成分表の先にあるもの:ポーラ・コーセー・花王・富士フイルムの研究員が語る日本の化粧品研究

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概要

皮膚科医の友利新氏が、ポーラ化成工業、コーセー、花王、富士フイルムの研究員4人を招いて対談した。友利氏はこれまでYouTubeで各社の研究員に個別に話を聞いてきたが、雑誌の座談会企画をきっかけに「YouTubeでも」と頼んだところ了承が得られたという。互いにライバル企業の研究者が同じ場で自社の研究を語るのは、参加者によれば初めてのことだった。

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対談の中心にある問いは、「成分表を見れば化粧品の価値は分かるのか」である。友利氏は、SNSで成分が同じなら同じ製品だ、高い製品はぼったくりだ、という声が広がっていることに疑問を持っている。研究員たちは、成分そのものよりも、それをどう配合し、どう肌に届け、肌で何が起きているかをどう突き止めるかに研究の価値があると語った。

参加した4人の専門領域

じゃんけんで決めた順に自己紹介が行われた。

ポーラ化成工業の研究員は現在研究戦略を担当しており、もともとは皮膚科学が専門で、たるみを中心に基礎研究から製品開発まで携わってきた。自身が関わった製品が宇宙に行ったことにも触れ、宇宙という極限環境で皮膚がどうなるかという発想から研究を広げたと話した。意外なところに着眼して研究を広げることに面白さを感じているという。

コーセー研究所皮膚薬剤研究室の研究員は、皮膚の細胞の老化に関する研究と、皮膚の奥にある筋膜「SMAS」の研究に携わってきた。SMASは観察する手段が限られるため、CTなどで肌の奥のSMASを画像化し、それがどう緩んでいくか、さらにマッサージで緩んだSMASを引き上げられるかを研究したという。友利氏は、美容医療では切開すればSMASを直接見られるが、化粧品では家庭でのマッサージやスキンケアでSMASにどうアプローチするかという段階に来ていると受け止めた。現在はより幅広く、皮膚の基礎研究、美容成分の開発、完成品の効果検証などを担当している。

花王スキンビューティ研究所の研究員は、毛穴を中心に研究し、関連する技術や洗浄技術を開発して商品開発まで手がけている。友利氏は「花王といえば角栓崩壊」と紹介した。

富士フイルムの研究マネージャーは、化粧品とサプリメントのエイジングケア、薬剤の皮膚浸透解析を専門にしている。

「同じ成分なら同じ」ではない理由

友利氏は最初に、成分表を見て製品の良し悪しを論じる消費者が増えていることを研究者としてどう見ているかを尋ねた。

コーセーの研究員は、成分や化粧品の情報がSNSなどを通じて消費者に直接届く時代になり、美容の知識が上がっていること自体は良いことだと答えた。そのうえで、良い成分を見いだすことや、それをいかに肌に届けるかというデリバリーの研究が、より重要な時代になっていると述べた。

富士フイルムの研究員は、自社もアスタキサンチンやコラーゲンなどを研究しているが、「その成分が入っている」というだけでは戦えないと話した。DDS(ドラッグデリバリーシステム)の観点から皮膚にどう届けるかという点で、同社はナノ分散などに力を入れている。届け方と、皮膚の状態を観察して効果をどう発揮させるかの両方を持つことが、今後強い研究になると考えている。

ポーラの研究員は、美容への関心は高まる一方で、情報が多すぎて「結局自分にはどれがいいのか」という悩みも増えているのではないかと指摘した。企業としては、どんな人に、どんな場面で、どんな価値を感じてほしいのかを丁寧に伝えるコミュニケーションが、これからさらに重要になると考えている。

花王の研究員は、SNSで成分が話題になることに嬉しい面もあると認めつつ、処方を作る立場からは、成分が実際に肌の上で働くかどうかは別問題だと強調した。成分を見て選ぶところまでは良いが、もう一段、二段踏み込んで、その成分を肌のためにどんな状態で配合しているかまで見て選んでほしいという。

