積水ハウス地面師事件はなぜ解明されていないのか――森功が語る地面師の手口と、主犯からの獄中書簡
街録ch〜あなたの人生、教えて下さい〜2017年、積水ハウスは東京・五反田の土地をめぐる取引で55億5000万円をだまし取られた。地面師事件としては史上最大とされる。この事件を当時から取材し、著書『地面師』(新庄耕の小説『地面師たち』とNetflixドラマの下敷きになった)と続編『地面師vs.地面師』を書いたノンフィクション作家の森功が、事件の構図、地面師たちの素顔、そして自身の記者としての歩みを語った。森の立場ははっきりしている。17人が逮捕され、主犯格が懲役刑を受けても、この事件はまだほとんど解明されていない。
積水ハウス事件の概要
森の説明によれば、事件の舞台は五反田駅前にあった古い旅館「海喜館」である。地主はその旅館の女将で、地面師グループはこの女将になりすまし、土地を積水ハウスに売り払った。取引額は70億円、被害総額は55億5000万円。事件が起きたのは2017年6月である。
森はこの事件をリアルタイムで知っていた。当時すでに週刊誌で別の地面師事件の連載をしており、最初に取りかかっていたのは被害額6億5000万円の富ヶ谷の事件だった。その連載中に「五反田で地面師事件が起きているらしい」という情報が入り、同時並行で取材を進めることになった。
当時は40件、50件という規模で地面師事件が立て続けに起きていたと森は言う。新橋の白骨遺体事件、アパホテルがだまされた事件などもあり、そのうち6〜7件を取り上げて1冊にまとめたのが『地面師』だった。
地面師の人脈と役割分担
取材の糸口は人脈だった。森によれば、地面師の数はそれほど多くなく、事件ごとに関係者が重なっている。富ヶ谷事件を最初に計画したのは内田マイクという男で、その内田が後に積水ハウス事件も計画していた。関係者をたどっていけば、自然に別の事件にたどり着く。
大物と呼べる地面師は10人ほどいると森は見ている。彼らは協力関係にも敵対関係にもなく、それぞれが自分のグループを率いている。2000年代初めには地域ごとの縄張りがあり、「池袋グループ」「錦糸町グループ」といった呼び名で、その頭目が大物地面師だった。2015年以降は、グループが2つ3つくっついたり離れたりするようになり、積水ハウス事件では大物地面師が3〜4人寄り集まって同社を食い物にした、というのが森の説明である。
大物の下には、手配師、法律屋、道具屋と呼ばれる役割の人間がいる。これらは事件ごとにおおむね入れ替わるが、手配師はもともと人数が少ないため共通していることが多い。積水ハウス事件で逮捕された手配師は、新橋の事件でも手配師を務めて逮捕されていた。一方、なりすまし役は毎回まったく別人で、その都度雇われる。積水ハウス事件のなりすまし役は保険の外交員をしていた女性で、金に困っていると聞きつけてスカウトし、旅館の女将になりすまさせたという。
手配師には、なりすまし役を見つけるノウハウとネットワークがある。積水ハウス事件の手配師は、昼間はビルの清掃・メンテナンスの仕事をしていた。清掃の仕事には高齢者が多く、そのネットワークから人を連れてくる。介護施設や病院に知り合いがいて高齢者を紹介できる、というパターンもあると森は言う。
他の役割にも「仮の姿」がある。法律屋は本物の弁護士や司法書士であることがある。道具屋は印鑑、パスポート、免許証などを偽造する人間で、印刷会社を経営していた人、とくに潰れた印刷会社の関係者が多いという。
もとは手付金詐欺の計画だった
森によれば、当初は積水ハウスに売る計画ではなかった。内田が最初に考えたのは、どこかの不動産会社から手付金を引き出し、それだけで済ませる手付金詐欺だった。70億円も出すような買い手である必要はなかった。
そこに加わったのが、もう一人の主犯とされるカミンスカス操である。カミンスカスが「自分ならきちんと売買までできる、買い取り先を見つけられる」と言い、積水ハウスを見つけてきた。その結果、手付金詐欺で終わらず売買まで進んだ。大物同士のあいだでは意見の対立もあったようだと森は言う。手付金だけでも積水ハウスは14億円を払っており、それだけでも巨額だが、売買代金はさらに大きい。最終的には意見が集約されて計画はまとまった。
大手企業がだまされる理由
積水ハウスは、森の説明では大和ハウスに次ぐ売上4兆円の国内2番手のデベロッパーだ。そんな大手がなぜだまされたのか。森は、実は大手がだまされている例は多く、被害を公表したくない会社や、被害を小さく見せて事件を小さくした例もあると話す。
原因は、だます側とだまされる側の両方にあると森は見る。だます側には、偽造書類や免許証をうまく作る技術があり、なりすまし役への演技指導もする。取引の舞台を弁護士事務所や司法書士事務所、銀行の会議室に設定するので、「まさか弁護士事務所で詐欺はやらないだろう」と相手が思い込みやすい。
だまされる側には欲がある。いち早く情報をつかんで優良物件を仕入れれば、担当者の成績になり、オーナー企業なら大儲けできる。海喜館は何十年も持ち主が売らず、都内の不動産業者が日参しても首を縦に振らなかった物件だった。そこを「売らせられる」と間に立つ人間が言えば、乗ってしまう。大手の場合は、営業部長や次長といった担当者が、大きな取引で出世したいという意識を持っていることも、だまされやすさにつながると森は言う。
積水ハウスの場合はさらに社内事情があった。会長派と社長派の争いがあり、社長派がこの取引を進めたがっていた。事件後、本来なら社長派が責任を取るはずだったが、役員会の多数派工作で社長派が勝ち、会長が退任することになった。森はこれを事件の顛末の一部として紹介している。
届いていた警告文と「二重のなりすまし」
契約直前、積水ハウスには「だまされている」という趣旨の文書が届いていた。女将の名前で「私はこの土地建物を売っていません」と書かれた内容証明郵便である。森によれば、これを出したのは実は地主の親族、女将の弟だった。ただし弟は女将の名前を名乗って出しており、その意味では文書も「偽物」だった。取引の場には女将になりすました人物がいたわけで、地主は二重になりすまされていたことになる。
積水ハウスはこの文書を怪文書扱いにした。地面師側が「ライバル業者の妨害に違いない、こんなものを信用されては困る、地主本人はちゃんといる」と吹き込み、なりすまし役を連れて面談までさせ、取引を遂行した。これが地面師たちのテクニックだったと森は言う。
なぜ弟が姉の名前で出したのかについて、森は家族関係の複雑さを理由に挙げ、姉に断って出したとは思えないと話した。詳しくは第2作でようやく分かったことで、話すとネタバレになるとして説明は控えた。
発覚は測量の段階だった。女将はまだ存命だったが、入院していて意思表示できる状態ではなかった。後に土地を相続することになる弟が弁護士に頼み、警察に通報して警察が駆けつけた。そこから調べが進み、取引が嘘だったと分かった。
取引額と被害額の差――マンション購入の謎
取引額70億円と被害額55億5000万円の差について、森は奇妙な事実を挙げる。なりすまし役が積水ハウスから売れ残りのマンションをいくつも購入しており、その額が何億円にもなっていた。その分が差し引かれて55億5000万円になったという。
おそらく地面師側の指示だろうと森は見るが、なぜそうしたのかは今も分からない。本来、地面師事件ではなりすまし役と買い手の接点が増えるほど発覚の危険が高まるので避けるはずだ。これだけの取引をしていて積水ハウスが気づかないはずがない、という見方もある。
森はこの見方を「推測」としつつ、完全に間違ってはいないと考える根拠を示す。事件後、なりすまし役がしばらく失踪した際、積水ハウスの営業次長らが、主犯とみられるカミンスカスと一緒になって彼女を探し回っていた場面があるという。遅くとも6月1日以降には異変を知っていたはずの被害者が、詐欺をした側と行動を共にしているのはどう考えてもおかしい、と森は言う。積水ハウスは当初、取引が成立しなかったとは公表したが、詐欺に遭ったとは公表しておらず、被害届も遅れた。森は、同社があまり事件にしたくなかったのではないかと推測している。
捜査は「うまくいっていない」
最終的に17人が逮捕され、最後に逮捕されたのがカミンスカスだった。捜査はうまくいったのかという問いに、森は「うまくいってない」と答える。最大の理由は、55億5000万円のうち1000円もどこへ行ったか分かっていないことだ。
