紛争はなぜ同じ場所で起きるのか――中田敦彦が地政学の基本から読み解く日本の位置

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概要

中田敦彦はこの授業で、地政学とは地理の条件によって国際政治がかなりの程度決まっていくと考える学問だと説明し、アメリカ・中国・ロシアがなぜそのように動くのかを理解する手がかりとして紹介する。前半では地政学の基本的な考え方とキーワードを整理し、後半ではその視点から、日本に米軍基地がある理由、北方領土が返ってこない理由、尖閣諸島が問題になる理由を読み解いていく。参考文献は奥山真司『サクッとわかる ビジネス教養 新地政学』で、中田は著者を、防衛省の幹部候補生に地政学を教えている専門家だと紹介している。

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覇権国のための学問として生まれた地政学

中田によれば、地政学の発祥は比較的新しく、19世紀後半のヨーロッパである。国家の戦争や紛争を地理から説明できるのではないか、どこを押さえればその国をコントロールできるのか、という戦争研究の中で考えられてきた。それを最初に戦略的に使った国としてプロイセンが挙げられる。普仏戦争で、当時大国だったフランスに対し、プロイセンは地政学に基づいて要所を押さえ、逆転勝利したと中田は語る。

この成功で注目された地政学を、主にイギリスとアメリカが研究し続けた。中田はこの点を重視する。第二次世界大戦以前の長い期間、ポンドを基軸通貨とする覇権国だったイギリスは、どこを押さえれば覇権を長く維持できるかという観点から地政学を見ていた。その後、覇権国となったアメリカも同じ問題に真剣に取り組む必要があり、20世紀にイギリスとアメリカの学者が理論を進めて、体系的な学問になったという。

つまり地政学は、もともと覇権国が世界をコントロールするための方法だったというのが中田の整理である。ただし覇権国以外の国も、覇権国の考え方を知れば次の動きを読むことができ、それを逆手にとって要所を取りに行くこともある。そして中田は、世界にとって重要な要所は国ごとに違うのではなく、実は決まっていると強調する。要所が決まっているから、衝突する場所も決まってくる。

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世界の「3大衝突地」

参考文献では、世界の3大衝突地が挙げられている。1つ目はヨーロッパで、NATOとロシアがぶつかる地点だ。中田は、ロシアとウクライナの戦争が始まる前から、地政学ではこの地域の衝突が必然のこととして書かれていたと語り、そこに地政学を学ぶ大きな説得力があると述べる。

2つ目は中東で、主に争っているのはイランとアメリカである。この対立を発端として、さまざまな国の内紛が起きているという。3つ目はアジアで、ここで争っているのはアメリカと中国だ。朝鮮半島、台湾、そして日本を含む日本海沿岸で起きていることは、米中の争いに端を発している。中田は、このアジアが含まれているからこそ日本人は地政学を学ばなければならないと考えている。

なぜこれらの場所で衝突が起きるのか。中田はその背景を核の時代に求める。核兵器はあまりに強力で、撃ち合えば当事国が滅びるどころか地球全体が滅びかねない。だから大国同士は直接撃ち合うことを避けつつ、勢力争いを進める局地戦になる。ロシアとウクライナの戦争も、俯瞰すればアメリカ・ヨーロッパとロシアの大きな勢力争いがウクライナを舞台に表面化したものだと中田は見る。これを単にウクライナとロシアの戦争と見るのはミクロな見方であり、マクロに見れば覇権国とそうでない国のせめぎ合いが起きている、というのが中田の立場である。

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争いの核心は物流と軍事基地

では各国は何を奪い合っているのか。中田はここを「大トロ」の部分と呼び、答えは物流と軍事基地だと述べる。

輸出入は陸・海・空のどれで主に行われているか、と中田は問いかける。速さを考えると飛行機と思うかもしれないが、現代でも大規模物流は海運一択だという。コストと量の面で、海が最大のルートになっている。

しかも海は自由に航行できるわけではなく、どうしても通らなければならない場所がある。地政学ではこれをチョークポイントと呼ぶ。海峡や運河のように、狭く、そこを通らなければ向こうに行けない地点だ。中田によれば、こうした場所は世界に無数にあるわけではなく、10個程度しかない。例として、シンガポールとインドネシアの間のマラッカ海峡、パナマ運河、イギリス海峡が挙げられた。

このチョークポイントを押さえるかどうかが覇権を握るかどうかを決める、と中田は言う。理由は、海上輸送されるのが日用品だけではなく、石油や天然ガスといったインフラに関わる物資だからだ。石油や天然ガスなしに運営できる国家はない。海運ルートは国家の大動脈であり、その要所である海峡や運河を押さえられて「通るならお金をください」と言われれば、相手に血管を握られているのと同じ状態になる。

