天才は法を犯してよいのか――中田敦彦が語るドストエフスキー『罪と罰』

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概要

中田敦彦はこの回で、ドストエフスキーの『罪と罰』をあらすじに沿って語り直している。リクエストが多かった作品だが、重く、長く、名前が難しいために敬遠されがちだ。中田は、読めばサスペンスとしても哲学的な物語としても「めちゃくちゃ面白い」と言い、それを伝えることを目標にしている。参考にしたのは原作の小説ではなく漫画版で、語りの大部分は主人公ラスコリニコフと、彼を追い詰める捜査官ポルフィーリの心理戦の再現にあてられる。以下、動画での語りの順に内容を追う。

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読まれない三つの理由と、中田が感じた面白さ

中田は、『罪と罰』が「一番読みたいけれども読みたくない」本になっている理由を三つ挙げる。一つ目はタイトルが重いこと、二つ目は長いことだ。三つ目が最大の障壁で、ロシア文学なので登場人物の名前が難しい。

中田の説明では、ロシア人の名前には苗字と名前のほかに父親から受け継いだ名前のようなものがあり、さらにあだ名で呼ぶ文化もある。そのため一人の人物について、苗字、名前、真ん中の名前、あだ名の4種類が入り乱れる。統一しないのは、呼び方に人物同士の関係性が表れるからで、統一すればロシア文学のニュアンスが伝わらなくなる。ただ日本の読者にとっては、「スヴィドリガイロフ」が人名なのかどうかも分からないところに4種類の呼び名が出てくるので、嫌になって読まなくなってしまう。中田は動画で使う名前をかなり短くしたと断っている。

それでも読んでみると面白い、と中田は言う。読んで『デスノート』に似ていると感じたそうだ。主人公と、主人公を追い詰める人物の関係がLとキラのようで、スリリングだという。サスペンスの要素がある一方で哲学的でもある。舞台は19世紀ロシアの首都サンクトペテルブルクだが、神とは何か、罪とは何かという問いは現代の私たちにも分かる普遍的なもので、「それは苦しむね」と共感できる悩みも描かれている。中田は、遠い話ではなくリアルな話として聞けるはずだと語る。

今回の素材に漫画を選んだ理由について、中田はこう話す。多くの人はタイトルを知っていても原作どころか漫画すら読んでこなかった。だからまず筋を知っておくだけでも大きく違う、と。

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貧しい元大学生ラスコリニコフと「天才と凡人」の論文

主人公のラスコリニコフは、頭脳は明晰だが、貧しさのために大学を中退した青年である。そのことが彼に深い影を落としている。物語は彼の狭くボロボロの下宿から始まる。大家が家賃を取り立てに戸を叩いても、彼は居留守を使っている。彼はこの部屋を「棺桶」だと感じている。

故郷には母と妹がいて、どちらも貧しい。妹は小金持ちの婚約者と結婚して家を立て直そうとしており、ラスコリニコフは「これでいいのか」と思っている。

それでも彼は自分の才能を信じている。頭から離れないのは、中退前に書いた「天才と法律の関係」についての論文だ。中田の説明によれば、論文の主張は次のようなものである。人類には天才と凡人の2種類しかいない。凡人は従属を好み、人類を増やすために生きているといっても過言ではない。一方で、一握りの天才が革命を起こし、人類のステージを押し上げてきた。ナポレオンやムハンマドのような人物は、それまでのルールを破壊して乗り越え、新しい秩序をつくった。だとすれば、法律とはそれまでの人間が縛られる規則にすぎない。天才は法を犯してもよく、少しの罪を犯してもそれ以上に人類に貢献すれば罪には問われない。

中田は、これをかなり過激な思想だと評する。ラスコリニコフはこの考えを強く信じているが、自分が天才なのか凡人なのかが分からない。願わくば天才でありたい、と思っている。

金貸しの老婆と、酒場の元役人

金に困ったラスコリニコフは、また金貸しの老婆のもとへ行く。老婆は品物を担保に金を貸し、期日までに利子をつけて返せなければその品を転売する商売をしていて、強欲で嫌われ者だ。彼は父の形見の時計を差し出すが、老婆は大したものではないと言ってわずかな金しか渡さない。文句を言うと、嫌なら帰れとあしらわれる。

腹を立てたラスコリニコフは、その金で安酒場に入る。そこで酔っ払いの男が話しかけてくる。男は元役人で、苦労して役人になったものの、あることでクビになり、それ以来飲んだくれている。家族の物を全部売り払って飲み、娘のソーニャを娼婦にしてまで酒を飲んでいる「クソ親父」だと自分で言う。ソーニャは家族のために体を売って働いている。ここで彼女の名前が出てくる。

