常に見て聞いているAI——中島聡が語る「アンビエントAIライフスタイル」とプライバシーの課題
中島聡のLife is Beautifulソフトウェアエンジニアで起業家の中島聡が、自ら提唱する「アンビエントAI(常在知能)」について話した。中島が「インタビューを開始してください」と促し、インタビュアーの質問に答える形で進む。中心となる問いは、AIが24時間そばにいる状態がどんな新しいサービスや生活の変化を生むのか、そして普及の妨げになるのは何かである。中島は、この変化がスマートフォンの普及と同等かそれ以上の影響を持つと確信していると語る。
常時接続の次に来るもの
中島は、モバイルインターネットの歴史と比べてアンビエントAIを説明する。インターネットがワイヤレスになり、携帯電話が普及して性能や通信速度が上がったことで、いつでもどこでもYouTubeの映像を見られる「常時接続」の状態が生まれた。YouTubeにはパソコン向けもあったが、InstagramやLINEのように常時接続だからこそ成り立つアプリやサービスが登場した。その結果、人々のライフスタイルが変わり、スマホは手放せないものになった。中島によれば、この変化はおおよそ2000年から2015年ごろにかけて起きた。
これと同じか、それ以上のインパクトをもたらすと中島が見ているのが、無料で使えて、ローカルのデバイスで動き、小さいのに優秀な言語モデル、特にオープンモデルが手に入る時代である。そうしたモデルをスマホの中かスマートグラスの中かは分からないが常に持ち歩き、走らせ続ける。ポイントは、話しかけたときに答えるだけではないことだ。AIは本人が日常で見ているものや聞いているものを同時に見聞きし、すべてを記憶してもよいし、常に助言をしてもよい。
「アンビエント」は環境そのものに溶け込んでいるという意味で、常にそこにAIがいることで初めて可能になるアプリやサービスが生まれる、と中島は説明する。それらが普通の人々の生活に欠かせないものになる過程が、これから10年か15年ほどかけて起きると中島は確信しており、これを「アンビエントAIライフスタイル」と呼んでいる。「常在知能」よりずっと言いやすいので、この呼び方を使っているという。
頼まなくても助けてくれるAI——翻訳、接待、執筆
具体的なサービス像を問われると、中島はスマートグラスの話をした際にも挙げた、人の名前を覚えてくれる機能に触れたうえで、いくつかの場面を例に挙げた。
一つ目は通訳と翻訳である。英語が得意でない人が英語しか話さない人のプレゼンを聞いているとき、AIが同時通訳するのは当然のことになる。しかも通訳アプリを立ち上げる必要もない。読むものについても同じだ。外国で看板が読めない場合、AIはその人が読めないことをすでに知っている。中島がレストランでメニューを開いて眺めているだけで、AIは「読みたいのだな」と分かる。さらにAIが目線まで追い、その行に書いてあるのは何かを、話しかけなくても耳元で教えてくれる。中島の説明では、AIは見ているものや文脈から、この人は中国語が読めない、レストランにいる、メニューを開いている、左上を見ている、といったことを判断し、翻訳を頼まれなくても自分から教えてくれる。
二つ目は、もう少し踏み込んだ接待の例だ。メニューは読めるとして、ビジネス取引の大事な相手とその奥さんの3人で食事に行ったとする。メニューを開いて何にしようかという場面で、AIが事前に情報を集めていて、奥さんが海産物好きだと知っていれば、「これがおいしいのではないか」と耳元でさりげなく助言してくれる。本人は知らなかったのに、あたかも相手の好みを知っていたかのように振る舞える。あるいはAIが裏でレストランと通信し、今日のスペシャルを聞き出しておいてもよい。そうすれば、メニューを選ぶ瞬間から心地よい接待ができる、と中島は言う。
三つ目は仕事の能力の底上げである。中島は、プログラミングや文章を書く能力を高めてくれる使い方を挙げた。中島自身はメルマガをキーボードで素早く打って書いており、最初に打つときにしばしば誤字脱字をする。それをAIが横で見ていて、誤字脱字があるとすっと教えてくれる。あるいはAIがエディターと直接通信して勝手に直してくれてもよい。中島は、日々の生活を助け、豊かにし、接待やプログラミング、執筆といった能力を高める形で、AIがあらゆる場面に出てきてよいとまとめた。
最大の課題はプライバシー、鍵はローカルLLM
普及に向けた技術面、プライバシー面、社会的な受容の課題を問われると、中島は最大の問題はプライバシーだと答えた。その解決の鍵の一つが、ローカルデバイスで動くマルチモーダルな言語モデルだと考えている。
