26人分の業務をAI化した広告代理店は何をしたのか――株式会社AX・石綿文太氏が語るナーチャリング自動化と社内展開

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概要

株式会社AX代表の石綿文太氏は、26名で回していた業務をAIエージェント化し、1人で運用できる体制にしたという。聞き手(M&A BANKメインMCの島袋直樹氏)は、最初の打ち合わせでこの話を聞いたとき本当なのか疑ったと明かし、事業の中身、AIの導入方法、導入後の結果を尋ねていく。後半では社員の吉村氏にも話を聞き、AI化を現場の従業員がどう受け止めたのかを確かめている。

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成果報酬型マーケティングと「ナーチャリング」の負担

AXの前身となる事業は、成約時点で報酬を受け取る成果報酬型のマーケティング支援だった。本業は広告代理店で、SEOやSNS広告の運用を10年ほど続けてきたという。一般的なアフィリエイトは、広告で獲得した無料登録などのリードをそのままクライアントに渡して終わる。同社はそこから見込み顧客を「ナーチャリング」(育成)し、商談を経て成約した分だけ報酬を受け取るモデルを取っていた。聞き手は、広告から直接申し込ませる「ワンステップマーケティング」ではなく、まずメールアドレスなどの軽い情報を取ってから育てる「ツーステップマーケティング」をアフィリエイトとして運営していた、と整理している。

クライアントはプログラミングスクールなどのスクール系が多く、会社によっては月100成約以上を送客していた。ナーチャリングの対象は、プログラミングに興味がある人よりも手前の層である。「年収を上げたい」「会社に行きたくない」といった段階の人と継続的にやり取りし、プログラミング、デザイナー、キャリアコーチング、転職エージェントなど、その人に合った選択肢へ分岐させて提案していく。

この方式は、規模を拡大するほどインサイドセールスの人員を増やし、教育し続けなければならない点が最大の課題だったと石綿氏は語る。当時インサイドセールスは10名いて、1人あたり1日200〜500通の返信を朝昼晩と送り続けていた。全体では月1万5000通ほどを処理していたという。ほかに、インサイドセールスへの指示や広告運用を担うマーケター、広告のランディングページ(LP)用の記事を書くライター、デザイナーがいた。これらを合わせた26名分の業務をAIが担うようになり、金額にして年間約7200万円分の仕事をAIが引き受けた、と両者は確認している。

2022年から触っていたAI、2024年から自動化の検証

この体制で運営していたのは2年前、2024年までだという。GPT-4oやClaude 3.5 Sonnetが出ていた時期で、石綿氏はその頃すでにClaudeを使っていた。AIに最初に触れたのは2022年で、ChatGPTが2022年冬に公開されるより少し前、APIで使える時期に記事執筆に使えるかを試していた。もともとPythonや機械学習が好きで、広告運用に生かせないかといろいろ触っていたため、新しい技術を早めに追っていたと本人は説明する。AIとの付き合いは4年ほどになる。

当初はライティングに少し使える程度だった。人の業務をなくすような自動化の検証を始めたのは2024年に入ってからである。2025年3月の時点で該当業務はほぼなくなっており、その実績をもとに組織のAI化を支援するサービスを2025年4月に始めた。

LINE上で半年以上続く、AIによるやり取り

石綿氏は、自社で開発したLINEの対応ツールの実際の画面を見せた。広告経由で登録したユーザーと、AIがずっとやり取りを続けている画面である。

聞き手がまず目を留めたのは返信までの時間差だった。AIはすぐには返信しない。石綿氏によれば、ユーザーごとに最適な返信時間があり、それを分析して合わせているという。例として示されたのは片付けスクールの見込み顧客とのやり取りだった。数年前から片付けに悩んでいるという20行ほどの長文が早朝6時40分に届き、AIは7時6分に「おはようございます。片付けが思うように進まないと気持ちが重くなりますよね」と絵文字付きで返している。その後も約29分後の返信、相手が顔のスタンプだけを送ってきたときの応答、夜21時台の長文での励まし、翌朝5時台のやり取りと続いていた。聞き手は、商品にはまったくつなげず寄り添っている、友達と会話しているようだと評し、人がやれば残業が発生する時間帯だとも指摘した。

石綿氏によると、この相手とは半年以上やり取りが続いている。ナーチャリングは共感をベースにしており、プライベートな相談まで受けるほど関係ができてから紹介につなげる形になっている。これを人手でやり続けるのは本当に大変だったので、AI化のインパクトが最も大きかったのはこの部分だったという。

導入直後に成果は落ちなかったのか

聞き手は二つの懸念をぶつけた。一つは「自分たちの仕事をなくさないでほしい」というスタッフの反発、もう一つはテスト導入の段階では人が対応するより成果が落ちるのではないか、という点である。

