地方の古い物件をまとめて売った2人は、売却後に何をしているのか:木下孝之氏と伊藤氏に聞く不動産会社M&Aのその後

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概要

M&A BANKの島袋直樹氏が、不動産会社を売却した2人の投資家に話を聞いた回である。1人は「ジャイアン」の愛称で知られる木下孝之氏で、2022年に会社を売却したあと、再び不動産を買い進めている。もう1人は、2500室近い物件を持つ会社をFA経由の入札で売却した伊藤氏である。2人とも、地方にあり築年数が古く利回りの高い物件を大量に抱えていた点が共通している。話題は、そうしたポートフォリオをどう売ったのか、売却後に経営と心境がどう変わったのか、いまどんな物件を買っているのか、の3点を中心に進む。

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収録は恵比寿ガーデンプレイスの事務所で行われた。島袋氏がこのスタジオだけで家賃が40万円かかると紹介すると、木下氏は「僕ではよう借りません」と笑い、不動産に厳しい2人だと島袋氏が応じる場面から始まった。

2人の経歴:売却後に再び80億円規模の借入れへ

木下氏は2022年に会社を売却し、そこから4年弱が経つ。本人によれば、いまはまた不動産をたくさん買ってしまっている状態で、借入れはおよそ80億円、島袋氏の確認では85億円ほどだという。不動産投資家のコミュニティ「クラブジャイアンサロン」は今年で10年目になる。島袋氏は、自身のM&A BANKサロンも3〜4年前に木下氏から勧められて始めたと明かした。

伊藤氏は初対面に近く、あらためて経歴を語った。証券会社に11年勤め、会社員時代に不動産投資を始めた。35歳でいったんリタイアしてのんびりするつもりだったが、その後に収益物件売買のブームが来て、起業した会社をのちにM&Aで売却した。島袋氏は、伊藤氏を京都大学出身の非常に頭の切れる人物と紹介し、木下氏は、不動産とWebマーケティングを掛け合わせたような情報発信やセミナーを行っていた人で、15年ほど不動産投資をしている人なら誰でも知っている存在だと補足した。

起業の経緯は偶然に近い。伊藤氏は会社員時代に不動産投資ノウハウの教材を作って販売していたが、それが会社に知られて辞めるよう求められた。ちょうどその頃すでに不動産を買っていたので、「まあいいや」と退職した。しばらくは特に何もしていなかったが、教材を売っていた経緯からセミナーを開けば人が集まり、コンサルティングにも人が来た。不動産の買い方を教えてほしい、物件を紹介してほしいという声が多かったため、不動産会社を作ったという。

木下氏によれば、10年ほど前、ある銀行の融資が盛んだった時代(かぼちゃの馬車問題よりさらに前)に、伊藤氏の会社は「3為」、つまり三為契約(中間省略)での転売で大きく売上を作っていた。伊藤氏自身も、一瞬の契約で仲介手数料以上の利益を得る仕組みだと説明した上で、「聞こえ悪いです」と笑った。

伊藤氏が売却を考えたきっかけ

伊藤氏は、最初は売却を考えていなかった。きっかけは木下氏の売却に関するセミナーを聞いたことだった。伊藤氏は、不動産会社のM&Aで値段がつくのは、ある程度都心にあり、築浅で、状態のよい物件をまとめて持つ会社だろうと考えていた。しかし木下氏のポートフォリオは地方の古めの物件が多く、それでもM&Aが成立した。それなら自分の会社も売れるのではないかと考え、興味を持ったという。

売却しやすかった理由として、伊藤氏は社内体制も挙げた。オーナー企業ではオーナー個人のコストなど、不動産収益以外のものが会社に混ざりやすい。伊藤氏の会社は、その銀行の融資が盛んだった時期に上場準備をしていたため、よくも悪くも会社がきれいで、変なことができなかった。その体制のまま経営を続けており、特に財務まわりには厳格な担当者がいたという。島袋氏は、オーナー企業なのにそこまで整っていたことを「羨ましい」と評した。

規模のピークは、正社員23人、パート・アルバイトを含めると50人ほどだった。時期は、かぼちゃの馬車問題の直前、2015〜2016年頃だという。

仲介かFAか:デロイトを選んだ理由

売却の相手探しでは、伊藤氏はまず複数のアドバイザーに話を聞いた。その中で、仲介会社を使う方法もあれば、FAを入れて入札にかける方法もあるという話になった。デロイトの大阪のチームが入札案件を手がけていると知り、紹介を受けて依頼した。

FAを選んだ背景には、もう1つの事情があった。M&Aのきっかけの1つとして、不動産ファンドの知り合いから会社を買いたいという打診があった。相手が比較的大手だったため、M&A仲介会社よりも、デロイトのような名前のある会社に入ってもらった方がよいと考えたという。

一方、木下氏は仲介会社を使った。どちらがよいかと島袋氏に問われると、木下氏はマッチングできるかどうかが最も重要で、ちゃんと相手を探してきてくれるなら何でもいいと答えた。そのうえで、手数料が相場の範囲でまともであることがまず前提だとした。

