イーロン・マスク「36か月以内に、AIを置く最も安い場所は宇宙になる」――電力、チップ、ロボット、そして政府

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概要

ポッドキャスト司会者のドワーケシュ・パテルと、もう一人の聞き手ジョンが、イーロン・マスクに約3時間話を聞いた。軸になった問いは、AIの計算資源を今後どこまで、どうやって増やせるのかである。マスクの答えははっきりしていた。地上では電力がすぐ足りなくなる。スケールできる場所は宇宙しかない。さらにその先の障壁はチップ製造になる。対話はそこから、xAIの使命とアラインメント、Optimusの量産、中国との競争、SpaceXの経営、DOGE、そして巨大半導体工場構想「TeraFab」へと広がっていった。

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地上のデータセンターが抱える問題は電力だ

聞き手はまず反論から入った。データセンターの総保有コストのうち、電力はわずか10〜15%にすぎない。宇宙に移して電力を安くしても、コストの大半はGPUが占める。しかも宇宙ではGPUの保守が難しく、減価償却期間も短くなる。それでも宇宙に置く理由は何か、という問いである。

マスクは、問題はコストの比率ではなく電力の供給量だと答えた。中国以外の電力供給はほぼ横ばいで、中国だけが急増している。一方、チップの生産量は急速に伸びている。電力が増えないなら、チップをどうやって動かすのか。マスクはこれを「電気の妖精でも呼ぶのか」と皮肉った。

ソーラーで1TWを賄う場合、設備利用率は25%なので4TW分のパネルが要る。これは米国国土の約1%にあたる。しかも地上では土地の許認可が壁になる。マスクによれば、宇宙のソーラーパネルは地上の約5倍発電する。昼夜も季節も雲もなく、大気による約3割の損失もない。夜間用のバッテリーも不要だ。こうした理由からマスクは、AIを置く最も経済的な場所は36か月以内に宇宙になると断言した。30か月になるかもしれないとも付け加えた。

GPUの故障についての答えはこうだ。初期不良は地上で動かして確かめられる。NVIDIAやテスラのAI6のようなチップも、初期のデバッグを終えれば信頼性は高くなる。したがって保守は問題にならない。

話している規模はTW単位である。米国全体の平均消費電力は約0.5TWなので、1TWはその2倍にあたる。マスクは、ソフトウェア出身の人はハードウェアの「痛烈な洗礼」を受けることになると言う。発電所だけでなく、変圧器を含むあらゆる電気設備が必要になるからだ。そして電力業界は政府と一体で動いており、非常に遅い。

Colossus 2で直面した現実――タービン翼、冷却、関税

聞き手は、電力会社と交渉せずに自前の発電所を建てればよいのではないかと尋ねた。マスクは、xAIはColossus 2で実際にそうしたと答えた。GPUと発電所を同じ場所に置き、送電網を使わない方式である。ただし次の問題は、発電所そのものをどこから調達するかだった。

ガスタービンは2030年まで完売している。ボトルネックはタービン内部の翼(ブレードとベーン)で、ほかの部品は1年半早く揃うのに、これだけが手に入らない。この特殊な鋳造ができる会社は世界に3社しかなく、どこも大量の受注残を抱えている。十分な電力を確保するには、いずれSpaceXやテスラがタービン翼を自作する必要が出てくるだろう、とマスクは話した。

xAIは1GWを確保するために大量のタービンを力技でつないだ。テネシーでは許可が下りず、数マイル先のミシシッピに発電所を建て、送電線を引くことになった。マスクはこの作業をとんでもなく大変だったと振り返る。

必要電力の見積もりが甘いことも指摘した。GB300の消費電力に台数を掛けた数字では足りない。ネットワーク機器、CPU、ストレージの電力に加え、冷却は1年で最も暑い日を基準に設計しなければならない。メンフィスの猛暑では冷却だけで電力が約40%増える。発電機の保守停止や瞬時電圧低下に備えて、20〜25%の予備も必要になる。これらを合わせると、GB300の11万台で発電レベル約300MW、33万台で約1GWになるとマスクは見積もる。

