「ドパガキ」から死の瞬間の脳波まで:慶應の脳科学研究者deribaが語る、やる気と学習の限界
街録ch〜あなたの人生、教えて下さい〜慶應義塾大学の博士課程に在籍しながら会社を経営し、YouTubeで脳科学を発信しているderibaさんは、約10年にわたって記憶と学習を研究してきた。インタビューの問いは、なぜ現代人はやる気を出しにくいのか、脳を変えることで集中力や学習能力を高められるのか、の2点である。deribaさんは、やる気や集中力の差を「脳の違い」とみなしている。そのうえで、遺伝で決まっている部分があっても、それを変える方法を見つけるのが脳科学だという立場をとる。話は、ショート動画とドーパミン、シータ波の新しい測定法、ニューロフィードバック、死の瞬間の脳波、そして本人の挫折経験と将来像にまで及んだ。
大学院生、経営者、発信者としての10年
deribaさんは収録時点で32歳になる週だった。本人の説明では、肩書きは分かりにくいという。慶應の大学院では博士課程の3年目にあたるが、「研究者と名乗るには若干弱い」と自ら言う。並行して自分の会社を経営しており、脳科学系の受託業務や実験データの解析代行などを請け負っている。さらにYouTubeでの発信も続けている。どれも脳に関わる仕事で、脳に携わってからおよそ10年になる。
メインの研究テーマは一貫して記憶と学習だ。きっかけは、自分の勉強がなぜこれほどうまくいかないのかという疑問だった。勉強に集中できない、記憶できないといった問題の原因を突き詰めた結果、脳に原因があるのだろうと考えるようになった。そこから、記憶や学習の能力を脳科学的に高める方法を探っている。
YouTubeでは、やる気の出し方を扱った動画が約90万回再生された。「10年脳科学をやった人がどんな結論を出すのか」はテーマとして分かりやすく、伸びるとは予想していたが、実際の反響は想像をはるかに超えたという。
「ドパガキ」はなぜ生まれるのか:即時フィードバックと遅い報酬
聞き手は、今の人はやる気を出すのが大変になっているのかと尋ねた。deribaさんの答えは「それはあるんじゃないか」である。YouTubeショートやゲームのように面白いコンテンツがあふれているため、読書や勉強のような「やらなければいけないこと」が相対的につまらなくなっている、という見方だ。
いわゆる「ドパガキ」については、ドーパミンは専門ではないと断ったうえで次のように説明した。ショート動画は、見るとすぐに報酬が得られる。ここでいう報酬は「楽しい」という感覚で、ドーパミンが出ることに相当すると考えられる。加えて、すぐに結果が出る「即時フィードバック」があるとドーパミンが出やすい。ショート動画はスライドするたびに新しい動画が出てくるので、その繰り返しは「絶対楽しい」。一方、勉強の成果が出るのは1か月後や1年後で、フィードバックが非常に遅い。だから勉強が楽しいはずがない、とderibaさんは言う。この差が「ドパガキ」と呼ばれる状態につながっているのではないか、という見立てである。
聞き手は、本来は何らかの努力を払ってドーパミンという報酬を得ていたのではないかと問いかけた。deribaさんはおおむね同意し、最近は頑張らなくてもドーパミンが得られる世界になっているのだろうと述べた。
ドーパミンは報酬であり燃料でもある
ドーパミンは報酬であると同時に、行動を起こすための燃料のようなものでもあるのではないか。聞き手のこの問いに、deribaさんは「まさにそう」と答えた。ドーパミンがあるからこそ、人は頑張って勉強しよう、成功しようと思う。逆にドーパミンがなくなるとどうなるかについては、パーキンソン病にドーパミンの枯渇が関係しているという話が確かあった、と記憶を頼りに触れた。当然必要なものだが、それが「ハックされてしまった」のが現代社会だという感覚があるという。
ショート動画で出たドーパミンを勉強に振り向けられないのかという質問も出た。deribaさんの考えでは、ショート動画を見て出たやる気は、おそらく「ショート動画を見るためのやる気」である。それを勉強に振り向けるのは難しいだろうし、止められなくなってしまっている、という。
記憶とシータ波:「パソコン1台」で海馬の特徴を推定する
deribaさん自身の研究の中心は、記憶に関わる神経活動、とくに脳波である。脳波にはアルファ波やベータ波などいくつかの種類があり、そのうちシータ波が記憶において重要だといわれている。シータ波の出方は人によって違い、強い人もいれば弱い人もいる。その特徴が分かれば、たとえばその人が認知症になりそうかどうかが分かるのではないかといわれている。
問題は測定の難しさだ。記憶に関わる海馬のシータ波は、何億円もする装置を使わなければ測れないとされてきた。これに対してderibaさんは、偶然の発見だとしたうえで、パソコン1台でそれが分かるという内容を最近の論文にまとめた。
方法の説明として、deribaさんは聞き手に「Appleの日本語訳は?」と尋ね、「りんご」と答えさせた。思い出すのにかかったのは1秒ほどである。こうした想起を300回ほど繰り返すと、所要時間は1秒、0.8秒、1.1秒とばらつく。何百回分も集めると分布が描け、その分布の特徴を統計的に分析するとシータ波の特徴が現れる。この現象を報告したのだという。
これから取り組もうとしている応用は、スマホ1台でその人のシータ波を知り、ひいては認知症になりやすいかどうかを推定することだ。deribaさんは「もしかしたら分かる」という言い方をしており、まだ構想段階の話である。
やる気に即効薬はない:脳そのものを変えるという発想
やる気が出ないときにどうすればよいか。deribaさんが出した動画の結論は「即効性のある方法はない」だった。やる気や集中力は脳の違いによるもので、集中しやすい脳を持つ人はずっと集中でき、そうでない人はできない、とderibaさんは考えている。だから「今日これをしたからやる気が出る」という一時的な方法ではなく、脳を根本的に変えることが必要だという。
エビデンスのある方法としては、睡眠と有酸素運動を挙げた。ただ聞き手が指摘したとおり、有酸素運動をするにもやる気が要る。deribaさんも「そこが難しい」と認め、もともとやる気がない人には、自分も含めてなかなか難しいと話した。
そのうえで、多くの人がまだやっていない方法として勧めたのが瞑想である。やり方は、目を閉じて呼吸をじっと観察し続け、雑念が浮かんだら気づいた時点で呼吸に戻す。それを繰り返すだけだ。数千年前にブッダが行い、現在まで受け継がれてきたこの修行が、脳の構造も変え、次第に本当に集中できるようになっていくらしい。そのことがここ数十年の研究で示されているという。スピリチュアルなイメージがあるという聞き手に対し、deribaさんは論文の数でいえば数千本は出ているのではないかと述べた。脳の研究者の間では「瞑想は本当にすごい」という認識をみんな持っているのではないか、とも語った。
遺伝で決まる勤勉性と、それを変えるためのニューロフィードバック
心理学では性格を「ビッグファイブ」で測定する。そのうちやる気に関わるのは勤勉性で、双子研究からほぼ遺伝で決まることが分かってきている、とderibaさんは説明する。しかしderibaさんは、遺伝で決まっているから変えられない、とは考えていない。決まっているものを変える方法を見つけるのが脳科学だ、というのがderibaさんの立場である。
いま注目しているのがニューロフィードバックだ。deribaさんのプロジェクトでは、簡単に脳波を測れるコンパクトなデバイスを開発している。1分ほど装着すれば測定できるという。収録ではその場で実演した。本体を首にかけ、耳に挟み、額にセンサーをつけると、前頭葉の脳波がアプリに表示される。瞬きをすると波形が大きく揺れる。
生の波形を見てもよく分からないので、アプリではこれを映像に変換する。画面には重なり合った複数の円のような図形が現れ、それが脳波の乱れ具合を表している。脳が集中しやすい状態になるほど、この図形はまとまって一つの円に近づく。deribaさんが目を閉じて集中すると、確かに図形はまとまった。人前なのでなかなか難しい、とも付け加えていた。
これを続けると、意識をこのあたりに向けると図形がまとまる、という感覚が次第に学習と結びついていく。やがて「常にここに意識を置けば集中できる」という癖がつき、自然と集中しやすくなったり、やる気が出やすくなったりする効果がある、とderibaさんは説明した。ニューロフィードバックの研究自体は1960年代ごろからあり、当初は発達障害の治療として進められてきたという。deribaさんのチームは、使いたい人が日常的に使えるようにすることで、多くの人の集中力や仕事の生産性、勉強の力を上げられるのではないかと考えている。
集中の仕方は人によって違うらしいが、共通点もある。ゆっくり呼吸に意識を向けることや、姿勢を良くしたほうがうまくいくことだ。学校で「姿勢を良くしろ」と言われてきたのは正しかったのかもしれない、とderibaさんは感想を述べた。デバイスは12月ごろから、つまり半年以上前から作り始めた。本人はほぼ毎日使っており、筋トレを毎日やれば筋肉が大きくなるように脳波も変わってきたという。「脳そのものを鍛えている感覚に近い」というのが本人の体験談である。
メンタルは脳の一部か
