半導体、電力の次は水をめぐる争い:水の専門家・茨木氏が語る製造業と水の武器化

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概要

AIをめぐる競争は半導体の争奪戦から電力の確保へ移りつつあるが、その次に来るのは水の争いではないか。ものづくり太郎は今回、こうした問題意識から、アメリカを拠点とする水の専門家・茨木氏に対談を依頼した。茨木氏は、発電から半導体製造、データセンターまで水がなければ何も作れないと指摘する。そのうえでPFAS汚染への向き合い方、上流と下流の国の対立、データセンターへの反発まで、水が社会と経済に及ぼす影響を具体例とともに語った。

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AI戦争の次に来る「水の戦い」という問題設定

冒頭でものづくり太郎は、AIをめぐる国家間の競争を整理した。例として挙げたのが中国のDeepSeekである。彼の説明では、もともと金融テック企業だった同社が余ったサーバーでAIを開発し、そこへ中国の半導体国家ファンドが1兆円規模(本人は「1兆円ぐらいかな」と言う)を出資した。これでDeepSeekは事実上国の側に入った、というのが彼の見方だ。それを受けてトランプ大統領も、Anthropic、Google、OpenAIの株式を国が持ち、国民のために使うべきではないかという趣旨の発言をしている。ものづくり太郎は、AI競争が国と国の争いになっていると述べる。

彼によれば、これは半導体戦争でもあり、その次は電力の競争になる。Vera Rubinのようなチップを買い集めても、電力がなければ動かない。NVIDIAの倉庫には電力不足で稼働できないVera Rubinが在庫として滞留しているという話もある、と彼は紹介した。

そして電力の次に来るのが水の戦いだという。日本人は蛇口をひねれば水が出るのを当たり前と感じている。ものづくり太郎は、これを感度が低いせいとは見ていない。島国で毎年台風も来るため、水に困った経験が少ないからだと説明する。しかし世界的には水は限られた資源で、国家間の争いの種になっている。AI半導体は大量の電力を消費し、冷却が必要になる。水冷であれば水がどんどん蒸発していく。この分野の第一人者が日本にはおらず、アメリカから来てもらった、というのが今回の対談の経緯である。

「地下水は狭い世界」と言われて水全般の専門家へ

茨木氏は自己紹介で自らを「水屋さん」と呼んだ。日本で農業関係の学部を修了した後カナダへ渡り、博士号を取得した。そこで地下水の研究を始め、シミュレーションやモデリングで地下水の汚染や流れを扱ってきた。ポスドクを経て現在の職に就いている。

転機になったのは、娘の友人の両親との会話だった。地下水を研究していると話したところ、相手から「すごく狭い世界ですね」と言われた。本人は大きなテーマだと思っていたが、一般の人から見ればそうではない。そこで地下水に限らず、水全般の専門家として活動を広げたという。

茨木氏が特に関心を持つのは、水による健康被害である。それも水質だけではない。水がなくなる干ばつや、水が多すぎる洪水が人の健康や社会に与える影響を見ている。水は多すぎても少なすぎても人が死ぬ、と茨木氏は言う。水を飲まなければ3〜4日で死ぬと言われ、食べ物がなくても2〜3週間はもつとされるのとは大きく違う。

この関心の原点として茨木氏が挙げたのが、アメリカを襲ったハリケーン・カトリーナである。一帯が水浸しになり、屋根の上で救助を待つ人々がヘリコプターから届けられたペットボトルの水を飲んでいた。周りに水がこれほどあるのに飲めず、ボトルの水がなければ死んでしまう。その光景を見て水に興味を持った、と茨木氏は振り返る。

水がなければ電気も半導体も作れない

製造業にとっての水の重要性を問われると、茨木氏は「水がないと何も作れない」と答えた。水力発電はもちろん、火力発電も冷却水がなければ発電できない。アメリカでは川が干上がって発電所が止まる事態が普通に起きているという。

茨木氏はさらに、水とエネルギーは「ネクサス」と呼ばれる相互依存の関係にあると説明した。水がなければエネルギーは作れず、エネルギーがなければ水は取れない。それなのにニュースではエネルギーばかりが注目され、ボトルネックは発電所やインフラだと語られている。ものづくり太郎はこれを、エネルギーだけがもてはやされている現状だと受けた。

