費用対効果の議論から抜けなければ改善は始まらない:iXacsと旭鉄工流の現場改善

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概要

製造業YouTuberのものづくり太郎氏が旭鉄工を訪れ、グループ会社i Smart Technologies(以下iST)の松下氏と対談した回である。テーマは、DXを導入しても多くの企業で効果が出ないのはなぜか、という問いだ。太郎氏は、ツールを入れること自体が目的になり、経営者が費用対効果(ROI)でしか判断しないことに原因があると繰り返し主張する。松下氏は、IoTによる見える化はあくまで出発点で、効果を出すのは現場での泥臭い改善活動だという立場から、自社サービス「iXacs(アイザックス)」の進化、改善支援コンサル、導入企業の実例を紹介した。

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「DX」という言葉への苛立ち

冒頭で太郎氏は、「デジタル化すれば儲かる」という安易な発想でDXが語られている現状を強く批判する。現場出身の人間なら、どんなデータを取ってどう活用するかを理解していなければならないはずだが、実際には分かっていない人が多いという。その例として太郎氏は、アンバサダーを務めるセミコン・ジャパンでの講演を挙げる。約500人の聴衆に大野耐一の『トヨタ生産方式』を読んだことがあるか尋ねたところ、手が挙がったのは3人ほどで、1%にも満たなかった。改善の基礎を学んでいないことが、DXの効果を問うアンケートで8割ほどが「効果が出ない」と感じている状況につながっている、というのが太郎氏の見立てである。

展示会についても太郎氏の評価は厳しい。帳票の電子化や人事情報のDXのような展示ばかりが並び、トヨタのTier1が「このソリューションを入れてこう運用した」と語るだけの講演が多い。聞いても得るものがなく、役職者が分かった気になって帰るだけだという。製造業はプロダクトで利益を出す以上、QCDを安定させて人件費を圧縮するしかない。人事をDXしてどう利益が出るのか、と太郎氏は問いかけた。

生産性は「分子」と「分母」でしか変わらない

太郎氏の整理では、製造業の生産性を上げる方法は、分子である付加価値を増やすか、分母を圧縮するかの二つしかない。分母の圧縮とは、現場で装置と格闘しながら稼働させている部分を改善することだ。IoTツールは見える化の道具にすぎず、松下氏も、IoTで測った数値より良い数字を現場で作り出すしかないと同意する。

ところが実際には、ツールを入れることがゴールになっている。導入の判断は「人を何人削減できたか」のような分かりやすいROIで行われる。しかし現場の生産性を大きく変えるには、毎日ショートミーティングを開いて問題を一つずつ潰すしかなく、その効果は事前にROIとして示しにくい。これを本当に理解しているのは生産技術の人間だが、そうした人が発言力を持ちにくく、本質を知らない人が出世して的外れなソリューションを採用している、と太郎氏は述べた。その本質に取り組んでいる例として紹介されたのが、旭鉄工とiSTである。

松下氏の経歴:生産技術者として「現実が変わる」ことを求めて

松下氏は鹿児島高専で5年間学んだ後、住友電気工業に入社し、栃木県の拠点で電線の生産技術を担当した。扱っていたのはデータセンター向けの電線である。太郎氏は、現在のサーバーラックではCPOによって光化が進んでいるが、当時は銅線でも光に近い通信性能を確保しようとする野心的な取り組みだったと補足した。松下氏によれば、電線は設計自体は単純で、設計どおりに作れれば性能が出る。難しいのは、流体などさまざまな要素を制御して「絵に描いた餅を本物の餅にする」生産技術の側だという。

その後、三菱電機の名古屋製作所に移り、インバーターやサーボアンプの生産技術に携わった。住友電工時代のアナログな生産技術を、もっと技術的に深めたいと考えての転職だった。会社自体は良い環境だったが、大企業特有の物事の進みの遅さもあり、30歳前後で旭鉄工の木村社長の著書を読んで応募した。本には、社長が一人で改革を始め、簡単なセンサーやマイコンで現場を見える化し、仲間を巻き込んで業績を上げた経緯が書かれている。松下氏は「本はサクセスストーリーで、実際は失敗もたくさんある」と笑いつつ、惹かれたのは効果を出すところだったと語る。日報を電子化した程度では関心が湧かず、サイクルタイムや停止時間が短くなって現場の現実が変わることが一番好きなのだという。

