ここ2年、仕事は楽しくなかった――島袋直樹がシンガポールで語った新店、FC BANK、M&A交渉

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概要

M&A BANKのメインMCである島袋直樹が、シンガポールのCLUB PILATES新店を担当する尾上と雑談形式で話した回である。新店の立ち上げ、為替、新サービス「FC BANK」への反響と方針、シンガポールでの生活と仕事、そして会社売却の交渉について話が及んだ。中心にあるのは島袋の「ここ2年ぐらい仕事が楽しくなかったが、今また楽しくなった」という告白と、売り手としてM&Aにどう臨むべきかという持論である。

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タンピネス新店の立ち上げと「郊外がいい」という学び

尾上は年明けから頻繁にシンガポールを訪れ、CLUB PILATESの新店をタンピネスで立ち上げている。シンガポールの店舗はこれで6店舗になった。これまでは回数券の販売を主力にしていたが、新店では本来のCLUB PILATESの月会費モデルに戻したという。

タンピネスは空港に近い、ローカル寄りのエリアである。二人の話では、開業直後から問い合わせが殺到し、1か月ほどで会員は約190人に達して既存店を上回った。会話の中では既存店の1.5倍、為替を考えれば倍という趣旨のやり取りもあった。

島袋によると、シンガポールのCLUB PILATESは2022年にオーチャード・セントラルという大型モールの中に1号店を出して好調だったが、その後競合が急増し、閉店や撤退も起きた。シンガポールの物件契約は3年で、延長しても3年を足せる程度だという。外国人が借り手の場合、シンガポール人が契約するときのような交渉ができないこともあり、家主が強い国だと二人は語る。そのため短期間で投資を回収しなければならない。一方で物価が高いぶん、客単価は取れる。

こうした経験から島袋がはっきり分かったのは「地方がいい」ということで、これは日本も同じだと言う。タンピネスは人口に対してピラティススタジオが極端に少なく、同じような条件のエリアは実はたくさんある。今後はそうした場所を中心に出店したいと話した。

「外貨を稼ごう」――為替とプライベートバンカーの見立て

話は為替に移る。シンガポールドル円は今年に入って14円ほど上がり、現在は126〜130円前後で推移している。島袋は、シンガポールドルが80〜90円のころに日本の資金をシンガポール法人に貸し付けていたところ、5年ほどで為替だけで数千万円の利益になったと明かした。X(旧Twitter)でも、事業で稼ぐことが割に合わなくなってきた気がするとつぶやいたという。

島袋は先週話したシンガポールのプライベートバンクの担当者の見立てを紹介した。担当者によると、同じ100万円でも日本で稼ぐよりシンガポールで稼ぐほうが今後の可能性を考えると有利で、円安はさらに進むという。その理由として挙げられたのは地政学である。アメリカはスペースXやテスラなど、イーロン・マスク関連の事業で半導体などを必要としている。アジアの調達先を考えると、中国は難しく、台湾はリスクがありそうで、日本か韓国なら日本になる。日本の製造業が好調になるなら、アメリカから見ても日本の国策としても円安のほうが都合がよい。株価も好調で、円高になる理由はあまりない。むしろもう少し円安が進む――というのが担当者の見方として語られた。

島袋はこれを受けて、今まで稼いでいた100万円の価値が世界から見て目減りしかねないとし、視聴者に「外貨を稼ごう」「海外で事業をやろう」と呼びかけた。

FC BANKの反響:17人のうち大半が地方

少し前に告知したFC BANKへの反響も語られた。入会者は17人で、東京が2〜3人、大阪が1人ほど、残りはすべて地方だったという。M&A BANKサロンの会員とは属性が違うと島袋は感じている。

内訳には特徴がある。大型売却を経験した資産家が複数いた。リハビリがてら事業に触れたいという人もいれば、日本の大手メガITベンチャーの創業メンバーで、海外法人の立ち上げも経験した人もいた。島袋は、この人は分析にも詳しく、むしろ運営側に回ってほしいくらいだと話す。ほかにはCLUB PILATESの加盟店オーナー、地方の2代目・3代目経営者、コンサルタント、特にITコンサルタントが意外に多かった。尾上が労働集約型の仕事とは別に手触りのある事業を持ちたいというニーズかと尋ねると、島袋はおそらくそうで、両方を持っているほうがよいのだろうと答えた。

