良質なコミュニティは寿命を延ばすのか:JINEN藤田崇志氏がオーケーウェブとの株式交換を選んだ理由

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概要

コミュニティ支援を手がけるJINEN株式会社は、2026年6月30日に上場企業オーケーウェブ(証券コード3808)と株式交換を行い、同社のグループに入った。M&A専門のYouTubeチャンネル「M&A BANK」の島袋直樹氏が、JINEN代表の藤田崇志氏に話を聞いた。前半はM&Aの経緯、とくに現金での売却ではなく株式交換を選んだ理由を扱う。後半は、島袋氏が自身のコミュニティについて相談する形で、コミュニティ設計の考え方が語られた。島袋氏は冒頭で藤田氏を「コミュニティの変態」と紹介し、藤田氏もそれを受け入れている。藤田氏は自分を、コミュニティについて考え続けるマニアであり研究者だと位置づけている。

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商社の営業からコミュニティの仕事へ

藤田氏は北陸の商社である三谷産業に入社し、3年間営業を担当した。そのころコロナ禍が始まり、西野亮廣氏をはじめ多くの人がオンラインサロンを立ち上げていた。藤田氏も自分で試してみようと考え、これがコミュニティに関わるきっかけになった。そこから、コミュニティ運営やコミュニティマネージャーという仕事があることを知ったという。

最初は副業で、ボランティアや趣味のサークルに近い活動だった。そこで評価を得て企業案件を受けるようになり、退職前後にはカオナビに短期間在籍してユーザーコミュニティの立ち上げに携わった。その後フリーランスとしてファンコミュニティやユーザーコミュニティの支援を行い、JINENを設立した。JINENは収録時点で3期目を終え、4期目に入るところだった。

JINENの事業:学術的根拠に基づく「4成分16分類」

JINENは、コミュニティの診断・分析から設計、企画、運営までを一貫して支援している。藤田氏が特に重視していると話すのは学術的なエビデンスだ。たとえば飲み会から帰った後に「今日はすごく良かった」と感じることがある。藤田氏によれば、なぜそう感じるのかには学術的な裏付けがあり、JINENはそれを踏まえてコミュニティを分類している。そのうえで、企業が作りたいコミュニティの目的に合わせて「この目的ならこの型で行きましょう」と提案する。

企業がコミュニティを作る目的はさまざまだ。藤田氏は、解約率(チャーン)を下げたい場合、ファンを増やして紹介につなげたい場合、CSRやブランディングとして社会的に良い取り組みを示したい場合などを挙げた。島袋氏は、フランチャイズを含めて85店舗を運営するピラティススタジオを例に、この支援の中身を確認した。藤田氏は、事業目的に合わせた型を提案するものだと答えている。

その土台になるのが「4成分16分類」というフレームワークだ。藤田氏は例として、自身の陸上部の経験を話した。藤田氏はスポーツ推薦で大学に入ったが、陸上部には一般学生と交流すると寮で「何を遊んでいるんだ」と咎められ、坊主にして翌朝グラウンドに行かなければならないという独特のしきたりがあった。かなり閉鎖的な空間だったが、藤田氏によれば雰囲気はとても良かった。部員に「日本一を目指すチームだ」という自負があったからだという。

藤田氏はこのように、閉鎖的にすることで一人ひとりを自分の目標に向き合わせるタイプを「成長成分」と呼ぶ。一方、サークルのような場では助け合いが大切になるため、「互助成分」を強め、オープンでフラットな雰囲気を作る必要がある。ほかに、好きなものを共有する「共感成分」と、新しいものを生み出す「創造成分」がある。成分によって、運営者の発信の仕方も変わる。成長成分なら「お前はもっと行ける」と背中を押す言葉が合い、互助成分なら「みんなで助け合おう」「それはすごい」といった称賛が合う。

「原則、混ぜるな危険」

島袋氏は、成分を混ぜてもよいのか、配分が大事なのかと尋ねた。藤田氏の答えは「原則、混ぜるな危険」だった。日本一を目指す部活動に気楽な気持ちの人が入ってくると雰囲気が悪くなるのと同じで、性質の違う成分が混ざると場が崩れやすいという。