中島はMetaのグラスを例に問題を説明する。グラスはネットにつながっているので、Metaが何と言おうと、撮影しているものを送ろうと思えば送れてしまう。またAIもグラスの中ではなくMetaのサーバー上で動いているため、「目の前にあるものは何?」と聞けば画像がサーバーに送られる。中島は、この意味でプライバシーが守られないと指摘する。
一方、AIがローカルのデバイス上に載っていれば状況は変わる。厳密にはそのAIやアプリを制御する会社を信用する必要はある、と中島は留保をつける。そのうえで、信頼してもらえる立場にある会社としてAppleを挙げた。AIでは遅れているが、Appleなら次のような打ち出し方ができるのではないかという。常駐するアンビエントAIはローカルで動き、ユーザーが見ているもの、聞いているものを24時間見ているが、そのデータは決してサーバーに送らない。メモリに保存しないというのは微妙だと中島は認めつつ、映像はなるべく記録せず、目の前の人が誰かといった判断だけをする。そうしたプライバシーに配慮した、記録はしないというやり方でユーザーに納得してもらうことは、ローカルLLMを使うからこそ可能ではないか、と中島は考えている。
電池の持ちという技術課題
技術的な課題として中島が挙げたのは電池の持ちである。24時間動かし続けるとなると、どうなるか分からないため、消費電力を減らす必要がある。突き詰めれば太陽電池や体温で動くデバイスができてもおかしくないと中島は言う。また、本人はあまり好きではないとしながらも、メガネ型のデバイスで電池だけをポケットに入れる形もありうると述べた。中島は、こうした技術的な問題はいくつか解決すべきものがあるが、話してきた内容は十分可能だという見方を示した。
結論として残ったもの
中島の最終的な見立ては、アンビエントAIの実現そのものは技術的に十分可能であり、いちばんのハードルになりそうなのはプライバシーの問題だ、というものである。中島が締めの言葉を求め、インタビュアーは、プライバシーや技術的な課題を乗り越えた先に健康管理や食事のモニタリングなどで生活を豊かにする未来がある、とまとめた。ただし健康管理や食事のモニタリングは、中島自身が語った例ではなく、インタビュアーの締めの中で出てきたものである。
こんにちは。中島です。今日はアンビエントAIについて、ちょっと喋ろうかと思います。インタビューを開始してください。
本日のゲストはソフトウェアエンジニアであり、起業家でもある中島さんです。元Microsoftでご活躍されていた中島さんに、今日はアンビエントAI、常在知能という新しいライフスタイルの概念についてお話を伺っていきたいと思います。
まず簡単にご説明すると、アンビエントAI、常在知能というのは、まるで空気のように常に私たちの生活に寄り添って存在するAIのことです。従来の常時接続ライフスタイルはインターネットにいつでも繋がっている状態を指していましたが、これからはAIが24時間いつでも私たちと共にあって、私たちが見ているものや聞いていることを一緒に体験してくれる、そんな時代がやってきているというわけです。
では中島さん、このアンビエントAI、常在知能という概念について、まずは中島さんなりの解釈や期待をお聞かせいただけますか? 回答を受けた後、さらに深掘りの質問をしていきますね。
まず、アンビエントAIっていうのは僕が言い出した話だけど、インターネットがワイヤレスになって、要は携帯電話が普及し、それから性能が上がってスピードも上がり、ある意味いつでもどこでも、例えばYouTubeの映像が見れるようになったっていう、その常時接続になったことにより、新しくできるようになったアプリケーションとかサービスがあるわけじゃないですか。
YouTubeはパソコン向けもあったけど、Instagramだったり、それから日本だと言うとLINEとかもそうだけど、その常時接続だからこそできるアプリ、サービスがあるからこそ、今度は人々のライフスタイルが変わって、スマホがなくてはならないものになったっていう大きな変化が、大体2000年から2015年ぐらいまでにかけて起こったわけですよね。
それと同じ、もしくはそれ以上のインパクトが、今度は特にオープンモデルね、無料で使える、ローカルデバイスで動く、でも優秀で小さいっていう言語モデルが僕らの手に入る時代になった時には、要はそういう言語モデルを常に持ち歩いて。持ち歩いてっていうのは、スマホの中なのかスマートグラスなのかわかんないけど、常にそれが走っていてね。単にいつでも話しかけると答えるだけじゃなくて、常に走っていて、僕らが普段生活している中で見てるものとか聞いてるものっていうのを同時に見て聞いてくれていて、ある意味全て記憶してくれててもいいし、常にアドバイスをくれててもいいし。