発電では、タービンを回した蒸気を冷やさなければならない。空冷式もあるが効率が大きく落ちるため、水は欠かせないと茨木氏は言う。水の使用量は昔よりかなり減っているが、それでもなくすことはできない。

工場側でも事情は同じだ。半導体は製造工程で大量の水を使って洗浄するため、水がなければ作れない。ものづくり太郎は、台湾で農業用水とTSMC向けの水のどちらを優先するかがニュースになったことに触れた。茨木氏も、人の食料のために水を使うか半導体に使うかという問題だと応じた。

アメリカでは水利権が売買される

茨木氏はアメリカの例として水利権を紹介した。アメリカでは水の利用権が権利として存在する。権利を持つ農家が今年は作付けをせず、代わりに水を売るということが普通に起きているという。売り先について、茨木氏は字幕上「串とかイン」のように聞こえる説明をしており、はっきりしない。いずれにせよ、農業や牧畜をせずに権利分の水を売って収入を得る形がある。茨木氏は、アメリカは日本より水にずっとシビアだと述べた。

ものづくり太郎は、日本では水道代は月3000円くらいという感覚で、水はあって当然だと語る。切削加工でも工場で冷却に水をかけるように、水は工場に必須だ。茨木氏は、節水の工夫で使用量は減っているが、水がなければ産業は回らないと答えた。加えて、工場は汚染源にもなりうる。茨木氏の研究は、この水資源と汚染の二つを軸にしている。

日本でいま最も注目される汚染はPFAS

ものづくり太郎は、タイでは水事情が悪いため日本以上に汚染の話がシビアだと聞いたことがあるとして、日本の状況を尋ねた。茨木氏は、日本でいま一番のホットトピックはPFASだと答えた。

PFASは化学物質で、なかなか分解せず体内からも排出されにくい。使われている代表例として茨木氏は消火剤、レインコート、傘を挙げた。日本で問題になっているのは、米軍の消火訓練で大量の消火剤が使われ、それが地下水に入るケースだという。沖縄だけでなく本土の米軍基地周辺でも問題になっている。

一方で茨木氏は、日本の上水道は規制がきちんとしているので、飲んでいる水道水にPFASが入っているかはほとんどの場合心配しなくてよいと述べた。問題は、昔はそこまでの規制がなかったことだ。飲料水源にPFASが入り込んだケースや、製造業で出たPFASの処理がうまくいかず周辺に汚染が広がったケースがあり、NHKなども取り上げている。茨木氏は、PFASはいま日本で最も問題になっている汚染だとまとめた。

ものづくり太郎は、水俣病やイタイイタイ病のような第二の公害病になる可能性はあるのかと尋ねた。茨木氏は、水俣病は濃度の低い水銀が魚に生物濃縮され、人がその魚を食べて起きたものだと説明する。人が海水をそのまま飲んだわけではない。PFASはこの点が根本的に違い、水道局がきちんと規制していることで守られている、というのが茨木氏の見解である。アメリカなど他国では検出される話もあるが、少なくとも日本の水道水は安全だと思う、と茨木氏は述べた。

汚染を「すべて取り除く」のではなく暴露経路を断つ

話題は北九州に移った。北九州には過去の公害の影響で汚染が残ったままの土地がある。茨木氏によれば、以前の法律ではそうした土地を再利用しにくかった。土壌汚染関係の法律が改正されて再利用できる仕組みは整ったが、実際にはあまり活用されていないのが現状だという。

茨木氏が示した考え方の要点は、汚染物質が人の体内に入らなければよいということだ。これを「暴露」と呼び、暴露経路を遮断する方法はいろいろある。汚染をすべて取り除こうとすると莫大な費用がかかる。それよりも、考えられる経路を塞ぎ、その後に汚染が広がっていないかをモニタリングすればよい。茨木氏はこれをリスクアセスメントに基づく手法として説明した。

茨木氏によれば、アメリカはこの点で先進国である。例えば街のクリーニング店が原因で地下水汚染が見つかった場合、多額の費用をかけて浄化するのではなく、汚染源はそのままにして下流側をモニタリングし、周辺では地下水を使わないようにする。暴露を遮断することで費用を抑えるわけだ。茨木氏は、汚染を100%取り除くのは不可能だとして、これを生活習慣病との付き合い方にたとえた。ストレスで悪化するならストレスを減らそう、というように、完治ではなく管理を目指す考え方である。

