マ・クベはなぜ「有能」なのか――岡田斗司夫が読む『機動戦士ガンダム』第22話「マ・クベ包囲網を破れ!」

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概要

岡田斗司夫が『機動戦士ガンダム』のTVシリーズを1話ずつ解説する講座のうち、第66回から第68回をまとめた回である。扱うのは第22話「マ・クベ包囲網を破れ!」だ。この話ではアムロが過去最高の強さを見せるにもかかわらず、ホワイトベースは最後に航行不能となって不時着する。岡田はこの結末から、ランバ・ラルに代わって登場した敵将マ・クベが「すごく有能な男」だと読み取る。講座の中心にあるのは、マ・クベのどこが優れていて、どこに弱点があるのかという問いである。

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主人公側がはっきり負けて終わる回

岡田はまず、第22話が主人公側の完全な敗北で終わるエピソードだと位置づける。ガンダムでここまで明確に負けて「さあどうなる」と次回に続く構成は珍しい、というのが岡田の見方だ。

アムロは前回までのランバ・ラルとの激闘を経て吹っ切れ、パイロットとして覚醒している。今回もジオンのモビルスーツを次々に倒しており、ここだけを見ると調子が良さそうに見える。これまでのホワイトベースは、シャアの追撃から逃れて地球に降り、ガルマの包囲に追い込まれても逃げ延び、ランバ・ラルからも逃げ切ってきた。ところが今回は、アムロが過去最強でガンダムが奮闘したにもかかわらず、ホワイトベースは完敗する。岡田はこの点を、新しい敵マ・クベの有能さの証拠として扱っている。

敵将4人を5段階で比べる――シャアとガルマ

ガンダムの敵のうち、考え方や戦法、思想まで見えるライバルとして描かれたのは、シャア、ガルマ、ランバ・ラルに次いでマ・クベが4人目だと岡田は言う。そこで岡田はこの4人を「作戦立案」「指揮」「戦闘」「謀略」「カリスマ」の5項目、5段階で採点した表を示した。

シャアは作戦5、指揮4、戦闘5、謀略5、カリスマ4である。指揮が1点低いのは、自分で前線に出て戦ってしまうからだ。岡田は謀略を作戦と区別している。作戦は味方に通知して全員で力を合わせるものだが、謀略は場合によっては味方も欺かなければならない。シャアはこれが得意なので5になる。カリスマが4にとどまる理由として、岡田はガルマ事件でシャアが軍を追われたときに助命嘆願が出なかったことを挙げる。

ガルマは作戦3、指揮3、戦闘3、謀略1、カリスマ5と採点された。ホワイトベースを追い詰めたときの作戦は悪くないが、良くもないので3。指揮が4にならないのは、失敗すると部下を怒ってしまうからだ。一方で2まで落ちないのは、データを否定して「そんなことがあるはずがない」と言ったりせず、自分で前線に立つからだという。戦闘も、自ら戦闘機で前に出て、少なくとも撃ち落とされずに帰ってくるので3とした。

岡田が強調するのはガルマのカリスマである。ギレンもキシリアもドズルも国民にアピールしているはずなのに、国民の人気がガルマにだけ高いのは、マスコミの力ではなくガルマ自身のカリスマだろうと岡田は考える。謀略にまったく気づかない人の良さが、周囲に「助けてやろう」と思わせる。岡田は数字でたとえて、個人の能力がシャア100、ガルマ10だとしても、周りがそれぞれ3や5や10の力を持ち寄るので、総合力ではシャア100に対してガルマ150になりうると説明した。ドズルが「あいつなら俺をも使いこなせる」と言ったのはこういう意味ではないか、というのが岡田の解釈である。

アニメではこの点がほとんど描かれず、ガルマは気の優しい、頭の悪いお坊ちゃんに見えてしまう。岡田はここで安彦良和の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』に触れ、そのガルマ像やシャアの動機の描き方が浅いと批判した。あくまで自分の想像だと断ったうえで、最初のガンダムを見て盛り上がっていたファンがバンダイや角川に入り、安彦さんの周りを固めた結果、ファンのイメージを拡大再生産するだけになってしまったのではないか、と述べている。岡田はこれを、同人誌のようになってしまったことがTHE ORIGINで最も引っかかる点だと言う。

