ニューバランス99Xシリーズ全15足を世代ごとに読み解く――石川俊介が語る「履くのではなく、乗る」スニーカー

YouTubeで開く ↗
概要

ファッションデザイナーで、ニューバランスを30数年履いてきたという石川俊介が、1982年の初代990から2023年の991v2まで、99Xシリーズ全15足を並べて解説した。動画の冒頭で石川は三つの問いを立てる。スニーカー好きはなぜニューバランスを選ぶのか。ファッション関係者はなぜ一度離れても戻ってくるのか。立ち仕事の人はなぜニューバランスが一番いいと言うのか。石川は、その答えがニューバランスが最も力を入れて開発してきた99Xシリーズにあるとし、「僕たちはニューバランスを履くんじゃない。乗るんだ」という言葉で話を始める。聞き手のスタッフは、このチャンネルで石川に勧められて990v6を買うまで、ニューバランスをほぼ履いたことがなかったという。

25分で読めます

三つの問いへの先回りの答え

石川は具体的なモデルに入る前に、三つの問いへの答えを先に示した。

一つ目の「スニーカー好きがなぜ選ぶのか」について、石川は理由をデザインに見ている。80年代のニューバランスは当時からやや野暮ったく、スエードの革靴のような雰囲気があった。それが80年代末のアメカジにとてもよく合った。また、最初にメディアに登場したニューバランスは「かなり本気で作っている」ことを前面に出しており、それも受けたという。

二つ目の「ファッション関係者がなぜ戻ってくるのか」は、ブームの波で説明した。まず1300や576という代表的なモデルがあり、その流れで996などに人気が移る。熱がいったん冷めたところでダッドシューズの流れが来て、「ちょっとおじさん臭いけど格好いい」スニーカーとして再び注目された。そこからまた離れたと思ったら、今度はコラボブームが起きる。特に数年前には990v3、992、993あたりのコラボが盛り上がり、ファッション関係者が戻ってきた。その根底には、ニューバランスがいいスニーカーを作っているという事実がある、と石川は見る。

三つ目の「立ち仕事の人がなぜ評価するのか」については、履き心地、つまりかかとの安定性とアーチサポートを挙げた。これはブランドの出自に関わる、と石川は言う。例として、石川が通っていたスペイン料理店のシェフの話を紹介した。そのシェフは「立ち仕事はニューバランスじゃないとダメ。他のスニーカーはダメなんです」と話していたという。

アーチサポートから始まった会社

続いて石川はブランドの歴史をたどった。ニューバランスは1906年、土踏まずを支える中敷きやサポーターのメーカーとして創業した。足のサポートを最初から真剣に考えてきた会社だ、と石川は位置づける。革靴で同じく中敷き系の出自を持つブランドとしてはオールデンが思い浮かぶが、オールデンが医療用シューズのメーカーを買収してアーチサポートに本格的に取り組んだのは1950年代だという。石川は、歴史はニューバランスのほうが古いと指摘した。社名の由来も紹介された。創業者のウィリアム・ライリーが、三本足で立つ鶏を見てバランスを考え、「新しいバランス」と名付けたという。長時間履いても疲れない靴を作るのは、この会社にとって当然の到達点だというのが石川の説明である。

スニーカーの最初は1960年代の「トラックスター」で、ほぼレザースニーカーだったという。続く320について、石川は「最初はNのロゴがなく、ラインが入っているだけで、1年後にNがついた」と話した。石川はその初期の320を持っていたが、今は行方不明だという。

80年代後半、1300と576のブームを石川はリアルタイムで経験した。雑誌では1300が「スニーカー界のロールスロイス」と呼ばれ、他のスニーカーとは履き心地がまるで違った。1300は高くて最初は買わず、576を履いた。ただ石川は「ひねくれ者」だったので、ニューバランスがメジャーすぎて面白くないと、S字に丸がついたロゴのサッカニーをあえて履いたこともあったという。

