北欧神話はなぜファンタジーの「元ネタ」になったのか――世界樹、ロキ、そしてラグナロク

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概要

「エクストリーム世界史」の北欧神話編で、中田敦彦は北欧神話を「ベスト・オブ中二病神話」と呼ぶ。古事記やギリシャ神話を扱ったあと、視聴者から北欧神話をやってほしいというリクエストが特に多かった。中田は当初、主要な神話はもう扱ったという気持ちで「侮っていた」と打ち明け、調べてみてその考えを改めたと謝る。本動画では、北欧神話がギリシャ神話や日本の神話よりもゲームや漫画の素材にしやすい理由を、成り立ちの歴史、世界観、主要な登場人物、天地創造から世界の滅亡と再生までの筋に沿って説明している。参考文献として杉原梨江子『いちばんわかりやすい北欧神話』(実業之日本社)が挙げられている。

17分で読めます

ハリウッドから漫画、ゲームまでの原点

中田はまず、北欧神話を下敷きにした作品として『進撃の巨人』、漫画『ベルセルク』、ハリウッド映画『マイティ・ソー』、オンラインゲーム『ラグナロクオンライン』を挙げる。漫画、アニメ、映画、ゲームの元ネタの多くが北欧神話にあり、それが北欧神話の人気の理由だという。動画全体を通して、中田は神話の要素が現代のどの作品につながっているかを指摘しながら話を進める。とくに『進撃の巨人』との類似には何度も触れている。

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キリスト教以前の北方の神話と、ヴァイキングの信仰

歴史面で中田が強調するのは、北欧神話がキリスト教の布教以前の信仰だという点である。キリストが生まれたのは紀元1世紀の初めだが、キリスト教はキリスト本人ではなく弟子たちが広めた。ローマ帝国はいったんキリスト教を弾圧したが抑えきれず、最終的に国教とした。中田によれば、その後に一神教のキリスト教がヨーロッパに広がったことで、多神教であるギリシャ神話やその継承であるローマ神話の世界観は駆逐されていった。北欧神話もこれと同じ文脈にあるという。

北欧神話が広まった地域として、中田はスカンジナビア半島のスウェーデンとノルウェー、半島の南にあるデンマーク、半島の北西にある島アイスランドを挙げる。もともと民間伝承として語られていた物語が大きく盛り上がったのは、8〜10世紀のヴァイキング時代だという。ヴァイキングは戦いと商売を生業とする海の男たちで、いつ船が沈むか、いつ敵に命を奪われるか分からない。中田は、死に瀕し危機に陥るときに人は神に祈り、宗教が強くなると説明する。この時代の物語は書物ではなく口伝えで残された。

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片目の策略家オーディンが最高神になった理由

ギリシャ神話の最高神は雷を落とすゼウスである。北欧神話の最高神はオーディンで、中田はゼウスとの違いを「策略家」である点に見る。オーディンは知恵の神でもあり、戦いと策略と狡猾さを備えた「片目の全能神」として描かれる。

中田の説明では、オーディンが最高神にまで押し上げられたのはヴァイキングに崇められたからである。海で戦略と商売に生きるヴァイキングにとって、平和の神よりも、知恵と狡猾さを持つ神のほうが憧れの対象だった。スカンジナビア半島にはさまざまな神々の伝説があったが、その中でオーディンが圧倒的な人気を得たのだという。知の神である一方で破壊的な面も持つ点は、ゼウスとかなり似ていると中田は付け加える。

『エッダ』とサガ――書物になった北欧神話

口伝えの物語が書物になったのは12世紀ごろからで、北欧神話ではそれを『エッダ』と呼ぶ。エッダは2種類ある。原点にあたるのが、神々の物語を詩の形で残した「詩のエッダ」。もう一つの「スノリのエッダ」は、スノリという人物が詩や物語の解説を書いたもので、新しいほうのエッダとされる。中田はこれを、原点となるポエムとその解説本のセットだと言い換えている。このほか、さまざまな物語が「サガ」として残っている。2種類のエッダと複数のサガが北欧神話の原典であり、12世紀ごろに書かれたと見られるそれらは17世紀ごろになってようやく発見された、と中田は説明する。

