1人1台端末は整った、次は活用の格差と通信速度:文部科学省が語るGIGAスクール構想の成果と課題

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概要

文部科学省で学校情報基盤・教材課長と学校デジタル化プロジェクトチームリーダーを務める寺島史朗氏は、GIGAスクール構想をはじめとする学校デジタル化について、インフラ整備と活用内容の両方を担当している。大学関係者が多く参加するシンポジウムで、寺島氏は小学校・中学校・高校で今何が起きているのか、どの方向で取り組んでいるのかを紹介した。話の中心は、端末整備という成果のあとに残った課題である。後半では高校のDX推進と、初等中等教育での生成AI活用に対する文部科学省の考え方にも触れた。

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世界でも例の少ない規模での短期整備

寺島氏はまず成果として、1人1台端末の整備を「世界に先駆け、わずか1年で整備完了」と表現した。コロナ禍もあり、令和2年から令和3年にかけて一気に整備を進めた。現在、小学校と中学校では1人1台端末の整備がすべて完了し、校内のWi-Fi環境もすべての学校で整っているという。

高校は順次整備を進めている段階である。令和6年度末には、全都道府県のすべての高校で全学年への配備が完了する予定だ。そうなれば、小学校1年生から高校3年生まで1人1台端末の環境が整う。寺島氏は、これだけの規模で整備した国は世界にもほとんどなく、海外からも注目されていると述べた。

課題は活用の格差、端末更新、通信速度

一方で寺島氏は、課題を3つ挙げた。1つ目は活用の格差である。端末とネットワークというインフラは整ったが、その使い方に差が出始めているのではないか、というのが文部科学省の認識だ。

2つ目は端末の更新である。配備したのはつい先日のように感じるが、来年あたりには導入から5年を迎える端末が出てくる。3つ目は通信速度だ。Wi-Fi環境は100%整ったものの、今後さらに活用が進むことを考えると通信速度が十分ではない場面が出てきており、通信環境をどう確保するかが課題になっている。

ICTを使う学校ほど「主体的・対話的で深い学び」が進んでいる

文部科学省は現在、「主体的・対話的で深い学び」の観点から授業改善を進めている。寺島氏は、この授業改善とICT活用の関係を示す調査結果を紹介した。

学校への質問では、「学級やグループで課題を設定し、その解決に向けて話し合い、まとめ、発表する」授業や、「自分の考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組み立てなどを工夫して発言や発表を行う」授業をどの程度行っているかを尋ねている。その結果、こうした授業をよく行っていると答えた学校ほど、ICT端末もよく使っていたという。

子どもにも同じ趣旨の質問をしている。資料や文章、話の組み立てを工夫して発表する授業を受けていると感じる子どもと、そう感じていない子どもに分け、全国学力・学習状況調査の平均正答率を比べた。そうした授業を受けていると感じるグループの小学校国語の平均正答率は73.5%だった。寺島氏は、算数や英語も含めてすべての教科で同じ傾向が出ていると説明した。

個別最適な学び・協働的な学びと子どもの実感

別の調査では、授業が「自分に合った教え方、教材、学習時間などになっていたか」という個別最適な学びに関する質問と、「学級の友達との間で話し合い、自分の考えを深めたり広げたりできているか」という協働的な学びに関する質問を子どもに尋ねた。これを「学校に行くのは楽しい」「自分と違う意見について考えるのは楽しい」という回答とクロス集計している。

寺島氏によれば、授業が個別最適になっていると感じている子どもほど、学校に行くのが楽しいと答える割合が高かった。また、協働的な学びができていると感じている子どもほど、自分と違う意見について考えるのを楽しいと答えていた。

寺島氏は、文部科学省が進める個別最適な学び、協働的な学び、主体的・対話的で深い学びを実現するうえで、ICT活用は効果的だと示唆される、とまとめた。そのうえで、こうした授業でICTを使っているかどうかには学校間・地域間で大きな差があり、この差を埋めることが大きな課題だと述べた。

推奨帯域を満たす学校は2割にとどまる

通信速度について、寺島氏は具体的な調査結果を示した。文部科学省は、当面これくらいの帯域は必要だという「当面の推奨帯域」を学校規模ごとに設定している。そのうえで、実際に学校でGIGA端末を使って通信速度を測ってもらった。

その結果、推奨帯域を満たしていた学校は2割にとどまった。残る8割の学校では、今後端末の活用が進むにつれて、通信速度が出ないことやインフラが整っていないことが活用の妨げになる。寺島氏はこの点に大きな懸念を示し、重要な課題として取り組むと述べた。

端末とクラウドで授業はどう変わったか

寺島氏は、GIGA端末の標準仕様とクラウド環境でどんな授業ができるかを指定校と一緒に検証しており、その様子を文部科学省のホームページで動画として公開していると紹介した。講演では時間の都合で動画を省き、写真でいくつかの事例を説明した。

小学校の音楽では、リコーダーの練習で各自の端末に先生が録画したお手本動画を流している。先生の指示は「自分の苦手なところから練習しなさい」というものだ。寺島氏は、写真に映る子どもたちはおそらく全員が違う箇所から練習しているだろうと述べた。これまでのリコーダーの授業は、先生が前に立ち全員で一斉に練習する形だった。寺島氏は自身の経験として、第1小節は完璧になってもいつまでも第2小節に進まない授業だった、と振り返った。一斉指導が減ったことで、先生はその時間を個別指導に充てられるようになったという。

