クアラルンプール在住2年の経営者が語る、マレーシア移住と東南アジアでのWebマーケティング

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概要

M&A BANKのMCで2019年からシンガポールに住む島袋直樹氏が、クアラルンプールに移住した株式会社アドケイト代表取締役の夏原啓佑氏の自宅を訪ねた。家族での移住から丸2年が経ち、夏原氏は日本の会社を遠隔で経営しながら、現地で日系企業の東南アジア進出支援を始めている。住まいと生活費、日本の組織を離れて経営して起きた変化、現地の広告市場、ビザと税制について、夏原氏が実際に住んで感じたことを話した。

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380平米のコンドミニアムと、2年で倍になった家賃

夏原氏が住むのは、クアラルンプールのモントキアラ地区にある大型コンドミニアムだ。夏原氏によると、この地区は日本人、中国人、韓国人が多い。部屋は日本式の表記で380平米ほどのフォーベッドルームで、各部屋に風呂とトイレが付いている。ベランダにはサウナと水風呂があり、仕事部屋からはツインタワーが見える。天井が高いので、室内でゴルフのドライバーを素振りしても当たらないと夏原氏は笑う。

家の中にはピラティスを教えるスペースもある。夫人は日本でピラティススタジオを運営しており、こちらでも軽くパーソナルレッスンをしているという。夏原氏自身は最近、爬虫類の飼育と、セメントや流木で水槽内に背景を作るビバリウムが趣味だ。トカゲは1匹20万円前後で、「レッド」と名付けた個体は23万円だったという。

マレーシアの賃貸は基本的に家具付きで、壁や天井のデザインも部屋ごとに違う。夏原氏によれば、マレーシアではバスタブのある家が珍しいため、この物件は日本人に人気がある。

家賃は入居時に日本円で約30万円だったが、円安と物価高で現在は約60万円になった。夏原氏は「2年間で倍になりました」と話す。ここ半年ほどは上昇が止まった感覚があるものの、今この物件に新規で入居すると約80万円かかるという。島袋氏が東京の渋谷区や港区で同等の物件を探したらと問うと、夏原氏は、300平米を超える広さの物件はおそらく東京にはないだろうと答えた。

コンドミニアムにはジム、プール、バドミントンコート、テニスコート、バスケットコート、バーベキューエリア、子ども用の公園、ヨガルームなどがそろっている。

教育移住として来て、ビジネスの機会を見つけた

移住の最初の目的は子どもの教育だった。住んでみると現地にもビジネスの機会がありそうだと感じ、現在は新しい事業をいくつか立ち上げている最中だという。

アドケイトは大阪に本社を置き、Web領域のマーケティングを支援する会社だ。夏原氏は自社の役割を「外部CMO」と説明する。VCやエンジェル投資家から資金を得たばかりのスタートアップはマーケティング担当の人数が少ない。そこに外部のマーケティングチームとして入り、IPOやM&Aに向けた成長を手伝うのが同社の主な仕事だという。M&Aの知見を得るため、また支援先が資金調達したいときに人を紹介できるように、約2年前にM&A BANKのサロンに参加した。島袋氏とはそこで知り合い、今ではテニスやサウナ、家族ぐるみのバーベキューで付き合う仲だという。

現在も日本法人の代表取締役を務めながら、タイとマレーシアを中心に、東南アジアへ進出する日系企業のWebマーケティング支援も始めている。

社長が日本にいないことで、社員の自主性が伸びた

日本には肩書きこそ取締役だが、実質的なトップを置いている。夏原氏の生活は、月に1週間ほど日本に滞在し、残り3週間をマレーシアで過ごすというものだ。

移住前、夏原氏は自分がいなくなったら会社が崩れるのではないかと不安だったという。実際には、社員の裁量と自主性が増した。夏原氏は、自分が手を出していたせいで社員の主体的に動く力を潰していたのかもしれないと、移住してから気づいたと話す。業績の伸び方も、倍とまではいかないものの上向いており、結論として来てよかったと振り返る。同社は今年4月に10期を終えて11期目に入った。

島袋氏は自身の経験と比べた。島袋氏は2019年にシンガポールのビザを取り、コロナ禍もあって実質2020年から現地生活を始め、ほぼリモートで事業を回してきた。もともと関係のある幹部や役員とは呼吸が合うが、その後に採用したスタッフとの関係づくりや能力の把握、裁量の任せ方が非常に難しかったという。