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宇宙樹ユグドラシルが中心にある世界観

神々が争い、事件を起こす点ではギリシャ神話と似ているが、中田が最大の違いとして挙げるのは世界観である。北欧神話の世界は球体のようなものに囲まれ、その真ん中に巨大な木がそびえ立ち、その中にさまざまな者たちが住んでいる。この木が宇宙樹ユグドラシルで、世界樹や生命の樹とも呼ばれる。

世界の中心に巨大な木があるという発想は各地の神話や宗教にあり、中田はキリスト教の世界で知恵の実(りんご)がもがれる生命の樹や、仏教の菩提樹を例に挙げる。ただ北欧神話では、この宇宙樹の存在感がほかの神話や宗教よりはるかに大きく、ストーリーにも中心的に関わってくる。中田はこの点を北欧神話のポイントとしている。

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原初の巨人ユミルと、オーディンによる天地創造

世界のはじまりには何もなく、氷と炎だけがあった。氷の世界と炎の世界という二つの対極的なエネルギーが、世界の真ん中の裂け目でぶつかり合う。そこから最初の生命が生まれた。原初の生命であり原初の神でもあるその存在は巨人で、名前をユミルという。中田は、これが『進撃の巨人』の最初の巨人の名前そのものだと指摘する。

ユミルはたくさんの巨人族を生んだ。一方で、氷の中からまた別の生命体が突然生まれ、それが男の形をとって子をなした。その子と巨人族の子孫が結婚して生まれたのが、オーディンとその二人の弟の3兄弟である。この別の生命体については中田も「ここは分かんないです」と言い、神話の「雑」なところとして笑いにしている。

オーディンは原初の存在であるユミルを殺害し、その体を余すことなく使って世界を作った。ドーム状の世界の蓋はユミルの頭蓋骨、大地はユミルの肉でできている。だから万物の父はオーディンであり、最高神になるべくしてなった、と中田は説明する。人間もオーディンたちが作った。宇宙樹などの木を組んで人型にし、魂、命、言葉、視覚、聴覚を与えたところ人間になったという。中田はこれを「メイド・バイ・ウッド」と呼び、ここでも作りの雑さを笑っている。

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神族・人間・巨人の住み分けと『進撃の巨人』

こうしてできた世界には、オーディンの一族である神族、ユミルの一族である巨人族、そして人間が住む。中田はこれをタワーマンションにたとえる。宇宙樹の真ん中の小高い場所、つまり最上階のペントハウスに住むのが神族。その麓に住むのが、オーディンが木から作った人間族である。人間族の中からは英雄も生まれ、オーディンに仕える狂戦士「ベルセルク」もいた。漫画『ベルセルク』のタイトルはここから来ていると中田は言う。

神族の住む場所には非常に高い壁があり、その下の人間が住むエリアの周りにも高い柵がある。その外側に巨人族がいる。中田はこれを『進撃の巨人』のウォール・マリア、ウォール・ローゼ、ウォール・シーナの構造に重ね、最も内側にいるのが神族、2枚目の壁の中が人間、その外が巨人だと説明する。巨人族は、ユミルが殺されたときに1組の夫婦を除いてほとんどが殺され、最果てに追いやられた。巨人族は原初の存在であり、オーディンの母親も巨人なのに、その理屈は通じなかった。

ユグドラシルは3本の根を下ろしている。1本は神族の側に、1本は巨人族の町にある泉に、もう1本は大地の真下にある氷の世界の泉に降りている。氷の世界のさらに下には冥界がある。中田はこれを「三点倒立」と表現した。

17:20

ギリシャ神話との比較――巨人は駆逐されず、最後に相打ちになる

ここで中田は、自分の感覚による比較だと断ったうえで、ギリシャ神話との対応関係を整理する。最高神と雷神が別々に存在する北欧神話では、オーディンとトールを合わせるとゼウスのような存在になる。祖先にあたるユミルを殺して世界を作るという点では、ユミルはギリシャ神話のウラノスやクロノスに近い。どちらが先というより、似た話がだんだん分派していったと考えるのが近いらしい、と中田は述べている。

両者の大きな違いは結末にある。ギリシャ神話でも、ウラノスから生まれたティターン神族という巨人たちが登場するが、彼らはゼウスにすべて滅ぼされる。中田は『進撃の巨人』になぞらえて、ゼウスが巨人を駆逐する話だと説明する。一方の北欧神話では、巨人族は後の神々に滅ぼされない。最終戦争で神族と巨人族の大リベンジマッチが行われ、相打ちで全てが滅びる。だから巨人族は北欧神話の「裏主役」であり、最終的に巨人が内側の神族へ攻め込んでいく構図も『進撃の巨人』っぽい、と中田は指摘する。

