永野・宇垣美里・石田健・みなみかわが語る「人生を変えた映画・ドラマ」:『アドレセンス』から『ホステル』まで

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概要

『夜明け前のPLAYERS』特別編として、永野がMCを務め、宇垣美里、石田健、みなみかわの3人がそれぞれ「ハマっていて、もっと評価されてほしい」映画・ドラマのプレイリストを持ち寄った。作品紹介にとどまらず、ワンカット撮影の舞台裏、男性性をめぐる現代のネット文化、ドキュメンタリーの生々しさ、B級ホラーの美学まで話が広がった。本稿では、各自が作品の何に惹かれ、どう読んだのかを発言に沿って整理する。

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宇垣美里の一押し:全編ワンカットの『アドレセンス』

宇垣のリストは、配信ドラマが『アドレセンス』と『窓際のスパイ』の2本、映画が『ウィキッド ふたりの魔女』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『教皇選挙』の3本。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』はオールタイムベストだという。そのうえで、最新作から特に勧めたのが『アドレセンス』である。

宇垣の紹介によると、この作品はNetflixで配信されているイギリス制作のドラマで、イギリスでは社会現象になった。制作会社はブラッド・ピットが関わるプランBだという。13歳の少年に殺人容疑がかかり、警察が家に突入してくる場面から物語が始まる。宇垣が最も驚いたのは撮影方法で、全4話、各話60分弱がすべてワンカットで撮られている。見ているうちに息ができなくなり、なぜだろうと思ったらワンカットだったからだ、と宇垣は振り返る。圧倒的な没入感に加え、途切れずに流れ続けるため演劇に近い感触もあるという。

撮影の工夫も話題になった。カメラが空を飛んでいるとしか思えない場面があり、その撮影方法を解説した映像がXで出回っていたという。宇垣の説明では、撮影中にスタッフが後ろからこっそり近寄ってカメラに機材を取り付けていた。1本の撮影は2回で済んだものもあれば14回かかったものもあったそうで、演者とスタッフの苦労を思うと驚くしかないと宇垣は語る。

内容面では、作品が扱う社会的な傾向はイギリスでは社会問題になっており、日本でもその兆しが見え始めていると宇垣はいう。答えのない問題だからこそ考えさせられ、特に大人、とりわけ父親のあり方を問われる作品だという。出演者の一人は「自分も子供がいるのでつらい」と反応した。

出演者の一人は、普段はワンカットという手法自体にはあまり感動しないと前置きしつつ、タランティーノ作品でカメラの横にいる監督の存在を感じるように、このドラマでは制作側のことが頭に浮かぶと話した。偏執的と言えるほどの撮り方をしているので、映像の仕事をしている人ほど気になるはずだという。1話に2週間ほどかけているのではないか、通常のテレビドラマでは無理でNetflixの配信ドラマだから成立したのだろう、という推測も出た。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は「立ち上がる話」

宇垣が暴力的な映画を好むことに、他の出演者は意外そうな反応を見せた。宇垣は韓国の俳優が好きで、犯罪映画も大好きだと答えている。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』については、美術の良さや「行って帰る話」としての面白さを認めたうえで、宇垣は「立ち上がる話」として見ているという。自分たちはモノではない。自分が生きる場所をつかみ取るには、泥だらけになっても、足が傷だらけになっても立ち上がらなければならないし、なんならこの手でつかみ取らなければならない。見るたびにそう感じるのだという。

続編の『マッドマックス:フュリオサ』も高く評価された。アニャ・テイラー=ジョイの目について、ほとんど喋らないのに怒りがこもっている、あれほど孤独な目はない、と出演者たちは口々に言う。宇垣は、『怒りのデス・ロード』と『フュリオサ』を交互に見ると深みが増すと勧める。『怒りのデス・ロード』でフュリオサがマックスに肩を貸せたのは、前日譚で描かれるある男性との出会いがあったからだ、と宇垣は解釈する。その出会いがなければ男性という存在そのものを嫌いになっていたかもしれないが、信用できる人もいると知ったから男性を信じられたのだろう、という読みである。