島袋自身は最大でも10人、実際は5人程度と見込み、5人でもよいと考えていた。まだ何のサービスも提供しておらず、会員のニーズを聞きながら一緒にコンテンツを作っていくという前提での募集だったからだ。本来は月額5万円にしたかったが、内容が決まっていないため、第1期会員に限って半額の2万5000円にした。今後拡大するかについては、今のところ広げないかもしれないと述べた。何も提供していない段階で会員だけ集めるのは嫌で、皆が満足するコンテンツができたら第2期を募集する可能性がある、という程度にとどめている。

会員が求めたのは「アーリー」のフランチャイズ

FC BANKは「5年以内にEBITDA1億円をつくれる事業」を掲げている。島袋によれば、単に1億円を目指すならマクドナルドに加盟したほうが早い。堅実だが初期費用は高く、エニタイムフィットネスなども出店場所が残っていないかもしれない。島袋はフランチャイズを大きくアーリー、ミドル、レイターに分けて考えている。レイターは誰もが知っているマクドナルドのようなブランドで、ミドルは数十店舗あってデータ分析ができるCLUB PILATESのような段階、アーリーはこれからの段階である。

意外だったのは、会員の話を聞くとアーリーの情報を求める人が多かったことだ。尾上がアーリーとはどの程度の段階かと聞くと、島袋は卵にたとえて「殻が割れてひびが見えたぐらい」と答えた。まだ加盟募集をしていない、直営1店舗で成功している、あるいは2〜3店舗をFCで出してうまくいきそうだ、という段階である。

さらに会員からは「いいFCがあっても動画で紹介しないでくれ」と言われたという。島袋はこの感覚に納得している。CLUB PILATESのオーナーたちも、最初の募集で加盟した人はよい立地を押さえられたので成功率が高く、あのとき参加すればよかったと言っているという。2022年ごろ、世の中に「あのフランチャイズは儲かっているらしい」と情報が出た時点でもう遅い。島袋自身も2018年にピラティスのライセンスを取ったが、2年遅れて儲かっていると聞いてから取っていたら遅かったと振り返る。

そこでFC BANKでは、よいフランチャイズ本部の案件が来ても動画では紹介せず、サロン会員だけにひそかに紹介して面を押さえる方針にした。尾上は自分たちもFC本部をやっていたので、加速させたいときに一気に情報を拡散することしか考えていなかったと話す。島袋も、本部としては一気に広げたいので大々的に告知するが、加盟する側からすればよい場所を取られ競合が増えるだけだと認め、今回は加盟側に軸足を置くと述べた。

アーリーな本部、地方ブランドへの呼びかけ

その上で島袋は、アーリー段階のフランチャイズ本部に連絡を呼びかけた。動画では紹介しないが、サロンメンバーに加盟やテストをしてほしい本部があれば歓迎し、まだフランチャイズ化しておらず、直営はうまくいっているがノウハウがないという会社でもよいという。

きっかけの一つは鹿児島ロケだった。鹿児島には非常によい地方の事業者が多いが、鹿児島からフランチャイズを全国に広げるのは難しい。これは他の地方でも同じだろうと島袋は考えている。コンテンツやサービス自体は優れているので、地方で流行っているものを都心や他地域に広げたいという事業者に来てほしいと言う。一方で、すでにメディアや比較サイトに掲載されているものではなく、まだどこにも募集していない会社を求めている。M&Aで買収する形も、資金パートナーとして出資し一緒に伸ばす形もありうるとし、広げるコストがない事業者にはこちらが資金を入れて一緒に広げるのもM&A BANKらしいのではないかと話した。