夏原氏の答えは「半々」だった。長く在籍するメンバーとはやりにくさがまったくない。アドケイトは、社員が会社の制度を通じてどれだけ自己実現できるかをKPIのひとつに置いている。そのため、社長がまず自己実現しないと後が詰まるという雰囲気があり、移住は全社員に応援される形だったという。一方、移住後に採用した社員とは接点がないまま関係を築くことになる。ただ夏原氏は、情が入らない分、実績を正当に評価できる体制が作れたとも言う。

島袋氏は、成果だけで評価するようになると、業務委託やAIでもいいのではという話になり残酷な面も出ると指摘した。これに対し夏原氏は、現場に定性面の報告とプレゼンをさせ、その内容も評価に織り込んでいると説明した。自分の先入観というノイズがない分、プレゼンに基づいて下からの評価を正当にできるという。島袋氏が「評価制度とセットだよね」とまとめ、夏原氏も、量だけで評価したら本当に業務委託でいいとなってしまうと同意した。

東南アジアの広告市場で見えてきたこと

東南アジアでの支援の考え方は、日本で外部CMOとしてやっていることと同じだと夏原氏は言う。進出したばかりのブランドがいきなりWeb広告を出しても、ターゲティングやクリエイティブを整えただけで獲得が大きく伸びることはない。認知度も販売実績もない段階では、顧客インサイトを深く掘り、認知ではなくピンポイントでベネフィットを当てる戦い方になる。現地の日本人、マレーシア人、タイ人、その他の外国人それぞれにどんなインサイトがあり、どんなクリエイティブが合うかというコミュニケーション戦略から考え、広告の設計と運用まで支援しているという。

2年住んで気づいたこととして、夏原氏は、マレーシアで表示されるWeb広告が日本のクリエイティブに非常によく似ていると話す。日本で当たったクリエイティブをそのまま持ってきたような広告が普通に出ていて、現地の事業者に聞くとよく当たっているという。日本の商習慣に近い感覚で、少しローカライズすれば反応が取れそうだと見えてきたので、小規模での進出は十分ありだと個人的には考えているという。対象は今のところBtoCが中心で、BtoBにも可能性を感じている段階だ。

島袋氏は、化粧品などの分野で日本の薬機法に当たる規制があるのか、ビフォーアフター表現やリピート通販の概念はあるのかと尋ねた。島袋氏自身、シンガポールのピラティス事業で1件1〜2ドルという驚くほど安い単価でリードが取れた経験があり、同じような「バグ」があるのかを知りたいという。

夏原氏によると、タイでは広告の出稿単価が日本の感覚の5分の1ほどで、リード単価も低い。ただし事業支援を始めてまだ2か月ほどで、ノウハウとして言えるほどではなく、規制についてもまだ分かりきっていないと断った。現在の支援先はクリニックや飲食店など店舗型のBtoCが中心で、今後はコスメなどの領域も支援していきたいという。

現地で最も驚いたのは、データを整備して予算配分に反映する仕組みがある企業が非常に少ないことだという。そこまで担える人材を置けないのか、国民性として細かくやらないのかは分からないとしたうえで、夏原氏は例を挙げた。クリニックに来る日本人が旅行者か在住者か、それぞれのLTVはどうか、そこに予算をどう割り振るかといったデータを取っていない企業が珍しくないという。日本では当たり前に整理している情報なので、そこで貢献できると夏原氏は見ている。

移住1年目の白木氏の場合

訪問先には、夏原氏の友人で、日本で映像制作とマーケティングの会社・株式会社オリエンティストを経営する白木翔太氏も居合わせた。34歳で、1歳の息子がいる。マレーシアに来てやっと1年が経ったところだ。

白木氏は、暮らしを求めて移住したと言う。自分らしい生き方がしたいと考え、緑の多いエリアに住んでいる。日本にはない自然があり、土地が広くゆったりできるのが気に入っているという。

家族会議について、白木氏の妻は東南アジアが好きなタイプだったが、グループに所属するインフルエンサーで日本での出演の仕事が多く、最初は迷いがあった。子どもが生まれたタイミングだったこともあり、海外で育てようと説得して移住を決めたという。

