『耳をすませば』地球屋と『となりのトトロ』お父さんの書斎を、ミニチュアの建物から読む

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概要

金曜ロードショーの「夏のジブリ祭り」最終回で『となりのトトロ』が放送されるのに合わせ、岡田斗司夫は、以前は有料会員限定だった「ショートゼミ」の一回を無料公開した。2024年5月9日配信のショートゼミ第36回である。この回で岡田は、ジブリ作品の建物をペーパークラフトで再現したミニチュアを手に取り、映画の場面と照らし合わせて建物の構造と演出の関係を語っている。

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岡田の主張ははっきりしている。模型を作るとアニメの理解が深まる。特に宮崎駿の作品では、建物の立体的な構造がそのまま演出や伏線につながっているので、模型にするとそれが目に見えるようになる、というものだ。

さんけいの「ミニチュアート」とはどんなキットか

取り上げられたのは、「さんけい」というメーカーの「ミニチュアート」シリーズである。岡田によれば、このメーカーはもともと鉄道模型のストラクチャー(建物などの構造物)を作ってきた会社で、細部へのこだわりはそこから来ているという。

キットの部品は塗装ではなく色ごとに別の紙で用意されていて、レーザーカッターであらかじめ切り抜かれている。組み立てる人は、部品をつないでいる小さな部分をカッターで切り離し、はめ込んでボンドで留めればよい。ただし部品数が非常に多い。『耳をすませば』の地球屋のパッケージには組み立て所要時間18時間と書かれているそうで、岡田は「それは子どもや不器用な人の場合だろう、と思ったプラモ慣れした人でも17時間、不器用な人なら20時間かかる」と笑いながら大変さを強調した。なお、後半で岡田は地球屋の所要時間を16時間と言い直しており、発言の中で数字が揺れている。

地球屋を組み立てたのは岡田のスタッフの「美術部6号」である。特に苦労したのは外壁の装飾品と、ごく小さな自転車だったという。自転車はタイヤや荷台などを黒く塗る必要があり、その作業に手間がかかったそうだ。

地球屋:崖に建つ店と、裏へ下りていく動線

地球屋の模型は箱型の土台に載っていて、土台には高低差がつけてある。店の裏が崖になっていることを表すためで、岡田はこの高低差があるおかげで建物の面白さがよく分かると評価する。模型には、本編に登場しないガレージも作られている。岡田によると、ジブリ美術館にこれとかなり近い構造のものがあるという。

正面には店の玄関がある。その右側の小さな扉を開けて裏へ回ると、細い路地があり、階段がずっと下へ続く。下りきった先には2段になったベランダがあり、その奥が聖司のバイオリン工房、上の階が店舗になっている。岡田はこの構造を「日常と非日常のつながり」として面白がる。階段は一段ずつ組まれていて、18段ほどあるそうだ。

窓がたくさんあり、しかも形やフレームの厚みがすべて違う点にも岡田は注目している。岡田はこれを、建物が建て増しを重ねてきたことの表れだろうと推測している。木の部分は、紙で作った枝にパセリのような素材を貼って表現されている。

暗い通路から一気に開ける眺め:場面と建物の対応

岡田は文春ジブリ文庫のシネマコミック『耳をすませば』の画像を使い、映画の場面と模型を一つずつ対応させた。聖司が雫に「猫の人形見るか、来いよ」と声をかけ、二人は玄関の右側の小さな扉から中へ入る。自転車をそこに置いていくことも、模型を見ると分かる。

岡田が重視するのは、通路にいくつも屋根がかかっていることだ。扉を入ってすぐのところに屋根があるので、二人は一瞬暗い場所に入る。奥にはゴミ箱があり、それを避けて進むと、また屋根があり、その下に階段がある。階段を下りた先に、ようやくベランダが見えてくる。