シンガポールから学べること:キャッシュレスとシングリッシュ

尾上は月に10日ほどシンガポールに滞在し、スタジオやオフィスに通い、物件も一緒に見ている。島袋は、もう自分よりシンガポールにいるかもしれないと言う。

尾上は、日本のフランチャイズがシンガポールから学べることは多いと考えている。例として挙げたのがキャッシュレス決済とモバイルオーダーで、モバイルオーダーの仕組みが充実したブランドが多く、客を待たせない。島袋はシンガポールに来て6〜7年になるが、現金を使った総額は10万円にも満たないだろうと言う。そのうち8万円ほどは、アプリを入れていなかった初期に飲み会の割り勘で使った分で、今は割り勘も銀行口座で簡単に送金でき、ホーカーセンターでもクレジットカードが使える。日本に取り入れれば効率がかなり上がりそうだと二人は話した。

英語の話では、尾上は聞き取りにくいタクシー運転手とも会話できるようになったことに成長を感じているという。ただ、慣れすぎて本場のアメリカ人やカナダ人と話せるのかは不安だと笑う。島袋は英会話の先生がカナダ人で、基本的にその先生としか英語を話さないため、タクシーで住所を告げても聞き返されるとこぼした。「three」が「チリ」に聞こえるという例も出た。

尾上の本音:事業再生と交渉のストレス

二人は尾上が21〜22歳のころから一緒に働き、14〜15年になる。島袋が最近の仕事は楽しいかと聞くと、尾上は仕事自体は楽しいが、向き合っているのはワクワクする案件ではなく事業再生のほうだと答えた。新店の立ち上げは楽しい一方で、物件契約が切れるため店を閉めなければならない、大きく物事を変えなければならないといった場面ではストレスが大きい。とくに交渉をネイティブの言語でできないストレスがこの半年ほど続いていて、面白くないと感じることも多いと率直に語った。一方で、新しい事業に振り切っている今の島袋は楽しそうに見えると言う。

島袋の告白:売却後に「もう無理」と言う人の気持ちが分かった

島袋は、今は仕事がめちゃくちゃ楽しいと答え、「仕事って楽しかったんだ」と思ったという。ここ2年ぐらいは本当に楽しくなかった。今は自分の強みを生かせている感覚があり、M&A BANKを使えばできたはずのことをやれずにいたのが、ようやく始められた。「まだ仕事いけるな」と思ったと話す。尾上も、求められることが多いのにそれに100%応えられないストレスがあったのだろうと指摘し、島袋も同意した。

島袋はこれまで、会社を売却して数か月から数年たった経営者が「もう自分は無理だ」と言うのを聞くたびに、実績があるのだからそんなことはない、まだやれると思っていた。だが今はその気持ちが分かったという。理由として挙げたのは、まず年齢である。尾上と出会ったころの島袋は若かったが、今は30代半ばで、20代前半の人たちと当時のような関係を築けるかは分からない。事業ではさまざまな世代と関わらなければならない。次にトレンドである。ChatGPTやClaudeのようなAIが登場し、連絡手段もメールからSkype、Chatwork、Slackへと変わってきた。事業に触れていなければ、生活レベルで使う分には困らないが、ついていけなくなる。できないわけではないが、もう一度学ぶのはブラインドタッチを習い直すような感覚で、島袋は最近携帯でしか仕事をしていないので、WindowsからいきなりMacに変えられたような気分だという。やればできるが、やらなくてもいいかと感じていた。

そうなると自信もなくなる。島袋は、事業は失敗したときにどう向き合うかだと考えている。調子がよいときは誰でも勢いで進めるが、つまずいたときに本当の強さやメンタルが試される。尾上は、ある程度の緊張感はやはり大事なのだと受け止めた。

M&A BANK:再生数と問い合わせの質は比例しない

M&A BANKのほうは問い合わせが非常に多いという。動画が再生されると、サロンへの問い合わせやアドバイザー契約が大きく増える。会社を売りたいという相談とサロン入会の相談の両方がある。

面白いのは、スポンサー案件などでは再生数が少ない動画のほうがコンバージョンが高いことがあるという点だ。島袋によると、ビジネスYouTubeをやっている人なら分かると思うが、再生されていない動画のほうが質の高い客からの問い合わせにつながり、仕事になっている。内容が薄くて再生されないのは駄目だが、内容をちゃんと濃くすればよい。ビジネス系チャンネルでは再生数と問い合わせ数、その後の売上は比例しないのではないかと話した。

