「ChatGPTモーメント」は何が特別だったのか:中島聡が語る、一気に広がる技術とじわじわ広がる技術

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概要

英語圏でよく使われる「ChatGPTモーメント」という言葉を手がかりに、中島聡氏がインタビュー形式で語った回である。ある技術の価値が、ある瞬間に一斉に人々へ伝わるのはどんな条件のときか。中島氏は、ChatGPTの登場をAI業界全体が「一気にキャズムを超えた」出来事と位置づける。そのうえでiPhoneやテスラの自動運転FSDと比べ、多くの技術はむしろ時間をかけて広がると見ている。

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APIの段階では気づかれなかった衝撃

中島氏によれば、大規模言語モデル(LLM)がすごいのではないかという話は、AI業界では最初のGPTが出た頃から言われていた。本人はGPT-3だったと記憶するAPIが公開された時点で「これはやばい」と感じたという。言葉を渡すと、まるで人間が書いたような言葉が返ってくる。そのことにショックを受けた。

それ以前の、チャットやボットと呼ばれるコンピューターと人間のやり取りは、中島氏の言葉では「なんちゃって」のものにすぎなかった。例として挙げたのがMicrosoftのOffice系アプリのアシスタントだ。ユーザーが入力した言葉からキーワードを拾い、該当するヘルプ画面へ誘導する程度のことしかできなかった。そこに、自然言語を本当に理解して答えるものが突然現れたのだから影響は大きかった、と中島氏は振り返る。

ただ、当時のGPTは単なるAPIで、ほとんどの人は気づいていなかった。中島氏が影響が大きかったと考えるのは、技術そのものより、APIの公開から半年ほど後にOpenAIがAIと会話できるWebサービスとしてChatGPTを公開したことだ。誰でも触れるようになり、それまで「AIなんか使い物にならない」と思っていた人たちが「使える、役に立つ」と気づいた。中島氏はこれを、OpenAIにとってだけでなくAI業界全体にとっての転換点と見ている。

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一般の人は何に使い始めたか

一般ユーザーにとって何が変わったのかを聞かれ、中島氏は自分のような技術者との違いから話した。技術者はわざと意地悪な質問を投げて、ちゃんと答えられるかを試すような使い方をする。一方、普通の人、特に学生は、学校の宿題を入力して出てきた答えをそのまま先生に提出するといった使い方を本当に始めた。

もう一つの例はメールの文面づくりだ。中島氏が見た例では、成績の悪い人を解雇しなければならない場面で、「パフォーマンスが悪いから首だ」とは直接言えない。そこで、相手をあまり傷つけず、法的にも問題のない、オブラートに包んだ表現にしてほしいと頼むと、ChatGPTはすらすらときれいな文章を書いてくれる。勉強や仕事、日々の生活で役に立つ仕事をしてくれることが明らかになった点に、ChatGPTの大きな影響があったと中島氏は語る。

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OpenAIの強みはUI設計、Googleの弱みはエントリーポイントの分散

中島氏は、OpenAIの優れている点としてユーザーインターフェースとアプリケーションの設計を挙げる。AI技術だけを見れば、Googleは世界で最も優秀な人材とインフラを持ち、良いものを持っていると中島氏は評価する。しかしユーザー体験の設計になるとGoogleは弱いという。

具体例として、Googleには今でもGoogle検索、Gemini、AI Studio、NotebookLMと4つほどの入り口があり、それぞれできることが違う点を挙げた。映像を作りたければAI Studioから、単に質問したいならGeminiから、リサーチさせて結果をポッドキャストのような音声で聞きたければNotebookLMから、という使い分けが必要になる。一つのサービスを使っていても他のサービスを見つけにくいという根本的な問題がある、と中島氏は指摘する。これに対してOpenAIは一つのインターフェースでまとめてやってくれる。この設計のうまさが、「ChatGPTモーメント」と呼ばれる社会現象を起こせた理由だと中島氏は考えている。

iPhoneは「モーメント」を起こさなかった

ここから学ぶべきこととして、中島氏はiPhoneとの比較を持ち出す。iPhoneが登場したとき、中島氏自身はすごいと感じ、これで勝負がつくと思った。しかし多くの人は気づかず、手に入れた人もすぐにはその良さに気づかなかった。iPhoneは何年もかけて徐々に広まり、いつの間にかスマートフォンのデファクトスタンダードになった。

結果だけ見ればChatGPTと同じでも、スマホのあるライフスタイルの良さを人々が理解する過程は、ChatGPTのような一瞬の出来事ではなかった、というのが中島氏の整理だ。ChatGPTが一気に広がったのは無料で世に出したからこそで、その点は大きいと中島氏は付け加えている。

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テスラFSDは「体験すれば」ChatGPT級だが

中島氏が今とてもワクワクしていると語るのが、テスラの自動運転FSDだ。体験した人にとってはChatGPTモーメント並み、ある意味ではそれ以上のインパクトがあるという。家を出るときに行き先を設定すれば、ハンドルもアクセルもブレーキも操作せずに安全に目的地まで連れて行ってくれる。

しかし、テスラ車を持っていなければ体験できず、有料でもある。無料のお試し期間のようなものはあるものの、なかなか伝わらない。そのため、ある瞬間に何百万人、何千万人が一斉に体験して世の中が一気に変わる、という形にはならないだろうと中島氏は見る。自動運転もiPhoneと同じようにゆっくり広がっていくのではないか、というのが中島氏の予想だ。それでも、ものづくりをする立場としては、自分のプロダクトもChatGPTモーメントのような形で世に出したいと強く思う、とも語った。

次のChatGPTモーメントはあるか

最後に、次にChatGPTモーメントを起こしそうな技術を問われ、中島氏はChatGPT並みに一気に広がるのは難しいかもしれないと答えた。iPhone並みに社会やライフスタイルを変えることは、自動運転や人型ロボットについては起こると考えている。ただ、それがChatGPTのように誰もが一気に体験する形になるのは難しいだろう、という見方だ。

中島氏は自身の取り組みとして、開発中のAIツール「マルモキャスト」にも触れた。現在はターミナルアプリケーションの中でしか動かない、地味な開発者向けの形で出している。いずれはアプリケーションかWebサービスとして出し、その良さを全員に一気にわかってもらえるChatGPTモーメントのようなものを作りたいという。ただし、簡単ではないとも認めている。

中島氏が難しさとして挙げたのは、出すタイミングと作り込みの度合いのバランスだ。時代はどんどん進むので、時間をかけすぎれば時代遅れになり、どこかで出さなければならない。また、完璧なものを目指すより、とにかく動くものをユーザーに渡して理解してもらい、徐々に良くしていくアプローチの良さもある。どこまで作り込み、どの程度のインパクトを狙うのかは難しい問題だとしたうえで、ChatGPT並みの大きなモーメントを一瞬で起こすのは簡単ではないだろう、と中島氏は締めくくった。