その血管を守るために必要になるのが軍事拠点、つまり基地である。日本人は沖縄や横須賀に米軍基地があることは知っているが、アメリカは中東にもドイツにも、世界中に基地を置いている。それは要所を守り、相手が要所を攻めないよう監視するためだと中田は説明する。空軍やミサイル、核兵器で覇権が争われていると思われがちだが、中田は「海を制する者が世界を制する」「物流を制する者が世界を制する」と強調する。10個程度しかないチョークポイントを押さえるために監視拠点や軍事基地をいくつ持っているかが覇権国家としての説得力になり、アメリカはそれを世界で最も多く持っているから覇権国家と呼ばれる、というのが中田の説明だ。

沖縄、北方領土、尖閣諸島が重要になるのもこの文脈であり、1つの島や海峡がいかに大事かが分かれば地政学の基礎は半分理解できたようなものだと中田は述べる。

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シーパワーとランドパワー

残り半分のキーワードがシーパワーとランドパワーである。中田はこれを海洋国家と内陸国家と理解してほしいと言う。海洋国家は国の大半が海に囲まれ、交易や貿易で外に出ていく国だ。内陸国家は陸続きのため、他国から侵入されやすく、侵入もしやすい。単純に分ければ、イギリスや日本はシーパワー、広大な大地を持ち他国と地続きの中国やロシアはランドパワーになる。

アメリカは国土も大きいが、国土の大半が海岸線に囲まれ、海洋国家として力を伸ばしてきた歴史があるので、シーパワーの国だと中田は説明する。日本も、島国であっても海に出なかった時代はシーパワーとは言えないが、海運の発達以降は外に出るようになり、アメリカのシーパワー戦力の一員になった。そのため日本、アメリカ、イギリスはシーパワーの国とされる。

重要なのは、ランドパワーとシーパワーが常にせめぎ合うという点だ。ランドパワーの国は土地が大きく、陸続きなので他国に攻め入りやすい。それは同時に攻め込まれやすいことも意味する。中田は、侵略され続けた歴史を持つため猜疑心と恐怖を抱えた国だと表現する。古代中国は周辺民族に常に侵略され、万里の長城を築いたり遠征を行ったりしてきた。内側でも勢力が分かれ、内部の力をコントロールしながら外からの侵入を防ぐことに追われてきた。ロシアも国境が長く、東は中国や日本、西はヨーロッパと接しているため、どこに戦力を配分するかに苦心してきた。ナポレオンやヒトラーが攻め込んできた際にはモスクワを捨てて焦土作戦で退かなければならなかったというトラウマがある。

だからランドパワーの国は、油断すれば攻め込まれることを恐れ、同時に力を得れば攻め込まれる前に攻めようとする。力を持てば拡大しようとし、拡大されたくない海洋国家はそれを抑え込もうとする。その間の地域が紛争地帯になる、というのが中田の説明である。

18:23

ハートランドとリムランド

この構図を説明する言葉として、中田はハートランドとリムランドを紹介する。人類の主な舞台は最も巨大なユーラシア大陸であり、その中心、ランドパワーの中心であるロシアのあたりをハートランドと呼ぶ。ハートランドは広大だが環境が厳しく、広すぎ、寒すぎる。周辺から攻め込まれ続けて危機感を募らせ、力を得るとすぐに外へ拡大しようとする習性があるという。

一方のリムランドはユーラシア大陸の沿岸部である。気候に恵まれ、大きな川もあり、古代から文明が発達し、人が集まり技術が生まれてきた。中国、中東、インドなどがこれにあたり、豊かな都市が沿岸部に集中している。ハートランドはこのリムランドに出てこようとし、シーパワーを持つ側がそれを押さえ込もうとする。そのせめぎ合いの地点が紛争エリアになる。

中田は、人類史を大局的に見ると、ほとんどの戦争はハートランドからリムランドへの拡大を、シーパワー国家がその間で押さえ込もうとする戦いだったと述べ、第一次・第二次世界大戦もそうだったという分析を紹介する。ランドパワーの国としてドイツ、中国、ロシアがあり、あるときはドイツ、あるときはロシア、あるときは中国が拡大しようとし、それをイギリスやアメリカが押し返そうとしてきた、という見方である。

21:13

覇権を維持する作戦「バランス・オブ・パワー」

覇権国が決まるまではリムランドとハートランドの戦いになり、覇権国が決まった後は、チョークポイントで物流を押さえ、軍事拠点でそれを守る。そのうえで覇権を長く続けるための基本的な作戦として、中田は最後のキーワード「バランス・オブ・パワー」を挙げる。

