Mr.マリックはなぜ「超魔術」と名乗ったのか 暴露と顔面麻痺を経て、疑う観客を相手にするまで

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概要

東大医学部に在籍するYouTuberのベテランちが聞き手を務める対談番組の後編である。ゲストのMr.マリックは、テレビで大ブレイクした経緯、その後に続いた暴露報道と顔面麻痺、疑う観客を前提に芸を作り直した過程、そしてキャラクターを変えながら長く活動を続けてきた方法を語った。対談の途中では「超魔術」を2つ実演し、マジックとの違いを説明している。終盤では、留年を重ねているベテランち自身の「遠回り」も話題になった。

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「マジック」と言わずに演じたラウンジ時代

マリックによれば、デビュー前はステージではなくラウンジで芸を見せていた。客席のテーブルを回り、目の前で演じる形式である。浅草ビューホテルで演じていた頃、噂を聞いたテレビ局のプロデューサーが作家と一緒に見に来た。そのプロデューサーは、黙って見ていると「これは超能力ですね」と言ったという。

マリック自身は、マジックと呼ばれても超能力と呼ばれてもかまわなかったと話す。人を楽しませればよいという考えだった。ただ、「マジック」と言えば観客は「トリック」と受け取ってしまう。そのため、何とも名乗らずに「何でしょうね」と言いながら演じていた。

その後、同じプロデューサーが「11PM」の楽屋を初めて訪ね、特番に出ないかと持ちかけた。まるまる1時間を任せるという条件で、会ったばかりの相手への提案だった。マリックは、このプロデューサーが決定権を持っていたこと、金曜の「11PM」は好きなことをやれる枠だったことが幸いしたと振り返る。

「超不思議現象」という呼び名と視聴者の苦情

番組側の方針は、芸の正体については黙っておくというものだった。それでも何か呼び名が必要だったため、「超不思議現象」と言って演じることになった。マリックは、この「超」が流行したと語り、今の「超面白い」や北島康介の「超気持ちいい」といった言い方もその影響だと冗談交じりに主張している。

放送後は視聴者から苦情の電話が来た。手品なら手品と言ってやれ、という内容である。それでも「11PM」で何度か放送した後、「木曜スペシャル」でMr.マリックを看板にした特番が組まれることになった。

奥から登場するという演出

木曜スペシャルの特番では一流のスタッフが集められ、テーマ曲も決まった。字幕では曲名が「レックス」と聞き取れる。マリックはこの曲を、プロレスラーが花道を歩くときに観客を高揚させる音楽になぞらえている。

特にこだわったのは登場の仕方である。マリックの考えでは、カリスマ性を出すには奥か上から登場するしかない。「笑っていいとも!」のように左右から出てくるのではだめだという。プロレスの花道や伊勢神宮の参道のように、正面の奥から現れる形を作るため、スタジオの3分の2を登場のためだけに使い、残り3分の1を観覧席にした。普通とは逆の配分である。2回目の特番では階段を使って上から降りてきた。舞台では珍しくなくても、当時のテレビではあまり見られない演出だったと、ベテランちも補足している。

この特番で人気は一気に広がった。木曜スペシャルは年2回ほどのペースで、8回ほど放送されたという。

暴露報道、そして顔面麻痺

人気が出ると、「あれは超能力ではない」という暴露本が次々に出版され、週刊誌も取り上げた。ユリ・ゲラーの登場で手品の勢いが落ちたので超能力風の見せ方に変えたが、元は手品師だ、という論調だった。

マリックはこの時期にストレスがたまったと話す。ストレスは人の弱いところに出るもので、胃の弱い人は胃に穴があき、心の弱い人はうつ病になる。自分の場合は顔面麻痺として出たという。マリックの説明では、耳の奥の神経(本人は「三叉神経」と呼んでいる)が8割ほど切れた。友人と食事をしていたとき、鏡を見てくるよう言われてトイレで確かめると、顔がずれていた。

すぐにペインクリニックへ行き、1日2本の麻酔注射で治療した。注射はかなり痛かったという。しばらくは口を閉じられず、パ行の音が発音できなかった。マリックの芸には「スプーン」「ハンドパワー」などパ行の言葉が多い。観客からは「今日はハンドパワーと言わないな」という声が聞こえてきた。そのため黙って演じ、顔をセロハンテープで留め、大きなサングラスでごまかしながら舞台を続けた。それでも、テレビからは大きく遠ざかった時期があったという。

