは飽きるほど同じ訓練を繰り返し、実戦で同じようにやり遂げることだ、という表現だと読む。視聴者にはいちいち見せないが、彼らはこれをずっと繰り返している。その描き方が好きだという。コクピットから合体するパーツを見る地味な訓練シーンを見せた作品は、以後のガンダムにも他のロボットアニメにも見たことがない、とも述べている。空の様子から、岡田はこれを14歳のアムロが中央アジアで迎えた10月ごろの出来事だと推測する。

コアファイターのコクピットも岡田のお気に入りだ。中央に黄色い丸いメーター、両脇にオレンジのメーターが2つずつ並ぶだけのシンプルなデザインで、リアルな計器盤というよりグラフィカルな作りになっている。当時の漫画でいえば、星野之宣らのようにメカをグラフィックに落とし込む描き方に近い。岡田はそこに、『2001年宇宙の旅』の大ファンである富野監督の趣味が出ていると見ている。

一方、その直後の夜の砂漠を低空飛行するホワイトベースのカットについては、画面で見るとかっこ悪いと率直に言う。ホワイトベースのセルを真横に引いているだけだからだ。これまでなら、苦しくても横からのスライドとアップの2カットを使っていた。岡田はここで作画スケジュールが苦しくなり始めたのではないかと推測している。ただしこの回はまだ作画が崩れるほどではないという。

夜のブリッジ:戦闘シミュレーションを作るアムロと、カイの気遣い

夜のブリッジにいるのは、レーダー担当と舵を取るミライ、そしてアムロの3人だけだ。アムロは鹵獲したザクのデータをもとに、戦闘シミュレーションを作っている。そこへカイが来て「えらくご熱心じゃねえか」と声をかける。グフについて聞かれると、アムロは顔も上げずに「ザクの性能より20%増しでやってます」と答える。

岡田によれば、従来のロボットアニメでこういう作業をするのは博士役や、主人公の横にいるメガネのデータオタクのような脇役だった。主人公は体育会系で「そんなことしても現場じゃわからねえぜ」と言うのが定番だった。ガンダムはそれを逆にしている。文化系の少年を主人公にするには意志の力が要るし、キャラクターとしても動かしにくい。逆の配置のほうが作劇上は楽なのだ、と岡田は指摘する。また軍艦は本来、交代で当直を回すワッチ制で動く。ホワイトベースは人数が少ないため12時間交代、下手をすれば16時間交代だったのかもしれない。その中でアムロは寝る時間を削り、作戦を練るのではなく「勝つ仕組み」を作ろうとしている。根性論ではなく記録を維持する仕組みを作る現代のアスリートに近い発想で、見返して驚いたという。

岡田がこの場面の見どころに挙げるのはカイだ。カイは「さすがアムロ君ね」と茶化した直後、真顔でミライに「代わろうか」と言い、当番でもないのに舵を代わる。自分より年下のアムロまで睡眠を削って勝つ確率を上げようとしている姿を見て、何かを感じたのだ。しかし台詞にも表情にも出さないので、ほとんどのファンは見過ごしている。

岡田は、自分が「一般的な見解」と呼んできたものは、実は放映当時からガンプラ・劇場版ブームの頃にアニメ雑誌を作っていた20代〜30代の編集者たちの解釈だったと説明する。「カイは最初は嫌われ者で、ミハルの死のあたりから成長していく」という見方を自分も信じていた。だが40を過ぎて見直すと、カイは初回から目立たない形でずっと成長し続けていた。当時は竜(リュウ)がまとめ役だったとよく書かれていたが、実はカイにかなり助けられていたことを富野監督はポイントごとに示している。今年60になる自分が解説するしかない、と岡田は言う。

視点のバトンと、コズンの尋問を見るミライ

この場面では、カメラの視点がアムロからカイ、カイからミライへと受け渡されていく。ミライが向かうのは捕虜コズンの尋問部屋だ。コズンは入ってきたミライを見て「また若すぎる女兵士かよ」と言う。歴戦の兵士から見れば、中高生ほどの子供たちに尋問されているのだから、最初は馬鹿にされていると思っただろう。岡田は、この時点でコズンはもう事情に気づいていると見る。

