中島聡が語る「バイブ・コーディング」:使い捨てコードとしての理解と、カスタムアプリ市場への影響

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概要

アンドレイ・カーパシーのX投稿をきっかけに広まった「バイブ・コーディング」について、中島聡が解説した。中島は、バイブ・コーディングを「AIでコードを書くこと」一般と捉えると誤解が生じると指摘する。理解の鍵は、AIによってコードを書くコストが大きく下がり、「使い捨てのソフトウェア」が成り立つようになったことにあるという。動画は聞き手の質問に中島が答えるインタビュー形式で進む。

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言葉の出どころ

中島によれば、バイブ・コーディングという言葉を最初に提唱したのはアンドレイ・カーパシーである。カーパシーはテスラでAIチームのリードを務めた人物で、「ソフトウェア2.0」などのコンセプトも打ち出してきた。中島はカーパシーを、示唆に富む言葉やコンセプトを発信する人物と評価している。バイブ・コーディングもそうした言葉の一つで、カーパシーのXへの投稿をきっかけにかなり広まった。

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「事前設計なしに試す」ではなく「AIに任せて、動けば採用する」

インタビューの冒頭で、中島は聞き手に先に説明を求めた。聞き手はバイブ・コーディングを「事前に細かい設計をせず、とにかくコードを書いて試してみるスタイル」と説明し、AIにコードを書かせたり、プロトタイプを素早く作って動かしながら改善したりするものだと述べた。

中島はこの説明に誤解が含まれていると指摘した。中島によれば、厳密な意味でのバイブ・コーディングでは、本人はコードを書かない。「こんなことをしたい」とAIに伝え、AIが書いたコードを、動く限りはそのまま採用していく。流れに任せた「ノリのいいコーディング」を指すという。

「バイブ」という英語について、聞き手は雰囲気、感覚、フィーリングといった意味を持つと説明した。理論や厳密な設計にこだわらず、流れや直感を大切にしながらAIにコードを書かせるスタイルだ、という解釈である。

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最大の利点はスピード、ただし作るのは「使い捨てコード」

メリットを問われて、中島はまずスピードを挙げた。中島は長くソフトウェアを書いてきた。従来の開発では、設計し、コードに落とし、リファクタリングしてメンテナンスしやすいコードに整える。この工程には大きな時間がかかる。

ただし中島は、時間をかけること自体を否定していない。時間をかけるからこそ良いものができ、何千万人もの人に使ってもらえる。例として、中島は自身が関わったWindows 95を挙げた。そのコードは今も使われ、何億人もの人がほぼ毎日使っていると中島は言う。そうしたソフトウェアは、しっかり設計し、メンテナンスしやすいコードにしておかなければならない。

一方で、ある意味「使い捨てのコード」として割り切るなら、バイブ・コーディングがぴったり合うと中島は述べる。バイブ・コーディングがなぜ「バイブでいい」のかを理解するには、この使い捨てコードという考え方を理解する必要がある、というのが中島の見方である。

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ルイ・ヴィトンのバッグと使い捨てのビニール袋

中島はこの違いをバッグにたとえた。エンジニアが心を込めて設計したソフトウェアは、ルイ・ヴィトンのような老舗が丁寧に作ったバッグにあたる。対してバイブ・コーディングで作ったものは、その場で役に立てばよい使い捨てのビニール袋や紙袋のようなものだという。

コストが非常に安いので、1回しか使わないソフトウェアのようなものも今は成り立つ、と中島は言う。AIによってコードを書くコストが下がった。その結果、ソフトウェアの位置付けや使い方が大きく変わりつつある。中島は、バイブ・コーディングをこの流れの中で捉えると分かりやすいと説明する。

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エンジニアの仕事が変わるのではなく、作り手の層が広がる

エンジニアの働き方や開発現場の文化への影響を問われて、中島はまず前提を確認した。中島のような一般的なエンジニアが、きちんとメンテナンスし、何万人、何億人に使われるソフトウェアを作る場合には、バイブ・コーディングは適していないと考えている。向いているのは、自分だけが使うソフト、場合によっては1回しか使わないソフトを作るような場面だという。

中島が良い例として挙げたのは、ベンチャーキャピタリストである長男である。長男は大学でコンピューターサイエンスを学んでいないが、バイブ・コーディングに熱中しているという。ベンチャーキャピタルには、ファンドに出資するLPと呼ばれる人たちがいる。その数はせいぜい数十人だが、長男はその数十人向けのiPhoneアプリをバイブ・コーディングで作って配布し、LPとの関係維持に使っている。

