頭蓋の骨とまぶたがない3歳・未来くんの一日:医療的ケア児の家族が語る制度、就学、きょうだい、発信

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概要

この動画は、「星のミライchannel」で発信を続ける家族の一日を朝から深夜まで追ったものである。息子の未来(みく)くんは、生まれたときからまぶたが欠損して目が開いたままの状態で、前頭骨と呼ばれる頭の前側の骨もない。両親によれば、同じ病気を経験した「先輩」が世の中にいない。気管切開と胃ろうからの注入を続ける3歳の子を、共働きの両親がどう育てているのか。取材者の質問に答えながら、両親は日々のケアの実際、支えになっている制度や訪問サービス、そしてまだ答えの出ていない就学やきょうだいの問題について語った。

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9時の迎えに向けた朝のケア

平日の朝は父親が担当する。この日は通所施設に通う日で、9時に迎えの車が来る。それまでに吸引などの医療的ケアを済ませ、お茶を注入し、時間を空けて朝食を注入し、着替えをさせて下まで連れて行くのが朝の流れだと父親は説明した。

通所先に持たせる「弁当」も父親が用意する。母親が作ったペースト食を75mlや50mlといったサイズに小分けして冷凍してあり、父親はその中から選んで弁当にする。この日はうどん、サバの味噌煮、野菜の中華炒めだった。持ち物は、ペースト食、注入用のシリンジ、胃ろうに刺すコネクター、吸引などに使うノズル、歯ブラシ、口から食べる練習用のスプーンの一式で、父親はこれを未来くん専用の「食器」のようなものだと言う。スプーンは、これでないと口に入れてくれないものを使っている。この道具を扱える人でなければ預け先にはなれないが、通所先では子ども1人につき看護師が1人つき、ほかに保育士が何人かいる体制になっている。

注入はかなりゆっくり行う。一度に入れすぎるとダンピングと呼ばれる状態になり、普通の食事ではありえない勢いで胃に入ることに体が驚いてしまうからだと父親は説明した。1回の量は200〜300mlほどで、取材者は自分の2歳の子なら同じ量のうどんは食べきれないと驚いていた。未来くんは視聴者から「大きい」と言われることが多いが、体重は平均値で、栄養が身長に回っているのだと両親は話す。

この週の土曜日には訪問美容師が来る予定だった。専門家に頼れる環境が当たり前にあることについて、父親は困っていることはそれほどないとしつつ、それは自分たちの住む地域だからこそだと強調した。東京以外では難しいのではないかという取材者の問いには「無理ですね」と答え、だから自分たちは引っ越せないのだと語った。

地域格差と、東京で制度が整ってきた経緯

母親は時短勤務で9時半から16時半まで働き、できるだけ在宅で仕事ができるようにしてもらっている。通所先の手厚さについて母親は、東京都にはそれなりの支援があるが、地域によっては預け先がまったくないのが普通の状況もあると話した。医療的ケア児を育てる母親たちのブログを読むと、一般の保育園に片っ端から電話をかけ、「うちではちょっと預かれない」と門前払いされることを母親がすべて担っている例が多いという。勇気を出して連絡した保育園に断られるのは想像以上にダメージが大きく、「居場所がないんだ」という気持ちになる。母親は、こうした地域格差がなるべく減ってほしいとずっと思っていると語った。

東京でこれだけ整ったのもここ数年のことで、まだ発展途上の部分もあると母親は言う。そのきっかけとして母親が聞いた話では、数年前、医療的ケアが必要になると見込まれる赤ちゃんを妊娠していた妊婦が出産間際に救急車で運ばれたが、どこのNICUにも空きベッドがなく、受け入れ先が見つからないうちに赤ちゃんが亡くなった事故があった。そこからNICUの空きベッドを常に確保する必要が生まれ、そのためにはNICUの赤ちゃんを家に帰さなければならず、家に帰すには帰った先の体制を整えなければならない。こうして制度や福祉サポートが急速に整ってきたのだという。母親はこれを「私も聞いた話」と前置きしたうえで、未来くんが家に帰ってきた3年前からの3年間だけでも変化は非常に多く、どんどん良くなっていると話した。