そして1982年に初代990が登場する。当時100ドル、日本では3万円台だった。「1000点満点中990点のスニーカー」というキャッチコピーは有名だが、石川は、おそらく990という品番が先にあり、コピーはマーケティング会社が考えたのだろうと推測している。

石川のおすすめ3足

全モデルの解説に先立ち、石川は「どれが一番いいのか」への答えとして3足を挙げた。

1足目はMade in USAの992(2006年)。創業100周年記念モデルで、スティーブ・ジョブズのニューバランスとして知られる1足だ。石川は「全てのビジネスパーソンはジョブズにあやからないといけない」と冗談めかし、ビジネスパーソンが履くべきスニーカーの筆頭に挙げた。デザイン面で気に入っているのはNのロゴの小ささだという。初代990と比べて半分以下で、最新の990v6と比べてもかなり小さく、石川は「多分ニューバランス史上一番小さいN」と話す。ソールにはABZORB SBSが入っており、重厚感があって長時間履いても疲れない。デザインとしても99Xの中で最も完成されていると石川は評価する。ファッション関係者の中には「992ではなく993でしょ」という人も多いが、石川にとって両者の最後の違いはNの大きさくらいで、Nが小さい992を選んでいるという。

2足目は990v2(1998年)。21世紀を見据えて作られたモデルで、80〜90年代の野暮ったさを残しつつ未来的な方向へ進んだ、と石川は見ている。ニューバランスらしくない曲線を使ったソールには、他のメーカーを少し参考にした雰囲気もあるという。アッパーには、石川が「隈取り」と呼ぶ斜めのラインが初めて入った。このラインは21世紀のニューバランスを代表するデザインになっていく。石川は、20世紀と21世紀のニューバランスの最大の違いを、アッパーの柔らかさと包み込まれる感じだと考えており、20世紀的な柔らかさが最後に残っているのがこのモデルだという。そこにABZORBによる柔らかいソールが加わった点も評価した。

3足目は最新の990v6。「最新の99Xが最良の99Xか」という問いにつながるモデルだと石川は位置づけ、FuelCellを使った現代的な履き心地にようやくたどり着いたシリーズだと話す。石川自身、最初は買わないつもりだった。以前より安っぽくなったという批判にも共感すると言う。それでも、一日中歩き回る日には自然とv6を選んでいるという。石川が特に挙げたのはかかとのホールドの変化だ。ヒールカップがかなり硬くなり、履き口で締めるよりも、土踏まずのあたりからかかと全体を支える方向に考え方が変わったように感じるという。かかとが浮くという人もいるが、石川の足では以前のモデルより浮きが明らかに少なく、かかとのぐらつきがない分だけ疲れにくい。石川は、このモデルからエメ レオン ドレのテディ・サンティスがデザインに関わっているのではないかと話し、聞き手は、テディ・サンティスが今ではクリエイティブディレクターだと補った。石川は990v6を2020年代のニューバランスの方向性を示した1足と見ている。聞き手も、石川に勧められて買い、履き心地に驚いたという。

Made in USAとMade in UKの意味

テクノロジーの解説に入る前に、石川は生産地の話をした。99Xシリーズは基本的にMade in USAかMade in UKで、工場は「全部で6つあるのかな」と石川は言う。ニューバランスには「隣の部屋にある工場のほうが、隣の大陸にある工場より品質管理しやすい」という考え方があるという。

Made in USAの基準について、石川が紹介した説明は次の通りだ。ニューバランスは国内付加価値率70%を基準にしており、素材の一部を輸入に頼っていることは同社も認めている。アメリカの連邦取引委員会(FTC)の基準では本来すべてアメリカ製でなければならないらしいが、90年代頃の消費者調査で回答者の67%が「70%以上ならMade in USAでよい」と答えたことを根拠に、ニューバランスはMade in USAと表示しているという。石川は、ほとんどを海外で作って一部の工程だけ国内で行い「Made in Japan」や「Made in Italy」をうたう製品と比べれば、ずっと良心的だと評価する。そして99Xシリーズは作りの格がアジア製とは一段違う、と話した。