友利氏はこれを寿司にたとえた。自分でも築地で同じ魚、同じ塩、同じ米を買えば寿司は作れるが、何年も修業した職人の寿司とは明らかに違う。料理ではその違いが理解されているのに、化粧品になると「技術」という観点が抜け落ち、同じ成分なら安い方がいい、高いのはぼったくりだという話になりがちで、それが悲しいと語った。

ポーラ:シワ改善の承認までの15年

ポーラについて友利氏がまず挙げたのは、シワ改善の有効成分「ニールワン」だった。2018年の発表会で、化粧品でシワに効果があると言えるようになったことに驚いたという。研究でデータが出ても、シワへの効果は広告で表現できなかったため、そもそも言えるとは思っていなかった。ポーラの研究員によれば、承認を受けたのは2016年で、シワの原因研究を始めてから承認を得て製品化するまでに約15年かかっている。承認には有効性や安全性などさまざまな項目の証明が必要だという。他社の研究員も、当時は正直に驚き、「先にやられた」と思ったと笑いながら認めた。

研究の中身として、ポーラの研究員は次のように説明した。シワは真皮の奥で形成されるが、そこでは好中球エラスターゼという酵素が過剰に産生され、コラーゲンが分解されていることが分かった。ニールワンはこの好中球エラスターゼの働きを抑える成分で、深いシワにも効くことをデータで示しているという。友利氏は、化粧品で真皮の話までできるようになったことに感動したと述べ、視聴者の中にも「好中球エラスターゼ」という言葉を知っている人がいるのは驚くべきことだと語った。

ポーラ:毛根に着目した真皮再生研究と角層のハリ

ポーラはシワだけでなく、ハリの研究も通算で約40年続けているという。

ハリについての説明はこうだ。皮膚は真皮のコラーゲンに支えられているが、加齢や紫外線でコラーゲンが減ると、皮膚を支えきれずに柔らかくなったりたるんだりする。そこで真皮のコラーゲンを再生できないかと「妄想」し、着目したのが毛の根元だった。毛の根元は皮膚の中で伸びたり縮んだりを繰り返しているが、そのたびに真皮に穴が開くことはない。そこから、毛の根元には真皮を再生する仕組みがあるのではないかと考えて研究したのが最新の成果だという。

他社の研究員は、この発想に「ほう」と驚いた様子で、たるみやコラーゲンの研究で毛根に向かうのはなぜなのかといつも面白く感じると語った。ポーラの研究員は、真皮のコラーゲンを再生したいという目標自体は各社共通だが、皮膚の断面像をよく見て、どこが再生しているかと妄想を膨らませることで研究が始まると説明した。「この部分に何かあるかも」と考えてから真皮再生のメカニズムにたどり着くまで、9年ほどかかったかもしれないという。その間も「こういう可能性もあるかも」と複数の可能性を並行して検証するのが日常だと話した。

さらに、ハリの研究は真皮に着目するのが王道だが、それだけでいいのかという疑問もあった。肌に触れたときに感じるハリは、真皮だけでなく肌表面も含めた感覚だからだ。そこで皮膚の一番表面にある角層を研究したところ、角層の細胞をつなぎとめているタンパク質が糖化していること、そしてこの糖化が肌のごわつき、つまりハリを感じにくい状態につながっている可能性にたどり着いたという。

友利氏は、糖化を「パンの焦げ」にたとえて発表したポーラの打ち出し方を評価した。花王の研究員も、自社も糖化研究はしているが、これだけ話を膨らませられる研究があるのだと感じたと述べた。ポーラの研究員は、今後も真皮の再生や角層など、さまざまな着眼点からハリを突き詰めていきたいと話した。

コーセー:線維芽細胞の4つの個性と、30年以上の細胞系列

コーセーについて友利氏が取り上げたのは、美容皮膚科学会で聞いたという線維芽細胞の老化研究である。

コーセーの研究員の説明によれば、真皮をつくる線維芽細胞は、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸など、ハリや弾力に必要な成分を生み出す。この細胞も年齢とともに老化し、機能が落ちていく。従来はシャーレの中の数万個の細胞を平均的な状態として観察していたが、技術の進歩で細胞1個1個の特性が見られるようになった。