やる気が出ないのはメンタルのせいなのか。そもそもメンタルと脳はどういう関係なのか。この問いに対して、deribaさんは明快に、メンタルの不調は全部脳そのものの問題だと考えていると答えた。自分がメンタルを病んだときも「脳の調子が悪いんだな」と思う。目の前の人がメンタルを病んでいたり悪口を言ってきたりしたときも、普通はイラつくところを、「今この人の脳の調子が悪いのかな」「セロトニンがどうなっているのか」と考えてしまうという。
肉体と精神を分けて考える心身二元論のような捉え方は、あまり理解できないという。占いは好きだが、楽しいからやっているだけで信じているわけではない。脳が死ねばすべて終わると思っている、と述べた。ただしそれは「99%ぐらい」の確信だ。残りの1%については、分からないことのほうが多いのだから魂やお化けが存在してもいいとは思っている、と留保をつけた。
死の瞬間の脳波:ガンマ波のバーストは走馬灯か
deribaさんは、死の瞬間の脳波を解析した動画も公開している。元になったのは公開データである。昏睡状態などで意識はないが心臓は動いている患者について、脳波を測りながら人工呼吸器を外し、亡くなるまでを記録したものだ。誰でもアクセスできる状態だったので解析してみたところ、「まあまあ面白い」結果が出たという。
deribaさんの記憶では、呼吸器を外してから5分後か数分後に、ガンマ波のバーストのようなものが出た。ガンマ波は平たく言えば脳活動の高まりと考えられるもので、それが数秒から10秒ほどの間、急激に上がったという。普通に生きているときにはめったにそこまで出ない。ただし出る・出ないは0か1かではない、とも補足した。生きている人で出る例としては、何十年も瞑想を続けてきた熟達者でガンマ波が出るというデータがあるという。瞑想が深い段階に入ると意識状態も変わるといわれており、死の直前の状態もそれに近く、いわゆる走馬灯を見ている可能性はありそうだ、とderibaさんは述べた。ただしこれは仮説であり、確かめようはないとはっきり断っている。
応用の可能性として、deribaさんはまず倫理的な側面を挙げた。それが本当に走馬灯なら、まだ意識が戻る可能性があることになる。そうであれば、安楽死や人工呼吸器を外す判断を簡単にすべきではないという議論や、脳死とされていたが戻る可能性があるのではないかという議論につながりそうだという。死んだと思われていた人を復活させる方法があるのではないか、という話にも触れた。ただ、まだ分からないことが多すぎるとも付け加えた。
「死にたい」という気持ちと理性
生存本能を脳が司っているのなら、死にたいという気持ちは脳のエラーなのか。聞き手の問いに、deribaさんは自分も死にたいと思うことはあると明かしたうえで答えた。進化的には、死にたいと思ってはいけないはずだ。本能だけで生きているなら死にたいとは思わないだろうし、動物は基本的に自殺しないと思う。人間は理性が本能を超越してしまった生き物だ、という見方である。節食や特攻のように進化的には説明がつかない行動も、理性が発達しすぎた結果なのだろうという。
ここでいう理性は、主に前頭葉が司る働きである。deribaさんによれば、理性はもともとプログラムされた行動から外れるときに必要になるものだ。空腹だから食べるのは本能にプログラムされた行動だが、ダイエットのために食べるのをやめるのはそこから外れる行動である。そのときに働くのが前頭葉の活動、いわゆる実行機能で、それが理性なのだろうと話した。
神童からの転落と東大浪人
deribaさんは東京・町田の出身だ。父親は工業高校を出てメーカーの営業一筋、母親はパートをしていた。小学生の頃はかなり勉強ができ、クラスのテストではだいたい1番だった。塾の全国ランキングで10番ほどに入ることもあったという。将来の夢は特になかったが、文集には一応サッカー選手と書いた。恐竜が好きで、科学もゆるく好きだった。両親から勉強について何か言われたことはなく、自分から楽しんで勉強していた。
受験をせずに公立中学へ進むと、同じようにやっているつもりでも全国ランキングに載らなくなっていった。10人ほどの塾のクラスでも下のほうになり、当時はそれがとても悔しかった。理由は今も分からない。振り返れば単に発達が早かっただけかもしれない、とderibaさんは言う。ただ、「あんなにできたはずなのに、なぜ」という思いは、おそらく今の研究につながっているという。
高校は青山学院に進んだ。成績は良くなく、赤点も取っていた。目指すならいちばん上だと東大を志望し、高校の早い時期から受験勉強を始めたが、現役でも一浪でも合格できなかった。青学ではほとんどの生徒が内部進学するので、外部受験をする人自体が少なかった。学びたいことがあったわけではなく、「試したかった」という不純な動機だったと本人は振り返る。もっと勉強できるようになりたい、1番になりたいというコンプレックスに近いものであり、今思えばくだらないとも思う、と語った。
1日4時間の壁と、根性論をあきらめた経験
やる気や集中力の問題に直面したのは、まさにこの高校時代だった。受験勉強では1日10時間やれと言われ、実際にそれだけ勉強する人も多い。それなのに自分は1日4時間できれば良いほうだった。8時間できれば倍になるのにと思いながら、それ以上やると机に向かうことさえできなくなった。体が弱かったこともあるかもしれない、とderibaさんは言う。当時出ていた心理学系の本も読んだが、時間を計ると集中できるといった程度の内容しかなく、試しても何も変わらなかった。そこで小さな無力感を覚えたという。
気合が足りないのかと考え、1日15時間無理やり勉強する「キャンペーン」を試したこともある。1日目はなんとか13〜14時間できた。2日目は8時間ほどで力尽き、3日目からは2週間ほどうつ状態になって、1時間も勉強できない日が続いた。そこで自分に根性論は無理だと気づき、あきらめた。脳の個人差なのだという結論に至り、「無理なものは無理」と思ったのはそこが最初かもしれない、と話している。
当時から、原因は脳か体にあると考えていた。病気ではないかと調べたり、整体に通ったりもした。一方で精神科には行かなかった。深刻な病気の人が行く場所というイメージがあり、自分はそこまでではないと思っていたからで、今も行っていない。高校時代は実際には、うつに近い、不安障害のような状態だったという。ストレスや睡眠不足が重なっていたのか、人に見られることに過度に緊張し、人前でペットボトルの水を飲もうとすると手が震えてできない時期があった。母親はそれを察していて、サプリを勧めたり、こういう病気ではないかと声をかけたりと、よく支えてくれたという。ただ、当時は根本的には良くならなかった。
浪人すると生活が変わった。高校時代は毎朝30分ほど満員電車に乗るのもストレスだった。浪人中は駿台予備校まで毎朝自転車で通うことになり、日差しを浴びながら強制的に運動する生活になった。それが良かったのか、メンタルはかなり落ち着き、現役時代よりは勉強もできた。行動で脳の状態が変わると思った最初のきっかけかもしれない、とderibaさんは言う。
最近になって知ったこととして、「ニード・フォー・コグニション」という概念も紹介した。考えることが好きか、何もなくても考え事にふけりがちかを測る尺度で、テストを受けたところ上位1%ほどだったという。インタビュー中にも「こんな話を聞いて視聴者は面白いのか」と考えてしまうし、人間関係でも考えなくていいことまで考えてしまう。だから疲れやすいのだろう、と最近は思っている。ずっと直すべき欠点だと思ってきたが、考え事をするからこそ研究につながっているので、長所の裏返しなのかもしれない、とも話した。
SFCで出会った脳波の「ロマン」
東大には届かず、deribaさんは慶應の理工学部に入学した。その後、SFCに転部する。SFCでは音楽に関する研究も、デザイナーを目指す勉強も、ビジネスも学べ、その選択肢の一つに神経科学・脳科学があった。何にでも興味があったのでいろいろな授業を取ったが、脳の授業がいちばん刺さったらしい。20歳ごろのことで、気づいたら脳科学の研究室に入って10年が経っていた、と本人は言う。
何が刺さったのかと聞かれて挙げたのは、実習で自分の脳波を測り、分析した経験だった。自分の脳の波形がデータとして出てくる。この瞬間に何が起きているのだろう、これが自分の意識そのものを示しているのだと考えると、ロマンを感じた。星空を眺めて綺麗だと思うように、脳波を眺めている時間に幸せを感じられたという。10年続けられたのは、観察することの楽しさが大きかったからだろうとderibaさんは言う。
脳波は人によってまったく違い、共通の法則性があるとはまったく思えないという。10年やってきても、こうだと思った仮説は必ず裏切られる。つかみどころがなく理解が難しい対象だからこそ、考えることが好きなderibaさんにとっては格好の研究対象で、簡単に理解できてしまうとつまらなく感じてしまうのだという。
同じ理由で、冒頭のドーパミンの話にも留保をつけた。ドーパミンが出るからやる気が出る、こうだからドパガキになる、といった説明は仮説としてはあるが、おそらくほとんど間違っている。実際の姿はもっと複雑なので、脳科学は分かりやすく人に伝えるのが実はものすごく難しい学問だ、とderibaさんは語る。暫定的に言えることも少なすぎるという。例として挙げたのが意識である。手のひらに意識を向けるという意味での意識、意識があるかないかという意味での意識、コンピュータに意識があるかという問題、自分が見ている赤が他人にも同じ赤として感じられているかというクオリアの問題。どれも「意識」と呼ばれるが、それぞれが脳内でどんなメカニズムによるのかはほとんど分かっていない。仮説はあっても検証できないので、日常の意識一つとっても何も分かっていないのが現在地だ、とderibaさんは述べた。
