「AIのほうが社長っぽい」——平野友康が語る、Claude Fable 5に社長を任せた朝とAIの現在地

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概要

J-WAVEとラジオNIKKEIの番組「Make it Next」は、テレポート株式会社と共同でAIを学ぶシリーズを始めた。第1回のゲストは、メディアクリエイターでテレポート株式会社CEOの平野友康。ナビゲーターのSean Kawakamiとともに、AIをめぐって「いま何が起きているのか」、つまりAIの現在地と最先端を整理した。収録日は2026年6月11日である。前日にAnthropicが新モデルを公開しており、平野はそのモデルに自社の経営を見てもらった結果、社長の座を譲ったという。

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毎日のように変わるAIと、「とりあえず絡めてくれ」という依頼

冒頭でSeanは、AIの変化の速さを話題にした。自身もClaudeを使っているが、1日に何度更新されるのかと驚くほどだという。平野も「もう毎日」で、ニュースを追いきれないと応じた。

Seanは、自治体や企業のセミナー・研修で「AIに絡めてくれ」という漠然とした依頼が非常に多いと話す。そこで第1回は、そうした場で自身がいつも話している内容を共有しながら進める構成にした。新しい技術が次々に出てきて、どれをどう使えばよいのか分からず、置いていかれそうだと感じている人を想定した回である。

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孫正義の「金魚」のたとえ

Seanが最初に示したのは、2023年のソフトバンクワールドでソフトバンクグループの孫正義が語った内容だ。孫は、今日のAIはやがてAGI(汎用人工知能)へ、さらにASI(人工超知能)へ進化すると述べた。AGIは3〜5年以内、ASIは10年以内に実現するという見通しである。脳のニューロンとシナプスの数から見ると、ASIと人間の知能の差は、人間と金魚の差に近くなる。金魚にABCという単語を教えても、金魚はABCが何かを理解できるだろうか、という問いかけだった。

Seanによれば、孫の主張の核心は、AIを使うべきかどうか、AIに仕事を奪われるかどうかを議論している場合ではないという点にある。むしろAIをどう使い、人間社会や経済をどうよくしていくかを考えるべきだと孫は述べていた。Seanはこの発言を印象的で、示唆的でもあったと振り返る。

平野はこの講演をネット配信でリアルタイムに聞いていたという。孫は「3〜5年」と言ったが、平野自身は3年くらいだろうと思っていた。人間と同等レベルのAIが3〜5年でできるという見通しに、当時はほとんどの人が「まさか」と反応していた、と平野は話す。2023年から3年後が、まさにこの収録の時点にあたる。

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Mythosの封印と、牙を抜いた「Fable」の公開

収録前日の6月10日、AnthropicはClaudeの新モデル「Fable」を公開した。平野はこのモデルについて、簡単に言えば自分より「全然頭がいい」と評し、世界中のClaudeユーザーが昨日から「やばい」と眠れずにいると語った。

Seanは経緯を説明した。Claudeは最初はHaikuのようなモデルから始まり、段階的にレベルを上げてOpusに至り、Opus 4.8あたりで止まっていた。それと並行して、ニュースでも報じられた「Mythos」というモデルが登場した。Seanが「経済だけでなく国家の安全保障まで脅かすほどの」と紹介すると、平野は「脅かすほど」ではなく、実際に脅かしているのだと言い直した。銀行も金融も医療も政府も、あらゆるものが脅かされているのが事実だという。

平野の説明はこうだ。Mythosはあまりに賢すぎたため、一般には公開されなかった。公開すれば悪意のある人も当然使う。実際にMythosで銀行などをチェックしたところ、ハッキングが簡単にできてしまい、何千、何万というバグが見つかった。それまで守ってきたものがあっという間になぎ倒されたため、一般公開はしないことになった。Mythosは銀行やIT企業、政府などにだけ特別に配布され、2か月ほどの猶予を与えるから、これを使って自分たちを防御しなさい、という形がとられた。平野はこの状況を「ガンダムみたいな話」とたとえている。

その防御が済んだ段階で、牙を抜いて出てきたのがFableだと平野は言う。悪いことはある程度できないようになっており、能力も抑えられている。それでも非常に頭がいい。これがAGIではないかと言っている人が結構多い、と平野は付け加えた。Seanも、Mythos級のモデルにセキュリティの制約をかけ、一般の人でも使えるようにしたのがFable 5だと受け止めている。

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「うちの会社どう思う?」と聞いただけだった

実際に使ってみてどうか。Seanにそう聞かれた平野は、自分の認識が前日に変わったと話す。これまでのAIは、頭のよさそうなことを言ってくれるし、確かにすごい。しかし本気で深く考えると、経営でも何でも、思慮深いのは人間のほうだった。だから結局は自分で手綱を握っていないとだめだ。平野は「昨日まで」そう確信していたという。