森によれば、これは地面師事件すべてに共通する。金は手形や振り込みで支払われても、すぐに引き出され現金化されて分けられる。誰にいくら渡ったかは今も不明だが、刑事捜査や裁判では被害額が特定できれば詐欺として裁けるので、行方の解明は必要とされない。積水ハウスは主犯を相手に訴訟を起こしているが、破産していて返せないし、返す気もないだろうと森は見る。
さらに、逮捕された17人のうち起訴されたのは10人で、残る7人は起訴されなかった。その中には当初から計画に関わった主犯格とされる人物もおり、そこに金が流れたのではないかという説もあるという。
暴力団の関与について森は、おそらく詐欺そのものには加担していないとみる。ただ、この事件に限らず、暴力団が準備資金を何億円か出し、倍にして回収するようなことはあったようだと話す。仮に事実でも、貸した金を返してもらっただけで、詐欺を指導したわけではないので犯罪にはならない。地面師の親玉クラスには暴力団と付き合いのある人間が多く、裏社会の側からすれば、安全地帯にいて金だけ儲かる立場になる、というのが森の見方だ。
カミンスカスからの手紙
森のもとにカミンスカスから手紙が届いたのは昨年のことだという。服役中の長野刑務所から版元を通じて届いた手紙には、「私は主犯ではない、だまされただけだ」「主犯は別にいる」と書かれ、事件にはまだ分かっていないことが多すぎると訴えていた。森はそれ自体はその通りだと考え、さらに手紙が名指しする「もう一人の黒幕」に前作の執筆時から心当たりがあったため、面白いと思い文通を始めた。
カミンスカスの言い分はこうだ。積水ハウスを見つけてきたのは確かだが、正確には、中間業者のイクタホールディングスという会社が積水ハウスの営業次長と取引関係にあり、カミンスカスがそこにつないだ。イクタホールディングス側は、なりすましとは知らずに中間業者として取引しただけだと言い張り、結局起訴されなかった。カミンスカスも同じ理屈で、取引の窓口ではあったが、相手がなりすましだとはその時まで知らなかった、だから無罪だと主張し始めた。
実際には取引現場に同席し、何度も会い、打ち合わせもしている。その主張は通らず、懲役11年の判決を受けた。ただ森は、カミンスカスが途中から計画に加わったのは確かだと言う。当初から関わっていたのは内田マイクら3人で、そのうちの一人が、カミンスカスが「もう一人の黒幕」と名指す横沢という人物だ。途中から誘われて乗っただけ、という言い分も成り立たなくはない、と森は見ている。
詐欺師の言葉の9割は本当
登場人物がみな詐欺師で、それぞれ少しずつ嘘をつく。それでも森は、詐欺師はすべて嘘を言っているわけではなく、9割がた本当のことを言うと話す。その本当の部分を集めて最大公約数を取っていくと、真実が少しずつ見えてくる。捜査も同じだろうが、ノンフィクションを書く側にはその作業しかない、と森は言う。
直接会った地面師たちの共通点として、森は「よく喋る」ことを挙げる。詐欺はスピード勝負で、相手が戸惑ったり迷ったりするのを打ち消し、煙に巻く話術が必要だからだという。
ルーツとしては地上げ屋が多いと森は見る。バブル期に大手デベロッパーの依頼で虫食いの土地を地上げしてきた人たちだ。頑固な地主がいて再開発が進まない土地を、地上げ屋が懸命に交渉しても地主がうんと言わない。そこで、地主のなりすましを仕立ててデベロッパーに売ればいい、と考え出すのが地面師だという。一見すると普通の不動産ブローカーなので見分けがつきにくく、大手も中小もブローカーから情報を得て動くため、結果的にそうした人間を使ってしまう。
森は地面師を「コスパがいい」犯罪だとも表現した。10億円単位の事件はざらにあり、懲役は4〜5年、長くても7〜8年。年収に換算すれば1億円以上になり、金は戻ってこない。
地面師は人を殺すのか
新橋の事件では準備のために殺人が行われたのでは、という問いに、森は「殺人とは断定できていない」と訂正した。捜査はしたが立件できなかった。森は取材経験上、詐欺師が殺人まで犯すことはほとんどなく、聞いたことがないと言う。死刑になれば10億、50億儲けても意味がなく、詐欺師は損得勘定が先に立つからだ。Netflixドラマではなりすまし役まで殺されていくが、森は現実にはそこまではしないだろうとみる。
ただ、なりすまし役を逃がすことはある。なりすまし役が捕まらず立件できなかった例はたくさんあるという。アパホテル事件では、90歳前後の地主のなりすまし役を2人立てたが、2人とも実際に認知症の症状が出て、公判で証言があいまいになり信用性を失った。公判が維持できなくなり、釈放されたという。計画的だったかどうかは定かでないと森は言う。そもそも地主が高齢なのだから、なりすまし役が「年で生年月日を忘れた」と言っても不自然ではない、という話も出た。
新聞社から週刊新潮へ
後半は森自身の経歴に移る。森は64歳で、福岡県北九州市小倉の生まれ、中間市育ち。高校の先輩に高倉健がいることを「いつも自慢している」と話す。家庭はサラリーマン家庭で、母は専業主婦、きょうだいが一人いる。
岡山大学を出て三重県の伊勢新聞に就職した。普通のサラリーマンには向かない気がしていた、朝起きるのも苦手だから、というのが新聞を選んだ理由だった。その後、学研が1989年に創刊した週刊誌『週刊テーミス』に応募して働いたが、2年で休刊。新潮社の人に誘われて『週刊新潮』編集部に移った。
新聞記者時代から、1991年のイトマン事件――住友銀行グループの商社イトマンが破綻し、3000億〜4000億円が闇に消えたとされる事件――など、政官財や裏社会につながる取材をしてきた。週刊新潮でも佐川急便事件などの政治経済事件を追い続けた。森によれば、かつての日本は政界も芸能界も経済界も裏社会とつながり、渾然一体となった時期があり、今でも裏との関係を断ち切れないところがある。だから取材を進めれば、どうしてもそこにぶつかるのだという。
取材対象との距離
金を渡されそうになったことはあるが、受け取ったことはないと森は言う。お車代として5万、10万を渡そうとする人はいて、フリーに限らず組織に属する記者でも受け取った人はいる、新聞社にも出版社にもかつては大勢いただろうし今もいるかもしれない、と森は話す。渡す側が「あの有名記者も受け取った」と言って安心させようとすることもあり、お土産の中に金が忍ばせてあるような場合は本当だろうと感じるという。そうした金は返してきた。
飲食はある程度仕方がないと森は認める。ごちそうになればお返しをするのは社会儀礼の範囲だ。しかし追及する側、チェックする側が裏金的なものを受け取ればアウトだという。例として、東大医学部の教員が医療機器会社からソープランドを含む接待を受けていた最近の問題や、かつての大蔵省接待、ノーパンしゃぶしゃぶの店「楼蘭」を挙げた。楼蘭の名刺集めの中にマスコミ関係者の名刺があったこともあるという。
一方で森は、現場に近寄らない問題も指摘する。ネット情報だけで記事を作る「こたつ記事」や、コメントの捏造が問題になることもある。どこまでリスクを取り、どこで一線を引くかは個人の判断だとしたうえで、森自身は「普通のこと」をしているだけだと言う。面倒くさがらずに人に会い、資料に当たる。コミュニケーション能力とは話の上手下手ではなく、相手に関心を持ち、相手にもこちらに関心を持ってもらう努力のことだ、と森は説明した。
次長を辞めてフリーに
週刊新潮での昇進の道筋について、森は、記者としてまず2ページのマネー欄を書くようになり、4〜5ページの特集記事のデスクに上がり、デスクの中から4人選ばれる次長の一人になった、と説明する。評価は編集長、次長、デスクといった上司が部下の仕事ぶりを見て決める仕組みで、取材ができて、話題になる記事、雑誌の看板になる記事を書ける人が上がっていくという。森は新潮社にフリーの立場で入り、次長になっても最後までフリーだった。
辞めたのは40歳前後で、単行本を書きたい、1冊の本にまとめてみたいという気持ちからだった。在籍中も他社のアルバイト原稿を書き、事件のオムニバス本の一部を担当した経験があり、それも辞めるきっかけになったかもしれないという。編集長になりたいとは思わなかった。人を指導するのが得意でなく、ずいぶん怒ってしまう。今ならパワハラだと笑い、マネジメントにはまるで興味がないと言う。関心があるのは、自分が書いたものが評判になったり、クレームがついたり、褒められたりすることだ。
家族はいたが、辞めることを決めてから伝えた。喧嘩別れではなく、当時の早川編集長から連載の約束をもらって辞めたので、最初は週刊新潮の仕事ばかりしていた。
デビュー作から『悪だくみ』へ
ノンフィクション作家としてのデビュー作は『黒い看護婦』である。福岡県飯塚市の看護師4人組が保険金目当てに夫たちを殺害した事件――殺害されたのは2人、1人は未遂――を、週刊新潮のデスク時代に記事にし、それを2003年ごろに単行本化した。売れてドラマにもなったという。