ただし、うまく混ざる例もある。藤田氏はコミケを挙げた。コミケは、みんなで好きなものを共有する共感成分が中心だ。一方で「私が1ページ目を描くから、あなたは2ページ目を描いて」といった助け合いも見られるため、共感成分を主とし、互助成分が少し入った構成になっている。割合が適切なら非常に良いコミュニティになる。しかし互助成分を入れすぎると、「なぜお前はそれをやっていないのか」と助け合いが強制され、場が悪くなるという。この配分は難しく、だからこそ原則として混ぜない方がよいというのが藤田氏の考えだ。島袋氏は、これは組織運営にも近い話だと応じている。

M&Aを考えた理由:上場を目指すことへの懸念

JINENはもともとスタートアップとして運営しており、エンジェル投資家からの出資も受けていた。次はバリュエーションを上げて資金調達しようと考えていたころ、藤田氏は上場基準が厳しくなったと感じていた。さらに、SaaS企業で資金調達をしている友人たちから、AIの影響でバリュエーションを上げた次の調達がとても難しくなっているという話を何度も聞いた。

藤田氏がとくに心配したのは、会社のビジョンを守れるかどうかだった。JINENのビジョンは良質なコミュニティを広げることにある。上場に向けたプレッシャーの中で、道を踏み外してAIスクールのような事業に手を出してしまうのではないかと懸念したという。

エンジェル投資家がいる以上、何らかの出口は必要になる。一方で、事業は伸びているし、自分でも運営を続けたい。そう考えて、グループ入りが良いのではないかと思うようになった。ちょうどそのころ、親しくしているプライベートエクイティファンドの運営者からオーケーウェブを紹介され、話がとんとん拍子に進んだ。

候補3社の中からオーケーウェブを選んだ理由

アドバイザーは入れていなかったが、相手はオーケーウェブ1社だけではなかった。約3社の候補と同時に話を進めており、どこも良い条件で、シナジーも感じていたという。その中でオーケーウェブを選んだ理由について、藤田氏は、研究者でありマニアである自分にとって「研究したら一番面白そうだった」からだと率直に話した。

島袋氏は、オーケーウェブが上場企業である一方、過去に49億円をめぐる問題があったことに触れた。そのうえで、現金による100%買収ではなく株式交換を選ぶことに不安はなかったのかと尋ねた。藤田氏は、検索すれば訴訟などの情報が出てくることは認めた。それでも、現社長の杉浦氏がリスクを取って戻ってきた人物であり、その心意気に惹かれたという。

藤田氏が何より興味を持ったのは、会社としては炎上を経験しているのに、Q&Aコミュニティは20数年間一度も炎上したことがないという点だった。なぜそうなのかを研究させてほしいと思い、周囲が指摘する危険性はあまり気にならなかったという。

オーケーウェブのQ&Aはなぜ炎上しないのか

藤田氏は現在、オーケーウェブのQ&A約6万件をすべて分析している最中だ。不安を抱えて質問を投稿した人が良い雰囲気で帰っていく割合は約8割に上り、ほとんどが良いコミュニティになっているという。

藤田氏によれば、そこには明確な仕組みがある。一つは、やり取りが3階層以上続かないようにしていることだ。夫婦喧嘩のように「ああ言えばこう言う」が繰り返されると炎上につながるが、そうならないようにロジックが組まれている。もう一つは、やり取りが必ず「ありがとう」で終わるハートワークになっていることだ。こうした明確な基準があるため、他のQ&Aサイトより炎上しにくい。藤田氏はこれを面白い資産だと評価している。

島袋氏は、広告媒体として見れば炎上した方がPVを稼げ、広告価値が上がる可能性があると指摘し、Xを例に挙げた。藤田氏は、この資産の使い方はこれから考えると答えた。そのうえで、炎上する悪いコミュニティは一時的に伸びても、後で炎上して社会の信頼を失い、事業が伸びなくなると述べた。藤田氏によれば、特にスクール型に多いケースだという。そうならないよう10年、20年続くコミュニティを設計するのがJINENのケイパビリティであり、炎上しないコミュニティは複利的に価値が積み上がる。その点でオーケーウェブとはシナジーがあると藤田氏は考えている。