永野もこの作品が好きで感動したと言いつつ、「行って帰るだけなのにすごいよね」と分かったような顔で語る人は苦手だったと明かした。面白いなら素直にそう言えばいい、という趣旨で、宇垣の語り方を指したものではないと断っている。永野はメル・ギブソン主演の旧シリーズも好きで、近未来像の一つの型を作った作品だと評した。

石田健が読み解く『アドレセンス』と「マノスフィア」

石田のリストにも『アドレセンス』が入っており、宇垣と重なった。「今みんなが言っている」「やっぱりすごい」と出演者たちも盛り上がる。石田は先ほど出た父親の問題に関連して、作品の背景にある「マノスフィア」を解説した。

石田の説明はこうだ。これまでネット上では、フェミニズムに対して男性側が「弱者男性」を主張する構図があった。それに対し今イギリスなどで目立っているのは、「むしろモテる男になろう」「本当にモテる男とは、強くて経済力もある男だ」とYouTubeで強く主張する「マノスフィア」と呼ばれる集団だという。10代の少年たちがこの人たちの影響を強く受けているのではないかと、現実のニュースでも指摘されている。

石田はさらに、トランプ支持層の間で人気のポッドキャストとマノスフィアの層が重なっているとも言われていると紹介した。トランプが多くのポッドキャストに出演し、それが若い層に響いたとされる。何度訴追されても大統領選に出る、強い男である、女性関係を誇る、といった反ポリコレ的な語り方が注目されがちだが、その背後にある文化的背景が大きく、そこに心を奪われている若い男性がいるのだろう、と石田は見る。男性の力強さは否定されてきたが、では弱い男性になればいいのか。そうした男性性の揺らぎに対して、「揺らぎに惑わされているのが間違いだ」と勧誘している、という構図だ。今まさに起きていることをほぼリアルタイムで作品に消化させた点がすごい、と石田は評価した。

『ダークナイト』『スポットライト』『SHERLOCK』

石田が『ダークナイト』を挙げたことに永野は驚いた。石田によれば、『マッドマックス』とも近く、作家性と商業性が両立している作品が好きなのだという。こういう場でクリストファー・ノーランを挙げると「ああ、ノーランね」と言われがちだと認めつつ、自分の作家的な映画だけでなく、とんでもない予算を獲得して実際に作り上げている点がすごいと語った。

一押しとして挙げたのは『スポットライト 世紀のスクープ』である。アカデミー賞を受賞した作品で、教会の中で起きていたことを明らかにしたスクープを描いた映画だと紹介し、非常に良いと勧めた。

BBCのドラマ『SHERLOCK』は、英語の勉強になったと言えるほど繰り返し見たという。出演者から「シーズン3で少し失速しないか」と問われると、石田は評価が分かれるところだと認めた。シーズン1・2が良すぎて主演のベネディクト・カンバーバッチが売れっ子になり、ワトソン役とのスケジュールが合わなくなったため、シーズン3は急いで作ったように見えてしまう部分がある、と石田は見ている。それでも、今をときめく俳優が世界的に認知されるきっかけになった作品だと位置づけた。

作品の設定は、シャーロック・ホームズが21世紀に蘇ったら、というもので、スマホなどのテクノロジーを駆使する。だが石田によれば、意外にもこれは非常にクラシックなホームズ像だという。原作のホームズも当時としては最新のものを使いこなす人物だったので、今蘇ればスマホを使い、テクノロジーにも詳しいはずだ、という発想が理解できるというわけだ。