場面に合わせて動けるようになった成長

未来くんは現在、一人で少しずつ歩けるようになりつつあり、立つこともできる。母親が「大きな成長」として挙げたのは、日々のルーティンを本人が習慣として覚えてきたことだった。夜寝る前には片付けをして歌の時間があり、抱っこでベッドに向かう。その間に廊下の電気を消し、寝室のドアを開けてきちんと閉め、寝転がってスタイを外す、という一連の流れが本人の中にインプットされている。保育園でも朝の会の音楽が流れると決まった椅子に座るようになった。場面に合わせた行動が少しずつできるようになってきたことを、母親は嬉しい成長だと語った。実際、夕食の場面では、以前は必要だったおもちゃなしで椅子に座っていられるようになった様子も映されている。

前頭骨がないことによる危険について、これまで頭を打って危なかったことはないという。大人たちが注意深く見守っていることに加え、本人が慎重な性格であることも理由として挙げられた。抱っこしておでこをぐりぐり合わせたり、床に頭をこすりつけたりする程度なら問題ないことも分かってきたので、強くぶつけるようなことだけは未然に防いでいる。ただ、走り回るようになればヘルメットをつける時間はどんどん長くなるだろうと母親は見ている。

聴力、嚥下、嗅覚、そして気管切開の複雑な関係

視力と聴力は正確な計測が難しい。聴力については、意外と聞こえている面もあるものの、難聴はあると母親は感じている。音の出るおもちゃの音が出る部分を口に当てる行動があり、本人なりの工夫で音を聞いているように見えるからだ。補聴器をつける練習もしているが、最近は何でも身につけるものを嫌がり、つけた瞬間に外して投げてしまう。補聴器が自分にとって必要で便利なものだと気づいてほしい、というのが今の段階だという。

嚥下障害もあり、生まれつき飲み込む力が弱く、飲み込みの反応が少ない。今年度の目標は、吸い飲みを使って液体を飲む練習を始めることだ。小学校に入るまでに水分を口から取れるようになることを目指せる範囲にあるとされ、将来的には口から食べることも、本人が意識して学んでいけば可能ではないかと言われている。リハビリの先生からはすべて口から食べられるようになる「ポテンシャル」はあると言われているが、両親は長い道のりになると考えている。

一方で、口から食べる練習は最近嫌になってしまっている。未来くんは鼻で呼吸しておらず、気管切開部から呼吸しているため、香りを感じる手段がない。赤ちゃんの頃からずっと経管栄養なので、食べるとお腹がいっぱいになる感覚も分からないだろうし、食べることを必要なものだと思っていないのではないか、と父親は推測する。味をどの程度感じているかも分からない。酸っぱいものでは変な顔をするので感じているのは間違いなさそうだが、その程度が分からないため、今はとにかくいろいろな味を口に入れているという。夕食時にスプーンで少量入れると、嫌がって拒否するわけではなく、入れば一応もぐもぐする。両親は「単純につまんないんだよね」と受け止めている。

嗅覚そのものがないと言われているわけではなく、鼻で呼吸するようになれば嗅覚はあるはずだと母親は言う。ただ、そのためには気管切開を卒業する必要があり、そこには小顎症が関わってくる。舌が奥に沈み込んで気道が狭まり、鼻や口で呼吸できないことが気管切開の理由だからだ。現在は本人の骨が育つのを待っている段階で、今後は自分の骨を移植して顎を伸ばす手術や、骨の延長手術などがおそらく必要になる。気道が広がれば気管切開を卒業でき、嗅覚を感じられるようになって食が進むかもしれない。しかし母親は、それが全部良いことかというとそうではないと付け加えた。気管切開があれば、唾液を誤嚥してもそこから吸引して救えるが、塞いだ状態で誤嚥を続ければ肺炎になってしまう。だからいろいろと検討しなければならないのだという。