ENCAP、C-CAP、ABZORB、FuelCell

石川は技術用語を登場順に整理した。聞き手に対して、「乗り味」の話は最後まで回収しきれないので聞き流していい、と前置きしている。

初代990の時代、ソールはポリウレタン製で、かかとにはモーションコントロールデバイスというパーツが付いていた。かかとが内側や外側に倒れる動きはジョギングをする人にとって大きな問題になるため、それを抑えるパーツだという。

ENCAPは、弾力のあるEVAをポリウレタンで包み込んだ二重構造のパーツだ。EVAだけだと沈み込んだときに横に逃げて潰れるだけになるが、周りを硬いポリウレタンで囲むことで、その力を弾力として返せる。ただしポリウレタンには加水分解という大きな問題があり、周囲がボロボロになっていく。

その対策として出てきたのがC-CAPだ。圧縮成形したEVAでポリウレタンを使っておらず、軽く、へたりにくく、加水分解しない。基本的にENCAPと組み合わせて使われる。石川は、日本のメーカーが生産していて、開発にも関わっていたという話があると紹介した。

ABZORBは、石川の説明では「ナイキでいうエア」のような存在で、デュポンが開発したエラストマー系の素材だ。衝撃をしっかり吸収し、反発はほどほどで、エアほど弾む感じはない。99Xで最初に使われたのは998で、後のモデルではソールの外から堂々と見えるようになる。石川はこの見せ方にナイキの影響を感じるという。派生形として、気泡をなくしてゼリー状にした「ノンセルラーエラストマー」のABZORB SBSが992で初めて搭載され、クッション性や安定性を高める別のフォームと組み合わせた二層構造のABZORB DTSが993に搭載された。

FuelCellは窒素を注入して成形した高反発ミッドソール素材で、踏み込んだときのエネルギーリターンを推進力に変えるという。99Xでは990v6が最初の搭載モデルだ。石川によれば、FuelCellには硬さの違う複数の種類があり、990v6にはしっかりめのものが使われ、ジョギング向けの別モデルにはもっと柔らかいものが入っているという。

加水分解への対策として、石川は「日本では特に、置きっぱなしにせず履くこと」を勧めた。履いてかかとに力がかかると、内部の気泡が潰れて中の水分が出やすくなる。そのため履いているほうが長持ちする。何年も箱にしまっておくと、出したときに表面がぬるっとしたり、ソールがボロボロと崩れたり、パカッと外れたりしやすいという。

「スニーカー界のポルシェ」という見立て

ここで石川は冒頭の「乗る」という言葉の意味を説明した。ニューバランスはもともとランニングシューズで、その時々の最新技術を入れて、両立しにくいスタビリティとクッション性を両立させてきた。アッパーは土踏まずのサドル、ヒールカップ、モーションコントロールデバイスでがっちり固め、かかとを安定させる。石川はこれを、街乗りにも使えるがスポーツカーとしての安定性を追求したサスペンションを持つポルシェになぞらえた。1300は「ロールスロイス」と呼ばれていたが、3桁の9番台を付けてきたのは明らかにポルシェを意識しているのではないか、と石川は見る。実際にニューバランスの技術者がポルシェを尊敬しているという話をしているという。

品番の並びも似ている、と石川は表を用意して説明した。ポルシェ911は901から始まり、930、964、993、996、997と進んだ後、数字が戻って991、992となり、現行が992だ。ニューバランスも990から995、996、997、998、999と進み、990v2を挟んで991、992、993、さらに990v3へと戻る。石川は「ポルシェより一歩先を行っているのがニューバランス」で、99を頭に付けた品番もニューバランスのほうが先に使っていると話した。どちらもフラッグシップという点も共通している。石川はこれを「乗り心地」と呼んでほしいと言いつつ、誰もそう言っていないので馬鹿にされるだろうとも付け加えた。