拝む観客と暴露本を読んだ観客

この時期に、マリックは初めてのライブを渋谷のクラブクアトロで開いた。舞台に出て客席を見ると、半分の観客は手を合わせてマリックを拝んでいた。残りの半分は暴露本を読んできた人たちだった。信者とアンチが混ざった客席になっていた。

スプーン曲げを見せると、拝んでいる人たちはまったく驚かなかった。超能力だと信じているので、当然起きることとして見ている。一方、疑っている人たちは非常に驚き、どこに仕掛けがあるのかを必死に探していた。

マリックはこの経験から、疑っている人を大事にしなければエンターテインメントとして面白くならないと考えるようになった。ファンを喜ばせるだけでは本当のアーティストではない。あれこれ言ってくる人、突っ込んでくる人も驚くようなものを作るため、超魔術をさらに磨こうと決めたという。

実演1:手の上で500円玉が瓶に入る

マリックは当時目指した方向を説明するため、1つ目の実演を行った。スプーン曲げはユリ・ゲラーで有名になった芸である。それに対してマリックが目指したのは、目の前のタレントの手の上で現象を起こすことだった。テーブルの上で演じると、テーブルが怪しいと言われるからだ。

使ったのは胃薬が入っていた普通の薬瓶と500円玉である。ベテランちがキャップを外して瓶を確かめ、カメラにも瓶の裏側まで映した。瓶の口を500円玉が通らないことも確認した。500円玉を自分の手の上に置き、瓶をその上に置くと、硬貨は瓶の中に入っていた。ベテランちは強く驚き、瓶も硬貨も調べて自分の手の上に置いたのだから「何かやっているだろう」とは言いようがない、と反応した。

マリックによれば、周りを囲まれてどこから見られても成立する芸を目指して作り直した。こうした芸をライブで見せ続けたことで、ようやく「超魔術」という世界ができたという。

超魔術とマジックの違い

マリックの説明では、怪しい道具を使うとどうしても子どもだましになる。カードが出てくる、帽子から何かが出てくるといった古典的なマジックは、今の観客にとっては「それはできるでしょう」「そこが怪しいでしょう」と見なされる範疇にある。だから超魔術では、なるべく怪しくない物を使って不思議な現象を起こすことにしたという。

実演2:切った靴紐がつながる

続けてマリックは、最近作ったという芸を見せた。ロープを切って元に戻す「ロープ切り」は多くのマジシャンが演じるが、今回は普通の靴紐とはさみを使う。

ベテランちが紐を触って確かめ、真ん中あたりを自分で切った。マリックは切れた端同士を片結びで結び、ベテランちに結び目を強く握らせた。そのうえで、手を開いてロープが落ちた瞬間に結び目がほどけて元に戻る、と事前に予告した。ベテランちが手を放すと、靴紐は結び目のないきれいな1本に戻っていた。ベテランちは、自分で切って自分で握っていたと驚いている。

「わからない」を「ありえない」に変える

マリックはこの実演の狙いを説明した。従来の魔術は、隠していたものを出して「わからない」と思わせるものだった。それを「ありえない」という驚きに変えたという。

そのために、これから何が起きるかを先に言っておく。予告されると、観客は驚く準備ができる。予告せずに起こすとただの「びっくり箱」になり、「戻るなら戻ると言っておいてほしい」「鳩が出るなら出ると言っておいてほしい」と言われてしまう。「こんなことはありえないですよね」と言ってから演じる形に作り直した、とマリックは話す。

ベテランちはこれを、事前に予告されると観客は仕掛けのパターンを自分で考えるので、その可能性をすべて否定したうえで現象が起きるから驚きが大きい、と言い換えた。科学を信じる現代の観客にこそ効く、とも感想を述べている。

パロディによる再浮上と「6年周期」

成功の後、再び「インチキ」と言われ、テレビに出ない時期が来た。そのときに声をかけたのが、日本テレビのプロデューサー五味一男である。マリックと五味は近所に住み、それぞれの家族と同じ焼肉店で食事をしていた縁があった。ベテランちは、クイズ研究会にいた頃に高校生クイズでアルバイトをしており、五味を知っていると話している。

五味の提案で、マリックは自分自身のパロディを演じた。「ミスターマリック」の文字を組み替えた「栗間太澄(クリマタスミ)」というキャラクターで、「ハンドパワー」ならぬ「手力」を使う。バラエティ路線で行こうという方針だった。親戚から「お前よりすごいのが出てきた」と電話が来ても、自分だと言えずに話を合わせたことがあるという。マリックは今でも自分よりこのキャラクターのファンがいると話す。このパロディは「特報王国」という番組でかなり続けた。