住まいは夏原氏宅の半分ほどだが、それでも100平米を超える広さで、家賃は東京よりずっと安いと満足している。食事は和食中心の自炊で、日本に帰ったときに調味料を買い込んでくる。日本とほとんど変わらない生活ができると白木氏は話す。

経営者のコミュニティについて白木氏は、初対面の人とも普通にバーベキューをする距離感に衝撃を受けたと言う。利害関係があまりない付き合いができるのがいいという。夏原氏によれば、友人の奥さんや子どもを知らないケースはほぼなく、家族ぐるみの付き合いが当たり前だ。

白木氏は1〜2か月に1回日本に戻っている。まだ完全にリモートにはできないという。社員からうらやましがられないかという問いには、社員もマレーシアに出張で来ることがあり、みんなマレーシアが好きだと答えた。

ビザの選択肢とラブアン法人

ビザについて夏原氏は、現役経営者、会社売却後の人、駐在員、子どもの教育目的などで種類が分かれると整理した。

夏原氏自身は、経済特区のような位置づけの特殊法人であるラブアン法人を設立し、そこから就労ビザを取得している。ラブアン法人は外貨収入のみを扱う形になるが、法人税率が3%になる。一方、マレーシア国内で事業をする人はマレーシア法人を作り、そこから就労ビザを出す。ただし夏原氏の記憶では、資本金3000万円ほどを積んでようやく日本人2人分程度のビザが出せる水準で、ハードルは高い。夏原氏自身も正確な情報ではないと断っている。売却済みの人は投資家ビザを取るケースもあれば、子どもの学生ビザに親が保護者として付いてくるケースもある。現地で収入を得るかどうかでビザの種類はかなり変わるという。

日本に会社があり社長単独で来る人は、ラブアン法人を入り口にすることが多い。夏原氏の体感では、現役経営者の2〜3割がラブアン法人を使っている。ラブアン法人の維持には年間200〜300万円ほどかかる。節税効果を考えると、年間2000万円程度をラブアン法人に流さないと、法人税率が3%になっても得をしない。それ以上の資金を送る可能性がある人がラブアン法人を選んでいるという。

島袋氏は、日本の会社から資金を流すよりも、現地で事業を拡大するつもりでないと割に合わず、移転価格の問題もあって仕組みづくりが難しいのではないかと述べた。夏原氏によると、ラブアン法人はリンギットで決算を組むが、3%が適用されるのは外貨で受け取った収入だけで、リンギット収入を得る法人ではない。そのため、ラブアン法人のままマレーシア国内で商売をするのは難しいという。日本法人とラブアン法人が取引する形で売上を立てれば、その分に3%が適用される。

個人の所得税は20%前後のはずだが配当課税は0なので、給与を最低限にして配当で個人所得を取る人が多いという。配当は経費にならないが、法人税3%ならほぼゼロのようなものなので、役員報酬と配当を組み合わせて生活費に充てるという。島袋氏は、詳細は国際税理士に相談したうえでの話だと念を押した。

「M&A BANK in マレーシア」の依頼と、中抜きされた経験

島袋氏がこの日訪ねた目的は、夏原氏に「M&A BANK in マレーシア」の立ち上げを頼むことだった。シンガポールの情報と同様に、マレーシアに関心を持つ経営者が増えていると島袋氏は感じており、視聴者がマレーシアに行きたいと思ったときの窓口になってほしいという。夏原氏はすぐに引き受けた。

夏原氏には移住時の苦い経験がある。ラブアン法人の設立、ビザ手続き、銀行口座開設を誰に頼むべきか分からず、ビザ手続きができるエージェントだという人に依頼した。ところが実際にはその下にさらに2社ほどエージェントがいて、大きく中抜きされていた。気づかないまま依頼してしまったという。その経験を踏まえ、不動産、税務会計、人脈づくりなど分野ごとに信頼できる人を紹介できるので、移住希望者が正しい情報に触れる手助けはできると夏原氏は話した。

島袋氏は、商売として情報を出している人の話とは別に、実際に通ってみての本音を知りたい人は多いと言う。例として挙げたのがインターナショナルスクールだ。シンガポールでは香港の問題以降、中国本土から来る人が増え、生徒の9割が中華系になった学校や、中華系資本に買収された学校もあると島袋氏は話した。どこの学校が人気なのかといった実態も伝えてほしいという。