入社して見えた課題:ノウハウを外販する難しさ

約5年前に入社した松下氏は、当時の会社を富士山にたとえた。外から見るときれいだが、近づくと大変な状況だったという。旭鉄工で成功したシステムと改善ノウハウを他社向けにサブスクリプションで提供するiSTは新規事業で、売上はまだ小さかった。社員は旭鉄工からの出向者が中心で、松下氏は出向者ではない最初の一人だった。ただ、それ以前にも木村社長の知人など外部から来た優秀な人材はいたという。

出向者たちは現場改善には長けていたが、自社で使うことと、顧客に提案し、顧客にも動いてもらって効果を出すことはまったく別物だった。導入しただけでは効果は出ず、他社の工場にうまく適用させる部分で苦労したと松下氏は振り返る。

もう一つの課題はシステムの安定稼働である。iXacsは、製品が1個できるたびにスイッチが押されるような信号をセンサーで拾う。サイクルタイムが1秒なら毎秒データが届く。単純に集計するだけならまだ容易だが、IoTでは時系列が前後したり信号が欠けたりするため、集計に工夫が必要になる。1ライン程度なら問題なく動いても、複数ラインやネットワークの乱れ、クラウド側の事情が絡むと難しくなる。当時もデータの信頼性は95%程度あったが、現場の人は5%でもずれていると信用せず、データを見なくなってしまう。松下氏はまずシステム改善に取り組み、夜遅くまで作業して信頼性を高めた。現在は問題なく動いているが、他社の現場の要求に耐えられる強いシステムを作るのに苦労したという。

その後、松下氏の担当はシステムにとどまらず、営業やカスタマーサクセスを含む事業全体に広がり、キャッシュフローも意識するようになった。一番変わったのは「お金をもらうのは大変だ」という感覚だという。大手メーカーでは給与も売上も当たり前のようにあったが、自分で事業を回すと、物が売れてお金が入ることは当たり前ではないと気づいた。

iXacsの基本機能:手書きの生産管理板をなくす

iXacsの基本機能は、トヨタ系でいう生産管理板の自動化である。何時から何時までに何個できて、その間の生産性が何%だったかを自動で記録する。IoTがなければ、作業者が1時間に1回手書きしなければならない。松下氏は、段取り替えを「5分」と書いても実際に5分であるはずがないと指摘する。ただしそれは作業者の責任ではなく、覚えていないのは仕方がない。問題は、それを課長クラスが毎日1〜2時間残業して集計している状態を放置している上層部だ、というのが松下氏の考えである。

取得したデータは、生産管理板の表示に加え、サイクルタイムのヒストグラムや時系列、停止要因の一覧などとして即座に確認できる。太郎氏は、1直と2直で担当者が違えばサイクルタイムの安定度も違うはずで、分布を見れば安定している時間帯が分かると説明した。また現場は生産数を追うのに必死で、設備が何分止まったかはほとんど覚えていない。タッチパネルで停止要因を一つ押すだけで、どんな事象でチョコ停が多いのかがダッシュボードに集約される。

費用について太郎氏は、1台あたり1万円程度と紹介したうえで概算を示した。仮に9,000円で5台なら4万5,000円になる。課長のチャージを1時間4,000円とすると2時間の集計作業で8,000円、これが積み重なれば16万円程度になる。4万5,000円で16万円分の効果が出せるのに検討すらしないのが今の日本の現場だ、と太郎氏は言う。経営者がROIに頼るのは説明が楽だからだが、見える化は見える化でしかなく、効果は現場の改善次第である。太郎氏は、自身が手がけるPLMのようにオペレーションを抜本的に変えて人員を半分にする改革もあるが、現場は既に一定の枠内で最適化されているため、毎日のショートミーティングによる改善以外に方法はないとした。

