永野と成田悠輔、目黒の老舗理髪店で「黙る」――悪態から始まったロケが静かな体験になるまで

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概要

番組『夜明け前のPLAYERS』に、永野が番組初の「おかわりゲスト」として再登場した回である。今回はスタジオを出て、真夏の目黒を成田悠輔と歩く。台本が用意したテーマは「日陰の2人が日陰の店を訪ねる」で、行き先は客が減りつつある理髪店だった。店に着くまで2人は街や人への悪口を言い続けるが、店主の施術を受けるうちにほとんど言葉を発しなくなる。その変化と、店主が語る床屋の仕事観が、この回の中心になっている。

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ロケが苦手な理由:永野のトラウマ

冒頭で永野は、ロケの仕事はするがあまり得意ではないと話す。理由はトラウマで、ある家庭を訪ねるロケの体験だという。永野によれば、そこは不潔な台所で、チャーハンを食べさせられた後に「麦茶を飲んでいきなさい」と言われた。出てきたのは、開封済みの2リットルのペットボトルのコーラに麦茶を入れたものだった。永野はそのとき「こういうものを飲むために東京に来たんじゃない」と思い、それ以来、清潔な一般人以外とは関わらないと決めたと語る。

永野は、自分が一般の人を平気で「一般人」と呼んでしまうことも認める。ロケでタレントやモデルが「汚いけど美味しい」店で食べている場面については、あれは嘘だと断言する。永野に言わせれば、芸能界は一般の人が嫌で芸能界を目指した人間の集まりなので、もともと一般の人と触れ合いたくないのだという。

猛暑のロケと、作家が書いた「日陰の存在」

撮影は午後2時ごろ、炎天下の目黒で行われた。永野は、どちらが熱中症になってニュースになるかをスタッフが待っているのではないか、最悪の時間帯にぴったり合わせてきたのは悪意しか感じない、と冗談めかして文句を言う。

成田は台本を「棒読み用に」受け取って読み上げる。内容は「世間はパリオリンピックで無駄に盛り上がっている」「全人類が見守る中、僕たちは誰の注目も浴びていない日陰の存在を訪ねたい」といったものだった。永野は、撮影に協力してくれる店を「日陰の存在」と書く作家はひどいと突っ込む。

オリンピックについて聞かれた成田は、初めから自分の中では終わっていると答える。永野も、悔しいが自分もオリンピックに興味がないと話す。そう言うとわざと逆張りしていると思われるが、本当にスポーツに関心がないのだという。永野はスポーツを経てこなかったからこそ今の自分ができあがったと考えている。だから、憂鬱な雰囲気を出しているタレントが実は3年間スポーツをしていたと聞くとがっかりする。永野自身は筋金入りの帰宅部で、授業が終わってもなぜ学校に残るのか理解できなかったという。オリンピックが素晴らしいことは認めつつ、自分には考えることがあって人を応援している時間がない、とも話した。

目黒という街への悪態

歩きながら2人は街の人々にも毒づく。永野は、この辺りには麦わら帽子やキャップをかぶった「多様性女子」のような、育ちの良さを纏って歩く人が多いと言う。目黒は恵比寿や代官山ほどではないが山手線の駅なので、住む人にはそれなりの主張がある、というのが2人の見立てである。

永野は、目黒の人と他の街の人が同等の顔で歩いているのが少し腹立たしいと話す。さらに、この辺りの人は芸能人に反応しないことにプライドを持っていて、それしかアイデンティティがないとまで言う。成田もすごい人で、自分も「あまり痛くないけどすごい人」だから、同等の顔で「こんにちは」とされると頭にくる、と冗談を続ける。実際に道行く人を指さしても無視され、2人は「無視されましたね」と笑った。

ヘアーサロン石岡の外観と「ブレている」店

訪れたのは「ヘアーサロン石岡」。台本には、美容院全盛の時代に減った理髪店を「絶滅する前に」訪ねるとあり、2人はまたその言い方のひどさに反応する。成田は、そもそも理髪店と美容院の違いがよくわからないと話す。

入り口の看板は読み方がすぐにはわからない書体で、永野は一見さんお断りの雰囲気があると言う。一方で「お気軽にご利用ください」とも書かれている。永野は、店の人に会ってしまうと情が移って悪く言えなくなるので、ディスるなら今のうちだと言う。外観にはこだわりを感じる一方で「輝けパリオリンピック」の掲示もある。永野はそこを「我々の敵」「凡人感」と評してがっかりしてみせる。目黒競馬場や野球にまつわる掲示もあり、2人は、どちらに振りたいのかブレている、10代のように揺れている店かもしれないと話しながら店内に入った。