ランバ・ラルとマ・クベ

ランバ・ラルは作戦4、指揮4、戦闘5、謀略1、カリスマ5である。作戦単体ならハモンのほうが優れていたかもしれないが、ラルは自分のやり方を通そうとするので4くらいになる。指揮が4なのは、自分も一緒に戦ってしまうと全体像を見切れなくなるからだ。謀略を重視せず、マ・クベのわざとらしい謀略に気づかなかったわけではないにしても「俺は平気だ」と踏ん張ってしまった。岡田は、それが結果的にラルの寿命を縮めたのではないかと見る。カリスマが5なのは、ラルの死後も部下が、ハモンの力もあったにせよ、仇討ちという命がけの作戦に付き合ったからだ。

マ・クベは作戦5、指揮3、戦闘4、謀略5、カリスマ1である。今回の包囲網を見れば分かるように、作戦の立案は非常に優れている。しかし自分以外をあまり信用していないので、実際の運用となる指揮は低い。戦闘の4について、岡田は全部が平凡なガルマより少しましな程度だと言う。新型モビルスーツのギャンを駆ってガンダムとある程度まで戦えたこと、新兵器アッザムを使い、隣に座る「怖い怖いキシリア様」に急かされながらも引き分けに近いところまで持ち込んだことを根拠に挙げている。

謀略は5で非常に高く、逆にカリスマは1、つまり人望がまったくない。岡田によれば、ガンダム世界でシャアやマ・クベのような謀略スキルを持つ人物は意外に少ない。連邦側でその素養があるのはレビル将軍、マチルダさん、それからミライも少しその考え方ができ、修行すればできるようになるのではないか、という程度だという。

岡田はマ・クベの人物像を次のように描く。エリートというより貴族育ちで、兵隊の気持ちを考えたことがない。そのため人望は低いが、忠誠心は高く、キシリアに壺を届けることにも一生懸命になれる。命令に従い、それ以上もそれ以下もしない人間は扱いやすく、敵の裏切り者でさえ扱える。裏切り者は欲望で動くので、交渉でコントロールできるからだ。逆に、武人としての意地を持つランバ・ラルや、ノリで戦う「ヤンキー体質」の黒い三連星のような人間には苦手意識があり、生かしきれない。

アッザムやギャンに自分で乗ることについて、岡田は戦闘好きだからとは見ていない。本当に好きならもっとうまいはずだからだ。むしろ、第一次大戦以前のヨーロッパ貴族のように、貴族は手下を率いて先頭に立つべきだという意識があるのだろうと推測する。その一方で書類ばかり見る官僚的な頭の良さもあり、この二つのバランスが崩れている。戦いながら戦略も練るアレキサンダー大王型にも、カーテンの陰で計画だけ立てて微笑む黒幕型にもなれない。そこがマ・クベの弱点だと岡田は言う。

もう一つのパラメーター「負け方」

岡田はさらに「負け方」という項目を追加した。マ・クベはプライドが高く負け方が下手なので、この項目はずば抜けて低い1だという。負けを認めたくないあまりに屁理屈をこね、駄々をこね、しまいには水爆ミサイルを発射するような駄々のこね方をするからだ。

シャアの負け方は4である。「認めたくないものだな、自分自身の過ちというものを」「私の読み違いか」のように、負けるとすぐ自分の何が足りなかったかを反省する。ガルマは「誰のせいだ」とすぐ怒るので2か3だが、お坊ちゃんにしてはそこそこなので3とした。

最も高いのはランバ・ラルの5だ。ラルは負けという結果にこだわらず、連続するゲームの中で次のゲームのスタート地点として捉える。ザクがやられたら次はザクなしで戦う、補給路を断たれたら補給なしで戦う、というように、負けを次の戦闘の初期パラメーターとして扱う。毎日戦闘をしているので一回ごとの勝敗に一喜一憂していられない。岡田は笑いながら、戦闘に慣れすぎて「戦闘バカ」になったのではないかと付け加えている。