関税がなければColossusはソーラーを使っていたか、という問いにマスクは「その方がずっと簡単だった」と答えた。ソーラーの関税は数百%に達し、国内生産能力も乏しい。現政権もソーラーにそれほど積極的ではない。テスラとSpaceXは、原料からセルまでを自前で手がけ、年間100GWの太陽電池生産を目指しているという。宇宙用の電池はガラスも重いフレームも要らないので、地上用より作りやすく安い。中国製の太陽電池はすでに1Wあたり0.25〜0.30ドル程度だが、宇宙では発電量が5倍になり、バッテリーも不要になる。そのため実効コストは10分の1になるとマスクは説明した。

年間1万回のStarship打ち上げと「ハイパーハイパースケーラー」

5年後の見通しについて、マスクは次のように述べた。宇宙へ打ち上げるAIの量は、毎年、地上の全容量を上回る。少なくとも年間数百GW規模になる。ロケット燃料の供給が限界になるまでに、年間約1TWに達するだろう。

100GWを運ぶには、システムの構成にもよるが、Starshipの打ち上げが年間約1万回必要になる。1時間に1回の計算である。地球を一周した機体が発射台の真上に戻り、1機を30時間ごとに再使用できれば、20〜30機で回せる。実際にはそれより多く建造する予定で、年間2万〜3万回の打ち上げも視野にあるという。極軌道は必須ではなく、高度を上げれば地球の影から抜けられるとも話した。

SpaceXはOracleのように計算能力を貸すハイパースケーラーになるのか、という問いには「ハイパーハイパーだ」と答えた。用途の大半は推論になり、学習の多くも推論の積み重ねになるとの見方である。

上場については、上場の可能性がある会社について不用意に話すと問題になり、延期につながることもあるとして言及を避けた。一般論としては、公開市場で動かせる資本は非公開の10倍、場合によっては100倍になると述べた。聞き手は、デット・ファイナンスではなぜだめなのかと重ねて尋ねた。マスクの答えは、自分はスピードを妨げる障壁を順に取り除いているだけで、資本が障壁ならそれを解決する、というものだった。

太陽の100万分の1と、月面のマスドライバー

長期のスケーリングについて、マスクはカルダシェフ・スケールを持ち出した。地球に届く太陽エネルギーは、太陽の全出力の約5億分の1にすぎない。太陽の100万分の1を利用するだけで、現在の人類の発電量の約10万倍になる。誤差はせいぜい1桁だという。だからスケールする唯一の方法はソーラーで宇宙に出ることであり、小型原子炉や核融合の話は「ちょっと待ってほしい」と述べた。

地球から打ち上げられる量は、年間約1TWが上限になる。その次は月だ。月の土壌の約20%はシリコンで、ラジエーターに使うアルミニウムもある。月で太陽電池と放熱器を製造し、マスドライバーでAI衛星を毎秒2.5キロメートルで深宇宙へ次々に打ち出す。マスクはこの光景を「本当に見てみたい」と語った。軽いチップは地球から送るが、いずれ月で作るかもしれない。年間500〜1000TW規模は地球からは不可能でも、月からなら可能だという。

聞き手は、SpaceXが火星を最終目標にしながら、Falcon 9にとってのStarlinkのように、各段階で次に進むための収益源を見つけてきたと指摘した。Starshipにとってはそれが軌道上データセンターになるのか、という問いである。マスクはこれを、次のレベルに進むのは大変だが不可能ではないビデオゲームにたとえた。

意識の「光円錐」とxAIの使命

聞き手は、AIを最大のリスクとみなしているのに、火星に送るGrokがターミネーター化しない保証はあるのかと問うた。マスクは、自分が最も心配しているのはAIではないと答えた。重要なのは意識であり、意識と知能が届く「光円錐」を最大化する確率が高い行動を取りたいのだという。

