積水ハウス地面師事件はなぜ解明されていないのか――森功が語る地面師の手口と、主犯からの獄中書簡

YouTubeで開く ↗
概要

2017年、積水ハウスは東京・五反田の土地をめぐる取引で55億5000万円をだまし取られた。地面師事件としては史上最大とされる。この事件を当時から取材し、著書『地面師』(新庄耕の小説『地面師たち』とNetflixドラマの下敷きになった)と続編『地面師vs.地面師』を書いたノンフィクション作家の森功が、事件の構図、地面師たちの素顔、そして自身の記者としての歩みを語った。森の立場ははっきりしている。17人が逮捕され、主犯格が懲役刑を受けても、この事件はまだほとんど解明されていない。

18分で読めます

積水ハウス事件の概要

森の説明によれば、事件の舞台は五反田駅前にあった古い旅館「海喜館」である。地主はその旅館の女将で、地面師グループはこの女将になりすまし、土地を積水ハウスに売り払った。取引額は70億円、被害総額は55億5000万円。事件が起きたのは2017年6月である。

森はこの事件をリアルタイムで知っていた。当時すでに週刊誌で別の地面師事件の連載をしており、最初に取りかかっていたのは被害額6億5000万円の富ヶ谷の事件だった。その連載中に「五反田で地面師事件が起きているらしい」という情報が入り、同時並行で取材を進めることになった。

当時は40件、50件という規模で地面師事件が立て続けに起きていたと森は言う。新橋の白骨遺体事件、アパホテルがだまされた事件などもあり、そのうち6〜7件を取り上げて1冊にまとめたのが『地面師』だった。

地面師の人脈と役割分担

取材の糸口は人脈だった。森によれば、地面師の数はそれほど多くなく、事件ごとに関係者が重なっている。富ヶ谷事件を最初に計画したのは内田マイクという男で、その内田が後に積水ハウス事件も計画していた。関係者をたどっていけば、自然に別の事件にたどり着く。

大物と呼べる地面師は10人ほどいると森は見ている。彼らは協力関係にも敵対関係にもなく、それぞれが自分のグループを率いている。2000年代初めには地域ごとの縄張りがあり、「池袋グループ」「錦糸町グループ」といった呼び名で、その頭目が大物地面師だった。2015年以降は、グループが2つ3つくっついたり離れたりするようになり、積水ハウス事件では大物地面師が3〜4人寄り集まって同社を食い物にした、というのが森の説明である。

大物の下には、手配師、法律屋、道具屋と呼ばれる役割の人間がいる。これらは事件ごとにおおむね入れ替わるが、手配師はもともと人数が少ないため共通していることが多い。積水ハウス事件で逮捕された手配師は、新橋の事件でも手配師を務めて逮捕されていた。一方、なりすまし役は毎回まったく別人で、その都度雇われる。積水ハウス事件のなりすまし役は保険の外交員をしていた女性で、金に困っていると聞きつけてスカウトし、旅館の女将になりすまさせたという。

手配師には、なりすまし役を見つけるノウハウとネットワークがある。積水ハウス事件の手配師は、昼間はビルの清掃・メンテナンスの仕事をしていた。清掃の仕事には高齢者が多く、そのネットワークから人を連れてくる。介護施設や病院に知り合いがいて高齢者を紹介できる、というパターンもあると森は言う。

他の役割にも「仮の姿」がある。法律屋は本物の弁護士や司法書士であることがある。道具屋は印鑑、パスポート、免許証などを偽造する人間で、印刷会社を経営していた人、とくに潰れた印刷会社の関係者が多いという。

もとは手付金詐欺の計画だった

森によれば、当初は積水ハウスに売る計画ではなかった。内田が最初に考えたのは、どこかの不動産会社から手付金を引き出し、それだけで済ませる手付金詐欺だった。70億円も出すような買い手である必要はなかった。

そこに加わったのが、もう一人の主犯とされるカミンスカス操である。カミンスカスが「自分ならきちんと売買までできる、買い取り先を見つけられる」と言い、積水ハウスを見つけてきた。その結果、手付金詐欺で終わらず売買まで進んだ。大物同士のあいだでは意見の対立もあったようだと森は言う。手付金だけでも積水ハウスは14億円を払っており、それだけでも巨額だが、売買代金はさらに大きい。最終的には意見が集約されて計画はまとまった。