扉を閉めた雫が「わあ」と声を上げるのは、この暗い通路の先で、縦長のパノラマのように景色が一気に開けるからだと岡田は説明する。向こうには聖蹟桜ヶ丘の住宅地が広がり、手前には丘があり、家がまるで空中に浮いているように見える。雫が「空に浮いてるみたい」と言い、「高いところ好き」と話しながらベランダまで下りていく流れは、この構造があってこそ成り立つ。対照的に、アニメには出てこない中庭は広々と明るく作られていて、そこも面白いと岡田は言う。

ベランダかバルコニーか

話の途中で岡田は「バルコニー」と「ベランダ」を何度も言い間違え、そのまま用語の違いを解説した。不動産サイトのSUUMOの説明によれば、上に屋根があればベランダ、屋根がなければバルコニーで、1階で屋根があるものはテラス、屋上のものはルーフバルコニーと呼ぶ決まりだという。

これに当てはめると、地球屋の下の階の張り出しは、上の階のバルコニー部分が屋根になっている。上の店舗側の張り出しにも雨よけの屋根がついている。したがってどちらもベランダだ、というのが岡田の結論である。言い間違えを録り直さなかった理由について岡田は、録り直すと原稿を読むような話し方になって、楽しそうに話せなくなるからだと語っている。

工房を通らせる演出と伏線

ベランダから中に入るとバイオリン工房があり、工房の奥の階段を上ると店舗に出る。岡田はこの動線を演出上の工夫として読む。表の鍵がないから裏を通るしかない、という理由付けはされているが、わざわざ下の階のベランダから工房を通らせることで、聖司がどんな少年なのかを雫にきちんと見せている。そのうえで階段を上がり、本来の目的だったバロンの人形のところへ行く。この流れが、その後の展開の伏線にもなっているという。

明るい丘の上の建物の小さな扉を入ると、真っ暗な廊下のような場所があり、そこから下を見ると吹き抜けになっていて、屋根の間から空が、下には街が見える。奥はベランダにつながっている。岡田はこの立体的な構成を、設定・伏線・映像の見せ場を同時に成立させたものとして高く評価する。

宮崎駿の頭の中には「カメラワーク」がある

この構造を岡田は宮崎駿個人の資質に結びつける。『耳をすませば』は近藤喜文の監督作だが、岡田によれば、絵コンテを宮崎が描いており、設定も宮崎が描いてしまっている。だからこうした立体構造は宮崎特有のものだという。ジブリ作品でも宮崎以外の人が描いたり監督したりした場合、建物そのものは面白くても、立体構造を使いこなして演出に結びつけるところまではなかなか届かない、と岡田は見ている。

岡田はその源流を、宮崎の実質的なデビュー作と位置づける『太陽の王子 ホルスの大冒険』に求める。動画として雇われた宮崎が、次々に設定を描きながら場面を膨らませていった頃から、宮崎の頭の中は特殊だったという。岡田はそれを「頭の中で立体が動いている」という平凡なものではないと言う。動いているのは「見せ方」であり、頭の中に常にカメラワークがある。岡田は、宮崎が生まれついてのアニメ作家だからこうしたことができたのではないか、と推測している。

お父さんの書斎:1部屋だけで18時間

番組の後半では、同じシリーズの『となりのトトロ』から「お父さんの書斎」が紹介された。建物全体ではなく1部屋だけの模型だが、それでも組み立て所要時間は18時間とされている。作ったのは「美術部5号」で、これまで『借りぐらしのアリエッティ』の家や『魔女の宅急便』のミニチュアを担当し、現在は『千と千尋の神隠し』の不思議な街全体の制作に取りかかっているという。

岡田はまず、この部屋が家のどこにあるのかを、シネマコミック『となりのトトロ』の画像で確認する。サツキとメイが引っ越してきて走り回り、お父さんが荷物を運んでいる場面に映る建物が全体像である。もともとの和風建築に洋風の建物を建て増ししてつなげた家で、書斎はその洋館部分にある。岡田によれば、この場面は朝に前の家を出て昼ごろに着いた設定なので、南からの日差しが入っており、洋館は南向きになっている。