書くモチベーションを聞かれ、森は「好奇心」と答えた。出会った情報や人の中から、面白い、問題だと思ったものを深掘りし、取材結果がさらに面白ければ記事や本にする。近年は政治関係が多く、安倍政権時代には『悪だくみ』を書いた。人気があり「一強」と言われた政権だが、森友学園や加計学園の問題を取材するうちに、インナーサークルでえこひいき的な政治がまかり通っているのではないか、本当に国民の豊かさや国益につながっているのか、と疑問を持ったという。タイトルは安倍がSNSに書いた「男たちの悪だくみ」から取った。正義感というと大げさだが、きれいごとの裏にある別の理由を暴き、真実を知り、できれば広く知らせたいのだと森は言う。
真実には届かない、それでも近づく
納得がいくまで掘り下げられることは「ほとんどない」と森は言う。真実にたどり着いたと思ったことは一度もなく、何でも積み残しがある。『地面師』の第1作で分からなかったことが多すぎたから、本当に積水ハウスはだまされたのか、55億円はどこへ行ったのか、黒幕は誰なのかを、第2作でもう一度追う必要があった。カミンスカスの手紙がその手がかりになり、意欲が湧いたという。
フィクションには今のところ興味がない。小説は取材の参考に読み、嫌いではない。人間の本当の顔、人心を描くという点では小説もノンフィクションも同じだと森は考える。ただ、小説は取材を素材に想像力で真実に近づけるが、自分にはその能力があまりない。分からない部分を想像で補おうとは思わないし補えない、補うにはさらに取材するしかなく、それがノンフィクションだという。主観は入るが、取材を積み重ねるほど事実に近づくと信じている。真実そのものには達しえず、「誰が見てもこれは真実だと思える」だけの材料を集めることが大事だ、と森は話す。
その例として森は、収録前日と当日の国会を挙げた。森の説明では、『週刊文春』が、高市早苗の事務所が自民党総裁選の際に小泉進次郎や林芳正を中傷する動画の制作者と打ち合わせていたと報じ、LINEやメールのやり取りも掲載した。これに対し高市は国会で、自分の悪口ばかり書く週刊誌は信用しない、本人たちは会ったこともないと言っている、と答弁した。どちらの姿勢が正しいかは、材料をもとに判断されるべきではないか、というのが森の問題提起である。
次に追うテーマ
現在は政界を取材し、「自民党の研究」の連載や、『サンデー毎日』での「時代を動かす者たち」の連載をしている。『女性セブン』では珍しく、高倉健が乗っていたポルシェが見つかった話を書いた。高倉健の姪からLINEで、テリー伊藤がInstagramにそのポルシェを見たと投稿していると知らされ、処分されたと言われていた車が残っていたのかと取材を始めた。実際に持ち主に乗せてもらい、ポルシェにまつわる因縁も書いたという。
情報提供をきっかけに取材が始まる、というのが森の仕事の進め方である。いつまで書き続けるのかと問われ、森は「取材ができる限り」と答えた。取材ができなくなったらその時に考える、小説は考えていない、何より大事なのは取材だ、と話して対談は終わった。
すいません。よろしくお願いします。よろしくお願いします。お願いします。加藤と申します。よろしくお願いします。
ご紹介いただきまして。はい。森さんはノンフィクション作家っていう感じなんですかね。そう。そういう感じ。肩書きとしては。
はい。Netflixでドラマ化された『地面師たち』の積水ハウスの事件ですか?地面師の実際の事件をもう取材されたっていう。
そうです。そうです。だから積水ハウス事件だけじゃなくて、いろんな事件を色々、新橋の白骨遺体事件とか、アパホテルが騙された事件とか、色々あって、当時いっぱい、40とか50ぐらい立て続けに地面師事件が起きてたんですよ。
だからそれらのうち6か7個取り上げて、1冊の本にしたのが僕の本。『地面師』という本ですね。で、それを元に小説にしたのが『地面師たち』という新庄さんの小説ということになりますね。
実際、1番被害の巨額さと、あと騙された企業の大きさで言うと、積水ハウスが際立ってるじゃないですか。
地面師事件の中ではやっぱり史上最大だと思いますね。
ざっくりあの事件の概要ってどういうものだったんですか?
簡単に言うと、海喜館っていう五反田の駅前にある古い旅館がありましてね。で、その古い旅館の女将さんが地主なんですけれども、その地主に成りすまして積水ハウスに売っ払っちゃったという事件ですね。その取引額が70億で、被害総額で言うと55億5000万っていう金額なので、史上最大の地面師事件という風に言われてますけどね。発生したのが2017年の6月。
森さんはその事件についてはどの段階で知るんですか?
リアルタイムで知ってたんですよ。その時はすでに僕はその週刊誌で他の地面師事件の連載を少しやってて、で、そこで地面師事件があってですね、僕が最初に取りかかったのが6億5000万の富ヶ谷の事件で、その事件の連載をしてる最中に、どうも地面師事件が五反田で起きてるようだという情報が入ってきて、そこの取材も同時進行でできたということですかね。
で、そっからどういう風に取材していくんですか?まず。
だからそっから関係者に当たっていくわけですけど、地面師っていうのはそんなに数が多いわけじゃないので、関係者が共通してるわけですよ。僕が最初に手がけてた富ヶ谷の事件の、1番最初にその地面師事件を計画したのが内田マイクという男なんですけど、その内田マイクは最終的に積水ハウス事件もその後に計画してたということなんで、要するに人脈を辿っていけばというか、関係者を取材していけばそこにたどり着くわけです。
なるほど。
地面師っていうのは10人ぐらいいるわけですよ。大物が。
その10人は一応協力関係っていう感じなんですか?それとも敵対してるんですか?
敵対も協力もしてないです。それぞれ自分のグループを率いてる人たちで構成されてるわけです。かつてはね、2000年代の初めの頃は地域ごとに縄張りがあって、池袋グループとか錦糸町グループとか、そういう風な呼び名があって、そこの頭目が大物の地面師なわけですよ。で、それぞれが活動してきたんだけど、2015年以降は一緒になったり、ある意味2つ3つがひっついたり、離れたりみたいな。で、積水ハウスの場合はその大物地面師が3人から4人寄り集まって、寄ってたかってあそこを食い物にしたということですね。
え、そっか。主犯格は3人4人いて、で、手配師だとか法律屋とか道具屋と呼ばれる人たちが出てくるじゃないですか。そういう人たちは一応毎回入れ替えてるんですか?その事件の度に。
大体入れ替えてますね。でも手配師はそんなにたくさんいないけど、入れ替わってることが多いですよね。手配師も共通してることが多いです。積水ハウス事件で捕まった秋葉紘子っていうのが手配師です。これは新橋事件でも同じように手配師をやってて、そこでも捕まってますけどね。成りすましなんかは全くバラバラですね。その都度雇う。詐欺師役という役。
積水ハウス事件の場合は、パレディというか、保険屋のおばちゃんをしてる人、ちょっと金に困ってるということを聞きつけて、それで声かけてスカウトして、五反田の旅館の地主に成りすまさせて、積水に70億で物件を売ったということですね。
手配師には、成りすましになりそうな人を見つけ出すノウハウというかネットワークがあるんです。積水ハウス事件で捕まった秋葉紘子は、昼間はね、掃除婦なんですよ。ビルのメンテナンスというか、そういう作業をやってて、要するに掃除、メンテナンスのネットワークがあって、そこは割と高齢者の人が多かったり、掃除をする人はね。で、そういうネットワークでそういう人を連れてきたりとか、もしくは介護施設や病院なんかに高齢者が多いから知り合いを持ってるとか、そういうパターンですかね。
え、じゃあ詐欺師の人たちも昼間の生業みたいなのを持ってるっていうか。
そう、生業と言えるかどうかわからないけど、仮の姿みたいなのはあるんですよね。例えば法律屋とかって言われてる人は本物の弁護士であったり、司法書士であったり。
で、道具屋って言われる、偽造する人たちですよね。印鑑作ったり。印鑑作ったりとか、偽のパスポート作ったり、免許証作ったりとか、そういう人たちは元々印刷会社を経営してたりね、潰れた印刷会社っていうパターンが多いみたいですけどね。そこに繋がりのある人たち。
へえ。それで、人がとりあえず集まるじゃないですか。偽造書類とかを用意して、地主さんの所有であるようにまず仕立て上げる。そう、そう、そう。そっからじゃあ積水ハウスに行くっていうのはどのタイミングなんですか?