なぜマ・クベというキャラクターが必要だったのか

岡田によれば、敵は強くなければドラマにならない。シャアの強みは謀略、つまり周りを騙して自分に都合よく状況を運び、ホワイトベースだけでなくガルマまで追い詰める面白さにあった。そのシャアが軍を追われて出てこなくなると、敵で謀略を使う人物がいなくなる。普通の軍人を出しても、力押しのタイプか、ランバ・ラルのように視聴者が同情して好きになってしまうタイプくらいしかバリエーションがない。

本来ならここでギレンを出したいところだが、ギレンと毎週戦うわけにはいかない。そこで毎週出せる「ギレンの代わり」、シャアの代わりとしてマ・クベが置かれた、と岡田は見る。ランバ・ラルはモビルスーツ乗りとして、男と男として「手強い」と思わせたが、マ・クベは謀略という別の力で中盤を持たせる。

岡田が面白いと感じているのは、その副作用だ。マ・クベで謀略的な強さを見せてしまったため、後に出てくるギレンはもっと負け方が下手で、戦いの下手な人物のように描かれてしまった。シリーズものでは、あるキャラクターで使った見せ方を他のキャラクターに使えなくなる。岡田はこれを将棋やチェスの盤上の駒にたとえ、後に出す駒ほど能力値は高くしなければならないが、能力の見せ方のバリエーションは限られてくると説明した。また、マ・クベの出番がなくなると入れ替わりにシャアが戻ってくる構造になっている点も、うまい作りだと評している。

オープニングの軌道図とラグランジュポイント

本編の前に、岡田はオープニングで久しぶりに示されるサイドの配置図を解説した。宇宙世紀0079年、地球の周りに建設された宇宙都市は建設順にサイド1、サイド2と呼ばれ、7番目のサイドが建設されて2年目に戦争が勃発し、この大戦でサイド6だけが残った、という導入である。

ここで岡田はラグランジュポイントを説明する。二つの天体の運動は特定できるが、三つ目の物体が加わると運動の式は非常に書きにくくなる。ただし、三つ目が無視できるほど小さい場合、地球と月の関係では5つの重力の均衡点が生まれる。普通なら宙に浮いたものは地球か月に落ちていくが、この位置にあるものはどこにも吸い込まれない。地球と月それぞれから60度の位置がL4とL5、月の手前と向こうがL1とL2、月の反対側がL3である。岡田は、地球と月の引力の中心は実は地球の地面より少し下にある、とも補足した。コロニーをL4やL5に何十基も作れるのは、そこに浮いていられるからだ。

図に描かれたサイドの位置について、岡田は自分の勝手な想像だと断ったうえで、最初は60度の位置を取り違えて別の場所に書いてしまい、後から間違いに気づいて描き直したのではないか、と推測した。さらに月の反対側のラグランジュポイントにルナツーを置き、その質量がそこそこ大きいため、サイド7はルナツーの周りを回る特殊な軌道になっているのだろうと述べている。

冒頭の戦闘は「快勝」を見せるための伏線

本編はいきなりガンダムとグフの戦闘から始まる。ガンダムのバズーカが敵基地に当たって大爆発し、炎に包まれたグフが飛び出してくる。グフはジャンプして背景の太陽に隠れ、ガンダムから見えなくなる。岡田はこれを第二次大戦の空戦技術や、戦国武将の戦い方のようだと言う。グフはヒートホークでバズーカを真っ二つにし、盾も二つに割るが、ガンダムは頭部バルカンでグフの目を潰し、見えなくなったところにビームサーベルを腹に突き刺す。岡田はこの決着のつけ方を『仁義なき戦い』の広島ヤクザ抗争のようだと表現した。

岡田がこの流れを細かく説明したのは、これが「軽快な戦闘シーン」だからだ。ランバ・ラルとの戦いでは、ガンダムが軽快に勝つ場面は意外に少なかった。今回は前半で、新兵器グフが出てきても危なげなく勝つところを見せる。それが後半でマ・クベが作戦を組み始めると勝たせてもらえず大苦戦する、という展開の伏線になっている。