発声と発語は別の問題

声についても事情は複雑だ。気管切開していると空気が声帯の下を通って呼吸するため、基本的に声が出しづらい。最近はスピーチバルブの練習をしている。吸う空気は気管切開部から入り、吐くときにはそこが塞がって口や鼻から出やすくなる器具で、これをつけて呼吸する練習をしている。声を出すことを知り、コツをつかめば、発声という意味ではクリアできると母親は説明した。夜の歯磨きの場面でも、母親は「もうちょっと声が出そうな感じがしてる」と話している。

ただし、発声ができることと発語につながることは別の話で、そこには知的な発達が関わる。知的な部分を今測っているのかという問いに対し、母親は、測る手段がないというより、細かく検査する必要を感じていないのだと答えた。本人はすでに療育の現場にいて、成長を日々見守られながら必要な支援を受け、次に必要なステップをみんなで確認しながら一歩ずつ進んでいる。だから今あえて知的なグレードを決める必要はあまりない、というのが、保育園の先生や医師を含めた共通の感覚だという。

3年で楽になったこと、母親の初めての趣味

育て始めて3年で大変さは変わったか、という問いに母親は、だいぶ楽になってきた気がすると答えた。分からなかったことが分かって慣れてきた面と、本人の成長と発達によってケア自体が減ってきた面があるからだ。その結果、仕事もできている。

母親はいまスクイーズ集めにはまっている。TikTokのライブ配信を見ながらでないと買えないものだといい、妊娠して以来初めての趣味だという。妊娠してからは何かにはまることがなく、ずっと未来くんのことばかりやってきたので、趣味ができたこと自体が少し余裕が出てきた表れではないかと母親は考えている。父親もそれを喜び、にこやかに見守っているという。忙しい日々であることは変わらないが、関わってくれる人たちも含めて目指す先は明確で、あとは頑張ろうという状態だと母親は語った。

前例のない子の就学先をどう決めるか

一方で重めの悩みとして挙がったのが小学校である。未来くんは現在年少で、年中になると特別支援学校の学校説明会などが始まる。まずは説明会に行くことになるが、未来くんの場合、おそらく歩けるようになり、知的な課題はある程度残るかもしれないものの、工夫すればコミュニケーションが取れそうな状態でもある。そのため、一般の小学校の支援級も視野に入ってくる。そうなると近くの小学校がどんな環境かを見に行ったり、通えるかどうかを学校と直接話し合ったりする必要が出てくる。

難しいのは、同じ病気の先輩がいないため、小学校に入る時点でどれくらい成長しているかが誰にも分からないことだ。最初は特別支援学校に入って様子を見てから一般の小学校に移るという道もありうるので、そうした可能性も含めて考えなければならない。

夫婦の間で結論はまだ出ていない。無理に一般の小学校に行って自己肯定感を削がれる必要はない、という意見もあり、母親はそれにも納得する。しかし一般の学校では刺激も受けられる。逆に、たとえば知的障害の特別支援学校に行った場合、もっとできるはずなのに物足りない教育になってしまうのはもったいないとも思う。母親は「本当に悩んでます」と繰り返した。今はメリットとデメリットを調べつつ、近くに実際どんな学校があるのか、通っているお兄さんお姉さんで身近な人はいないか、実際にどんな日々を送っているのかを見て考えるつもりだという。

第二子をめぐる夫婦の話し合い

きょうだいについても夫婦は話し合いを続けている。母親はもともと、お金と環境が許すなら子どもはできるだけたくさん、3人でも4人でも5人でもほしいという夢を持っていた。その考え自体は変わっていない。ただ、未来くんが障害を持って生まれ、大きくなったときにほかの子より手がかかるかもしれず、独り立ちできるかどうかも分からない状況の中で、2人目、3人目についてはかなり慎重になった。

今も議論中だが、計画する可能性はある、と母親は言う。いちばん大事なのは家族みんなが、そしてそれぞれがちゃんと自分の幸せを見つけることで、その前提が覆らないように考えていくという。障害のある兄弟を持つ「きょうだい児」として生まれてくることが確定している点について、健常の兄弟とは違うケアが当然必要になると両親は考えており、授かりものなのでできるかどうかも分からない段階から、そうしたことをずっと考えているという。