尋問はブライトの視点ではなく、あくまでミライの目から描かれる。数人の子供が無表情で大人を縛って吊し上げている、かなりグロテスクな構図だ。ブライトは「将校には将校の扱い方がある」と返すコズンに「南極条約は調べましたよ」と言い、続けて「マ・クベの鉱山のこと話してくれませんか」と懇願口調になる。これを受けてコズンは「そう簡単に喋るわけにはいかんよ」と答える。男同士のやり取りのつもりだが、実際はただの押し問答で、どちらにも対話する気がない。ミライは呆れ顔で去る。

岡田は、この状況に正解はないと断ったうえで、ミライが男同士の駆け引きに疎ましさを感じていることを読み取る。アムロとカイのやり取りはミライにとって好ましいものだった。しかし一枚めくった先のブライトとコズンのやり取りは、一歩進めば拷問になりかねない。本当に必要かもわからない情報のために人を非人間的に扱う光景だ。これが終盤でアムロの処遇をめぐってブライトとミライが対立するきっかけになっている、と岡田は位置づける。

岡田はさらに、アムロ脱走は最初から予定されていた展開だろうと考察する。富野監督が作りたいのは戦争ドラマではなく少年の成長ドラマだ。それなのにジオン内部の人間関係を細かく描いてきたのは、いずれ主人公をそこへ連れていくためである。味方に尊敬できる大人がいない少年が、皮肉にも敵の中に目標とすべき大人を見つける。岡田はこの流れを『帝国の逆襲』でルークが一人修行に出る展開になぞらえる。無敵ロボットを手に入れた少年という第1話のご都合を一度引き剥がし、ロボットだけを持って仲間から外れたらどうなるかを描く。岡田はここを中盤の要の回と見ている。

ミライの部屋の水漏れと「おばさんパンツ」問題

データ整理を終えて部屋に戻る途中、アムロは水浸しの廊下で足を滑らせる。キッカに「水道直して」と部屋へ引き込まれると、目の前に干されたブラジャーがある。ここは未来さんの部屋だとわかっているアムロは真っ赤になってパニックになる。岡田はこの場面を、安彦良和による魅力的なキャラクターの動きとして挙げている。

岡田が熱を込めるのは、干された下着の描写だ。スリップと、体型補正用のボディスーツ(ガードル)がある。当時アニメファンに最も読まれていた雑誌『アニメック』は、これを「ミライさんはおばさんパンツを履いていた」と紹介した。岡田はこれに反論する。作画が苦しいのにわざわざ描かれたダイヤ型の縫い目とフリルのレースを見れば、手洗いして干すシルクの補正下着だとわかる。フラウのような庶民の娘はこうした下着を持っていないはずだ。岡田は最近、19世紀末から20世紀初頭の英国のメイドの自伝を読んでいる。そこでは上流の「レディ」と使用人の「ミス」を分ける要素の一つが、シルクの補正下着を持っているかどうかだったという。当時のスタッフがどこまで意識していたかはわからないとしつつも、補正下着を描いているのだから、おばさんパンツと書くのはやめてあげてほしい、と岡田は語る。

ランバ・ラル隊の補給と、戸口での立ち話

視点はジオンのランバ・ラル隊へ移る。夜の砂漠に見張りが並び、カメラがパンしていくと、ギャロップと、それが牽引するカーゴ、補給機ファットアンクルが映る。岡田は、コートを着て整然と見張りに立つジオン兵の規律正しさを、ミライ一人が舵を取り、アムロが内職をしているホワイトベースとの違いとして読む。

前回、ラル隊はザク2機と、腹心のアコースとコズンを失った。補給されたのは使い込まれた中古のザク1機だけだ。「クランプ、大丈夫なのか」と問うラルに、クランプは「オーバーホールの状態はいいようです。関節部分は新しいのに換えてあります」と報告する。クランプは前回ハモンに「不愉快であります」と不満をぶつけていたが、ラルの前では部下としての分をわきまえ、大人として振る舞っている。