大手企業がだまされる理由

積水ハウスは、森の説明では大和ハウスに次ぐ売上4兆円の国内2番手のデベロッパーだ。そんな大手がなぜだまされたのか。森は、実は大手がだまされている例は多く、被害を公表したくない会社や、被害を小さく見せて事件を小さくした例もあると話す。

原因は、だます側とだまされる側の両方にあると森は見る。だます側には、偽造書類や免許証をうまく作る技術があり、なりすまし役への演技指導もする。取引の舞台を弁護士事務所や司法書士事務所、銀行の会議室に設定するので、「まさか弁護士事務所で詐欺はやらないだろう」と相手が思い込みやすい。

だまされる側には欲がある。いち早く情報をつかんで優良物件を仕入れれば、担当者の成績になり、オーナー企業なら大儲けできる。海喜館は何十年も持ち主が売らず、都内の不動産業者が日参しても首を縦に振らなかった物件だった。そこを「売らせられる」と間に立つ人間が言えば、乗ってしまう。大手の場合は、営業部長や次長といった担当者が、大きな取引で出世したいという意識を持っていることも、だまされやすさにつながると森は言う。

積水ハウスの場合はさらに社内事情があった。会長派と社長派の争いがあり、社長派がこの取引を進めたがっていた。事件後、本来なら社長派が責任を取るはずだったが、役員会の多数派工作で社長派が勝ち、会長が退任することになった。森はこれを事件の顛末の一部として紹介している。

届いていた警告文と「二重のなりすまし」

契約直前、積水ハウスには「だまされている」という趣旨の文書が届いていた。女将の名前で「私はこの土地建物を売っていません」と書かれた内容証明郵便である。森によれば、これを出したのは実は地主の親族、女将の弟だった。ただし弟は女将の名前を名乗って出しており、その意味では文書も「偽物」だった。取引の場には女将になりすました人物がいたわけで、地主は二重になりすまされていたことになる。

積水ハウスはこの文書を怪文書扱いにした。地面師側が「ライバル業者の妨害に違いない、こんなものを信用されては困る、地主本人はちゃんといる」と吹き込み、なりすまし役を連れて面談までさせ、取引を遂行した。これが地面師たちのテクニックだったと森は言う。

なぜ弟が姉の名前で出したのかについて、森は家族関係の複雑さを理由に挙げ、姉に断って出したとは思えないと話した。詳しくは第2作でようやく分かったことで、話すとネタバレになるとして説明は控えた。

発覚は測量の段階だった。女将はまだ存命だったが、入院していて意思表示できる状態ではなかった。後に土地を相続することになる弟が弁護士に頼み、警察に通報して警察が駆けつけた。そこから調べが進み、取引が嘘だったと分かった。

取引額と被害額の差――マンション購入の謎

取引額70億円と被害額55億5000万円の差について、森は奇妙な事実を挙げる。なりすまし役が積水ハウスから売れ残りのマンションをいくつも購入しており、その額が何億円にもなっていた。その分が差し引かれて55億5000万円になったという。

おそらく地面師側の指示だろうと森は見るが、なぜそうしたのかは今も分からない。本来、地面師事件ではなりすまし役と買い手の接点が増えるほど発覚の危険が高まるので避けるはずだ。これだけの取引をしていて積水ハウスが気づかないはずがない、という見方もある。

森はこの見方を「推測」としつつ、完全に間違ってはいないと考える根拠を示す。事件後、なりすまし役がしばらく失踪した際、積水ハウスの営業次長らが、主犯とみられるカミンスカスと一緒になって彼女を探し回っていた場面があるという。遅くとも6月1日以降には異変を知っていたはずの被害者が、詐欺をした側と行動を共にしているのはどう考えてもおかしい、と森は言う。積水ハウスは当初、取引が成立しなかったとは公表したが、詐欺に遭ったとは公表しておらず、被害届も遅れた。森は、同社があまり事件にしたくなかったのではないかと推測している。