1個ずつ見ていくと、線維芽細胞は同じ特性を持つわけではなく、個性の異なる約4つのグループに分けられることが分かった。1つ目は増殖性が高い、いわば若い細胞。2つ目はコラーゲンやエラスチンなど、細胞外マトリックスと呼ばれる弾力維持に必要な成分を作る機能が高く、真皮のメンテナンスを担う細胞。3つ目は調子が悪くなり、むしろ肌に悪影響を及ぼす老化細胞。4つ目はどちらにも属さない中間的な細胞である。

次に、この4つのグループが加齢とともにどう変わるかを調べた。そこで使われたのが、同じ人物から36歳頃から72歳頃まで細胞を採取し続けて得られた細胞系列で、30年以上かけて作られたものだという。友利氏は、通常の研究では異なる年齢の人の皮膚を比べるため、生活習慣や生まれ持った特性の違いが混ざってしまうが、同じ人なら時系列で見られると説明し、言うのは簡単でも何十年もかかる大変な研究だと強調した。

この細胞を使うことで、環境要因や遺伝的背景の違いを除き、純粋に加齢の影響だけを見られる。調べた結果、加齢で変化したのは、増殖性の高い若い細胞が急激に減ることと、老化細胞の割合が増えることの2点だった。この2つは全体の2割ほどにすぎず、大多数の細胞はあまり変わらなかった。研究員は、30歳から70歳という大きな老化の変化の本質は、ごく一部の細胞に注目した方が分かるということを明らかにした研究だと説明した。

友利氏は、この発表を聞いた学会での皮膚科医の反応を紹介した。皮膚科医は機器で熱を加えるなど皮膚に刺激を与えて反応させるので、増殖性の高い細胞が減るとデバイスが効かなくなるのではないか、スキンケアでそうした細胞を育む必要があるのではないか、という議論が出たという。友利氏は、美容皮膚科の学会でデバイス以外の話が出てきたことが印象的だったと語った。

コーセー:老化しない細胞の運命と「セルフェイト研究」

研究の発展として、細胞の運命を追いかけると、すべての細胞が老化するわけではなく、老化しない終点もあることが分かってきたという。細胞の運命の起点となるスイッチを見つけ、そこにアプローチできれば、細胞を老化しない方向へ導けるとコーセーの研究員は説明した。

スイッチを見つけるだけでなく、それに働きかける成分も探す必要がある。研究員は、肌の中で何が起きているか、細胞がどう老化していくかが分かることで適切な打ち手が見つかるとし、細胞の運命を切り替えて老化細胞にならないようにする成分や、増殖性を高めて若い状態を保つ成分を見つけていけば、より若々しい肌につながると述べた。

友利氏は「細胞の運命を変える」というキャッチフレーズに、コスメデコルテやコーセーらしさを感じると語った。研究員によれば、この研究分野はもともと「セルフェイト研究」と呼んでおり、フェイトは運命を意味する。細胞の一生を追いかけてどんな運命をたどるかを調べる研究そのものだという。

コーセー:コウジ酸の1.8倍配合とリポソームの刷新

コーセーのもう一つの柱として、コウジ酸が話題になった。コウジ酸は日本酒や味噌、醤油づくりに使われる麹菌という微生物が生み出す成分で、研究員によれば、美白有効成分として承認を受けてから約35年が経ち、論文や臨床試験の数も非常に多い。新しい美白成分を細胞で試験する際には、必ず効果が出る成分を「ポジティブコントロール」として一緒に試し、試験が正しく動いているかを確認するが、その役によく使われるのがコウジ酸だという。研究員はそれほど切れ味の良い成分だと表現した。