結核の療養と風通しの設定

洋館の上部には、屋根を張らずに骨組みだけが出ている部分がある。岡田は、普段はここを開けておいて風通しを良くし、雨の時だけ布のタープをかけるのだろうと説明する。岡田が引く宮崎の設定では、この洋館は、家族に結核の病人が出たために建てられたものだという。

岡田によれば、昔は肺病にかかると、風通しの良い場所に寝かせることくらいしか手がなかった。『風立ちぬ』の菜穂子も、結核の療養所では寒い屋外にベッドを並べて寝かされている。新鮮な風に当たることが一番の治療法とされた時代だったので、この洋館も屋根を張らずに骨組みのまま残しているのだ、と岡田は読む。

拡大図を見ると、窓がかなり多い。2階があるのはこの洋館部分だけで、和風の母屋は平屋である。大きなコンクリート張りのテラスがあるのも、病人を家族から隔離し、ベッドを外に出して寝かせるためではないか、と岡田は推測する。2階の窓がある部屋は、まっくろくろすけがいた部屋だ。

書斎の細部と、ペーパークラフトでの表現

書斎の中は、奥に縄文土器の絵が掛かり、手前には本がひたすら積み上げられ、小さな布の笠がついた電気スタンドが置かれている。岡田はこの部屋をミニチュアにするのは非常に難しいと言う。奥の格子窓にはすりガラスが入っていて外が見えないが、キットではそのすりガラスもうまく表現されている。

サツキが入ってくる場面を見ると、床まである「フランス窓」になっていることが分かる。電気スタンドはお父さんの仕事に合わせて置き場所が変わるが、ミニチュアでは左側に固定され、その場面と同じ配置になっている。籐の椅子があり、その上に新聞のようなものが載っている。透明なガラステーブルもあり、アニメで確認してもなかなか気づかないが、部屋は意外にモダンだと岡田は言う。開け放たれたフランス窓や籐の家具も、患者のために空気を良くしていた名残だろうと岡田は見ている。メイが「お父さんはお花屋さん」と言って机に並べる花まで、小さく再現されている。

岡田が最初に驚いたのは、外の柱の根元が腐って細くなっているところまで作られていたことだった。サツキとメイが「腐ってる」と大騒ぎする場面がちゃんと再現されている。

和洋の床の段差と、隠し扉の省略

岡田が特に面白がったのは、書斎から和風の母屋へつながる部分にある小さな段差だ。アニメにもこの段差は出てくる。岡田の説明では、日本は湿気が多いので、和風建築は床を地面から大きく持ち上げ、人がかがめば入れるほどの床下空間をとる。一方、洋風建築は床が低く、今の住宅でも台所の床下収納を開けると20cmほど下にすぐ地面が見える。この高さの差を解消するために、ここにはごく小さな2段だけの階段が設けられている。キットはそこまで再現していて、芸が細かいと岡田は言う。

2階への階段は、引っ越しの日にお父さんがサツキとメイに出したクイズ「2階への階段はどこにあるでしょう」の答えである。外から見れば2階があるのに、二人が家じゅうを走り回っても階段が見つからない。最後にサツキが壁のような板をずらして扉を見つける。岡田によれば、その直前、二人がドタバタ走り回るロングショットで、サツキの真後ろにある壁のようなものが実は隠し扉だと分かるように描かれている。

ミニチュアでは、この隠し扉そのものはあえて作っていない。扉まで作ると周りの壁もすべて作る必要があり、作業量が増えるだけだからだ。代わりに階段側だけを再現し、ここに隠し扉があることが分かるようにしている。岡田はこれを良い表現だと評価した。

コロニアル様式の外観とティンバーフレームの内装

格子窓は、上が透明なガラス、中段がすりガラスで、外側に三角形の透明ガラスが入り、一番上と一番下の段には色ガラスが入っている。岡田は、お金持ちの家だからというより、昔の大工は放っておいてもここまでやってくれたのだと言い、そういう時代の建築だと分かると述べた。

