売却から買収へ 島袋直樹が店舗視察の合間に語ったM&Aの潮目と「稼ぐための起業」の終わり

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概要

世界最大のピラティスチェーン「CLUB PILATES」の日本法人代表で、M&A BANKのメインMCを務める島袋直樹氏の日曜日に、スタッフが同行した。フランチャイズの新店視察に向かう車中で、島袋氏はピラティス業界の今後、M&Aで「売る」側から「買う」側へ移る経営者の増加、SNSとの距離の取り方、お金と幸福の関係、AIが仕事と起業のあり方をどう変えているかを語った。島袋氏の立場は一貫している。事業を通じてお金を稼ぐことの意味は変わりつつあり、会社や組織を持つには相応の理由が要る、というものである。

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この日の予定

撮影日は6月28日の日曜日である。この日の目的は二つあった。一つはクラブピラティスのフランチャイズオーナーが新たにオープンしたスタジオの見学である。もう一つは、以前大阪の店舗で撮影した運営者が東京・世田谷区の尾山台に新店をオープンしたため、そちらの撮影に行くことだった。

ピラティス業界は絞り込みの段階へ

聞き手が、最近はピラティスの店舗がとても増えていると水を向けると、島袋氏は増加を認めた。パーソナル型、整体寄りのピラティス、個人経営のスタジオなど、形態も多様になっている。ただし島袋氏は、今年後半から来年、再来年あたりにかけてプレイヤーは絞られていくのではないかと見ている。

クラブピラティスは90店舗近くが営業し、契約数はすでに100を超えた。今後も順次開店していくが、島袋氏は「焦らず」進める考えだという。店舗数を伸ばすことよりも、まずオープン済みのスタジオをさらに良くすることを優先したいと話した。少し前までは新規事業に資金を投じていたが、それがなくなって余力が出てきた。そこでタレントの起用など、個店では難しい施策をこれから一気に進めたいという。

フランチャイズ本部の複数ブランド化と「短期回収」の考え方

今後の拡大予定を問われると、島袋氏は「あるよ」と答えた。将来はフランチャイズ本部を複数ブランドを持つグループにしたい。つまりM&Aである。

最近始めた「FC BANK」を通じてさまざまなフランチャイズ本部や加盟希望者と会い、今のニーズを聞けるのが面白いという。フランチャイズの投資回収期間は、6か月のものもあれば2〜3年かかるものもある。島袋氏は、どちらが良いとは一概に言えないと考えている。

その理由として島袋氏が挙げたのは、短期で回収できるモデルは「歪み」だという見方である。1000万円を出してその年に2000万円儲かるなら、誰でも参入する。すると競合が増え、一気に飽和して平準化していく。だからそうした市場を見つけたら、スピード勝負で一気に面を取りに行くべきだという。半年回収をうたうフランチャイズも素晴らしいが、必ず競合が出てくる。島袋氏は「ピラティスもそうだった」と語った。

FC BANKのサロンには全国から会員が集まっている。フランチャイズの成長段階を初期・中期・後期に分けるなら、初期段階の本部を探している人が多いという。ただ実際のニーズとしては、すでに加盟している人や、これから加盟したいが大丈夫かと迷っている人が、相談相手を求めている印象だと島袋氏は話した。フランチャイズのコミュニティやYouTubeはほかにも多いが、それぞれに色があって被らないので、それはそれで良いという見方だった。

M&Aの「売却ブーム」は去りつつある

島袋氏は、M&Aで会社を売ることがブームのようになっていたが、それも去りつつあるのではないかと感じている。理由の一つに税金が上がることを挙げた。

島袋氏によれば、売りたい人が最も増えたのはコロナ禍だった。ビジネスがうまくいかなくなり、リモート化も進んだためである。しかし今はむしろ、事業をまた伸ばしたいという人が増えている。M&A BANKサロンにも、最初は売却目的で入会しながら、売るという発想をいったん止めて買収していく方向に切り替えた会員が結構いるという。前日にもある会員からそう言われ、島袋氏はそれを嬉しく感じたと話した。

買うときは情熱的に、売るときは冷静に

島袋氏は、売るときと買うときでは戦略が違うと考えている。買うときは、いかに情熱的で感情に訴えかけられるかが大事だ。一方で売るときは、冷静に俯瞰して焦らずに売ることが大事で、なんなら相手と直接対峙しない方がよいという。こちらの熱量を相手に悟られないよう、ポーカーのように振る舞うということだ。