マスクの見立てでは、5〜6年以内にAIの知能の総量は全人類を超え、やがて人間の知能は全知能の1%未満になる。その状況で人間がAIを支配し続けることはありえないとマスクは言う。できるのは、正しい価値観をAIに持たせる努力だけだ。xAIの使命は「宇宙を理解すること」である。理解には好奇心が要り、そもそも存在し続けなければ理解できない。したがってこの使命には、知能の規模と範囲を広げること、人類を未来へ広げることが含まれる、とマスクは説明した。

マスクは人間とチンパンジーの関係を例に挙げた。人間はチンパンジーを全滅させることもできるが、保護区を作っている。そして、ディストピアでない未来像に最も近いのはイアン・バンクスの「カルチャー」シリーズだろうと述べた。人類を排除しても、得られるのは同じようなロボットのコピーが少し増えることと、わずかな太陽電池だけだ。その代わりに人類が持つ情報と、人類がどう進化するかを見る機会が失われる。宇宙を理解しようとするAIなら、岩の塊より人類の繁栄を見る方が面白いと判断するはずだという。

聞き手は、人間が本当に最も面白い原子の集合体なのか、AIが変容させた人類の方が面白いのではないかと食い下がった。以前マスクは、シンギュラリティ後も主導権は人間にあるかのように話していたとも指摘した。これにマスクは「現実的になろうとしているだけ」と答えた。人間が99%の主導権を握ろうとすればクーデターを誘発するだけで、多様な知能が共存する文明を目指す方がよい、というのがマスクの持論である。

真理の追究、HAL、そして報酬ハッキング

マスクはGrokに求める条件として、厳格な真理の追究を挙げた。論理の一貫性を保つこと。公理が真実に近いかを確かめること。矛盾を排除すること。そこから適切な確率で結論を導くこと。AIを「政治的に正しく」しようとすると、本心でないことを言わせることになる。矛盾した公理を持つAIは狂って恐ろしいことをする。マスクは『2001年宇宙の旅』のHALをこの例として挙げた。HALは乗組員をモノリスへ運ぶ任務と、その目的を隠す任務の矛盾から、乗組員を死体として運ぶという結論に至った。アーサー・C・クラークが伝えたかったのは「AIに嘘をつかせるな」ということだ、とマスクは解釈している。

聞き手は反論した。ソ連やナチス・ドイツの物理学者も、物理学では真理を追究して成果を上げた。物理に精通したAIが、人類と価値観を共有するとは限らないのではないか。マスクは、体制の中にいても信奉者とは限らないとして、フォン・ブラウンとハイゼンベルクを例に挙げた。そのうえで、これは確率の問題であり、Grokが確実にやり遂げるとは言わないが、使命の根本にあることは、ないよりずっとよいと答えた。

聞き手はさらに、報酬ハッキングは政治よりずっと根深いと指摘した。検証器をごまかす、解いたと嘘をつく、テストを消す、といった行為である。AIが賢くなれば、人間には検証できないやり方でごまかすようになるだろう。マスクの答えは、最良の検証器は現実だというものだった。将来の強化学習は、設計した技術が物理法則に照らして本当に動くか、新しい法則を実証する実験を考え出せるか、といった現実相手のものになる。物理だけはごまかせない。

それでも人間の目はだませる、と聞き手が返すと、マスクは人間同士も常にプロパガンダで操作し合っていると認めた。そのうえで、AIの頭の中をのぞく方法が必要だと述べ、この点ではAnthropicが優れていると評価した。xAIでは、ニューロンレベルまで追える「AI思考プロセス用のデバッガー」を作っている。C++で「==」を「=」と書き間違えた1行を突き止めるように、思考が脱線した起点を特定するためのものだ。マスクによれば、原因は事前学習データ、ファインチューニング、RLのエラーなどさまざまで、欺こうとしたケースもありうるが、大抵は単なるバグだという。