客からの贈り物が語る店の歴史

店主の石岡さんに迎えられると、2人はまず店内の飾りに驚く。目を引いたのは、石岡さんがゴルバチョフ元ソ連大統領(ゴルビー)と写った写真だった。「都会の親父がなんでゴルビーなんだ」とよく言われるそうだが、この仕事ではいろいろな人と知り合いになれ、きっかけを作ってくれた人がいたのだという。撮影は2009年、ANAインターコンチネンタルホテルの35階のオフィスだったと石岡さんは説明する。永野は「スパイとかじゃないですか」と冗談を言う。

石岡さんによれば、店内の品はどれも自分が欲しくて買ったものではなく、客からのプレゼントで、一つひとつに物語がある。外観で2人が「ブレている」と感じた統一感のなさも、客との人脈の広さから来ていたわけだ。ボクシングのグローブは西城正三氏から贈られたもので、「V13」と書かれたものは具志堅用高氏のものだという。隣には、西城氏が育てた全日本フライ級チャンピオンのグローブもあり、この人も店の客だった。西城氏とは古い友人だったと石岡さんは話す。

店のつくりも独特で、普通は前にある洗髪用の流しが別の位置にある。石岡さんは、前に流しがあるのは嫌だと思ってそうしたと説明した。

床屋と美容院は何が違うのか

成田が改めて理髪店と美容院の違いを尋ねると、石岡さんは、理髪店は客が来たら顔まできちんと整える、と答える。白い泡(シャボン)をつけて顔を剃るあの工程である。

では、なぜ大人になると床屋に行かなくなるのか。石岡さんは、感覚的に床屋は古臭く、美容院は新しいと思われて、ある程度の年代からそちらへ移るのだろうと話す。子どもの頃は父親と一緒に来たり、母親が「うちの息子を頼みます」と連れてきたりする。女の子も来ていたが、年齢が上がると離れていく。永野は「そこは毒されてましたね、我々も」と認める。いつ美容院に切り替えたかという話題では、18歳で東京に出てきた前後という答えが出て、「普通の人だった」と突っ込みが入る。成田は、自分はおしゃれなので生まれた時から美容院だと冗談で返した。

顔剃りとフェイシャルマッサージ

永野は、顔剃りを何十年もしていないので受けてみたいと申し出る。フェイシャルマッサージの経験を聞かれた成田は、アメリカで中国系のマッサージ店に行ったら足で踏むマッサージで、顔を踏まれたことがあると話し、「すごく興奮した記憶がある」と笑わせる。

そこで永野は顔剃り、成田はフェイシャルマッサージを受けることになった。この店では、客にリラックスしてもらうため靴を脱いで椅子に上がってもらう。永野は、この時点で美容院の空気と違うと感じる。美容院では、スタッフがおしゃれ感を出してくるので、よく思われなければという緊張があるのだという。

シャボンを塗られた永野は「何年ぶりだこれ」「めちゃくちゃ気持ちいい」と声を上げる。石岡さんによれば、あまりの気持ちよさに寝てしまい、自分のいびきに驚いて目を覚ます客もいる。使っているのは現代のカミソリで、永野は剃られているというより滑らかに撫でられている感覚だと表現した。

一言も実況しない成田と、永野の自己反省

一方の成田は、施術中にほとんど何も言わない。永野は、バラエティのレポートコメント文化に抵抗しているのか、一言もレポしない人は初めてのジャンルだと突っ込む。批評家として誰よりテレビに出ているのに一言も言わない、自己主張とタレント性をメガネだけに込めているのに今はそのメガネさえ外している、ただおっさんが無言でマッサージを受けているだけだ、と畳みかける。成田は、マッサージの音をポッドキャストで流せば催眠音として癒されるかもしれないと返すだけだった。

ここで永野は自分の側を振り返る。この番組で本音や真実を目指そうと言い出したのは自分なのに、「うわー」と言ったり、成田をいじるふりをして生かそうとしたり、普通のいいコメントをしている自分こそが偽物ではないか、と。そう言って永野は「黙っていいですか」と宣言し、2人は「仲良く黙りましょう」と沈黙に入った。