最近のトピックは、このコウジ酸をさらに高濃度で配合する試みである。友利氏が、2倍ではなく1.8倍という中途半端に見える数字の裏にせめぎ合いがあったのかと尋ねると、研究員は詳しくは言えないとしつつ、あらゆる面を総合的に考えてギリギリまで攻めたと答えた。

友利氏は、医薬部外品で同じ成分が入っていれば全部同じではないかという声についても質問した。研究員によれば、医薬部外品はある程度有効成分の量が決まっているが、その中で幅があるケースもある。また、単に濃度を上げればいいわけではなく、たくさん入れれば処方が壊れたり安定性が悪くなったりする。安定性や使用感の良さを両立できる処方を作るのに、今回は非常に苦労したという。

友利氏はさらにリポソームについて、美容に関心のなかった姉でさえ「リポソーム」という言葉を知っていたという思い出を語った。研究員は、長年研究を続けてきた完成度の高い商品なのでリニューアルはできないのではと思っていたが、リポソーム研究の成果が出て数年前にリニューアルしたと話した。

花王:毛穴パックの負担を超えるための角栓研究

花王について友利氏は、毛穴関連の製品リニューアルが今季SNSで話題になり、X(旧Twitter)では技術リリースを見て「その技術がどの製品に入るのか」が噂になるほどだと紹介した。成分ではなく技術の進化にこれほど注目が集まるのは珍しいという。

花王の研究員は、毛穴パックが流行した時代から約25年、角栓の研究を続けてきたと説明した。パックは角栓がごっそり取れる一方で、肌に負担がかかる。これを超えるものをどう作るかに年々取り組んできたのが背景で、日常のケアで肌に負担をかけずに洗浄で角栓を取れれば客のためになると信じていたという。ただし実際にやろうとすると非常に難しかった。

角栓は脂質とタンパク質でできていることは知られていたが、それなのに落とせない。そこで改めて組成を詳しく解析し、一つ一つの成分が何か、角栓の中にどう分布しているかまで調べた。その結果、角栓の脂質には油汚れの中でも特に落としにくい固体の油が多く含まれ、その周りをタンパク質の殻が囲み、それらが複合的に組み合わさっていることが分かった。研究員は、これなら落とせなくて当然だと気づいたと語り、台所の換気扇の汚れのようなものだと例えた。

花王:トロメタミンの発見

角栓の形態を変えられる成分がないか、さまざまな成分を作用させて観察していく中でたどり着いたのが、トロメタミンだった。友利氏が、トロメタミンは洗浄剤ではないのになぜそこに行き着いたのかと尋ねると、研究員は、界面活性剤や油剤、タンパク質変性剤も試したがほとんどびくともしなかったと答えた。タンパク質はpHに関与する、アルカリで洗浄できる、といった観点から候補を探す中にトロメタミンがあり、作用させてみたという。

角栓が崩れる様子を見たときは、研究員同士で「なんじゃこりゃ」と驚き、今でも感動するという。他社の研究員もこの角栓崩壊の動画を見ていた。ポーラの研究員は目で見て分かるのは伝わりやすいと評価し、コーセーの研究員はトロメタミンで角栓を溶かすという発想はあまりなかったと語った。富士フイルムの研究員は、角栓崩壊そのものより、過酸化脂質と角栓の関係を以前から研究し、それを臨床研究として行っている点を評価していた。花王の研究員は、角栓は客の毛穴悩みの最たるものだったからずっと見続けてきたのだと話した。

花王:今年の2方向のバージョンアップ

トロメタミンを使った処方は約4年前に完成していたが、今年はさらに2つの方向で技術を進化させたという。

1つ目は、毛穴に起こるトラブルに着目した方向である。角栓の中には、炎症性物質を多く出すアクネ菌がおり、研究員はこれを「悪玉アクネ菌」と呼んでいる。これが毛穴に多いと微炎症が起こり、毛穴が開くだけでなく、皮膚が盛り上がって「山」のようになる悩みがあることが分かってきた。そこにアプローチしたという。