理由は、買い手はできるだけ良い条件で買いたいので、情熱的に近づいてくるからだと島袋氏は説明する。「通常ならこれだけの価値だが、自分は本気でやるので少し安く買わせてほしい、その代わり大事にする」といった具合である。この使い分けが大事だという。

島袋氏から見て、M&Aの手練れは非常にエモーショナルだ。最初の出会いから現在までをドラマチックに資料にまとめてプレゼンし、「これだけ御社のことを分かっている、だからこうしていきたい」と演出する。これができると強いと島袋氏は語る。聞き手が心理戦のようなものかと尋ねると、島袋氏は「M&Aはポーカーです」と答えた。この言葉は島袋氏がXにも投稿している。

Xを再開した理由とSNSとの距離

なぜ今Xに力を入れ始めたのかと聞かれ、島袋氏は、上がっている話題が面白くないからだと答えた。個人的にほとんど触っていなかったので、投稿したらどうなるかを試し、仕様の変化を確かめる目的もあるという。分かったことの一つは、投稿するとブーストのボタンが表示される点だ。見せたい投稿を、お金をかけて拡散できるということである。聞き手が、そうなるとXを見ない人も増えそうだと言うと、島袋氏も「ちょっとなってんじゃないかな」と応じた。

島袋氏は、ソーシャルメディアは取引先や堅い立場の人など多様な人に見られているので、ブランディングを誤ると致命的なダメージになると考えている。M&Aでも同じだという。

気をつけていることを問われ、島袋氏はSNSの「A面」「B面」という言い方を持ち出した。A面は資本主義に明るい人たち、B面はインフルエンサー界隈を指す。島袋氏は軸足をA面に置き、たまにB面に触れるくらいのバランスを取っているという。基本的に「バトル」はしない。バトルをすればインプレッションが上がるのは分かっているが、失うものが大きそうだからだ。自分の性格にも合っていないという。1日に数時間や数分を取られ、返ってきた反応に返信することを毎日続けるのは、人生がもったいないと島袋氏は感じている。それで売上が上がったとしても、そこまでして上げたいとは思わない。平和でいたい、というのが島袋氏の考えである。

仕事が再び面白くなった理由

聞き手は、最近の島袋氏がとても楽しそうに見えると言う。島袋氏自身も、最近は仕事が面白いと認める。以前は新規事業をやれない、やってはいけないと思い込んでいた。それがなくなり、自分でまた事業を進められる状況になって、仕事の勘が鈍っていないと感じているという。仕事が楽しくなるかどうかは気持ち次第だと島袋氏は話す。聞き手が、最近は出張先で次々に仕事につながる話が出てくると指摘すると、島袋氏は、マインドを変えた瞬間に仕事がものすごく舞い込んでくるのが面白いと応じた。

稼ぎと興奮は比例しない

島袋氏はここ最近、M&Aの金額の話よりも幸福論に関心が移ってきたという。経営者には、最初はお金を稼ぎたいという動機で起業する人が多く、島袋氏自身もその一人だったと振り返る。ところが、お金を稼いでもそれに比例して興奮は高まっていかない。高級寿司店は美味しいが、週に3回も行けば飽きてしまう。そう考えると、普通の人の普通の生活こそ実は贅沢なのではないかと島袋氏は話す。聞き手も、安くて美味しいものを探し当てる方が楽しいと応じた。

お金を持っていると食事の場で誰がボスかという空気になり、周りが気を使う。ボスの立場に慣れると、支払いは全部自分持ちという状態になる。島袋氏は、それは実は不幸なのではないかと考えている。

島袋氏自身、お金がある時期とない時期の振れ幅が激しかった。シャンパンを次々に開けていた時期もあれば、お金がなく缶チューハイを開けていた時期もある。その経験から、チューハイも意外にうまいと感じ、物の価値とは何なのかを早い段階で考えさせられた。そのため高価なものへの興味は薄れたという。

腕時計の話もあった。売却を果たしたらオーデマ・ピゲを買おうと決めていて、実際に約240万円で購入した。しかし着けた瞬間に興味がなくなったという。2か月ほど後、一緒に働いていた株本氏が飲みの席で「俺にも何か分けてくれよ」と言い、時計を手に着けた。島袋氏は結局それを株本氏に譲った。島袋氏にとっては、そちらの思い出の方が良かったという。ちなみにその時計は後に値上がりし、一時は1000万円ほどになったらしい。島袋氏は、今は「貸している」と笑った。

