海外子会社との取引価格はどう決めるべきか:移転価格税制の専門家・田島宏一氏に聞く

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概要

日本と海外に会社を持ち、その間で取引をすると、取引価格の決め方しだいで数年分をまとめて追徴課税されることがある。M&A BANKのMC・島袋直樹氏は、自身の会社でも移転価格の整備を依頼しているGMT移転価格税理士事務所代表の田島宏一氏に、この税制の仕組みと中小企業が陥りやすい失敗を聞いた。田島氏の立場は明確で、課税されてから対処するのは費用も手間もかかりすぎるため、事前に対策しておくことが最も重要だというものである。

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話し手の経歴

田島氏はEY税理士法人とデロイトトーマツ税理士法人で約10年、移転価格コンサルティングに携わった。独立してからも約14年この分野を続けており、合計で20年以上、移転価格に特化してきたという。大手に所属していたころは大企業が主な顧客だったが、現在は中堅・中小企業の移転価格コンサルティングを中心にしている。田島氏によれば、仕事の内容はビッグ4時代と変わらず、対象企業の規模が変わっただけだという。

移転価格税制とは何か

田島氏の説明では、日本の法人と海外の会社が国境をまたぐグループ会社として取引する場合、その取引価格をいくらに設定するかによって両社の利益配分が変わる。対象になるのはモノの取引だけではない。ロイヤリティのほか、グループ全体で会員制ビジネスを運営し、その収入を両社が役割分担して稼いでいる場合も含まれる。

日本側への配分が多すぎればシンガポール側で課税の対象になり、逆にシンガポールへ配分しすぎれば日本からの所得移転として日本で課税される。それぞれの国で課税されないように利益の配分を考えること、これが移転価格税制が求めていることだと田島氏は述べた。

島袋氏は、海外に多くの拠点を持つ大企業はこの点をきちんと整備しているが、中小企業には海外法人を作っても移転価格の存在を知らないオーナー社長が多いのではないかと指摘した。田島氏もこれに同意する。毎年かなりの数の会社が移転価格で課税されているが、その大半は低税率国に所得を移して税金を逃れようとした会社ではない。移転価格税制を知らないまま適正だと思って取引していたところに税務調査が入り、配分のバランスが悪い、海外側への配分が多すぎると指摘されるケースだという。しかも移転価格の課税は3年分や5年分がまとめて行われるため、適正にやっていたつもりでも数千万円から数億円の課税になりうる。田島氏はこの点を「怖い税」と表現した。

島袋氏の会社の事例:会員制サロンとフランチャイズ

島袋氏は自社を例として示した。日本法人のウェルネスXアジアは2018年に設立され、クラブピラティスのフランチャイズライセンスやM&A BANKのYouTubeチャンネルの所有権、サロン事業などが紐づいている。2019年にはシンガポール法人を立ち上げた。島袋氏自身がシンガポールに住み、現地の富裕層向けのコンテンツ提供やサロン会員もいるため、M&A BANKの収益の一部をシンガポール側に移してもよいのではないかと考え、田島氏に相談したという。

田島氏の整理では、同社の事業は三つある。会員から会費を得るサロン事業、クラブピラティスなどのフランチャイズ事業、そして国内のM&Aアドバイザリー事業である。このうちM&Aアドバイザリーは日本国内で完結するため、移転価格税制は関係しない。一方、サロン事業とフランチャイズ事業は日本法人とシンガポール法人が役割を分担して一緒に運営しており、会費収入は両国で生じている。そのため、各社が果たしている機能、負っているリスク、所有している無形資産に応じて適正に配分することが主な論点になる。

島袋氏は、今後この問題に直面しそうな層としてオンラインサロンの運営者を挙げた。数億円を稼ぐ運営者もおり、海外に移住して海外の話題を増やそうとする人は今後増えると島袋氏は見ている。そうなったときに移転価格を整備していなければ危険だという。