木下氏は、不動産会社の買い手探しはかなり難しいとも話した。不動産は好き嫌いが分かれやすい。特に2人に共通するのは、地方の、築年数が古く、利回りが高い物件を大量に持っていたことだ。規模は木下氏が2000室ほど、伊藤氏が2500室近く。全国にばらばらに散らばった物件をまとめて買いたい相手はなかなかいないだろう、というのが木下氏の見方である。

売却までにかかった期間

売却に動き出してから取引完了までは、木下氏がざっくり1年以内だった。

伊藤氏の場合は、デロイトに決めてから資料作りだけで4か月かかった。デロイトの不動産鑑定チームが入り、全物件について鑑定書に準じる評価を出した。売り手としては高く売りたいので、評価が安すぎるといった点をまずFAとの間ですり合わせる必要があり、そこに4〜5か月を要した。そこからタームシートを広げ、最終的に話がまとまるまで10〜11か月かかった。買い手が見つかるまでにも半年ほどかかったという。

大手企業との交渉について、伊藤氏は、毎回相手側が大人数で出てくるものの、実際に話すのは1〜2人で、ほかの人はほとんど話さなかったと振り返り、「あれはなんだかな」と苦笑した。それでも最終的に買い手が見つかったのはよかったと話した。

一括売却の利点と、借入れのリセット

これから不動産会社の売却を考える人への注意点を問われると、木下氏はポートフォリオ次第で何とも言えないとした。そのうえで、仲介会社などからは、M&Aより物件を個別に売った方が一番高く売れるとよく言われたという。まとめて売ればその分ディスカウントも入る。ただ、木下氏も伊藤氏も、特に地方の物件は個別には流しにくい。そのため、一気にまとめて売却できることは大きなメリットだったという。

島袋氏が、そのメリットとは銀行借入れがいったんリセットされ、新たに借りる余力ができることかと尋ねると、木下氏は「かなりでかいですね」と認めた。30億円の借入れがM&Aでゼロになり、またそれくらいまで行こうという話になる、というのが木下氏の説明である。

いま買っている物件:なければ土地から建てる

一度大きな売却を経たあとは、「いまなら買わない」物件が自分の中で明確になり、好みの物件しか買わなくなった。木下氏はそう話した。

好む物件の条件は、みんな共通していると木下氏は言う。なるべく都心寄りで、築年数が新しく、RC造で、リーシングしやすく、修繕費がかからず、寝ていても家賃が入ってくる物件だ。ただ、そうした物件は取り合いで、いまは中古ではなかなか出てこない。そのため土地から建てるのが標準になっているという。

建築のノウハウについて島袋氏が尋ねると、木下氏は工務店やコンストラクションマネジメント会社と組むと答えた。土地をなるべく安く買い、なるべく安く建て、高く貸すことで利回りを作る。つまり商品を作る形だという。島袋氏はこれを「不動産屋さんですね」と表現した。

エリアは2人で分かれる。木下氏は大阪を中心とする関西圏が多い。使っている銀行もほとんどが関西圏の銀行なので、その融資エリア内で仕込んでいる。伊藤氏は逆に東京で、渋谷区などで建てている。ただ、渋谷区の土地はなかなか出てこないという。

売却後の経営:固定費の重さからの解放

M&Aで変わったこととして、伊藤氏は「気持ち的に結構楽になった」と答えた。以前は組織が大きく、固定費が年間2〜3億円かかっていた。それを支えるために多くの案件をこなさなければならないプレッシャーもあった。いまは少人数なので、極端に言えば今年の案件がゼロでも大変なことにはならず、経営は楽になったという。島袋氏も、固定費は大きく違うと応じた。

木下氏の会社は、正社員が2人しかいない。事務所の家賃は8万円ほどで、社会保険などのコストもなるべく抑えている。あとはできるだけ外注やタイミー、業務委託を使い、プロジェクトごとに手伝ってもらっている。タイミーで来た人にお願いするのは、木下氏本人の仕事ではなく社員の補助的な作業だ。書類が多いのでひたすらスキャンする、郵送物を仕分ける、オフィスを掃除する、といった雑務である。タイミーは引き抜きが認められているので、よい人が来たら直接交渉して来てもらうこともあるという。

伊藤氏は、そこまでできればいいと思うものの、自社は人を雇うという癖がまだ抜けないと話した。いまは2人ほどの体制だが、タイミーはそこまで使いこなしていないという。

買う側に回るなら、不動産会社のどこを見るか

逆に不動産会社を買う立場になったら何を見るか。木下氏にとって、不動産会社を買うことは銀行取引を得ることを意味する。拠点は大阪なので、東京など大阪以外のエリアで多くの取引銀行を持つ会社を買いたいという。

伊藤氏は、事情があって簡単に売却できない不動産を持つ会社を安く買えるならよいと答えた。島袋氏が、不動産が安く買えるのは相続や予期せぬ事情で急いで売らなければならない局面ではないかと水を向けると、伊藤氏は、たとえば簿価が低く、売ると多額の税金を払わなければならないため、株式のまま譲渡したいといったケースを見ることがあると話した。