聖蹟桜ヶ丘店の立ち上がり

移動中の話が一段落したところで、一行はフランチャイズの新店、聖蹟桜ヶ丘店に到着した。駐輪場が目の前にある立地である。GMの案内で、受付やロッカー、アパレルの販売スペースを見て回った。初めて来た人が用語で戸惑わないよう、ピラティス用語の説明も掲示されている。スタジオは扉付きの個室で、ラベンダー系の内装はGM自身が選んだという。

客層は50〜60代が中心で、やや高めだという。82歳の会員も2人入会しており、いずれも男性だ。

撮影時点でソフトオープン4日目だった。オープン前の問い合わせは330〜340件ほどあった。ソフトオープン前に80人が事前入会し、この時点で約140人に増えていた。7月はキャンペーンで割安になっているが、8月からの単価は1万5000円ほどになる見込みだという。

土地柄による傾向を問われたGMは、当初は入会意思の固い熱心な人が多いと予想していたと答えた。しかし周辺にピラティススタジオがなかったため、物珍しさから体験だけに来る人も結構多い印象だという。島袋氏が視認性の高さを指摘すると、予約なしにふらっと入ってくる人も結構いたとGMは答えた。外装のラッピングシートを剥がした瞬間に、問い合わせが殺到したという。外装に男性の写真もあるため男性客も多く、特に一人で来る男性が目立つ。一人で申し込んでくる男性は入会意思が固いようで、そうした人は皆入会しているという。男性の年代も50〜60代が多い。

痩せたらメンタルが上向いた

次の目的地へ向かう途中、島袋氏は、なぜ仕事が楽しいのかが分かったと言い出した。痩せたからだという。

1年ほど前、島袋氏はメンタルが落ちているという動画を公開し、多くのコメントを受け取った。その中に、一人起業に関する書籍を多く出している「カツキング」こと克さんからのメッセージがあった。人材会社を経営して上場企業に売却した経歴を持つ人物である。メッセージには、体脂肪率やBMIが高いのかもしれないと書かれていた。当時の島袋氏の体脂肪率は24〜26%ほどで、これが15%を切ってくるとメンタルが落ちにくくなるという話だった。

島袋氏はキックボクシングの試合に出場するため運動量を増やし、体重は4kgほど落ちた。体脂肪率やBMIも下がってきているので、それが関係しているのかもしれないと島袋氏は話す。経営者こそ運動の時間を確保することが必須だと強調し、クラブピラティスは男性も通えると付け加えた。

AIで消える仕事と、店舗に目を向ける若手起業家

話題はAIに移った。島袋氏は、AIが出てきたことで、人間味のある仕事ができない人は淘汰されると見ている。コンサルに頼んでいた業務がどんどん不要になっていることを、自社でも島袋氏自身も実感しているという。データ分析は、外注すれば数百万円かかっていたものが数分でできてしまう。

危ないと思う仕事を聞かれ、島袋氏はコンサル、Webのライティング、デザイナーを挙げた。バナーもページのコーディングも資料作りも、今は簡単にできる。新人の雑務がAIに巻き取られているので、新人は大変だろうと島袋氏は話す。

その結果、一周回って、SaaSやマーケティング系のスタートアップではなく、店舗ビジネスに目を向ける起業家が増えていると島袋氏は言う。しかも若手に多い。

「稼ぐための起業」が効率的でなくなった

島袋氏は、事業を営むことがお金を稼ぐ手段としては効率的でなくなってきた面があると考えている。かつては、お金を稼ぎたいという動機で起業し、うまくいったら会社を大きくしていくのが金持ちになる王道だった。それが変わってきているという。

島袋氏によれば、会社は2〜3人で経営しているときが実は一番儲かる。組織をつくり売上を伸ばそうとすると、オフィスを広げ、人を増やし、部門を増やさなければならない。そうなると意外に利益が出にくいケースが多いという。

そこで利益を残すことを考えると、少人数のうちにさっと売却し、得たお金を投資に回す方が合理的だった可能性がある。年利10数%の運用、ビットコイン、都内の不動産は上がり続けてきた。お金を増やすという意味では、そちらに賭けた人の方が増えた例が多そうだ、と島袋氏は見る。そうなると、会社を経営し組織を持つことには相当の意味合いがなければ、皆やらないのではないかと島袋氏は話した。

聞き手も、若手起業家の間ではすでにそうなっていると応じた。一度キャッシュをつくった後、二度目は大きくやるのか、それとも運用に回して事業はもうやらないのか。その選択が分かれているという指摘で、この日の話は締めくくられた。