事件の前がちょっと複雑で、元々はね、積水ハウスに売ろうという計画ではなかったんですよね。内田が最初に計画したのは、銀行融資を受けて、手付金詐欺みたいなんで、それで済ませようと。そのためにどっかの不動産会社から手付金を引っ張って、それだけで済ませようじゃないかっていうような計画だったんですね。だから別に積水みたいに70億も出すようなところじゃなくても良かったんだけど、たまたまそこに加わったもう1人の主犯のカミンスカス操っていうのが、いや俺だったらちゃんと売買ができるからって言うんで、買い取り先を見つけられるからっていうんで、その積水ハウスを見つけてきたんです。
へえ。で、その手付金詐欺だけで終わらずに、そのまま売買にまで行っちゃったっていう、そういう話ですよ。
そっか。じゃあその元の主犯からしたら、結構危険な仕事っていう認識ではあったんですかね?そういう大手企業的にも。
だからそれは意見の対立があったみたいですよ。大物同士だから、いやもう手付金だけでいいよって。手付金っていうのもね、14億も払ってるから積水ハウスは。それだけでもすごい金なんだけど、売買の金額は大きいですからね。最終的にはそう意見集約されてまとまっていったっていうことですね。
へえ。でもそういう地面師詐欺とかにすごい敏感そうじゃないですか?積水ハウスとか大手企業っていうのは。なんで騙されちゃったんですか?
そうです。積水ハウスといえば、大和ハウスに次ぐ売上4兆円もある日本で2番目のデベロッパーですけどね。だけども騙され、結構ね、でも大手は騙されてるのも結構多いんですよ。
あ、そうなんですか。
あんまり表に出したくないけれど騙されてて、その被害届を出したくないとかいうところもあるし、実は被害をもっと小さく見せて事件を小さくしてしまった事件なんかもある。
へえ。それはやっぱその騙される側のミスによる要因が大きいのか、騙す側のやっぱやり方によって騙されちゃうのかっていうのは、どっち側?
多分両方ですよね。騙す側のやっぱりノウハウというかね、テクニックがあって、さっきの偽造とか免許証とかそういうのがうまく作れてるし、書類さえあればなんとかなるとか、いわゆる演技指導とかもするんで、詐欺のね。で、舞台設定も弁護士事務所でやったり、司法書士事務所でやったり、もしくは銀行の会議室を借りて銀行でそのまま取引したりとかするので、それでやっぱりなんとなく騙されやすい。弁護士事務所でやった取引で、まさか詐欺師がそこでそんなんやらないだろうという、世間的にはね、そういう風に思ってしまうこともある。
で、一方で、騙される側の不動産会社というかね、デベロッパーも、いち早く情報を掴んで優良物件を買収すれば自分の成績になる。もしくは不動産会社のオーナーであれば大儲けできるっていうね。
だから積水ハウスで言えば、あの建物はもう何十年も地主が売らなくて、都内の不動産業者はどこも日参しても首を縦に振らないようなところだったんで、そこを縦に振らせられるっていうことを間に立つ人が言えば、それはそこに乗っかってしまうっていうか、ちょっと欲得ですね。自分自身の欲得。または大手の場合は営業部長とか営業部の次長が騙されたことになってるんだけど、自分の欲でそういう大きな取引をすれば出世できるじゃないですか。そういう意識があって、それは騙されやすい要素になってる。
で、積水ハウスで言えばね、もっと言えば、会長派と社長派の争いがあって、社長派がこの取引をなんとか進めたいっていう風に言って飛ばしてた。で、会長派はそれは黙ってたわけですけどね。で、最終的にそこで争って、結局社長派が勝っちゃったっていうことですよね。
あ、え、騙されたけど社長派が勝つんですか?
そうです。最終的に事件になったらね、社長派が責任取らなきゃいけないんだけど、役員会の多数派工作で社長派が勝っちゃって、会長が首になったみたいな、そういう事件の顛末もあるんです。最終的にはね。
そっか。本当に契約が決まる直前とかに、積水ハウス騙されてますよっていう、なんか文章が届いたりしてたんすよね。積水ハウスに。
そう、そう、そう。その後から気づくんだけど、それは親族が出したんですよね。本来の地主の親族。地主の親族が出した。だけどでもそれも変な話で、その親族が地主の名前を語って出してるわけですよ。佐妃子さんていうのが女将さんなんだけど、私、海老澤ですけど、こんな土地建物売ってませんよっていうことを積水ハウス側に内容証明郵便で出してるわけです。それも偽物っちゃ偽物なんですよ。
確かに。だってその取引の場に、成りすましたその地主さんがいるわけですもんね。実際はだから二重に成りすまされてる感じですかね。
要するに怪文書ですよ、それは。で、要するに怪文書扱いにしちゃったわけですよ、積水ハウスは。それは地面師たちにそそのかされてっていうか、そこもこう吹き込まれて、これはライバル業者の妨害に違いないんだと。だからこんなもん信用してもらっちゃ困りますよ、ちゃんと地主はいますからって言って、それを信用させたってのがその地面師たちのテクニックで。で、実際その成りすましを連れて行って、この人が地主ですっていう面談までやらして、取引を遂行したということ。
その文書自体は本当の親族が一応出してたんですか?
そう。それは後から気づいてんですよ。ああ。でもそこはね、ちょっとやっぱりこの事件の複雑なところで、より事件を複雑にしてますよね。
確かに。それなんでそんなよくわかんないやり方したんすかね。
地主の家族関係が複雑がゆえに名乗ったんじゃないですかね。地主の弟が出してるんだけど、それはお姉さんに断って出してるとは思えないんですよね。だからそういう家族関係の複雑さがあって、あまりそれを話すと本のネタバレになっちゃうからあれですけど、それはようやくこの2冊目、第2作の本でようやく分かったんですけどね、そこは。
へえ。決済に取りかかる段階で、積水ハウス側はとうとう気づいたんですよね。最終的には。
そうそうそう。だから決済の段階ではまだお姉さんていうか地主は生きてたんだけど、もう入院してて、どうしようもない段階だったよね。それで、その段階で、後にそこを相続することになる弟さんが弁護士に頼んで警察に通報して、警察が駆けつけたということをやったわけですね。それで、おかしいっていうことになって、そっから調べたら嘘だったっていう話です。
ああ、被害総額70億で。
取引額が70億なんです。で、被害総額は55億5000万。なんで差額が出てるかって言ったら、成りすまし役と積水ハウスが別にまたマンション取引をやってて、成りすまし役が積水ハウスからマンションをいくつも買ってるんです。それが何億円にもなってて、その差し引きで55億。
え、それも地面師たち側からの指示なんすか?その、買うようにって。
だから多分そうですよね。指示なんでしょうね。なぜそれをやったかっていうのは謎ですね。未だにそこはよくわからないですね。なぜそんなことをやったのか。普通はね、地面師事件っていうのは地主とその買い手側に接点が生まれるんで避けるんだけど、なぜかしらそこで羽毛田っていう成りすまし役がマンションをいくつも買ってるんですよ。積水ハウスから。売れ残ったマンションですけどね。それは積水ハウス側が売り付けてるので、それをはいはいって買ってるんだけど、だからその辺りもまだまだ残った謎なのかもしれないですね。なぜ積水ハウスがそういう行動に出たのか、また地面師側もそういう行動に出たのか。
ああ、だから本にも書かれてましたけど、普通それだけ物件を購入してて、やり取りがあったら、積水ハウスが気づかないはずがないっていう見方もあるんですよね。
見方はね、そう推測ですけどね。でもある意味ね、その推測が間違ってないのは、積水ハウスは騙された後も地面師と一緒に行動を共にしてる。地面師であるそのカミンスカスっていう、主犯と見られてる人がね。と一緒に、積水の営業次長とかが、成りすまし役がいなくなったら大変だっていうんで、あっち探し回ってるんです。そういう行動を取ってるんです。それっておかしいですよね。もう事件後にその成りすまし役が失踪したんでしたっけ?失踪したんです。
しばらくね。しばらくいなかったんです。で、それを探すのを、なぜか積水ハウスの人間とその主犯が一緒に行動して探してる場面があるんですよ。少なくとも6月1日以降に知ってたわけだから、積水側はね。知ってて、騙された人と詐欺した人が行動を共にしてるっていうのは、どう考えてもおかしいじゃないですか。積水側も何らかの意図があったっていう風に思わざるを得ないですね。だから実は積水さん、あんまり事件にしたくなかったのかもしれないですよ。事件として表に出したくなかった。
そうなんですね。
だから1番最初に積水ハウスが発表した資料だと、取引が成立しませんでしたっていうことは公表してるけど、詐欺に遭いましたとは公表してないんですよね。その後に警察に被害届を出すんだけど、その被害届は遅れてるんですよね。で、その間、積水ハウス側はいろんな不可解な行動を取ってるという話だと。
なるほど。でもそっから捜査が始まって、主犯格も逮捕されてくじゃないですか。最終的に17人ですか?