ハモンはギャロップの入口でラルを呼び止める。岡田はこの場所の意味を説明する。中に入れば部下がいる。外にはラルの前で不満を抑えているクランプがいる。だからハモンは、その中間地点である戸口で話すしかない。ハモンは「今後の作戦、どういうおつもりでお受けになったのです」と問う。ラルに「不服か」と返されると「いえ」と否定する。ザンジバル、新型グフ、信頼できる3人の部下と揃っていた戦力が、失われるたびに減っていく。根っからの武人であるラルは不利な勝負にやりがいを感じるかもしれないが、武人ではないハモンにはその男の意地が理解できない。それでも「いえ」と答えるのは、状況が煮詰まって部下たちが反発しても、自分だけはラルの味方でいたいからだ、と岡田は読む。

「二階級特進」は何を意味するのか

ラルは、今度の作戦がザビ家の個人的な恨みから出ていることを認める。そのうえで「木馬を沈めてガルマ様の仇を討てば、わしは二階級特進だ。わしの出世は部下たちの生活の安定につながる」と語る。岡田はこの台詞の意味を2回目の講義で詳しく解説している。

ラルは大尉だ。二階級特進すれば中佐になり、戦争が終わって退役するときには大佐になれる。大佐は英語で「キャプテン」、つまり軍艦の艦長クラスであり、一国一城の主だ。戦国武将でいえば城持ちになるのに等しい、と岡田は例える。兵卒からたたき上げたラルは、このまま戦っても退役時に一階級上がって少佐止まりだろう。しかし大佐になれば、アコース、コズン、クランプらを自分の判断で昇進させ、それぞれが一番輝ける場所へ送り出してやれる。岡田は、給料が増えて部下の取り分が増えるという意味ではないと強調する。会社でいえば、工場長や支社長が独立した社長、さらには本社の役員になるようなもの。仇討ちに成功してさらに手柄を立てれば少将や准将にも届き、ザビ家に並べる。ラルはこの不利な状況を、ドズルなら確実に二階級特進させてくれるチャンスだと見ていた、というのが岡田の解釈だ。

一方で岡田は、本当はここで作戦を降りることもできたと指摘する。ラル自身も、勝ち目は薄いとわかっていた。そこへ捕虜のコズンから、ホワイトベースにはプロの軍人がおらず子供ばかりだという連絡が入る。乗り込めば勝てるかもしれないと思ってしまったことが、ラル隊ほぼ全滅への道につながっていく、と岡田は述べる。

ハモンの右目と、すれ違ったまま結びつく二人

ハモンはさらに踏み込み、「兵士たちのため?」と問う。ラルは「お前のためでもある。ザビ家により近い暮らしができる」と本音らしきものを漏らす。ハモンは台詞で答えない。右目だけをやや細め、目尻がわずかに下がる。岡田によれば、これは笑顔ではなく相手を少し見下す表情だ。そんなことを私が望んでいると思っているのか、なんて可愛い男だろう、という心理がこの目だけで表現されている。

岡田は、アニメでは表情の変化はすべて意図されたものだと強調する。実写なら偶然の可能性もある。しかしアニメでは、演出がコンテで指示し、アニメーターとどの程度やるか打ち合わせたうえで画面に出てくる。贅沢がしたい女なら、ラルと一緒に地球の砂漠へ降りてきたりはしない。それでも否定しないのは、自分のために命をかける男を目の前にすると嬉しさがこみ上げるからだ。岡田はそれを「女の性」と呼び、その快感の中毒になっている女でもあると表現する。一緒にいるのは、まっすぐすぎるラルが死んでしまわないか心配だからでもある。

ラルが「まあ見ていろ」と言うと、ハモンは表情を変えずに「信じております」と答える。ラルは、思い切って言葉にしたら女も納得した、と安心している。岡田の解釈では、ラルはハモンを抜け目のない魔性の女だと思っている。ラルの不在時に取り乱し、帰還すると部下の前で声を上げるほど喜ぶ女だとは知らない。ハモンはそう思われていると承知のうえで、ラルを不安にさせたくないから敬語で返す。だからラルは、自分が死んだあとハモンが仇討ちに命を捨てるとは考えもしない。岡田はラルを「最後まで女心がわからなかったバカ野郎」と評し、それでも愛情で強く結びついているのがこのカップルの愛おしさだと語る。

岡田はこの回の前半を「女から見た戦争」の回だと位置づける。分析に夢中なアムロ、尋問をやめないブライト、言い返すコズンを見て、ミライは風呂に入って洗濯でもしようと考える。ハモンは出世に賭けるラルに呆れながらも嬉しさを隠せない。戦いに夢中な愚かな男と、それを諦めた目で見ながら支える女。この視線はストーリーや男性キャラを追っていると見逃してしまう、と岡田は言う。