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妹の結婚の知らせと殺意

下宿に戻ると、妹から手紙が届いていた。小金持ちの成金と結婚するという報告だった。ラスコリニコフは酒場の男の話を思い出す。妹もおそらく好きでもない相手と、家に金を入れるために結婚しようとしている。ソーニャと同じではないか、自分もあの男とほとんど変わらないではないか、と思う。天才のはずの自分がなぜこんな境遇にいるのか。そこで、ずっと頭にあった考えが形になる。天才は法を犯してもいい。悪人を殺してもいい。あの老婆を殺して金を奪っても、その後に人類に貢献するような成功をすれば罪ではない。

街を歩いていると、古着屋を営む老婆の妹が、知人から翌朝7時の手伝いを頼まれて引き受けているのが聞こえてくる。明日の7時、老婆は一人になる。ラスコリニコフは、殺して金を奪い、自分が天才であることを証明しようと決める。上着の裏に細工をして斧を隠して吊るせるようにする。ナイフではなく、一撃で仕留められる斧を選ぶ。

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犯行――予定外の二人目

翌朝7時、ラスコリニコフはまた金が要ると言って老婆を訪ねる。老婆が品物を見ようと背を向けたところを、後ろから斧で殺す。冷静だ、天才だからこんなことは何でもない、と自分に言い聞かせる。老婆がいつも鍵をポケットに入れていることも、金庫の場所も知っていたので、すぐに金庫を開けて宝石と金を詰める。

そのとき物音がして振り向くと、いないはずの妹が立っていた。ラスコリニコフはとっさに妹も斧で殺す。予定にはなかったが、見られた以上やるしかなかった。斧を洗い、金目のものを持ったことを確かめて出ようとすると、階下から人の声がする。金を借りに来た別の客で、声から近所のペンキ屋の男だと分かる。死角に隠れてやり過ごし、騒ぎになる前に逃げる。斧を元の納屋に戻して帰宅する。目撃もされず、証拠も消し、第一発見者にも見つからなかった。「完全犯罪だ」と思うが、なぜか胸の動悸が収まらない。金と宝石を部屋の隅に隠して眠る。

警察からの呼び出しと、宝石の放棄

翌朝、同じ建物の住人に、警察が呼んでいると起こされる。早すぎると驚きながら出頭すると、用件は家賃の滞納だった。大家が、払わないなら追い出すと訴えていたのだ。来月までに払うという誓約書に署名すれば大事にはならないと言われ、ラスコリニコフは安堵する。

ところがそのそばで、警官たちが老婆殺しについて話している。犯人はまだ近くにいる、顔見知りの犯行だ、ポルフィーリさんが言っていたから間違いない、と。ここでポルフィーリの名前が出る。顔見知りで、金を借りていて、客の名簿もある。すぐに家宅捜索が来ると考えたラスコリニコフは、金だけをポケットに入れ、宝石は空き地の砂に埋めて捨てる。捕まらないことのほうが大事だと判断したのだ。

しかし帰り道で、彼は自分が何のために殺したのか分からなくなる。手元にあるのはわずかな金だけで、本当に価値のあった宝石は捨ててしまった。自分は英雄で天才のはずなのに、なぜこんなにめまいがするのか。

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ラズミヒンが伝える「ペンキ屋の逮捕」とポルフィーリの評判

そこへ大学時代の友人ラズミヒンが声をかけてくる。顔色の悪いラスコリニコフはその場で倒れ、ラズミヒンに部屋まで運ばれる。

ラズミヒンは老婆殺しの話を始め、犯人はもう捕まったと言う。捕まったのはペンキ屋の男だった。ペンキ屋は老婆の宝石を一つだけ転売しようとして捕まり、階段で拾ったと主張している。ラスコリニコフは、慌てていたときに一つ落としたのかもしれないと気づく。ラズミヒンは、この話にだけやけに反応する友人をいぶかしむ。

さらにラズミヒンは、ポルフィーリはペンキ屋が犯人ではないと見ている、と話す。ポルフィーリはラズミヒンの従兄弟で、警察随一の切れ者として知られ、彼にかかれば暴かれない犯罪はないと評判だという。ポルフィーリは、老婆から金を借りていた者が怪しいとして、全員をしらみつぶしに尋問するつもりらしい。ラスコリニコフはまずいと思う。

元役人の死とソーニャとの出会い

外に出ると、馬車にひかれた男がいて騒ぎになっている。酒場で会ったあの元役人だった。酔って飛び出したらしく、血まみれで死にかけている。身元が分からず困っている警察に、ラスコリニコフは男の名前を伝える。男は自宅へ運ばれ、妻と幼い子どもたちが泣き崩れる。

別の場所に住み、娼婦として働いているソーニャが呼ばれてくる。露出の多い仕事着のままだった。父は初めて、娘が娼婦として働く姿を見る。「そんな姿にしてしまってすまない」と言って息を引き取る。

純粋そうなこの娘があの娼婦なのかと胸を打たれたラスコリニコフは、ポケットに残っていた盗んだ金を差し出す。ソーニャは遠慮しながら受け取り、名前と住所を聞いて、いつかお礼に行くと言う。