その後も五味の番組で、本名の「松尾」から名付けたキャラクターを作ってもらった。「本名は何」と聞かれて答えると、その場で名前が決まったという。プロデューサーがアイデアを出し、マリックが実現するという役割分担だった。最後に「実はMr.マリックだった」と明かしてキャラクターを交差させ、かなり長く持たせたと語っている。

マリックはこの業界について、飽きられたら終わりだと言う。小学1年生は6年経てば6年生になり、視聴者は6年ほどで入れ替わる。だから6年ごとくらいにキャラクターを変えないといけない。マジシャン、パロディ、次のキャラクターと、ちょうどよい間隔で変えながら生き延びてきた、というのが本人の説明である。

孫が止めたマジック漬けの生活

仕事の勢いは今は下がっているが、私生活は上向いているとマリックは話す。同じくらいの年頃の孫が2、3人いるという。子どもは父親の仕事を理解して練習を邪魔しなかった。孫は部屋に入ってきて「何やってるの、遊ぼう」と練習を止める。片手間でチャンバラをしていると、子どもはいなくなってしまう。遊ぶときは本気で遊ばないと子どもは気づく、とマリックは言う。

60年以上マジック一筋で来たが、孫によって初めてマジックを休んだ。マジックをしていなくても幸せな人はたくさんいると、そこで初めて周りが見えたという。マリックは「孫はコンタクトレンズみたいなもの。目に入れても痛くない」と冗談を交えて話し、見えなかったものが人生では突然見えるようになる、と続けた。仕事はそこまでがつがつやらなくてもいい、人生とはそういうものだと思う、とも語っている。

日常会話で使うマジック:親指が取れる

マリックは今、もっと多くの人にマジックをやってほしいと考えている。日本人は内気でコミュニケーションが苦手なので、マジックを1つくらい覚えておくとよい、という考えだ。番組では、指さえあればできる簡単な芸を教えた。

まず親指を強く握り、先端を赤くする。「これが本当の自分の唇の色だ」と話し、相手にも同じことをしてもらう。そのうえで「こんなに赤くなると取れる」と言って、親指が抜けるように見せ、また生えてくるように戻す。種明かしでは、曲げた人差し指を親指の頭に見立て、握り込む段階からその形にしておき、抜く瞬間だけを相手に見せる方法が紹介された。相手の顔の近くでやると強く驚くという。

マリックが強調したのは、この芸は「マジックをやります」と言って始めてはいけないという点である。日常会話の中で唇の色の話から入り、驚かせたら日常の会話に戻す。靴紐の芸のように事前に予告すると効果が上がるものもあるが、日常で演じる場合は、突然マジックを始めると相手が引いてしまうからだという。

ベテランちの「遠回り」への助言

番組の趣旨に沿って、ベテランちは自分の現状を話した。浪人1回、留年5回で、27歳の大学4年生。YouTubeやテレビに出演し、文章も書いている。卒業する気はあるという。大学で「自分は卒業できると思うか」と聞きに行くと、5回留年してもへこたれていない学生は見たことがないのでわからない、と言われた。多くの学生はもっと早い段階でやめるか進むかするからだという。

ベテランちは、卒業すれば病院で働くことになるが、医師は副業ができないので今の活動をやめることになるかもしれない、と迷いを口にした。医師の仕事は疲れそうで、あまり面白くなさそうだとも話した。

マリックは、ここまで来たのだから医師になった方がいいと勧めた。働くかどうかはどちらでもよいが、免許を持っていればいろいろなことに役立つ。マジシャンは免許がなくてもプロになれるが、医師は誰でもなれるものではない。少なくとも免許は取っておけば、その後も考えられる、という助言だった。ベテランちも、経営者をしている医師はお金を借りやすいと聞くと応じた。叱られると思っていたベテランちは、優しい助言だと感謝し、医師免許を取ったら持ってくるので消してほしいと冗談で返している。

マリックにとっての「遠回り」

最後に「遠回りとは何か」と問われ、マリックは「修行の道」だと答えた。自分もプロになるまで何十年もかかった。遠回りした分だけ身につき、遠回りした人は長く持つ。早くデビューして早く売れた人は、2発目、3発目を出すのが難しいという。

マリックは、ビートたけしに「遅くデビューしてよかったね」と言われた経験を紹介した。理由を尋ねると、遅くデビューした人はみんなが応援してくれるから、という答えだった。回り道は自分のためにもなり、周りにも勇気を与える、とマリックは話す。ベテランちに対しては「いい修行をしている」と言いつつ、「あと1回くらい留年してみては」とからかった。ベテランちは、あと1回留年すると退学になると返し、卒業に向けて頑張ると述べて対談は終わった。