補足として岡田は、富野監督がこの二人を、アムロの前に現れる理想の男女関係と語っていることに触れる。ただしそれは、互いを完全に理解し合う現代的な理想ではない。ずれはあるが互いしかいない、という富野世代の古い恋愛観だ。岡田は、ほぼ同世代の本宮ひろ志が『サラリーマン金太郎』で描いた、年上の元ホステスの妻と金太郎の関係にも同じものを見ている。20歳前後で見たときは素通りしたが、今見ると「わかる」と感じるという。今後アムロの登場によって二人の間にすれ違いが生まれていくことは、「激闘は憎しみ深く」の回で話すと予告している。

余談:ガンプラはなぜモビルスーツばかりなのか

プレミアム枠の雑談で、岡田は以前見せたジオンのワッパのプラモデルを、コロナ禍の暇に任せて筆塗りしたと報告する。使った色はグレー、オリーブドラブ、銀の3色だけだ。軍用の陸戦兵器はグリップまで同じ色に塗られていることが多いので、ハンドルも同色でいいかもしれない、とも話している。

そこから岡田の話は、ガンプラがモビルスーツばかりである理由に移る。第二次大戦の模型なら戦車も飛行機も軍艦も揃い、軍艦には1/700から大型まで様々なスケールがある。ところがガンダムでは、ホワイトベースやザンジバル、ギャロップの大型キットがない。岡田はその理由を、モビルスーツがメカではなく「男の子の人形遊び」だからだと考える。女の子の着せ替え人形と本質は変わらず、だから人型ばかりが売れる。家や家具が本体並みに売れるシルバニアファミリーは、最初から「ファミリー」としてごっこ遊びの場を売っているドール業界の例外中の例外だ。バービーもスター・ウォーズも本体ばかりが売れる。岡田は、『まどか☆マギカ』を少女漫画と呼ばれたら「美少女アニメだ」と言いたくなるのと同じで、ロボットものはメカものではなく巨大お人形ものなのだと主張する。富野監督が『∀ガンダム』で主役機を「ホワイトドール」と呼ばせたのは皮肉で面白い、とも付け加えている。

コズン脱走と、「慣れ」を見せるクルーたち

Aパート後半は、コズンの脱走から始まるアクションパートだ。コズンは独房に戻されるとすぐ、入れ歯とパンツのゴムを組み合わせた即席爆弾でドアを破る。セイラの独房に立ち寄って「一緒に逃げるか」と誘うが、セイラは本当に人を呼んでしまう。

同じ頃、前方からミサイルが上がると、ブライトは即座に「ミサイル水平発射」を命じる。以前なら敵の正体を確かめ、ブリッジで話し合ってから戦闘に入っていた。とりあえず撃ち返すこの反応速度に、岡田はクルーの「慣れ」を見る。戦闘配置の号令もないのに、シャワーを浴びていたミライは服を整えながら駆け込んでくる。アムロも寝たはずなのに、すでにパイロットスーツでコクピットに待機している。

ブライトはガンダムでの発進を命じる。しかしアムロは「空中換装もあり得ます。ガンペリーを用意しといてください」と言い残し、ハヤトを乗せてガンタンクで出る。岡田は、前回のガンキャノンに続く今回のガンタンク出撃を、メインスポンサーのクローバーへの配慮だと推測する。ガンダム・ガンキャノン・ガンタンクの3種を玩具として出し、主人公に3機すべてを乗りこなさせる約束があったのではないか、という見立てだ。根拠として岡田は、富野監督が講演やエッセイで「スポンサーの要求は事前に全部言ってください、それを全部入れてドラマを作ります」と約束したと語っていることを挙げる。

ガンタンクが前進するカットでは画面がガタガタ揺れる。岡田によれば、これは撮影時に数コマごとに撮影台を動かし、手持ちカメラの振動のように見せているのだという。1年間のテレビアニメはマラソンのペース配分に似ている。見せ場で枚数を使いすぎると下請けへの無理がたまり、後で崩れる。作画に負担をかけずに動きを出す工夫として、岡田はこのカットを面白いと評価している。