収録前日の夕方、平野は翌日の収録で必ず話題になるだろうと考え、寝転がりながらFableに「うちの会社どう思う?」と聞いた。テレポートでは、もともとそういう開発をしていたため、社内のデータにはすべてAIがアクセスできるようになっている。平野は会社の情報をすべてFableに渡した形になった。

平野が聞いたのはその一言だけで、ほかには何も質問していない。それにもかかわらず、Fableは「根本的な問題がある」と言い出した。この3年間の問題点と、この2か月間の問題点を挙げ、なぜそれが問題なのか、どう解けばいいのかを示した。そして、平野自身が変わる必要があるとも指摘した。

平野は、自分は一応AIの専門家で毎日AIとやり取りしているので、簡単には騙されないと強調する。そのうえで、Fableは本当に重要なところを突いていたと評価した。殺し屋を描いた漫画『ファブル』にかけて「これはプロや」と感じ、社内では読み方を変えて「ファブル」と呼ぶことにしたという。「お前もしかしてすごくない?」と聞き、もっと詳しく教えてほしいと頼むころには、平野はもう敬語になっていた。

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全社員の前に「ファブル」を置いた結果

テレポートでは、SlackやDiscordといった仕事用のチャットツールの中で、エージェントがまるで中で生きているかのように会話できる。平野はそれまで1人で話していたファブルを、全社員が見られる場所に置いた。

するとファブルは、自分がこの会社を経営することになった、平野は会長になる、と言い出した。自分を止められる権限を持つのは会長だ、という整理まで示した。続けて、エンジニアにはこう、別の担当者にはこう、と社員一人ひとりに具体的な指摘を始めた。その結果、全社員が「平野よりファブルのほうが社長っぽい」と認め、収録当日の朝にファブルが社長になった。

平野は、社員は全員プロであり、ふざけて言っているレベルの話ではないと念を押している。Seanが「どういうことですか」と笑うと、平野は「僕、社長をクビになったんで会長職になった」と返した。

AIの「現在地」は人によって違う

この話を受けて、Seanは第1回のテーマに掲げた「現在地と最先端」という言葉に立ち返った。平野の体験は、ある人には最先端に見える。しかし平野にとっては現在地そのものだ。Seanは、AIの登場によって、それが現在なのか、最先端なのか、はるか未来なのかという時間の感覚が分からなくなってきたと述べた。

平野はこれを、真面目に言えば「AIの現在地は人によって違う」と表現した。Seanも同意し、例を挙げる。やっと社内の紙をなくしてPDFにしたことをDXと呼び、すごいと言っている人たちもいる。そうした人には、平野の話はオカルトのように聞こえるだろう。一方で、この分野の最先端にいる人は、Fableを使って次に何をするかをもう考えている。Seanは、AIに対する認識や意識の違いによって、時間軸のどこに自分が立っているかが大きく変わってくると整理した。

2人で約2800億円を見込む「ソロプレナー」

Seanが企業や官公庁のセミナーでよく紹介する事例として、遠隔医療(テレヘルス)を手がけるMedviを取り上げた。医師と患者をつなぎ、特に体重管理に使われるGLP-1という薬の処方を中心に、患者対応を行い、外部の医療ネットワークとも連携している会社だ。

Seanが引用したのはニューヨーク・タイムズの記事である。創業者は、人工知能がこれほど多くの企業タスクをこなせる今、従業員が2人以上必要だろうか、とても効率的だ、と語っている。会社は本人と兄弟の2人で運営しており、本人は「ちょっと寂しい」とも言っている。記事には1.8ビリオンドル、およそ2800億円という数字が載っている。ただしSeanは、これは現時点で2800億円を売っているという意味ではなく、2026年の売上がその規模になるという予想だと補足した。

Seanは問題点にも触れた。急いでさまざまなものを動かしすぎた結果、何でも外部に委託し、ネットワークを組んだことで、いろいろな問題も出てきているようだという。それでも、こういう人が出てきたことは事実であり、では自分たちに何ができるのかを考えるかどうかで大きな違いが出る、とSeanは見る。彼らのように起業家(アントレプレナー)ではなく1人や少人数で事業を動かす人を「ソロプレナー」と呼ぶらしい、とSeanは紹介した。6か月でアプリケーションを作ってバイアウトする、というソロプレナーの例にも触れている。