YouTubeチャンネルという無形資産

田島氏は、YouTubeのような事業で移転価格を難しくするのは無形資産の扱いだと説明した。M&A BANKのチャンネルは日本で配信しているが、分解して見ると、日本のゲストもいればシンガポールのゲストもいる。内容も日本の話とシンガポールの話があり、シンガポールの情報はシンガポール法人がなければ扱えない。企画の立ち上げから編集までの機能分担もある。配信後の広告宣伝費をどちらの法人が負担したか、広告をどこで流したかによって登録者数も変わる。

こうした費用負担と役割を見ていくと、チャンネルの価値を作り上げるのにどちらの法人がどれだけ貢献したかが変わってくる。その貢献に応じて、会費収入やフランチャイズのロイヤリティ収入を両社に配分する必要がある。日本での課税を避けたければ日本に多く配分すればよいが、配分しすぎるとシンガポール側で日本への所得移転として課税される。だから両社の機能と無形資産に応じた適正な配分が必要になるというのが田島氏の説明である。

島袋氏が「業務の実態を見て、1対9か2対8か3対7かを決めてくれるという理解でよいか」と尋ねると、田島氏は、移転価格にはグローバルスタンダードの算定方法がいくつかあると答えた。移転価格税制の基本的な仕組みは世界共通で、日本とシンガポールでもルールと算定方法は同じである。この基準に沿って利益配分を算定すれば、日本でもシンガポールでも課税されない状態に持っていける。その算定とコンサルティングが自分たちの仕事だと田島氏は述べた。

よくある失敗:根拠のない価格設定と、保守的すぎる配分

調査で問題になった事例を問われた田島氏は、最も多いのは海外子会社との取引価格のルールに理屈がないケースだと答えた。相場観やこれまでの慣習でなんとなく決めている、あるいはルールはあっても移転価格税制に基づいていない。その結果、海外子会社に利益が配分されすぎていることが、調査で最も問題になるという。

逆の失敗もある。田島氏によれば、ウェルネスXアジアはかなりしっかり対応していたが、日本の課税リスクを減らそうと保守的にしすぎた結果、日本への配分が多すぎる状態も一部にあった。この場合は現地側でリスクが生じるうえ、日本で税金を払いすぎていることにもなる。シンガポールにも適正に配分すればグループ全体の税負担も下がるので、無駄な税金を払っているケースもあると田島氏は指摘した。

なぜ一般の税理士では対応が難しいのか

島袋氏は、そうした会社も税理士に相談していたはずなのに、なぜ誤りが生じるのかを尋ねた。田島氏によれば、移転価格はかなり特殊なニッチな分野である。ビッグ4の中でも移転価格部門と通常の法人税申告部門は分かれていて、採用も別に行っている。田島氏自身も移転価格の業務しかしてこなかったため、申告業務はほとんど経験がないという。反対に、申告業務の担当者は移転価格に触れる機会がほとんどない。

さらに移転価格税制は法令がかなり曖昧に書かれていて、法令を読むだけでは対応できない。そのため4大法人の移転価格部門で多くの経験を積まないと対応が難しく、一般的な法人税や所得税の申告をしている税理士には移転価格のノウハウがないケースが多いと田島氏は述べた。

どの関係の会社が対象になるのか

島袋氏は、親子会社ではなく、オーナーが同じという関係の場合はどうなるのかを質問した。田島氏は、移転価格税制はグループ内で取引価格を自由に設定できることを利用した海外への所得移転を防ぐ制度だと改めて説明した。そのため、価格を自由に設定できる支配関係にある会社同士が対象になる。日本では基本的に、50%以上の持ち分関係がある親子会社間、兄弟会社や孫会社などとの取引が対象である。

