社会人留学は「あり」か:留学支援31年の若松千枝加氏が語る準備の順番と学校の選び方

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概要

社会人が仕事を離れて留学することに意味はあるのか。PIVOTの番組で聞き手はこの問いを投げかけた。聞き手自身も2年後の留学を考えている。ゲストは留学情報サイト『留学プレス』編集長の若松千枝加氏で、社会人留学は「明確にあり」という立場をとる。そのうえで、留学の成功と失敗をどう捉えるか、キャリアとどう結びつけるか、2年前から何を始めるべきか、学校をどう選ぶかを具体的に語った。

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留学業界で31年、カウンセラーからメディア運営へ

若松氏は留学業界に通算31年携わってきた。最初は留学カウンセラーとして、約3000人の留学を支援した。その後独立し、2008年から留学メディアを運営している。現在は留学ニュースを扱う『留学プレス』と、女性に特化した情報サイトの2つを手がける。社会活動としては、日本認定留学カウンセラー協会の幹事として次世代のカウンセラー育成に関わる。今年立ち上がったJAOS留学総合研究所では研究員を務め、留学全体のデータを分析している。

海外生活の経験は、小学校後半から中学の初めにかけて、父親の転勤でアメリカのシアトルに住んだことだという。その後は日本で教育を受けた。途中で短期留学をしたほか、現在も仕事の一環として視察を兼ねた短期のホームステイなどで各地を訪れている。ただし飛行機代も高くなり、機会があれば行くという状況だそうだ。

30年で変わった留学の環境

若松氏が業界に入ったのはバブル崩壊からしばらく経った頃で、留学する人は少しずつ増えていた。2000年より少し前には一度留学ブームが来た。それまでは語学留学と大学・大学院への留学が中心だったが、この時期には語学を学びながら他の勉強や習い事もする「プラスアルファの留学」が盛り上がったと振り返る。

一方で、留学はお金も時間もかかる自己投資なので、社会情勢と無関係ではいられない。若松氏は米国同時多発テロ、東日本大震災、コロナ禍を例に挙げ、そのたびに留学が大きな影響を受けてきたと話す。さらに日本人は先行きを心配する人が多く、情報収集にも長けているため、テロや各地の戦争が起きると不安が強まる傾向が他国の人と比べてやや大きいという見方も示した。聞き手は、今は円安もあると付け加えている。

社会人留学が「あり」である理由

社会人留学はありかなしか。若松氏の答えは「明確にあり」だった。どんな目的で行くかによってやり方をきちんと考える必要はあるが、判断そのものは迷わないという。

その根拠として若松氏が挙げたのは意欲の差である。中高生のときに親に言われて行く留学や、親にお金を出してもらう学生時代の留学とは違い、社会人の多くは自費で、しかも仕事を休んだり辞めたりして行く。なぜ行くのかをしっかり考えたうえで出発するので、並々ならぬ意欲がある。聞き手は、リスクをとって時間もかけるぶん、期間を無駄に過ごす可能性はかなり低くなりそうだとまとめ、若松氏もこれに同意した。

「失敗こそ成功」という考え方

成功する留学とそうでない留学を分けるものは何か。この質問に、若松氏はまず「厳密には成功とは何かという話になる」と答えた。留学の失敗とは何かとよく聞かれ、31年間考え続けてきたが、行き着いたのは「失敗こそ成功」という考え方だという。

海外では予想外のことがよく起きる。聞き手は大学時代にフィリピンの大学へ半年間交換留学し、気候への不慣れや治安面のトラブルをたくさん経験したと話した。若松氏が、そういうときは自分で情報を集めたり誰かに助けを求めたりしてリカバーしてきたのではないかと問うと、聞き手は「本当にたくましくなった」と答えた。若松氏は、その経験こそが留学の成功だと言えるという。

若松氏が例に挙げた失敗はどれも小さい。ホームシックで学校に行けなくなる。思うように語学が伸びない。もっと話せると思っていたのに実は話せない。迷子になって帰り道を尋ねたいのに勇気が出ない。こうした小さな失敗の積み重ねが自分を成長させていく。留学はそれが自然に起きやすい環境で、一定期間ひとりで海外に暮らせば、誰でも必ず成長がある。「失敗イコール成功」とはその意味だと若松氏は説明した。

「譲れないこと」を決め、残りは空白にしておく

では、事前に何を考えておくべきか。若松氏が勧めるのは「譲れないこと」を決めることだ。中身は人それぞれ違う。

留学というと、希望をたくさん出してそれを叶えに行くものだと思っている人が多い。高いお金を払うのだから、あれもこれもやりたくなるのは自然なことだ。しかし限られた期間で何かしらの成果を持ち帰るには、やらないことも決めたほうがいいと若松氏は言う。

