屋形船の上の「生電話人生相談」:成田悠輔が難病の女性、浪人生と話したこと

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概要

『夜明け前のPLAYERS』の特別編である。成田悠輔は冒頭、「地球上のあらゆるゲスト候補に断られた」ので、ゲストが来ないなら視聴者をゲストにすると宣言する。番組は事前に電話番号を公開し、成田は日本橋を出た船の上で、かかってきた電話にその場で出て話す。台本のない会話の中で、病気と生活、欲望、嫌いなもの、浪人と大学進学、長くなりすぎた人生といった話題が次々に出てくる。

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雨の隅田川で始まった企画

電話は船に電源を入れた直後に早くもかかってきた。成田はオープニングの口上もそこそこに1本目を取る。船は日本橋から川を上り、やがて隅田川に出た。スカイツリーが見え、終盤にはレインボーブリッジに近づいていく。

ただし、成田だけが屋根のない場所に座らされ、スタッフは暖かそうな屋内にいる。成田はTシャツに上着を1枚羽織った程度の格好で、出航から間もなく雨が降り出した。雨に打たれながら「もう無理だと思ったら川に飛び込みたい」と冗談を言い、雨粒がつくたびにカメラのレンズを拭く作業が挟まる。そんな環境で、相談は進んでいく。

1人目:骨髄移植のコーディネート中の女性

最初の電話の相手は、「さち」と名乗る愛知県西三河地方在住の女性である。地元の名物として、茶色い皮の中にあんが入った饅頭の話が出ると、成田は「豆を煮て小麦粉で包むのは炭水化物を炭水化物で包むしつこさで、そこが素晴らしい」と返し、和菓子で糖尿病になれるなら本望だと話した。

近況を尋ねられた女性は、最初は元気だと答えていたが、実は骨髄移植のコーディネート中だと打ち明ける。彼女は提供を受ける側で、骨髄の適合には血液型ではなくHLAの型が関わる。自分は医師ではないので詳しく説明できないと断ったうえで、子どもの頃から輸血が多かったため拒絶反応が起きやすい状態にあると説明した。

移植には血縁ドナー、臍帯血、骨髄バンクの登録者という3つの道がある。女性の場合は血縁と臍帯血が合わず、骨髄バンクで相性のよい候補者が見つかった。いまは最終的な細かい検査の段階で、ドナー側の最終的な決断や都合によっては移植ができなくなる可能性もある。結果を待っている状態だという。

病気の経過と、輸血に頼る日常

女性の説明によれば、病気はT細胞が自分の骨髄を攻撃してしまい、骨髄に脂肪のようなものが溜まって造血がうまくできなくなるものだ。子どもの頃に発症し、一度は治まった。出産のときに再発し、出産後しばらくして多少よくなった。しかし3〜4年ほど前から再び悪化し、この3年で受けられる治療を一通り試したがうまくいかなかった。そこで移植を勧められたという。

現在は輸血に依存しており、およそ2週間に1回のペースで輸血を受けている。輸血を続ける限り大丈夫なのかと成田が聞くと、女性はそう単純ではないと答えた。輸血を重ねると肝臓が悪くなり、これまでの治療で腎臓も悪くなった。さらに血小板が少ない。基準値の下限が13万程度のところ、自分は1万ほどだという。血が止まりにくいため、見える場所の出血ならまだよいが、脳内出血のように自分で気づけない出血が起きると危ない、と彼女は語った。

難病指定でも残る経済的な負担

成田は、重い話を淡々と語る女性に経済的な負担を尋ねた。女性は「正直大変」と答える。病名が難病に指定されているため、特定医療費受給者証を受け取っている。ただし全額が補助されるわけではない。夫の扶養に入っているので、夫の収入に応じてここまでは自己負担という上限があり、それを超えた分に補助が出る仕組みだという。

そのほかにも負担はある。ほぼ毎週の通院にかかる交通費などは自費で、移植を受けるための細かい検査にも自費のものがある。さらに仕事を辞めたため、パートの収入がなくなった。「今まであったものがない」という感覚がある、と女性は話した。

「地獄の真横に天国がある」

この話を聞いている最中、提灯の下でカラオケらしき音を立てる大型の宴会船が横を通り過ぎた。成田は乗っている人たちを「愚か者っぽい集団」と呼び、女性は「愚かかどうかはわからない。楽しそうで何より」とたしなめる。成田はそこから、この世界は地獄の真横に天国があるようなものだと続けた。苦しんでいる人のすぐ横を、酔い潰れた人がへらへらと通り過ぎていく。それがこの世界の愚かさであり、面白さだとふと思った、と彼は言う。