犬の規制とコンドミニアムの共用施設

夏原氏は7月にゴールデンレトリバーを日本から連れてくる予定で、そのため今のコンドミニアムには住めなくなるという。夏原氏によれば、マレーシアでは宗教上、犬はあまり好意的に見られていない。このコンドミニアムでは共用部で犬を歩かせることができず、住人は全員抱っこしている。そのため抱っこできない中型以上の犬は飼えず、体重7kgほどまでという決まりがあるという。背景はイスラム教だろうと夏原氏は見ているが、詳しくはないと断っている。

共用のリラックススペースは無料で借りられ、ヨガ講師が生徒を集めてグループレッスンをしたり、子ども向けの空手教室が開かれたりしているという。プールは50mほどありそうで、コーチが来て水泳レッスンをしている。バーベキューピットは100〜200リンギット、日本円で3000〜5000円ほどで借りられる。このコンドミニアムには友人家族が少なく見積もって10家族ほど住んでおり、週末は子どもをプールで泳がせながら大人はバーベキューで酒を飲むという。

1日の過ごし方と時差

夏原氏の1日は、日の出前にコンドミニアムの仲間とテニスをし、8時ごろに切り上げてシャワーを浴びることから始まる。9時に仕事の準備が整えば日本時間では10時なので、そこから仕事を始める。昼休みにベランダのサウナと水風呂でリフレッシュし、午後も働き、夕方に帰ってきた子どもたちと遊び、もう一度仕事をして寝る。

日本との時差はシンガポールと同じ1時間で、最初は少し戸惑ったがすぐ慣れたという。夏原氏は、オンラインで仕事ができる人には移住を勧めたいと思っている。理由は人の良さで、不機嫌なコンビニ店員もいないと冗談交じりに話し、心が豊かになると言う。

住んでみての不満と日常の事情

ネガティブな点を尋ねられた夏原氏が挙げたのは、トイレがびしょびしょに濡れていることだった。夏原氏によると、マレーシアでは用を足したあとホースで水をかけて洗うのが最も清潔とされており、便座まで濡れていることがよくある。日本人は最初驚くかもしれないという。夏原氏自身はホースを使ったことがなく、ティッシュを持ち歩いている。ホースを試した夫人の話では、紙もドライヤーもないので自然乾燥させてそのまま下着を履くのが現地の標準らしいという。

言葉については、ベースは英語で、訛りのある英語はシングリッシュに近いという。夏原氏は、英語が話せなくても生活は困らないと言う。多国籍の国で外国人に慣れているため、たどたどしい英語でもしっかり耳を傾けてくれる人が多く、嫌な思いをすることはないという。親日的でもある。

酒は、今はほとんどのレストランで飲めるが、酒税が非常に高い。スーパーで買う高級ウイスキーは1本1万円ほどするかもしれないという。たばこは紙巻きも電子たばこも吸えて、日本人は電子たばこ、マレーシア人はほぼ紙巻きを吸っている印象だという。

車は日本車だと倍、ローカル車は侮れない

車について夏原氏は、日本車は高いと話す。新型アルファードなら2000万円ほどになりそうだという。夏原氏が来た当時、日本で500〜600万円のアルファードがこちらでは1000万円ほどだったので、日本の倍くらいという感覚だ。

夏原氏が乗っているのは、マレーシアのローカルブランドのプロトンだ。最初はローカル車だと馬鹿にして見に行ったが、車内のシステムなどは日本車に劣らないほど良く、価格はやや安い程度だった。200〜300万円で十分な品質の車に乗れたという。

国土の狭いシンガポールでは配車サービスのGrabで十分という人が多いが、マレーシアではどうか。夏原氏によれば、車は必須ではないが、シンガポールよりは持ちやすく、あった方が楽だという。ただ駐車場の運用がかなり雑で、週末のショッピングモールでは駐車に苦労する。Grabの料金は少しずつ上がっているものの、暑い土地なのでGrab中心の生活もできる。

動画の最後、夏原氏は朝の散歩コースである緑の多い小道を案内した。広告規制や法人の運用など、夏原氏自身がまだ分かりきっていない点を残しつつ、「M&A BANK in マレーシア」として現地の実情を伝えていくことを約束した。