20:14

神族対神族――アース神族とヴァン神族

最終戦争の前に、神族同士の争いがあった。オーディンやトールたちの一族はアース神族と呼ばれる。トールはハンマーを持つ最強の雷神で、マイティ・ソーのもとになった神である。

あるとき、アース神族の町に一人の女が現れ、欲望にまみれた情報をまき散らして町の風紀を乱した。神々は女を捕まえて処刑したが、女は生き返った。もう一度処刑しても生き返り、3度ほど生き返ったところで普通の女ではないと気づく。女は別の神の一族、ヴァン神族だった。二つの神族は戦ったが、やりすぎたとして争いをやめ、互いに大事な人材を人質として送り合って和解した。

北欧神話には、ユミルの体から作られた世界が全部で9つある。アース神族の世界、人間の世界、巨人の世界、氷の世界、冥界のほか、ヴァン神族の世界、氷とぶつかっていた炎の世界、光の妖精の世界、闇の妖精の世界である。ただし、ヴァン神族、炎、光の妖精、闇の妖精の世界がどこにあるのかは定かではないという。中田はここでも「雑」と突っ込んでいる。

23:07

人質として来たフレイヤと、兄フレイの結婚

和解の人質としてアース神族の町に来たのが、愛の女神フレイヤである。たいへんな美女でセクシー、しかもめちゃくちゃ欲深い。中田は「峰不二子みたいな状態」と表現し、ギリシャ神話のアフロディーテやローマ神話のヴィーナスに近いと見る。後の「神々の日常」の話では、フレイヤはしばしば取引の条件に出されて争奪の的になる。中田は、アフロディーテと結婚させろと迫る輩がやたらと現れたギリシャ神話と同じだと述べる。

フレイヤの兄フレイは、イケメンのプレイボーイで豊穣の神だ。フレイは巨人族の美女に一目惚れし、自分の大事な宝剣を含めて全部あげるから結婚してほしいと、使いの者に求婚させる。娘は「お金じゃない」と断るが、使いの者は「ヴァン神族を敵に回してまともに生きられると思ったら大間違いだ」とひどく脅し、結婚を承諾させる。ところが二人はなんだかんだで幸せになり、政略結婚でも意外と幸せになれるという象徴になったらしい。フレイとその巨人族の妻が仲むつまじくしている姿を描いた金の板が多く残っている、と中田は紹介する。一方で、今なら人権問題になりそうな話だとも付け加えている。

この話には落ちがある。フレイは剣を含む武器をすべて渡してしまったため、最終戦争ラグナロクで全員が出陣するとき武器がなかった。フレイはそこにいた鹿の角を折って出陣し、死に向かう。中田は、戦では結果を残せなかったが愛のために生きた男、いいパパの象徴としても使われると説明し、そのわりには脅していたというツッコミどころもまた神話っぽいと述べる。

27:08

トリックスター・ロキと「神々の日常」

中田が北欧神話で一番面白いキャラクターだと考えているのがロキである。ギリシャ神話のトリックスターといえば、ゼウスに翻弄されながらも面白いことを起こすヘルメスだが、ロキはそれ以上にトリッキーな「善悪混合」の神だという。ロキは巨人族の末裔でありながら、アース神族とともに物語によく登場する。神々の日常を描くエピソードはロキを中心にした事件が多く、どれもコミカルだ。「またトラブルか、またロキのせいだ」という扱いだと中田は言う。

一つ目は丸刈り事件である。トールの妻はピカピカの金髪の美人だったが、ある朝起きると丸坊主になっていた。犯人は夜中に髪を刈り込んだロキだった。怒ったトールに腕を掴まれ、今日中に何とかしなければ殺すと迫られたロキは、体の小さな職人集団のところへ行ってカツラを作らせた。このカツラは被ると皮膚と一体化し、元よりも豊かな髪になった。トールも「前より良くなっている」と納得して許した。中田は、現代でも作れない技術だと笑っている。