そういう常時接続に相当するアンビエントAI。アンビエントっていうのは、もう環境そのものに溶け込んだみたいなこと。常にそこにいるAIがいるっていうことによって、可能になるアプリケーションとかサービスっていうものが誕生して、それが僕ら普通の人々のライフスタイルにとってなくてはならないものになるっていうのが、ここから10年か、もしくは15年ぐらいかけて起こると僕は確信していて、それをアンビエントAIライフスタイルと呼んでます。常在性よりも、常在性よりもずっと言いやすいので、そう呼んでます。
なるほど。中島さん、丁寧にありがとうございます。つまりインターネットが常時接続になり、スマホが欠かせない存在になった流れと同じように、これからはアンビエントAIが私たちの生活に溶け込み、まさに常在する知能として当たり前になる時代が来ると。
それではここから少し深掘りしていきたいんですが、中島さんがおっしゃるようなアンビエントAIライフスタイルが普及することで、具体的にどんな新しいサービスや日々の変化が生まれるとお考えですか? 例えば私たちが普段気づかないようなシーンでAIがどうしてくれるのか、その辺りをもう少し教えていただけますか。
この話はスマートグラスの時にもしたけど、例えば人の名前を覚えてくれてるとかいうのもそうだし、それからごく普通に道を歩いててもいいし、インターネットにアクセスしててもいいし、会議に出てる時とかでもいいし。例えばね、あんまり得意じゃない人が英語しか喋らない人のプレゼンを聞いてる時には、当然だけどAIが同時通訳してくれるなんていうのもごく当たり前のことで、それも同時通訳アプリとか立ち上げるまでもなく、AIが同時通訳してくれる。
当然、読んでるものもそうじゃないですか。例えばね、外国に行って、その辺の看板が読めなかったら、読めないっていうこともすでに知ってるので、僕が例えばレストランに行ってメニューを開いて、こう見てるだけで、それ読みたいことは分かるわけじゃないですか。なんだったらAIは僕の目線まで追って、その行に書いてあるこれは何々ですよっていうのを、もう耳元で、僕は話しかける必要もなく常に言ってくれる。
多分、僕が見てるものから、コンテクストから僕が何を必要としてるかを判断してね。この人は中国語読めないなっていうことを判断して、レストランにいるし、メニュー開いてるし、左の上の方見てるから、じゃあそこのメニュー教えてあげようとかっていうことをAIが自動的に判断して、僕がわざわざ翻訳してとかメニュー読んでって言わなくても言ってくれるとか。
極端な話、もっと言うと、例えばお客さんを連れてレストランに行った時に、今度は別にメニューが読めるとしよう。お客さんが例えば接待で、ビジネス取引の相手の大事な人と、その人の奥さんもいて、3人で食事に行った時に、レストランでメニュー開いた時に「何しましょうか?」って言った時に、AIはもうある意味、前もって情報を手に入れてて、例えば奥さんが好きなものとか知ってて、海産物好きっていうのが分かってたら、そのメニューの中から「これおいしいんじゃないですか」って、さりげなくアドバイスしたりするっていうのを、実はAIが耳元で支えてくれていて。でもあたかも僕は、その奥さんが、知らなかったんだけど、魚介が好きだっていうことを知ってるみたいに。
もしくはレストランとあらかじめコンタクトしてて、AIなんだから裏でインターネットで通信して、今日のスペシャルは何、みたいなのを聞き出してくれてもいいわけで。そういうことしてアドバイスしてくれるから、そのレストランでのメニュー選びの瞬間から、すごく心地いい接待ができるとか、そういうことですよね。
今、2つ、3つ例を言ったけど、その手の日々の生活を助けてくれる、豊かにしてくれる、もしくは自分の、接待する立場だったら接待能力を高めてくれるとか。プログラミングもそうだね、プログラミング能力を高めてくれるとか。文章を書くんだったら文章を書く能力を高める。僕なんかが、例えばメルマガをパパパッてキーボード叩いて書いてますけど、しばしば最初に叩いた時は誤字脱字をするんだけどね。それをもう横で見てて、「これ誤字脱字だよ」って、すっと教えてくれるとか。もしくはなんだったら、もう直接AIがそのエディターと通信して勝手に直してくれるとか。そういうことも含めて、もうあらゆる場面で出てきてくれてもいいですよね。そんな感じ。
中島さん、非常に分かりやすい具体例をたくさんありがとうございます。こういったアンビエントAIが普及するにあたって、技術的な課題やプライバシー面での懸念、あるいは社会的な受容の面で、どんなチャレンジがあると思われますか?