島袋氏も、M&A BANKのコミュニティは炎上なしを基本方針にしてきたと話した。その結果、炎上を嫌う人たちが集まり、徐々に広がってきたという。荒れやすい世の中だからこそ、そうした場をネットに求める人が増えているのではないか、というのが島袋氏の見立てだ。

良質なコミュニティと寿命

この話を受けて、藤田氏は良質なコミュニティにいると寿命が延びると話した。フレイル予防という予防医療の文脈でも、最も長生きした人は人間関係が良好だった人だとされているという。良い人間関係があれば孤独のリスクが下がり、健康を保ちやすい。そのため長い目で見ると、良質なコミュニティの方が経済効果を生んでいる事例が割とある、というのが藤田氏の説明だ。こつこつ良質なコミュニティを続ける方がインパクトは大きい、と藤田氏はまとめている。

株式交換を選んだ理由

株式交換を選んだ理由について、藤田氏はまず、短期で売却して現金を得ることに憧れがなかったと話した。それよりも、研究を進めてその結果を世に出したいという思いの方が強かった。そのためには自分も一定のコミットメントを示した方が相手も本気になってくれると考え、株式を持ち合って一緒に価値を上げるという姿勢を見せることにした。株式交換は相手からの提案だったが、藤田氏自身ももともと同じ考えを持っていたという。

株主構成も判断材料になった。オーケーウェブにはすでに創業メンバーがおらず、筆頭株主でも持ち株比率は6%ほどで、その下に数%を持つ株主がいる。藤田氏は経営陣に入った後のことを考えた結果、バリュエーションを下げる形になったと話している。それでも自分が株式を持てるなら、経営に関わりながら自分のやりたいことを早く進められると考えたという。

島袋氏も、上場企業の傘下に入れば、受け取る株式は流動性のある上場株になり、信用も得られると指摘した。加えて、6万件のQ&Aという資産も使える。藤田氏は、短期売却で数億円を得るのと、上場企業の執行役員という肩書きで活動するのとを比べると、複利的には後者の方が強いと考え、実際にそうだったと振り返っている。

正式入社は7月で、収録はその1週間ほど後だった。特別な儀式はなく、全社の連絡会で挨拶し、入社書類を提出した程度だという。

オーケーウェブ側の狙い

島袋氏は、オーケーウェブ側のメリットについても尋ねた。現金を使わずに有望な企業をグループに入れられることは一つの利点だ。株式交換の株式は増資で用意したと藤田氏は説明し、既存株主にとっては思うところもあるだろうと認めた。

藤田氏によれば、オーケーウェブが持っているのは、Q&Aの資産と、それを活用したサンクスカードなどのアプリケーションだ。Q&Aコミュニティには今も約150万ユニークユーザーのアクセスがある。ただ、その資産にどれほどの価値があるかは客観的に見ないとわからない。そこでオーケーウェブからは、M&Aとともに「ありがとうラボ」を作り、この資産を使ってどんな事業の核を作れるかを研究してほしいというオファーを受けたという。JINENのサービスを組み合わせてどんな事業を作るかは、まさにこれからだと藤田氏は話した。

コミュニティ運営で失敗しやすいポイント

藤田氏は、コミュニティを「企業コミュニティ」と「個人コミュニティ」に大きく分けている。企業コミュニティは、ファンコミュニティやユーザーコミュニティのように、企業が事業目的を持って立ち上げるものだ。個人コミュニティは、個人が自分の人生のために作るものである。JINENの売上の半分以上は、最近はこの個人向けが占めているという。個人向けの立ち上げ支援は反応が良く、自分の人間関係を整理したいという人が多いと藤田氏は話す。

藤田氏によれば、個人コミュニティは非常にうまくいく。作りたいものが明確で、オーナーも1人なので話が早く進むからだ。一方の企業コミュニティは難しい。企業側は顧客のニーズを知りたいが、参加するメンバーは安心したいだけ、というように関係者の思惑が入り乱れる。さらに運営担当者も得意でない仕事を業務として任されるため、うまくいかないという。