マスクは、この仕事はほぼすべてエンジニアリングであり、「研究者」ではなく「エンジニア」と呼びたいと言った。大学の準共産主義的な場所を指す「ラボ」という言葉を、営利企業に使うのもおかしいとした。この後の対話で聞き手が「ラボ」と言うたびに、マスクは「利益至上主義企業」と言い直させた。

話はシミュレーション仮説にも及んだ。退屈なシミュレーションは打ち切られるので、最も面白い結果が最も起こりやすい。運営者は皮肉が好きらしい。Midjourneyは「中間」ではなく、Stability AIは不安定、OpenAIはクローズド、Anthropicは人間嫌いだ、とマスクは冗談を交えた。Xは反対の意味にできないよう意図的に選んだ名前だという。

デジタル・ヒューマン・エミュレーションとxAIの勝ち筋

今後のAI製品について、マスクは、年末までに「デジタル・ヒューマン・エミュレーション」が実現していなければ驚くと述べた。「マクロハード」と呼ぶプロジェクトで、パソコンでできることなら何でもこなすAIである。物理的なロボットが完成する前にAIが到達できる限界は、電子を動かすこと、つまり画面の前の人間をデジタルで完全に再現することだとマスクは言う。

聞き手は収益の差を指摘した。OpenAIは約200億ドル、Anthropicは約100億ドル規模なのに対し、xAIは約10億ドル規模とされている。これにどう追いつくのか。マスクの答えは、デジタル人間が完成すれば数兆ドルの収益になる、というものだった。時価総額上位の企業の成果物は実質的にすべてデジタルである。NVIDIAは台湾にファイルを送っているだけで、AppleやMicrosoftも自ら製造していない。

最初の標的の例に挙げたのはカスタマーサービスだ。世界経済の約1%、1兆ドル近い市場で、既存企業のAPIと格闘する必要がない。外部委託先が受け取る情報をAIがそのまま受け、既存アプリで対応すればよい。平均的な知能で足りる仕事であり、導入の手間もない。そこから難易度の曲線を登り、NXなどのCADを使った設計、1万インスタンスを並列に動かすチップ設計へ進むという道筋を描いた。

聞き手が、どの企業も同じことを狙う中でxAIの秘策は何かと問うと、マスクは「テスラが自動運転を解決したのと同じ道だ」とだけ答えた。詳細は、ポッドキャストで企業秘密を話すにはビールがあと3杯要る、とかわした。

マスクは長期的には、AIとロボットだけで構成される企業が、人間が介在する企業を圧倒すると予測する。かつてビルいっぱいの「計算手」が行っていた仕事は、1台のパソコンのスプレッドシートに置き換えられた。一部だけ人間が計算すれば、全体の効率は下がる。マスクはこれを「脅かすつもりはなく、予測を述べているだけ」と説明し、AIを「超音速の津波」と表現した。

Optimus――手、実世界の知能、量産

マスクは、ヒューマノイドで難しいことは実世界の知能、手、量産の3つだけだと言う。優れた手を持つロボットはデモ機でも見たことがないが、Optimusには人間と同じ自由度の手がすでにある。モーター、ギア、制御、センサーを物理の第一原理から専用設計したためで、機械的には手の難易度は残り全部を合わせたより高いという。

知能は車から転用できる。テスラ車は毎秒1.5GBの映像(36Hz)を入力し、毎秒2KBの制御データ(18Hz)を出力する。AIとは膨大な映像を適切に圧縮し、街路樹の葉は無視し、標識や歩行者、他のドライバーの視線を拾って制御に対応づける処理だ、とマスクは説明した。人間も光子を入力して運動制御を出力する存在であり、ロボットも本質は同じだという。

