AnthropicのMythos級モデル「Claude Fable 5」は何ができ、何が制限されているのか

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概要

2026年6月、Anthropicがそれまで公開を見送っていた「Claude Mythos」を一般に使える形でリリースした。ただし、すべての能力をそのまま開放したわけではない。能力を制限しないモデルとフィルターをかけたモデルの2本立てで提供している。安野貴博氏はリリース当日にこの動画を撮影し、2つのモデルの違い、性能と事例、価格、能力フィルターの中身、そして利用者が今のうちに確認すべき点を解説している。安野氏の立場は、Fable 5は通常の用途ではMythosとほとんど変わらず、早めに試しておく価値があるが、データ保持方針の変更には注意が必要だというものだ。

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発表から2カ月後のリリース

安野氏はまず経緯を振り返る。AnthropicがClaude Mythosを発表したのは2026年4月だった。サイバーセキュリティにおける攻撃能力が高すぎ、そのまま公開すると危険ではないかという理由から、発表だけしてリリースはしなかった。その後約2カ月が経ち、米国時間の6月9日、日本時間の6月10日に、Mythosが使える形で提供された。

「Mythos 5」と「Fable 5」の2本立て

安野氏が「面白いリリースの仕方」と評するのが、2つのバージョンを分けて出した点だ。1つは「Mythos 5」で、4月に発表されたMythosの能力をそのまま使えるモデルである。もう1つが「Fable 5」で、Mythosのうち危険とされた能力にフィルターをかけたモデルだ。

一般に公開されたのはFable 5のほうである。Mythos 5は、たとえばセキュリティ業務に携わる人など限られた相手にだけ提供され、誰でもアクセスできるわけではない。

ベンチマーク:多くのテストで首位

性能について、安野氏はベンチマークの考え方から説明している。新しいAIが出ると、その能力を測る多数のテストを受ける。人間が英検3級を受けたり、数学で60点、理科で何点と成績を付けられたりするのと同じように、AIもさまざまな能力をテストで測られる。

安野氏によれば、Mythos 5とFable 5は受けたテストの多くで1位を取っており、ChatGPTやGeminiなどと比べても最も良い結果とされている。しかも僅差で上回ったのではなく、他を大きく引き離した結果も多いという。

実務での事例:Stripeの大規模コード移行

Anthropicは、Fable 5やMythos 5が実際の仕事に使われた例も紹介している。安野氏が最初に挙げたのは、決済企業Stripeのソフトウェアエンジニアリングの事例だ。人手なら2カ月以上かかると見込まれた5000万行のRubyのソースコードの移行を、Fable 5が1日で終えたという。

安野氏はまず5000万行というコード量に驚いている。人間がそれを2カ月で移行できるという見積もり自体にStripeの底力を感じるとしつつ、それを1日で済ませたFable 5はさらにすごい、と評価している。

デモ:Factorioの自動化、CAD、流体シミュレーター

実際に使わせた例はほかにも多く出ており、YouTubeで検索しても見つかると安野氏は言う。安野氏の好きなゲームの1つに、工場を作ってさまざまな工程を自動化していく「Factorio」がある。AI時代にプレイすべきゲームとしてよく名前が挙がる作品だ。自動化がテーマのこのゲームを、さらにAIで自動化するというデモをAnthropicが公開している。

このほか、ブラウザーで動くCADエディターで3Dプリント可能なモデルを設計した例や、EDMのビートに同期する流体シミュレーターのようなものを作った例もある。安野氏は、いろいろなものを「センスよく」作れているように見えると述べている。

価格:前モデルOpus 4.8の約2倍

価格は、1つ前のモデルであるOpus 4.8のおおよそ2倍だという。AIの価格は、入力トークン100万あたりと出力トークン100万あたりで示すことが多い。Fable 5は入力が10ドル、出力が50ドルである。安野氏は、日本語ならおおよそ100万文字を読ませて10ドル、100万文字を書かせて50ドルと説明し、1ドル160円程度で換算するとそれぞれ1600円、8000円くらいになるとしている。

安野氏は、正直もっと高くなると予想していたという。一部の利用者向けに公開されていた「Mythos Preview」の価格が入力25ドル、出力125ドルだったという情報があったからだ。性能の高さを考えると値上がり幅はもっと大きいと思っていたが、実際には2倍程度にとどまり、Previewと比べれば手を出しやすい価格になった、というのが安野氏の受け止めである。

財務担当者を悩ませるトークン予算

それでも安野氏は、Fable 5を使える場面はかなり多く、こなせる仕事量も増えていると見ている。そのため多くの会社の財務担当者が、Fable 5を社員にどこまで使わせるべきか大いに悩むのではないかと予想する。

会社によっては、AIを使う準備が整いつつあり、AIを使えば使うほどいろいろな仕事ができる状態になってきている。そうした会社にとって、能力も価格も高いモデルをどう扱うかは非常に難しい問題だ。来年度の予算にトークン費用をどれだけ積んでおくべきか、財務担当者は悩んでいるはずであり、安野氏自身も悩んでいると明かしている。

安野氏は論点をこう整理する。トークンだけ、つまりAIだけでは仕事は片づかない。人間だけでも、AIと組んだ人間に比べると仕事は遅くなる。では、AIと人間の比率をどう考えるべきか。しかもこの1年のあいだにも、Fable 5を超えるモデルが次々と出てくると考えられる。その中で会社のトークン費用をどう見積もればよいのか。安野氏はこの問いに答えを出しておらず、別の動画で改めて扱いたいとしている。

