人材紹介事業を立ち上げ支援するAGENT SUCCESS野村真央氏が語る、撤退が多い業界で残る条件と、自力で進めた会社売却

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概要

人材紹介事業は始めやすい一方で、撤退も多い業界だと野村真央氏は語る。M&A BANKの島袋直樹氏がこの業界の特徴と、事業を始めるときの切り口を聞いた。後半では、1人社長だった野村氏が仲介会社を使わずに自社の売却を進めた経緯が語られる。野村氏は、人材紹介の立ち上げ支援を行う株式会社AGENT SUCCESSの代表である。

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人材紹介の立ち上げを外部から支援する仕事

AGENT SUCCESSは、これから人材紹介を始めようとする会社の立ち上げを支援している。支援先は累計で50社ほどになる。領域は問わず、ハイレイヤーから新卒まで、人材紹介をやりたい会社に外部マネージャーのような立場で伴走するという。

野村氏は新卒から3社で会社員を経験し、すべて人材系の仕事に携わった。最初の会社では転職サイトの立ち上げを担当した。アデコでは新卒向けのエージェントとして、学生の集客と支援を担った。最後に在籍したスタートアップのWARCでは、候補者を集めてスタートアップのCFOや管理部長として紹介するエージェントを4年ほど務め、その後独立した。著書に『人材紹介ビジネスの始め方』がある。

年間約3000社が参入し、半分ほどが撤退する

島袋氏は人材紹介を「儲かりそうなイメージ」の事業として話題に出した。これに対して野村氏は、参入障壁が非常に低いため、人材紹介の免許を取る会社は年間3000社ほどあり、その半分ほどはすぐに撤退していく業界だと説明した。

つまずく理由として野村氏が挙げたのは2つである。1つ目は、始めやすさゆえに専任の人を置かず、片手間で始めようとする会社が多いことだ。2つ目は競合の多さである。野村氏によれば、街を見渡せば転職エージェントだらけという状況なのに、どの領域を攻めるか、どう集客するかを考えずに始める会社が少なくない。そうした会社が撤退していくという。

領域は「業界」と「職種」で切る

島袋氏は、自分のイメージとして階層で区切る案を示した。社長専門、CXO、CFOやCTOといった専門職、事業部長、マネージャー経験者、一般職、第二新卒、新卒という分け方である。そこにIT、建設などの職種の違いを重ねるという考えだった。

野村氏の答えは「業界と職種」である。まず業界を切る。業界にはIT、最近盛り上がっているという物流(ドライバーの紹介など)、医者や看護師に分けられる医療などがある。そのうえで、その業界の上位層を扱うのか、メンバー層を扱うのかを決めていく。

M&A BANKと相性のよい業界を問われると、野村氏はM&A業界を挙げた。M&A仲介会社は採用が活発で、紹介手数料として年収の100%を出す会社もあるという。大手の中には、紹介された人の年収にかかわらず最低300万円を支払う契約を結ぶところもあり、野村氏は「すごい熱い業界」だと述べた。この話を受けて島袋氏が「一緒にやりません?」と持ちかけ、場が笑いに包まれる場面もあった。

事業を伸ばすのは「誰とやるか」

島袋氏はDYMを例に、同社が事業を当てて伸びた理由を「人」だと考えている。島袋氏によれば、経営者が持つ事業アイデアや情報はもう民主化されていて大差がない。差がつくのは、コミットできる責任者を据えられるかどうかだという。DYMは新卒採用支援を始めた時期に、良い人材を自社でも採用した。その若手を、Webマーケティングや病院といった事業の責任者に抜擢して成長したのではないか。島袋氏はそう推測した。

野村氏はこの見方に同意した。人材会社の価値提供はシンプルで、人を集めて企業に紹介し、採用してもらうだけのビジネスモデルだと説明する。独立しても、大手に入っても、スタートアップでやっても提供する価値は同じである。だからこそ「どの環境で誰とやるか」が重要になるという。責任者や社長がビジョナリーか、カルチャーづくりがうまく「ここでやりたい」と思ってもらえるか。野村氏はそこが大事だと語った。

1人社長のまま3年、競合の増加に危機感

AGENT SUCCESSの創業は3年前である。野村氏は昨年末まで1人社長として、他社の外部マネージャーのように人材紹介の基本を教える仕事をしていた。しかし取引先が増え、営業もカスタマーサクセスも自分でこなす状態になり、1人では限界が来た。そこで昨年末ごろから人を増やし始めたが、現在も業務委託のメンバーしかいないという。

売却を考えたきっかけは競合の増加だった。野村氏によれば、2年前ごろまではニッチすぎて「新しいビジネスですね」と言われていた。ところが昨年あたりから、似たサービスを提供する会社の話を耳にするようになった。調べてみると、船井総研もコンサルティングとパッケージを合わせて提供していた。1人社長の体制では、いずれ潰されるという危機感を持ったという。

もう1つの理由は、コロナ禍の経験である。当時は求人がなくなり、人も動かなくなった。その経験から、野村氏は「人材にかけるコンサル」は真っ先に不要とされかねないと考えた。今の成長率では勝てなくなる。そう判断して、M&Aも選択肢に入れて一気に引き上げる施策が必要だと、昨年ごろから考え始めた。財務面について野村氏は、1人で運営しているため売上のほとんどが利益になる状態だったと述べた。