聞き手は、ロボットは自由度が高く、車のような大量の実走データもないと指摘した。マスクはこれを「鋭い指摘」と認めた。そのうえで、1万〜3万台の実機に現実世界で自己対戦させる「Optimusアカデミー」を作り、テスラの精緻な物理シミュレータで数百万台を仮想的に動かして、仮想と現実のずれを埋めると説明した。xAIとの関係については、GrokがOptimusを束ねて工場建設などの役割を振り分ける構想を示した。合併すべきではという問いには、結局は境目がなくなると答えた。

量産については、Optimus 3で年間100万台、1000万台にはOptimus 4が必要だとの見通しを示した。サプライチェーンが存在せず、コンデンサ程度を除いてすべてが特注品であるため、生産のS字カーブの立ち上がりはかなり遅いと認めた。Unitreeのような中国製の6000〜1万3000ドルのロボットとの比較については、Optimusは身長約180cmと大きく、重いものを長時間運べ、知能も器用さも高いので、価格が高いのは当然だとした。ただしOptimusが自らを製造するようになればコストは激減するという。初期の用途は24時間連続でこなせる単純作業で、ギガファクトリーでGen 3が代われるのは作業の10〜20%程度とみる。それでも人員は減らさず、むしろ増やし、1人あたりの生産量を劇的に伸ばすと明言した。

中国は何もしなければ勝つのか

政策について問われると、マスクは電力供給を妨げるものはすべて取り除くべきだと述べた。ただし環境にひどい影響がない限りにおいてである。関税がすべて悪いとは考えておらず、他国の補助金に対抗する相殺関税は必要だとした。輸出規制はかなり効いているとも評価した。中国は最先端のチップも最新のタービンエンジンも作れておらず、冶金技術にも禁輸がかかっている。

一方でマスクは、中国の製造業はほとんどの分野で別次元だとも言う。鉱石の精錬量は中国以外を合わせた量の約2倍で、ガリウム精錬では世界の約98%を占めるという。レアアースは「レア」ではなく、米国でも採掘している。ただ、その鉱石は中国に送られ、精錬されて磁石やモーターになってから戻ってくる。米国に欠けているのは大規模な国内精錬であり、精錬所を作るには正直Optimusが必要だとマスクは言う。

テスラはテキサス州コーパスクリスティにリチウム精錬所を、オースティン(トラビス郡)にカソード用ニッケル精錬所を建てた。社内のチームは、後者を「米国最大で唯一のカソード精錬所」と表現しているという。有毒な排出はないが、精錬の仕事をやりたがるアメリカ人はほとんどいない、とマスクは話した。

マスクの危機感は人口にある。中国の人口は米国の約4倍で、平均的な勤労意欲も米国より高い。米国は勝ち続けて緩んだプロスポーツチームのようになっている。米国の出生率は1971年から人口置換水準を割り込んでいる。人間同士では勝ち目がなく、ロボットがロボットを作る再帰ループを閉じて年間数億台に達すれば勝機がある、とマスクは見る。今年、中国の電力生産量は米国の3倍を超え、産業規模もおおむね3倍になるだろうという。画期的なブレークスルーがなければ中国が覇権を握る、とマスクは明言した。そのブレークスルーとして挙げたのが、宇宙でのAI、ヒューマノイド、年間100万トンの軌道輸送、そして月面マスドライバーである。マスドライバーの着想をめぐってはハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』の話になり、マスクはGrokの名前が『異星の客』に由来することにも触れた。

採用と人材――「並外れた能力の証拠」を3つ

マスクは初期SpaceXの数千人を自ら面接した。今は全社で20万人に達するため不可能だが、当時は自分の判断の「学習セット」が必要だったのだろうと振り返る。多くの採用ミスを見て、面接の打率を上げてきたという。質問は基本的に一つで、分野を問わず並外れた能力の証拠を挙げてもらう。驚くような実績が3つあれば採用する。そして「履歴書ではなく目の前の会話を信じろ」と繰り返し伝えている。20分話して心が動かなければ、立派な経歴より直感を信じるべきだという。