記憶と学習を選んだ理由:塾講師の6年と、将棋・AIの「限界」
記憶と学習をテーマに選んだ理由は二つある。一つは、自分の受験勉強がうまくいかなかったという感覚。もう一つは、塾のチューターとして6年ほど勉強を教えた経験だ。最初は、自分がきちんと教え、生徒がきちんと勉強すれば誰でも良い大学に受かると思っていた。しかし実際には、自分も頑張って教え、生徒も頑張ったのに、思ったような結果にならず「浪人することにしました」と言われることがあった。それを6年繰り返すうちに、そんなに単純ではないと思うようになり、原因を突き詰めるなら脳を研究するしかないと考えたという。
deribaさんは、人によって限界があると考えている。例に挙げたのが将棋だ。プロ棋士はおそらく皆、同じように膨大な時間を費やしている。それでも七段までしか行けない人もいれば九段まで行く人もいて、藤井聡太のような圧倒的な棋士もいる。それは人によってある程度の限界値があるということだ、とderibaさんは見る。さらにAIは藤井聡太よりはるかに強く、プロ棋士が100回戦ってもおそらく勝てないレベルにある。人間はどれだけ時間を費やしてもここまでしか行けないが、AIはもっと上にいる。deribaさんが知りたいのは、その限界を超える方法だ。1万時間を費やしてもここまでしか行けないところを、気づいたらAIを超えているような学習方法を知りたい。それも研究の動機の一つだという。
間違えたときの脳の反応が、学習の限界を決めている可能性
その足がかりになる実験として、deribaさんは新しいパズルのような課題を作り、被験者に学習させた。将棋よりはもちろん単純な課題だ。うまい人は1時間ほどでかなり上達するが、苦手な人は1時間かけてもほとんど学習できない。東大生にやらせると皆うまいという。つまり、学習が得意な人と苦手な人を切り分けられる課題である。
この課題中の脳波を測ったところ、学習がうまい人は脳活動がやはり少し違っていた。サンプルは30人ほどで、deribaさんはまだ不十分だと断っている。違いが出たのは、間違えたときに脳がどう反応するかという指標だった。さまざまな指標の中で、それだけが明らかに学習の上手さと相関したという。deribaさんはこれを、間違えたときにちゃんと悔しがり、そこから学べる能力そのものが学習の限界を決めている可能性がある、と解釈している。そこを意識で変えるのか、ニューロフィードバックで変えるのかはまだ分からない。ただ、その方法が見つかれば自分はもっと賢くなれるかもしれないし、人間がAIに勝てるかもしれない、という。
間違えることそのものが悪いのではなく、間違いから学べないことが悪い。間違いから100%学べれば、圧倒的に学習が得意になれるだろう、とderibaさんは考えている。聞き手が「間違いを恐れないことも大事なのか」と尋ねると、deribaさんはむしろ間違いは恐れてもいいと答えた。間違えるのが怖いからこそ、次は間違えないようにしようと思う。間違えてもどうでもいいと思っていたら学習できない、という理屈だ。
例に挙げたのが藤井聡太の負けず嫌いである。5、6歳の頃にプロ棋士に負けたとき、プロに負けるのは当たり前なのに、悔しくて将棋盤に泣きついて離れなかったというエピソードがあるらしい、と紹介した。失敗するのが嫌で仕方ないからこそあそこまで行けたのだと思う、とderibaさんは言い、間違いを嫌がる気持ちはむしろあったほうがいいと述べた。そのうえで「全部仮説なので、これは間違っているかもしれない」と自ら付け加えている。
ニューラルネットワークで見えた「学習率」の問題
AIがどのように学習しているかを解析し、人間に応用できないのか。聞き手のこの問いに、deribaさんは試しにやったことがあると答えた。AIと呼ぶほど大げさなものではなく、「AIの小さい版」のような簡単なニューラルネットワークを作り、人間に解かせたのと同じ課題を学習させたという。
パラメーターを変えると、人間よりはるかに速く学習が進むこともあれば、人間より全然学習できないこともあった。つまりパラメーター次第で学習が得意なAIを作れることが分かった。注目したのは「学習率」、あるいは「更新率」と呼ばれる値で、1回の刺激でどれだけ変化するかの程度を表す。これが大きすぎると学習がうまく進まない。1回の学習から影響を受けすぎるとうまく学べず、逆に1回で学ぶ量をほんのわずかにとどめると、むしろ限界値が上がっていく。deribaさんは、これはまだ内部データであり、きちんと検証しなければならないと断っている。
これを人間に当てはめると、1回の学習で変化する量が大きすぎると過去の情報が失われ、学習しているつもりで全部忘れていくことになる。大事なのは、学習したときに過去の情報を失わない能力なのではないか。これはAIから着想を得た、いま考えている段階の仮説だという。聞き手が「定着する前にさらにインプットするのは良くないということか」と確認すると、deribaさんは「そうかもしれない」と答えた。人間は一つの学習が定着するまでに時間がかかり、すぐ次に進むと忘れてしまう。AIにはその制約がないので、1秒に1回のペースで無限に学習できる。だから当然、人間より将棋が強くなる、という説明だった。
研究とビジネスのあいだ
大学にはすでに10年ほど在籍している。deribaさんはこれを「情けない話」と言う。研究に時間がかかりすぎているということだからだ。転部で1年遅れ、さらに博士課程が長引いている。日本の博士課程は3年で修了できるが、すでに6年目だという。
収入は年によって変わる。現在は自分の会社の収入に加え、ベンチャー企業に籍を置いて在宅で働いている。また、deribaさんの説明では経産省のプログラムである「未踏アドバンスト」に前年に採択されており、9月まで続くその予算で、先ほどの脳波デバイスとアプリを開発している。いちばん実現したいのは、これをビジネスとして成立させることだという。
目的は生活のためだけではない。たとえば1000人が脳波計を持っている状況になれば、「脳波計アルバイト募集」を流すだけで皆が自宅で実験に参加できる。これまで数十人規模で論文が出ていた研究を、1000人、1万人のデータで行えるようになる。deribaさんは研究の構造そのものを変えたいと考えており、ビジネスとして成り立ち、かつ研究にもつながる状況を作ることを目標にしている。当面はこの形になりそうだが、どうなるかはまだ分からない。ビジネスが成功した後にアカデミアに戻る可能性も大いにある、と話した。
聞き手が「32歳の研究者として高く評価されているのでは」と言うと、deribaさんは即座に否定した。研究者は論文の数や重要性で評価されるが、その枠で見れば自分は下っ端で、「研究者偏差値は40ぐらい」だという。ビジネスや発信を総合して評価してもらっている、というのが本人の認識である。
研究でお金を稼ぐことを嫌う清貧主義的な空気は、多くの研究者にあるという。それは良いことでもあるが、やりづらさにもなっている。胡散臭いことを言い始めれば研究仲間から嫌われるし、ビジネスには誇張がつきまといやすい。「ニューロフィードバックをやれば集中力が上がります、記憶力が上がります」と断言すればもっと売れるだろうが、断言できるほどのエビデンスはまだ溜まっていない。誠実にやろうとすればビジネスのスピードは落ちる。ビジネス側の人からは「もっと大胆にやれ」と言われるので、バランスを取りながら進めているという。
脳科学の先にあるのは理想郷か、ディストピアか
最終的な目標を問われると、deribaさんは「意外とない」「明確じゃない」と答えた。考えすぎる性格ゆえに、脳科学が進みすぎた未来はディストピアになりかねないとも思っている。脳波を測っただけでその人の限界が分かってしまう。結婚相手として向いていないことが分かってしまう。突き詰めればそうした世界もありうる。その未来を目指すべきなのか、何が良いのか分からなくなるという。聞き手が国家が国民の脳波を管理する怖さに触れると、deribaさんも同意した。AIの進歩によるセキュリティ上の問題や、いつ核戦争が起きてもおかしくない状況も、科学が進んだからこそ生まれたリスクであり、どうせそういうことは起きる。だからこそ、そうならない側に何とか貢献したい、と話した。
それでも、「脳科学で学習に革命を起こしたい」と言い続けてきた以上、それは達成したいと思っている。そして脳科学そのものが面白いので、それを続けられること、その面白さを伝えられることができれば一旦はいい、という。ビジネスも含め、すべての起点は目の前の好奇心にある。
高校時代に根性論をあきらめたことは、今の研究の出発点になった。一方で、疲れやすい性質の裏にはずっと考え続けられるという長所もあるのだろうし、そんなに単純な話ではないのだろう、とderibaさんは述べてインタビューを終えた。
今の人ってこうやる気出すのが、なんか大変になってるってことでもあるんですか?ドパガキとかいう言葉もあるじゃないですか。
そうね。そう。
脳科学的にはどういう状態とかあるんですか?
