研究データ管理人材のキャリアパスをどう描くか:可視化、多様な経路、地域コンソーシアムでの連携

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概要

学術情報基盤オープンフォーラム2026のパネルディスカッション「研究データ管理人材のキャリアパスを考える」では、国立情報学研究所(NII)の古川雅子氏が司会を務め、大阪大学の甲斐尚人氏、金沢大学の長井圭治氏、NIIの中野恵一氏と長岡千香子氏が登壇した。司会の古川氏自身が「挑戦的なタイトル」と述べた議論は、運営側が設定した3つのテーマに沿って進んだ。研究データ管理(RDM)の専門人材をどう可視化するか、その人材のキャリアパスはどうなり得るか、そして「AI等の活用を推進する研究データエコシステム構築事業」のもとで機関を越えた連携にどんな可能性があるか、である。会場からはスライド(コメント投稿の仕組み)を通じて意見が寄せられた。

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テーマ1:専門人材の可視化にニーズはあるか

古川氏はまず、RDMの専門人材と、その支援を必要とする研究者をマッチングするには、誰が何をできるのかを可視化する必要があると問題提起した。国内にそうした取り組みのニーズがあるのか、あるとすれば何を可視化すればマッチングしやすくなるのかを登壇者に尋ねた。

北陸地区の技術職員データベース

長井氏は、情報系人材そのものの事例ではないと断ったうえで、コアファシリティ構築支援プログラムの際に技術職員のデータベースを作った経験を紹介した。技術職員の仕事は多岐にわたり、誰が何をしているのかが非常に分かりにくい。そこで、したい測定や依頼したい内容をキーワードで入力すると、対応できる人がヒットし、連絡先も分かる検索の仕組みを作ったという。

長井氏は、本当はここに情報部門も加えたいが、まだそこまではできていないと述べた。研究データ基盤の仕事もさまざまな専門性に分かれているため、こうした仕組みがあれば相談しやすくなるだろうと考えている。一方で、できれば一人に聞けば済む状態が望ましいという思いもあると付け加えた。

国内外の先行例と「日本に合った仕組み」

長岡氏は情報提供として国内外の事例を挙げた。国外では大学やData Curation Networkなどによる取り組みがあり、国内では過去に、図書館職員の経歴やスキルを可視化する「ライブラリアンマップ」が提供されていたという。ただし長岡氏は、規模や文化が異なる国外の事例をそのまま国内に持ち込んでもうまくいくとは限らないと指摘した。日本の教育機関や研究機関に合った仕組みとして可視化を進めることが大事だというのが長岡氏の見解である。このテーマは時間の都合で情報提供にとどまり、古川氏は会場に意見をスライドへ寄せるよう呼びかけて次へ進んだ。

テーマ2:兼任と専任、それぞれのキャリアパス

2つ目のテーマはキャリアパスである。古川氏によれば、人材不足の声が上がる状況を踏まえ、運営側は当初、各部署の兼任者が学びやすい教材づくりという「兼任ありき」で考えていた。そのうえで、兼任の場合は評価も含めてどのようなキャリアパスになり得るのか、専任の場合はどうか、スキルや貢献事例を可視化することがキャリアパスにつながるのか、という問いを投げかけた。

「一つのキャリアパスではない」:甲斐氏

甲斐氏は、システム開発やデータスチュワードの講座に関わった経験から、RDM人材のキャリアパスは一つではないと述べた。講座には研究者、ライブラリアン、データライブラリアン、研究資材関係の人、さらに博物館で3D画像データを扱うデータキュレーターまで、さまざまな人が参加していた。甲斐氏は、それぞれが軸足を置く専門領域を広げながらRDMのスキルを身につけていく経路があり得ると考えており、キャリアパスを固定する必要はないとした。

甲斐氏が紹介した大阪大学の事例では、図書館が中心になってシステム開発を進めた。甲斐氏は、その中心で一緒に取り組んできた職員として、会場の最前列にいた佐藤氏に発言を求めた。

当事者の視点:大阪大学・佐藤氏

佐藤氏は、甲斐氏のスライドで「ジェネラリスト型データスチュワード」と紹介されたものの、自分がそこまでRDMに精通している自信はないと前置きした。システム開発の際、分野や部局の専門知をつなぐ人がいなければ開発が進まないという危機感があり、それをきっかけに自分ごととして捉えた結果、その役割を担うことになったという意識だと語った。