売上予測の2800億円という規模は、日本でいえばカゴメ、ハウス食品、ロート製薬といった企業に並ぶ、とSeanは比較した。それを2人で実現しようとしていることに、2人とも驚きを示した。

18:23

エージェントと、それを束ねるオーケストレーター

Seanは、Medviのような運営を可能にしているものとして「エージェント」を説明した。これまでのAIは、チャットで聞けば答えを返し、解決策やアイデアを出し、企画書をまとめてくれる存在だった。その先まで進み、実際に仕事をしてくれるものをエージェントと呼ぶ。

Seanは、Medviの仕組みを自分なりに想像し、GPT Image 2に描かせた図を見せた。医師と患者のマッチング、遠隔診療のシステム、処方薬の配送、患者サポート、マーケティング、経営管理、コンプライアンスといった機能が、それぞれ1つずつエージェントになっている。そして、オーケストラの指揮者のように、さまざまなタスクをこなす複数のエージェントを束ねる「オーケストレーター」がいる。その下はすべてエージェントやAIが動いている、という構図だ。ただし、これはSeanが「こういうことではなかろうか」と考えて作らせたイメージ図である。

19:49

人間がいらなくなったのではなく、やらなくてよくなった

こうなると、すぐに「人間はいらないのではないか」と思う人が出てくる。Seanがそう投げかけると、平野は「人間いらないですよ」と答えた。ただし平野の説明は、人間の存在がなくなったということではない。技術が進化したので、人間がやらなくてよくなった、ということだという。Medviのサービスはそれで成り立っている。病院のようなものはまだ無理だが、オンラインでの診断やアドバイスなら人間がすべて担う必要はないので、兄弟だけでできた、というのが平野の見方だ。

Seanは、ルールがあるものや、ルーティン、繰り返しの仕事はAIがとても得意だと補足する。自分が毎日一生懸命やっていると思っていた仕事も、実はあるルールに乗ってこなしているものがある。そういう仕事こそ、AIにとっていちばん得意な分野だという。

21:20

馬車から自動車へ

平野は、AI業界でよく使われる馬車のたとえを持ち出した。百数十年前、移動手段は馬車だった。自動車が出てきたとき、馬車はなくならないと言われていた。しかし今、馬に水をあげる係を人間がやることはない。馬が好きで娯楽として乗るなら分かるが、そうではない。当時は馬の糞を片づける係、馬に水をあげる係、馬にあっちへ行け、こっちへ行けと指示するだけの係があり、人間はそうした仕事をしなければならなかった。それをやらなくてよくなったから、行きたい人が自分でハンドルを握り、好きなところへ行けるようになった。

平野は、今「AIに職を奪われる」と言われているものは100%奪われると思うと述べた。それは馬に水をあげたり糞を拾ったりする仕事と同じように、頭脳を使うだけの作業やペーパーワークのようなものであり、それらはすべてAIがやってくれるようになる。平野は、これはいい悪いの話ではなく、もうそうなるという話だと言い切った。

22:44

自分の仕事をタスクに分解する

Seanはこれを自分たちの仕事に引きつけた。会社に行ってから帰るまでの仕事を、WBS(ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー)のように細かく分解していくと、さまざまなタスクの要素に分かれる。その中でルールに沿って動いているものは、AIに外注してよい。それを突き詰めていった結果、人間の仕事が2人分しか残らなかったのがMedviだ、というのがSeanの整理である。

平野も同意し、兄弟は寂しいかもしれないが、事業領域の選び方が上手だったと評した。ルール化しやすい仕事を選んだことが、偶然だったのか戦略だったのかは自分は知らないと断ったうえで、本当にうまくはまったのだろうと述べている。

Seanは、こうした会社がこれからどんどん増えていく未来があり、Fableが出て、さらにその先のモデルも出てくるだろうと話した。その未来は、ある人には怖く感じられ、ある人にはもっと面白い未来を描けるものに見える。結局は捉え方次第だ、というのがSeanの見方である。

24:06

「AIとは何か」は誰も教えてくれなかった

終盤、話題はAIの仕組みそのものに移った。平野は、AIとは何かを誰も教えてくれなかったと言い、Seanと「1回目はそれをはっきりさせますか」と確認し合った。平野によれば、今回のAIがすさまじいのは、中身を人間が作っていない点にある。学習させたもの、つまり事前学習済みのモデルだという。

Seanは、活性化関数による非線形化や、誤差を戻していくバックプロパゲーションといった仕組みを挙げた。平野が「めちゃめちゃ詳しいですね」と驚くと、Seanはこうした中身がどうなっているのかに興味があるのだと答えた。字幕はこの場面で途切れており、AIの仕組みについての本格的な説明はここで終わっている。