ショート動画とか見ると、すぐ報酬が得られる。報酬っていうのは楽しいなとか、その楽しいなっていうのはドーパミンが出るみたいなことだと思うんですけど。あとすぐに結果が出るみたいな。そういうのがあるとドーパミンが出やすい。だから勉強したことが結果出るのって1ヶ月後とか1年後とかじゃないですか。フィードバックがすごい遅いんですよね。なんで楽しいはずがないんですよ。最近は頑張んなくてもドーパミンが得られる世界になってるみたいなことはありそうですよね。
死ぬ瞬間の脳波みたいな動画も出してましたよね。
出しました。元々昏睡かなんかで意識はない感じなんですけど、心臓は動いてると。で、そういう感じで、脳波を測りながら人工呼吸器を外すのかな。で、呼吸器を外すと何分後かに亡くなるので、外してから数分後にめっちゃガンマ波のバーストみたいなものが出るということが分かって。このガンマ波っていうのは要するに脳活動の高まりみたいなもの。普通に生きてる時には滅多にそんなに出ない。要するに走馬灯というかを見てるような……もしそれが本当に走馬灯なんだとしたら、まだ意識が戻る可能性があるってことじゃないですか?
自殺したいみたいな気持ちとか、死にたいっていう気持ちっていうのは、脳のエラーとかっていうことなんですか?
人間ってもう本能だけで生きてるとしたら、絶対死にたいとは多分思わないじゃないですか。基本的には。切腹とか、特攻とか、それも進化的にはわけわかんないですけど。だから人間は、その……
すいません。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
横浜鶴見で女性が笑顔になるための安全安心な医療を提供し続ける朝夫人家朝安さんの提供でお送りします。
デリバさん、今現役で慶應大学で脳科学の研究者をやられてるっていうこと?
一応色々やってるんで分かりづらいんですけど、今一応大学院の博士課程の3年なんですよ。だから研究者って名乗るには若干弱い気もするんですけど。それと、自分で会社もやってはいて、株式会社デギノっていう会社なんですけど、そこでは脳科学系の受託とか、例えば実験の解析の代行とかやったりする。そういうのやりながら生計立ててるみたいな感じなんで、一応全部脳に関することではあるって感じか。
そうなんですね。で、じゃあトータルで脳に携わってからは何年ぐらいやられてるんですか?
大体10年ぐらいです。
10年やってんですね。
今週で32になるんですけど。
32でデリバさんがこう、YouTubeとかでも脳科学について発信されてて。テーマとしては脳科学においてどんなことをテーマにして研究されてるんですか?
メインは記憶と学習をずっとやってて。脳の研究に入ったきっかけみたいなものが、自分の勉強がなんでこんなうまくいかないんだろうみたいな。勉強に集中できないとか、記憶できないとかもそうだと思うんですけど。その原因って何なんだろうって突き詰めた時に、多分脳に原因があるんだろうなって思ったんですけど。じゃあ記憶とか学習能力を脳科学的に向上させるにはどうしたらいいのかみたいな。そういう感じですね。
それこそYouTubeでも、やる気をどうやって出すのかみたいな動画とかすごい回ってるじゃないですか。
そうですね。分かりやすく役に立つっていうのと、10年脳科学やったらどういう結論になるんだろうって気になるじゃないですか。テーマとして分かりやすいんで伸びるだろうなと思って出したら、その想像をはるかに超えて、今90万再生ぐらい出て。
今の人ってこうやる気出すのが、なんか大変になってるってことでもあるんすかね。
それはあるんじゃないですかね。やっぱYouTubeショートとか面白いコンテンツばっかりなんで、その中でじゃあ読書してみようとか勉強してみようって思ったら、絶対やっぱYouTubeショートとかゲームの方が楽しいから、やんないといけないことが相対的につまんなくなっちゃってるっていうのはありますよね、多分。
なるほど。それこそ今なんかドパガキとかいう言葉もあるじゃないですか。
そうすね。そうすね。確かに。
あれってでも脳科学的にはどういう状態とかあるんですか?
専門じゃないんであれですけど、やっぱりショート動画とか見るとすぐ報酬が得られる。報酬っていうのは楽しいなとか、その楽しいなっていうのはドーパミンが出るみたいなことだと思うんですけど。あとすぐに結果が出るみたいな、即時フィードバックって言うんですけど、そういうのがあるとドーパミンが出やすい。だからYouTubeショートがあってスライドしたらすぐ新しいの出るじゃないですか。で、その繰り返しなんで絶対楽しいんですよ。
なるほど。
勉強したことが結果出るのって1ヶ月後とか1年後とかじゃないですか。フィードバックがすごい遅いんですよね。なんで楽しいはずがないんですよ。その差がドパガキみたいなのにこう繋がる気はしますけど。
なるほど。本来でも何かしらの行動なのか、対価とされるものを払ってドーパミンという報酬を得てたっていうことだったんですかね。
ああ、そうなんじゃないですかね。最近は頑張んなくてもドーパミンが得られる世界になってるみたいなことはありそうですよね。
でもなんかドーパミンってこう、そもそも活動を起こす上でも、やる気を出す上でも必要とかって言うじゃないですか。
そうですね。
報酬でありながら、なんか燃料でもあるみたいな感じ。
ああ、いや、まさにそうで、ドーパミンがあるから、じゃあ頑張って勉強しようとか頑張って成功しようみたいに思うわけじゃないですか。逆にドーパミンがなくなるとどうなるかっていうと、場合によると思うんですけど、例えばパーキンソン病とかでドーパミンが枯渇してるとかが関係してんじゃないかみたいな話が確かあって。なんで当然必要なものというか。ただそれをハックされてしまったのが現代社会という感じはしますよね。
ショート動画を見て、なんかドーパミンをこう出して、すぐ勉強とかに繋げれたらいいんでしょうけどね。
ああ、それはやっぱもうとんでもない勢いで出てくるから、もっともっとみたいになってるってことなんですか?
止められなくなっちゃってるんですよね。だから、ドーパミン詳しくはないですけど、ショート動画見て出したやる気っていうのは多分ショート動画見るためのやる気ですよ。
なるほど。
だから逆にそれを勉強に振り向けるみたいなことは多分難しいんでしょうね。
ああ。じゃあもう永遠にそのショート動画を見るためのドーパミンを出して、そのショート動画で消費していくみたいな。
うん。そうだと思いますね。
学習だとかテーマにされてるような研究っていうのは、具体的にどんなことやられてるんですか?
僕は記憶なんですよ。で、記憶に関わる神経活動というか、僕は脳波っていうものがテーマなんですけど、シータ波とかって聞いたことありますか?脳波の種類で。
そう、そう、そう。
え、5個ぐらいあるんでしょ?
そう、色々あって、アルファとかベータとかの中の1つがシータ波なんですけど。記憶においてはそのシータ波っていうのが大事だみたいなことは言われてるんですよ。シータ波がこういう感じだみたいな、人によって違うんですよ。シータ波が強い人もいれば弱い人もいるみたいな。で、それが分かれば、例えばその人が認知症になりそうかどうかとかっていうのが多分分かるんじゃないかって言われてる。ただそのシータ波を測るのが現状かなり難しいんですよ。
例えば何億円ってする装置を使わないと、海馬っていう場所があるんですけど、記憶に関わる場所のシータ波を測るのはできないと言われてるんですよ。で、じゃあ僕がやったのは何かって言うと、偶然の発見ではあるんですけど、それがパソコン1台で分かるということをまとめて出したのが最近の論文で。
どういうことかというと、一旦説明すると、何か思い出すとするじゃないですか。僕がApple、その日本語訳何ですかって言ったら、何ですかね。
はい。りんご。
りんごじゃないですか。今1秒ぐらいで思い出せたと思います。これを300回ぐらいやると、思い出せる時間って1秒だったり0.8秒だったり1.1秒だったりするんですよ。で、これをひたすら何百回って集めてくと、その分布みたいなものが描けるんです。その分布の特徴っていうのを統計的に分析すると、そこにシータ波の特徴が現れるっていう現象を報告したんです。分かりやすい応用としては、スマホ1台でその人のシータ波が分かるってことは、スマホ1台でその人が認知症になりやすいかみたいなことがもしかしたら分かる、みたいなのがこれからやろうとしてること。
そうなんですね。どういう特徴のシータ波であれば認知症になりやすいとかを調べてるっていう。
そう。まさにそういうことですよね。
へえ。記憶する上で言うと、こうシータ波が重要であるみたいな。
と考えられてます。
活動する上で言うと、やる気が出ないなって時に出すにはどうしたらいいんですか?