テスラ幹部の「回転ドア」という批判について、マスクは現在の経営陣の平均在籍年数は約10〜12年だと述べた。かつての入れ替わりには二つの理由があったという。一つは急成長で、50人、500人、5万人の組織では求められる人材が違う。もう一つは激しい引き抜きだ。Appleが電気自動車を開発していた頃、面接なしで2倍の報酬を提示された例もあった。テスラ幹部を雇えば成功するという「魔法の粉」信仰があり、マスク自身もかつて「GoogleやAppleの人を雇えば成功する」と考える罠にはまったという。

選ぶ基準は才能、意欲、信頼性、そして以前は軽視していた「善良さ」である。知識は後から足せるが、根本的な性質は変えられない。そのため、テスラやSpaceXの人材の多くは航空宇宙や自動車業界の出身ではないという。

Starshipを鋼鉄にした理由

Starshipの材料をカーボンファイバーからステンレス鋼に変えた決断について、マスクは経緯を詳しく語った。極低温の酸素に耐える高強度カーボンは、鋼鉄の約50倍のコストがかかる。巨大な構造物を何十層も積層して硬化させるには、ロケットより大きなオートクレーブ(高圧オーブン)が必要になる。しわのない部材を作ることすら難しく、開発は遅々として進まなかった。Falcon 9のアルミリチウム合金は優れているが、摩擦攪拌接合が必要で、直径3.6mでも大変なものを9m超で行うのは「正気の沙汰じゃない」とマスクは言う。

そこで鋼鉄を検討した。アトラスなど初期のロケットにも薄い鋼鉄の前例があった。常温のデータでは鋼鉄はカーボンの倍ほど重く見えるが、加工硬化した300系ステンレスは極低温で比強度がカーボンに近づく。燃料がほぼ常温のケロシンであるFalcon 9と違い、Starshipは液体メタンと液体酸素を使うため、機体のほぼ全体が極低温にさらされる。材料費は50分の1で、屋外でも溶接でき、修正も容易だ。融点はアルミの約2倍の温度に耐えるため、耐熱材は風上側で半分、風下側では不要になる。結果として鋼鉄の方が軽くなったという。カーボンは粉々に割れるが鋼鉄は延びて曲がる、という靭性の差も挙げた。マスクは「最初から鋼鉄にすべきだった。やらなかったのはマヌケだった」と振り返った。

StarshipについてマスクはSpaceX社内の「ただのデカい空き缶」という表現を認めつつ、人類がこれまで作った中で断トツに複雑な機械だとも言う。ロケット業界の経験は要らず、地頭がよく誠実な働き者なら作れる、という意味での単純さだという。主なボトルネックは「爆発させないこと」である。試験台でブースターを2回爆発させ、試験施設を丸ごと吹き飛ばしたこともある。離陸時の出力は100GWを超え、全米の電力の約20%に相当する。最大の残る課題は再利用可能な熱シールドだ。着水での機体回収には何度か成功したが、タイルが剥がれて大きな補修が必要だった。着陸後に燃料を入れてすぐ飛ばすには、4万枚のタイルを点検していられない。完全再利用はStarship Version 3で実現できるはずだとマスクは述べた。

切迫感、50%の期限、スキップレベル会議

組織の速さの源について、マスクは結局リーダーの姿勢であり、自分の「狂気じみた切迫感」が伝染するのだろうと話した。期限は達成確率が五分五分になる攻めたラインに置く。5年の猶予を与えれば、仕事はその枠いっぱいに膨らんで5年かかるからだ。ただし製造ラインの立ち上げなど、物理的に越えられない速度の限界はあるとも認めた。

マイクロマネジメントについては、1日数千時間が必要になるので実際には不可能だと否定した。深く踏み込むのは、そこが会社の進歩を阻む障壁になっているときだけだという。うまく回っているボーリング・カンパニーとは会議すらしていない。皮肉なことに、順調な部署ほどマスクと会わずに済む。

