GIGAスクールのネットワーク品質を継続計測し、教員に見える化する:東広島市での実践と課題

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概要

学術情報基盤オープンフォーラム2026で、広島大学 情報メディア教育研究センター准教授の小川康一氏は、GIGAスクール環境の学校ネットワークを継続的に計測し、その結果を授業を行う教員にも理解できる形で可視化する取り組みを紹介した。問いは、学校の通信帯域不足が指摘されるなかで、現場で何が起きているかを測り、授業への影響として伝えるにはどうすればよいかである。小川氏は、計測を単なる性能確認で終わらせず、授業への影響として理解できる情報に変換することが必要だと主張した。

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話者の背景:ネットワーク運用と衛星通信の計測

小川氏はセンターでネットワークと情報基盤の運用管理を長く担当し、それに関連する研究も続けてきた。現在は情報基盤の運用管理技術、特に自動化を推進している。以前は群馬大学に所属しており、昨年10月から広島大学でセンターの運用と学生の指導にあたっている。

GIGAスクールの話に入る前に、小川氏は衛星コンステレーションに関する取り組みにも触れた。SpaceXの衛星インターネットサービスであるStarlinkについて、ここ数年データ収集を続けているという。この経験が今回の学校ネットワークの継続計測にもつながっており、後半で述べる遠隔地の計測機器の保守という課題は両方のプロジェクトに共通するものとして語られた。

背景にある問題:帯域不足と計測の欠如

GIGAスクール構想は、ICT環境を整備し、デジタル教科書や動画などのコンテンツを使って授業を行うためのインフラである。小川氏は、2023年末に文部科学省が全国約3万2000の公立小中高校を対象に行ったアンケートを紹介した。文科省が示す通信帯域の目安である1人あたり2Mbpsを満たす学校は、2割程度にとどまったという。小川氏はこの結果について、生徒が十分に学習できるネットワーク環境を提供できていない可能性があり、非常に問題だと述べた。

この課題に対して文科省はガイドブックを作成し、ネットワークアセスメントの必要性を示している。ボトルネックの推定や簡易的なネットワーク計測といった調査を求める内容で、小川氏は丁寧で分かりやすく書かれていると評価した。一方で、実際に計測した結果を授業を行う教員に提供する取り組みはこれまで行われていないという。そのため授業中に動画が止まるなどのトラブルが起きても、原因が分からないまま対応に追われ、そのまま授業が終わってしまうことがある。さらに小川氏は、先に登壇した藤原氏の可視化の話にも触れつつ、計測データがあってもそれがどういう状況を意味するのか分からないという問題もあると指摘した。

東広島市と広島大学の連携プロジェクト

プロジェクトは、広島大学東広島キャンパスが所在する東広島市の公立学校を対象としている。大学と一緒にまちづくりを進める「タウン・ガウン構想」の一環として東広島市と広島大学が連携し、支援プロジェクトとして性能調査やデータの取得・分析を行ってきた。立ち上げは相原先生がコアメンバーとして担い、その後、近藤先生と小川氏が参画した。後半で紹介する内容の一部は、プロジェクトに参加している学部生や博士前期課程の学生が担当している。

運用に関わる人々と、提供したい3つの情報

小川氏は、GIGAスクールの運用管理に関わる人々を整理した。中心には授業を行う教員がいる。授業中にトラブルが起きると、多くの場合は教頭が兼務する「ICT連絡担当」に連絡が行き、そこから「ICT支援員」が対応する。ただしICT支援員は各校に常駐しているわけではなく、複数の学校を巡回している。さらに市の教育委員会が、学校との調整、運用判断、次期システムの策定を担当している。プロジェクトはこうした関係者に対して計測と分析の結果を提供している。

提供したい情報として、小川氏は大きく3点を挙げた。第1に、授業に必要な通信帯域や通信品質を確保すること。第2に、ネットワークトラブルの原因を切り分けられるようにすること。第3に、現場の教員をはじめ、さまざまな立場の人がデータを見て対応できるようにすることである。

計測の構成:44拠点に74台の計測機

細かい技術的内容を説明すると時間がかかるため、小川氏は概要にとどめて紹介した。プロジェクトでは東広島市の小中学校44拠点に計測機74台を設置し、帯域計測を行っている。多くの学校は2つのISPを使っており、両方の回線を計測対象にしている。計測内容は、トラフィックの計測、通信帯域の計測、Webサーバーの応答である。Webサーバーの応答は、デジタル教科書など授業で実際に使うサービスへの到達性を確認するためのものだ。

計測機にはRaspberry Piを使い、数を揃えて各学校のサーバーラックに設置している。ローカルブレイクアウトの回線が2回線あり、その下に有線で計測する機器を置いている。さらに、生徒が実際に使うときの体感に近い品質を測るため、無線LANのアクセスポイントの下にも計測機器を置いた。加えて、各学校のSNMPでネットワークのトラフィック状況を取得している。