中田の定義では、これは1位以外の国が常に小競り合いをして、どこも突出しない状態を保つことである。中田は「ある意味恐ろしい作戦」と評する。最初にこれをうまく行ったのはイギリスで、2位に上がってきた国を3位、4位と連携して潰すことを続けてきたという。ドイツが伸びればフランスやロシアと組み、スペインが伸びればフランスやドイツと組む。これを続けられれば1位は安泰だ。

これを引き継いだのがアメリカだと中田は言う。冷戦期は1位がアメリカ、2位がソ連で、景気を上げていた日本が3位だったため、アメリカは日本と組んでソ連を抑えた。そして80年代、日本が2位になったときの3位が中国であり、そのときは中国とアメリカが組み、バブルが崩壊した、と中田は語る。これはバランス・オブ・パワーの考え方による中田の解釈として示されている。

チョークポイントを押さえ、軍事拠点を築き、バランス・オブ・パワーで国家をコントロールする。中田はこれをパックス・アメリカーナ、アメリカによる世界のコントロールだと説明する。

2位の国のストレスと、日本から見えにくいもの

このコントロールのもとでは、2位になった国は常に狙われ、攻撃される。中田は、その摩擦の中で紛争が起き、代理戦争がなくならないのは、1位が世界の均衡を保つために必要なことなのかもしれないし、2位の野心のためなのかもしれない、と両方の可能性を挙げる。

アメリカのコントロールに強い不満を持つ国の1つがロシアだ。NATOによってロシアの成長が常に削られているというのがプーチンの主張だと中田は紹介し、「NATOの東方拡大をやめろ」という言葉が日本人に理解しにくいのは、日本がアメリカ陣営、シーパワーの一員だからだと説明する。中国にとっても、中国のアプリや技術を使うなというアメリカの動きはストレスであり、1位のコントロールを逆転しようという野心につながる。中田は、中国やロシアの理屈から見れば「なるほど」と思える面もあると述べる。

一方で、日本は現時点ではアメリカにかなり頼っており、アメリカも日本を非常にうまくコントロールしているので、アメリカ側の立場に立つのが基本的にはオーソドックスだとも言う。そのうえで中田は、どちらが正しいということではなく、どの国にもストレスと野心と戦略がある世界に私たちは生きているのだと前半をまとめる。

26:18

日本は江戸時代までランドパワーだった

後半は日本の地政学である。現在の日本はシーパワーの国だが、中田は、江戸時代までの日本はランドパワーの国だったと述べる。外国から攻められたり外国を攻めたりすることがほとんどなかったという意味である。白村江の戦い、元寇、秀吉の朝鮮出兵など、攻められたのは2度、攻めに行ったのは1度程度で、侵略する・されるという関係はほとんどなかった。

中田はその理由を、島国であることだけでなく、海流に恵まれていたことと、ヨーロッパから遠かったことに求める。島国でもヨーロッパに近ければ大変で、イギリスでさえノルマン・コンクエストで北欧に征服された歴史があり、フィリピンもアメリカの支配を受けた時代がある。「島国でよかった」というコメントがときどきあるが、島国だからというだけではない、と中田は指摘する。大航海時代に勢いを持っていたのはヨーロッパで、中国が攻められる側だった中、日本は侵略の候補として最後に挙がる位置、つまり極東にあり、立地的に侵略されにくかったという。

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シーパワーとランドパワーは両立できない

第一次・第二次世界大戦を通じて、日本はシーパワーを手に入れつつランドパワーとしても拡大しようとした、と参考文献では分析されていると中田は紹介する。東南アジアに進出して海を拡大する一方で、満州という大陸にも打って出た。

地政学には、シーパワーとランドパワーは両立できないという考え方がある。内陸国が海洋国として力を得ようとすると内陸のコントロールが取れなくなり、海洋国が大陸の奥深くまで進むと海洋国としての力が削がれる。中田は例としてベトナム戦争を挙げ、アメリカが陸地に踏み入りすぎたという分析があるらしいと述べる。旧日本軍も、東南アジアまでは行けたが中国の内陸まで進もうとしてどっちつかずになり失敗した。いずれも、自分が今シーパワーとランドパワーのどちらを主に使っているのかを自覚していなかったことによる失敗ではないか、という見方が紹介される。

