高橋みなみと三宅香帆が語る少年漫画とリーダー論:ルフィ、メガネ君、そして「終わらせ方」

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概要

元AKB48総監督の高橋みなみと文芸評論家の三宅香帆が、それぞれの推し漫画について語り合った対談である。話題の中心は、高橋が「バイブル」と呼ぶ少年漫画から何を受け取り、それを総監督としての振る舞いや卒業時の言葉選びにどう生かしてきたかにある。後半は、秋元康からの言葉、休み方、GLAYのTAKUROとの交友、AKB48の20周年への関わり方、そして大学教員という新しい仕事へと話が広がっていく。

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少年漫画は「泥臭い成長物語」だから好き

高橋は収録に『SLAM DUNK』と『ONE PIECE』を持参し、自分は根本的に少年漫画が好きだと切り出した。三宅はそれを「解釈一致」と受け止め、自身は少女漫画も少年漫画も読むと答えている。三宅がいちばん好きな作品として挙げたのは『鋼の錬金術師』で、「世界の全人類が読むべき漫画」とまで言う。何かを得るには何かを差し出さなければならないという「等価交換」の考え方に惹かれ、最終盤の展開も含めて素晴らしいと語った。

高橋が少年漫画に惹かれる理由は、主人公が落ちこぼれだったり、できないところから始まったりして、仲間を得て成長し、自分の目標を達成するという筋書きにある。高橋はAKB48時代、こうした登場人物を頭に浮かべながら活動していた部分があると話した。三宅がAKB48は少年漫画だったのかと驚くと、高橋は「AKBはやっぱ泥臭いんで少年漫画だと思います」と答えている。

総監督の手本はルフィ、そしてメガネ君

三宅が総監督として最も参考にしたキャラクターを尋ねると、高橋は難しい質問だとしたうえで、まずルフィを挙げた。理由は「無垢」であることだという。これだと思ったら「行こう」と言える。「海賊王に俺はなる」のように、目標を高らかにまっすぐ口にできる。高橋によれば、リーダーは「これなんだよ」と言わなければならない仕事でもある。加えて、間違えたときに振り返り、もう一度仲間の手を取れる点も、ルフィの良さとして挙げた。

高橋はさらに、麦わらの一味に加わる仲間たちは、それぞれ叶えたいことや背景を抱えながらも、ルフィの何かに惹かれて「こいつならついていこう」と思って乗ってくるのではないかと話す。そして、自分もそう思われる存在にならなければいけないと考えていたという。三宅は、仲間を集め、それぞれに事情を抱えながら目指す場所へ向かう『ONE PIECE』の構図が、確かにアイドル的だと応じた。

『SLAM DUNK』で高橋が挙げたのはメガネ君(木暮)である。好きなキャラクターは主人公好きなので桜木だと断ったうえで、手本としての立ち位置ならメガネ君だという。高橋の見方では、メガネ君は大エースというより一歩下がって物事を客観的に見ており、チームにさまざまな言葉をかけながら、実は全部を把握している。しかも努力は怠っておらず、3年間頑張ってきた人間として大事な場面で決めることもある。高橋はその努力の方向性を評価し、少年漫画ではこうしてキャラクターをピックアップしながら「この人のこれをもらおう」と取り入れてきたと語った。

流川、サスケ、ゾロ──三宅の「主人公の横」好き

三宅の『SLAM DUNK』の推しは流川で、高橋には意外だったようだ。三宅は、何も言わずに努力している感じがかっこいいと説明する。いろいろ言われたり見られたりしても、それを言葉にしない姿に惹かれるという。高橋はその好みについて、松井玲奈の雰囲気に通じるとコメントした。

高橋が『NARUTO』を読んだことがあるかと聞くと、三宅は「ナルト、サスケですか?」と返し、推しを言い当てられて驚いている。三宅は、主人公とライバルとヒロインという少年漫画の三角形のうち、主人公の横にいる男の子が好きなタイプだと認めた。『ONE PIECE』ではゾロが好きで、付き合うならゾロだという。ただし二人とも、『ONE PIECE』には付き合いたい人があまりいない、みんな自分を持ちすぎている、と笑い合った。

ジャケ買いした漫画は「全部売れている」

漫画の選び方について、高橋はもともと本屋に行くのが好きで、書店員が書くPOPを読みながら、最終的には扉絵に惹かれるかどうかが大事だと話す。そして「過去自分がジャケ買いした漫画で売れてない漫画ないんすよ、マジで」と自負を語った。例として『今際の国のアリス』を第1話から読んでいたことを挙げ、自分が買った作品はドラマ化や映画化されていくという。