80年代:990、995、996

15足は80年代から2020年代までの5世代に分けて紹介された。

初代990(1982年)は、当時100ドルで、普通のスニーカーの3〜4倍の値段だった。石川は、ニューバランスの思想が最もはっきり詰まった1足だと言う。70〜80年代のジョギングシューズは、アディダスの3本ラインのように飾りのようなデザインが多かった。それに対して990は、アイレット周りからサドルまで続くレザーで足を締め上げ、モーションコントロールデバイスでかかとを安定させ、インソールも含めて土踏まずを支える。つま先には少し余裕があり、日本ではあまり売られないがワイズを5種類用意していた。足にフィットさせて怪我を減らすことを考えた高級ランニングシューズだったと石川は説明する。この990と次の995はアウトソールにビブラムを使っている点も特徴だという。履き心地の理由として石川が挙げたのは「スリップラスティング」という製法だ。インソールを外すと、アッパーが一枚で足をくるむように縫われているのが分かり、当たりがしっかりしつつ柔らかいという。グレーの色合いも含め、アメカジにぴったりだと話した。

995(1986年)は、次の996に向けた過渡的なモデルだが、99Xで初めてENCAPを搭載した。石川はソールを叩いて、普通のソールとENCAPの音の違いを実演した。周囲が硬いおかげでEVAが横に逃げずに縦に沈み、戻りがある。その点で990より履き心地が改善されたという。一方で作りは990のほうが良かったのではないか、と石川は見る。990ではモーションコントロールデバイスまでステッチで縫い留めていたのに、995では接着だけになっている。さらに、ソールが先に向かって細くなっている点を、石川は後の問題につながる「改悪」だと考えている。

996(1988年)を、石川は99Xシリーズの「優等生」と呼ぶ。995より洗練され、ヒール周りのデザインに流れができ、モーションコントロールデバイスもデザインされた形になった。ENCAPとC-CAPを組み合わせ、クッション性と安定性を高めながら、へたりにくく軽くなった。石川の人生で最も履いたスニーカーはこの996のグレーで、3足は履き潰し、常に予備を1足持っていたという。その予備が見つからず、この日は借り物の赤を紹介した。デザイナーはスティーブン・スミスで、後にカニエ・ウェストとYeezyを手がける人物だと石川は紹介した。欠点は、995と同様にソールが細いことだ。斜めの場所で足をひねりやすいという。石川は最近足をひねって痛い目にあい、今は履けなくなったと話したが、そのとき履いていたのは996ではなくパラブーツのミカエルだったと補足している。996は今もアジア製を含めて作られており、アメカジには最高のスニーカーだと評価した。石川は、80年代の3足は1300や576の時代の特徴を色濃く残していると総括した。

90年代前半:997と998

90年代は、石川によれば「ハイテク時代が到来し、未来感のあるダッドスニーカーへ進化していく時代」だ。

997(1990年)について、石川は「彫刻のような」モデルと表現する。ENCAPでがちがちに固めたソールがモーションコントロールデバイスとつながり、サドルは後方へ移り、よりおじさん臭いダッドスニーカーのデザインになった。スティーブン・スミスがニューバランスで最後にデザインしたのがこの997だと言われているという。996がデザインを整理して洗練させたモデルなら、997はエンジニアリングを見せびらかすように作ったモデルだと石川は見る。ENCAPとC-CAPを重ねるのではなく同じユニットの中に組み込んでモールドし、履き口にはハイトレルストラップという実践的なパーツを付けた。石川は、ニューバランスは一番上の二つの穴に必ず紐を通して履いてほしいと勧める。サドル、履き口、かかとの三方から足を固定できるからだ。アウトソールにはカーボンラバーのXR系素材を使っているという。見た目は厚底だが、90年代のニューバランスは実はソールがやや薄く、せり上がったデザインで高く見えるだけだという。997には逸話もある。工場を移転した際にソールの金型がなくなり、復刻できないモデルになった。後にユナイテッドアローズとノンネイティブのコラボで、998のソールに997のアッパーを組み合わせたモデルが作られ、マニアの間で「997.5」と呼ばれてプレミアがついているという。