敗戦後、日本はアメリカという巨大なシーパワー国家の一員として連携の恩恵を受け、今ではシーパワーの一員になっている。ただし、シーパワーの国がランドへ、ランドパワーの国がシーへ向かうことは起こりうる。中田はその例として中国の一帯一路構想を挙げる。ランドの大国が海洋国家としても覇権を握ろうとする表れだと言われており、中国という大国をコントロールするだけでも大変なのに海にまで出ていって大丈夫なのかが議論され、地政学上はうまくいくのか危ぶまれているという。

30:54

北方領土はなぜ返ってこないのか

ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、北方領土もかなり取り沙汰された。中田の説明では、北方領土は第二次世界大戦で日本が降伏した後にロシアが攻めて取ったものだ。日本は降伏後のことなのだから返してほしいと主張し、ロシアは実効支配して人も住んでいるので返さないと応じる。

中田は、地政学で考えればロシアは絶対に返さないと言う。ロシアにとって北方領土は要所であり、ウクライナと同じく緩衝地帯の役割を持つ。その目的は、1つは中国の監視、もう1つはアメリカへの牽制である。ロシアが最も恐れるのは、返還後に北方領土が沖縄のように米軍基地の設置場所になり、アメリカがミサイルを置く理由になることだ。ロシアの巨大な国土から見れば小さな地域でも、安全保障上の軍事拠点として譲れない。

もう1つは物流である。通れないと言われていた北極海ルートをロシアが開発したらしく、それを保護するためにも北方領土が必要だと中田は語る。物流と軍事拠点の両面から、ロシアにとって返す理由はなく、「返すかもしれない」という可能性が日本との交渉カードとして使われているだけだ、というのが中田の見立てである。

一方、日本にとっては国民感情として返還を望む気持ちはあるが、地政学上どうしても押さえなければならない拠点かといえば、そうでもないらしい。ロシアには絶対に必要だが日本には絶対ではない。だから日本は実力行使に至るところまでは踏み込まず、何年たっても返ってこない。中田は、北方領土がなぜ今の状態になったのかは第二次世界大戦の出来事で説明でき、なぜ返ってこないのかは地政学で説明できる、と整理する。

34:26

沖縄の米軍基地とアメリカの「支配の4段階」

沖縄に米軍基地がある理由について、中田は、アメリカにとって沖縄は完璧な軍事拠点だと言われていると述べる。沖縄県民の感情や、繰り返し起きている事件・事故を考えれば、主権国家の日本になぜ米軍基地があるのかという声が出るのは当然だが、アメリカの都合が大きく影響しているという。

中田は、アメリカが世界のコントロールの仕方を4段階に分けていると紹介する。

  1. 相手国の全土に軍事基地を置き、政治や政策にも直接口を出す
  2. 相手国の要所に軍事基地を置き、政策は間接的にコントロールする
  3. 相手国には基地を置かず、近くに基地を置いて間接的に圧力をかける
  4. 基地は置かず、重要なことがあったときだけ干渉する

日本がどれにあたるかははっきり言われていないが、この分類でいけば明らかにレベル2だと中田は述べる。アメリカにとって日本はどうしても必要な国なので、日本は基地をどかしてくれと強くは言えないし、強く言ったとしても、アメリカは安全保障上沖縄を譲らない。

中田は、それが良いか悪いかの話ではなく、そういう仕組みになっているのだと繰り返す。地政学は「冷酷な学問」と言われ、国家がこうあるべきだという感情や思想、イデオロギーを考慮せず、国家がどう動くかを分析する。強い国は弱い国にこうしてきたし、これからもするだろう、そうしなければ逆にやられてしまう。だから小国はこうしなければならない。そうした冷酷な国家の側面を見る必要があると参考文献でも述べられている、と中田は紹介する。

38:06

横須賀基地の役割

横須賀の米軍基地については、日本人は何のためにあるのかをあまり知らないと中田は言う。中田によれば、横須賀の特徴は米軍の軍艦、特に空母のような巨大艦船を修理できることにある。そうした修理はどこでもできるわけではなく、横須賀がなくなればハワイ、さらにはアメリカ本土まで戻らなければならない。

空軍や陸軍に目が向きがちだが、チョークポイントを押さえ、相手に取らせないためのせめぎ合いを担うのは海軍力だ。世界の覇権の鍵が海軍にあると言われる中で、巨大空母を修理するために横須賀は譲れない。だから横須賀と沖縄から米軍は退かないと地政学上は言われている、と中田は説明する。

39:29

尖閣諸島と石垣島――台湾有事の「3方向」

尖閣諸島は石垣島の北にある。中田は、その重要性は台湾との関係にあると説明する。ランドパワーの大陸国家は外に打って出るとき、まず近海を制圧してから出ていく。玄関前を掃除してから外に出るようなもので、近くに障害が多いと出られないという。