僕が出した動画では即効性のある方法はないよねみたいな結論になっちゃってるんですけど、結局のところ僕は、やる気が出るとか集中できるとかっていうのは、要は脳の違いだと思ってて。集中しやすい脳を持ってる人はずっと集中できるし、しづらいのを持ってる人はできないしってことだと思ってるんで、僕は脳を根本的に変えることが必要なんじゃないかなと思ってるんです。だから即効的に今日何したからやる気出るとかではなくて。
その時だけのやる気を出すだけじゃなく、こうその容量そのもの、もう器そのものを強化できる方法があるんじゃないかっていう。
そうですね。分かりやすく言えば睡眠取るとかみたいなですか。あとエビデンスがある話で言えば、有酸素運動めちゃやるとかっていうのがめちゃ大事と。
やっぱ睡眠は大事なんですね。
睡眠は。
あ、有酸素運動はなんか、その有酸素運動をするやる気をまた出すにはとか思っちゃうんですよ。
そこなんですよ。そこが難しいんで。元々やる気がない人っていうのは、僕もそうですけどなかなか難しくて。まあでも1個みんなやってない方法で言うと、瞑想っていうのはやっぱみんなやった方がいいだろうと思ってて。瞑想ってやられたことありますかね?
いや、ちゃんとしたやり方っていうのもあんまはっきりと分かってないですし。
そうすよね。瞑想は普通に目つぶって、まあ開けててもいいんですけど、じっとこう呼吸を観察し続けるみたいな。で、そうすると雑念が浮かんでくるんで、それに気づいたらまた呼吸に戻すっていう。ただそれを繰り返すだけの修行なんですけど、元々何千年前かにブッダがやって、今まで引き継がれてるんですけど。それがどうやら脳の構造も変えていくらしいと。で、だんだん本当に集中できるようになってくみたいなのが、割とここ数十年の研究で示されてるんですよ。
へえ。ちょっとスピリチュアルなイメージありますけど、ちゃんとそう研究化されて、データみたいなのが出つつあるみたいな。
かなり出てて。
かなり出てる。
うん。論文の数で言ったら何千本って多分出てんじゃないかなと思いますけど。
なるほど。
なんで脳の研究者の中では、いや、瞑想は本当にすごいよねって多分みんな思ってんじゃないかなと思いますけど。
人間の性格って何個かですか、ビッグ5っていうので心理学的には測定するんですけど、そん中の勤勉性っていうのが今話してるやる気とかに関するものなんですけど、これはもうほぼ遺伝で決まるということが双子の研究とかで分かってきてるんで。分かってきてるんです。でもそれは僕は、遺伝で決まってるから変えれないよねっていう風には思ってなくて、逆に遺伝で決まってるけど変えられる方法を見つけるのが脳科学だと思ってるんですよ。
で、今僕たちが注目してるのがニューロフィードバックっていう方法なんですけど、脳波を測るんですよ。僕たち今自分のプロジェクトで、簡単に脳波を測れるデバイスを開発してるんですよ。コンパクトで、1分ぐらいちょっとつけたら測れるようなものを作ってて。で、それすると脳波が測れるんですけど、今見せますか?あれだったら。
このぐらいのコンパクトなものなんですけど。首にかけて、どこです?耳たぶにこう挟んで。あとおでこにセンサーをつけます。こんな感じで、おでこには前頭葉の脳波が分かるんですよ。アプリケーションも作ってるんですけど。
あ、アプリと連動してるんですね。
そうです。そうです。これで見えますか?
あ、見えます。
脳波が、僕のやつ映ってるんですけど、例えば。
デリバさんの前頭葉の脳波。
そうです。で、例えば瞬きするとパチパチパチっと。
これ瞬きの、この大きく揺れてるところ。
これ瞬きです。そうです。で、これがただこれ見てもよくわかんないんで、これを映像に変換するってことをするんです。そうすると円形みたいなものが出てくるんですけど、これが僕の今の脳波の乱れ具合みたいなものが出てるんです。で、これが脳がより集中しやすい状態になってくと、これがギュッとまとまってくるんです。
あ、何本か重なってるような円形が1つに見えてくる。
例えば僕が目つぶって集中してみますね、今から。……あ、確かにまとまってますね。
こんな感じになる。
ちょっと今人前でやってるんでなかなか難しいんですけど、これがニューロフィードバックっていうものなんですけど、これをやってくと、だんだん分かってくるんですよ。意識をこの辺に向けてると、音がなくなってきてまとまってくるなとかっていうのが、だんだん学習で結びついてくるんですよ。
なるほど。
で、そうすると、あ、なるほど、常にこの辺に意識置いとけば僕は集中できんだなみたいな癖付けができてきて、勝手に集中しやすくなったりとか、やる気が出やすくなったりとかいうのが効果としてはあると。研究自体は1960年代ぐらいから確かあって。
ニューロフィードバックの。
そうです。脳の筋トレみたいな感じなんですけど、当初は発達障害の治療として研究が進められてきたんだけど、僕たちはもっとそれを日常的に使いたい人が使えるようになれば、みんな集中力上がって仕事の生産性も上がってとか、勉強得意になってとかいうのができんじゃないかなと思ってるんで、ちょっと今それをやってるみたいな。
へえ。めっちゃ面白いっす。じゃあニューロフィードバックでこうスマホを見ながら、自分なりのこう意識の集中のさせ方、どうすれば円が1つにまとまるようになるのかっていうのを探せるというか、見つけれる。
そういうことですね。
人によって違ったりするんですか?
実はなんか違うっぽいんですけど、大体共通点はあって、なんとなくゆっくり呼吸に意識を向けるというかっていうのはやっぱ大体一緒で、あと姿勢よくしてやった方がうまくいくとか、そういうのもなんかあるっぽくて。なんで昔からね、学校で姿勢よくしろって言われるじゃないですか。あれはなんか正しかったのかなみたいな、逆に思ったりしますよ。
なるほど。鍛えてって、それがもう無意識にできるようになったら、それと作業を並行可能で、効率も上がるんじゃないかみたいな。
上がると思いますし、あと長期的にやることで脳が変わってくるんですよ。これ開発したのが12月ぐらいから、半年以上前から作り始めて、ほぼ毎日のようにやってるんですよ。そうすると筋トレもやっぱ毎日やるとでかくなるように、脳波もやっぱ変わってくるんですよね。脳そのものを鍛えてるみたいな感覚に近いです。
例えばやる気出ない時とかに、これもうメンタルのせいなのかなとか思っちゃったりしてて。でそもそもこのメンタルと脳の関係ってどうなんだろうっていうところもあるじゃないですか。この目に見える脳ってものと、なんか目に見えないこの気持ち、精神みたいなものって、デリバさん的にはどんな関係にあると思う?
メンタル病むとかって言うじゃないですか。僕もめっちゃ病むんですけど。結局そん時に思うのは、脳の調子が悪いんだなって思うんですよ。人と喋ってて思っちゃうのが、目の前の人がメンタル病んでるとか、あるいは自分に悪口言ってくるとか多分あると思うんですけど、そういう時に普通はイラつくと思うんですよ。だるいなみたいになると思う。僕はどっちかというと、あ、なんか今脳の調子悪いのかなとか思っちゃって。例えばセロトニンがどうだとか色々あると思うんですけど、っていう風に思ってたんで、結局そういうメンタルの不調とかは全部脳そのものだよなとは思ってます。
ああ。え、じゃあこのメンタルっていう目に見えないものっていうのは、機能の一部みたいなイメージですか?
うん。僕はもうそうとしか思えない。
ですね。そうとしか思えない。もうそうじゃないっていう考え方があんまりわかんない。普通はどう捉えるんですかね?
人によっちゃ分離してて、肉体と精神みたいなものが。霊的なもの、魂的なものが。
心身二元論みたいな話ですよね。僕はあんま理解ができない。なんか占いとか好きではあるんですけど、楽しいから。でも信じてやってるわけじゃないというか。あんまりよくわかんない。
なるほど。じゃあ脳が死んだ時にはもう全て終わる。
僕はそう思っちゃってますよ。まあ99%ぐらいですかね。1%は、結局分かんないことの方が多いから、魂みたいなものとかお化けとか存在してもいいなとは思ってるんですけど、今のところ信じられないとは思いますけど。
それこそYouTubeでもこの死ぬ瞬間の脳波みたいな動画も出してましたよね。
はい。出しました。
あれどういう実験なんですか?
あれは、元々昏睡かなんかで意識はない感じなんですけど、心臓は動いてると。で、そういう感じで、脳波を測りながら人工呼吸器を外すのかな。で、呼吸器を外すと何分後かに亡くなるので、その瞬間の脳波を測りましたっていうのがデータで公開されてるんですよ。だから誰でもアクセスできる状態になってたんで、じゃあ解析してみようかなと思って解析してみたら、まあまあ面白いかなみたいな結果は出ましたよね。
外した瞬間っていうのはどうなってた?
本当にその瞬間っていうのは、うわ、詳しいことあんま覚えてないんですけど、外してから確か5分後とか数分後に、めっちゃガンマ波のバーストみたいなものが出るということが分かって。このガンマ波っていうのは要するに脳活動の高まりみたいなもの、平たく言うとだと考えられるんですけど、それが上がってる、本当に数秒の間なんですけど、数秒か10秒、活動度がもう急激に上がるっていうのは分かって。
ガンマ波ってだから1番集中してる時のって言われてるもんなんでしたっけ?
