研究支援人材の連携で作った大阪大学の「研究マネジメント総合支援システム」とデータスチュワード育成
国立情報学研究所 - National Institute of Informatics大阪大学D3センターの甲斐尚人氏は、学術情報基盤オープンフォーラム2026で、同大学が開発した研究マネジメント総合支援システム(REMS)について報告した。講演の問いは二つある。一つは、研究支援の現場で働く人材がどう連携してシステムを作ったか。もう一つは、その開発経験を研究データ管理(RDM)人材、特にデータスチュワード型人材の育成にどうつなげるかである。
政策上の要請が開発の出発点になった
甲斐氏によると、REMS開発のきっかけは政策・制度からの要請だった。データマネジメントプラン(DMP)の作成が必須になり、即時オープンアクセスも義務化された。これらは研究者個人の努力だけでは対応しきれない業務であり、大学として研究者を支える必要が出てきた。研究者や大学が抱えていた課題が、こうした制度変更によってより表に出てきた、というのが話者の整理である。
そこでREMSは、研究者と研究支援者の負担をできるだけ減らし、複雑な制度要件への適合をシステムで支援することを目指した。これまでは同じ情報を何度も入力する手間があったが、REMSではワンストップで入力できるようにし、その手間を減らしたと甲斐氏は説明した。
開発の経過も示された。昨年度に試験運用を始め、運用しながら必要な機能を改善してきた。今年に入ってからは、即時オープンアクセスの対象となる教員向けに説明会を開き、3月に全学展開を始めた。
部局横断のチームによる開発体制
開発体制は、学内でRDMを主導する主要部局と研究者で構成するチームだった。大阪大学の研究ライフサイクルには、段階ごとに複数の基盤がある。それぞれの基盤を管理する部署と研究者が加わり、オープンサイエンス推進室が開発を主導した。甲斐氏は、各メンバーの専門性を持ち寄ってシステムを形にしたと述べた。
「支援現場の知識を機能へ変換する」
甲斐氏は、REMSについて、誰か一人が作ったシステムではないと強調した。政策、オープンアクセスの実務、リポジトリ管理、研究推進、ICTといった分野の知見を持つ人材が、それぞれの課題認識を仕様と運用に落とし込んだ成果だと位置づけている。
中核メンバーの役割も紹介された。
- D3センター准教授(甲斐氏本人):開発の統括
- 附属図書館の特任専門職員:甲斐氏を補佐し、プロジェクトの調整や全体のバランスを担当
- 附属図書館の課長補佐・専門職員:リポジトリ担当としての参加
- 研究推進部の主任:オープンアクセス支援や転換契約などの担当としての参加
甲斐氏は、これらのメンバーが「ああじゃない、こうじゃない」と議論しながら開発を進めたと振り返った。
ただし、REMSを実際に使うのは支援者だけではなく研究者自身である。そのため研究者の目線や使いやすさが非常に重要だと甲斐氏は考え、「補完された専門性」として情報推進部や各分野の教員の知見も借りた。どういうシステムにすれば運用がうまく回るかを、こうした人たちと一緒に考えたという。
単独の部署では見えない「接続部分」
メンバーはそれぞれの専門領域のプロだが、研究サイクルや研究データのサイクル全体で見ると、隣り合う領域どうしの連携が欠かせなかったと甲斐氏は述べた。REMSは、単独の部署では見えない接続部分を埋めなければ成り立たなかった。
スライドでは、研究開始前、研究中、成果公開、公開後という各フェーズと、フェーズ間の境界が示された。各フェーズには専門家がいて機能を落とし込んでいく。一方で、フェーズとフェーズの間では別の検討が必要になる。例えば図書館は、オープンアクセスの登録業務だけでなく、研究費、DMP、研究プロジェクトとの関係も考える必要があった。結果として、各フェーズを個別に扱うことはできず、前後の工程や隣の専門領域を理解することが求められたという。
開発が結果として人材育成になった:二つのアプローチ
甲斐氏は、こうした開発そのものが、結果として研究データ管理支援人材の育成につながったと考えている。そのうえで、育成には大きく二つのアプローチがあると整理した。
アプローチ1は、ジェネラリスト型のデータスチュワードである。研究データのライフサイクル全体を見渡し、制度と研究、研究者と研究支援者をつなぎながら、サイクルを回すための仕組みを考える役割を担う。甲斐氏は、自分自身や、図書館でプロジェクト調整を担当した専門職員がこれに当たると説明した。
アプローチ2は、隣接領域をつなぐスペシャリストどうしの連携である。スライドは大規模大学を想定しており、各フェーズにさまざまな専門人材が配置されている。それぞれのプロフェッショナルが自分の専門に軸足を置いたまま、隣の領域を学ぶ。REMS開発にはそうした機会があり、図書館職員や研究推進部の職員はアプローチ2の形で専門性を広げたのではないか、と甲斐氏は見ている。
大きな開発がなくても人材は育てられるか
では、こうした大規模な開発プロジェクトがないと人材は育たないのか。甲斐氏はそうではないと考えている。