そうですね。17人。最後に逮捕されたのが、さっき言ったカミンスカスっていう、積水ハウスを見つけてきた主犯。僕はその『地面師vs.地面師』という本の中で、登場してる、僕に手紙を書いてきたんですよ。私は主犯じゃありません。主犯は違う人がいるんだっていうことをね。ていうか、私は騙されただけだとかいう手紙だったんですけどね。
積水の事件で言うと、かなり捜査がうまくいったっていう感じなんですかね。
いや、うまくいってないでしょ。少なくとも、なぜうまくいってないかって言ったら、その55億5000万の被害額は1銭もどこに行ったかわかんないんです。だから結局それはうやむやのままです。地面師事件は全部そうですよ。どの事件も被害額が戻ってくることはない。仮に主犯が10億20億ね、自分でもらってたら、そのうち20億もらってて10億残ってたら、それは被害弁償しなきゃいけないんだけど。で、積水ハウスは民事で訴えてますけどね、その主犯に対して。だけどそんなんどうせ破産しちゃって返せないし、返す気もないし。
奪った瞬間どっかに移してる。どっかに移してるんですよ。それは例えば手形で払ったり銀行振り込みであったりとかするんだけど、それを全部引き出して現金にして分けてるわけですよ。それが誰にいくら行ったかっていうのは未だによくわからない。刑事捜査上または裁判上、それは必要ないわけです。被害額さえ特定できれば、被害額に対する詐欺で罰が下せるわけだから。被害が返せれば1番いいけど、どこに行ったか分からないっていうことでも、それは問題にはならない。
逮捕された人間の数で言うと、でもその主犯格的にはどうなんですか?そのカミンスカスの上のマイクとかも逮捕されてるじゃないですか。
されてますね。だから17人逮捕されたけど、起訴されたのは10人なんです。その他の7人は無罪放免なんです、この事件では。その7人のうちの1人は主犯と言われてる人、当初から計画に関わってた人もいるんだけど、その人はこの事件では無罪になって。だからそこに金が行ってるんじゃないかという説もある。だからそこははっきりしない。
さらにその上に暴力団とかがいたりするんですか?その地面師集団の上に。
そこはよくわからないですね。おそらく暴力団は詐欺には加担してないんだと思います。この事件もそうだし、他の地面師事件でもよくあるのは、暴力団が要は上にいて、資金みたいなのを出して、色々準備がいるじゃないですか。人を集めたりとか。準備資金を何億出して、それを倍にして回収するとかいうようなことはあったみたいですけど。でもそれは貸し付けてるだけで、仮にそれが事実だとしても、貸し付けたものを返してもらってるだけだから犯罪ではない。で、知らなかったっていう。詐欺を指導したわけじゃないから。詐欺をしたのはあくまで地面師だから。
割とその地面師たちの親玉クラスは暴力団との付き合いが多かったり、元暴力団であったり、元組員であったりする人が多いから、そういう付き合いはあるんでしょ。で、暴力団なんて裏社会の人にとってみたら、別に金だけ貸してそれが返ってくればいいわけだから。さらに言えば、それは事件にはならない。自分は安全地帯にいて、金だけ儲かるっていう立場だから。それはそれで彼らにとってはシノギになってるわけですね。
それで、捕まった主犯のカミンスカス操氏から森さんに手紙が来るのはどのタイミングなんですか?
それは昨年かな?事件として一旦決着がついたっていうか、逮捕されて起訴されて、実刑で収監されてたわけですよ。まだ服役中ですよね。服役中です。長野刑務所から突然、版元である講談社に手紙が来て、私は騙されただけだっていう手紙が来るわけです。だからこの事件はまだまだ分かってないことが多すぎるんじゃないかっていうような手紙だったんで、それはその通りなんですよね。その通りだし、その中で実はもう1人の黒幕がいるんだみたいな話を書いてきたんで、その人物に前作を書いた時に心当たりがあったんで、ちょっとこれは面白いなと思って手紙のやり取りを始めたんです。実際どうなんだ、どうなってるんだという話で。
無実っていうのはどういう言い分なんですか?
カミンスカスが、さっき言ったように積水ハウスを見つけてきたんですよね。だけど、正確に言うとカミンスカス本人が見つけてきたわけじゃなくて、その中間業者と言われてる人とカミンスカスが知り合いで、それはイクタホールディングスっていう会社なんですけど、イクタホールディングスが積水ハウスの営業次長と取引があって、で、イクタホールディングスが中間業者として利益が落ちて、で、事件が成立していく。仲間だから間に挟んで、知り合いだからということですね。まあ、そこも怪しいですよ。怪しいんだけど、そこもだから不起訴になっちゃった、結局。
自分は知らなかったんだ。確かに積水ハウスを見つけてきましたよ。で、カミンスカスにつなぎましたよ。で、カミンスカスが一緒になって、で、自分たちは成りすましと思ってないから、成りすましにお金をあげたんですよっていうような、中間として取引したんですっていうようなことで、結局不起訴になっちゃった。それを言い張ってね。で、カミンスカスも同じことを言い始めたんです。あの手紙の中で、私も確かに積水ハウスとは取引したけれども、窓口でもあったけれど、実際はMさんは、さっきのこの成りすましが取引してたんだっていうことはその時まで知らなかったんだと。だから私は無罪です。
っていうような言い分ですね。でも同じ取引現場にはカミンスカスも行ってたってことですよね。
そうです。何度も会ってるんだけど、で、打ち合わせもしてるんだけど、それでも無罪を主張してるわけです。だからそこは結局通用せずに、11年の刑を食らってるわけですよね。ただし、カミンスカスは実際に途中から入ってきてるのが確かなんですよ、この計画に。内田マイクとか、もう1人になったふっていうのがいるんだけど、それとかさらに言えば、カミンスカスいわくのもう1人の黒幕だっていう横沢っていう人物が当初から関わってた。その3人がいて、で、そこにカミンスカスは、こういう取引があるからちょっと1枚噛まないかって言って誘われて、私は乗っかったんで、だから何も知らない、積水を見つけてきて取引しただけなんですと。途中から入ってるから、そういう言い分も成り立たなくはない。
少なくとも世間が思ってる積水ハウス事件は、現実としては解明できてないし、今まで報じられてきた範囲の地面師事件は何も分かってないですよね。
確かに。まず登場人物も多いし、もうみんなちょっとずつ本当のことと嘘を言ってるからみたいな。
そう、そう。登場人物がみんな詐欺師だから、みんな嘘言ってることが多い。嘘がどっかに入ってるわけですよ。ただね、僕はみんなに言うんだけど、詐欺師っていうのは全部嘘言ってるわけじゃなくて、9割方本当のことなんですよ。本当のことが多いんですよ。だからその9割方を集約していくと、最大公約数というか、それを集めていくと真実が少しずつ見えてくることもある。まあ捜査も同じでしょうけどね。我々いわゆる物書きというか、ノンフィクションを書く場合には、そういう作業をやっていくしかないんですよね。いろんな角度から取材をして話を聞いて、またはその証拠を集めていく。
実際、詐欺師の人と対面して取材もしたりしましたか?地面師。
そうですね。もちろん地面師と会って。当時。もう今やみんな入っちゃってる人が多いですけどね。
どんな印象ですか?会った主犯はどんな人なんですか?共通点みたいなのありますか?