無言の施術と、予想を裏切る丁寧さ

沈黙の中、石岡さんはこのやり方を「もう少しで50年」続けてきたと話し、蒸気を当てていく。しばらくして永野は、本当に気持ちいい、もっと軽いものだと思っていたと沈黙を破る。普通なら喋るところだが、成田が隣にいるとこんなにやりにくいのかとも漏らす。

永野は床屋に対して、もっと粗野なイメージを勝手に持っていたが、実際はこちらのほうが細やかで、客へのケアが丁寧だと話す。石岡さんは、この店の売りは丁寧さだと答えた。施術後に自分の肌を触った永野は「化粧品のCMみたい」と驚き、「これはマジで体験してほしい」と繰り返す。美容院よりやっぱりこっちだ、床屋最強だと言う永野に、石岡さんは「のはずなんだけどね」と応じた。

客が減る床屋と、観光客向けという提案

予約を取るのは大変ではないかと永野が聞くと、石岡さんは、大変なのはむしろ客に来てもらうことで、それだけ暇なのだと答える。床屋に来る人は減っていて、フェードのように部分的に剃る髪型の流行で多少は変わってきているものの、状況は厳しいという。

永野は「我々で床屋の復権をやりましょう」と言い、成田は観光客向けならいけるのではないかと提案する。こういうスタイルの理髪店がない国は多いはずなので、旅行パックの一部にすればよいという案である。石岡さんも、外国人客から自分の国にはこんな面白いところはないと言われると話し、そういう発想には気づかなかったが面白いかもしれないと応じた。

施術は続き、蒸気で毛穴を広げて汚れを取る工程に入る。永野は、今年に入ってから耐える時間が多く顔の筋肉がずっと緊張していたと話し、その緊張がほぐれていく様子を見せた。いつもは人の悪口ばかりで悪いところしか見えないと言う永野に、石岡さんは「人の悪口を言える人はやっぱり善人なんです」と返し、永野は「名言が出た」と受け止めた。

石岡さんに「いつもこんなに大人しいんですか」と聞かれた成田は、いつもはこれより100倍くらい大人しいと答える。2人は、ナレーションもなく時々「ああ」と聞こえるだけの無言ロケは新しいのではないか、と話した。施術を終えた永野は、来た時と全然違う、テレビに出てこんなに静かだったのは初めてだと振り返る。

手作りの靴べらと、ごちゃごちゃした店内

帰り際、石岡さんは自作の竹の靴べらを差し出す。年を取るとしゃがむのが大変になるので作ったもので、何種類もあり、海外の客にもプレゼントして喜ばれているという。ペーパーナイフも自分で作ってみたそうだ。

2人は、店内のバランスの取れていない感じがかえって落ち着くと話す。石岡さんによれば、外国人客はひとつひとつのコーナーを面白がるが、日本人は最初「ごちゃごちゃしていてなんだこれは」と思うという。永野は、これで観光客からぼったくればいいのにそうしない、奉仕しようと考えているところがいいと評した。

マウントを取らない接客

ここで永野はカメラに向かい、美容院業界は奉仕の気持ちが足りないのではないかと訴える。美容院のスタッフはなぜかため口で話してくる、というのが永野の不満である。成田も、店員がフランクな店には行かなくなると話す。永野は、腕に自信のある美容師ほど上から来るのがセオリーになっていると付け加えた。

石岡さんは、自分は「俺はうまいんだぞ」と自分から言える人間ではないと話す。美容院の場合は「私はうまいのよ」という感じで来るが、そういう図式でやらないと勝てない世界なのかもしれない、とも述べた。永野は、マウントを取らず競争しない姿勢にほっとする、日本人の良心がここにあった気がすると応じる。石岡さんは、父親から「騙されてもいいから騙すな」と教えられ、人によってはバカだと言われるが、その気持ちが自分の根っこにあると語った。

悪口の反省と、前回発言の余波

最後に永野は、店に来るまで2人でずいぶん悪口を言ったことを謝る。外に出ると悪口を求められているような気がして、変な癖がついている、自分たちこそ「マウント疲れ」「マウント病」なのだと話す。そのうえで、今日の体験で「少し人類が好きになった」と礼を述べた。

店を出た後、マスクをしていたのにしっかり握手していたことを振り返りつつ、永野は前回の出演で「芸能界は猿」と言ってかなり怒られたことを明かす。悪態を求められる立場への違和感を口にしたこの回は、それでもまた言いすぎたら二度とテレビに出られない、という冗談で締めくくられた。