アプローチ2に当たる例として挙げたのが、九州大学がすでに実施している研究データ管理支援人材の履修証明プログラムである。専門職が隣接分野への理解を深め、サイクルを回しやすくする人材を育てる取り組みが、実際に始まっているという位置づけだ。
アプローチ1のジェネラリスト型データスチュワードについては、海外ではデータスチュワードという職種が確立しているところもあると甲斐氏は指摘した。例として、甲斐氏自身が参加した海外大学のデータスチュワードの修了証明コースを紹介した。さまざまな国から、さまざまな職種の人が参加するジェネラリスト型の育成コースだったという。
関西地区の研究データ管理人材育成コンソーシアム
日本国内の新しい動きとして、甲斐氏は大阪大学を中心に「関西地区研究データ管理人材育成コンソーシアム」を立ち上げる予定だと明かした。7月16日に設立シンポジウムを開く予定である。
このコンソーシアムでは、ジェネラリスト型のデータスチュワード人材の育成に取り組む計画だ。紹介されたプログラムと講師の構成はまだ案の段階だとしたうえで、研究ライフサイクルの各段階のプロが講師として講義やワークショップを担う構想が示された。一連の内容を受講することで、研究ライフサイクル全体を見渡せるデータスチュワードを育てる狙いである。
将来的には研究データ管理人材ネットワークとも連携する予定だという。甲斐氏は、関西に限らず他地域からの参加も検討してほしいと呼びかけて講演を締めくくった。
大阪大学D3センターの甲斐と申します。よろしくお願いいたします。私の方からは研究支援人材の連携で実現した研究マネジメント総合支援システムの構築ということでお話をさせていただきます。
研究マネジメント総合支援システムの開発、レムスと言いますけども、レムス開発と人材育成の接点、データスチュワード型人材育成の展開ということでお話をさせていただきます。右に映しております。まずは、先ほど長岡先生からご説明があったはずでございます。
まず、研究マネジメント総合支援システムの開発ですけれども、これは政策制度の要請がレムスの開発の出発点となっております。そこに記載しております通り、背景・必要性、皆様ご承知の通り、DMPの作成の必須化であったり即時オープンアクセスの義務化といった、研究者個人の努力だけでは対応しきれない業務を大学として支える必要が生じてきたという状況でございまして、真ん中の大学・研究者の課題と書かれておりますけれども、こういった課題がより顕在化してきたという状況です。そうした背景をもとに、今回のシステムを開発したんですけれども、研究者、研究支援者の負担の最小化、複雑な制度要件への適合をシステムで支援していくといった中身でございます。
2段目見ていただきますと、これまでは繰り返しの作業手間があったわけですけれども、右側の今回開発したシステムによってワンストップ入力で、その手間が簡略化したというような状況でございます。具体的な代表的な機能とかにつきましては、そのオレンジ色の背景のところでございます。このシステムは、昨年度試験運用を開始しまして、試験運用しながら必要な機能の改善を進めてきたという状況でございます。そして今年に入りまして、即時OAの対象者になる先生方に説明会をしたりということで、3月に全学展開を開始したという状況でございます。
このシステムの開発の体制ですけれども、学内のRDMを主導する主要部局と研究者がチームを構成しております。左側の図は、本学における研究ライフサイクルの中で、各基盤がロゴとして映し出されておりますけれども、その基盤を管理する部署とか、研究者を交えながら、オープンサイエンス推進室がこの開発を主導して進めていったと、こういった開発体制でございます。それぞれの専門性によってこのシステムを形にしたというものになります。
続いてこのレムス開発と人材育成の接点ですけれども、レムス開発における各携わった人材の役割について、ここのスライドでお示ししております。ちょっと文字が小さいですけれども、こういった支援現場の知識を機能へ変換するということをやっていったわけなんですけれども、このレムスは、このメンバーの誰か1人が作ったというシステムではなくて、政策とかオープンアクセスの実務、リポジトリーの管理、研究推進、ICT分野の知見を持った人材がそれぞれの課題認識を仕様・運用へ変換した成果であるという風に考えております。
まず中核になったメンバーの役割をそこに書いておりますけれども、D3センターの准教授と書いておりますのが私で、この開発の統括といった立場で携わっております。その下に付属図書館の特任専門職員の方が、私の補佐をするような形でプロジェクト調整をしていただいたりとか、そういった状態のバランスを見ていただいたということをしていただいてます。あとは、リポジトリーを担当しているような付属図書館の課長補佐・専門職員にも入っていただく。あと、1番下の研究推進部の、OAの支援とか転換、そういったものを担当している主任の方にも入っていただいて、ああじゃない、こうじゃないと言いながら、システムを開発していったという状況です。ただ、このシステムを実際に使うのは支援者だけじゃなくて先生方ですので、やはり研究者の目線とか使いやすさっていうのは非常に重要になりますので、右側に書いております補完された専門性というのをここに書いております。情報推進部であったり、各分野の先生方の知見を借りながら、実際どういったシステムにすればうまく回っていくかということを考えて開発していったというものになります。