タワマンの灯りと、欲望を持たないことの有利さ

隅田川沿いのタワーマンションを見上げながら、成田は明かりがついている部屋が10〜20%程度しかないと指摘した。まだ21時半なのに暗い理由について、成田は投資用に買って住んでいない人が多いのではないかと推測し、「東京の病」と呼んだ。

マンションが欲しくないのかと聞かれると、成田は「全く思わない」と答え、欲望は持たないほうが勝ちだと話した。欲望を持つと競争が始まる。しかし大体のものは必要ない。必要ないものを必要ないと思えれば無駄に消耗しなくて済むので、有利だというのが成田の考えである。裏返せば、本当に必要で大事なものはあまり多くない。それが何かを見極められれば、幸せへの近道になるのではないか、と彼は述べた。

女性は自分は欲張りだと笑い、食べたいものの欲が一番多いと話す。昨日ケーキを食べたので、今はこってりしたラーメンが食べたいという。成田は、帰りにラーメン二郎にでも寄りたいと応じた。

人の本質は「好きなもの」より「嫌いなもの」に出る

途中で女性の夫が帰宅し、なぜ成田と話しているのかと驚く場面を挟んで、女性は電話がつながったら聞きたかったことを尋ねた。成田が自分にハッシュタグをつけるなら何か、という質問である。眼鏡以外で、という条件がついた。

成田が挙げたのは「#タワマン嫌い」「#飲み会ばっかりやってる連中が嫌い」「#テレビ業界の人たちが嫌い」だった。嫌いなものばかりだと指摘されると、成田は、好きなものより嫌いなもののほうに人の本質が出る気がすると説明した。女性も、自分にタグをつけるならマイナスのことしか浮かばないと共感する。

成田はその理由を、負の力のほうがエネルギーが大きいからだと説明する。チーズケーキが大好きな人でも、チーズケーキがないと夜も眠れず体をかきむしって血まみれになる、という人はいない。一方、上司が大嫌いで蕁麻疹が出たり起きられなくなったりする人は普通にいる。大嫌いなものに呪われて身動きが取れなくなり、人生がずたぼろになる人はたくさんいる。だから、何が好物かより何が耐えがたいか、何が大嫌いかで人を分類したほうが、人を本当に理解できるのではないか、と成田は述べた。

番組の公式Xに「つながらない、順番待ちしている」という苦情が届き、通話は終わった。女性は、移植が決まってほしいと思っているが「なんとかなります」「なるようになります」と話した。

2人目:やりたいことがない浪人生

2人目は新田と名乗る19歳の浪人生である。10月の時点で、翌年1〜2月の受験を控えている。最近は少し元気がないという。

成田はまず、浪人は楽しいという説もあると話す。解き放たれて少し根無し草のようになり、好き勝手なこともできる。辛さと自由が入り混じった不思議な状態ではないか、というのである。新田が「時間はある」と答えると、成田は時間の不思議さに話を広げた。忙しいと時間が欲しくなるが、時間がたくさんあると辛くなる。時間はほどほどがよく、それは人生の長さにも言えるが、ほどほどは難しい、と成田は言う。

若返る人間と、若返らない社会

新田が、食事制限などで寿命を延ばそうとする人たちもいると応じると、成田はアンチエイジング技術の進歩に触れた。人間は健康になって長生きし、20〜30歳ほど若返っているらしい、と彼は紹介する。今の60代が昔の40代くらいの肉体能力や認知能力を持っている、つまり今の高齢者は昔よりずっと若い、という話である。

成田はそれを良いことであると同時に辛いことでもあると見る。人間は若返っているのに、社会は若返っていない。40〜50歳で職業人生が終わりに近づき、徐々に引退していくという社会のあり方がいまだにはびこっている。人生観もそれに基づいて作られている。健康で長生きになる一方で、生き方や人生観、社会観が追いついていない、というのが成田の見立てである。

そのうえで成田は、浪人のような寄り道はこの長すぎる人生ではプラスになることが多いのではないかと問いかけた。若い時期に学校や会社といった組織にどこにも属さない期間は、浪人くらいしかない。所属や肩書きを外したときに自分が何者なのかと向き合う時間になる。それは辛いことでもあるが、その辛さにこそ本質があるのではないか、と成田は述べた。

