株を買い戻して100%オーナーになり、家族でマレーシアへ 夏原啓佑氏が語る移住の実態

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概要

M&A BANKの後編は、クアラルンプールで収録された。WEBマーケティング支援を手がける株式会社アドケイト代表の夏原啓佑氏が、マレーシアでの暮らし、子どもの教育、雇われ社長から株を買い取って100%オーナーになった経緯を語っている。聞き手は、シンガポール在住でM&A BANKのメインMCを務める島袋直樹氏だ。昼のステーキとビールを囲みながら話は仕事と家族の間を行き来し、最後に夏原氏が「M&A BANK in マレーシア」を担当すると決まる。

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1万円のTボーンステーキと、東南アジアへの近さ

会場は夏原氏が勧める店である。Tボーンステーキは259リンギット、約1万円で、1kgあるという。二人はまず「安い」と反応した。焼き上がりはミディアムレアを頼んだのにレアに近く、一部が硬いという正直な感想も出たが、全体としては「普通にうまい」「これで1万円ならいい」という評価だった。付け合わせのチリソースは肉に合わない、という話も出ている。

生活の利点として夏原氏がまず挙げたのは、周辺国へ出やすいことだ。シンガポールやタイなど東南アジアの国々へ1〜2時間で行け、1泊や2泊の旅行に気軽に出られる。旅行のハードルが大きく下がったと夏原氏は言い、シンガポール在住の島袋氏も同意した。

ただし、夏原氏が住むモントキアラからメインの空港までは1時間ほどかかる。島袋氏が、空港寄りに住む人もいるのかと尋ねると、夏原氏はそういう人もいると認めたうえで、もう一つの選択肢を紹介した。モントキアラから20分ほどの別の空港(字幕では「ス番空港」)から、タイミングが合えばシンガポール便やタイ便に乗れる。プロペラ機になることもあるが、シンガポールまでは1時間15分ほどだという。

学校選び:英語ゼロの子どもが入りやすいか

夏原氏の子どもは、オーストラリア式のインターナショナルスクールに通っている。マレーシアでの学校選びは、まずインターナショナルスクールか日本人学校かの二択になり、インターならアメリカ式、イギリス式、オーストラリア式がある。夏原氏はこの構図をシンガポールと似ているかもしれないと述べ、選択肢になるインター校は全部で20校ほどではないかと見ている。

移住した当時、娘は中学2年生、息子は5歳で、二人とも英語はまったく話せなかった。夏原氏はきょうだいを同じ学校に通わせることを前提にして、英語補強クラスがあるか、英語を話せない子を受け入れる体制があるかを重視した。英語なしで中学2年生が入っても問題のない学校を基準に選び、息子も同じ学校に入れたという。

島袋氏が、英語や海外への「アレルギー」はなかったかと尋ねた。夏原氏によれば、息子はまったく問題なく、すぐに馴染んだ。一方、思春期に来た娘は、英語には憧れがあるものの、行きたいのはオーストラリアやアメリカで、マレーシアは「マイナーな国じゃないか」という目で見ていたようだという。それでも、中学生くらいで英語ゼロのまま来る子は少なくなく、母子で来る家庭も、夏原家のように家族ごと移住する家庭もかなりいる、と夏原氏は話す。

子どもの進路は本人の意思に任せる

進路について、島袋氏は家庭ごとに考え方が違うと前置きした。大学から海外に行かせる家庭もあれば、大学は日本と決めている家庭もあり、途中で生活の拠点をこちらに移す人もいる。

夏原氏の娘は高校1年生になり、日本へ単身で帰国した。いまは寮で暮らしながら日本の高校に通っている。2年間で英語は日常会話レベルまで身につけた。絵や漫画、アニメが好きなので、イラスト学科のある高校を選び、そのまま芸大や美大に進むのではないか、と夏原氏は見ている。息子はまだ7歳なので何とも言えないが、夏原家は本人のやりたいことを尊重する方針をとっている。日本に帰りたいと言えばそうするし、別の国へ移ることも選択肢に入る、という考えだ。

学校については、距離、費用、進路などを一通り調べて整理したことがあるので、移住を考えている人には情報を伝えられると夏原氏は話した。

学費と「2年」という分岐点

インターナショナルスクールの学費は学校によって大きく差があり、最近はかなり上がっていると夏原氏は言う。1人あたり安くても年間300万円、高いところで700〜800万円ほどで、学年が上がるほど高くなる。そこそこの学校なら400〜500万円はかかるだろう、というのが夏原氏の見立てだ。