ほかに、外国籍の子どもがデジタル教科書と自動翻訳機能を使って学ぶ事例も紹介された。寺島氏は、これによって学びが大きく保障される環境が整ってきたと述べた。

リアルかデジタルかの二項対立ではない

理科の授業について、寺島氏は、リアルかデジタルかという二項対立の議論ははっきり言ってナンセンスだと述べた。手を動かして実験することは当然必要であり、紹介した授業でも実際に実験をしている。そのうえで、実験の様子を端末で撮影して後から振り返る。

さらに、グループごとに同じ実験を行い、その結果をクラウド上に同時にアップロードしていく。A、B、Cそれぞれのグループの結果が並ぶので、自分たちの結果がほかのグループと違うことにその場で気づける。

ほかにも、黒板を写真に撮る生徒の例が示され、寺島氏は「ノートに書き写す」ことも変わりつつあると述べた。また、事情があって学校に来られない生徒が端末越しに参加し、登校している子どもたちと同じようにグループで議論する場面も見られるようになったという。

プレゼンテーションソフトで学習内容をまとめる場面では、友達がどうまとめているかをクラウド上で同時に参照できる。寺島氏は、答えが1つあって友達のものを見たらカンニングになる、という世界ではもはやないと話した。ほかの人の考え方やまとめ方を参照しながら自分の学習を調整していくことは、端末とクラウドがあってこそできることだと述べた。

DXハイスクール事業:1000校に1校1000万円

ここまでの話は義務教育が中心だったが、寺島氏は高校についてもDXハイスクール事業を紹介した。昨年度の補正予算で100億円を確保し、全国の高校1000校をDXハイスクールに指定した。1校あたり1000万円である。1000校は全国の高校の20〜25%にあたる。高校に年額1000万円の予算がつくのはこれまでにほとんどない取り組みであり、これで一気に高校のDXを進めたいという。

指定校には普通科の進学校だけでなく、農業科、工業科、商業科の高校も満遍なく含まれている。専門高校でも一気にDXを進める狙いだ。

指定の条件の1つは、情報IIなどの科目を開設することである。情報IIそのものに加え、数理・データサイエンス・AIの活用を前提とした学校設定科目や、情報IIの内容を含む職業系科目も対象になる。全国で情報IIを開設している学校はまだ10%そこそこだが、DXハイスクールでは開設が要件のため、一気に広がると寺島氏は見込む。

また、採択校は1000万円を使い、デジタルを活用した活動ができるスペースや装置を整備することになっている。事業の目標には、理系学部への進学率を今よりかなり高めることを掲げている。寺島氏は、大学側で進む理系分野への転換と合わせ、高校でもこうした取り組みを進めていると説明した。

事業は始まったばかりで、どんな事例が出てくるかはこれからだという。一例として、DXハイスクールに指定された九段中等教育学校が紹介された。探究型の授業を設定してSTEAM型の教育を行い、スマート農業などを組み合わせながら探究を進める計画で、環境整備も進めているという。

生成AIガイドラインの3つの柱

最後に寺島氏は、学校での生成AI活用について話した。文部科学省は約1年前にガイドラインを策定しており、そのポイントは3つある。

1つ目は、パイロット的に進めることだ。学習での利用は全校で一気に進めるのではなく、懸念やリスクに十分な対策ができる学校から始める。2つ目は、情報活用能力の育成である。AIを使った学習そのものはパイロット的に進めるが、ファクトチェックの力を含む情報活用能力の育成はすべての学校で進める。3つ目は、校務での活用を積極的に進めることである。

寺島氏は、学校でのAI活用が①から④の段階で進んでいくと説明した。現在はパイロット校を中心に、①から③あたりまで少しずつ進んでいる状況だという。まずは環境が整い、リスク管理がしっかりできる学校で①〜③をパイロット的に進め、そこで課題を見出したうえで、④の日常使いの段階に進みたいと述べた。この講演の後に発表する高校の事例も、こうしたパイロット的な取り組みにあたるだろうと寺島氏は述べた。

小・中・高のパイロット事例

高校の事例は後の発表に譲るとして、寺島氏は小学校と中学校の例を中心に紹介した。

小学校のパイロット校では、まず先生がAIとはどういうものかを解説する。次に、AIが生成した物語・詩・新聞記事と、実際の物語・詩・新聞記事を比べ、どちらがAIの作ったものかを子どもたちが比較・討論する授業が行われている。

中学校の事例は、学校のホームページを作る授業である。生成AIにコードを書いてもらいながらプログラミングを行い、ホームページを作成する。さらに、その内容を英語にする場面でも生成AIを使っている。

高校の事例として、国語の漢文の授業も紹介された。生徒たちは『老子』の一節を読み解き、それがどんな場面なのかを話し合う。そのうえで、自分たちの解釈をプロンプトとして入力し、生成AIに画像を作らせる。その画像を手がかりに漢文の世界を学んでいるという。

寺島氏は、こうした事例を積み重ねながら、生成AI活用を日常使いの段階へ進めていく取り組みを続けていると述べ、講演を締めくくった。