インセルとアルファ男性:「時代はぐるぐる回る」のか

マノスフィアの話は出演者の関心を強く引いた。「インセル」との違いを問われ、石田はこう説明した。インセルは、自分が認められていない、本来は女性が自分を愛するべきだ、という価値観を持ち、それが反転して女性への愛憎に向かうことがある。ただしインセルは「俺たちはモテない、認められない」と内にこもる傾向があった。一方、今「アルファ男性」と呼ばれる考え方は、それはおかしいから体を鍛えよう、勉強して社会的地位を上げよう、と外へ向かう。良い面もあるが、昔ながらの男らしさ・女らしさの世界観をリバイバルさせようとしている点で、インセルとは違う危うさがあると石田は指摘する。

「時代はぐるぐる回るということか」という問いに、石田は同意した。永野は、ここへ来るタクシーで見たCMにアルファ男性っぽい人物が出ていたと話し、パーマで筋肉質の人物がビジネスを語る様子を茶化して笑いを誘った。石田は、ビジネスマンとしての成功を目指すメッセージにはうっすらアルファ男性的な要素が入っていると応じた。「正しく社会的・経済的に成功しよう」というメッセージはビジネス上の成功観と相性が良く、だからトランプ支持層とも重なるのだという。

話は映画の受容にも及んだ。『ジョーカー』はインセル的な文脈で消費されており、作り手の思想とはだいぶ違う受け止め方をされている、と石田は述べた。『マトリックス』も同様に、作り手の意図とは異なる形で表象されていると話が続き、『アドレセンス』の中でもそうした使われ方が描かれていたと指摘された。別の出演者は、その思想による被害者は女性であり、作品を見てそれをひしひしと感じたと語った。

みなみかわの一押し:イ・チャンドン監督『オアシス』

みなみかわのリストは『レスラー』『血と骨』『ガンニバル』『オアシス』『どうすればよかったか?』。まず説明したのは『オアシス』である。イ・チャンドン監督の韓国映画で、みなみかわは韓国映画好きを自認している。

みなみかわによれば、ヒロインは脳性麻痺でほとんど話せない女性で、ムン・ソリが見事に演じている。男性の主人公は『力道山』に出ていた俳優が演じる粗暴な男で、出所してきたばかりだ。二人の出会いは穏やかなものではないが、そこから絆が生まれる。周囲からは理解されず、女性の家族からは「こいつはやばいやつだ」と見られる。しかし時折、彼女が健常者として振る舞う幻想的な映像が挟まり、自分の意見を表現できない彼女の中にも実は感情がある、という形で物語が展開していく。聞いただけで鳥肌が立ったという反応も出た。

みなみかわは「めっちゃ面白いし泣ける」と勧め、だいぶ昔の作品だが韓国映画の発展ぶりを感じさせると語った。

『ガンニバル』と柳楽優弥の怖さ

今一番気になっている作品として、みなみかわはディズニープラスで配信中の『ガンニバル』を挙げた。原作は漫画で、とにかく柳楽優弥がすごいという。

いわゆる「村もの」のサスペンスで、人を食っているのではないかと疑われる村に、柳楽優弥演じる主人公が駐在として赴任する。最初は良い人に見えた村人たちに、だんだん裏がありそうだと分かってくる。みなみかわによると、この種の話は普通、怖い村から命からがら逃げ出す展開になるが、この作品では柳楽優弥自身も狂っていく。それが怖く、本当にすごい役者だと感じたという。倍賞美津子ら脇を固める俳優陣もすごい人ばかりだ。収録時点で残り4話ほどで完結するため、楽しみで仕方ないと話した。

宇垣も『ガンニバル』が好きだと応じ、あれだけの規模の作品を日本で作れるのかという驚きがあると語った。

ドキュメンタリー『どうすればよかったか?』

石田は『ガンニバル』も『どうすればよかったか?』も未見だが気になっていると話した。これにみなみかわは「ぜひ見てほしい」と強く勧め、「一生に1本撮れるかどうかの話」と表現した。

内容の説明はこうだ。姉が統合失調症になる。弟はのちに映画監督になる人物で、両親は優秀な医者だった。治療すれば何とかなったかもしれないのに、両親は姉を隠し続ける。その家族の姿を、弟が何年にもわたって記録映画にしている。本当につらく、なかなか見ていられない作品だという。