今お示しした各々が専門領域のプロですので、それぞれが知識を持ち寄って開発をしていったんですけれども、研究のサイクルとかあるいは研究データサイクルで考えますと、その隣接領域の連携がどうしても不可欠だったというような状態でした。つまり、レムスの開発では単独の部署では見えない接続部分を埋めないとこのシステムが成り立たなかったということです。この枠で書いております通り、研究開始前とか研究中、成果公開とか公開後の話、これは各フェーズに専門家がいらっしゃってこの機能を落とし込んでいくわけですけれども、そこに雲で表してますけれども、そのフェーズとフェーズの間のところで、例えば図書館はオープンアクセス登録だけじゃなくて研究費とかデータマネジメントプラン、研究プロジェクトとの関係も考える必要があったりとか、そこに書いてあるような、そういった接続のところを考えなきゃいけない状態だったということで、システム開発では各フェーズを個別で扱えず、前後の工程と隣の専門領域を理解することが必要だったというような状態でした。
こういった開発そのものが研究データ管理支援人材の育成に結果としてつながったという風に考えております。こういった研究データ管理支援人材の育成には、大きく分けて2種類があると思っています。1つが左側のアプローチ1という風に書いている方ですけれども、これは研究のデータライフサイクルの中に、中央にジェネラリスト型データスチュワードという風に示しておりますけれども、この人はライフサイクル全体を見て、制度と研究あるいは研究者と研究支援者をつなぐような役割をしながら、このサイクルを回していくためのシステムを考えていった。つまり、下に書いてあるような、私のような人間であったり、図書館で担当していただいた専門職員の方であったりするわけです。
もう1つはアプローチ2と書いております。右側の部分になります。これは、隣接領域をつなぐスペシャリストの連携で、システムが成り立っているわけです。ここ見ていただく通り、これは大規模大学のことを想定して、いろんな人材を各フェーズに書いておりますけれども、そういった各フェーズのプロフェッショナルがこのシステムを開発するにあたって、自身の専門分野に軸足を置きつつも隣の領域を学んでいくという機会があったという意味では、図書館の職員の方や研究推進部の職員の方っていうのは、アプローチ2という形で自分の専門性をより広げていったというようなところが該当するかなと思います。
ただ、こういった開発とかこういった大きな動きがないと人材は育成されないのかというと、そうではないかなという風に思っておりまして、例えば、研究データ管理支援人材履修証明プログラムというのを、九州大学が実際にすでにされております。今されているものですけれども、先ほどのアプローチ2、つまり専門職の方々が、より隣の分野について理解を深めてサイクルを回しやすくするというような人材の、実際に育成プログラムが開始されているという状況かと思います。
一方で、先ほど左側に示したような、ジェネラリスト型のデータスチュワードの育成というところで言いますと、これは海外ではデータスチュワードという職種が確立しているところもありまして、これは私が実際に参加したWay学のデータスチュワードの履修証明のコースですけれども、いろんな国の方が参加されて、かついろんな職種の方が参加されている、ジェネラリスト型のデータスチュワードを育成するといったコースでございます。
日本もですね、今度直近で関西地区の研究データ管理人材育成コンソーシアムというのを、大阪大学を中心に立ち上げる予定でおりまして、7月16日にそのコンソーシアムの設立シンポジウムを行う予定でございます。このコンソーシアムの中で先ほど申し上げたジェネラリスト型のデータスチュワード型人材育成というのを行っていこうという風にしております。これはまだ案でございます。プログラム講師の案でございますが、そこでお示ししているような各段階のプロの方たちが実際に講師としてご講義いただいたり、ワークショップをしていただいたりということで、この一連の流れを受講いただくことで、研究ライフサイクル全体を見渡せるようなデータスチュワードが育成されるような取り組みをしていこうと考えております。将来的に研究データ管理人材ネットワークとも連携予定しておりますので、是非、関西はもちろんですけれども、関西以外のところでもご参加をご検討いただければという風に思います。以上でございます。
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