同時に母親は、お互いが良い影響を与え合ってくれたらとも思っている。経験したくてもできない環境が家庭にあることで、きょうだいには普通の子が感じないような感情や学びがきっとあるはずだし、未来くんにとっても、家の中で同年代の子どもと関わることが社会に出るうえで役立つ可能性は十分ある。生まれるならその良い部分が最大限発揮されるようにしてあげたい。そもそも最初から諦める必要はないと思っている、と母親は語った。いろいろなサポートを受けられ、将来的にも福祉サービスの世話になることを視野に入れれば、自分たちが幸せになる方法は十分考えられるはずだという。母親は「あやふやな回答」だと謝ったが、取材者はそれこそが今の現状のリアルだと応じた。

週6日の訪問看護がもたらすもの

午後、未来くんが帰宅すると訪問看護師が来る。訪問看護は週6日で、最後にはヘルパーも来て、看護師と2人で入浴させる。ヘルパーは1時間ほど、看護師は1時間半ほど入り、この日は18時20分までだった。その間、母親はスーパーへ買い物に出かけ、父親は隣の部屋で仕事をしていた。

担当する看護師の一人は半年ほど、もう一人は1年半ほど未来くんに関わっている。来るたびにできることが増えていて毎回来るのが楽しみだと看護師は話す。日本に症例がないような病気で、これまでのノウハウが生かせるのかという問いには、子どもによってケアの内容も成長の速度もまったく違い、同じということはほとんどないので、一人ひとりの計画に合わせて関わるイメージだと答えた。この日は看護師の手を借りて歩く練習をし、カメラがいるからか、いつも以上に張り切っていたという。看護師は、自分たちがいる間に家族に休んだり買い物に行ったりして自分の時間を取ってもらい、その間にできることをしているのだと説明した。母親は、看護師というより親戚のおばちゃんが来ている感覚だと言う。

入浴やその他の医療的ケアを見た取材者が、働きながら夫婦2人だけでこれをこなすのは実質不可能だろうと言うと、母親は訪問看護の意味を二つ挙げた。一つは、毎日来てお腹の音を聞き、誤嚥で唾液が溜まって肺がボコボコ言っていないか、お腹の調子はどうかを毎日チェックしてもらえる安心感。もう一つは、それだけでなく、できるようになったことや最近の出来事、おもちゃの話といった世間話をするだけで、自分の精神衛生上本当に助かっていることだという。

夕食、寝床、歯磨き、そして一人になれる時間

夕食は母親が作った。母親は「手抜き料理」だと言うが、父親の好物のアレンジ料理が並んだ。父親は食前、仕事でAIを使って広告動画を作っていると説明し、元になる人物画像を参照して日焼け止めを塗る画像を作り、そこから動画を生成する流れを見せた。新しい技術をどんどん使わないと置いていかれるという。

未来くんは床に敷くタイプのソファの上にジュニアサイズの敷布団を敷いて寝ている。目が開いたまま寝るため、目をラップで覆うが、すぐに外れてしまい、そのまま転がっていくので、寝床の埃には気を使っている。布団は2〜3日に1回替えている。母親は、まぶたがあるというのはすごいことで、人の体は本当によくできていると感じるそうだ。歯磨きは頑張ってはいるものの、口をなかなか開けてくれないため、できる範囲になってしまう。そのため、医療的ケア児などを対象に回っている会社の訪問歯科医に定期的に診てもらっている。

一人になれる時間は増えたかと聞かれ、母親は増えたと答えた。日中は保育に行き、夕方までは訪問看護がある。看護師が帰ってから未来くんが寝るまでの数時間が貴重で、そこに一緒にやりたいことを詰め込んでいるという。