アメリカでは、工場跡地で汚染がひどく手の付けようがなかった土地をこの仕組みで把握し、ホテルに転用した例もある。当初10年間は固定資産税をゼロにするといった形で、州政府が旗を振って土地の再活用を20〜30年前から進めてきたという。こうした土地は「ブラウンフィールド」と呼ばれる。人が接触する可能性がゼロと言えない部分だけは、薬剤を入れて集中的に浄化する。すべてをきれいにするわけではない。

ものづくり太郎は、合理的で資本主義的だと感想を述べた。茨木氏は、人の健康被害を防ぐことが最優先で、そのうえで経済も回すという発想だと補足した。これに対して日本では、何かあったときに責任が取れない、一度汚したものは汚した側の責任だ、という文化がある。土地の価値が高い商業地に近い場所なら再利用も進むかもしれないが、普通の土地ではうまくいかず、放置されてしまう。リスクアセスメント型の仕組みは日本の法律上も可能になっているが、まだうまく機能していない、と茨木氏は述べた。

「水の武器化」とは何か:上流と下流の力関係

続いて茨木氏は、あるシンクタンクが挙げた2026年の重大リスクに触れた。上位の二つはトランプ関連だったが、10番目に入っていたのが「水の武器化」だという。

水の武器化とは、水を使って他国をコントロールすることを指す。上流側の国が水を止めれば、下流側の国を困らせ、圧力をかけることができる。日本は島国で国際河川がないためこうした問題は起きないが、中国やナイル川流域では普通に起きている、と茨木氏は言う。

中国の例として茨木氏が挙げたのは、NHKでも取り上げられたヒマラヤ山脈でのダム建設である。中国が上流に位置し、ベトナム、インド、バングラデシュなどへ流れる川がある。その一つについて、中国は国境までの区間に多くのダムを作り、水力発電を進めている。上流側が水をせき止める能力を持つことになるため、下流のインドやバングラデシュは強い不安を抱いている、と茨木氏は説明した。

トルコのGAPプロジェクトと「なぜ水だけ共有なのか」という論理

トルコの例は「GAPプロジェクト」である。トルコはチグリス川とユーフラテス川の二つの川に多数のダムを建設しており、その水はシリアやイラクへ流れていく。茨木氏によれば、トルコのこの地域には独立を望む人々が多く、経済的に苦しいために政府への反発もある。ダムを作って観光地にし、お金が落ちる仕組みを作れば地域が経済的に豊かになる、という狙いもあるという。その結果、下流のシリアやイラクが大きな影響を受けている。

ものづくり太郎が、綿花の栽培は水を大量に使うのではないかと尋ねると、茨木氏は「とんでもなく使う」と答えた。トルコ国内で綿花栽培を産業化すればそこで水が消費され、下流の国に届く水は減る。

ここで茨木氏が紹介したのが、トルコ側の論理である。水は生命維持に不可欠だから共有すべきだ、と多くの人が言う。しかし国際河川については、「それならなぜ石油は共有しないのか」という反論が出る。茨木氏が聞いた話では、トルコ側ではいくら井戸を掘っても石油は出ないが、国境を越えてイラクに入った途端に出るらしい。イラクはそれで莫大な富を得ている。トルコからすれば、自国の土地に降った雨は自分たちのもので、どう使おうと自分たちの勝手だ。同じ理屈で共有を求めるなら石油も共有すべきだが、それは行われていない。茨木氏は、ここにエネルギーと水の違いがあると述べた。

ナイル川:最下流のエジプトが最も強い

ナイル川は逆のパターンだと茨木氏は言う。通常は上流側の国が有利だが、ナイル川では最下流のエジプトが経済力・軍事力で最も強い。エジプトはその力を背景に、上流の国々にダムを作らないよう圧力をかけてきた。ところが最近、上流の国がダムを作り始めたことで状況が変わり、かなり深刻な事態になっている。茨木氏はこれを国際的なリスクと位置づけた。

ものづくり太郎は、恥ずかしながらここまでの問題とは知らなかったと率直に述べた。日本では降水量が多く台風も来て、毎日風呂に入っても水が不足せず、ペットボトルの水も100円ほどで手に入る。茨木氏と二人で「夢のような話」だと笑い合った。