捜査は「うまくいっていない」

最終的に17人が逮捕され、最後に逮捕されたのがカミンスカスだった。捜査はうまくいったのかという問いに、森は「うまくいってない」と答える。最大の理由は、55億5000万円のうち1000円もどこへ行ったか分かっていないことだ。

森によれば、これは地面師事件すべてに共通する。金は手形や振り込みで支払われても、すぐに引き出され現金化されて分けられる。誰にいくら渡ったかは今も不明だが、刑事捜査や裁判では被害額が特定できれば詐欺として裁けるので、行方の解明は必要とされない。積水ハウスは主犯を相手に訴訟を起こしているが、破産していて返せないし、返す気もないだろうと森は見る。

さらに、逮捕された17人のうち起訴されたのは10人で、残る7人は起訴されなかった。その中には当初から計画に関わった主犯格とされる人物もおり、そこに金が流れたのではないかという説もあるという。

暴力団の関与について森は、おそらく詐欺そのものには加担していないとみる。ただ、この事件に限らず、暴力団が準備資金を何億円か出し、倍にして回収するようなことはあったようだと話す。仮に事実でも、貸した金を返してもらっただけで、詐欺を指導したわけではないので犯罪にはならない。地面師の親玉クラスには暴力団と付き合いのある人間が多く、裏社会の側からすれば、安全地帯にいて金だけ儲かる立場になる、というのが森の見方だ。

カミンスカスからの手紙

森のもとにカミンスカスから手紙が届いたのは昨年のことだという。服役中の長野刑務所から版元を通じて届いた手紙には、「私は主犯ではない、だまされただけだ」「主犯は別にいる」と書かれ、事件にはまだ分かっていないことが多すぎると訴えていた。森はそれ自体はその通りだと考え、さらに手紙が名指しする「もう一人の黒幕」に前作の執筆時から心当たりがあったため、面白いと思い文通を始めた。

カミンスカスの言い分はこうだ。積水ハウスを見つけてきたのは確かだが、正確には、中間業者のイクタホールディングスという会社が積水ハウスの営業次長と取引関係にあり、カミンスカスがそこにつないだ。イクタホールディングス側は、なりすましとは知らずに中間業者として取引しただけだと言い張り、結局起訴されなかった。カミンスカスも同じ理屈で、取引の窓口ではあったが、相手がなりすましだとはその時まで知らなかった、だから無罪だと主張し始めた。

実際には取引現場に同席し、何度も会い、打ち合わせもしている。その主張は通らず、懲役11年の判決を受けた。ただ森は、カミンスカスが途中から計画に加わったのは確かだと言う。当初から関わっていたのは内田マイクら3人で、そのうちの一人が、カミンスカスが「もう一人の黒幕」と名指す横沢という人物だ。途中から誘われて乗っただけ、という言い分も成り立たなくはない、と森は見ている。

詐欺師の言葉の9割は本当

登場人物がみな詐欺師で、それぞれ少しずつ嘘をつく。それでも森は、詐欺師はすべて嘘を言っているわけではなく、9割がた本当のことを言うと話す。その本当の部分を集めて最大公約数を取っていくと、真実が少しずつ見えてくる。捜査も同じだろうが、ノンフィクションを書く側にはその作業しかない、と森は言う。

直接会った地面師たちの共通点として、森は「よく喋る」ことを挙げる。詐欺はスピード勝負で、相手が戸惑ったり迷ったりするのを打ち消し、煙に巻く話術が必要だからだという。

ルーツとしては地上げ屋が多いと森は見る。バブル期に大手デベロッパーの依頼で虫食いの土地を地上げしてきた人たちだ。頑固な地主がいて再開発が進まない土地を、地上げ屋が懸命に交渉しても地主がうんと言わない。そこで、地主のなりすましを仕立ててデベロッパーに売ればいい、と考え出すのが地面師だという。一見すると普通の不動産ブローカーなので見分けがつきにくく、大手も中小もブローカーから情報を得て動くため、結果的にそうした人間を使ってしまう。

森は地面師を「コスパがいい」犯罪だとも表現した。10億円単位の事件はざらにあり、懲役は4〜5年、長くても7〜8年。年収に換算すれば1億円以上になり、金は戻ってこない。