理由のひとつは偶然の機会である。現地では思わぬ人と出会い、新しい体験のチャンスが生まれることがある。最初から予定を詰め込み「全部やらなくては」という気持ちで行くと、そうした貴重な機会を見逃してしまう。だから「これだけは絶対にやってくる」という譲れない条件を自分の中で明確にし、それ以外は偶然も含めて空白にして楽しむ意識が大事だという。

キャリアとの結びつけ方は3タイプ

キャリアを一度中断して行く以上、戻ってきたときにプラスになる留学にしたいと考える人は多い。若松氏は、留学とキャリアの結びつけ方には3つのタイプがあるとした。

1つ目は「キャリアアップ」で、今の仕事をさらに深めて高みを目指すタイプだ。目指す姿がある程度見えていることが多く、明確でなくても、上に行くための手段はわかりやすい。それを実行するために最高の投資をすることが、このタイプの鍵だと若松氏は言う。

2つ目は「キャリアチェンジ」で、今までの仕事から大きく変わって新しい世界に行きたいタイプだ。やりたいことが決まっているなら、キャリアアップと同じように教育機関をしっかり選ぶ。ただし転身先での実績やノウハウはないので、一から学べて、短期間でも実践で鍛えられる場を選ぶことが大切だという。

3つ目は「決まっていない」タイプである。新しいキャリアに踏み出したい、今の自分はここではないと感じているが、行き先はまだ決まっていない。

行き先が定まらなくても準備は始めてよい

聞き手は、自分はおそらく3つ目のタイプだと打ち明けた。長期で英語圏の大学院に行きたいという夢はあるが、帰国後に今と同じ仕事をするのか、まったく違う仕事をするのかは定まっていない。この状態で準備を始めてよいのかと尋ねた。

若松氏の答えは「いいと思います」だった。早く準備を始めるほど、少しずつ成功に近づいていく。自分を棚卸しし、未来を考え、どこに向かうかを考える。その答えは日々変わっていくだろうが、その過程自体が成長だという。留学は出発の日から始まるのではなく、今悩んでいる自分も認めて、それを留学の道筋のひとつに入れるとよいと若松氏は勧めた。

希望を全部テーブルに出してから引き算する

譲れないことを決める前に、一度すべての希望をテーブルの上に出す段階が必要だと若松氏は言う。聞き手が「どんな国や選択肢があるかをまず眺めるということか」と確かめると、若松氏は、眺めるのは情報ではなく自分だと答えた。

テーブルに並べるカードには予算も含まれる。どのくらいのお金を用意できそうか、できなさそうかも書き出しておく。たとえば、ジャーナリズムもやりたいがホスピタリティにも興味がある、親子留学にも関心がある、というように頭の中にある希望を日々変わるものも含めて全部出す。そこから引き算をしていき、最後に残ったものが譲れないものになる。若松氏はこのプロセスがとても役に立つと話した。

これを受けて、聞き手はその場で自分の希望を整理した。1つ目は学問の軸である。PIVOTでも、その前に記者をしていたときも国際情勢を扱ってきたが、一貫した学術的なバックボーンがなく、点でしか追えていない。理論をきちんと勉強したことがないので、そこがほしい。2つ目は時期で、今から2年後くらいを考えている。3つ目は家族を連れて行きたいということだ。話しながらこの3つが見えてきたという。家族帯同については動画の後編で扱うとしている。

若松氏は、書き出して削った結果この3つが残ったことは今後の準備の核になると評価した。今後新しい希望が出てきたら、ためらわずに一度テーブルに戻し、削る作業を繰り返せばよいという。2年後に出発する場合、教育機関によっては1年前には出願先をはっきりさせる必要がある。だから考えるのは今だと若松氏は強調した。また、人に相談することはよく勧められるが、相談しすぎずに自分と対話するほうがよいとも述べた。自分の未来だからこそ、納得できるところに落ち着くために、今は希望を出し切る段階でよいという。

2年のロードマップ:棚卸しと並行して語学を始める

聞き手はスケジュールを確認した。今は2026年の夏で、学校が始まるのは2028年の夏か秋頃になる。最初の1年が準備期間で、前半は自分が何をしたいかという大きな問いから始め、後半は出願に向けて具体的な情報を集めていく流れになる。

若松氏は、大学院のような高等教育機関を想定するなら、棚卸しと必ず同時に進めるべきことが1つあると言う。それが語学力だ。出願にスコアの提出が必要なのはもちろん、スコアをクリアして合格しても、授業についていき卒業するまで英語力が求められる。今始めて損はない、と若松氏は言い、聞き手も1日でも早いほうがよいと応じた。