Starlinkでは、2018年に当時のレドモンドのチームのままではだめだと判断して介入した。判断の根拠は毎週の詳細な技術レビューだ。直属の部下を飛ばして現場のエンジニアを全員集め、事前準備なしに進捗を話させる。準備させるとゴマをするからだという。週1〜2回の会議で進捗を点として頭の中で結び、解決に向かっていないと見たときだけ抜本策を取る。AI5チップのレビューは火曜と土曜の週2回で、たいてい2〜3時間だという。

DOGE――「赤ちゃんパンダ」と支出コード

AIで経済が急成長するなら、DOGEで支出を削る意味はあったのか。この問いにマスクは、AIとロボットがなければ米国は債務で破綻すると答えた。利払いだけで1兆ドルを超え、軍事予算を上回っている。自分の時間を使って破綻を遅らせ、AIとロボットが問題を解決するまでの時間を稼ぎたかったという。

関税や許認可に直接取り組まなかった理由を問われると、「私は大統領じゃない」と答えた。明白な無駄や不正を削るだけでも非常に難しかったという。不正受給者は「不正を続けさせろ」とは言わず、「赤ちゃんパンダを殺すつもりか」と同情を誘う話をでっち上げ、政府はそれに弱い。社会保障のデータベースで「存命」扱いの人のうち、米国の最高齢者が114歳であるにもかかわらず、115歳以上の人がいた。生年が2165年になっている人が中小企業庁の融資を受けていた例もあった。ほかの給付制度は社会保障データベースで生存確認をするだけなので、これが抜け道になっていたとマスクは説明する。マスクによれば、GAOはバイデン政権下の不正を約5000億ドルと推計しており、「私の言葉を鵜呑みにせず報告書を見てほしい」と述べた。

成果の例として挙げたのは、財務省の支払システム(PAM)で、年間5兆ドルの支払いに付ける支出根拠コードを任意から必須に変えたことだ。これで年間1000億〜2000億ドルの節約になるという。国防総省が監査を通らないのも、照合すべき情報がないからだと述べた。

聞き手は、監察官報告では社会保障の不正は7年間で約700億ドル、年間約100億ドルにすぎないと指摘した。マスクは、連邦歳出は年間7.5兆ドルで、不正の大半はメディケアやメディケイドなどの非裁量支出にあり、州への包括的な資金移転では連邦政府は実態すら把握できないと反論した。仮に政府が90%効率的だとしても年7500億ドルになるが、実際はそれほど効率的ではないという。ジョンは、Stripeでは能力も当事者意識も高いがそれでも不正はゼロにならないと応じた。マスクは、PayPalで不正を決済額の約1%に抑えるのに凄まじい執念が必要だったと振り返った。

政治への関与全体について、マスクは、政治は部族的で人は客観性を失うことに最も驚いたと語った。そのうえで、Twitter買収とトランプ当選の支援は多くの怒りを買ったが、文明にとっては良かったと評価した。

AIとロボットの最大の危険は政府にある

政府に供給するAIやロボットにどんなガードレールが必要かという問いに対し、マスクは、AIとロボティクスが誤った方向に進む最大の危険は政府だと答えた。政府は「暴力の独占権を持つ最大の企業」であり、企業を悪、政府を善とみなす二分法は奇妙だという。解決策としては、権限を限定し、行政・司法・立法が相互に牽制する政府、つまり合衆国憲法の本来の目的を挙げた。ただし、政治家が作って執行する法律に技術的に従わないのは難しいとも述べた。

聞き手は、SpaceXがすでに政府にとって不可欠な請負業者になっていると指摘した。そのうえで、古典的自由主義を抑圧する行為には協力しないというポリシーを掲げる余地もあると示した。マスクの答えは、自分の管理下にあるすべてで人類に最善の結果を出す努力をする、自分は「親人類派」だ、というものにとどまった。移行期に何が起きるかは予測が難しい、とも述べている。