三宅は、高橋に漫画の編集をやってほしいと勧めた。漫画家をモチベートしながら、こういうデザインがいいと言えそうだという理由である。高橋は、自我が出すぎそうだとして「編集は無理よ」と返している。

手塚治虫文化賞の選考で出会った『チ。』

高橋は手塚治虫文化賞の選考委員も務めており、さまざまな漫画を多角的に読む機会を得ているという。漫画は好きな作品を見つけるとその方向性で読み進めがちで、三宅も、始まりの雰囲気で自分の好きな系統かどうか分かると同意した。高橋自身は少年ジャンプ系の人間で、血みどろ系や人がどんどん死んでいくような、グロめの作品も正直好きだという。一方で少女漫画をしばらく読んでいなかった時期もあったが、選考委員になってからは、他の委員や書店員の推薦で自分が読まなかったジャンルにも触れるようになった。

選考委員として出会った作品の中で、高橋が驚いたと挙げたのが『チ。―地球の運動について―』である。冒頭から「お前死ぬんかい」という展開があり、難しいテーマを扱いながらあの結末に着地させていく点に、作者の頭の中を見てみたいと感じたという。三宅は、作者の魚豊が『ようこそ!FACTへ』『ひゃくえむ。』も手がけており、陸上漫画、歴史漫画、現代の漫画と作風がまったく違うのにどれも面白いと補足した。二人は、作者がとても若いことにも驚きを示している。

三宅の一冊は『パラダイス・キス』

高橋に「いちばん好きな漫画」を聞かれた三宅は、難しい質問だと承知しつつ、矢沢あいの『パラダイス・キス』を挙げた。ファッションデザイナーを目指す人たちの物語で、恋愛がうまくいかなくても、人生や仕事に残るものがあるという点に惹かれるという。高橋も、5巻ほどという短さでそこまで訴えかけるものを描ける作者はすごいと応じた。

三宅はもう一作、NHKでドラマ化もされた『プリンセスメゾン』を挙げる。女性がマンションを買おうとする、不動産をめぐる物語だ。人間関係は離れていっても残るものがある、という話が好きなのかもしれないと三宅は自己分析した。高橋は『スキップとローファー』を勧め、二人は略称「スキロー」で盛り上がった。何か大きな事件が起こるわけではなく、季節が巡るなかで高校3年間のきらめきを描き、しかも主人公が主役っぽくない。高橋はそこがまたいいと語る。

三宅が、話している高橋に漫画を作ってほしくなると言うと、高橋は自分は「圧倒的読者」だと返した。あれこれ言うのが大好きで、作者には申し訳ないが、終わり方が悪いと強く不満を覚えるタイプだという。

「終わりの美学」とスラムダンクの幕引き

面白くない作品に出会ったらどうなるのかと問われ、高橋は、普通に怒りが湧くと答えた。起承転結のように、広げた風呂敷をどう集約させるかが読者にとっての面白さなのに、それまで良かったのに最後で崩れると「ええ」となるという。

その意味で高橋が絶賛したのが『SLAM DUNK』の終わり方である。もっと続きを読みたかったが、あそこで終わる。しかも、その後の試合では大敗したと描かれる。高橋はそれも井上雄彦らしくていいと語った。

三宅はこの「終わり」の話を、アイドルの卒業や卒業コンサートに結びつけた。仕事でも、どう終わらせるかはあまり考えられていないが大事で、飲み会でさえ最後まで楽しく終えるのは難しい。誰かが区切らないと帰れない、だらっとした時間もある。高橋はそれを受けて、自分の感覚は漫画から来ているのかもしれないと言い、卒業の際に「どうやって完璧に終わらせられるか」でひどく悩んだと振り返った。

漫画は最終回で終わるが、人生は続く

高橋は、メンバーの卒業コンサートを見て送り出してきたなかで、自分の最後をどう終えるか、どんな言葉を残して去るべきかを考えたという。そして、漫画は最終回で物語が終わるが、自分は人間なので人生は続く。「終わらせながら続けていく」ことがとても難しかったと語った。

ファンの「やめないで」という声について、高橋は、それは本当に嬉しい言葉だとしながらも、アイドル本人が決めたタイミングがその人にとってのベストであり、誰に止められたとしても、その子が思ったタイミングが最善だと考えている。