ただ、それだけを対象にすると、一人のオーナーが日本とシンガポールの会社をそれぞれ100%保有している場合、2社の間に資本関係はないのに価格は自由に決められてしまう。田島氏によれば、制度はこうした実質的な支配関係にある会社間の取引も課税対象に含めている。また国によって基準は異なり、たとえば中国では25%以上の持ち分関係があれば支配関係とみなされることもある。田島氏は、価格をコントロールできる関係があれば対象になると考えたほうがよいと話した。

島袋氏が、あえて50%を切ってコントロールしようとする人もいそうだと言うと、田島氏は、東南アジアなど外資規制のある国では、持ち分を49%にして残りを銀行に持たせるなど、形式的に50%を切っている会社もあると応じた。ただ、役員の過半数を本社からの出向者で構成しているなど、形式上50%を切っていても実態として支配関係にあるケースは多いだろうと述べた。田島氏のクライアントにもそうした会社があるという。日本側で課税対象になるかと、現地側で対象になるかは別の問題なので、国によって判断が変わる部分はある。それでも基本的には、子会社との取引をコントロールできるかどうかで対象が決まると考えてよいとのことだった。

租税条約と相互協議:課税後の救済は現実的ではない

租税条約を結んでいる国かどうかで違いがあるかという質問に、田島氏は具体例で答えた。日本からシンガポールに1億円の所得を移転していたと認定され、日本で課税された場合、その1億円について日本でもう一度納税することになる。一方、同じ1億円についてはシンガポールでも納税済みなので、二重課税の状態になる。これを解消するために国家間で相互協議を行い、還付を受けることができる。

相互協議は租税条約を前提に行うため、条約があるかどうかは相互協議ができるかどうかに関わる。源泉税などについても条約上の特例がある。ただし、移転価格課税を受けるかどうかは条約の有無とは関係がない。条約がある国の子会社でも、ない国の子会社でも、取引関係があれば基本的に課税対象になる。

そのうえで田島氏は、相互協議による還付は現実には簡単ではないと強調した。日本側と現地側でそれぞれアドバイザーを雇い、国税当局との協議を支援してもらい、何年もかけてようやく還付が認められる。コンサルティング費用はそれぞれ数千万円かかることもあり、追徴税額が1億円未満ならやらないほうがよいケースが多い。中小・中堅企業の追徴税額は1億円前後になることが多いため、実際に相互協議で還付を受けている会社はかなり少なく、数千万円を払って終わるケースが多いという。だからこそ、課税される前に対策を取っておくことが最も重要だと田島氏は述べた。

対策の中身と費用

田島氏の事務所が行うのは、主に二つの業務である。一つは子会社との取引価格をどう設定するかのコンサルティング。もう一つは、設定した価格の内容を調査の際に国税局へ説明する「ローカルファイル」という文書の作成で、これは作成が義務づけられている。提出できないと、推定課税という一種のみなし課税を受けることになるため、ローカルファイルの作成が業務の中心になる。

費用は、子会社1社との取引についてコンサルティングとローカルファイルの作成で約150万円を基本としている。期間は約3か月のプロジェクトである。子会社の数に応じて見積もり、取引が複雑な場合は金額が上下するという。

更新については、税務調査は3年や5年に1回の会社もあれば毎年受ける会社もある。取引金額が50億円を超える場合は、ローカルファイルを毎年作成する義務がある。それ以下なら毎年作成しなくてもよいが、調査で誤りがあれば課税対象になるので、田島氏は3年に1回の更新を勧めている。同事務所のクライアントの多くは50億円に満たない数千万円から数億円の取引の会社で、3年に1回の更新で対応しているという。

取引規模と経営への影響

取引金額が大きいほど税務リスクは上がるのかという質問に、田島氏は、リスクは取引金額に比例すると答えた。1億円の取引で5%ずれている場合と、10億円の取引で5%ずれている場合では10倍の差がある。所得のずれの大きさで課税額が決まるので、取引規模が大きいほど、わずかなずれでも金額が大きくなる。