グフの扱いにも意味があると岡田は言う。これまでグフはランバ・ラルの専用機のように見えていたが、今回から大量に出てくるので、敵がグレードアップした感じがする。同時に、ランバ・ラルに補給は届かないと言っておきながらグフをたくさん隠し持っていたマ・クベのずるさ、つまりランバ・ラルがなぜ負けたのかという事情まで見えてくる。

ブライトの昏倒とホワイトベースのブリッジ

ガンタンクも出動して敵を叩き潰し、戦闘自体には勝つ。しかしブリッジのブライトは汗をかいてふらふらしている。岡田は、ランバ・ラルの死の直前の回からブライトがずっと汗をかいて唸っていたことを指摘し、ブライトにも死亡フラグが立っているのかと思うほどの危うさだと言う。結局ブライトは椅子から落ちて倒れる。

ここで岡田はホワイトベースのブリッジのデザインを絶賛した。レーダー手が見ているレーダー画面は、下から見上げるショットでは真上にあり、正面からのショットではやや後ろの壁にあるように描かれている。つまり画面の位置が決まっておらず、背後に出入口のドアがあるはずの場所にまで現れる。見せたい情報が多いので、しょっちゅう嘘をついているのだ。

宇宙戦艦は船であると同時に戦闘機でもあるので、ブリッジを描くと、平らな床に椅子を並べるか、床を少しくぼませて人を並べる『宇宙戦艦ヤマト』のようなレイアウトになりがちだと岡田は言う。岡田自身もヤマトの、艦長が上に座り、斜め上に大型モニターがあるレイアウトを一つの究極だと思っていた。ところがガンダムは、斜めにはしごを渡し、その上にレーダー手を二人背中向きに座らせ、途中に艦長席を置いた。これで上下関係が生まれ、左右非対称の見慣れない構図になる。また大型スクリーンを使わず、その場にいないセイラらとは小さなモニター越しに話すので、コミュニケーションの難しさも表現できる。どこにカメラを置けばドラマが最も面白く見えるかを考え抜いたレイアウトであり、岡田は宇宙船のブリッジとして史上ベストだと考えている。

「戦闘中よ」――セイラの制止と海軍の規律

倒れたブライトに駆け寄ろうとするミライを、セイラが「戦闘中よ」と止める。岡田はこの制止が重要だと言う。戦闘中の配置は絶対で、持ち場を離れれば艦は機能障害を起こす。配置を動くには上官の承認が必要だが、ミライはホワイトベースのナンバー2なので、上官はブライトしかいない。ブライトが倒れた瞬間、ミライに許可を出せる人がいなくなり、ミライは動けなくなる。

岡田によれば、世界の海軍の平均的なフォーマットに従うなら、ミライはまず艦長が倒れたことを宣言し、先任士官として艦長の臨時代理を務めると告げ、異議があれば後で会議を開くと言い、それを記録させてから動かなければならない。これを怠ると、最悪の場合、軍法会議で最も重い反乱罪となり、銃殺刑になりうる。つまり、我を失ったミライをセイラが冷たく止めたように見えて、実際にはセイラはミライの命を救っている、というのが岡田の読みである。ミライは慌ててジョブ・ジョンらを呼び、ブライトを運ばせる。

岡田は陸軍と海軍の違いも説明した。陸軍では前線が地面の上にあり、進むか下がるかが基本で、兵は上官の指示を仰ぎ、許可なく下がってはならない。海軍も命令の徹底は同じだが、各艦に艦長がいて、結婚式のような儀式も司れる、一つの国の王のような存在である。これは本国からの連絡なしで部隊を運用するためのルールで、艦長が倒れたり明らかに正気を失ったりしたときの対処が徹底的にマニュアル化されている。岡田は、イギリス海軍の反乱事件などを経てできたこうした規律を宇宙SFに当てはめた作品として、早川書房から出ている「銀河の荒鷲シーフォート」シリーズを勧め、ガンダムを理解するためにも読んだほうがいいと述べた。