イラク南部の湿地とアラル海:水が奪われた地域で起きたこと

水が実際に武器として使われた例として、茨木氏はイラク南部の湿地帯を挙げた。面積は東京都の9倍ほどと述べた後に「約9割」とも言い直しており、正確な数字ははっきりしない。そこにはシュメール・バビロニアを祖先とする人々が50万人ほど(茨木氏も正確には覚えていないと断っている)住んでいた。彼らは当時の政権に対する反対勢力だった。政権は、チグリス川からこの湿地へ向かう水を運河で別方向へ流し、湿地を干上がらせて住民を追い出したという。ものづくり太郎が「まさに武器」と言うと、茨木氏も「水は武器ですね」と応じた。

もう一つの例が中央アジアのアラル海である。ウズベキスタンやカザフスタンを流れる二つの川について、ソビエト連邦時代にその水を綿花栽培に回す政策がとられた。茨木氏によれば、綿花は国内総生産の25%を占めるまでになった。一方で、アラル海に流れ込んでいた大量の水(字幕では「年間50万立方km」と聞き取れる)がすべて使われるようになり、湖はどんどん縮小して干上がった。

その影響は多岐にわたる。漁業が消え、干上がった湖底には塩が残る。風が吹くとそれが粉塵になって舞い、住民の肺や喉の病気が増えた。農薬の問題に加え、漁業を失った地域は貧困に陥り、病気が広がった。茨木氏は、これが水質ではなく水量の問題から起きた健康被害だと強調した。

ものづくり太郎が、錆びた船が打ち捨てられている光景に触れると、茨木氏はまさにその場所だと答えた。もともとの港から現在の水際までは約150km離れているといい、東京から静岡くらいの距離にあたる。茨木氏によれば、湖の水が減ったことで気温の変動も大きくなった。GDPが増えればよいという考えで進めた結果だ、と茨木氏は見ている。

ものづくり太郎は、肥沃な三日月地帯のように、人類は川を軸に文明を発展させ水をうまく使ってきたと述べた。そのうえで、産業化の行き過ぎや富の集中、国の傲慢によってこうしたリスクが生まれていると受け止めた。茨木氏も、昔からこの種の話は数多くあると付け加えた。

データセンターへの反発:電力の次に問われる水

話は冒頭のAIに戻る。ものづくり太郎が、NVIDIAのVera Rubinは水冷であり、データセンターで大量の水を使うのかと尋ねると、茨木氏はそうだと答えた。Microsoftはデータセンターを建設する際、使った電気も水もすべて返すとわざわざ公表しているという。

茨木氏によれば、アメリカではデータセンターへの反対が増えている。理由は騒音、水、そして莫大な電力消費である。ものづくり太郎も、データセンターの影響で水圧が下がり、住民への水の供給がうまくいかなくなったというニュースを見たと話した。

茨木氏は、エネルギーと水は互いに絡み合っているが、注目はまずエネルギーに向かうと指摘する。データセンターを作るとなれば、まず電力をどう確保するかが議論される。しかし水冷である以上、その水をどこから取ってくるのかが問われる。水冷システムの詳細は自分は詳しくないと断りつつ、水を使わなければ冷却できない点は発電所と同じだと茨木氏は述べた。発電所がタービンから出た蒸気を冷やす必要があるのと同じ理由で、データセンターの立地では電力とともに水をどれだけ安定的に確保できるかが重要になる、というのが茨木氏の見方である。発電所も水のない場所には作れないのと同じだという。

ものづくり太郎は、日本でもデータセンター建設のニュースが出ていると触れた。日本では配慮がなされていると思うが、アメリカは資本主義が行き過ぎてやりすぎてしまう面がある。Microsoftのような企業は社会的責任を踏まえて水や電力を返すと言い始めている。彼はこれを、ある種の流れが生まれつつある兆しと受け止めた。

結び:不安をあおるのではなく、水の重要性を認識する

ものづくり太郎は、今回の対談は不安をあおるためではなく、水が非常に重要だと伝えることを着地点にしたいと述べた。茨木氏は自身の活動について、水資源と汚染を扱っていること、そして水の問題をいかに社会とつなげ、経済を回していくかに強い関心があることを語った。

AI競争が半導体から電力へ移るなかで、冷却や製造に欠かせない水の確保は、国家間の力関係から地域住民の生活まで広く影響する。茨木氏が示したのは、日本では当たり前に感じられる水が、世界では権利として売買され、ダムや運河によって他国や反対勢力への圧力の手段にもなっているという現実だった。データセンターの立地でも、電力と同じように水をどう確保するかが問われ始めている。