ブライトから奪われていく指揮権

リュウがコア・ファイターで出ないことをブライトが不思議がっていると、リュウから連絡が入る。セイラが教えてくれた、捕虜が脱走した、という。リュウは独断でセイラの独房を開け、銃まで渡していた。銃を受け取ったセイラは、リュウではなくモニター越しにブライトへ礼を言う。ブライトは「いや」と詰まるしかない。セイラは前回勝手に出撃し、今は勝手に銃を持って出歩いている。アムロは命令を聞かずにガンタンクで出た。指揮官と言われながら誰も言うことを聞かない。この苛立ちが、ラストシーンにつながっていく、と岡田は読む。

コズンは無線室から本隊に連絡し、ホワイトベースの戦力を「ガンダム、ガンタンク、ガンキャノン各1機」と伝える。ブライトがマスター回線を切り、逃げるコズンはセイラと鉢合わせする。コズンが落ちた銃を拾おうと腰をかがめたところに、小柄なセイラが横から体当たりする。岡田は、大男と小柄な少女の位置関係をワンフレームに収めたこのアクションの作画をうまいと評価している。

コズンの通信でラル隊を呼び込み、前方には正体不明の敵基地、艦内には逃亡中の捕虜。警戒態勢は一瞬で絶体絶命に近い状況に変わる。アムロの判断そのものは間違っていなかった、と岡田は擁護する。遠距離の敵にはガンタンクの長距離砲で十分で、夜通しのデータ入力という積み上げがその自信を支えていた。ただ、誰にも予想できない脱走が起きたのだ。

鉱山基地側の描写も岡田は拾う。司令は、戦略的価値のない基地がなぜ攻撃されるのかと途方に暮れている。基地はレーダーに味方でない影が映ったからミサイルを上げただけで、双方とも相手が逃げてくれればいいと思って威嚇していた。ところがアムロの的確な長距離攻撃のせいで、どちらも引くに引けなくなった。ギャロップの応援を知らされて、司令はようやく相手が噂の木馬だと理解する。ラルは誰に聞かせるでもなく「コズン、うまく逃げおおせてくれよ」とつぶやき、Aパートが終わる。

山脇の指摘:ガンペリーを用意しなかったのは誰か

配信中、スイッチング担当の山脇が気づいたことがある。アムロはガンペリーの用意を頼んで出たのに、ブライトは結局用意していなかった。ラル隊が現れてガンダムへの乗り換えが必要になったとき、アムロは艦に戻って走って乗り換えるしかなく、それで遅れを取った。あとでブライトに「結局どうだったんだ」と叱られるが、元をたどればブライトがパニックになって忘れただけではないか。岡田はここに言われるまで気づかず、何度見ても新しい発見があると述べている。

岡田は、ブライトは第15話「ククルス・ドアンの島」の頃から空中換装に否定的だったと補足する。戦闘中に敵から丸見えの状態で長々と合体するのは自殺行為だ。これはおそらく富野監督自身の本音でもあった。しかしスポンサーとの約束で合体は描かねばならない。第13話までは主題歌の「正義の怒りをぶつけろ」の部分で合体を見せてしのいでいたが、主役ロボットが合体していないと言われ、14話以降は練習シーンやナレーションで消化してきた。それもそろそろ限界で、ついに実戦に出すしかなくなった。岡田は、事前に空中換装について意見をすり合わせていなかった点はアムロとブライトの双方に責任があるとし、こうしたすれ違いが重なって脱走に至ると見ている。

Bパートの戦闘:弱音を吐くラル、崩れるアムロの計算

Bパートでコズンが手すりを腕だけで滑り降りるのは、プロの兵士らしさを見せるためだと岡田は言う。入れ歯の爆弾、銃をはたき落とす動作と合わせて、一段ずつ階段を駆け下りるホワイトベースの素人との違いが強調されている。

ドップとギャロップの接近を知ったブライトが指示を出そうとした瞬間、ミライが横から「捕虜はセイラが何とかしてくれるはずよ。リュウとカイ、それにアムロをガンダムに換装させて」と命じる。ミライがブライトを差し置いて指示を出すのはこの回だけだと岡田は言う。しかもその指示が的確だったことが、ブライトの自信をさらに奪っていく。昔の岡田はこの回を「アムロを嫌うブライトがガンダムから外し、それを聞いたアムロがすねた話」と捉えていた。40〜50歳を過ぎて見ると、ブライトがいかに自信を奪われ、自分の言葉に固執していくかが丁寧に描かれていることに気づいたという。