マ・クベの仕事――鉱山経営から打ち上げまで

Aパートの続きで、マ・クベは不機嫌にレポートを投げ出し、「エルランはろくな情報をよこさない」と言う。向かいに座っているのはジオンの服を着た連邦軍の軍人ジュダックで、連邦の裏切り者だ。岡田は、マ・クベの部下は全員立っているのに、ジュダックだけが座っていることに注目する。マ・クベの部下ではないからで、マ・クベも「ミスター・ジュダック」と呼ぶ。独裁的に見えるマ・クベは、実はルールを守る真面目な性格で、自分より格下の軍人でも直属でなければ椅子を勧める、と岡田は読む。

鉱山から定例報告を受けたマ・クベは部下を呼び出し、第7に続いて第8ボーキサイト採掘基地がやられたとはどういうことだと問い詰め、「あとは私がやる」と言い出す。岡田は、基地がやられたことではなく生産性の低下に苛立っている点をマ・クベらしいと見る。

ここから岡田は、マ・クベの仕事を推測で膨らませていく。地球攻略の軍事的中心は北米の地球方面軍司令部で、もともとガルマがトップだった。マ・クベはアジア・ユーラシア方面の責任者にすぎず、軍事的な中心ではない。しかし占領政策は事実上マ・クベが考えていそうだ、と岡田は言う。ジオンはコロニー落としで一気に降伏させるつもりだったが、連邦の抵抗が激しく、第一次大戦の東部戦線のような状態になった。戦争が長期化すると採掘が重要になる。「第8」という番号から、ボーキサイトだけでも採掘基地が最低8か所はあることになる。

ジオンは人工のコロニー国家で、鉱物資源がない。小惑星帯からある程度、木星からヘリウムや水素を持ってこられるとしても、それ以外の鉱物資源はほぼ地球頼みになる。モビルスーツも宇宙戦艦も地球からの資源補給がなければ作れない。岡田は、ジオンにはおそらく人間と電気しかなく、農場はあっても閉鎖系の農場は地球からの補給がなければ5年ほどで土壌が枯れると述べる。

そのうえで岡田は、マ・クベの仕事を5つに整理した。アニメで描かれたのは1番目だけである。

  1. 鉱山の採掘。ボーキサイトだけでも複数ある採掘基地に加え、鉄、銅、金、プラチナ、レアメタルまで含めた多数の基地を管理する。岡田は、あのデイリーレポートを毎日見て指示を出しているのだから一人で管理しているのだろうと言う。
  2. 鉱物の加工。鉱石をそのまま宇宙に運ぶのは無駄なので、周囲の岩を取り除き、インゴットや粉末に加工しているはずで、そのスケジュール管理もマ・クベだろうという。
  3. 輸送用の宇宙船の製造。往復型シャトルで資源を運ぶのは無駄すぎるので、使い捨ての化学燃料ロケットや、鉄のコンテナを打ち上げるリニアカタパルトを作っているのではないか、と岡田は推測する。
  4. 打ち上げの管理。バイコヌールの宇宙基地は位置的に接収しただろうから定期便を上げ、さらにヒマラヤ山脈を利用したリニアカタパルトでコンテナをマッハ26〜30まで加速して衛星軌道に上げているだろう、という。無人のコンテナなので無茶な加速もできる。軌道上ではパプア級補給艦が捕捉し、ブースターを付けてジオンへ送り出す。
  5. 以上の拠点の防衛。

岡田は、1〜4は従業員数千人規模の企業経営に近く、5だけが軍人の仕事だと言う。そのうえアッザムの運用テストまで、キシリアに教習所の教官のように横から叱られながら自分でやり、最後にはレビルと対決して連邦軍に水爆ミサイルを撃つという判断までしている。岡田は、ガンダムに登場する人物で最も有能な人間を一人選ぶなら間違いなくマ・クベを選ぶと言い、それなのにあまり日が当たっていないと述べた。この壮大な風景は外伝でも描かれていないので、いつか誰かに映像化してほしいとも語っている。南極条約違反については、南極条約を踏み越えて戦争を動かそうとした人物という点が面白いと触れ、後で説明するとした。