二つ目は、この職人集団とフレイヤの話だ。フレイヤは職人たちが作ったきらきらした首飾りを見つけて欲しがる。職人たちは金はいらないと言い、一晩ずつ一緒に過ごすことを求めた。フレイヤはしぶしぶ応じて首飾りを手に入れる。中田はこの話を「最低」と評し、口伝の段階でなぜこれを残したのかと首をかしげている。

三つ目は城壁事件で、中田によればこれで巨人族とアース神族の力関係が分かる。鍛冶屋を名乗る男が、神族の町に大きな壁を作ると申し出る。実はこの男は正体を隠した巨人族だった。報酬として男が求めたのは、フレイヤと太陽と月である。神族が頼りにしていたトールは巨人を懲らしめる「出張」に出ていて留守だったため、神々はとりあえず作らせてみることにした。男は特注の馬に資材を運ばせて壁をどんどん積み上げ、やがて巨人族だと分かる。完成が迫り慌てた神々はロキを呼び、完成を阻むよう頼む。ロキは雌馬を仕込んで資材を運ぶ馬を誘惑させ、工事を遅らせた。その間に帰ってきたトールは事情を聞くと、ハンマーで鍛冶屋の頭をかち割った。そして神族は、結局その城壁を使い続けた。

37:13

巨人は悪ではなく、かわいそうな存在

この城壁事件を受けて、中田は北欧神話の巨人の描かれ方に注目する。よく見ると巨人は悪ではなく、むしろかわいそうな存在だという。完璧な神とその下の人間がいて巨人を駆逐する、という構図にはならない。神と人間と、神にいじめられている巨人がずっと描かれ続ける。中田はこれを北欧神話の大きなポイントだとしている。

37:43

滅亡の予言と、ヴァルハラに集められた英雄たち

神々の日常は、ある予言によって終わりを告げる。最高神オーディンのもとに、神族はまもなく最終戦争によって滅びるという予言が届いた。オーディンは、ユミルを殺して世界を作って以来、ユミルの子孫である巨人族がいつか自分を許さず復讐に来るのではないかとずっと恐れていた。その恐れが予言として現れたのである。

オーディンは強引なやり方で兵士を集める。人間の世界の英雄たちに力を与えていたのはオーディン自身だった。ところがラグナロクが迫ると、その英雄たちの力を自分のものにしたくなった。オーディンは英雄のライバルに力を与えて英雄を殺させ、冥界も司っていたことから、死んだ有能な英雄たちをヴァルハラという御殿に集め、自分の兵士として蘇らせた。蘇った英雄たちは神のために戦う兵士となった。

40:22

光の神バルドルの死と、ロキの裏切り

ラグナロクを恐れるオーディンにとって唯一の希望が、正妻フリッグとの間の息子バルドルだった。オーディンには多くの愛人がいたが、フリッグはゼウスの妻ヘラと同じく賢く用心深い女性として描かれる。バルドルは光の神で、慈愛に満ち、聡明で、しかも美しい「完璧超人」だった。眼帯をつけた白髪の老人であるオーディンとの対比を、中田は演技を交えて語っている。

そのバルドルが死ぬという予言が現れた。母フリッグは息子を守るため、地上のあらゆるものにバルドルを傷つけないよう誓わせ、バルドルは何をされても傷つかない体になった。ところがフリッグは、大したことはないと思った一つの木だけを、うっかり誓いの対象から外していた。ずる賢いロキはそれに気づく。そして盲目だったバルドルの弟をけしかけ、その木で作った矢を射させた。石を投げても何をしても平気だったバルドルに、その矢が刺さる。バルドルは倒れて死に、冥界へ行った。

フリッグは冥界にもバルドルを生き返らせるよう頼む。冥界を司るのはヘルで、巨人族であり、しかもロキの子供だった。ヘルは、世界中のすべての神々がバルドルの復活を願うなら復活させる、という条件を出す。ここでもロキが動いた。自分があからさまに反対すれば面倒になると考え、別の女に化けて反対したのである。一人の反対者がいたため、バルドルは復活できなかった。

中田は、丸刈りのいたずらをしていたロキが「ここまでやる?」というところまでやったと驚いてみせる。ロキは捕まるが、これをきっかけにラグナロクが始まる。小競り合いをしていたキャラクターが、最も希望とされた神を殺し、その復活まで阻んで最終戦争を起こした、という流れである。