2つ目は、角栓を除去しても視覚的になかなか改善しない黒ずみである。研究員によれば、毛穴は20年以上にわたって肌悩みのトップであり、友利氏もクリニックでシミやたるみで来た患者も必ず毛穴を挙げると話した。花王は8万個以上の毛穴を調べ、毛穴の奥の角栓が黒く見える原因に大きく関わっていることを突き止めた。そこで、毛穴の奥の角栓まで取れるよう技術を進化させた。

友利氏は当初、トロメタミンの量を増やしたのかと思っていたが、実際はパウダーを加えた処方だと述べた。研究員は、パウダーは角栓を「掻き出す」というより、トロメタミンが奥まで届くのを妨げる物質を吸着して取り除き、トロメタミンが奥までしっかり行き届くようにするためのものだと説明した。

友利氏は臨床の立場から、顔が赤い、調子が悪いという人の中には皮脂のコントロールがうまくいっていない人が一定数おり、皮脂をコントロールすると毛穴だけでなく肌のくすみ感なども良くなる人がいると話した。角栓を起点に炎症を起こす成分が生じ、肌荒れにつながるという点が臨床とリンクしていて面白いという。研究員は、角栓を起点とする症状やトラブルはまだまだあり、今後も深掘りしていくと答えた。

富士フイルム:写真フィルムの技術を化粧品へ

最後に取り上げられた富士フイルムについて、友利氏は化粧品会社ではない異業種の参入に当初驚いたと語った。

研究員は2006年入社で、当時は化粧品事業をしていなかった。写真が好きで、解析などの技術系の仕事を想定していたが、入社後に化粧品を開発することになり担当になったという。本業の写真フィルムが落ち込んでいたこともあり、先輩たちが新しいチームを作って化粧品やサプリメントに取り組む姿が生き生きしていたのを見て、新人ながらやれると思ったのが最初の頃の思い出だと話した。

研究員によれば、化学メーカーとしてのベースがあったことが大きく、転用できたポイントは3〜4つあるという。1つは抗酸化研究である。写真の色あせは酸化劣化によるもので、紫外線を含めた酸化防止の研究は創業時から行ってきた。写真用の酸化防止剤そのものを化粧品に配合することはできないが、分析の基盤があったため、アスタキサンチンの抗酸化力を維持する処方設計や、抗酸化力の評価はすぐにできたという。アスタキサンチンの真っ赤な色については、当時は抗酸化力の高い成分をどうしても配合したいという発想が先行しており、赤くて困るとは考えたこともなかったと笑った。

もう1つがナノ分散である。アスタキサンチンは油溶性で凝集しやすく、クリームなら良いが水系の製品には配合しにくい。写真フィルムの感光剤は乳化してフィルムベースに塗る技術を使っており、装置や機器があったため、それを応用してアスタキサンチンを分散させ、水系の製剤に配合したという。友利氏はアスタキサンチンが水に溶けるものだと思っていたと言い、研究員は溶けないと答えた。赤いのに下が透けるのは微細に分散されているからだと友利氏が確認すると、研究員は、分散すること自体は高圧をかけるなど方法があってそれほど難しくないが、分離、凝集、再合一しないよう安定化させる方がはるかに難しく、そのために何百もの検討をして安定性を付与したと説明した。ただ、こうした点はカタログにはなかなか出てこないという。

富士フイルム:「時代が早すぎた」ツボクサ由来成分AMA

友利氏は、富士フイルムの「AMA」という成分に驚いたと話した。いまで言うツボクサ(韓国コスメで流行している「シカ」)の成分だが、かなり前から使われていたからだ。

研究員によれば、美白研究を初めて手がけたとき、メラノソームの分解研究をしていた。美白やシミの研究はメラニン生成抑制が主体だったが、メラノソームを代謝できないかと考え、メラノソーム分解酵素に着目してその活性を上げるアプローチを研究した。そこで見いだした成分の一つがAMAで、ツボクサ由来のアジア酸、マデカッソシド、アシアチコシドの3成分の混合品である。活性が高かったので選んだが、今になってツボクサがまた話題になっていることは知らなかったという。AMAも水に溶けないためナノ分散の対象になり、美白製品に配合した。研究員は、今シカと言われているなら名前を変えたらいいのではと冗談めかし、友利氏は時代が早すぎたのかもしれないと応じた。