出演者からは、みなみかわのリストは生々しいものばかりだと指摘が入った。みなみかわはドキュメンタリーが好きで、えぐる作品が多いと認めた。

永野のリスト:『ミスター・ブー』から『ホステル』へ

最後は永野のリスト。『Mr.BOO!ミスター・ブー』『グッドフェローズ』『ディア・ハンター』『ホステル』『狼よさらば』である。永野は、他の3人の話を聞いた後で『ミスター・ブー』を出すのは急に恥ずかしいと照れつつ、『グッドフェローズ』のようなマフィア映画はかっこいいと語った。

一押しは『ホステル』である。永野は、監督のイーライ・ロスが日本であまり評価されておらず、もっと人気が出てもいいと考えている。ほとんどホラー映画ばかり撮っている監督だという。『ホステル』は、しょうもない若い男たちが女性目当てにスロバキアへ行き、拷問クラブでひたすら拷問されるという、とんでもなく残酷な話だ。筋だけ言えば拷問に遭うだけなのに、とにかくセンスを感じる、と永野は力説した。

永野が共感するのは、高尚なものではなく、尻やゴミのような卑近なものの中に美を感じる感覚だという。これはみなみかわも共感するところではないか、とも付け加えた。永野によれば、イーライ・ロスはデヴィッド・リンチの弟子で、芸術系の映画学校で学んだ。それでも最初からB級ジャンルの映画を撮っており、芸術映画への志向も頭の中で経たうえで、「映画ってこうだよね」という答えをジャンル映画に見いだしたのではないか、と永野は推測する。すごい監督がすごいものを撮るのではなく、センスのある人がB級に降りてきた良さがある、という見方だ。宇垣は『ホステル』を挙げる人を初めて見たと驚いていた。

B級ホラーに「俺にかかれば」を見る

永野はイーライ・ロスのキャリアもたどった。デビュー作『キャビン・フィーバー』もありきたりな設定のホラーだったという。永野はこれを、テレビディレクター出身でソフト・オン・デマンドを立ち上げた高橋がなりにたとえた。アダルトやホラーのように、外から見れば軽く扱われがちなジャンルを「俺にかかれば」と手がけている気がするという。みなみかわもこの感覚に同意した。

食人族を題材にした『グリーン・インフェルノ』も、えぐいのにめちゃくちゃ笑えると永野は評する。その後は魔法ものなども撮らせてもらっていたが、原点回帰したのか、3年ほど前に『サンクスギビング』を撮った。アメリカの感謝祭に殺人鬼が来るだけの話なのに、それが向こうでヒットしているという。昔見た『13日の金曜日』のようなものが求められているのが面白い、と永野は話した。

『狼よさらば』はチャールズ・ブロンソン主演の古い作品で、妻を殺された男が自ら復讐するだけの話だという。永野は「そういうのが好きなの」と言いかけて、必死に喋ったけれど疲れているのかもしれない、論客と話すと勝てない気がする、と照れ笑いした。『ガンニバル』の話を聞いた後だと気後れする、と自嘲する永野を、他の出演者は「分かりますよ」「そういうものですから」とフォローした。

殺人の起きない「ホラー」としての『ディア・ハンター』

最後に取り上げられたのは『ディア・ハンター』である。出演者の一人は、殺人も起きず、怖いお化けも出てこないのに、めちゃくちゃホラーな作品だと評した。別の出演者は、見ながら気分が悪くなったと振り返り、その言い回しの古さに笑いが起きた。

4人のリストは、社会問題を映す最新の配信ドラマから、韓国映画、日本のドキュメンタリー、B級ホラーまで大きく異なった。一方で、作家性と商業性の両立(石田)、卑近なものに宿る美(永野)、生々しさへの関心(みなみかわ)、立ち上がる物語への共感(宇垣)と、それぞれが作品を選ぶ軸は語りの中ではっきり示されていた。