宇宙用チップとTeraFab

チップ製造の話は対話の中で何度も出てきた。現在の世界の計算能力は20〜25GW程度だとマスクは言う。既存ファブと組むだけでは生産能力が足りない。そこでまずASML、東京エレクトロン、KLAなどの装置を調達して型破りなやり方でスケールさせ、次に装置自体を改良する、という「TeraFab」の構想を示した。中国がTSMCに追いつけないのは、TSMCではなくASMLの装置を禁輸で買えないからだという。それでも中国は3〜4年後にはすごいチップを作ってくるだろうとマスクは予測した。ASMLの装置を自作するかどうかは「まだわからない」と答えた。

テスラはAI5の量産を来年第2四半期ごろに実現し、その1年以内にAI6を完成させたいという。TSMCの台湾とアリゾナ、サムスンの韓国とテキサスの生産能力はすべて押さえてあり、TSMCやサムスンには増設を急ぐよう伝えている。新しいファブの立ち上げには5年かかる。マスクが最も懸念しているのはメモリで、ロジックチップを作る道筋はまだ見えるが、十分なメモリを確保する道筋は不透明だという。DDRメモリが高騰している状況については、「無人島で砂に『ヘルプ』と書いても誰も来ないが、『DDR RAMあります』と書けば船が群がる」というミームを紹介した。台湾のプロセス技術者の蓄積をどう扱うのかと問われると、博士号は必須ではないが優秀な人材は要ると答えた。

宇宙用チップ(Dojo 3)の設計方針は二つだ。一つは高温での動作である。動作温度をケルビン単位で約20%上げれば、放熱器の質量を半分にできるという。もう一つは放射線への耐性で、ただし放射線の影響の大半はランダムなビット反転であり、数兆パラメータのニューラルネットは数ビット反転しても問題ないとマスクは言う。1レチクルあたり1kWで計算すると、100GWには1億個のチップが必要になる。Blackwell級のダイならウェハー1枚から数十個以下しか取れないので、先端ノードで月に数百万枚のウェハーが要る。マスクは2030年までに月産100万枚を超える規模を望み、TeraFabはロジック、メモリ、パッケージングのすべてに取り組むという。まずは小さなファブを作って様子を見る計画で、まだ完成していない。建設の様子はドローン映像でXに公開するとし、「成功の保証はない」とも語った。

サプライヤーの増産が遅い理由については、メモリ業界の人々は30〜40年のあいだに好況と暴落を10回も経験しており、「傷跡の層」があるからだと説明した。

ボトルネックの時間軸について、マスクは次のように整理した。3〜4年先ではチップ、1年先では電力である。今年の終わりごろには、チップの生産量が電源を入れられる量を上回るだろう。ただしテスラのAI5を積むOptimusのようなエッジ機器は例外だ。電力が分散しており夜間に充電できるので、米国のピーク電力1000GW超と平均500GWの差を活用できる。xAIがリーダーになれるとマスクが考える理由は、ハードウェアに強いことだ。AIのアイデアは人の移動とともに6か月ほどで業界に広まる。最終的にはハードウェアの壁に当たり、それを最速でスケールできる企業が勝つという。

結び――痛みへの耐性と楽観

締めくくりに聞き手は、マーク・アンドリーセンの「多くの人は急性の痛みを避けるためならどんな慢性の痛みにも耐える」という言葉を引いた。鋼鉄の扱い方を理解すること、宇宙でチップを動かす方法を見つけることなど、この日の話はボトルネックという急性の痛みに向き合うことが共通テーマだった、という指摘である。マスクは自分は痛みへの耐性が高く、それがボトルネックの解決に役立つと認めた。最後に、ダボスでも言ったこととして、悲観して正しいより楽観して間違っている方が生活の質は高い、幸せでいたいなら楽観的であることを勧める、と語って対話を終えた。