発表からわずか3日で停止した「Claude Fable 5」──何が起き、なぜ止まったのか

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概要

2026年6月9日にAnthropicがリリースした「Claude Fable 5」は、わずか3日後の6月12日に提供停止となった。同時に「Claude Mythos 5」も止まった。安野貴博氏はこの動画で、確認できる事実と噂・憶測を分けながら、何が起きたのか、なぜ止まったのか、今後どうなりそうかを整理している。安野氏自身も、どこまでが確かな話でどこからが憶測なのかは分かりづらいと断っている。

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6月12日に何が起きたのか

安野氏によると、6月12日、アメリカ政府は国家安全保障上の権限を根拠に「輸出管理指令」を出した。対象はClaude Fable 5とClaude Mythos 5の2モデルである。指令は、アメリカ国内か国外かを問わず外国籍のユーザーにこの2モデルを使わせないよう求めた。アメリカ国内にいる人でも、外国籍の従業員であれば対象に含まれる。

止まったのはこの2モデルだけで、同じClaudeでもOpusやSonnetなど他のモデルは通常どおり使えている。

Anthropic社内にも外国籍の従業員は多くいる。ユーザーも含めて一人ひとり外国籍かどうかを判別して止めることは現実的にできない。そのため結果として、AnthropicはFable 5とMythos 5を全顧客向けに無効化した。安野氏がこの動画を収録した6月27日時点でも、Fable 5は「現在利用できません」という状態が続いていた。安野氏は、ここまでは現物を確認できる「硬い話」だと位置づけている。

Fable 5とMythos 5はどういうモデルだったか

安野氏は背景として両モデルの位置づけを振り返る。Anthropicは4月頃、ソフトウェアのセキュリティ上の欠陥、つまり脆弱性を見つけて修正する能力が非常に高いモデル「Mythos Preview」を発表した。ただし公開はごく限られたパートナーに限るとしていた。

そのMythos Previewを継続的に学習させつつ、危険な能力を抑えたのがFable 5だという。危険な能力として安野氏が挙げるのは、サイバー攻撃の能力や、生物学分野で危険なDNA配列を作る能力である。Fable 5は、そうした能力を取り除いた一般向けの安全なモデルとして作られた。安全性に相当配慮したモデルで、セーフガードは一部で「強すぎる」と言われるほどだった。そのモデルが、3日後には安全保障上危ないとして政府に止められたことになる。

指令の書面は存在するが、具体的にどのような懸念があるのかは書面の中でも明らかにされていない。安野氏は、サイバーセキュリティや分子生物学の観点などいろいろな可能性があり得るとしつつ、理由の詳細は公開されていないと指摘する。詳細がないからこそ、なぜ止まったのかについてさまざまな憶測が飛び交うようになった。

前提としての政府とAnthropicの対立

停止理由の噂を見る前に、安野氏はアメリカ政府とAnthropicの関係がもともと良くなかった点を押さえておきたいと話す。

Anthropicはアメリカ軍にClaudeを提供していた。ベネズエラやイランをめぐる軍事行動でもClaudeが使われていると言われている。そのうえで今年1〜2月頃、国防総省はLAWS(Lethal Autonomous Weapons Systems、自律的に殺傷する能力を持つ兵器システム)でもClaudeを使えるようにしてほしいと要望した。Anthropicがこれを断ったため、今年の初めには両者はすでに揉めていた。国防総省がAnthropicを自らのブラックリストに指定するほどの対立だった。安野氏は、政府の一部門が言うことを聞かない企業を「危険な会社リスト」に入れたのは相当なことだと述べる。

ところが4月にMythosが発表されると状況が変わった。サイバーセキュリティ能力が非常に高いため、防御を固めるにはこれを使い、その能力を把握しておく必要がある。そこで国防総省の下にあるインテリジェンス機関、NSA(国家安全保障局)が5月頃からMythosを使い始めたという。さらに5月には国防総省自身もMythosを使うことになった。ブラックリストに指定したまま利用するという二重基準の状態になっていたそうだ。安野氏は、今回の件の前にこうした緊張関係がそもそもあったと説明する。

最も確からしい説:Amazonが政権に懸念を伝えた

停止理由にはいろいろな噂があるが、安野氏が「まあまあ確からしい」とするのは、Amazonが政権に懸念を伝えたという説である。AmazonのCEOアンディ・ジャシー氏が、トランプ政権の高官にAnthropicの最新モデルのセキュリティ上の懸念を伝えたという記事が出ている。ロイターやWIREDなど複数の媒体が報じているため、安野氏はそこそこ硬い話だろうと見ている。懸念を伝えた相手はスコット・ベッセント財務長官だったという報道もあるが、このあたりの名前は報道によって揺れているという。