奨学金と「クソゲー1とクソゲー2」

新田の相談は、やりたいことも決まっていないのに大学に行くのはどうか、というものだった。国立に落ちて私立に行き、奨学金を返せなくなるのが怖いという。

成田はまず、大学を出ると給料が上がる場合が多いので、奨学金はその後の収入増で取り返せることが多いのではないかと答えた。新田によれば、4年間の奨学金は国立で250万円程度、私立の理系だと700万〜800万円程度になる。成田は単純化のために生涯年収を1億円と低めに見積もり、700万〜800万円はその7〜8%にあたると計算した。大学に行くことで給料が7〜8%以上上がらなければ取り返せない。平均的には取り返せる場合も多いが、少ししくじると危ない、というのが成田の評価である。

一方で、大学に行かない選択にも別のしくじり方がある。成田はこれを「クソゲー1とクソゲー2のどちらをプレイするか」にたとえた。新田のちょうど2倍くらい生きた「ろくでもない老害」として気づいたのは、この世の中は意外にクソゲーだということであり、どちらのクソゲーが肌に合うかの問題だという。どの大学かについては、有名な大学や偏差値の高い大学なら、その後の就職の見通しが不確実でなくなり、しくじる確率を減らせるだろうと付け加えた。

「レールの上を、情けなさに直面しながら歩く」

ただし成田は、こうした話をしながら一番思うのは、大学に行くべきかという話がとてつもなくしょうもない話になりがちだということだと言う。打算、リスク回避、何かあったときの保険が手に入るか、という話ばかりになる。理想は、そんな耐えがたい話をして人生を終えたくない、自分はそこから逸脱するんだという謎の熱量が自分の中に生まれることだ。

その熱量がないうちは、やりたいことがない自分に情けなく向き合いつつ、妥協の印として、人が敷いたレールにとりあえず乗るという道もある、と成田は話す。新田が「レールの上を行くのが一番何も考えなくていい」と応じると、成田は、その場合もレールに乗ることが何も考えていない情けないことだと直面しながら歩くのが大事だと念を押した。成田自身もとりあえずレールに乗ってきた人間で、いつも情けなく、絶望的な気分になりながらレールの上を歩いている、と語った。

成田はさらに、浪人は後から見ると意外にいいものなのではないかと述べる。ただし、浪人中の本人が「浪人は意外にいいものだ」と開き直り始めたら終わりだという。浪人という意外にいいものをやりながら、その状態にある自分に絶望するのが大事だ、というのが彼のまとめだった。新田が「間違いない」と答えると、成田は「そんなに深く納得されても困る」と返した。

ショートメールと、推薦された写真集

番号公開後、成田の元には多くのショートメールが届いていた。成田は通話の合間にいくつか読み上げた。「電源が入っていないと出るが番号は合っているか」という問い合わせ、成田の40歳の誕生日を祝うメッセージ、自分の誕生日(10月28日)に祝いのメッセージが欲しいという依頼などである。成田は誕生日の依頼にその場で返信した。数か月前に亡くなった父と番組を見たり著書を読んだりしていたので、死生観や自分の人生について一言欲しい、というメッセージも読み上げられたが、この場ではそれに対する成田の答えは語られていない。

新田は最後に、おすすめの本を尋ねた。新田が宮台真司の本をよく読むと話すと、成田は、宮台真司や自分の本は世界を斜に構えて見て人生を棒に振る可能性が高いので「読んではいけない」に指定したいと冗談めかして答えた。新田はその2人の本が一番好きだという。

代わりに成田が勧めたのは、写真家・野町和嘉の大型写真集『地球巡礼』である。成田によれば、野町は地球上の各地を冒険し、人がまだ撮っていない場所や景色を撮る写真家で、この写真集は宗教の聖地や、祈りを捧げる人が巡礼する場所を世界中から集めたものだ。それを見ると地球や人類がいかに大きいか、今自分たちが東京でやっていることがいかにどうでもいいことかがわかる気がした、と成田は話す。絶版でプレミア化しており、通販では6〜7万円ほどになると思うので図書館で眺めてみてほしいと勧め、買ったら領収書を送ってほしいと冗談を添えた。

3人目の途中で中断

3人目はファッションデザインの専門学校に通う人物だった。しかし話し始めた直後に雨がひどくなり、成田はびしょ濡れになってしまう。「中に入りたい」と言って会話は中断し、字幕はここで途切れる。3人目の相談の中身は、この素材からはわからない。