進化1:停止時の動画へ即座に飛べるカメラ連携

太郎氏によれば、ここまでの内容は3年前に取材した時点の話で、iXacsはその後いくつか機能を追加している。一つ目がカメラ連携である。現場にウェブカメラを設置しておくと、クラウド上で停止時刻が分かり、そこから該当する動画をすぐに確認できる。チョコ停は1日に何十回も起きるため、どの停止がどんな状況だったか人は覚えていられない。一般的なドライブレコーダーはSDカードに録画し続けるだけなので、停止時刻が分からず、24時間分を探す必要があった。クラウドと組み合わせることで停止時刻と映像を即座に結びつけられるのが特長だと松下氏は説明する。この機能はオプションとして提供されている。

進化2:電力とCO2の見える化

二つ目は電力への対応である。電力やガスを取得でき、設備ごとの電気代やCO2排出量も見える。iXacsは稼働状況も把握しているため、電力を色分けして表示できる点が特徴だ。画面では、青が稼働中に生産のため使われた電力、赤が停止時の電力、オレンジが待機電力を示していた。昼休みにロボットの電源を入れっぱなしにしている、夜に切り忘れている、といった無駄はオレンジに表れる。業種や現場の事情で待機電力をゼロにはできないが、これを見ながら目標を決めて一緒に取り組んでいるという。製品1個あたりのCO2や電力、つまり原単位も算出できる。

太郎氏はこの機能を重視する理由として、CO2排出量の開示を挙げた。太郎氏の説明では、有価証券報告書への記載が大企業から始まり、対象は段階的に拡大され、時価総額5,000億円規模の企業にも必須になる。さらに大手は自社だけでは測れず、サプライチェーンにも数値を求めることになる。手書きで管理しているサプライヤーでは対応できないだろう、と太郎氏は指摘した。

削減効果について、太郎氏は木村社長から「電気を切るだけで月100万円以上浮いた」と聞いたと話す。松下氏は、実際には休憩中に電源を切るだけでなく、サイクルタイム短縮なども含めて現場とさまざまな取り組みをしていると補足した。太郎氏は、売上150億円で営業利益率5%なら営業利益は7.5億円であり、月300万円浮けば年3,600万円、営業利益に数%分の違いが出ると試算した。松下氏は、サイクルタイム短縮は残業減による労務費削減にもつながるため、サイクルタイムと停止時間という本質的な部分を押さえるべきだと述べた。

進化3:名古屋弁で報告する「AI製造部長」

三つ目が「AI製造部長」である。旭鉄工を含めてデータを取っているラインは200ほどあり、課長や部長が毎日すべてを見るのは大変だという課題があった。ちょうど生成AIが広まった時期だったため、松下氏が自ら作り、IoTのデータをAIに読み込ませて、製造部長のように要約して話させる仕組みにした。

太郎氏が読み上げた例では、名古屋弁で「5月21日の結果を見てみりゃ、G5が98.8%でようやっとるわ」「G7も96.5%」と良いラインを褒めたうえで、G1の91.7%、G3の89.9%、G6の90.4%、G8の87.3%は目標の98%に届いていないと指摘する。G9については89.6%で稼働時間を12.7時間も使っており効率が悪いとし、改善策を考えるよう促していた。松下氏によれば、これでも短くした方で、もっと長く話せるという。現場から、朝出社したときや休憩時に見たいという要望があって作ったもので、集計作業から解放され、利益を上げる活動に集中できるようになる。現在はサービスに付けており、オプション料金を取るかどうかは検討中という口ぶりだった。

改善支援コンサル:現役の現場経験者が伴走する

iSTは改善活動の支援コンサルティングも始めている。太郎氏は、大手には松下氏のような人材がいるが、Tier2やTier3では意欲のある人がいても人手が足りないと指摘する。そこで活躍しているのが旭鉄工の現場出身メンバーだという。

松下氏によれば、顧客から評価されているのは、エンジニアやコンサルタントらしい人ではなく、実際に現場で課長クラスまで務め、上からも下からも揉まれてきた現役の人たちが来る点だ。「某T社のOB」のように偉そうに振る舞うのではなく、現場を否定したり荒らしたりせず、一緒にやろうという姿勢で入る。料金は、半年で300万円程度の集中コースから、高いものでは500万円程度まである。訪問頻度は毎日のものから2週間に1回のものまでさまざまだ。現場にはいろいろな事情があって短期間では変わらないため、間隔を空けながら少しずつ進めるしかないと松下氏は話す。太郎氏が5Sから支援するのかと尋ねると、松下氏は5Sは現場のみんなでやってもらい、iSTは改善の部分に集中していると答えた。