共通点は話すのが早いですね。よく喋る。よく喋るってのが1つの特徴かもしれないですね。詐欺っていうのはやっぱりスピードが勝負なんで、相手が戸惑ったり迷ったりしてるのを消すために、相手を煙に巻く話術みたいなのがやっぱり必要なんで。そういう意味で言うと、やっぱり能弁な方が有利でしょうね。
元々のルーツはどんな人が多いんですか?その詐欺の主犯って。
地上げ屋が多いですよね。不動産会社を経営してたりとか、例えば大手のデベロッパーに頼まれて虫食いの土地を地上げしてきた、バブルの頃に地上げしてきた人たちとかね、そういうのが地面師に変わっていくっていうパターンが多いんじゃないですかね。だから見分けがつきにくいんですよ。一見普通の不動産ブローカー的な人が多いんで。大手も中小も皆、不動産ブローカーとか地上げ屋から情報を入手して、どこどこに優良物件があって、あそこの地主はこういう人だから交渉できますよっていう情報をもらって動くパターンが多いので、逆にそれを使ってるわけですよね。
で、そういう人たちは必ずしも地面師じゃないんだけど、そういう人たちが、例えば地上げがうまくいかずに10年も土地が塩漬けになってしまう、虫食いのあるね、頑固な地主がいて、ここが上げられないばっかりに都心の再開発ができないっていう土地。仮にその人が売ってくれれば、この一角がもう何十億、何百億になって、大きな商業ビルが立ったりマンションが立ったりみたいなことができる。だからここ地上げお願いしますよって言って、地上げ屋にお願いするじゃないですか。で、その地上げ屋は分かりましたって言って一生懸命地主と交渉するんだけど、地主はどうもうんと言ってくれないと。そしたら最終的には、その地主に成りすましを仕立てて、デベロッパーに売ればいいわけで、ということをやり出す。それが地面師。
へえ。地面師っていうのは儲かりますからね。さっき言ったように、積水は55億5000万っていう、すごい額だけど、他の事件でも10億単位のそういう詐欺事件っていうのはもうザラにあるから。だから効率っていうか、懲役大体4、5年とか、まあ7、8年ですから、年収1億円以上っていう計算。結局金は戻ってこないんで、コスパいいわけですよ。
だから新橋のあの事件なんかは、その地面師詐欺の準備のために殺人やっちゃうみたいなことですもんね。
いやいや、あれはね、殺人とは断定できてない。できてないです。変死ですよね。捜査はしたけど、そこは立証できずじまいですよね。で、考えてみると、その詐欺師たちが殺人まで犯すことはほとんどないんですよね。少なくとも聞いたことない、僕は。仮に殺人なんかしちゃったら、無期懲役、下手すりゃ死刑になっちゃったら、その後いくら10億50億儲けたって、死刑になっちゃったら意味がないじゃないですか。
確かに。だからそういうことまではしないんですよね。詐欺師だから、金の計算、損得勘定が先に立って、そこまではしないだろうというのが、僕もその取材経験上そう思うんですけどね。
でもNetflixのドラマではどんどん人を殺していってましたよね。成りすまし役とかも殺してました。
そう。考えてみれば、成りすまし役を殺せばね、事件としては成立しないわけですよ。成りすまし役が詐欺の実行犯だから。現実問題としてはそれはしないだろう。逃がすことはあるんですよ、もちろん。海外とか。だから例えば積水ハウス事件の時も、どこに行ったかわかんなかったんです。夫役の役割を担った人もどこに行ってるかわかんなかった、当時。実際、成りすまし役が捕まんなくて事件にならなかったケースっていうのはたくさんあるんですよ。
例えばアパの事件なんかは、主犯はね、立件されちゃったけど、アパが騙された。アパの成りすまし役たちは、これ捕まったんですよ。90前後の地主の成りすまし役を仕立てたんだけど、その成りすまし2人とも認知症の症状が出ちゃって。実際認知症だったんですよ。で、覚えてないんですよ、実は本当に。
本当に覚えてないんですか?実行したことを。
実行したことは覚えてるは覚えてるけど、結局公判の証言があやふやすぎて、信憑性がなくなっちゃったんですよ、公判の。それで公判が維持できなくなって、そこはもう公訴棄却というか、もう無罪放免。
それもだから計算ですか?
いや、それは計算かどうかは定かではないけど、元々地主もそうなんで、高齢者なんで、だって認知症でもおかしくないじゃないですか。ああ、そうですよね。実際ね。ただ、なんか確認とかあるじゃないですか。自分の生年月日とか、そういうの覚えるのはなんか不利そうじゃないですか?
で、覚えてなくても、すいません、ちょっともう年として忘れちゃいましたって言ったら、誰にやることうんっていうこともできるわけじゃない。実際認知症なんだから。
そっか。その人たちは慣れがないんだから、そこはね、みたいな話もありますよね。
ノンフィクション作家になられて、今何年ぐらいですか?
色々サラリーマンもやってたんで、だから独立までは新潮社っていうとこにいて、それを2002年で辞めたんで、23年半ぐらいですかね。そっからずっとやってますけど。
それまではだから週刊新潮にいたり、新聞社にいたりとか、そういう感じで。
経歴もちょっと追っていきたいんですけど、今、年齢は何歳ですか?
今64ですね。もう間もなく65になるんですけど。
で、生まれたのはどこなんですか?
福岡県北九州市ですね。
あ、結構その派手な治安ですか?
そう、そう。完全な土地柄ですよね。小倉ですからね、生まれたのは。僕は育ったのが中間市っていうとこなんですけど。中間市、はい。まあ、人はいたんですけど、例えば僕の高校の先輩で言うと、いつも自慢してるんですけど、高倉健っていうのがそうですか。高校の先輩、あの人も中間生まれで。
森さんはどんな家庭に生まれるんですか?普通にサラリーマン家庭ですよ。あ、お母さんは専業主婦ですか?そうです。そうです。兄弟はいますか?1人いますけどね。
いつからそういう物書きというか、文章に携わりたいとか思ったんですか?
元々就職っていうか、転々としてるんですけど、三重県の伊勢新聞っていうところに就職したり。あ、大学出て。そう、そう、そう、そう。大学はね、岡山大学なんですけど。岡山大学。あとは学習研究社っていうのあるでしょ?あ、学研。学研が週刊誌を始めたことがあって、89年かな?1989年か。週刊テーミスっていう週刊誌を始めて、その時に創刊するっていうんで、そこに応募してそこで働いたり。
なんで最初、新聞に行きたいと思ったんですか?
あんまり普通の職業とかサラリーマンには向かないんじゃないかなっていう気がしてましたね。朝起きるのも苦手だしか。で、その後、新潮社の週刊新潮というとこの編集部にずっといて、それは2002年までいたんです。
それなんか学研で実績上げたんですか?
結局2年でそこは潰れたんですよ。潰れたって、休刊になっちゃった。それで新潮社に移って。
それ普通に転職活動したんですか?引き抜きとかじゃなくて。
あ、新潮社の人に誘われて。まあ、ブラブラしてるのもなんだし。
そっか。え、それでもなんか実力あるなって思われないと行けなそうじゃないですか?
どうなんですかね。テーミス時代に、イトマン事件っていうか、91年に起きた、3000億から4000億が闇に消えたっていう風に言われてる、住友銀行グループのイトマンっていう商社が潰れた事件ですけどね。そういう政官財界の、また裏社会に繋がったような取材をずっとやってたんですよ。で、そういうことをずっとやりたいなと思って、週刊新潮に移って、そこでもやってたっていう感じですかね。2002年までそこにいて、編集部ではデスクやって次長やってっていうことをやってたんだけど、なんとなく辞めて。41で辞めたのかな。
へえ。え、それ新潮時代もそういう、ちょっとその、なんですか?
そうですよ。新潮時代に佐川急便事件とかが起きたり、その後の事件とか、政治経済事件が割と頻繁に。その事件をずっと追っかけてきたっていう感じじゃないですかね。だから日本の社会そのものが色々裏社会と繋がっていて、政界もそうじゃないですか?政界も芸能界も経済界も、もっと言えばね。だから割と渾然一体化した時期があって、今でこそあんまり言われなくなったけれど、それでも時々ね、今でもちらっと裏との関係が断ち切れないところがあるんですよね。
それじゃ記者として繋がるのは、そんなに当時難しくなかったっていう感じなんですか?その裏社会の人に取材する。
難しくないというか、取材していけばどうしてもそこにぶち当たるっていうことですね。暴力団だけじゃないですよ、もちろん。だから要するに政界の汚職事件とか、政治そのものの事件とかも色々やってきたんで。そういう政治家とか、そういう闇社会の人、権力者側の人を取材するってなったら、お金とか渡されて、こういう風に書いてくれみたいなとかってないんですか?
ああ、そういうのもありましたよ。で、もらったことはないですけどね。渡されそうになったことはありますよ。まあ、そういうのを渡そうとする人いるし、それは5万、10万とかね、そういうのを渡そうとする人、受け取っちゃう人はいるんでしょうね。それはね、別に僕みたいなフリーだとかに限らず、組織の人でも結構受け取った人はいます。
そうですか。
あえて名前は言いませんけど、それは新聞社だって出版社だって、かつてはたくさんいたと思いますよ。今でもいるかもしれない。
ああ。それって分かりますか?なんとなくこの人受け取ってんなとか。言いますしね。あ、言うんすね。あいつは受け取ったみたいな。うん。そう、そう。君はどうするみたいな。うん。そう、そう。だから渡そうとする人はその方が安心するでしょ。有名ライターとか、また有名新聞記者とか、あの人にいくら渡してるよとか言われると。本当にそうかもわかんないですよ。
確かに。まあね、それは。多分本当だなっていうのはありますけどね。多分本当だなっていうのは、なんで分かるんですか?