研究員は、誰もが研究に触れやすくなった時代なので、学術研究や薬剤の物理化学的な研究をきちんと論文や学会で発表することは、研究者だけでなく客にとってもメリットになると考え、地道に続けていきたいと述べた。

技術リリースへの注目と、研究を伝える難しさ

友利氏は、技術リリースを見て「これは何に入るのか」と消費者が推測する現象が面白いと話した。各社は業界の事情から、製品リリースと技術リリースを結びつけて「この製品にこの技術が入っている」とは言えない場合があるが、両方を出すことで気づいてもらうという形をとっている。以前は新製品に注目が集まっていたが、最近は技術リリースから次のリニューアルや新製品を予想するようになり、技術リリースの重要性が増しているのではないかと友利氏は問いかけた。

コーセーの研究員は、研究成果は伝わって初めて価値が出ると考えており、分かりやすく多くの人に届けることを重視していると答えた。チームのメンバーには「自分のお母さんが分かるレベルで説明して」と言っているという。専門用語を噛み砕くのは難しいが、相手の立場に立ってどんな言葉を使うかを考えることで、良い研究や面白い研究が詰まっていることが届けばいいと話した。

ポーラの研究員は、社内では研究員同士の議論からアイデアが生まれるが、その会話は専門用語が飛び交うものなので、世に出すときにいかに生活者に伝えるかを特に考えると述べた。富士フイルムの研究員は、社内の広報からニュースリリースの原稿をよく直されたと振り返った。もっと端的に、箇条書きで分かりやすく書け、何がすごいのか自分だけが分かっていても意味がない、と修正されることで訓練されたという。花王の研究員は、今回の反響については、噛み砕いて言葉にしたことが客に伝わり始めた実感があると語った。

友利氏は、技術リリースを読んでから製品を使うと、研究者が何年、何十年とかけた思いを受け取っている気がすると述べた。医薬部外品として国が認める成分は今後あまり増えそうになく、成分ブームは終わりに向かっているのではないかというのが友利氏の見立てである。一方で、各社の「秘伝のタレ」は研究が進むが、成分表には表れない。何をどう組み合わせ、どう肌に届けるか、浸透技術、処方技術、心地よいテクスチャーといった要素がますます重要になると友利氏は語った。

これからの化粧品研究はどこへ向かうのか

最後に友利氏は、日本の化粧品がどうなっていくと思うか、どうしたいかを各研究員に尋ねた。

富士フイルムの研究員は、同社が医療用の内視鏡やX線の開発も手がけ、画像から変化を見いだす部隊があることを挙げた。現在は字幕上「LCT」と聞こえる装置で皮膚の内部構造を観察し、シワなどの原因を見いだす研究をしている。切って調べることができない皮膚を、非侵襲で観察してシミやたるみの要因を見いだす研究は今後もなくならず、同社の主力になっていくと考えている。また、サプリメントも手がけることから、インナーケアを含めた老化研究も主力になると述べた。生物学的年齢を示すエピジェネティッククロックやロンジェビティは用語としてブームになっているが、同社は皮膚だけでなく全身の老化を捉え、皮膚や体内の抗老化に有効な成分や技術を生み出したいという。友利氏は、健康であってこそ皮膚も健康で美しくなるのだから、抗老化はエイジングケアの根本だと応じた。