キャリアパスについて佐藤氏は、RDMに関する喫緊の課題に対応するため、学内の関係者をつなぎ、学内の専門家を探して巻き込みながら支援体制の基盤作りに貢献している人は他大学にもいるだろうと述べた。そうした人が今後どのようなキャリアパスをたどるのかが、一つの可能性になると考えている。甲斐氏はこれを受けて、大学の規模やどの部局が中心になっているかによっても事情は変わるため、キャリアパスは本当にさまざまだとまとめた。

育てた人材が他大学へ:金沢大学の経験

長井氏は、金沢大学でもシステム開発の段階から関わってくれた人がいたと紹介した。その人は学ぶ機会として外部の育成プログラムも受講していた。しかし学内では十分な待遇を用意できず、他大学に引き抜かれてしまったという。長井氏は、本人にとってはきちんとキャリアパスができたのだから良かったと考えるようにしていると述べた。

そのうえで長井氏は現在、この分野に進みたい人にさまざまなところから声をかけている最中だと語った。図書館にも意欲を持って勉強している職員がおり、リカレント教育の修了者にも声をかけるなど、いろいろな方法を試しているという。古川氏は、そのあたりに可視化のポテンシャルがあるのではないかとコメントした。

テーマ3:研究データエコシステム構築事業と地域コンソーシアム

3つ目のテーマについて、古川氏は、RDMの専門人材を一部の機関や単独のコンソーシアムだけで確保するのは難しい場合もあると述べ、地域ごとに設立されているコンソーシアムについて、事業のプログラムマネジメントを担う中野氏に説明を求めた。

5機関から全国の拠点へ

中野氏によれば、この事業はNII RDCを中心としたシステムを使いながら進めるものだが、システムがあるだけでは研究データが利活用される環境は作れない。そのため、人材育成をリードする大阪大学をはじめ、理研、東大、名古屋大学などを含む5機関で始めた。ただしそれだけでは全国に行き渡らせるのは難しいため、各地に拠点大学を置き、そこでコンソーシアムを設立してもらう取り組みを進めている。

最初は名古屋大学がリードし、それを追う形で金沢大学が北陸地区を進めた。中野氏は、前日の表彰式で金沢大学がGakuNin RDMユーザー・オブ・ザ・イヤーを受賞した大きな要因の一つにこの取り組みがあるとの見方を示した。7月には関西でキックオフが予定されており、残る関東についても年度内にはスタートさせるとした。

ジェネラリストは「隠さず」、スペシャリストは「融通し合う」

中野氏は、甲斐氏が示したジェネラリストとスペシャリストという観点から人材の扱いを論じた。前日のギャザリングでは、ジェネラリストは可視化されると取り合いになるので隠しておかなければならないのではないか、という意見も出たという。しかし中野氏は、専門人材のプレステージを上げるためにはむしろ可視化が重要であり、どこかに囲い込むのではなく、キャリアを上げながら機関を渡り歩く「スタープレイヤー」が出てくることが望ましいと考えている。

一方でスペシャリストについては、大学の規模や参加大学によって必要な専門性が異なるため、一気にすべて揃えるのは非常に難しいと中野氏は見る。そこで、地域コンソーシアムも含めて機関同士が助け合う形を提案した。例として、ヨーロッパでは大学に専門性の高いキュレーターがいて、別分野の専門性が必要なときには大学間で融通するような取り組みがされていると紹介した。中野氏は、こうした人材が広域で連携しながら全体としてのパフォーマンスを上げることが必要であり、地域単位のコンソーシアムがファーストチョイスになるだろうと述べた。さらに地域に閉じず全国で連携することも必要だとし、これから立ち上げる関東のコンソーシアムの事務局を、全国ネットワークの事務局へと発展させたい考えを示した。

人件費への懸念とAIによる業務の見直し

最後に中野氏は、スライドに寄せられた質問に答えた。新たに専門人材を採用すると、その人件費のために他の予算が削られるのではないか、という懸念である。中野氏は、直前にURAの人たちと話した内容を紹介した。URAが現在担っている業務のかなりの部分をAIがサポートするようになり、空いた時間でもっといろいろなことができるのではないか、という話だったという。中野氏は、そうした業務の見直しが出てくるはずだとし、今の職種のままでは一部削られるものがあるかもしれないが、キャリアパスという観点では皆が活躍できる場はどんどん広がるのではないかと見通しを述べた。

パネルは時間の都合でここで終了した。可視化の具体的な方法、兼任者の評価のあり方、待遇を用意できず人材が流出する問題などは、登壇者の事例や見通しが示されるにとどまり、会場からスライドに寄せられた多くのコメントとともに今後の課題として残された。