中島によれば、従来の開発なら、ちょっとしたiPhoneアプリでも数百万から数千万円かかる。そのため、わずか数十人のLPのために専用アプリを作ることは、コスト的に不可能だった。それがAIによって可能になった。

長男の作り方は非常に軽いものだと中島は紹介する。中島の話では、長男はReplitとOpenAIのCodexを使っている。Codexに「こういう機能を作って」と頼むとプルリクエストができる。それをReplitを使ってiPhone上でテストし、動けば採用し、動かなければダメ出ししてもう一度やらせる。GitHubを最低限使える程度で、コードのレビューすらほとんどしていないらしい、と中島は話した。

この例から中島が引き出す結論は、従来のソフトウェアエンジニアの仕事がバイブ・コーディングで変わることではない。これまで費用が高すぎてエンジニアを雇ってアプリを作ることなどしなかった層が、従来よりはるかに安く、ほぼ使い捨ての専用アプリを作れるようになった。中島はこの変化が一番大きいと述べる。

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ソフトウェア業界で最も影響を受けるのはエンタープライズのカスタマイズ領域

ソフトウェア業界全体への影響について、中島は分野ごとに分けて考える。OSや大規模アプリケーションのように、作り込んだソフトウェアを作る業界には、あまり関係がないと見る。

中島が最も影響が大きいと考えるのは、エンタープライズ向けのカスタマイズアプリケーションである。これまで企業は、SalesforceのCRMやSAPの会計ソフトを導入する際にかなりの費用を払ってきた。中島は、そもそも導入に費用がかかること自体がおかしいとも付け加えている。さらに導入後、業務に特化したカスタマイズのためにエンジニアやITコンサルタントを雇い、多額の費用を払ってソフトウェアを作ってもらってきた。こうしたエンタープライズ向けのカスタムアプリケーション業界はかなり大きい。中島は、ここがごっそりバイブ・コーディングに置き換わると考えている。

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半年かけて作るか、1〜2日で作って直し続けるか

中島が想定するのは、実際にソフトウェアを使う人が自分でバイブ・コーディングする形である。たとえばSalesforceのCRMを使う営業担当者は、これまで「営業でこう使いたいから、こんなカスタムアプリを作ってほしい」とITコンサルタントに依頼していた。今後はコンサルタントを雇わず、自分たちでAIに作らせるようになるという。

中島は、開発コストの高さが使い方そのものを縛ってきたと指摘する。開発費が高いと、丁寧に設計し、予算を組み、何か月もかけて作ってもらうことになる。実際に使ってみて使いにくくても、修正にまたコストがかかるので、我慢して使い続けることが多かった。バイブ・コーディングなら、6か月もかからず、1日か2日でそれなりに動くものができる。使ってみて使いやすければそのまま使い、不便があればまたAIに少し直させたり、機能を追加させたりできる。中島は、業務特化型アプリケーション市場のあり方が根本的に変わると考えている。

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部門ごと、担当者ごと、さらには顧客1人のためのアプリへ

コストが極端に下がれば、アプリを作る単位も細かくなると中島は見ている。これまでは会社で1つのカスタムアプリを作っていたかもしれない。今後は部門ごと、営業担当者ごと、場合によっては顧客1人ごとに作ることもありうるという。

中島は大きなレストランチェーンを例に挙げた。従来なら、顧客サービスを良くするための専用アプリを1つ作っていたところを、特に文句の多い顧客が1人いれば、その人に対応するためのアプリを作ることもできるようになる。たった1人の顧客のために専用アプリを作ることは、これまでなら絶対に不可能だった。それが現実的になりつつある、と中島は言う。ここでも中島は、ルイ・ヴィトンのバッグと使い捨てのビニール袋ほどのコスト差があることを理由に挙げている。

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誰にとって良い話で、誰にとって厳しい話か

中島はこの変化の受け止め方が立場によって異なると述べる。エンタープライズ向けにITコンサルティングをしてきた会社にとっては「たまらない話」だという。一方、カスタマイズしないと使えないような大きなソフトウェアを使ってきた顧客企業にとっては、とても良い話だと見る。

そのうえで中島は、バイブ・コーディングなどを活用して従来型のソフトウェアをうまく使いこなせる会社が大きく伸びると予測する。AIを利用した企業戦略の面で、これは非常に重要な論点になる、というのが中島の結論である。