田島氏が特に注意を促したのは、グループの中で海外子会社との取引の割合が大きい会社である。売上10億円の会社が1億円課税される場合と、連結売上100億円の会社が1億円課税される場合ではダメージが違う。海外の売上や利益の割合が大きい会社は早急に対応したほうがよいという。目安を問われると、数千万円以上の取引があれば本格的な移転価格調査の対象になっており、数億円以上ならなおさら早めに対応したほうがよいと答えた。

海外移住後にフランチャイズ本部を作る場合

島袋氏は、ありそうなケースとして次のような流れを挙げた。会社を売却して資金を得た経営者が、次の挑戦や子どもの教育のためにシンガポールなどへ移住する。しばらくして二つ目の事業としてフランチャイズ本部を始め、シンガポール法人を作る。商標をシンガポール法人で持ち、ロイヤリティをシンガポールに集めるが、事業自体は日本で拡大していく。これにはリスクがあるのか。

田島氏は、ここでも無形資産が問題になると答えた。フランチャイズのロイヤリティは、店舗運営のノウハウやブランドの商標などの無形資産に対して支払われるものである。日本法人とシンガポール法人が役割を分けて運営していれば、その配分が問題になる。M&Aでも、両国でそれぞれ会社を買収してシナジーを出し、両国に機能を置いて国をまたいで事業を行えば、移転価格とロイヤリティ配分の問題が出てくる。

移住のケースにも同じ論点がある。日本で長く事業を続けて知名度が上がった、あるいはYouTubeチャンネルの登録者数が増えた後に、シンガポールや香港へ移住して事業を続けるとする。この場合、移住前に日本で作られた無形資産と、移住後にさらに高められた価値の両方への貢献がある。どちらでどれだけ無形資産が作られたかを分析したうえで配分を考える必要があると田島氏は述べた。

島袋氏が、日本法人と海外法人がそれぞれ別の会社を買収した場合について確認すると、田島氏は、別々の会社を買収してそのまま別々に事業を行い、取引が発生しなければ移転価格の問題は生じないと答えた。一方、買収後に日本のノウハウをシンガポールに提供したり、その逆を行ったりしてシナジーを生む場合や、日本で作った製品をシンガポール経由で現地や東南アジアで売る場合は問題になる。細かいものでは、資金を貸し付ければ金利をいくらに設定するかで所得のずれが生じる。何らかの取引や役割分担があれば必ず移転価格の問題が生じると考えたほうがよい、というのが田島氏の見方である。

本社機能の海外移転は節税になるのか

最後に島袋氏は、大企業がときどき本社機能を海外に移すことがあるが、それは可能なのかと尋ねた。田島氏は、移転価格税制は組織再編を禁止するものではなく、問題になるのはその結果として利益配分をどうするかだと説明した。

ただし実際には簡単ではない。日本で長く事業を続け、特許やブランド価値を日本で培ってきた場合、無形資産はすでに日本で形成されている。それを海外に移すには譲渡しなければならない。ディスカウントキャッシュフロー法などで算定するとかなりの金額になり、子会社であるシンガポール法人に数億円から数十億円の現金がなければ譲渡自体ができない。譲渡できたとしても、譲渡時に日本側で大きな所得が生じ、結局日本で納税することになる。そのため、本社を海外に移すこと自体はできても、それで節税できるかといえば簡単ではないと田島氏は述べた。

一方で田島氏は、無形資産の価値が低いうちに海外へ譲渡したほうがよいケースもあるとし、プレジャーボートを例に挙げた。バブル期には高級ボートが日本で売れたが、バブル崩壊とともに売れなくなった。しかしヨーロッパやシンガポールでは需要が大きい。このように、日本では無形資産の価値がほぼなくなったが海外ではこれからニーズが高まりそうな場合、譲渡対価は比較的低く済むかもしれない。それを海外法人で発展させれば、そこで生まれた所得を海外に帰属させられる場合もある、というのが田島氏の説明だった。