外観について岡田は、アメリカのコロニアル様式の建物だと説明する。石で家を建てるヨーロッパに対し、植民地のアメリカや南方では木材が豊富なので、木で家を建てる文化が生まれた。板を下から順に重ねて張っていくと、通気性が良く、雨もよく弾く建物になる。一方、室内は茶色い木の骨組みが見えるティンバーフレームの内装で、クリーム色の壁とのコントラストが良いアクセントになっている。岡田によれば、海外ではむしろ外側がティンバーフレームで内側が漆喰という建物が多い。この家は外が白っぽい板張り、中がティンバーフレームという組み合わせで、それが夢のある可愛い部屋になっている、と評価した。

そのうえで岡田は、ジブリアニメの建築を扱った本はあるものの、なぜこれほど可愛く見えるのかを解説している人がいないと指摘する。建築の専門家に、YouTubeでも何でもいいのでジブリの建物について語ってほしいと呼びかけた。

作るのに必要な道具

岡田によれば、必要な道具はつまようじ、ボンド、カッターくらいである。カッターは透明な窓を切り出すのに使う。両面テープもあったほうがよく、透明な窓を固定する時には「両面テープがこの世にあって良かった」と思うほど助かったという。ボンドは一度紙の上に少し出し、つまようじの先につけて部品に少しずつ塗るとうまくいく。週末2回分くらい楽しめると岡田は勧めている。お父さんの書斎は当時品切れで、オークションやメルカリで買う人も多いが、組み立てを諦めて手放す人も多いので、メルカリでも案外手に入るという。

追加紹介:オート三輪と「トトロがいっぱい」

無料公開にあたり、岡田は同じシリーズの『となりのトトロ』作品を二つ追加で紹介した。

一つは「草壁家の引っ越し」と題されたオート三輪のジオラマで、こちらは岡田自身が作った。土手の上ではおばあちゃんとカンタが見ていて、カンタは東京から女の子が来たと眺めている。荷台の座席にはサツキとメイが隠れ、お父さんは運転手の隣に座っている。オート三輪単体のもっと大きなミニチュアもあるが、この小さいほうでも荷物がアニメどおりの配置で全部載っていて、360°どこからでも見られるのが良いという。後ろにはお父さんの自転車が無理やりくくりつけられていて、岡田は、今こんな載せ方をしたら道路交通法違反になるだろうと笑った。Amazonでの価格は8,158円で、組み立てには20時間くらいかかるだろうと話している。

もう一つは、2018年に『となりのトトロ』公開30周年記念として発売された「トトロがいっぱい」というジオラマだ。あまりに大変なので美術部に作ってもらったという。真上から見ると葉っぱの形をしていて、葉っぱの上にトトロの世界を再現したという触れ込みである。オート三輪がやってくる道、荷物を運び込む縁側、のちに書斎になる部屋、トトロからもらった木の実を植える場所、小さな池、メイが初めて見つけて眠っているトトロ、井戸と風呂場らしきスペース、そしてサツキがトトロと初めて出会ったバス停までが、一周するように配置されている。Amazonでの価格は2万3,543円で、サイズの割に高いが、普通の人が作れば1週間から2週間は楽しめると岡田は言う。これは案件動画ではないと断ったうえで、「大人の夏休みの自由研究」として好きな作品を一つ作ってみることを勧めた。

ショートゼミのその後

最後に岡田は、ショートゼミは2023年に始まり、2026年6月に終了するまでに全83回配信されたと説明した。今回のように、おもちゃやミニチュアを見せながら話す回が多かったという。2026年7月からは限定会員でも全編を見られるようになったと告知し、ジブリ祭りが今週で終わることに触れて、年末にまたやるだろうか、と言いながら動画を締めくくった。