後者について石綿氏は、すでに人がやり取りしたデータがあるかどうかで決まると答えた。10名のインサイドセールスの中にも成約率の高い人とそうでない人がいる。成約率の高い人のデータだけを参考にPDCAを回せば、最初からその水準に合わせた数値になる。そのため導入直後もCVR(コンバージョン率)は特に落ちず、むしろ上がったという。聞き手は、エース1人と他3人の平均値で戦っていたのが「エースが4人」になるようなものだと言い換えた。石綿氏は、AIの最大の活用法は自分の分身をつくることであり、能力の高い人のデータを使えば良いエージェントができると説明している。

必要なデータ量については、多いに越したことはないとしつつ、LINEであれば過去に成約した50〜100人分程度のデータがあれば十分いけるのではないかという見立てを示した。地域や店舗ごとの顧客属性、言い回しや方言への対応も、既存のやり取りのデータをもとにすれば問題なくできるという。

「AIでは」と聞かれたら、人とAIの併用

聞き手は、顧客はAIだと思っていないので、ばれたときに問題にならないかと尋ねた。石綿氏は、その場合は「AIではない」と返答するよう設定していると答えた。それが原因でクレームになったことはなく、そもそもほとんど気づかれていないという。聞き手は、自分なら気づくと笑っていた。

人とAIの併用もできる。時間帯によって、夜はAI、出勤後は人が対応する、といった切り替えが可能だという。実際、このツールを作った当初はスタッフがやり取りを見ていて、違和感があれば介入していた。データが溜まれば、最終的にはAIだけで回せる状態になるという。聞き手は、最初の数か月から1年ほどは人とAIを並行させ、成績の良い人のデータをAIに学ばせてクローンをつくるのが効率的ではないかと話し、石綿氏も同意した。聞き手はさらに、こうした対応が浸透すれば、顧客もAIだと分かったうえでやり取りするようになり、すぐ返ってくるAIのほうが良いと感じるかもしれない、自分はむしろそちら側だとも述べている。

ライター、デザイナー、マーケターの置き換えについて、聞き手は「上がってきたものを見て良ければ採用する」「広告管理画面の運用をロジックを組んで自動化する」という形でイメージできるとし、分からなかったのはインサイドセールスの自動化だけだったと話している。

AX CAMP――社内でAIエージェントをつくる人材を育てる

この実績をもとに同社が展開しているのが「AX CAMP」である。石綿氏によれば、AXが自社でやってきたような業務のAI化を、顧客企業が自分たちで開発できるよう人材を育て、社内にAI推進チームをつくる支援サービスだという。導入企業は、本業が広告であることからD2Cや広告代理店が6割ほどを占め、デジタル業務の多い会社とは相性が良い。聞き手は、自身が関わる育毛剤の事業にも同様のナーチャリングがあると反応した。

BtoBでの例も挙がった。営業会社で、上長が商談のフィードバックをしきれない部分をAI化する。ある会社では営業担当全員にAIの録音デバイスを持たせ、録音してこなかった商談は成約しても評価に入れない仕組みにして、全員が強制的にAIを使い始めるよう設計したという。聞き手は、大手商社が全社員の人事評価にAIスキルを入れるというニュースを見た記憶があると触れ(社名は自信なさげだった)、上場企業も導入していることを確認した。

石綿氏は、リスキリング助成金を使ったAI研修が流行していることに対し、それで本当に成果が出るのかと疑問を呈した。助成金を得るための形づくりになっている会社が多いと感じており、研修を1回入れても急には変わらない。そのため同社は、定例の場を設けて伴走するサービスにしているという。ゴールは、目標に向かって自律的に動くAIエージェント、つまり自分の分身を、参加者それぞれがつくれるようになることだ。多くの企業では部署単位で1人ずつ参加し、その人が各部署のエージェントを構築して業務を削減し、本来やりたかったことに時間を使えるようにする、という流れを描いている。データの扱いについては、ガバナンスやセキュリティの設計も含め、会社ごとに状況が違うため経営層と打ち合わせをしながらコンサルティングするという。

誰を参加させるべきか――「ジュニアの分身ができる」

誰を送り込めばよいかという質問に対し、石綿氏は、業務フローをよく理解している人が入ることが非常に重要だと答えた。「マーケ部門を丸ごと全員参加させたい」という相談には、いったん待ってほしいと伝えているという。ジュニアレベルの人が入ると、ジュニアレベルの分身ができてしまうからだ。マネージャーやリーダー以上の層が望ましい。一方、聞き手が「役員1人でもよいのでは」と尋ねると、役員1人では業務量が多すぎてやり切れないことが多いとし、事業の解像度が高い部長クラスを固めて参加させるのが最も良いとした。