途中で日本に帰る人は「めっちゃいる」。夏原氏は、来てから2年ほどが分岐点だと考えている。夏原氏自身はあまり気にならないが、トイレの衛生面、食事(十分美味しいが日本と同じ品質ではない)、仕事の都合で日本に力を入れることになった、子どもの学校、などさまざまな理由で2年前後で帰る人が多い。逆に2年を超えると、5年、10年と住み続ける人が多いという。

島袋氏は、合わなくて2年で帰るのもまったく構わず、経験すること自体に意味があるという立場だ。夏原氏も、移住は思われているほどハードルが高くないと実感している。ビザ、学校、言語の問題で通常の引っ越しより少し負担が増える程度(字幕では「引っ越し20%ぐらいの力」)で、戻ろうと思えばすぐ戻れるし、来ようと思えばすぐ来られる。妻に移住を持ちかけたときも「あかんかったら戻ってきたらええしな」という調子で、あっさり決まったという。

フルスピードから大阪、そして株0%の雇われ社長へ

夏原氏は東京出身で、大阪に10年間住んでいた。会社員を2年経験したあと大阪で独立し、8年ほど大阪で会社を経営してから移住した。

2013年の新卒で入社したのは、当時上場していたフルスピードである。SEOで知られた会社で、その後は広告代理業やアフィリエイト、自社DSPの開発も手がけ、夏原氏が入ったのはそのDSPを売り出す頃だった。1年目は渋谷のオフィスで働き、2〜3年目は、立ち上がってはいたものの2〜3人しかいなかった大阪営業所に「復興チーム」のような形で送られた。

そこから縁のあった人たちに100%出資してもらって創業した。夏原氏は株を持たない雇われ社長としてスタートしている。出資者は、Lステップの代表を務める人物ともう2名だった。1期目は2人で年商2〜3億円、2期目は5億円ほどのペースで伸びた。

「株ってこんなに権限があるのか」

この時期、夏原氏は身内や知人を役員や社員として会社に迎えていた。そして当時初めて、株にどれほど権限があるかを知る。それまでは社長がいちばん偉いと思っていたという。株の権限を持たなければまずいと考え、出資者と買い取りの交渉を始めた。

900万円の出資を受けて創業し、1年半後に4,000万円で株を買い取って100%オーナーになった。その後は順調に経営を進め、創業から10年ほどで社員は30〜40人規模になっている。急成長ではなく、ゆっくり伸びながら、海外に移住しても運営できる基盤を作った、と夏原氏は振り返る。

交渉の武器は「俺を男にしてください」

島袋氏は、買い取りを受け入れた出資者は優しいと評したうえで、同じ立場の人のためにコツを尋ねた。夏原氏は、株や事業の評価をいくら並べても最後は人と人の話であり、人として信頼されなければいい交渉はできない、と答えている。

金銭面だけを考えれば、別のやり方もあったと夏原氏は認める。900万円の出資を4,000万円で買い取るより、2年目の段階なら会社を一度畳み、200〜300万円程度で新しく会社を作って顧客に声をかけ直したほうが、おそらくリスクはずっと低かった。社員は2人、顧客も十数社しかいない小さな会社で、それができてしまう段階だった。

しかし、それをやれば一生人を裏切って生きる人生になるだろうと夏原氏は考えた。そしてその考えを、出資者に包み隠さず伝えた。出資者の期待や、受けた恩を裏切りたくはない。一方で、知人を会社に引き入れた責任もあり、自分に権限がないまま会社が大きくなって取り返しがつかなくなる状況は、どうしても受け入れられない。そのうえで「僕を男にしてください」「買い取った後も絶対損はさせません」と頼み込んだ。夏原氏はこれを人柄で押し切る「人柄アタック」の戦法だったと表現している。

出資者のうち2人はすぐに了承した。残る1人は、この会社は絶対に伸びるし上場する可能性もあるのだから、もっと持っていたいと言い、2〜3回断った。夏原氏は飲みに誘うたびに「そろそろ男になりたいっす」と同じことを言い続け、最終的に買い取りに至った。

島袋氏は、M&Aにも同じ人間的な側面があると応じた。プロの株主なら話は別かもしれないが、結局は人と人の取引であり、大事な会社を譲る売り手にとっては、買い手の思いや買収後にきちんと運営してくれるかのほうが大事だという。そのうえで島袋氏は、買収後に詐欺的な行為に及んだとされるルシアンの件を「社会の悪」と批判し、そうした事例をなくしたいという思いでM&A BANKを運営していると語った。