例えばお土産の中にお金を入れてきてたりなんかする人はね。忍ばせるっていうか、直接的じゃなく。それだってもう渡してるわけだから、それも返すわけ。後で返す。現実問題、それはありますよ。あるけど、ただそれはお手がついてる分はあるんでしょうね。飲んだり食ったりは仕方がない部分がありますよ。一緒に飲んでね、相手にご馳走になるっていうか、で、その後お返しなんかするとかね、そういうことはありますよ。社会儀礼上仕方がない部分もある。
だけど、それも過度にね、接待を受けすぎると、お前賄賂受け取ってるじゃないかって言って。民間同士だから賄賂にはならないかもしれないけど、でもそういう裏金的なことを受けてたらね、それはまずいでしょ、やっぱり。その追及する側の人が。またチェックする側の人が。だからそれはダメです。アウトです。
どこまで許容範囲かっていうとね、それは難しいですよね。例えばほら、最近話題になった東大のお医者さん、医学部の先生が医療機器会社の接待を受けてたとかね。その何百万とか何千万とか接待を受け。ソープランドの接待はやっぱりまずいでしょう。
確かに。なんかまずそうですよね。
例えば昔あった大蔵官僚を接待するのは、地方の官僚が中央の官僚を接待するとか、そういうことですよね。官僚同士で接待し合うみたいなね。もしくは大蔵とか言って、当時の大蔵省銀行局と仲良くなるためにノーパンしゃぶしゃぶとかいうのは有名になったけど、それが問題になった。
週刊誌の記者さんには、さすがにそういう接待みたいなのとかないんですか?
ノーパンしゃぶしゃぶ、結構ありましたよ。僕は行ったことないけど、楼蘭っていうお店があって、名刺を渡すバカがいるわけですよ、その店にね。で、名刺を集めるのが趣味だったか知らないけど、名刺を持ってる人がいて、その名刺を見せてもらったら、中にマスコミの人がいたり。そういうこともある。そういう現場に近寄らないっていう人も結構多いと思う。
むしろ問題は、そこに近寄らない人も多くて、こたつ記事とか言ってよく言うけど、ネット情報だけを書き写して記事を作っちゃって、コメントを捏造したりとかして、時々問題になったりするじゃないですか。そっちの方の問題もありますよね。何でも行きすぎはダメですよ。
我々も情報の世界だから、どこまでリスクを取って、どこで一線を引くか。よくあるんだけど、取材対象者との距離感っていうのを、よく先輩記者とかから言われますけど、どこで一線を引くかっていうのは、それぞれの個人の判断だし、やり方なんで。
どんな線引きしてたとかってありますか?
僕は普通、他の人と違うことなんかやってないですよ、何も。普通のことやってるだけです。だから普通にめんどくさがらずに取材をしたり、人に会ったり、資料に当たったりとか。最近ちょっと年取ってきて目が悪くなったから、なかなか資料を読むのもしんどいけど、まあそれでもね。
取材の中でのルールみたいなのはありますか?
人間付き合いですよ。普通の人間付き合いを、なるべくめんどくさがらずにやるというね。
コミュニケーション能力がやっぱ必要。
ああ、それは必要かもしれないですね。やっぱコミュニケーション能力がないと、やっぱり人と会えないですかね。会ったりして人と話ができないじゃないですか。それはだから、話がうまいとか下手とかいう話じゃなくて、興味関心を抱いて、またはこっちに興味を持ってもらう努力をするとかね。そういうことじゃないんですか?
次長っていうのは、それどういう実績で選ばれるんですか?
週刊新潮で言うと、まず1記者から始めて、僕の場合はマネー欄っていうのがあって、そのマネー欄は2ページだったんだけど、そこで書かせてもらうようになって、今度、特集っていう記事があって、特集が4ページとか5ページの記事のデスクに昇格して、で、そのデスクの中から今度は次長っていうのが4人選ばれて、それぞれ班を持って、部下がいるという、そういう関係、感じですかね。
それやっぱ上司の人から認められる記事を書くのか、ユーザーから個別の記事の反響を図る指標みたいなのがあるんですか?今、読者アンケートってのは大きな意味はなす
みたいだけど、昔はやっぱりその上司ですね。編集長がいて、その次長がいて、そのデスクがいて、その人たちが部下の仕事ぶりを評価して、「そろそろあいつもデスクにした方がいいんじゃないか」みたいなことでデスクに上げていくとか、そういうパターンで階段を登っていくっていうのが、どこのシステムでも大体そうでしたけどね。ただ僕はね、元々さっき言ったようにテーミスやめて新潮社に入ったんだけど、フリーで入ったんですよ。最後までフリーでした。フリーの次長なんですよ。変わった肩書きでしょ。
どんな人が出世していくんですか?新潮とかだと。
まずはやっぱり取材ができる人ですね。取材ができる人、記事を書ける人で、その記事が世間で話題になったり、反響を呼んだりとか、そういうことができる人っていうことじゃないですかね。雑誌の看板の記事を書けるような人が偉くなるっていう感じじゃないですか、多分ね。ちょっと評価はしてもらったかもしれないですね。途中でやめちゃいましたけど。
なるほど。いつぐらいにやめようと思ったんですか?
40前ぐらいですかね。そろそろずっと週刊新潮にいるのもなんだなと。
それはどういう意味でですか?
他に色々やってみたいことっていうか、単行本を書きたいなとか、1冊の本にまとめたりね、やってみたいとか、面白そうだなって。
それはやっぱり新潮にいたらやりづらいんですか?単行本とか。
いや、まあ、今思えば、いながらやった方が良かったんでしょうけどね。実際僕も新潮にいた頃にアルバイト原稿で色々書いてましたから、他社の。本はさすがに書いてないけど、例えば事件のオムニバスというか、いくつかの事件を並べて1冊の本にするみたいな中の1つのパートになって、それで単行本を作ったりとかいうことは週刊新潮時代に何冊か経験してて、そういうこともやめるきっかけになったのかもしれないけど。
編集長になりたいなとかはなかったんですか?
いや、それはなかったですね。元々フリーで入ってるし、どうしても人を指導しなきゃいけないでしょ。それはあんまり上手じゃないっていうか、なんか合わない。うまくないんですよ。だから割と随分怒っちゃったりなんかするんで。
なるほど。
今で言うパワハラですよね。今やったら大変だと思うんですよ。だから自分も気分が良くないし、怒られる方も気分があるじゃないですか。
うん。
あんまり向かないな、俺はと思って。でも良かった気もしますけどね。残ってたらそのうちパワハラで、捕まりはしないけど。
そんなすごかったんですか。
いやいや、わかんないけど、そうじゃないかなという。
そもそもマネジメントにもそこまで興味もないし。
マネジメントなんかまるで興味ないですから。興味ないし、自分が書いたものが評判になったりとかね、もしくは相手からクレームがついたりとか、また褒めてもらったりとかいうことは興味ありますよ。
何年間いたんですか?
12年ぐらいか。12年半ぐらい。
でも給料とかで言うと、もう普通に1000万とかに。
まあ、そこそこですけど。
家族もいました?
もちろんいましたよ。やめてから言ったんじゃないか。やめるよって言ってからやめた。
本決まりしてから言って。
強行突破したみたいな感じです。
そうですね。
で、そこからフリーのノンフィクション作家をやるってなったら、やることは別に変わらないんですか?
やることは変わんないですよ。喧嘩別れしてやめたわけじゃないので、やめる時に「連載やってよ」って、当時の早川さんって編集長とそう約束してやめたんで、もらえたっちゅうか、それもやめる条件の中の1つに近かったけど、これやってよっていう話をしてもらって。
へえ。
で、最初はそればっかりやってましたよ、新潮の仕事の。
ずっと森さんの、その独立後の最初のヒット作は何なんですか?
デビュー作はね、本で言うと『黒い看護婦』っていう本を書いて、それは翌年かな、翌々年かな。これも新潮時代に取材したのがベースになってるんですけど、週刊新潮時代に。
どういう取材です?