998(1993年)は、ABZORBを初めて搭載したモデルだ。石川によれば、気泡の大きさや形がほぼ均一で、へたりにくく、衝撃をぐっと吸収し、反発はそこそこに返す。ENCAPとC-CAPの組み合わせにABZORBが加わり、日常で使いやすい乗り心地になったという。石川自身はナイキのエアよりABZORBのほうが好きだと話した。ABZORBはたいてい青い色で使われる。998は復刻も多く、ピッグスエードを使ったクラシックな雰囲気と新世代のソールを併せ持つ、玄人受けする1足だと評した。

90年代後半:999と990v2

999(1996年)は、品番がついに999までたどり着いたモデルだ。石川は、90年代のソール技術で最も複雑なソールだと言う。モーションコントロールデバイスの見える部分は減り、厚底感が増し、ABZORBがソールの上の方と下の方の両方から覗いていて、それが乗り心地の違いにつながっているという。中足部に追加されたパッドについては、石川自身もよく分かっていないと話した。ロゴはやや小さくなった。99Xの中で最も「盛り盛り」な1足で、この先のデザインへの分岐点にあたる。このダッド感を好きになれるかが分かれ目だが、非常にいいスニーカーだと石川は評価する。

999で品番が尽きた後、1998年に出たのが990v2だ。初代から16年後の刷新で、石川は完全に21世紀を見据えてデザインされたモデルだと見る。999までの厚底感を受け継ぎつつ、直線基調から丸みを帯びたデザインに大きく変わった。ABZORBがソールから大きく露出し、さらにフルレングスで入っているため、吸収性が高い乗り心地になったという。アッパーには90年代モデル特有の柔らかさと包まれ感が残っており、一方で2000年代以降のしっかりしたアッパーへの変化も含んでいる。その両方が詰まっている点を石川は高く評価する。「隈取り」のラインが初めて入ったのもこのモデルだ。ただしABZORBの影響で前足部の反り返りが硬くなった。それまでのモデルはそこがくにゃくにゃと曲がったという。この硬さは後のモデルにも受け継がれるが、今履いてみると歩き回るにはちょうどよく、レザーシューズに近い感覚だと石川は話す。99Xの最高傑作という声も多い1足だという。

2000年代:991、992、993

石川は、2000年代を99Xのデザインが完成し、「みんなが愛する99X」になった時代と位置づける。

991(2001年)は、「990v2という逃げの一手のような名前」の後、一番若い番号に戻ったモデルだ。紹介したのはMade in UKのもので、元々USA製もあったかどうかは石川自身も分かっていないという。石川によれば、ジョブズが元々愛用していたのはこの991で、2007年のiPhone初披露のプレゼンテーションで履いていたのも991だという。紹介した個体はユナイテッドアローズとのコラボで、背面に「2001」と入っている。ソールは90年代より誇張を抑えたなだらかなデザインで、ウェブのようなパターンが入った。イギリスのフリンビー工場製で、この日の15足の中でUK製はこの991と991v2の2足だけだ。前足部とかかとの両方にABZORBが入っているが、99Xの中でもソールが非常に硬いと言われるモデルで、安定感はあるがクッション性はやや低く、初代990に近い硬さだという。この履き心地を嫌う人も、安定感を好む人もいる。デザイン面の大きな変化として、石川はサドルとアイステイ(シューホール周り)が分割されたことを挙げた。990v2まではこれらが一体でつながり、キュッと締め上げる一体感があったが、991で分割されたことで印象が大きく変わった。これが現在みんながイメージする99Xの形の完成だと石川は言う。