資金調達や法令リスクまで踏み込む助言

夏原氏の取引先には、IPOやM&Aを目指す会社が多い。そのため、マーケティング支援の延長として、資金調達などのファイナンス面や、表に出にくいM&A上のリスクについての相談も気軽に来るという。たとえば顧客が複数の調達先候補を挙げて意見を求めてきたとき、夏原氏は、目先の金額は魅力でも、この出資者を入れると後のどこかのタイミングで問題になりかねないと指摘する。そのうえで、別の出資者を選ぶか、調達をせずにコストを削って乗り切るほうがよいのではないか、と提案する。そうした助言ができるほうが価値があると夏原氏は考えている。

島袋氏は広告特有の法令リスクを挙げた。景品表示法や薬機法、特定商取引法などに違反して顧客を獲得すると、IPOやM&Aのデューデリジェンスで問題として指摘されてしまう。夏原氏は、それを知らない経営者は多いと応じた。

夏原氏が挙げた例はこうだ。VCから次のラウンドに向けてトップラインの目標を示されたが、達成率はまだ70%ほど。差を埋めるために過激な煽り広告で新規顧客を一気に獲りたい、という依頼が実際に来る。それでそのラウンドは乗り切れても、Xで炎上すれば次のラウンドが成立しないほど評価が下がる恐れがあり、IPOやディールそのものが決まらなくなる可能性もある。ブランドは長期的な価値なのに、短期の調達のために目的と手段が入れ替わっている。そういう場合、夏原氏は冷静になって考え直そうと伝えるという。

島袋氏は、VCから調達している会社は夏原氏に相談すべきだと述べた。知識のない代理店だと「何でもやります」となってしまうからだ。夏原氏によれば、VCからの紹介が増えたのも、一定の安全圏の中で成果を最大化してくれる会社だという認識をシード期の投資家に持ってもらえているからだという。

大人になって初めて友達ができた

話はマレーシアでの人間関係に移る。夏原氏は、海外に住むと「地元感」があると話す。電話すれば相手が近くにいて、今どこにいると伝え合って合流できる。約束していないので、途中で帰るのも気楽だ。夏原氏はもともと先の予定を決めるのが苦手で、2ヶ月以上先の予定は基本的に決めない。その日の気分で行きたくないかもしれないと考えると、今遊べる人と遊ぶほうが楽だという。島袋氏も、暫定の予定なら構わないが、半年先となると勘弁してほしいと共感した。

夏原氏は、マレーシアに来て、大人になってから初めて友達ができたかもしれないと話す。島袋氏は、自分の場合は大人になるとスポーツでしか友達になれないと言う。飲みに行っても結局は仕事の話になるからだ。日本で会食で知り合った人をテニスに誘えば「なんで」となるし、誘っても来ない。ところがシンガポールで出会うと、一度しか会ったことがない相手を二度目にはキックボクシングに誘う、ということが起きる。夏原氏自身、島袋氏とは対面で2〜3回しか会っておらず、飲みに行ったこともないうちに、シンガポールに行くのでバーベキューとキックに行きましょうと誘われたと振り返る。日本なら成立しない関係だとして、海外に来ると友達が増えると実感したという。島袋氏はこれを受け、夏原氏を「友達広げ担当」に指名した。

島袋氏はマレーシアでのイベント開催も提案した。夏原氏は他の国では味わえない面白い企画がいいかと考えたが、島袋氏は形を決めずに、朝食会、ランチ、ゴルフなど、どれか一つだけ参加できるような緩いもののほうがいいと勧めた。夏原氏は、マレーシアにはツアーを組めるほどのコンテンツはなく、「チルかゴルフしかない」と笑っている。

親子も人と人の付き合い

夏原氏の子どもは高校3年生、高校1年生、7歳の3人だと、この場面で話している。夏原氏は、親子も結局は人と人の付き合いだと考えている。子どもだからと甘えたコミュニケーションをとり、押し付けたり強制したりすると関係は壊れていく。尊重し、希望を叶える存在であれば仲良くいられる、というのが夏原氏の実感だ。

島袋氏は、自分は12歳の娘をかなり甘やかしていると打ち明けた。心配になって娘に聞いたところ、「私、今まで何か問題あった? 変に育ってる?」と返され、それが答えだと納得したという。島袋氏は生まれたときから「何があっても絶対お前の味方」「ベストフレンド」と言い続けている。味方だからこそ「このままではまずい」と言うべきだと思いつつ、実際には言っていないと認め、その役割はおそらく妻が担っていると話した。

夏原氏の考える「甘やかし」は、何でも買い与え、何でも許すことだ。買い与えるにしても、感謝を求めたり、買うために越えるべきハードルや課題を与えたりするなら、それは甘やかしではないという。