そのプライバシーの問題が一番大きいんだけど、それの解決の一つの鍵が、このローカルデバイスで動く言語モデルじゃないかなと思ってるわけ。マルチモダルな。
例えば今Metaのグラスとかだと、撮影してるものというか、グラスがネットと繋がってるので、ある意味Metaが何を言おうが、送ろうと思えば送れちゃうし。そのAIもグラスの中に入ってるAIじゃなくて、MetaのサーバーにあるAIを使ってるので、例えば「目の前にあるものは何?」って聞けば、その画像がサーバーに送られちゃうわけですよ。誰でもいいやね。
そういう意味でのプライバシーが守られないんだけど、そのローカルのデバイス上に乗ってるAIであれば、厳密にはそのAIを、そのアプリをコントロールしてる会社を信用しなきゃいけないんだけど。Appleなんかまさにそういうことをして、信頼してもらえる立場だと思うけど、AIで遅れてるけど。
Appleがやるんだったら、うちの常時いるアンビエントAIはローカルで動いていて、そのユーザーが見てるもの、聞いてるものを24時間ずっと監視してくれてるけど、そのデータは決してサーバーに送ることもなく、かつメモリにしまうこともないっていうところはちょっと微妙だけど、生の映像では記録せず、もしくは時間をとめていいや。例えば誰だとかっていう判断だけをするみたいな。それもすごくプライバシーを守った形で、記録はしませんみたいなやり方で、納得してもらうっていうことは、ローカルのLLMを使ってるからこそ可能じゃないかなと思ってます。それは一番大きい問題かな。
あとは技術的って言えば、やっぱり電池の持ちですよね。やっぱり低消費電力でなきゃいけないので、24時間になるとなると、どうなるかわかんないので、電力は減らさなきゃいけない。本当に、例えば太陽電池で動くとか、もしくは体温で動くとかってデバイスもできてもおかしくはないので、その辺は技術の問題なので。もしくは、あんまり好きじゃないけど、例えばメガネ型のデバイスだけど電池だけはポケットに入れてるみたいなのもないことはないので。そういう技術的な問題っていうのは、いくつか解決しなきゃいけないことはあると思いますけど、でも今言った話は十分可能で、一番ハードルになりそうなのは本当にプライバシーの問題かなと思います。ちょっと長くなったので、そろそろ締めの言葉をお願いします。
それでは締めに入らせていただきますね。中島さん、今日はアンビエントAI、常在知能がもたらすことについて、本当に興味深いお話をたくさんありがとうございました。
まさにプライバシーや技術的な課題を乗り越えた先には、健康管理や食事のモニタリングなど、私たちの生活をより豊かにしてくれる未来が待っているということがよくわかりました。それでは今日はこの辺りでお別れといたしましょう。中島さん、お話を本当にありがとうございました。そしてご覧いただいた皆さんもありがとうございました。また次回のインタビューでお会いしましょう。
はい、ありがとうございました。では。
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