47:26

トールとロキの「五番勝負」

ラグナロクでの本気の戦いの前にも、トールとロキはずっと小競り合いを続けていた。中田はその代表例として「五番勝負」を紹介する。種目は食べ比べ、走り比べ、酒の飲み比べ、猫の持ち上げ、老婆との相撲だ。

食べ比べと走り比べにはトールの弟子が出たが、得体の知れない子供などに負けてしまう。三番勝負からはトール自身が出る。盃を飲み干せば勝ちと言われて飲むが、だいぶ飲んだはずなのにちょっとしか減らず、時間切れで負ける。次は猫を持ち上げる勝負で、片手で済むと思ったのに持ち上がらない。最後は老婆との相撲で、押せば押すほど力を奪われ、土俵際まで追い込まれる。

中田の説明では、ロキは幻を見せる幻術の力も持っており、トールは実はとんでもない相手と戦わされていた。食べ比べの相手は火炎、走り比べの相手は思考だった。思考が一番速いからである。飲んでいた酒は海だった。猫は、ロキの息子で、海に投げ捨てられて育ち世界を取り巻くほどの大蛇になったヨルムンガンドだった。そして老婆は「老い」そのもので、時間がたつほどペースを奪われたのは老いと戦っていたからだ。火、思考、海、大蛇、老いにはトールの力でもかなわなかった。中田はこの話を「哲学的」と評している。

52:06

ラグナロク――相打ちと炎の巨人スルト

ラグナロクが始まると、混乱の中でロキも解放され、戦いに加わる。中田によれば、勝つと思われた神族に対して巨人族は非常に強く、主要な神々が次々と相打ちになっていく。ロキの息子である狼フェンリルはオーディンを丸のみにする。ヨルムンガンド、ヘル、フェンリルといったロキの仲間たちが大活躍し、トールも相打ちに持ち込まれる。

最後に世界を焼き尽くしたのが、炎の巨人スルトである。中田はスルトを、ギリシャ神話のプロメテウスのような存在かもしれないと見る。火は人間の文明の象徴であると同時に大災害も起こすので、味方でもあり敵でもある二面性を持つ神として描かれる、という説明だ。氷と炎がぶつかってユミルが生まれたことを考えると、スルトも相当に原初の存在である。炎の世界は神族の世界とも巨人族の世界とも別の場所にあり、スルトはどちらにも出入りせず、遠く離れた場所から歴史を見守ってきた。そのスルトが最後に現れて全てを燃やし尽くし、予言どおり世界は滅びる。

54:20

再生――世界樹の中から出てきた人間

すべてが燃え尽きたあと、オーディンもトールも、強かった神々も巨人も全員いなくなった。それでも、オーディンの子供などごくわずかな神々が生き残った。そして燃え尽きた宇宙樹の中で朝露をなめてしのいでいた人間の男女1組が、ラグナロクを生き延びていた。この二人が人間の始祖として、今の我々につながる。中田はこの結末を「すごくないですか?」と繰り返し強調する。

生き残った神々は、かつての神族の栄光を懐かしみながら天へ帰っていった。そのとき、光の神バルドルが復活したらしい。地上は人間が治めることになった。

ギリシャ神話との違い、ロキとエレン、そして曜日の名前

中田は締めくくりに、ギリシャ神話との違いを改めて整理する。ギリシャ神話では神と人間が結婚して子供を産み、そのハーフが英雄となり、英雄の血がだんだんと人間に浸透して今の世界になる。北欧神話では神々と人間は完全に分かれている。神々も巨人族も滅び、最後に人間が木の中から出てきて世界が始まる。

世界樹・宇宙樹の存在、神対神と神対巨人の戦い、ラグナロク、そして善悪混合で、もしかしたら主人公かもしれないロキ。中田は、巨人の味方なのかどうか分からないロキが『進撃の巨人』のエレン・イェーガーにも見えてくると述べ、だからこそさまざまな物語の元になってきたのだと語る。北欧神話にはほかにも多くのエピソードと登場人物があり、影響は今も残っている。その例として中田は、英語の曜日名、Tuesday、Wednesday、Thursdayなどが北欧神話の神々の名前から来ていることを挙げる。我々の中に少しずつ残っている北欧神話の名残をたどり、それが形を変えて現代に影響を与えていることに驚いてみるのもいいのではないか、と中田は動画を結んでいる。