島袋氏は宝くじの当選者を例に出した。当選者の一定割合は不幸になり、大型売却で急に大金を得た経営者にも不幸になる人がいる。経営者は自分の力で会社を作ったので再現性があるが、それでもうつになる人がいる。まして子どもに、何もしなくていい、お金がある状態を最初から与えてしまうのは、家業を継ぐための教育がなされていれば別だが、そうでなければかわいそうすぎると島袋氏は言う。夢や目的を失い、人間関係も崩れる。夏原氏は、実力も身につかないとして、それはむしろ「虐待」だと述べ、甘やかしというより教えることから親が逃げているのではないかと語った。

移住で夫婦関係と親子関係が良くなった

緩い話をするつもりが真面目な話になった、と笑いつつ、夏原氏は、マレーシアに来て夫婦関係と親子関係がとても良くなったと話した。会食が大きく減り、スポーツをするので飲みに行きたくなくなったこともあって、夜中の3時、4時まで飲むことはほぼなくなった。夜に家にいれば子どもの様子がわかり、会話ができ、異変にも気づいて問いかけられるので、問題の解決も早い。朝は二日酔いではないので機嫌よく接することができ、妻も家を出ていかないのでそれほど文句を言わない。これが好循環になっていると夏原氏は言う。

家事は、住み込みではないお手伝いさんに平日に来てもらい、掃除、洗濯、食器洗いを頼んでいる。費用は1日1,500〜2,000円ほど。家がとても広いので、掃除機をかけるだけでも大変だという。島袋氏のシンガポールの家は住み込みで、料理もすべて作ってもらっている。夏原家では妻が栄養にこだわるため、料理だけは自分でして、後片付けなどを頼んでいる。

日本でも、子ども3人を抱えていた創業初期に家事代行を頼んでいた時期がある。当時の夏原氏は毎日会食で23時帰りだったため、妻の負担が大きかった。ただ、日本では1日安くても5,000円、高いと7,000〜8,000円かかり、週3回ほど頼んでいると、夏原氏自身が「これ8,000円の価値ある?」「シンクはもう綺麗なのに今日は掃除する所がないからキャンセルしようか」などと言い出してしまったという。日本で続けるのは難しいと夏原氏は振り返り、島袋氏はそれを海外移住の魅力の一つだとした。夏原氏によれば、マレーシアの住宅は多くがメイドルームを備え、家政婦が来ることを前提に設計されている。マレーシア人、インドネシア人、ミャンマー人などが個人で家事代行を請け負っているという。

M&A BANK in マレーシアで何を伝えるか

最後に島袋氏が、夏原氏に「マレーシア版」をお願いしたいと切り出した。夏原氏がなぜマレーシア版をやるのかと尋ねると、島袋氏は、マレーシアに移住したい人が増えていると感じていること、実際にマレーシアに住んでいる人が発信するほうが良く、シンガポールから自分が語るのは違うことを理由に挙げた。夏原氏も、住んでいるからこそ出てくる質問があると応じた。

島袋氏が見たいのは、M&Aの金額の大小よりも、マレーシアに来て豊かになった経営者の暮らしの中身だという。M&Aをしてマレーシアに移住した話や、マレーシア国内でのM&Aの話も聞きたいとしつつ、夏原氏の生活を通して視聴者が移住を具体的にイメージできるようにし、夏原氏にはマレーシア移住のロールモデルになってほしいと語った。夏原氏は、会社の売却とマレーシアでの生活をセットで考える人、つまりこういう生活がしたいから売却する、という人も出てくるかもしれないと述べ、島袋氏はそれでいいと答えた。

島袋氏はその背景として、日本でミニマムタックスのような形で売却時の税負担が上がりつつあることにも触れた。そのうえで、日本人や日本の企業は素晴らしいが、島国である日本の人が海外でさまざまな経験を積むことが日本を豊かにすると考えている、と語る。それは日本の良さを再認識することにもつながる。だからこそ、マレーシア移住を考えたときの実態がわかるようにしたい、と島袋氏は述べた。

夏原氏は、掘り下げる価値のあるテーマとして次のような人たちを挙げた。離婚してシングルマザーになり、英語ができないままマレーシアに移住して現地で就職しようとしている人がいる。物価が上がっている中で大丈夫だろうかと思いつつ、それを選べる国だという面もある。税制なども含めて理屈で考えれば、マレーシアより条件の良い国は多いはずだ。それでもあえてマレーシアを選ぶ人がかなりいるのには理由があるはずで、そこを掘っていくのは面白いかもしれない、と夏原氏は話す。

二人は視聴者に、知りたいテーマがあればコメント欄で寄せてほしいと呼びかけ、それを参考に深掘りしていくとした。こうして夏原氏が担当する「M&A BANK in マレーシア」の開始が宣言され、後編は締めくくられた。