オデッサで「負けない」戦略と内通者エルラン

来るべき連邦の大反攻オデッサ作戦について、岡田はマ・クベが物量で勝てるはずがないと知っていたと考える。だからマ・クベが選んだ戦略は「勝つ」ではなく「負けない」だった。戦いをできるだけ長引かせ、泥沼化させて連邦を疲弊させる。

下手に勝つと、ユーラシアはジオンの制圧圏だということになり、ギレンらに目をつけられて直属の大部隊が送り込まれる。そうなるとマ・クベは基地を取り上げられてしまう。マ・クベは4つの大プロジェクトを動かしていることをできるだけジオン上層部に知られないようにしながら、キシリアに資源を送り続けたい。だから負けない程度に防衛し、この状態を続けようとしていた、というのが岡田の見立てである。

マ・クベはジュダックに「エルラン中将に伝えたまえ。明日一日、東ヨーロッパ戦線に配備した連邦軍の動きを極力抑えるように」と言う。岡田は、中将は大本営に顔を出して会議をしているようなトップ中のトップであり、そんな高位の人物がジオンの、マ・クベのスパイだということがここで明かされると説明する。マ・クベがホワイトベース攻略を自ら決めた目的も二つあると岡田は言う。採掘基地の生産性をこれ以上下げないことと、オデッサ戦を有利に、つまり負けないように運ぶことだ。何かをするときに目的を二つ以上作って同時に果たそうとするのがマ・クベの癖なのだろう、と岡田は見ている。

工程管理としての対ホワイトベース作戦

人相の悪いジオン兵たちが岩陰に隠れ、金属を身につけるなと装備を確認する。磁気探知で見つかるからだ。彼らは背負ったロケットでホワイトベースの後方から近づき、爆弾を仕掛ける。

岡田が注目するのは、爆弾を仕掛ける場所だ。一つはジェットエンジンのインテークのように見える部分で、これはミノフスキー粒子の射出口だと岡田は説明する。デザインした大河原氏は、どんなアニメかも分からずに描かされたのでジェットエンジン風にしたのだろう、とも言う。もう一つは黄色いドーム状の部分で、岡田はECM(電子攪乱装置)の発信場所だと説明する。岡田は以前の講座でここを遠心力で重力を作る区画だと説明していたが、後で設定を調べると胴体内部に回転するドーナツ状の区画があることになっていた。なぜ間違えたのかと資料を見直すと、昔読んだラポート出版の図鑑ではこのドームが重力区画になっていた。ホワイトベースのサイズで1Gを作るには一定の直径が必要なので、図鑑の解説者はここに入れたのだろう、と岡田は推測している。

重要なのは、工作員がブリッジを狙っていない点だ。ホワイトベースを破壊するつもりならブリッジに爆弾を仕掛けるはずだが、マ・クベの命令は破壊ではなかった。特殊部隊がしたのはレーダーを壊す破壊工作だけである。その後グフや戦闘機ドップで攻撃を仕掛けると、ホワイトベースは怖くなってモビルスーツを出し、戦力が艦とモビルスーツに分かれる。それぞれを各個撃破しようとするが、それすら最終目的ではない。本当の目的は、移動が難しい固定式の強力なメガ粒子砲の射程内にホワイトベースを誘い込むことだった。

岡田はこれを「工程管理」だと言う。企業経営と同じく、マ・クベは無理を一切しない。手持ちの素材でどう有利な位置に持っていくかを考え、敵を倒したいなら戦力を敵のところへ運ぶ必要はなく、自分の最大戦力のところに敵を運んでくればいい、と考える。小さな戦力を小出しにしてレーダーを奪い、先が見えない状態で「こっちなら逃げられる」と思わせた先で落とす。岡田は、侍っぽくない、ほとんど工場の組み立てラインのような考え方だと評した。

撃沈しない理由もある。ホワイトベースを破壊すれば、連邦はホワイトベースを諦めるだけで済む。オデッサ戦が近いからこそ、マ・クベは連邦に救助を出させたい。救助に来た部隊を少しずつ落としていけば、連邦は見捨てられずに戦力を小出しにし続け、出血が増えていく。岡田はこれを、ベトナム戦争でベトコンがアメリカ軍に対して使ったやり方になぞらえた。兵士の手足を撃って動けなくし、とどめを刺さずに放置すると、運ぶのに3人がかりになる。そこへ来た兵をまた撃つ、というやり方だ。