退院直後、夫婦2人で回した24時間

いちばん肉体的につらかった時期は、未来くんが生後8か月で退院してから10か月頃までだったと母親は振り返る。当時は人工呼吸器を外してよいのが1日3時間までで、21時間は人工呼吸器がついていた。今のように胃ろうのチューブから注入するのではなく、口から胃につながる管を入れてミルクを注入していたが、本人がそれを握って抜いてしまうことがしょっちゅうあった。入れ直し自体は親でもできるが、胃カメラを入れるようなもので本人は嫌がり、抜けるたびに入れ直さなければならなかった。体についているものがとにかく多く、少し動くと人工呼吸器が外れ、一緒に気管切開のカニューレまで抜けてしまうのではないかという不安もあって、落ち着いて寝ていられなかったという。

そのため父親は長めの育休を取る決断をし、夫婦2人で24時間のシフト体制を組んだ。それでなんとかなった部分があり、母親は、これがワンオペだったらどうなっていたかと正直思うと語った。現在も母親の就寝は深夜3時か4時になることが多く、それ自体は苦痛ではないという。父親は1時か2時頃に寝る。

YouTubeを続ける理由と、終わり方の可能性

チャンネルは2023年11月に始まり、取材時点で3年近く続いていて、銀の盾も届いた。父親は、たくさんの人が応援してくれるのはありがたいが、ずっと続けられるわけではないかもしれないと話した。母親の負担が大きく、家族全員がハッピーでいることが大事なので、母親がアンハッピーになるなら何を優先すべきかという話になる。

それでも、父親の中ではまだ目的を達成していないという思いがある。その目的とは、未来くんのことをみんなが知っている状態をつくることだ。父親はショッピングモールを歩くとき、自分が未来くんだったらという気持ちで歩いてみることがあり、そうすると視線を強く感じる。当事者だったら堂々と顔を出して歩けないかもしれないと思ったという。しかしみんなが知っていれば、有名人を見るような「あ、誰々さんだ」という目で見られるほうが絶対にありがたいはずだ。未来くんがいつまでも小さいわけではなく、大人になって自立して生きていくことを目指して育てているつもりなので、芸能人のようなレベルでみんなが知っている世の中になればいい、というのが目標だという。ただしこれは達成せずに終わる可能性もある。

第二子の問題もこれに関係する。未来くんのためという思いで両親は顔を出しているが、健常の子が生まれることを前提にすれば、その子にはこの理由は当てはまらない。だから第二子を考えるタイミングが、チャンネルをやめるか形を変える時期になるかもしれず、その意味で「タイムリミット」があるのかもしれない、という会話を夫婦でしているという。

母親に聞くと、やめたいわけではなく、続けたいし続けたほうがいいとも思っているという。ただ、未来くんに関わることなので手は抜けず、何でも出せばいいわけではない。動画は十数分と長くないが、それにかかる時間と労力は意外と大きい。伝えたいことが伝わる形になっているか納得したいし、来るであろう反応もできる限り想定して作る。YouTubeの作業は週に2〜3日あり、ほかのことが全部終わった最後に取りかかるため、寝るのが朝5時、6時になる日もある。先にやればいいとも分かっているが、取りかかるのがしんどく後回しにしてしまうという。今はもう少し今の形で続けてみるつもりだと母親は語った。

寝かしつけと、自家製ペースト食へのこだわり

就寝時には目薬をし、未来くんが自分で電気を消してベッドへ向かう。部屋の中をひと通り探索してごろごろしてから眠るので、両親はときどき様子を見て痰が溜まっていないかを確認する。生後8か月まで病院にいたため一人で寝ることに慣れており、大人がいつまでも横にいるほうが違和感があって、横にいると全然寝ないのだという。

寝かしつけの間、母親はペースト食の仕込みをしていた。1つの容器が1食分に届かない程度で、1日4回注入すると、この量は2日ほどでなくなる。この日はツナじゃがで、普通の肉じゃがには入らないグリーンピースなども入れている。味見をして美味しく仕上げるようにしているという。母親は、経管栄養は好き嫌いをしないという意味ではメリットで、「経管でよくそんなに大きくなれるね」と言われるが、偏食しないからむしろバランスが良いのだと話す。一時期は身長ばかり伸びて体重が増えなかったが、栄養士と相談して注入量を調整し、増量に成功した。ただ、ずっと経管というわけにはいかないので、まずは水分を自分で取れることを目指しているという。