島袋氏は、M&A BANKのコミュニティは「失敗しないM&Aを成し遂げたい」という自身の思いの延長にあるからうまくいくのだろうと話した。そのうえで、社員に「コミュニティが流行っているからやっておいて」と言ってもできないだろうと述べた。藤田氏も同意し、コミュニティマーケティングは10年ほど前から流行しており、最近再びブームになっているが、指示を受けた企業の担当者は泣きそうな顔をしていると話した。そして経営者に向けて、コミュニティを立ち上げろと指示するのではなく、自分で立ち上げてほしいと呼びかけた。

立ち上げには方程式があると藤田氏は言う。第一に、事業目的が明確であること。解約率を下げたいのか、ナーチャリングしたいのかが曖昧なケースが最も多い。第二に、その目的に合った成分を選んでいること。成長、互助、共感、創造のどれにするかが目的と噛み合っていないケースがある。第三に、運営担当者の得意なタイプが合っていること。目的・成分・運営者のタイプという三つが噛み合わないと、コミュニティはまず立ち上がらない。運営フェーズにはさらに別の課題があるが、立ち上げ段階ではこの三つのどれかが欠けていることが多いという。

M&A BANKのコミュニティへの助言

島袋氏は、自身のコミュニティについて相談した。M&A BANKのコミュニティには約120人が在籍しており、毎年入会する人と退会する人が同じくらいいて、規模を保ちながら続いている。メンバーは、将来会社を売りたい人、いま売却に動いている人、すでにイグジットした人の三つに分かれる。入口はM&Aだが、イグジット済みの人はM&Aの情報にはあまり興味がない。

藤田氏は、これからM&Aを目指す人は学びや具体的なメリットを求めているので、成長成分が合うのではないかと答えた。新規事業を考える会のような創造成分の場や、バリュエーションを上げるためにまず業績を伸ばす分科会などが良さそうだという。イグジット済みの人については、島袋氏が、セカンドキャリアや良い意味での暇つぶしを求めている人が多く、面白さや楽しさを重視していると説明した。これを受けて藤田氏は、そうした人たちには趣味を見つけるような共感成分か、次の起業アイデアを考える創造成分のどちらかが合うと述べた。

コンテンツを分けるべきかという質問には、分けるのがよいと答えた。藤田氏はダンバー数に触れ、人間の脳は150人を超えると集団を認識できなくなるため、150人を超えたら分科会を作るのは必須だと説明した。120人規模なら本来はまとめて運営してもよいが、今回はテーマもペルソナも違うので分けてもよいのではないか、というのが藤田氏の見解だ。

運営スタッフの向き不向き

運営スタッフの向き不向きについても、藤田氏は16タイプがあると答えた。どの成分を自然に発しているかは人によって違う。藤田氏はこれを、おそらく育ってきた環境の影響だろうと推測している。部活動が本当に楽しかった人は、目標に向かう雰囲気のコミュニティを作りたがる。新しいものを作ったときに初めて「面白い」と言ってもらえ、ここにいていいと感じた人は、創造型のコミュニティが好きで得意になる。まずスタッフの得意なタイプを把握することが大切で、似たタイプの人同士の方が共感を得やすいという。JINENはこの診断をウェブ上で無料で提供している。

ピラティススタジオのコミュニティはどう作るか

最後に島袋氏は、各スタジオに数百人の会員がいるピラティス事業でコミュニティを作るにはどうすればよいかを尋ねた。藤田氏はまず女性会員が多いかを確認し、多いならまずは共感成分だと答えた。一緒にピラティスを楽しむ時間が安心できる、という感覚をどう作るかが大事だという。

島袋氏の事業には、フランチャイズオーナー、インストラクター、顧客という三つの層がある。藤田氏は層ごとに分けて考え、オーナーには事業を伸ばすためのスクール型が合うと述べた。インストラクターには、一緒に技術を磨く型か、講師同士が助け合う互助型が考えられる。顧客向けは、ほぼ共感型か「推し」を中心とした型になるだろうという。

JINENには、設計手順書と20ステップのプロセスがある。項目ごとに設計書を埋めていけば、5年、10年続く土台がすぐにでき、後でコミュニティの方向性に迷わなくなると藤田氏は説明した。費用はパッケージによって異なるが、初期費用は100万円ほどだという。島袋氏が自社でも依頼したいと話し、収録はM&Aの話だけでは語り尽くせなかったとして、コミュニティの話を続ける可能性に触れて締めくくられた。