能力フィルター:弱体化された4つの領域

次に安野氏は、Fable 5の「能力フィルター」の中身を説明する。Mythosが公開されなかった元々の理由はサイバーセキュリティの攻撃能力だったが、Fable 5ではこの点に対策が施されている。さらに生物学、化学、AI開発の能力も軒並み弱められ、制限の対象になっている。

化学は危険な物質を作れてしまうおそれ、生物学は危険なDNAやRNAを設計できてしまうおそれがあることから、悪用リスクのある領域として強めの制限がかかっている。

生物学をめぐる公開書簡

安野氏はここで、別の話題として前の週の出来事にも触れた。OpenAI、Google、Anthropicのトップを含む人々が共同で署名した公開書簡が出たという。生物学の分野でAIにできることが増えているため、新たな規制を導入すべきではないか、という内容だ。

具体的には、DNAの配列データを入力すると、それを合成して物理的に届けるサービス(合成DNA・合成RNA)がある。こうしたサービスにきちんと規制を入れるべきだと、この3社に加えてバイオ分野の研究者なども含めて提言した。安野氏は、この領域は実はとても注目すべき分野だと考えている。そしてAnthropicは現在、Fable 5ではこうした能力をしっかり弱体化できていると主張している、と紹介している。

蒸留を察知すると「サイレントに」弱体化

制限対象の最後に挙がっている「AI開発」の能力について、安野氏は「蒸留」という手法から説明する。新しく登場した強いモデルの出力を使って別のモデルを学習させる手法で、以前から企業間で行われてきた。ある会社のAIモデルを他社の人が使い倒して入力と出力のデータを大量にため、そのデータで学習させると効率よくモデルを作れる。

AI企業同士が互いに蒸留しているのではないかという噂もある。Anthropicはこれを防ぐため、蒸留が行われていそうだと気づいたら、利用者に知らせずに(サイレントに)性能を落とす仕組みを入れているという。どの時点で弱体化されているかは、動画撮影時点の情報ではあまり公開されない。そのため、Fable 5から蒸留しようとした会社は、自分たちが弱体化されたモデルを使っていることに気づけない。

安野氏はこれを「ちょっといやらしい」と評し、AI企業同士の開発競争が新しい段階に入り、こうした手法が実戦投入されつつあるのが今のAI企業の状況なのだろうと述べている。

普通の用途への影響は小さいと安野氏は見る

こうした能力フィルターは、生物学者や化学の研究者、AI開発者にとっては困るものだろうと安野氏は認める。ただし一般的な用途では、フィルターはあまり関係しないはずだという。ソフトウェア開発の一部でもフィルターがかかっているのではないかという議論が出ているらしいとも触れているが、普通の使い方ならMythosとFableにそれほど差はないはずだ、というのが安野氏の見立てである。

さらに安野氏は、フィルターの挙動は今後使われる中でわかってくる部分も多いと考えている。Anthropicは当初は安全側に倒し、実際には悪用の意図がない操作でも引っかかる範囲を広めに取っているだろうと推測する。そのうえで、フィルターは徐々にこなれていくので、一般の人にとってFable 5だからMythosより大きく性能が劣るということはないだろう、と述べている。いずれも安野氏の推測として語られた内容だ。

6月23日までのサブスク期間に試しておく

安野氏の具体的なおすすめは、早めにFable 5を使い、何がどれくらいできるのかを試しておくことだ。理由は料金体系にある。6月23日まではサブスクリプションプランの一部としてFable 5を使えるが、それ以降は従量課金になるとされている。つまり、高めのサブスクプランに入っていても、Fable 5を使う分は入力10ドル、出力50ドルの単価で別途課金される形になるらしい。撮影日の6月10日から数えると、残りはおよそ2週間である。

安野氏が勧める使い方は、すでに何かを作っていて既存のコードベースがあるなら、この2週間のうちに「ウルトラコード」(字幕上の表記)でコードのさまざまな課題を徹底的に洗い出しておくことだ。

データ保持方針の変更に注意

もう1つの注意点として、安野氏はデータ保持の変更を挙げている。Fable 5では安全性の確保を理由に、データの扱いが変わったらしい。これまでAnthropicのプランには、データをAnthropicのサーバーに保持しないとしているものがあった。たとえばエンタープライズプランでは、業務で使うデータがAnthropicのサーバーに保存されないとされていた。これに対しFable 5では、データが30日間保持されるように変わったという。

この30日間の保持は学習に使うためではなく、安全性が確保できているかを確認するためだと説明されているらしい。それでも従来の方針とは違うため、安野氏は、情報システム部門の担当者はこの点を確認し、自社としてどう対応するかを検討するとよいと述べる。試しに触ってみる人も、データ保持の方針が変わったことを認識したうえで使うべきだとしている。

結び:テストはこれから

安野氏は最後に、世の中を騒がせていたClaude Mythosに相当するモデルが、Fable 5として一般に使えるようになったことを改めて確認した。安野氏自身も撮影当日にいろいろ触ってみて、「すげえな」と思う出力がいくつかあったという。ただし本格的な検証はこれからで、今後さらに試していくとしている。能力フィルターが実際の用途でどこまで影響するのか、そして企業がトークン予算をどう見積もるべきかは、動画の時点ではまだ答えの出ていない問いとして残されている。