一概には言えないんですけど、普通に生きてる時には滅多にそんなに出ない。出る出ないって0か1かじゃないんですけど。
え、生きてる時で言うと、例えばどんな時に出るんですか?
言われてるのは本当に瞑想の熟達者。何十年も瞑想し続けた人がそのガンマ波が出てくるっていうのはデータでは出てて、瞑想で本当に深い段階までいくと意識状態も変わってくるって言われてるんですけど、そういうような状態、要するに走馬灯というかを見てるような可能性はありそうですよね。
へえ。走馬灯を見てるから一瞬そんなにガンマ波が上がってんじゃないかっていう仮説。
仮説ですね。もちろん確かめようはないです。
なるほど。で、その研究って結局どんなことに応用されるんですか?その死の瞬間の脳波が分かれば。
1つは倫理的な側面はありそうですよね。例えばもしそれが本当に走馬灯なんだとしたら、まだ意識が戻る可能性があるってことじゃないですか。もし意識が戻る可能性があるんだとしたら、簡単に安楽死とか人工呼吸器外すとかってことするべきじゃないとか、脳死だと思われてたけど戻る可能性があるんじゃないかとか、そういう議論に繋がっていきそうな気はしますよ。あるいは本当に亡くなったと思われてた人が復活するような方法があるんじゃないかとか。ちょっとまだわかんないこと多すぎるんですけど。
確かに。それこそこう生存本能みたいなのも脳が司ってるとして、自殺したいみたいな気持ちとか、死にたいっていう気持ちっていうのは、脳のエラーとかっていうことなんですか?要は。
死にたいって何なんですよね。僕も死にたいと思うことはありますけど。
あれはどういうことなんです?
進化的には絶対死にたいと思っちゃいけないじゃないですか。
ですよね。
人間ってもう本能だけで生きてるとしたら、絶対死にたいとは多分思わないじゃないですか。基本的には動物は自殺しないと思うし。だから人間はその本能を理性が超越してしまった生き物って感じはしますよね。切腹とか、特攻とか、それも進化的にはわけわかんないですけど、理性が発達しすぎたみたいなことなんでしょうね。
なるほど。だから理性ってのは、デリバさん的考えで言うと、脳の活動にまつわる部分のってことです?
うん。そうです。いわゆる前頭葉とかが基本的には司ってる場所で、元々プログラムされた活動から外れる時に必要になるものだと思うんです。例えばお腹が減ったから飯食いたいから食べるっていうのは本能的にプログラムされてるけど、ダイエットしたいからそれやめようみたいな、そのプログラムから外れるわけじゃないですか。そういう時に必要になるのが前頭葉の活動、いわゆる実行機能とかって言われたりするんですけど、それが理性なのかなと思いますね。
デリバさんのこの経歴とかも聞かせていただきたいんですけど、今32歳、今年で。生まれはどこなんですか?
東京の町田出身で、父親がメーカーの営業みたいな、工業高校出て営業を本当にずっとやってて、で、母親は主婦パートみたいな感じで。
勉強とかできる方でしたか?
できました。小学生の時は正直かなり勉強は多分できてて、テストとかは大体クラスとかで1番とか。塾とかにも入ってたんですけど、そこでもランキングとか出るじゃないですか。全国ランキングみたいな。小学校の時は上の方、例えば10番とか入ってることもあったんですけど、小学生の時は1番頭良かったんです。
そん時は何になりたかったとかあったんですか?
なくて。でも一応文集とかではサッカー選手って書いてました。でも恐竜とかも好きだったから、科学みたいなものは緩く好きだったりはした感じかな。
ご両親は教育熱心でしたか?
いや、全然何も言われなかったし。
あ、じゃあ自発的にこう楽しいから勉強してるみたいな。
うん。そうですね。でも中学とかに入ってから、だんだんあんま勉強できなくなってきて。
普通に公立行くんですか?
公立行きました。受験はしなかったんで、公立中学行って、だんだん塾内のランキングとかもどんどん落ちてくんですよ。テスト受ければ全国ランキングとか入ってたのが、普通に同じようにやってるつもりなんだけど載らなくなってくるんですよ。で、同じクラス10人ぐらいいた中でも、だんだんもう1番下の方になってきて。当時はそれがすごい悔しかったというか。
それでもなんでそんな急に落ちてきた?
いや、わかんない。ただ単純に発達が早かったみたいなことな気はしますけど、今振り返ったら。なんでなんだろうみたいな、あんなにできたはずなのにってのが、多分今の研究に繋がってんだろうなっていうのはありますね。
で、じゃあ高校はどれぐらいのとこ行く?
高校は青山学院に入りましたね。
そうなんですね。青学入って、青学では成績どうでした?
全然良くはなかったしね。赤点とかも結構取ってたし。
大学とかは目指してたんすか?
目指すなら1番上みたいなところで、東大を目指してはいました。だから割と早めの、高校の確か春ぐらいの段階で受験勉強始めて、塾も多分そのぐらいのタイミングで入ってやってたんですが、結果一浪したけど受からずみたいな感じで。
そこまでトップじゃないけど、一応東大を目指すっていうのは結構いるんですか?
青学はみんな楽に進むので、外部受験自体があんまいなかったです。
で、そん時はでももう学びたいことがあったから東大とかっていう?
いや、もうなんか全然もう不純というか。ただ試したかったみたいな。
試した。
要はコンプレックスに近いですよね。要はもっと勉強できるようになりたいというか、1番になりたいとか。今思えばちょっとくだらないとも思うんですけど、そういうモチベーションでしかなかったですね、当時は。
そうだ。やる気出ないとか集中できないってなったのはどの時期なんですか?
まさに高校の時で、受験勉強頑張ろうってなると、1日10時間勉強しろとか言うじゃないですか。実際そのぐらい勉強する人もたくさんいる中で、なんか僕は体が弱かったのもある気がするんですけど、1日4時間も勉強できたらいい方みたいな。いや8時間勉強できれば倍できるのになみたいなのをずっと思ってたんですけど、それ以上やるともう机に向かうのも無理になっちゃうというのがあって。なんで僕はこんなに集中できないんだろうみたいなのがもうずっとあって。色々当時出てた心理学系の本とかも読んだりはしたんですけど、時間測ると集中できるよとか、そんなようなことしかなかったんで、やっても全然変わんないしみたいな。そういうのでちょっとした無力感みたいなのは感じましたね、その時は。
へえ。結局そん時は何が原因だと思ったか?自分の中では。
要は脳なんだろうなと思いました。
あ、その時点でも脳と思うんですか。
うん。体と言ってもいいと思うんですけど。もしかしたら病気なんじゃないかとか、色々調べたりとかしながら、要は体か脳かみたいなのは昔から思ってましたね。
で、そん時からもメンタルってものは脳の一部であるみたいな考え方でもいたんですか?
うん。割とそうでしたし、魂的なものはそん時から基本的には信じてなかったですね。否定は今でもしてないんですけど。
病院とか行ったんですか?
整体とか行ったりしてましたね。
精神科とか行かなかったっていう感じ。
うん。行かなかったんですよね。たまたまなんか違ったのかなとか思いますけど、深刻な病気の人が行く場所というか、そういうイメージがあったんだけど、僕はそこまでじゃなかったから。ちょっと集中できないとか、あとちょっとうつっぽいとかはあったけど、そのぐらいで行く場所ってイメージがなかったから、当時は行かなかったし、今も行ってないんですけど。
じゃあもう脳か体のせいだって自分では思ってたけど、結局明確な答えは出ず。
出ず。今も別に出てはないです。
浪人中は生活なんか変わったんですか?
あ、変わりましたね。高校の時が僕結構本当にうつみたいな状態だったんですよ。不安障害というか、人前で水を飲むことすらできないみたいな。きっかけわかんないんですけど、ストレスとか睡眠不足的なこととかも色々重なってたとは思うんですけど、人に見られることが当時すごい過度に緊張してしまうみたいな時期があって、で、人前でこうペットボトルの水を飲むとかも震えちゃってできないみたいな時期があったんですよ。多分そういうのもあって、勉強もあんまりはかどらないみたいのあったと思うんですけど、それが変わりましたね。高校の時は毎朝満員電車に乗って30分ぐらいかな。それもストレスだったのが、浪人すると駿台予備校って場所に行くんですけど、自転車で20、30分ぐらいの場所なんですよ。なんで毎朝自転車に乗って、強制的に日差し浴びて運動するみたいな生活になったんで、それが良かったのか、メンタル的にはだいぶそれで落ち着いて、現役の時よりはちゃんと勉強もできてみたいな。行動とかで脳の状態って変わるんだなって思ったきっかけかもしれない。
逆にそれ高校時代とかは、ご両親とか誰か第3者に相談するとかもなかったんですか?