データの送信と可視化:443番ポートしか使えない環境

収集したデータは、計測結果のCSVファイルをJSON形式に変換し、SINETStreamを使ってMQTTSで送信している。ここで小川氏が強調したのは、学校のネットワークには非常に多くの制限があることだ。開いているのは80番と443番ポートだけで、そのためわざわざTLSを使った通信を443番ポートで送る構成にしている。これ以外の計測も443番ポートを使って行っているという。送信したデータはGrafanaで可視化している。

計測値を「快適・注意・不調」に変換する

計測値を集計する際には、帯域やパケットロスなどの値に対して15分間の移動中央値を取る。そのうえで、Web閲覧やオンライン会議に必要とされる指標を参考に閾値を定め、判定を行う。回線が2つあるため、両回線の判定を統合し、最終的に「快適」「注意」「不調」という分かりやすい状態表示にまとめる設計にした。

教員やICT担当者向けのダッシュボードでは、最上段に送信と受信の状況を「快適」「不調」などで表示する。中段には各サービスが快適か不調かを示し、その下に時系列での状況を表示する。最下段では、デジタル教科書などのサービスの状態が悪くないかを示す構成である。

より詳しく専門的に見たい人、たとえば教育委員会の担当者向けには、Grafanaの実際のグラフを見られるようにしている。そこではデータの中身を確認できるほか、SINETStreamでデータが確実にアップロードされているかも確認できる。

教員向けページは、昨年末から教員向けポータルから参照できる形で試験運用を始め、2月から本格運用を開始した。ただし使い勝手などはまだこれから確認していく必要があると小川氏は述べた。

可視化で確認できた事例

小川氏は、可視化によって確認できた事例を2つ示した。1つ目は、短時間だけ値が跳ね上がるスパイクである。値は一時的に閾値を超えているが、継続していない。移動平均的な処理を使っているため、この場合の表示は「快適」のままとなる。現場を不用意に混乱させないための工夫だと小川氏は説明した。

2つ目は、後になって判明したサービスの不具合について、その時に何が起きていたかを計測データから調べた事例である。グラフの中央付近で、赤い点線で示された閾値(字幕では100ミリ秒と読める値)を大きく超える状態が継続的に確認できた。この継続的な異常を「不調」として表示でき、トラブルに対応する表示ができたと小川氏は報告した。

プロジェクトで直面した課題と対応

小川氏は課題と対応の関係を整理した。まず設置について、計測機器は学校ごとに設置する必要があるが、ICT支援員の協力により設置は順調に進んでいるという。

次に通信の制約である。ICMPやSSH、MQTTの標準ポートといったものは使えない。そのため、RTTなども発表では詳しく触れなかった別の方法で取得している。TCPの443番ポートを中心とした計測・収集方法が必要になると小川氏は述べた。

3つ目は、Starlinkのプロジェクトでもよく起きる問題として挙げられた遠隔地での保守である。計測システムが遠隔地に置かれると自分の手元から離れ、中のプログラムを更新できなくなる。SSHで外から入れないため、メンテナンスの仕組みを先に考えておかなければならない点が重要だという。Starlinkのプロジェクトでもこの部分の検討を進めている。自動更新の仕組みが必要になるほか、機器が止まることもあるため、その状態を確認する仕組みも必要になるだろうと小川氏は話した。

4つ目は技術指標の説明可能性である。これについては、今回「快適・注意・不調」の3つの指標に変換できたのではないかと小川氏は評価した。

今後の展開:体感品質、原因推定、授業との突き合わせ

今後の展開として、小川氏は技術的な視点と教育ICTの視点に分けて構想を述べた。技術面では、体感品質の調査を進め、ネットワークの中で実際にどの程度遅くなっているのかを確認したいという。原因推定もある程度高度化したいとした。また現場の教員が使いやすい形を目指し、生成AIを使った対話型のUIにできるとよいと考えている。

教育ICTの視点では3つを挙げた。1つは授業の時間割との連携で、時間割とデータを突き合わせることができるのではないかという。2つ目は通信品質と教育効果の相関で、今後重要になってくると考えている。3つ目は学校間格差や地域差の可視化で、計測の中から確認できるようになるのではないかと述べた。

体感品質は今後の課題として、計測値が悪化したときに授業がどれくらい使えなくなるのか、ネットワークがどの程度遅くなっているのかを確認する必要があるという。状況を再現し、Web教材、動画、オンライン会議がどうなるかを確認していく予定で、現在は修士課程の学生が取り組んでおり、今後発表する予定だとした。

結論:授業への影響として理解できる情報提示へ

小川氏は、東広島市との連携により学校環境での継続的なネットワーク計測、収集、可視化を実践してきたとまとめ、これを継続していくことが非常に重要だと述べた。得られた知見として、単なる性能の確認ではなく、授業への影響として理解できる情報提示が必要だという点を挙げた。

最後に、データ駆動基盤への期待として、データの収集・蓄積・可視化に関する基盤構築のコストを抑えながら、教育現場の課題解決とデータ活用に注力できる環境を継続して提供してほしいと述べ、発表を締めくくった。