Aパートの最後で、ミライは第二戦闘配置を発令する。岡田の説明では、第一戦闘配置は総員配置で集中力が2〜3時間しか持たないとされ、第二戦闘配置は敵襲が予想されるのでパイロットはコックピットで待機しろ、という段階だという。レーダーに敵の大軍が映ると、ミライはアムロとハヤトにコアファイターでの発進を命じる。敵の規模が分からず、ブライトも倒れたので、ホワイトベースの近くで戦いたくない。超音速機を出して、なるべく離れたところで戦ってほしいのだ。岡田は、このミライの逃げたい気分が状況を悪くしていく、と見ている。

Bパート――崩れる指揮系統とブライトの恐怖

Bパートの冒頭で、コアファイターはガンダムから上半身を外され、クレーンで運ばれて発進する。後ろのハヤト機も同様で、ガンタンクから外したものだと分かる。岡田は、このカットはガンダムもガンタンクもすぐには出撃できないという後の状況のための伏線だが、カットだけ見ても意味は分かりにくく、かっこいいと思うだけだろうと言う。

現場に急行したアムロとハヤトは、ドップの編隊が二つ以上あることに驚く。アムロはコアファイター2機でどうにかなる数ではないと、ミライの指揮能力に疑いを持つ。もう一つの編隊にホワイトベースが襲われると、セイラはミライの判断を仰がずに独断でコアファイターを呼び戻す。こうして指揮系統はぐちゃぐちゃになっていく。

その頃ブライトは意識を取り戻すが、体が動かないことに驚き、「怖いのか」と気づく。岡田はこの場面を重く見る。かつてアムロが怖いから出撃したくないと言ったとき、ブライトは甘えるな、このままでもお前は殺されるのだと散々言ってきた。その自分が今、アムロとまったく同じ状態になっている。アムロがあれほど怖がっていたのに戦えるようになったのは、今の自分と同じ気持ちを乗り越えたからだ。それに比べて俺はなんて駄目なんだ、という思いがここで出てくる。岡田によれば、それまで対立しがちだったブライトとアムロ、そしてホワイトベースの結束がオデッサ戦あたりから固くなっていく。そのための儀式として、この場面は絶対に必要だったという。

空中換装とマ・クベの罠

敵の航空隊が多いと気づいたミライは空中換装を言い出し、アムロは戦闘中にやるのかと驚く。岡田は、これが当時のロボットアニメで定番だった空中合体をリアルに見せる手順だと説明する。当時は、コン・バトラーVなどの長い合体シーンの間なぜ敵が攻撃してこないのか、という突っ込みがよくあった。パイロットが一度反対し、「やるしかないのよ」「どうなっても知りませんよ」というやりとりを経て何とか成功させるプロセスを入れることで、戦闘中の合体にリアリティを持たせている、というのが岡田の解釈である。

アムロは空中でガンダムに合体し、ハヤトはガンタンクを外してしまっているのでガンキャノンに乗り換える。わざわざ手間をかけて乗り換えるのには理由がある、と岡田は言う。コアファイターのときは敵の弾を必死に避けていたが、ガンダムやガンキャノンで出た瞬間から弾がばんばん当たる描写になる。薄いアルミのような戦闘機に比べてモビルスーツは防御力が高いので、多数を相手にするなら一発も当たらないようにするより、多少当たっても平気なモビルスーツで出たほうがいい。その理屈が絵で説明されているのだという。

地上軍もいるのかとアムロが驚く場面では、陸上戦艦ダブデからマ・クベ本人が戦況を見ている。岡田は、わざわざ現場に出てくるのを「本当に仕事好き」だと言う。ガンダムはグフだけの部隊と戦う。これまで一機ずつ大事そうに出てきたグフが大量に投入され、マ・クベの装備がいかに潤沢かが分かる。見上げるとホワイトベースは弾幕にまみれている。