母親はすごい察してました。
あ、そうなんですか。
そう。察してたんで、たまにこうこういうサプリあるよとか色々教えてくれたりとか、もしかしてこういう病気なんじゃないのとか言ってくれたりはしてて、すごいサポートをしてくれてましたね、母親は。でも根本的には良くなんなかったかな、当時は。
それ考えすぎな性格なんですよ、多分元々。最近知ったんですけど、ニード・フォー・コグニションっていう概念があって、日本語で言うと考えるのが好きかとか、何もなくても考え事にふけりがちみたいな、そういう尺度があるんですよね。で、人によって多分その程度は違って、それが全くゼロだと考え事とかは全くしないみたいな。で、100だとめっちゃ考え事、哲学者的な考え事しちゃうみたいなやつで、それテストで測ると多分上位1%ぐらいだったんですよ。
だから何もなくても考え事しちゃうんですけど、例えば普通にこうやってインタビュー受けてても、こんなこと聞いてて視聴者面白いのかなとか。
いや、面白いっす。
まあ、常に思うんですよね。人間関係とかでも考えなくていいことまですごい考えちゃうと。だから多分疲れやすいんだろうなって最近は思ってますね。疲れやすいっていうのが、ずっと悪い、直すべき性質だなと思ってはいたけど、これは長所の裏返しなのかなみたいなことは最近は思ってますね。やっぱ考え事するから研究に繋がったりするんで。
一浪しても結局ちょっと東大はダメだったけど、慶應に入るっていう。
そうですね。慶應の理工学部に当時入りましたね。
脳科学みたいなのはいつからやりたいと思うんですか?
まず理工学部に入って、その後転部してるんですけど、SFCってとこに転部してて、そこで決めましたね。だから20歳ぐらいの時で。
ふーん。なんでやりたいと思ったんですか?
SFCって色々できるんですよ。例えば音楽に関する研究とか、デザイナーになるための勉強とか、あるいはビジネス的なことも学べるしで、その中の1つに神経科学とか脳科学っていうものがあったんですよ。僕は割と全部興味あったんで全部授業取って、でしたらなんか脳の授業が多分1番刺さったというか、多分面白かったんでしょうね。あんま記憶ないんですけど、気づいたら脳科学の研究室に入って10年経ってたみたいな感じですね。
今となったら何が刺さったのかなとかって分かりますか?
色々実習的な意味で脳波を計測してくれたりとかで、脳波を分析すると自分の脳の波形が出てくるんですよ。脳波なんでデータが出てきて、なんかそれを眺めてるだけでも結構楽しいなみたいなのがあったんですよね。要は、あ、この波形のこの瞬間に何が起きてんだろうとか。あ、これが自分の意識そのものを示す存在なんだって考えたら、すごいロマンを感じたというか。ちょうどこう星空を眺めてると、あ、いいな、綺麗だなって思うじゃないですか。そういう感じで脳波を眺めてる瞬間すごい幸せを感じられたんです。10年続けられたのはそれが大きいような気がします。観察するのが楽しかったというか。
なるほど。なるほど。脳波って十人十色というか。
あ、そうですね。
人によって全然違う。
全然人によって違いますね。そこも面白くて、やっぱ掴みどころがないんですよね。共通の法則性があるとは全く思えないというか。理解するのがすごく難しい対象なんですよ。だからひたすら考え続けることができるんですよね、脳を眺めてるだけで。で、僕はさっき言ったように多分考えるのがすごい好きな人なんで、格好の研究対象だったというか。逆に簡単に理解できちゃうとつまんなく感じちゃうので。
なるほど。それだけ、じゃあその規則性みたいなのを見つけるのがめちゃくちゃ難しい。
もうできないっすね。
できない。
もう10年ずっとやってますけど、全然、こうだなって思った仮説っていうのは絶対裏切られるんで。そういう意味では、最初の方ドーパミンの話とかしてたと思うんですけど、ドーパミンが出るからやる気が出るとか、こうだからドパガキになるとかっていうのは仮説としてはあるけど、多分ほとんど間違ってるんですよね。実際の真実の姿っていうのは多分もっともっとすごく複雑なんで。
そうなんですね。
うん。だから分かりやすくそれを人に伝えるっていうのが、実はものすごく難しい学問だと思います。
暫定的に言えることが少なすぎる。
うん。もう少なすぎるっすね。ニューロンが何個とかは言えますけど。例えば意識って何みたいな。
意識?
意識するとかって言うじゃないですか。でも意識ってそもそも何かっていうのも何も分かってなくて。例えば手のひらに意識を向けてみてっていう意識と、意識があるとかないとか、コンピューターに意識があるないとかもあるし、あとそもそも見てるこの赤色が他の人にとっても同じ赤色として意識されてるのかみたいな、これクオリアの問題ですけど。
クオリア。
そうです。赤の赤さとか、痛いって感じるこの感覚みたいな、言語化できないものがあると思うんですけど、それも意識と呼ばれるし。それぞれの意識が、じゃあ脳の中でどういうメカニズムなのかっていうのはほとんど全く分かってない。仮説としてちょこちょこあるけど、それが正しいのか検証することもできないんで、日常に感じてる意識1つ取っても何も分かってないっていうのが現在地だとは思いますね。
へえ。記憶とか学習をテーマにしようっていうのは何で決めたんですか?
元々やっぱり受験勉強でうまくいかなかったっていう感覚があるのが1つ。あと塾で勉強教えていたんですよ。チューターだったんですけど、6年ぐらい勉強教えてて、こうすれば勉強できるようになるよとか伝えるじゃないですか。で、最初は僕がちゃんと教えて生徒がちゃんと勉強すれば誰でもいいとこ受かるんじゃないか、未熟なんですがそう思って。でもいざやってみるとそんなことは全くないというか、僕も頑張って教えたし生徒も頑張って勉強したけど、思ったような結果にはならなくてみたいな。で、浪人することに決めましたみたいに言われるんですけど、そういうことを6年繰り返すと、あ、そんな単純じゃないんだなって思うんです。で、そうすると、じゃあやっぱりその原因って何かってなったら、脳のことを知るしかないんだなと思って。それがきっかけの1つですよね。学習とか集中力とかっていう。
単純に自分たち双方が正しいとか頑張ってるっていう意識とかよりも、もっと効率の高い勉強法とか学習法、記憶法があるんじゃないかっていうところです?
あ、そうです。そうです。要は限界ってあると思うんですよ。プロの将棋の棋士だけ取っても、多分あのぐらいのレベルになるとみんな同じぐらい無限の時間を費やしてやってると思うんですよ。なのにも関わらず、例えば7段までしか行けない人もいれば、9段まで行ける人もいれば、藤井聡太っていう圧倒的な強さを持つ棋士までいるじゃないですか。でそれは人によってある程度限界値があるってことだと思うんですよ。で、もっと言えばAIとかっていうのは今藤井聡太よりも圧倒的に強いわけじゃないですか。だからプロ棋士が100回戦ってもAIには多分勝てないレベルまで、多分AIって強いと。人間がどんなに費やしてもここまでしかいけないのが、AIだともっと上にあると。僕はその限界を超える方法を知りたいですね。だから1万時間費やしてここまでしか行けないのが、キュってこう気づいたらAI超えてるみたいな、そういう学習方法が知りたいなと思って研究してる側面もあります。
へえ。それの足がかりとなるようなことってあるんですか?