台湾有事で中国と台湾が争いになった場合、中国は正面からと、台湾を回り込んだ南北の両側からの3方向で攻めると言われている、と中田は紹介する。その例として、ロシアがウクライナに対して東部、ベラルーシ側の北部、クリミア側の南部から同時に侵攻し、首都キーウに向かった事例を挙げ、同じ理屈だと述べる。囲めるなら囲むということだ。

その3方向のうち1方向を邪魔しているのが石垣と尖閣であり、中国はそこを通って回り込みたい、だから押さえたいと考えている、というのが地政学上の見方だと中田は言う。リゾート地として親しまれている宮古島、与那国島、石垣島も、軍事拠点として強い個性を持っている。尖閣が中国に取られれば石垣は孤立し、深刻な事態になると中田は語る。

42:46

米軍が守る石油ルート

米軍の存在をどう受け止めるかは難しい問題だが、中田は、米軍が日本に貢献している点も確かにあると述べ、それは石油だと言う。電気をつくるにも車を走らせるにも、石油は長く最重要のエネルギーであり、グリーンエネルギーが叫ばれるのも石油から解放されるためだ。そして石油を運ぶのは船である。

船以外の方法を交渉していた相手がロシアだった。ロシアからパイプラインを引いて天然ガスなどを受け取る話が、北方領土を「とっかかり」にして進んでいたが、うまくいかなかった。ロシアとウクライナの問題で日露関係はさらにこじれ、パイプラインはおそらく無理だろうと言われているという。中田は、ドイツがロシアとの間でノルドストリーム2を何兆円もかけて作ったものの、経済制裁によってドイツへの天然ガス供給が難しくなった例を挙げ、日本もヨーロッパも結局は海運に戻らざるを得ないと述べる。

では船で石油をどこから買っているかといえば中東であり、そこまでの航路で通過するチョークポイントはマラッカ海峡とホルムズ海峡の2つだ。中田は、これを普通に安全に通れると思ったら大間違いだと言う。マラッカ海峡の近くには海賊がいるし、ホルムズ海峡では原因や詳細が分からないまま船が襲われたことがある。その石油ルートを米軍の艦隊が守ってくれているらしく、だから「米軍がなくなればいい」とは簡単に言えない。アメリカの力を借りなければ安全に通れないという海運の事情があるからこそ、米軍は日本に残り、日本も守ってもらいたいという姿勢を続けている、と中田は説明する。

46:18

自衛隊の南西諸島展開

ただし日本が何もしていないわけではない、と中田は付け加える。台湾有事の際に石垣島も尖閣と同じく軍事拠点として重要になることは日本も分かっており、沖縄の島々で徐々に軍事拠点を拡大している。中田は、2016年に与那国島、2019年に宮古島、そして石垣島で自衛隊の駐屯地を建設していると紹介する。石垣島に実際に部隊を置くかどうかといった議論は常にニュースになっているが、私たちはあまりそれをキャッチアップしていない、と中田は指摘する。

沖縄がどういう立場に置かれているのか、米軍はあるべきなのか、自衛隊を拡大すべきなのか、中国はどう動くのか、北方領土での日本の立場はどうなっているのか。中田は、こうしたことは突然起きるのではなく常に進行しており、国家と国家の境界線はじわじわと押したり引いたりしているのだと語る。ニュースに敏感になり、「これは危ないのではないか」と気づけるかどうかが大事だという。

48:05

地政学を知ることの意味と、残された問い

日本がどのような国防体制をとるべきかについて、中田はさまざまな考え方があると述べ、結論を示していない。アメリカに守られるべきなのか、アメリカは本当に守ってくれるのか、という点もかなりグレーだという。大国は常に自国の利益のために動く。自国の利益になると判断すれば日本の拠点は譲らないし、利益にならないと判断すれば容易に撤退する。それも事実だと中田は言う。

最後に中田は、地政学が戦争の説得力として使われ、「地政学上ここが必要だから戦争に行け」と悪用された歴史もあったらしいと触れる。だからこそ、そう使われないために地政学を知っておくべきだというのが中田の考えだ。拠点が必要だから軍隊を拡大しろと言われたときに、「正確に考えれば、ここだけで大丈夫なはずだ。それ以上の拡大はシーパワーとランドパワーの両取りになろうとしているのではないか。これ以上行けば失敗する」と議論できるリテラシーの高い国民であれば、日本は軍に過剰に投資することも、極端に弱気になってすべてを他国に任せることもない立場をとれるのではないか、と中田は述べる。

それでも中田自身、日本人として国防にどう関わるべきかは非常に難しいと認め、まず考えることから始めてほしいという趣旨でこの授業を締めくくっている。