992(2006年)は、ABZORB SBSを搭載し、フィット感とホールド感が高まったモデルだ。991のシャープさに対してやや丸みが出て、野暮ったさとデザインの良さのバランスのぎりぎりを攻めている、と石川は評価する。SBSは「スチレン・ブタジエン・スチレン」の略らしいが、それが何かはよく分かっていないと石川は正直に話した。黒いモデルは、履き込んで洗うと色が褪せて白っぽさが目立ってくる。普通のスニーカーは履き込むと嫌な感じになるが、ニューバランスは履き込んだ感じまで愛おしくなると石川は言う。992は2010年まで作られ、生産終了から10年後の2020年にようやく復刻され、多くの人が買った。ただし復刻版はアイレットが5つで、オリジナルは6つだった。何かのサンプルを元にしたため5つになったと言われているが、石川は6つのほうが嬉しいという。

993(2008年)について、石川はABZORB DTSを「ダイナミック・トランジション・システム」として紹介し、ウォーキング系スニーカーの最高傑作の一つだと評した。クッション性に優れた履き心地のいいモデルだが、992と993のどちらが好きかは「本当にどうでもいいような微妙な違い」だと言う。履き心地に劇的な差はなく、一見どちらを履いているか分からないほどなので、好きなコラボ相手で選ぶのもいいと勧めた。

2010年代:990v3、990v4、990v5

2010年代は、2000年代のデザインを踏襲しつつ、ジョギングシューズとしての完成度を高めた時代だと石川は見る。この時代は993で品番を止め、990シリーズをアップデートしていく方向に進んだ。

990v3(2012年)は初代から30年を記念したモデルだ。991で分かれたアイステイとサドルは再びつながったが、途中で分岐する形になり、流線形のスマートな印象に変わった。石川は、v3と次のv4は実際に走る人たちに非常に評判がいいと「聞いている」と言う。自分はジョギングを一切しないからだ。石川は進化の秘密として二つを挙げた。一つはABZORBの入れ方が分かれていること。もう一つは、それまでかかとまで一体成形だったアウトソールが分割され、白く見える柔らかいミッドソール部分で曲がるようになったことだ。石川は、昔のような曲がるスニーカーに戻ったことが、ランナーに走りやすいと言われる理由の一つかもしれないと推測する。コラボも多く、この日はボストンの店ボデガとの2021年のコラボモデルが紹介された。

990v4(2016年)として紹介されたのはJJJJoundとのコラボモデルだ。流れるデザインがv3よりさらに進み、ダッド感が洗練された一方で、サドルは再び分割された。ソールはv3より少し硬いが、途中からぷにっと曲がる感触があるという。v3に比べて印象が薄いとよく言われ、石川も実際そうだと認めるが、走るにはとてもいいらしいと話す。石川は、かつてのファッション業界人と違い、仕事と運動のバランスを取ろうとしている中年男性にこのあたりのモデルを勧めた。

990v5(2019年)は構造をしっかり固め、ホールド感がとても強いモデルだ。デザインは整理されてシンプルになり、履き口にはTPUというプラスチックのパーツが付いた。石川は、このパーツはかかとをしっかり支える実用的なものだと評価するが、デザイン面の評判は前の2モデルほどではなかったという。石川自身もv5は特に好きではなかったと話す。紹介したのはエンジニアド ガーメンツとのコラボで、左右でパーツの使い方がまったく違う。いつもサイズ8を履く石川でも、このモデルは8がとてもきつく、左右でサイズが違うように感じるという。石川はそこから、パーツの取り方が履き心地にとって非常に重要だという教訓を引き出した。

2020年代の「問題作」990v6

2020年代について、石川は「イメージを一新するのか、継承するのか、方向性がまだ見えない」と言う。ここまでの解説で994が出てきていないことを指摘し、「永久欠番」のようになっている994が出るかどうかが2020年代の最大の注目点だと話した。