地面師は人を殺すのか

新橋の事件では準備のために殺人が行われたのでは、という問いに、森は「殺人とは断定できていない」と訂正した。捜査はしたが立件できなかった。森は取材経験上、詐欺師が殺人まで犯すことはほとんどなく、聞いたことがないと言う。死刑になれば10億、50億儲けても意味がなく、詐欺師は損得勘定が先に立つからだ。Netflixドラマではなりすまし役まで殺されていくが、森は現実にはそこまではしないだろうとみる。

ただ、なりすまし役を逃がすことはある。なりすまし役が捕まらず立件できなかった例はたくさんあるという。アパホテル事件では、90歳前後の地主のなりすまし役を2人立てたが、2人とも実際に認知症の症状が出て、公判で証言があいまいになり信用性を失った。公判が維持できなくなり、釈放されたという。計画的だったかどうかは定かでないと森は言う。そもそも地主が高齢なのだから、なりすまし役が「年で生年月日を忘れた」と言っても不自然ではない、という話も出た。

新聞社から週刊新潮へ

後半は森自身の経歴に移る。森は64歳で、福岡県北九州市小倉の生まれ、中間市育ち。高校の先輩に高倉健がいることを「いつも自慢している」と話す。家庭はサラリーマン家庭で、母は専業主婦、きょうだいが一人いる。

岡山大学を出て三重県の伊勢新聞に就職した。普通のサラリーマンには向かない気がしていた、朝起きるのも苦手だから、というのが新聞を選んだ理由だった。その後、学研が1989年に創刊した週刊誌『週刊テーミス』に応募して働いたが、2年で休刊。新潮社の人に誘われて『週刊新潮』編集部に移った。

新聞記者時代から、1991年のイトマン事件――住友銀行グループの商社イトマンが破綻し、3000億〜4000億円が闇に消えたとされる事件――など、政官財や裏社会につながる取材をしてきた。週刊新潮でも佐川急便事件などの政治経済事件を追い続けた。森によれば、かつての日本は政界も芸能界も経済界も裏社会とつながり、渾然一体となった時期があり、今でも裏との関係を断ち切れないところがある。だから取材を進めれば、どうしてもそこにぶつかるのだという。

取材対象との距離

金を渡されそうになったことはあるが、受け取ったことはないと森は言う。お車代として5万、10万を渡そうとする人はいて、フリーに限らず組織に属する記者でも受け取った人はいる、新聞社にも出版社にもかつては大勢いただろうし今もいるかもしれない、と森は話す。渡す側が「あの有名記者も受け取った」と言って安心させようとすることもあり、お土産の中に金が忍ばせてあるような場合は本当だろうと感じるという。そうした金は返してきた。

飲食はある程度仕方がないと森は認める。ごちそうになればお返しをするのは社会儀礼の範囲だ。しかし追及する側、チェックする側が裏金的なものを受け取ればアウトだという。例として、東大医学部の教員が医療機器会社からソープランドを含む接待を受けていた最近の問題や、かつての大蔵省接待、ノーパンしゃぶしゃぶの店「楼蘭」を挙げた。楼蘭の名刺集めの中にマスコミ関係者の名刺があったこともあるという。

一方で森は、現場に近寄らない問題も指摘する。ネット情報だけで記事を作る「こたつ記事」や、コメントの捏造が問題になることもある。どこまでリスクを取り、どこで一線を引くかは個人の判断だとしたうえで、森自身は「普通のこと」をしているだけだと言う。面倒くさがらずに人に会い、資料に当たる。コミュニケーション能力とは話の上手下手ではなく、相手に関心を持ち、相手にもこちらに関心を持ってもらう努力のことだ、と森は説明した。

次長を辞めてフリーに

週刊新潮での昇進の道筋について、森は、記者としてまず2ページのマネー欄を書くようになり、4〜5ページの特集記事のデスクに上がり、デスクの中から4人選ばれる次長の一人になった、と説明する。評価は編集長、次長、デスクといった上司が部下の仕事ぶりを見て決める仕組みで、取材ができて、話題になる記事、雑誌の看板になる記事を書ける人が上がっていくという。森は新潮社にフリーの立場で入り、次長になっても最後までフリーだった。