Amazonが見つけた懸念の中身は公開されておらず、関係者の証言ベースの情報しかない。例えば、Amazonの研究者がFable 5のジェイルブレイクに成功したという検証があったと言われている。特定のプロンプトを使うと、Fable 5にサイバー攻撃をさせたり、攻撃に使える情報を引き出したりできたという。また関係者の話として、NSAも検証に加わり、Fable 5のガードレール(安全装置)を外せることを見つけたという噂もある。

政権のアドバイザーの一人であるデイビッド・サックス氏の投稿もあったそうだ。安野氏の紹介によると、その投稿の内容は次のようなものだった。信頼できるパートナーが脆弱性を突く手口を教えてくれたので、政府はAnthropicに修正を求めた。しかしAnthropicが拒否したため、輸出管理を発動した。安野氏は、いろいろな人がいろいろなことを言っているものの、基本的には「Fable 5に危険性や懸念があるのではないか」ということがきっかけだったとされている、とまとめる。

Anthropic側の反論

Anthropicは公式ブログで反論している。安野氏の紹介によると、問題にされたのは非常に狭い範囲の話であり、示された例も軽微な脆弱性を見つけた程度のものだった。ガードレールはきちんと機能しているはずだという。さらに、示された程度の危険性であれば、現在公開されているGPT-5.5など他社のモデルでも同じことができると主張している。

政府側は危険だと主張し、Anthropic側は他のモデルでもできることだと主張している。両者の言い分は真っ向から食い違っている、と安野氏は整理する。

AmazonとAnthropicの近い関係

安野氏が「面白い」と注目するのは、Amazon説が本当なら両社の関係から見て驚くべき話だという点である。AmazonとAnthropicは非常に近い関係にある。

まず、AmazonはAnthropicに多額の出資をしている。安野氏は、正確な数字は公表されていなかったと思うと断ったうえで、ざっくり5兆円くらいとしている。次に、AnthropicはAmazonが世界中に持つAWSのデータセンターの計算資源を使って、モデルの学習や提供を行っている。Amazonが最近手がけている半導体チップもAnthropicは使っている。さらに、AnthropicのモデルはAWSにも組み込まれ、Amazon側がさまざまな企業に販売している。

これほど重要なパートナーであるAmazonが「AnthropicのFable 5はまずい」と政府に伝えたのだとすれば、背景にいろいろな事情がありそうだと安野氏は見ている。

今後どうなるのか

再開については、Fable 5が再開できそうだという話はちらほら聞くものの、具体的にいつどうなるかはまだ発表されていないという。

そのうえで安野氏は、今回はっきりしたことを2つ挙げる。1つ目は、アメリカ政府はいつでもフロンティアモデルの公開を止められるという点である。これまで政府が介入してAIモデルの提供を止めさせた例はなかった。しかし実際にできることが分かり、すでに発動された。今後もいつ発動されてもおかしくない。

2つ目は、OpenAIも大きな影響を受けていると言われている点である。GPT-5.5の次のバージョンであるGPT-5.6は、一気に公開するのではなく、信頼できるパートナー企業数十社から段階的にリリースする形になってきたという。これまでGPTもClaudeも数か月ごとにアップデートが続いていたが、そのスピード感ではなくなった。安野氏によれば、各社は政権との関係を気にしながら安全にリリースする形に変わり、一度リリースしたモデルもいつ止められてもおかしくない状況になった。

安野氏は4月のMythos発表の際に、YouTubeで「牧歌的なAI開発の時代は終わった」という話をしていた。今回の件はその後に次のフェーズへ入ったことを感じさせる出来事だったと述べる。

一ユーザーとしての体験

安野氏は6月9日から12日の間にFable 5を少し触り、非常に賢いと感じて気分が上がったという。土日にしっかり触る時間を確保しようと置いておいたところ、6月12日(土曜日の午前中だったと記憶しているという)には突然使えなくなっていた。一度手に入れたものを奪われるとこういう気持ちになるのか、という新鮮な感覚だったと振り返る。個人としては早く戻ってきてほしいと思いつつ、今後の展開を引き続き見ていきたいと述べて動画を締めくくっている。