卒業発表でも、ドレスを着て話す卒業コンサートでも、小さな劇場公演でも、何かしら言葉を届けなければならない。高橋はその作業を「漫画を組み立てるよう」なものだと表現する。「努力は必ず報われる」のように、頭のどこかで「太文字になる言葉」を探しながら話していたという。

総選挙のスピーチはどう組み立てていたか

三宅は、話しながら太文字の言葉を作るのは、漫画家がネームを作る作業を喋りながらやっているようなものではないかと驚いた。高橋によれば、総選挙では呼ばれる瞬間まで順位が分からない。上位でなければ言えないフレーズもあれば、下位で言うと調子に乗っているように聞こえてしまう言葉もある。さまざまな場面を想定して臨むが、実際に呼ばれてファンを前にすると出てくる言葉は変わる。そのため、「この言葉だけは絶対言いたい」というものだけを頭に入れておき、最後は目の前の景色を吸収しながら話す。結果としてアドリブになるという。

三宅は、高橋の言葉は一つひとつが届く速度が速く、今の会話もそのまま文字起こしすれば原稿になりそうだと感じると述べ、そうした練習を積んできたからではないかと推測した。

間違えたら即座に謝り、反省はその日のうちに

高橋は、迷うことも多く、いつも100点の言葉を選べるわけではないと話す。セットリストの曲順、メンバーにかける言葉、右か左かという判断で間違えることは人間なので出てくる。そういうときは、その場ですぐに「すみませんでした、間違えてました」と謝る。「謝る速度マジ大事です」と言い、三宅は20代の頃の話とは思えないと感嘆した。

反省は休みの日には持ち越さず、その日のうちに消化するという。高橋は、AKB48では目まぐるしく次の仕事が来るので、前日の仕事を引きずっていても次の仕事に申し訳ない、ということを学んだと語る。やり方も具体的だ。高橋は今も無音が好きでテレビをつけず、間接照明だけの部屋でソファに寝転がり、頭の中で反芻する。「これだったのか、10分前に戻れるならこっちが正解だった」と考え、時には声を上げて泣きながら終わらせる。本人も、誰かがその場にいたら怖いだろうと笑っている。

ただし、そこまで感情が揺さぶられたのはAKB48時代くらいで、ソロになってからは、反省はあっても暗闇で声を上げるほどではないという。

総監督は「頂点」ではなく中間管理職

三宅が、人数の多い組織の頂点にいたからではないかと言うと、高橋は「頂点じゃないんですよ」と訂正した。総監督の上にはスタッフや秋元康がいて、自分はメンバーの声を吸い上げて上へ伝える中間管理職のような立場だった。そのため多くの人の声が入ってきて、感情がぐちゃぐちゃになる。それでもキャプテンであり総監督だから人に当たるのは良くない。そこで、自分の中で感情をコントロールする技を学んだという。

秋元に相談することはほとんどなかった。卒業の際、秋元から「AKBの中でいちばん手のかからなかった子」と言われたという。グループ在籍中に二人で食事に行ったのは、卒業したいと伝えたときくらいだった。

秋元康からの長文LINE「嫌われる勇気を持ちなさい」

一方で、高橋が過労で倒れたことがあった時期には、何も伝えていないのに秋元から非常に長いLINEが届いたという。相談していないのに、なぜ今の状況が分かるのかと思うほど、その時の自分に宛てた手紙のような内容だった。

そこに書かれていたのが「嫌われる勇気を持ちなさい」という言葉である。高橋の説明によれば、その人に言えば良くなると分かっているのに、怖くて言わないのはとても罪深い。言わないことで、その人にとってどうでもいい人になっていいのか。それなら嫌われてもいいから、その人のプラスになることを言うべきだ、という趣旨だった。さらに「僕はみなみが思うこと、言うことは全部正しいと思ってます」と書かれていた。高橋はこれに強く背中を押され、「正しいんだ、じゃあやっちゃおう」と思えたといい、今でも感謝していると語った。

休むのが合わない人、読書が休みの人

話を聞いた三宅が「休んでほしい」と感情移入すると、高橋は、よく休めと言われたが、休むのが合わないのだと答えた。AKB48で走り続けることに慣れたのかもしれない。怖がりなので、立ち止まったら仕事がなくなると思い、卒業の翌日から仕事をしていた。卒業後に数カ月休んでリフレッシュする人もいるが、自分は今も1週間以上の休みを取ったことがなく、海外に行くとしても3〜4日だという。