TOEFLかIELTSか:無料サンプルで相性を見る

聞き手はまだ情報収集をしないままIELTSを勉強していると明かし、TOEFLとIELTSは行き先によって使い分けるのかと尋ねた。

若松氏によると、以前はアメリカやカナダなど北米に行くならTOEFL、オーストラリアや英国に行くならIELTSという棲み分けがかなりあった。しかし今はどの国でも基本的にどちらも通用する。さらにDuolingo English TestやPearsonのテストなど、選択肢も広がっている。各テストの運営団体のウェブサイトでは無料のサンプル問題を試せることが多いので、実際にやってみて得意そうなものを選ぶのが一番よいという。

日本で英語教育を受けてきた人にはどれが有利かという質問には、はっきりとは言えないと若松氏は答えた。形式は違っても、ライティングやリーディングなど測られる能力は基本的に同じだからだ。テスト同士を横並びで比較している人もいない。ただ、いくつか受けてみると、自分と相性のいいテスト、逆に相性の悪いテストは必ずあるという。「これは無理」と感じるものは避ければよい。スコアは何度も受けないと上がらないので、慣れていくことが必要で、受験しても緊張しない状態を作ることも大事だと若松氏は付け加えた。

志望校選び:学校ごとの強みを見る

棚卸しと語学の次は、分野が決まったら学校を選ぶ段階に入る。自分がやりたいことを扱っている学校を選ぶのは当然として、自分の語学力やこれまでの成績も踏まえて合格の見込みをある程度予測し、併願校も決めていく。

PIVOTの視聴者なら大学院やMBAを考える人が多いだろうという前提で、聞き手は世界中にある学校を何を基準に選べばよいかと尋ねた。若松氏は、MBAなら経営学の修士課程として内容の枠組みは共通しているが、スクールごとに強みが違うと説明する。情報はネット検索やAIでも集められるし、SNSには在校生の投稿もたくさんある。そのうえで、マーケティングに強い、ケーススタディに強いといった特徴を見て出願先を決めることが大事だという。

国際政治のような分野では、世界大学ランキングの国際関係分野がひとつの目安になる。その中から興味のある大学を選び、各大学がどこに焦点を当てているかを見る。アジアやアフリカに強い大学もあれば、聞き手のようにジャーナリズムと組み合わせて考えられる大学もある。そうした強みを見て第一志望校を考えるとよいと若松氏は話した。

学びたい分野が見つからないなら「暮らし」で選んでもいい

聞き手は、そもそも自分がどんな強みを持つ学校に行きたいのかがわからないと率直に打ち明けた。MBA志望者でも、漠然と経営やビジネスの知識を深めたいと思った段階では、具体的な分野まで決まっている人は少ないのではないかと問うた。

若松氏の答えは、その段階なら決めなくてもよいのではないか、というものだった。留学は学びであると同時に生活でもある。どこで学びたいか、どこで暮らしたいか、どんな留学生になりたいかで選んでも一向に構わないという。若松氏は「悪い学校はない」とし、憧れのキャンパスでも、映画の撮影によく使われるキャンパスに通いたいという理由でもいいと話した。自分で選んだ学校なので誰にも文句は言われないし、それでその後のキャリアに差し障りがあるわけでもないという。

学問を極めたいという理由こそが正しく、それ以外で決めるのは邪道だと思っていた、と聞き手が言うと、若松氏は「全然とは言わないが、あまり気にしすぎなくていい」と答えた。特定の分野のピンポイントでやりたいことがある人を除けば、生活も考慮して選んでよい。そこに予算も関わってくる。やりたいことができるいい学校でも奨学金制度がなければ、それも掛け合わせて考えればよいし、場合によっては国の候補を変えてもよいという。

費用の目安と社会人向け奨学金

具体的な費用について、若松氏は英語圏ならまず300万円少しを用意しておくとよいという目安を挙げた。大学院留学の場合、英国なら1年で修士課程を修了できるので、およそ1000万円だという。MBAはさらに高く、プラス500万円ほど見ておいてもよいとした。

社会人が使える奨学金は少ないのではないかという聞き手の問いに、若松氏は「あります」と答えた。10年前と比べて数はかなり増えたという。採用の可能性を上げるには、これまでの人生が大事になると若松氏は言う。その学問のためにどれだけ努力してきたか、どんな具体的な行動をとってきたか、それによってどう成長したかを含めてアピールすることが重要だと述べたところで、この回は終わっている。家族を連れての留学など、残りの論点は後編に持ち越された。