コスト削減の事例と、仕事を失った人の行き先

石綿氏は、AIエージェント導入による費用削減の例を挙げた。月300万円ほどかかっていたLステップを解約して同等のものを自社で作った例、Salesforceを解約できた例がある。社内向けであれば、外注すれば1000万〜2000万円ほどかかるシステムでも、業務を理解している人がAIで作れば月数万円で回るものができるという。

聞き手は、経営者がみな抱えるであろう悩みとして、AIが仕事を奪った後、その人たちに何をさせるのかを問うた。石綿氏の答えは二つである。新規開拓をしっかりやらせるか、やればプラスになると分かっていながら手が回っていなかった施策に時間を割くか。作業的な仕事はほぼAIが取っていくので、それ以外の創造的な部分に人間を充てる方向に世の中は進むだろう、と同氏は見ている。聞き手が「残酷だ」「今でこれなら2年後はどうなるのか」と言うと、石綿氏も同意したうえで、どうせ皆がやることなので、今やらなければいつやるのかという話だと述べた。

社員はAI化をどう受け止めたか――吉村氏の話

聞き手は、AI導入には従業員の反発があるのではと考え、経営者側ではなく社員の話を聞きたいと依頼した。登場したのが吉村氏である。

自分の仕事がなくなることへの不安はなかったのかと聞かれ、吉村氏は、面白そうだと感じ、正直なところ怖さは当初からなかったと答えた。他のメンバーも同様で、もともと社内に好奇心の強い雰囲気があり、新しいことへの抵抗が少なかったことが前提にあったという。導入前に社長が全社向けに「AIはこうやって使う」という講義をしてくれ、それが面白くて皆のテンションが上がっていた。聞き手は、社長が誰かに指示して間接的に「AIを導入する」と伝えれば「自分たちは要らなくなる」と受け取られるが、社長自らが面白さをプレゼンしたから受け入れられたのではないかと整理し、吉村氏はそれを肯定した。

何が面白かったのかについて、吉村氏は実行の重さを挙げた。考えや「こういうことができたらいい」というアイデアはあっても、自分で実行しなければならないとなると詰まってしまう。AIに頼めばそこを代替でき、しかも自分のイメージどおりに動かせる点が面白いという。元の仕事はなくなったが、会社には仕事が無限にあるので、知らなかった領域に踏み出せるようになった。学習効率も上がり、新しいことに次々挑戦できるのが個人的にはずっと面白い、と話している。

経営者が従業員にどう伝えるべきかについて、吉村氏はAIに限らないとしながら、背景情報が非常に大きいと答えた。なぜAIを導入するのか、今の流れではAIを使わないことがマイナスになること、使えるようになればどんな未来が待っているか。メリットとデメリットの両方を説明したうえで、メリットの大きさが伝われば、やる気が出るという。聞き手がビジョンを語ることに近いと言うと、吉村氏は、理想を見せてもらえると「そこに行けたら面白そうだ」と感じる、少なくとも自分はそうだと答えた。

期間は6か月、社長自身が参加する選択肢

AX CAMPの料金は、初期費用が1人あたり20万円、月額は人数によって変わり、1人なら月20万円である。最低期間は6か月で、石綿氏は6か月ほど取り組めば、何でも片っ端からAI化できる人材が育つと述べた。聞き手は、中小企業であれば社長自身が参加するのも十分ありだと言い、石綿氏も、事業の解像度が最も高いのは社長であり、自身もそうしているとして同意した。ただし、しっかり取り組むには作業時間を確保する必要があるという。

サポートとしては、AIの勉強会、最短3時間後から入れられるショートミーティング、チャットサポート、定例ミーティング、AXが自社で使っているエージェントの設計やシステムの無償提供などを挙げた。聞き手が「これもAIなのか」と尋ねると、ショートミーティングとチャットサポートは人間が対応していると石綿氏は答えた。よく聞かれるため明確に切り分けており、AIエージェントによるチャットサポートは別に用意しているという。

自社で使っているエージェントの例として示されたのが、SEO用のブログ記事である。記事はすべてAIが書いており、内部リンクや、外に出して問題ない範囲の社内独自情報も含めている。半年ちょっと運用して月6万PVほどになり、問い合わせは月100件弱、運用はノータッチだと石綿氏は報告している。AIプロジェクトの伴走支援は1300件を超えており、その事例をもとに、顧客企業のどの業務をAI化できるかのチェックリストやプランニングも提案するという。

結び――営業なら商談以外はほぼAIで

最後に石綿氏は、AI化を徹底すると、たとえば営業では実際の商談以外の周辺タスクはほぼAIでこなせるようになると述べ、そこを一緒に目指したいと締めくくった。聞き手は、危機感のある経営者は、まず社長自身が取り組むのがよいのではないか、早めにやったほうがいいのではないかと述べて対談を終えている。