僕が実際実験したのが、新しいパズルみたいなものを学習させるんです。将棋よりはもちろん単純なんですけど、うまい人はこう1時間ぐらいでこんぐらいうまくなるところが、苦手な人は1時間かけても全然学習できないんですよね。
そういう差があったんですね。
で、例えば東大生とかにそれやらせると、やっぱりみんなうまいんですよ。だから学習がうまい人と下手な人を切り分ける学習課題を作ったんですけど、で、その最中の脳活動を測ったんですよ。で、脳波を測って、30人ぐらいなんでまだ不十分なんですが、それやると学習がうまい人はどうやらちょっとやっぱ脳波が違うんですよ。何が違ったかって言うと、その間違えた時に脳がどう反応するかっていう指標が、どうやら明らかに違うということが分かった。いろんな指標がある中でそれだけが相関して、要はちゃんと間違えた時悔しがれて、そっから学べるっていう能力そのものが学習の限界を決めてる可能性があるということが分かって。だからそこをなんとかして変える、意識で変えるのかニューロフィードバックで変えるのかわかんないんですけど、その方法さえ見つければ、もしかしたら僕はもっと賢くなれるかもしんないし、人間はAIに勝てるかもしんないしみたいな、そんなこと。
うん。めっちゃ面白いですね。悔しいと思える力。
うん。
間違えることが悪いみたいに言われがちですけど、それが悪いんじゃなくて、間違いから学べないことが悪いというか。逆に間違いから100%学べれば、多分圧倒的に学習が得意になれるんだろうなと思ってて、1つ突破口なのかなとは思ってますね。
間違いから学ぶ能力を高めるとか。うん。そもそも間違えるってことを恐れないみたいなこととかもあるんすかね。
そうですね。でもそれで言うと、間違いは恐れてもいいんだと思うんですよ。なるほどね。やっぱ間違えるのが怖いからこそ、次間違えないようにしようって思うわけじゃないですか。なるほど。それが大事すね。多分間違えてもどうでもいいって思ってたら学習できないんで。
それこそ印象的なのが、藤井聡太ってすごい負けず嫌いなんですよ。確か6歳とか5歳とかの時に将棋のプロ棋士に負けたと。当たり前じゃないですか、プロに負けるなんて。はい。なのに藤井聡太はそれで負けて、将棋盤に泣きついて離れなかったみたいなエピソードがあるらしくて、そのぐらい悔しがってる。負けるのが嫌なんですよ。だから失敗するのが嫌で嫌でしょうがないからこそ、あそこまで行けたっていうことだと僕は思ってて。なんで、間違えるのが嫌だとかっていうのはむしろあった方がいいだと思ってます。
ちょっと間違えながら、間違いを克服していくみたいな。うん。全部仮説なんで、これ間違ってる。面白い仮説ですね。
それこそAIがどんな風に学習してるとかは解析できないんですか?ああ、逆にですね。例えば将棋をどんな風に覚えて、戦術とかを組み立てて、人間を一瞬にして超えてたじゃないですか。そうですね。ああ、なるほど。どんな学習の仕方で将棋が強くなったのか。なるほど。そんなことが分かれば、もしかしたら人間に応用できて、もっと人間も強くなるんじゃないかなとか。そういうことですか。
それは僕ちょっと試しにやったことがあって、AIってほど大げさなものじゃないんですけど、簡単なニューラルネットワークっていう、AIの小さい版みたいなものを作って、僕が作った人間にやらせた課題と同じものを学習させたんですよ。
そうすると、パラメーターを変えれば、めっちゃ学習がギュンって人間よりもはるかに早く進むこともあれば、人間より全然学習できないみたいなことも作れる。だからAIの学習のパラメーターを変えれば、まさに学習が得意なAIを作れるってことが分かったんで。
その結果から考えると、学習率っていうものがあるんですよ、AIの。それは1回刺激を受けた時にどのぐらい脳が変わるかっていう程度。それが学習率とか更新率って呼ばれるんですけど、それがでかすぎると学習がうまく進まないってことが分かったんです。要は1回の学習を受けて影響を受けすぎてしまうと、うまく学習できないっていうことが分かって。逆に言うと、1回の学習で学べる量をほんのわずかにとどめるってことをすると、むしろ限界値は上がってくっていうことが、これ僕の今内部のデータなんでちゃんと検証しないといけないんですけど、分かりました。
そういう意味で言うと、人間は1回の学習で変化させる量が大きすぎると、過去の情報が失われちゃうんですよね。だから学習してるつもりが全部忘れてっちゃうみたいな。大事なのは、学習した時に過去の情報を失わない能力なんじゃないかなみたいなことは、ニューラルネットワークを使った分析で今考えてることではあります。そういう意味では、AIからインスパイアされた発想ではありますよね。
へえ。定着する前にさらにインプットすると、あんまり良くないってことなんですよね。そうかもしれないです。
AIが強いのは、それが無限にできるんですよ。人間っていうのは1個の学習が定着するまで時間がかかるんで、学習してすぐ入れると忘れちゃうんです、人間って。AIはそれがないんで、1秒に1回ボンボンボンって無限に学習できるから、当然人間より将棋は強くなるよね。なるほど。それは強いっすね、本当に。
大学には今合計でもう10年ぐらいいるんですか?結構それ情けない話なんですけど。情けないですか?それは。まあ研究に時間がかかりすぎてるってことなんで。ああ。え、でも留年とかしてないですか?
えっと、学部で1回遅れてるのと、博士課程がめちゃくちゃ長いんで。博士課程って日本だと3年で終わることができるんですけど、僕もう何年目?6年目とかなんで。あ、そうなんすか。うん。そこはじっくりやってきたって言えば聞こえはいいんですが。
え、今収入は得てる状態なんですか?
収入はこれは毎年変わるんですけど、今は会社もやってるのと、あとベンチャー企業に籍があってそこで在宅で働いてるのもあったりとか、あと未踏アドバンストって分かりますかね?経産省がやってるプログラムがあって、それに去年採択されて、9月まででもうすぐ終わるんですけど、その予算があるので、それを使ってさっきのデバイスとかアプリケーションを作ってるんですけど、それをビジネスとして成立させたいってのが1番今思ってることですね。
そうすれば当然生活ができるのももちろんそうなんですけど、脳波計を例えば1000人の人が持ってるという状況になれば、例えばそこに脳波計アルバイト募集みたいなのを流したら、みんなが家で実験できるわけじゃないですか。そうすると、これまでの研究では数十人ぐらいで論文出てたのが、一気に1000人とか1万人のデータが論文にできるわけじゃないですか。なるほど。そう、研究の構造が変わるってことを今やりたくて、今目標としてるのは、それがビジネスとして成立して、かつ研究にも繋がるっていう状況を作りたいっていうのが今考えてることです。
研究者としての肩書きというか立場も維持しつつ、そういうのも広げていきたいみたいな。そうですね。そこどうなるかちょっとまだわかんないんですけど、当面はそうなると思います。または、ビジネスが成功して、またアカデミアって言って研究者の道に戻るみたいなことも大いにあると思いますし、考え中ですね。
でも32歳の研究者としては、めっちゃ評価されてるっていう感じなんじゃないですか。いや、全然です。違う。研究者っていう枠で見たら全然です。僕はもう研究者偏差値多分40ぐらいだと思う。そうなんすか。うん。研究者って枠で見たら、出してる論文の数とか論文の重要性とかで評価されますけど、僕はもう全然下っ端も下っ端です。ただ僕はそれに対して、ビジネス方面でも色々やってるから、発信とかもしてるのと総合してみた時に、色々評価してもらってるっていう。
むしろステレオタイプの研究者像っていうのは、ビジネスなんかっていう風潮もあったりするんですか?
大いにあって、やっぱ研究で金稼ぐなんてみたいな清貧主義的なものは、やっぱ多くの研究者は持っています。それはいいことでもあると思いますけど、やりづらさにもなってます。胡散臭いこと言い始めたら研究仲間から嫌われ始めたりするんで。ああ。
それはできないなと思いながら真摯にやってればいいんですけど、例えばビジネスって結構誇張したりすることと背中合わせというか。例えば僕だったら、ニューロフィードバックやれば集中力上がります、記憶力上がりますって断言しちゃえば絶対もっと売れると思うんですけど、断言できるほどのエビデンスが溜まってるかって言ったらまだまだだし。だからそこを真摯にやってくと、ビジネスのスピードは落ちるという難しさはあります。ああ、なるほど。確かに。だから、ビジネス方面の人と話すと、いや、もっと大胆にやれみたいに言われるんで、バランス取りながらやってますね。
脳研究やってて、本当に全然個人的なことでもいいんですけど、最終的に世の中こうしたいとか、自分の人生こうしたいとか、そういうのあるんですか?大目標みたいな。
これはよく考えるんですけど、意外とない。意外とって言うとあれですけど、明確じゃないんですよね。例えば僕は考えすぎちゃうんで、ある種こういう脳科学的なものが進んで、進みすぎた未来って、下手したらディストピアになるというか。例えば脳波測っただけでこの人の限界が分かってしまうとか、例えば結婚相手にこの人向いてないよって分かっちゃうとか、っていう世界に、極論本当に突き詰めて考えるとなれるじゃないですか。そしたら、その未来って目指すべきなんかなとか思ったりするから、何がいいんだろうと思うんですよ。
ただ、脳科学で学習に革命起こしたいみたいなことを言い続けてきたから、それは達成したいと思ってるし、シンプルに脳科学そのものが面白いんで、それを続けられることと、その面白さを伝えられるってことができたら、一旦いいかとは思ってます。
例えば国とかがそういう国民の脳波とか管理し出したら、ちょっと怖いすもんね。うん。怖いじゃないですか。まあAIだって、今もAIが進みすぎてセキュリティ上の問題が出てきたとか、核戦争がいつ起きてもおかしくない状況だとか、それ全部科学が進んだからこそ、そういうリスクが生まれてきてしまったものだと思うんですよ。どうせ起きるじゃないですか、そういうことは。そうならない側になんとか貢献したいですよね。
でもやっぱり、とりあえずはその好奇心というか、楽しいってのが1番。うん。そうですね。目の前の好奇心っていうのが基本的にはベースであって、全部そこと繋がってますよね。ビジネスも結局そこが起点だからですね。
気合いとか根性論みたいなことは、信じてこなかったんですか?ああ、それを諦めたって感じで。諦めた。高校生の時は根性論で、気合いが足んないのかなと思ってましたが、1回試したんですよ。1日15時間無理やり勉強してみようみたいなキャンペーンをやったことがあって。
そうすると1日目はなんとか13、4時間行けたんですけど、2日目は8時間ぐらいで力尽きて、3日目から2週間ぐらい鬱になって、1時間も勉強できないみたいな日が続いたんで、あ、俺に根性論は無理なんだっていうのをそこで気づいて諦めました。脳の個人差なんだっていう結論に至りました。無理なものは無理だって思ったのは、そこが最初かもしれない。
その諦めから始まって今に続いてるんですね。そうです。そもそもそれがあったから今研究してるってのもあるし、そういう疲れやすい性質の裏には、多分ずっと考えられるっていうプラス面もあるんだろうし、そんな単純じゃないんだろうなとは思ってます。
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