補給のために帰還したところで罠が炸裂する。基地を示す赤い印に、光るホワイトベースが近づいていき、マ・クベは「もうすぐだ」と笑う。メガ粒子砲がモビルスーツのハンガーデッキに命中し、致命的ではないが艦内は火災になる。岡田は、戦況図のパネル、照り返しの中で笑う悪役、やられる味方、炎上する艦内という流れを、普通のロボットアニメらしい見せ場だとしている。

ホワイトベースは不時着する。セイラの思いつきで発煙筒を焚き、もう燃えて駄目だというふりをすると敵は引き返す。ただし岡田は、とどめを刺すのがマ・クベの目的ではない以上、煙がそれほど出ていなくても敵は適当なところで引き返しただろうと見る。ホワイトベースには救援信号を出せる程度には生きていてもらわないと、マ・クベの作戦上都合が悪いからだ。

暗号無線という結末

最後にミライはレビル将軍へ暗号無線を送れと命じ、アムロがそれを見つめるところで第22話は終わる。岡田はこの場面をわざわざ見せる理由を説明する。オデッサ作戦の前は無線封鎖が敷かれ、お互いに連絡してはいけないルールだった。ホワイトベースがレビル宛てに無線を打てば、レビルがオデッサに来るという重要な軍事情報が敵に漏れかねない。それでもミライは、補給と修理がなければ動けない、救援を頼むという無線を出した。これこそマ・クベが望んだことであり、ホワイトベースはさらなる罠にはまった、というのが岡田のまとめである。

視聴率グラフとスポンサーの要求

講座の最後に、岡田は余談として大和田秀樹の漫画『ガンダムを作った男たち』を取り上げた。安彦良和がイケメンで、秘書に囲まれてシャンパンを飲み、夕食はマキシム・ド・パリを予約させる、といった誇張だらけの漫画だが、案外ガンダムの歴史には忠実で、梶原一騎作品のような面白さがあると岡田は言う。この漫画には、他ではあまり見られない本放送の視聴率グラフが載っている。ただしKindleなどのデジタル版では、他のイラストは入っているのになぜかこのグラフだけが抜けているという。

岡田が紹介した数字によれば、第1話は3.0%だった。当時はアニメの再放送でも6〜7%取っていた時代で、新作ロボットアニメとしては本当に悪い。放映直後から、監督の思い通りの作品はやめてスポンサーの言うことを聞いてくれ、と言われたのは当然だと岡田は言う。第4話「ルナツー脱出作戦」の5.9%が当時の最高で、その後は4%を超えればラッキーという状態が続いた。最低は第7話「コアファイター脱出せよ」の1.9%で、実質的に誰も見ていなかった数字だという。今回の第22話は4.0%だった。

岡田によれば、本当の問題は視聴率そのものより、メインスポンサーの玩具会社クローバーの玩具が売れなかったことだ。後にクリスマス商戦ではガンダムの合体デラックスが非常に売れるが、クローバーは視聴率の悪さから玩具も売れないと先読みしてしまい、全43話での打ち切りが決まった。

第1話のあたりから内容についての交渉も何度もあった。まずシャアが暗すぎるから殺せと言われた。仮面をつけて暗い声でぼそぼそ喋る奴が人気のない原因に違いない、他のアニメのように美形の悪役にかっこいいセリフを言わせろ、という要求である。これに対し、13話あたりで殺すのではなく左遷という形でスポンサーを納得させ、出さなくなった。また、ザクばかりでなく毎回新しい敵ロボット、いわゆるやられメカを出せと言われ、13話でグフ、18話でアッザム、次の23話でドダイYSとGアーマー、その次でドムと少しずつ新型を出していった。キシリアの隣でマ・クベが叱られるあのアッザムの回も苦肉の策だったと岡田は言う。2クール目最後の第26話あたりからは最終回まで毎回新型のモビルスーツやモビルアーマーが出てくるようになり、ようやくスポンサーが望んだ展開になる。

岡田は、富野監督がこうした無茶な要望を物語の中にうまく収めながら、番組を存続させるために手を尽くしていたことを覚えておいてほしい、と締めくくった。次回は第23話「マチルダ救出作戦」で、不時着したホワイトベースに連邦から救いの手、マチルダが現れる回になる。