『黒い看護婦』っていうのは事件物なんですけど、事件ドキュメントなんですけど、福岡県の飯市で、看護婦4人組っていうのが、その4人組が旦那を次々と殺していくっていう保険金殺人を。
自分たちの旦那を。
うん。結局殺したのは2人で、1人は殺人未遂で終わったんですけど。それを、僕は当時週刊新潮のデスクだったんですけど、週刊新潮でそれの記事を書いて、それが単行本になったのが何年かな、2003年だったかな。それが僕のノンフィクション作家としてのデビュー作ですかね。物書きとしての。
うん。
これはね、結構売れて、ドラマにもなりましたよ。
あ、そう。テーマとかモチベーションって何なんですか?
好奇心でしょうね、多分ね。一言で言えば、たまたま出会った情報があったり、出会った人がいたりして、これは面白いなとか、これが問題だなとか思ったものを深掘りしていって、取材結果でさらに面白ければ記事にしたり本にしたりとか。
ご自身でどんなものに惹かれるなとかあるんですか?どんなものが好奇心を掻き立てられるなとか。
最近は割と政治関係が多いですよね。高市政権とか。例えば安倍政権の時に『悪だくみ』っていう本を書いてるんですけど、安倍政権っておかしくないかって。えらい人気があったし、割と一強一強って言われてみんなもてはやすんだけど、実態問題として例えば森友学園の問題だとか加計学園の問題だとか出てくるじゃないですか。あれなんかも取材によく行ってたんだけど。
うん。
取材するとやっぱり、自分たちだけのインナーサークルで、なんかえこひいき的な政治がまかり通ってるんじゃないかみたいなことだとかね。アベノミクスがうまくいってるっていうことは本当にうまくいってんのかっていう、つまり日本国として、国民として、ちゃんと豊かになってるのか、国益に本当に繋がってるのかっていうようなことを考えてみた時に、どうも違うんじゃないかって思い出して。その『悪だくみ』っていうタイトルは、安倍さんがSNSで書いたあれを引用させてもらったんだけど。「男たちの悪巧み」だったから。
うん。そういった部分の正義感みたいなところもあったりするんですか?
正義感っていうと大げさですけど、裏の仮面を暴いてやりたくなってしまうというかな。綺麗事が多いじゃないですか。綺麗事の裏には何か別の理由があったりするので、真実を知りたいっていうか、できれば広く知らせたいっていうことかな。
うん。
そういうのってご自身が納得いくまで掘り下げられるものですか?それともそういかないことの方が多いんですか?
ほとんどいかないですよ。俺はもう真実をやったぜみたいな、そんなこと思ったことは1度もないですよね。大体何でも積み残し。でも少しでもその真実に近づこうとすることが大事なんじゃないかな。
その地面師でもそうだけど、第1作目の『地面師』で結局わかんなかったことが多すぎたから、2作目で、ここはどうなんだ、本当に積水ハウスは騙されたのか、55億はどこ行ったんだみたいなね、誰なんだみたいなところをもう1度やっぱりやっていかなきゃいけなかったし、その意欲は湧いたってことですね、手紙によって。そういうとっかかりがあって、何かのとっかかりがあって、なんとなく好奇心を掻き立てられるんで、そこに真面目に取り組んでいくというか、もうサボらずにやっていくということです。
フィクションとかには興味ないんですか?
今のところ興味ないですね。
うん。
小説は時々読みますよ。読まなきゃいけないものもあるし、取材テーマによってはそれに近い小説もあったり、参考になる小説もあって、小説も嫌いじゃないですよ。
小説にしてもノンフィクションにしても同じなんだけど、社会はこうなってるとか、事実としてこうだとか、やっぱり人間の本当の顔っていうのはこういうところにあるんだっていうことを、また人の心がこういうところにあるんだっていうことを描いていけば、それは小説もノンフィクションも同じなんだけど、ただやっぱり事実にこだわってるというか。それしかやったことがないんで、そっちの方が楽といえば楽なんですよね。
ああ。
事実を事実として描くことと言っても、もちろん主観は入りますよ。同じ事実をどう見るかっていうこと、また同じ事実をどう伝えるかっていう主観は入るので。ただそれは事実と思えるに足る主観。いろんな取材を積み重ねれば積み重ねるほど事実に近づいていくっていう風に信じてるんで、そういう作業をやっていくと。
逆にやっぱり小説っていうのは、取材をして書く小説家もいるし、取材と言えば取材なわけですよね。で、それを元に想像を膨らまして真実に近づいていくっていう作業を小説はできるんで、それはそれでいいとは思うんだけど、残念ながら僕はそういう能力があんまりないんじゃないかなと思ってて。
能力がないからっていう感じなんですか?
うん。だからやっぱり本当のところはどうなんだ、ここを想像力で補おうとは思わないし、補えないですよね。そこを補うためには新たにもっと取材しなきゃいけないっていう。それがやっぱりノンフィクションだと思ってるんで。小説家はそこを自分の想像力で補って真実に近づいていく。いずれにしても真実っていうのは無理なんですよ。真実らしいっていうだけであって、自分が事実と思う、真実と思うっていうだけであって、本当は違うかもしれないです。だけど、これは誰が見ても真実だよねという風に思えることが大事。思えるだけの材料を集めることが大事。それは想像力であってもいいけど、僕の場合は残念ながらそういう能力がないから、取材でそこを補おうということです。
裁判なんかも同じですよね。捜査も同じだし。社会行動としては同じ。例えば昨日今日の国会を見てて思ったけど、週刊文春がね、高市さんの出した動画問題で国会で揉めてるわけですよ。
どんな動画?
自民党総裁選で小泉進次郎や林芳正の悪口を言うように仕向けた動画を作成した人たちがいて、その人たちと高市事務所が打ち合わせして組んでたということを週刊文春が報じたわけですよ。で、その時の打ち合わせ内容のLINEだとか、メールのやり取りなんかも記事の中で出してるわけですよ。
それに対して高市さんは「私は週刊誌なんか信用しません。私の悪口ばっかり書いている週刊誌なんか信用しません」と。で、本人は会ったこともないと言ってるんだから、私はこっちを信じてるから、これは嘘八百だっていう風に国会で答弁をしてるわけですよ。少なくともどっちの姿勢が正しいのっていうことは、やっぱり取るべきじゃないですか。
完全な真実に達することはないけど、ちょっとでもそれに近づくために取材を頑張るっていうお仕事なんですね。
うん。そう、そう。そういうのが我々の仕事だと思いますよ。
うん。今後こういうのを書いてみたいとかいうのもあるんですか?テーマとして。
だから今、政界も今やってますよ。今『自民党の研究』っていうのを集英社の、プラスか新書かなで連載したり、サンデー毎日で『時代を動かす者たち』とか連載したりやってますよ。とにかく興味が色々あるんで。
ああ。
あれ昨日出たかな?女性セブンっていうのに、珍しく女性誌に書いてるんですけど。
へえ。
そこではね、面白いんですよ。高倉健が、僕の高校の先輩ですよね、高倉健が乗ってたポルシェってのが見つかったんですよ。
お。
で、そのポルシェに乗ったんですよ、こないだ。乗せてもらったの、持ち主に。
そうですか、森さん。
ええ。で、実はこのポルシェには色々因縁があって、こういう因縁があって、ようやく見つかったんですみたいなね。
へえ。とか書いたり。
うん。そう、そう。書いたりとか、そういういろんなことやってますよ。
興味はもうやっぱり尽きないんですか?全然。
まあ、色々ね、情報提供してくれる人もいるし。例えば高倉健の話なんかで言うと、高倉健の姪御さんがLINEしてきてくれてて。
LINE。
うん。「なんかポルシェが見つかったみたいですよ」って。おじさんが乗ってた車はね、全部処分されたって言われてたんだけど、テリー伊藤さんがそれを見たって自分のInstagramにあげてる記事があって、それを見たんですけど、これですって送ってきてくれたの。
うん。
で、それを見て、おお、縁があるんだと思って、そこからちょっと取材を始めたって。
ああ、そんな風に始まっていくんですね。
そうやって始まっていく。
じゃあもう体力が続く限りはずっと書いていこうかなっていう。
取材ができる限りはでしょうね。うん。取材ができなくなったら、その時はその時考えますよ。
あ、小説の。
いやいやいや、小説とは考えてないけどね。そんな素晴らしい小説家がいるのね。
ああ、そうなんです。
うん。
書けるうちは書いていこうっていう。
そう、書けるっていうか、まあ、そうですね。取材できる。取材が一番大事ですよ、取材が。
うん。森さん、ありがとうございました。
はい、またご連絡します。またね。
はい、グッズ・スポンサー券、BASEにて販売中です。応援よろしくお願いいたします。
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