仲介会社を使わず、自分で約10人に打診

野村氏は最初、M&A仲介会社の話も聞いた。自社のバリュエーションは1〜2億円程度だろうと見積もり、その規模に対して仲介手数料が高いと感じたという。仲介会社から見せてもらった候補先リストには、知っている会社が多く含まれていた。経営者の知り合いも多かったため、自分で進められると判断した。

野村氏は約10人の経営者に、Messengerで直接連絡するか、知人に事情を話して紹介してもらった。文面はストレートで、今の状況を伝え、相手の会社とシナジーがありそうなので買ってくれないか、一度話をさせてほしいという内容だった。話を聞いてくれたのはざっくり半分ほどで、ちゃんと検討してくれたのは3社だった。その中から1社を選んだ。

売却先CCHとの出会いは交流会の隣席

売却先はCCHという会社である。野村氏の説明では、CCHは多事業を展開し、PEファンド的な動きもしている会社で、最も強いのは営業だという。M&Aの実績も複数ある。タクシー会社やキルフェボンを買収して1〜2年で大きくしてから売却し、直近ではホリーフードサービスという飲食会社をTOBしたと野村氏は紹介した。

CCHとの接点だけは、ほかの打診先と経路が違った。M&A系の交流会に売り手として参加した際、たまたま隣の席に座ったのがCCHの役員だった。互いの会社を紹介し合い、別途食事に行くことになったのが今年5月末である。6月上旬にもう一度食事をして、双方が面白そうだと感じた。その後、代表との会食が設定された。M&Aを前提に、うまくいくかを検証するため、CCHが本格的に事業へ手を入れる形になった。6月末からは実際に一緒に事業を始めている。

島袋氏はこれを、本来M&Aの後に行うPMI(統合作業)を契約前に先に試す進め方だと整理した。収録時点で開始から約2か月であり、クロージングは8月末の予定だという。

ノウハウを盗まれるリスクをどう見たか

島袋氏は、契約前に事業を一緒に進めるとノウハウを盗まれる危険があると指摘した。この進め方は買い手にとっては慎重に判断できる利点があるが、売り手にはリスクがあるという見方である。

野村氏の考えは、ノウハウを真似されても経験者でなければ実行できない、というものだった。野村氏には10年間の人材紹介の経験があり、メンバーも人材紹介の経験者である。一方、CCHには人材分野に長けた人材がいない。だからこの会社なら心配はないと判断した。ほかの売却候補はすべて人材紹介会社だったため、そちらと同じ進め方をしていたら真似されていただろうと野村氏は振り返った。

取り決めについては、意向表明を出してもらっただけで、細かいことはほとんど決めていないと野村氏は笑った。島袋氏は、事業を一緒に動かしていればデューデリジェンスも実質的に進んでいるようなものだと受け止めていた。

「10倍」の目標と、実際に用意された支援

野村氏が当初懸念していたのは成長目標だった。CCH代表との話は「1年後に10倍」で始まった。ところが次に話すと半年後に、その次は3か月後に縮まり、秋には10倍になっていなければならない話になっていたという。野村氏はこれを「結構やばい」と感じた。売却後に目標未達を理由に外されることを、最も心配していた。

しかし実際に一緒に事業を始めると、CCHは必要なものを用意してくれた。野村氏はこれまで広告費をほとんどかけず、本を出す程度だった。CCHは内製化しているLPを作って提供した。さらにナンバー2となる人材を見つけてきて、その人物が野村氏と一緒に営業している。営業体制のてこ入れも行われた。野村氏は代表のまま残り、組織づくりを一気に進める支援を受けている形である。

野村氏は、言うだけでなくやるべきことをやってくれるフォローが手厚いと評価した。サービスも改善され、自分がやるべきことに集中できているという。ここに売ればちゃんと伸びるとイメージできたので、この1〜2か月の期間は大事だったと振り返った。

条件とインセンティブはまだ交渉中

収録時点で、バリュエーションはまだ確定していない。利益に対するマルチプルは交渉中で、4倍程度という数字が挙がった。売却後のインセンティブについて、野村氏はロックアップは設けられていないと説明した。オーナー企業なので、事業の成果に応じて役員報酬を上げるといった条件を自分から主張し、合意しながら進めていくという。野村氏は、売却の判断は良かったと思うと述べた。

起業家のセカンドキャリアを紹介する構想

終盤、島袋氏は自分も人材ビジネスを始めたいと話した。今後はフランチャイズ本部の買収も考えており、事業責任者や会社の社長を任せられる人材を探したいという。

これに対して野村氏は、やりたいこととして起業家のセカンドキャリア支援を挙げた。起業には、うまくいった人もいれば途中で挫折した人もいる。フリーランスも含め、キャッシュアウトの怖さを知り、自分で物事を進められる人が多いと野村氏は見ている。たまたま失敗した人を他社の子会社や事業の責任者に据えれば機能するのではないか、と野村氏は考えている。

島袋氏はこれに強く同意した。特に、自分で金融リスクを負い、借金をして返済した人や、資金調達で失敗を経験した人は「むちゃくちゃあり」だという。M&A BANKの視聴者には起業家としての次の道を考えている人も多いはずで、そうした人の話を聞いて会社を紹介する事業とは相性がいいと島袋氏は述べた。

AGENT SUCCESSの料金は、初期費用(100万円から)と月額費用で構成される。月額はプランや関与の深さによって数十万円程度で、1年間伴走する形だという。