三宅は、本や漫画を読むことが休みになっていると話す。思考は巡ってしまうが、それを一人でしている時間がいちばん休めている感覚だという。友人との旅行にも国内外で出かけている。

高橋は、日々刺激が多すぎるので休日は刺激のないことを望み、海外に行くより「いつものメンバー」で飲むことが多いという。そこには年に数人、朝ドラの登場人物のように新しいメンバーが加わり、その人たちから刺激をもらっている。

GLAYのTAKUROという「兄貴」

高橋の交友関係には、クロちゃんのほか、ご近所付き合いのような元メンバーの大家志津香、夫婦同士で仲の良い北原里英がいる。そのなかで「なぜか」と前置きして挙げたのがGLAYのTAKUROだった。高橋にとっては「超絶兄貴」のような存在で、人生でいちばん出会えてよかった人かもしれないという。

最初は大スターとして見ていたが、プライベートで一緒に過ごすようになり、GLAYのメンバーの異常なほどの仲の良さに驚いた。TAKUROと高橋夫妻で食事をしていると突然TERUが現れたり、店にメンバーが次々集まってきたりする。高橋はその空気感を尊敬の始まりとして挙げた。TAKURO自身も物事を多角的に見ていて、バラエティや芸人が好きでテレビの情報にも詳しく、高橋と同じテンションで話してくれるという。

20周年、呼ばれる前から考えていたこと

昨年のAKB48の20周年では、シングルに高橋、小嶋陽菜、指原莉乃、前田敦子の4人が参加し、高橋は1年間グループと並走した。高橋は、20周年ならきっと何かあると前の年から考え、呼ばれたらどこまで関わるのがいいかを悩んでいたという。三宅は、呼ばれる前から、しかも運営が考えるようなことまで考えていたのかと驚いた。

高橋が気にしていたのは、現在のメンバーを応援しているファンが大勢いるなかで、邪魔をしすぎないことだった。その迷いをTAKUROに相談すると、周年は巡ってくるものではないので、自分がやれると思うことがあるなら絶対にやったほうがいいと言われた。それで覚悟が決まり、呼ばれたら頑張ろうと思えたという。

TAKUROは日本武道館の公演にも来てくれた。人生初の女性アイドルグループのライブだったそうだ。高橋がトロッコで客席を回った際、近くにいたTAKUROがどんな顔で見ているのかと思ったら、大きく手を振ってくれていたという。

「人から向いていると言われること」に乗ってみたい

今後について聞かれた高橋は、AKB48以上に刺激的なものにはなかなか出会えないと率直に話した。やりがいのある仕事には出会っているが、20周年で戻った時に「やっぱりステージってすごく楽しい」と改めて感じ、グループへの感謝も深まったという。そのうえで、これからは一人で生きていかなければならないと語る。三宅は、AKB48の周年はそのまま高橋の芸能人生の年数でもあると指摘した。

高橋が今望んでいるのは、自分では見えていない可能性に気づいた人の一言に乗ることだ。そうした提案ほど、この20年で自分が避けてきたものだったりする。だから間口を広げ、「やってみませんか」と言われたら、もう少し軽やかに挑戦したいという。4月から洗足学園で教授を務めることも、その一つとして語られた。

高橋は、今でも自分でいいのかと思っていると率直に明かしつつ、若い人と話すと自分も刺激を受けるし、自分の経験が学生のヒントになるかもしれないと考えている。上から教えるのではなく、フラットに関係を深めたいという。まず考えているのは、サークルの部長などを10人ほど集めて、今何に悩んでいるかをクロストーク形式で話し合うセッションだ。音楽的な視点や発声を教えるのではなく、話しながらヒントになるものが出てくればいいと話した。

三宅は、周囲の友人たちが後輩の指導や仕事の伝え方に悩んでいると話す。昔のように雑に教えられる時代ではなく、AIやスマホとの関わり方も世代によって違う。そのなかで、女性の多い集団をまとめた経験を持つ高橋の言葉は貴重だと述べた。高橋は、いろいろな人と細かくコミュニケーションを取ってきたつもりなので、自分が無意識にやってきたことを「これじゃないか」と言語化して伝えていきたいと応じた。

セロリの浅漬けで締めくくり

最後に三宅が改めて「休みながらやってください」と言うと、高橋は、自分がまったく休んでいない人のようになっているが、ちゃんと休んでいるし今週末も飲みに行くと笑った。行きつけの店で好きなメニューを聞かれ、高橋が挙げたのはセロリの浅漬けだった。二人に「渋い」と言われながら、対談は時間切れで幕を閉じた。