ギャロップでは、ドップ編隊の追い越しにハモンが嬉しそうな声を上げる。ろくな補給のないラル隊にとって航空支援がいかに心強いかがわかる。ラルは「見えてきたぞ、木馬が」とあくまで自分が戦うことにこだわる。ハモンは勝つ確率にこだわる。岡田はここにも二人の違いを見て、「今回は男が全部ダメで女が全部いい回」と言う。出撃前のラルは「今度こそという言葉はあまり使いたくないものだな」「グフが3機あればと思うがな」と、ハモンにも見せてこなかった弱音を初めて吐く。岡田はこのやり取りをリアルで好きだという。

アムロはグフの出現で初めて状況に気づき、「計算より動きが早い」と驚く。ガンタンクでは不利と見て艦に逃げ戻り、ここで作戦は完全に失敗する。一方、エアロックに逃げ込んだコズンは、第8話でフラウが使ったジェットパックを見つける。セイラの拳銃では開かないと落ち着き払っていたが、オムルがバズーカでドアごと吹き飛ばし、コズンは死ぬ。岡田はエアロックを、宇宙船で最も頑丈な部分だろうと説明している。人を殺すつもりのなかったオムルは動揺する。セイラは「気にすることはない」と落ち着いているが、ブリッジへの報告では「すみません……死にました」と言葉に詰まる。コズンと接触していた秘密が守られてほっとしている自分に、セイラ自身も驚いている。岡田はそこに、テレビシリーズならではの小さな心情の積み上げを見る。

ガンキャノンに乗るカイはグフのヒートロッドに捕まる。ガンダムに乗り換えたアムロのビームは当たらず、アムロは「コンピューターのパターンだけじゃ追いつかない。データが甘いのか」と漏らす。対照的にラルは、長距離兵器を持たないグフで、ビームを避けながら鉱山基地の大砲の前へ敵を誘い込み、味方の砲撃で撃たせる。岡田はこれをプロの軍人だけが使える高度な技だと評価する。鉱山基地へホワイトベースを誘導したこと自体がラルの狙いだったとも述べている。最後はホワイトベースの集中砲火で関節をやられ、「戦わずして後退か」「補給部隊がもう少し持ってくれれば」とラルは愚痴をこぼして撤退する。岡田によれば、ここでラル自身も勝てないパターンに入ったことを悟っており、それが次回以降の見どころになる。

ヒートロッドを撃ち抜けなかったアムロと、19話への布石

最後の追加解説で、岡田はガンキャノンの救出場面を掘り下げる。電撃を流されると、弾薬を積んだガンキャノンは誘爆して大爆発しかねない。ガンダムが以前ヒートロッドに耐えられたのは、弾薬を多く積むタイプではなかったからだ。アムロはガンキャノンの腕を撃ち抜いて鞭を外すが、岡田によれば本当は鞭そのものを撃ち抜くのが最善だった。17話のアムロには細い鞭に当てる自信がなく、太い腕を狙ったのである。

カイが何度も鞭に捕まるのを責めてはいけない、と岡田は言う。ガンキャノンは目視できるぎりぎりの距離の敵を砲撃するための機体で、接近戦向きではない。もともと宇宙戦用でもある。対するグフは、ザクとガンダムの戦いを見たジオンが急いで作った地上戦専用の高機動機だ。砂漠で接近されれば負けて当然だという。

2話後の第19話「ランバ・ラル特攻!」では同じ状況が繰り返され、今度のアムロは鞭を撃ち抜く。これはアムロの成長の表現である。同時に、メインウェポンを失ったグフがシールド裏のヒートサーベルを抜き、ガンダムとの伝説的な一騎打ちへつながる。一つのアクションで複数の目的を達成する脚本を当時のスタッフはさらりとやっていた、と岡田は評価する。