そんな中で出たのが、石川が「直近最大の問題作」と呼ぶ990v6だ。発売時には「買わない」と宣言した人が非常に多かったという。石川は批判の理由をいくつか整理した。第一に、FuelCellの搭載で履き心地が明らかに変わった。ABZORB導入時にも変化はあったが、それ以上に大きい。しっかり沈む感覚に、「ぼよん」とまではいかない「ぶにゅっ」とした反発が加わり、好みが分かれた。ソールの素材自体もENCAPの硬さとは違い、斜めに着地したときに柔らかさを感じるため、横にシワが入って耐久性が低いのではという声もある。第二に、サドルがなくなりNのロゴで支える構造になった。石川は、アディダスの3本ラインのようだと例え、実際にはホールド力はまったく下がっていないと見ているが、「これは99Xの品番ではない」という反発は大きいという。メッシュ部分が増えたことから、コスト削減ではないかという意見もある。第三に、ホカなどに寄せたような厚底感が増し、モーションコントロールデバイスが見えなくなり、後ろが張り出した。さらにv3の頃から進んでいた、つま先が低くすっきりした形についても、99Xはもう少し芋っぽいほうがいいという意見が出ているという。

それでも石川は「僕は大好き」と言う。履いていて明らかに楽になり、変な足のつき方をしたときのクッション性も高い。モダンなデザインで格好いい方向に進んだモデルだと評価している。

991v2と、次に来るモデル

991v2は2023年に出て、本格的な販売は2024年だという。Made in Englandの991をアップデートしたモデルだ。以前チャンネルで紹介した黒が見つからず、今回のためにグレーを買ったという。991らしい重さはあるが、初代より数十グラム軽くなっているはずだ、と石川は言う。アッパーは一見大きく変わらないが、よく見るとあちこち変わっている。サドルが分割されていないデザインに戻っており、過去の90年代モデルの特徴を取り入れている。小ぶりなNについて、石川は990v6への反省もあるのかもしれないと推測した。ソールにはABZORBとFuelCellの両方が入り、「硬い」と言われた991の弱点を改善しているという。石川はこのモデルを気に入っており、ニューバランスらしい安定感があると評価する。ただ、足が弱ってきた今、長時間歩く日はやはりv6を選ぶだろうとも話した。つま先については、長くすっきりしすぎていて、ニューバランスはもう少し丸いほうが個人的には好きだが、これが2010年代から続く現代のデザインなのだろうと述べた。

2020年代は、革新路線のv6と保守本流の991v2という方向性の違う2足が出たことになる。石川は今後を次のように予想した。80年代に3足、90年代に4足、2000年代に3足、2010年代に3足が出ている。90年代の990v2をどう数えるかによるが、2000年代はUK製1足、USA製2足という構成だったので、同じ流れならあと1足出て終わる可能性がある。それが990v7になるのか994になるのか。石川によれば、99Xの品番を付けるには会長の承認が必要だという。企画チームが提案したときに会長が「994で行け」と言うのかどうか、それを楽しみに待ちたいと話した。

「芋臭さを楽しむ靴」という結論

最後に聞き手が、これらのモデルが出たとき実際どう思っていたのかを尋ねた。石川は、出た当初は「これは履けない」と無視していた時期も多かったと認めた。当時のニューバランスは白人のアメリカのおじさんが走るための靴というイメージが強かった。90年代初めにアメリカへ行くと、ボストンの白人の年配男性がニューバランスを履いている姿がとても多かったという。今はダッド系スニーカーとして、あえておじさん臭い靴を履くことがファッションになったが、当時の本物の「おっさん靴」はなかなか履けなかったと振り返る。年を取ると似合ってくるのかという問いには、それもあると答えた。

石川は最後に、批判されるのを承知で一つの考えを述べた。ニューバランスはその芋臭さを楽しむ靴なのだと、みんながもう一度認識したほうがいい。ニューバランスを「すごくおしゃれ」だと思って履いている人は、美的感覚も含めて少し考え直したほうがいいのではないか。石川はこの見方を示して解説を締めくくった。