「お金より健康」:年間の手残りと闘病経験

島袋氏は、Xで80億円規模の借入れを公表し、売却も経験している木下氏を、視聴者は「いいな」と見ているはずだと振った。これに対し木下氏は、全部借入れだと返した。売却資金の運用、サロン、現在の不動産事業を合わせて年間どれくらい稼いでいるのかと聞かれると、木下氏は最初、お金を数えていないのでよく分からないとかわした。それでも重ねて問われ、年によってばらつきはあるものの、税引前で10から15ぐらいの手残りではないかと答えた。社員が2人であることを確認した島袋氏は「恐ろしい」と反応した。

お金で人は幸せになるかという問いには、木下氏はある程度はなると答えた。ただ、自身は一度大きな病気をしているので、健康が一番大事だという。最悪、生活保護に戻ってもいいと思っており、それでもQOLを上げられる自信があると話した。お金は稼げばよいが、健康は失うと回復が大変だ、というのが木下氏の考えである。伊藤氏も、健康がないと何もできないと同意した。

それならなぜ稼ぎ続けるのかと問われると、木下氏は、1つのゲームになっている面と、暇なので買おうかという面があると答えた。売却資金の運用は完全に任せており、成果が出るのを待つだけだという。不動産については、社員が案件を上げてきたり、業者やサロン会員から話が回ってきたりして、よい取引があれば買っておこうかというスタンスだと説明した。

10年続くコミュニティの条件は「おもろいかどうか」

島袋氏は、10年以上コミュニティを運営している木下氏に、運営で重要なことを尋ねた。木下氏の答えは「おもろいかどうか。完全にそれ」だった。学びがあるのは当然として、楽しくなければ続かず、人は離れていく。仕事と関係なくてもいいので、いかに面白いかが大事だという。不動産のコミュニティでありながら、不動産はまったく買わず、ひたすら遊びに来ているだけの年配の会員もいるという。

会員でもある伊藤氏は、自分は純粋に木下氏から学ぶために入ったと話した。そのうえで、面白くなければネットで調べた情報で足りてしまうと述べ、面白いことと、経済的な価値以上の何かがあるかどうか、この2つが重要だとまとめた。会員数は現在600人ほどだという。

番組の終盤には、入会金が現在20万円、月会費が5万5000円であることも紹介された。木下氏は「インフレさせていただいてます」と笑い、10年分の動画のストックや毎月の勉強会でノウハウがブラッシュアップされてきたこと、いまは本気の人しか残っていないので、そうした人たちと関われることを特徴に挙げた。

本業のある経営者が不動産で失敗するパターン

本業を持つ経営者が不動産投資を始める例が増えているとして、よくある失敗を島袋氏が尋ねた。木下氏が挙げたのは、属性がよく、会社の業績も決算書もよいので融資が通り、そのまま「変な物件」を買ってしまうケースだ。変な物件とは、買えば損をする物件である。たとえば、法外な利益を乗せられたものを三為のエンドとして買ってしまい、すぐ転売しようとすると明らかに損が出るような物件を指す。

素人には見分けがつかないのではという問いには、木下氏は、いまはGeminiやChatGPTに聞いた方がいいと答えた。相場はどうか、成約事例はどうかと聞くだけでも、かなり教えてくれるという。

表面利回り7%という物件の見方についても具体例を示した。その7%が相場より高い家賃設定を前提にしている場合、相場に直すと家賃が3割ほど落ち、利回りを引き直すと5%台になるといったことはざらにあるという。つまり、周辺の類似物件より家賃が高く設定されているケースが多いということだ。

新築にも別のリスクがある。資材高騰で、当初想定していた建築費よりさらに1〜2割上がることがあり、完成時点で想定どおりにいかないケースが多い。都内では最近ゼネコンの倒産もあるという。島袋氏が、ホテルを建てていた知人が業者と連絡が取れなくなった話を出すと、木下氏も自分も2回ほど危なかったと明かした。そうなると打つ手はなく、建築会社を替えて建て直すしかないが、結局割高になるという。

伊藤氏も、相場を理解したうえで買うならよいが、相場を知らずに割高で買ったり、業者に言われるままに買ったりするのはよくないと述べた。

海外不動産には手を出さない

最後に海外不動産について聞かれると、木下氏は、自分で住む、つまり自己使用ならよいのではないかとしたうえで、自身は基本的にやらないと答えた。理由はレバレッジが効かないことだという。

伊藤氏もやらない。理由は、結局わからないからだという。本当に相場を知ろうと思えば現地のマーケットを見なければならないし、相場より安い物件を買おうとすれば現地の業者とのパイプを作る必要がある。そこまではできないので日本で買う、というのが伊藤氏の結論だった。

地方の古い物件を大量に抱えていた2人は、一括売却で借入れをいったんリセットした。その後はどちらも、都心寄りの新しい物件を土地から建てる方向へ移り、少人数・低固定費の体制で不動産投資を続けている。