ラストシーン:泣いたアムロ、明るすぎる声、闇に消えるガンダム

戦闘後、ブライトはアムロを叱る。アムロは「要塞攻撃にはガンタンクが適していたのは間違いありません」と反論するが、ギャロップの件を言われて黙る。「命令は絶対に守れ、軍規違反だ」と言われて「軍規?僕ら軍隊なんですか」と返すのが精一杯だった。それでもアムロはやる気を失わない。格納庫で「ザクもグフも操縦者や環境でまるっきり動きが違う。根本的にやり直さなきゃいけないのか」とシミュレーターに向かう。だが前夜から寝ておらず、居眠りしてしまう。

そこへブライトとミライが来る。ブライトはリュウにガンダムを任せたいと言い、「我々は一人の成長を待っているほどのんびりしてはいられない」と語る。ミライは「一時アムロを休ませるってことね」と言い換え、「アムロは特別な子よ、私そんな気がするの」と言う。ブライトは完全に外すつもりで、賛成しないミライに苛立つ。セイラなら独房に入れ、アムロなら吊し上げられるのに、ミライには頭が上がらない。肩に手をかけて「ミライ、賛成してもらいたいな」と本音を出すブライトから、ミライはすっと逃げる。岡田は、ブライトが求めていたのは判断への賛成ではなく、人間関係の中で味方になってもらうことだったと読む。そして、それが男女の口説きにも上司の懐柔にも見えるやり方を、ミライは好まないのだという。

逃げた先にアムロが立っていた。アムロはその場で泣き、走り去る。ブライトたちに怒ったり逆らったりしたことはあっても、涙を流したのはこの場面だけだと岡田は言う。追おうとするミライをブライトは止め、「説得する手間が省けた」と言い放つ。ミライは「そうかしら」とまだ迷っている。

私服に着替えたアムロはフラウに「ホワイトベースを降りるんだ。元気でな」と告げる。岡田が称賛するのは、アムロ役の古谷徹の演技だ。悔しさをにじませる演じ方もあり得たはずで、古谷徹もいろいろ試したのだろうと岡田は推測する。そのうえで選ばれたのは、動揺を一切見せない、さっぱりと明るい声だった。「ブライトさんとミライさんが僕は不必要だって言うんだ」と語る間もアムロは目を合わさない。「止めるな」の一言でだけ声がわずかに震え、そこで我慢できずに走り出す。

ブライトは寝入ったところを起こされ、フラウの報告でようやく事態を知る。星も地形も見えない真っ暗な画面に浮かぶホワイトベースから、ガンダムが飛び出して小さくなり、フレームの外へ消えていく。岡田によれば、劇場版『哀・戦士編』では星空や砂漠の山まで描いたため、この絶望感がない。テレビ版のほうがアムロの心情を正しく伝えている、と岡田は評価する。

岡田は、こうした回が入っている理由を富野監督自身の経験に重ねて想像する。日本サンライズ初のオリジナルロボットアニメ『勇者ライディーン』で、富野監督は悪魔や正義、オーラの力で動くロボットといった世界観を精密に作り込んだ。しかし視聴率が振るわず途中で降板し、後任の長浜忠夫監督のもとで単純な敵ロボット退治ものになった。普段は何にでも文句を言う富野監督が、この件だけは公式の場で一度も不満を口にしない。そこに、感情的な処理を終えた人の説明を岡田は見る。「ガンダムを盗んで逃げたアムロはこんな気持ちだったのか」と感じてしまうという。富野監督が「降ろそう」という話を聞いてしまい、ミライのような制作デスクも反対してくれなかった場面を思い浮かべてしまう、と岡田は自ら「妄想」と断って語っている。

最後に岡田は、雑誌『モノ・マガジン』の連載企画で30歳ごろにスカイダイビングをした体験を語る。ドアのないヘリから高度2000〜3000メートルで見えたのは空ではなく虚無の空間で、生涯で一番怖かった。落ちるのが怖いのではなく、虚無に吸い込まれるのが怖かったのだという。躊躇できたのは5秒ほどで、飛び降りるしかなかった。初めてこの回を見たときにはなかった体験だが、今の岡田にはその記憶と重なり、闇に消えるアムロを「すごいシーンを作った」と感じさせるという。

次回は第18話「灼熱のアッザム・リーダー」。ジオンの新兵器、それをテストしに来たキシリア・ザビとマ・クベ、そしてその試運転に出くわしたアムロとガンダムを扱う回で、岡田は「ガンダムが喋る回」として一部のマニアに有名だと予告している。