うまくいく企業といかない企業の違い

うまくいく企業とそうでない企業の違いを問われた松下氏は、ROIを気にしすぎることを挙げた。行動を変えた先で何が起きるかは分からない。事前に見通せるのは、これまでの単純な延長線上のことだけだ。松下氏は、1,000万円規模の投資ならROIで判断してよいが、それ以下なら踏み切ってやってみて、自分の判断を正しくするよう頑張るしかないと述べた。

太郎氏はこれに強く同意し、違う世界に行こうとしているのに儲かるかどうかが分かるはずがないと言う。失敗には必然的な理由があり、腹をくくらなかった、言われたことをやらなかった、といったことで決まる。「入れたら良くなるのか」と聞くのは、自分の人生の費用対効果を尋ねるようなもので、結局は本人次第だというのが太郎氏のたとえである。太郎氏はまた、トヨタグループのOBと話すと、現場にいた頃は外部のソリューションを買うという発想がなく、自前でやるものだと考えていたと聞く、とも紹介した。

松下氏は、失敗はあって当然であり、失敗してもいいからさまざまな手を打つべきだと語る。自社で内製するのでもかまわないが、その場合は期限を決め、いつまでに成果が出なければ方針を変える。iXacsを使う場合も、ダメならやめればいい。いろいろ試しながら現場と一緒に少しずつ前へ進みたい、と松下氏は述べた。太郎氏は、今の日本人は失敗を極度に恐れて萎縮しているが、失敗は「この方法ではうまくいかない」と分かる一つの打ち手にすぎないと応じた。

導入事例:日下歯車製作所の稼働率は約30%から約70%へ

番組では、iXacsのユーザー事例報告会で表彰された日下歯車製作所の市川氏へのインタビューも紹介された。同社は歯車を製造しており、工場には工作機械が並ぶ。製品は工作機械向けなど品目が多く、数量は少ない。少ないものは月に数個という多品種少量生産である。

導入のきっかけは、現場から上がってくる報告と、自分で現場を歩いて感じる実態にずれがあったことだ。必要なものを必要なタイミングで作れているのか疑問を抱いたという。それまでの報告は、紙の生産管理板や作業日報を足し合わせたものだった。

見える化を進めようとすると反発もあった。一定のポジションにある人から「意味があるのか」「数字が見えるだけだろう」と言われ、当初は苦労した。そこで、社長を含む課長職以上が毎朝集まるミーティングで、決まったラインの情報を出力し、ガントチャートを机に置いて「昨日はこうだった、これはどういうことか」と地道に議論した。トップが疑問に思ったことを質問し、答えに納得できなければ一緒に現場を見に行く。これを1〜2カ月繰り返し、ようやく社内に浸透したという。市川氏自身も、それまでは事務所にいて現場と距離があったが、導入後は自分の机を現場側に移し、扉を開ければすぐ現場という環境にした。

稼働率は平均29〜30%程度から、現在は68〜69%程度まで上がり、平均70%台が見えてきた。設備によっては85%を超えるものもある。ただし、組み合わせや人の体調などで変動するため、全員で底上げを図っているところだという。大きな施策は特になく、現場の一人ひとりが「止まっている」ことに敏感になり、止めないための工夫をしてくれていると市川氏は話す。具体策として挙げられたのが段取り替えの分業化である。以前は段取り作業者が1から10まで担当していたが、外段取りと内段取りに分け、段取りに集中できる体制にした。あわせて部署内の役割分担を見直し、一部の人員を入れ替えて、改善活動に共感する人を配置する工夫も会社として行った。

結び:300万円は高いのか

最後に太郎氏は、改善支援の300万円を高いと感じる人に向けて持論を述べた。太郎氏によれば、Tier2やTier3の現場の稼働率は実際に測ると40〜50%程度であることが多い。これを80〜90%にできれば、ライン1本が不要になる計算になり、投資はすぐに回収できる。1ラインに担当者が2人いれば、固定費は2直で年間800万円、2人なら1,600万円かかっている。それと比べて投資が高いと言っているうちは変われない。さらにインフレ局面に入った今は、お金を使って将来の成果を取りにいく投資をすべき段階だ、と太郎氏は締めくくった。