花王の研究員は、肌の中で起きていることや効果が目に見えて分かり、それを見やすく表現することで、技術や効果の良さが手に取るように理解される、そうしたコミュニケーションができる世界を期待していると語った。9歳の娘がいることにも触れた。さらに、先ほどの細胞の話と同様に毛穴も一つ一つ違うことが分かってきており、角栓は顔全体にあるのに面皰(コメド)やニキビになるのはごく一部だという。こうしたことが解明されれば、ニキビなどに悩まない世界は近い将来にあると考えている。友利氏は、宮古島出身で最初に悩んだ肌トラブルがニキビだったと振り返り、ニキビ跡などQOLを下げる問題を毎日のスキンケアで予防できれば悩む人は減るだろうと話した。10年後、20年後には毛穴が悩みの1位でなくなる世界が来るかと問われると、研究員は来ると信じているし、その世界を作らなければと思っていると答えた。

コーセーの研究員は、ミクロとマクロの両面で考えていると述べた。ミクロでは、スイッチを入れるだけで細胞の振る舞いを変えたり、細胞自体の時間を巻き戻して若返らせたりといった、以前は考えられなかった「SF小説的」なアプローチが実現する未来が来るのではないかと予想する。そうした研究は盛んに行われており、細胞のプログラムを変えて若さを取り戻すことは可能性として十分あると考えている。マクロでは、肌は睡眠、生活習慣、食事など全身とつながっている。これまでは肌の研究にフォーカスしがちで、睡眠不足や食生活が肌にどう影響するかといった統合的な研究はデータが膨大で難しかったが、解析技術やAIの発達で大量のデータを処理できるようになった。肌と心、肌と体の境目をなくした統合的な研究が進み、全身的なアプローチで美しさや若々しさを保つ戦略ができていくのではないか、そうしたことをやっていきたいと語った。ポーラの研究員も、肌の上からのケアだけでなく生活習慣や運動を含めて美しさを追求するのは消費者の実感に近く、理にかなっていると応じた。

ポーラの研究員は、皮膚や人の違いを見ることに強い関心があると話した。ポーラは2029年に創業100周年を迎えるが、始まりは創業者が妻の手荒れを治したくてハンドクリームを作ったことだという。皮膚をケアしているつもりで、その奥にいる人をいつも思って研究しているが、人は一人一人違う。皮膚の違いや人の違いを明らかにすることが化粧品を変えていき、「私にぴったりなもの」や「私がなりたい肌になれるもの」といった、SFのような未来を現実にしていくことが研究の面白さだと語った。

ポーラの研究員はさらに、毛根の真皮再生の仕組みを解明できたのは、局所で起きている現象は平均的な検証では見えず、シングルセル解析で細胞一つ一つの振る舞いと、細胞同士がどうコミュニケーションを取って現象を起こしているかを紐解けたからだと説明した。技術の進歩でそれが可能になったことが、成果に結びついたという。また、コーセーの研究員が話したAIによる膨大なデータの統合解析も研究を大きく進めると考えており、これからはどんなデータを持っているか、それをどう解釈するかに各社の個性が出ると見ている。

独自のデータと、スキンケアが担うもの

友利氏は、AIの進歩で人がこれかこれかと試していたことの見当がつけられるようになっても、最終的には人の判断や、AIをどの方向に導くかが重要であり、それには研究員の積み重ねが欠かせないと述べた。いまや写真を撮ってAIに聞けば化粧品の情報が大量に出てくる時代であり、独自のデータを持ち、それをもとに開発する独自性がなければ戦えない世界になりつつあるという。

美容医療の分野にもいる立場として、友利氏は「スキンケアは何でもいい、美容医療さえやっていればいい」という声もゼロではないと認めた。しかし自身の考えは違い、ジャンプアップさせるのは美容医療かもしれないが、常に良い状態を保ちながら少しずつベースを上げていくのはスキンケアやインナーケアにしかできないという。そこがおろそかになると、思ったようにジャンプアップできないと友利氏は語った。

対談の最後に友利氏が、各研究員の頭の中にはすでに5年後に世に出る何かのアイデアがあるのかと尋ねると、全員が「あります」「いつも考えています」と答えた。友利氏は、数年後にまたこの対談をしたときに「あのとき考えていたのはこれだった」と答えてほしいと呼びかけ、対談は締めくくられた。