経営者は数字が好きなので再生数や登録者数を追いがちだが、M&A BANKは売り手目線で「失敗しないM&A」を実現することを掲げている。そのペルソナさえぶらさなければ、再生数は正直どうでもいいと島袋は言う。1本の動画で1人でも救われればそれでよく、広げること自体が目的ではない。再生数を増やしたければニュース解説や時事ネタを扱えばよいが、それはしない。理念が大事だと最近感じているという。

会社の理念も最近変えた。尾上は分かりやすくシンプルでよかったと評価し、思い返せばずっとそれをやってきたと話す。M&AもFCも、経営者の事業の入口と出口を支援しているという点で共通する。尾上は、この15年ほどで仕事をした相手は、店舗の一般客を除けば全員が社長だったと振り返った。ただし、ピラティススタジオは経営者に伴走する事業ではないので別で、あくまでフランチャイズとM&Aを主に手がけるWellness X Asiaについての話だと補足している。

育毛剤の会社:2年間売却に至らず、今は「売らなくてもいいかな」

島袋が創業した育毛剤の会社は、2年ほど相手を変えながら売却交渉が続いているが、今回決まるかもしれないという。金額について島袋は「両手行くか行かないかぐらい」とだけ表現した。

ただ最近は、売らなくてもいいかと思い始めている。事業は非常に安定しており、利益はずっと出ている。売上のトップラインは上下するが、それは広告をかければ売上が上がり、広告を絞れば下がるという調整の結果だという。オンラインクリニックなど、やりたいことも多い。売却にはもはや期待していないと島袋は話し、尾上も期待すると後から落差が大きいと応じた。

「一度はブレイクする前提で」――売却交渉の心得

ここから島袋は、M&Aの交渉について持論を語った。売ろうと決めて最終段階まで進んだ案件が1回目にブレイク(破談)すると、ひどく落ち込み、やる気がなくなる。だが2回目で慣れ、3回目には何とも思わなくなるという。動画で紹介しているようなトントン拍子の案件は本当に稀で、基本的に一度はブレイクする前提でM&Aに臨むべきだと島袋は言う。

問題はそのときに売却金額を下げようとすることだ。売りたい気持ちが強くなって妥協すると、よい結果にならない。そういうときこそ外部のメンターやアドバイザーを入れるべきで、むしろ値段が安すぎたと考えて高くしたほうが売れるケースも結構あるという。大型売却や連続売却を経験した人は焦っておらず、高いマルチプルでなければ売らない姿勢を取る。すると買い手側も、それほど自信があるのかと受け止める。逆に最後までディスカウントを続けると、何か問題があるのではと思われる。

島袋はスーパーのマンゴーにたとえた。キラキラと飾られた3万円のマンゴーと、30%オフのマンゴーが同じものだったとしても、前者のほうが良く見える。値引きされたものはどんどん値切られ、30%、50%オフでも売れるのではと思われてしまう。尾上は、最初にプレミアム感を示しておくことが大事なのだと受け止めた。一方で、売れない、高いと言われると値下げしたくなるし、デューデリジェンスも含めて長い期間を費やしているので疲れて妥協したくなる気持ちも分かると話す。島袋は、高いと言われたらさらに高くするくらいでもよいかもしれないと述べた。

売るときは冷静に、買うときは情熱的に

島袋はM&Aをポーカーにたとえ、手札を見せてはいけないと言う。相手と変に仲良くなって情が入るようにしてもいけない。会社を売るときはいかに冷静になり客観的に見られるかが重要で、自分では冷静になれないから間に誰かを入れたほうがよい。反対に、会社を買うときは情熱的にエモーショナルに、直接行ったほうがよいという。

尾上は、買うときこそ慎重に、売るときこそ売りたいから情熱的に、という逆のイメージを持っていたと驚いた。島袋は、それもあるとした上で、いい会社はそもそも売りに出ていないと説明する。売る気のない会社をグループに迎えるには、直接出向いて口説くしかない。島袋は、交際相手がいる人を飛び越えて自分と付き合わせてしまうような人はM&Aの買い手に向いていると思う、とたとえた。

最後に二人は、まだ世に出ていないアーリーなフランチャイズ本部からの連絡を待っていると改めて呼びかけ、雑談を締めくくった。