桃もペーストにしてゼリーにする予定だった。手作りにこだわっているのかと聞かれ、母親は、単純に市販品がないから作るしかないのだと答えた。桃を食べさせたいがペーストにしなければならず、嚥下の練習としてもゼリーのほうがよいと考えている。ご飯には、字幕では「コースパウダー」と聞こえる粉を入れていた。でんぷんを分解する粉で、水を足さなくてもご飯がさらさらになり、医療的ケア児の親の間では「魔法の粉」と言われているという。硬いものはミキサーがオーバーヒートして止まり、そのまま動かなくなる恐れもある。魚は小骨を取り除かなくてもペーストにできるので、未来くんは小骨まで食べていることになる。

母親は、ペースト食作りを楽しいと言う。ペースト状のものを注入している場面だけを見ると、あまりご飯を食べているように見えない。しかし、もとは食べ物の形をしていたものを自分でペーストにしていると、家族と変わらないものを食べているのだと思える。せっかく作るのだから味わってほしいという気持ちもあり、味見をして美味しいもの、いろいろな味を考えて作っているという。

仕込みの合間には、保湿用のワセリンであるプロペトを使って未来くんの目にラップを貼った。途中で本人が動きかけたが、貼った瞬間に手で押さえると、そのまま眠り続けた。

夜を支える手段と、東京の外の現実

日中は任せられる人がいるが、夜のケアは今のところ両親2人しかできない。今後、どうしても無理な時期が来るかもしれない。そのときは、探せば夜間の訪問看護があるかもしれないし、病院で何日か預かってもらえるレスパイトという福祉サービスもある。緊急時には非常に助かるので、そうしたものに頼ることになるだろうと母親は話した。

ただ、東京を出るとこうしたサービスはあまりないと聞くという。横浜の福祉サービスに詳しい友人からは、横浜市もまだまだで、これから整えていかなければならないと聞いた。母親は、横浜ならもっと進んでいると正直思っていたので意外だったという。自分たちの住む地域にも、先の小学校問題や放課後等デイサービスが足りない問題はある。それでも地域格差はなくなってほしいと母親は繰り返した。

「居場所がある」と思えることの意味

母親は、地域に守られていると感じることが本当に大事だと言う。この社会に居場所があると思えること自体がまず嬉しく、安心できる。

出産時にこんな環境になると思っていたかと聞かれ、母親は「めちゃめちゃ不安でした」と答えた。連れて帰ってと言われても、家で何をどうすればいいのか、必要な医療ケアの物品が何で、どこで買えて、いくらするのか、医療費はどうなるのかも分からなかった。毎日NICUに通って顔を見るだけで精一杯だった。そんな中、看護師がソーシャルワーカーと話す時間を取りつけてくれ、ソーシャルワーカーが未来くんの場合に使える制度を紹介してくれて、初めて申請をした。退院にあたって「ここと、ここと、ここに連絡してみてね」と言われ、当時はよく分からないまま連絡したが、結果的にそれで体制が整っていった。退院直前には東京都の職員が自宅を訪れ、医療機器を使える環境かを確認し、コンセントが足りなそうだから増やそうと提案してくれた。母親は、日本の制度に結構感動したかもしれないと話した。

一方で母親は、自分の場合は運が良かったのだとも言う。体制が整った場所で産むことができ、サポートにつなげてもらえたのは本当にありがたいことで、そのおかげで毎日未来くんと笑顔で接することができ、「いらん不安」がない。不安を取り除いてもらっている感覚があり、それは本来そうであるべきだと思うという。

経験してみて母親が思うのは、これは障害児育児に限らず、普通の育児でも同じだということだ。孤立して居場所がないと思ってしまうと、それだけで育児も夫婦関係もすべてがうまくいかなくなる。だから頼ったほうがいいし、頼れる場所がちゃんとあるべきだ、と母親は語った。取材は23時前に終わったが、両親の夜は、ラップが外れていないか、痰が溜まっていないかを見守りながらこの後も続いていく。