辞めたのは40歳前後で、単行本を書きたい、1冊の本にまとめてみたいという気持ちからだった。在籍中も他社のアルバイト原稿を書き、事件のオムニバス本の一部を担当した経験があり、それも辞めるきっかけになったかもしれないという。編集長になりたいとは思わなかった。人を指導するのが得意でなく、ずいぶん怒ってしまう。今ならパワハラだと笑い、マネジメントにはまるで興味がないと言う。関心があるのは、自分が書いたものが評判になったり、クレームがついたり、褒められたりすることだ。

家族はいたが、辞めることを決めてから伝えた。喧嘩別れではなく、当時の早川編集長から連載の約束をもらって辞めたので、最初は週刊新潮の仕事ばかりしていた。

デビュー作から『悪だくみ』へ

ノンフィクション作家としてのデビュー作は『黒い看護婦』である。福岡県飯塚市の看護師4人組が保険金目当てに夫たちを殺害した事件――殺害されたのは2人、1人は未遂――を、週刊新潮のデスク時代に記事にし、それを2003年ごろに単行本化した。売れてドラマにもなったという。

書くモチベーションを聞かれ、森は「好奇心」と答えた。出会った情報や人の中から、面白い、問題だと思ったものを深掘りし、取材結果がさらに面白ければ記事や本にする。近年は政治関係が多く、安倍政権時代には『悪だくみ』を書いた。人気があり「一強」と言われた政権だが、森友学園や加計学園の問題を取材するうちに、インナーサークルでえこひいき的な政治がまかり通っているのではないか、本当に国民の豊かさや国益につながっているのか、と疑問を持ったという。タイトルは安倍がSNSに書いた「男たちの悪だくみ」から取った。正義感というと大げさだが、きれいごとの裏にある別の理由を暴き、真実を知り、できれば広く知らせたいのだと森は言う。

真実には届かない、それでも近づく

納得がいくまで掘り下げられることは「ほとんどない」と森は言う。真実にたどり着いたと思ったことは一度もなく、何でも積み残しがある。『地面師』の第1作で分からなかったことが多すぎたから、本当に積水ハウスはだまされたのか、55億円はどこへ行ったのか、黒幕は誰なのかを、第2作でもう一度追う必要があった。カミンスカスの手紙がその手がかりになり、意欲が湧いたという。

フィクションには今のところ興味がない。小説は取材の参考に読み、嫌いではない。人間の本当の顔、人心を描くという点では小説もノンフィクションも同じだと森は考える。ただ、小説は取材を素材に想像力で真実に近づけるが、自分にはその能力があまりない。分からない部分を想像で補おうとは思わないし補えない、補うにはさらに取材するしかなく、それがノンフィクションだという。主観は入るが、取材を積み重ねるほど事実に近づくと信じている。真実そのものには達しえず、「誰が見てもこれは真実だと思える」だけの材料を集めることが大事だ、と森は話す。

その例として森は、収録前日と当日の国会を挙げた。森の説明では、『週刊文春』が、高市早苗の事務所が自民党総裁選の際に小泉進次郎や林芳正を中傷する動画の制作者と打ち合わせていたと報じ、LINEやメールのやり取りも掲載した。これに対し高市は国会で、自分の悪口ばかり書く週刊誌は信用しない、本人たちは会ったこともないと言っている、と答弁した。どちらの姿勢が正しいかは、材料をもとに判断されるべきではないか、というのが森の問題提起である。

次に追うテーマ

現在は政界を取材し、「自民党の研究」の連載や、『サンデー毎日』での「時代を動かす者たち」の連載をしている。『女性セブン』では珍しく、高倉健が乗っていたポルシェが見つかった話を書いた。高倉健の姪からLINEで、テリー伊藤がInstagramにそのポルシェを見たと投稿していると知らされ、処分されたと言われていた車が残っていたのかと取材を始めた。実際に持ち主に乗せてもらい、ポルシェにまつわる因縁も書いたという。

情報提供をきっかけに取材が始まる、というのが森の仕事の進め方である。いつまで書き続けるのかと問われ、森は「取材ができる限り」と答えた。取材ができなくなったらその時に考える、小説は考えていない、何より大事なのは取材だ、と話して対談は終わった。