母と妹の上京、そして自分からポルフィーリに会いに行く

下宿に戻ると、母と妹、ラズミヒンが待っていた。母と妹がサンクトペテルブルクに出てきたのだ。3年ぶりの再会だが、ラスコリニコフは不機嫌で、妹ドーニャの結婚に反対だと言い出す。お前は俺が学費がなくて大学をやめたことを哀れんで、金のために結婚するんだろう、弁護士だか何だか知らないが、あの小金持ちは性格が悪そうだ、と。妹はきっと良い人だと言い返し、明日は婚約者の弁護士との食事会だから機嫌よくしていてと頼む。

そこへソーニャがお礼に訪れる。お金をくれたのだから裕福な人かと思っていたソーニャは、部屋の狭さとみすぼらしさに驚き、ラスコリニコフがとても貧しい学生だと知る。ラスコリニコフはソーニャに好意を持ちはじめ、今度彼女の住まいを訪ねたいと言う。

ソーニャが帰ると、ラスコリニコフはラズミヒンに、ポルフィーリに会わせてほしいと頼む。表向きの理由は、老婆に質入れした父の形見の時計を取り戻したいというものだった。中田によれば、本当の狙いは別にある。ポルフィーリは自分のところに来ないが、しらみつぶしに調べているなら自分を疑っているはずだ。だから自分から会いに行って疑いを晴らし、完全犯罪を自分の手で成立させる。攻めに出るのである。

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最初の対面――論文をめぐる問答

翌日会ったポルフィーリは、「会いたかったですよ」と迎える。老婆から金を借りていた全員に書面を出したが、来ていないのはあなただけで、最後の一人だという。ラスコリニコフは、すでに疑われていると感じる。

ポルフィーリは時計の件は手配すると約束したうえで、あなたは面白い人だと切り出す。雑誌に載ったラスコリニコフの論文を読んだというのだ。天才は法を犯しても人類の進歩につながる功績を残せば罪に問われない。戦争の英雄や宗教を改革した人物は、規範を破ってでも人類を前に進める権利と義務がある。ポルフィーリはその内容を確かめてから、疑問を投げかける。天才と凡人はどう見分けるのか。顔を見ても分からないなら、自分を天才だと勘違いした凡人が法を犯すという問題が起きる。では天才は誰に裁かれるのか。ラスコリニコフは、天才が新しい法をつくり、その中で自分を裁くのではないかと答える。ポルフィーリはさらに、その理論を発見したあなたも天才なのかと聞き、ラスコリニコフは「そうかもしれませんね」と答える。

するとポルフィーリは、今回の事件は天才の犯罪かもしれないと言う。目撃者もいないし、物的証拠もない。これほどうまくやれるのは頭の切れる天才だけだろう、と。そして、頭の切れるあなたに捜査に協力してほしい、明日もう一度署に来てほしいと持ちかける。ラスコリニコフは疑われていることに憤りながらも、少なくとも今は証拠がなくて警察が困っていることだけは確かだと考えて帰る。中田は、この二人の掛け合いのスリルが『罪と罰』の面白さだと強調する。

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スヴィドリガイロフの来訪と、食事会の決裂

帰宅すると、豪華な身なりの紳士が訪ねてくる。スヴィドリガイロフという大資産家で、成功のためには手段を選ばないという悪い噂のある男だ。彼は妹のことで来たと言い、事情を打ち明ける。以前、屋敷で妹を雇っていたときに恋に落ちた。妻がいたが、恋に落ちることも人間にはある。それが妻に知られると、妻はすべてを妹のせいにして、自分の親戚である弁護士と無理やり引き合わせ、妹を屋敷から追い出した。その婚約を潰して、もう一度妹に会わせてくれたら1万ルーブル払う、という。

妻はどうしたのかと聞くと、最近病気で死んだという。ラスコリニコフには、病気で妻を亡くした人の顔には見えない。何をするか分からない危険な男だと感じ、申し出を断る。するとスヴィドリガイロフは、妻が生前、妹に悪いことをしたと詫びの金を渡したがっていたと言って3000ルーブルを置いていく。どんな手段を使ってでも妹さんに会いたい、と言い残して。

その後の食事会には、ラスコリニコフ、ラズミヒン、母、妹、婚約者の弁護士が集まる。ラスコリニコフが弁護士を認めていないため、最初から空気が重い。話題を変えようとしたラズミヒンが、スヴィドリガイロフの妻が死に、本人がこの町に来ているらしいと話すと、ラスコリニコフは「俺は会った」と言って3000ルーブルを差し出す。妹は怖がって会いたくないと言う。

弁護士は不愉快だと言い出す。兄には会いたくないと言っていたはずだ、無理に会わせるような会はもう開くな、スヴィドリガイロフの話も聞きたくない、と。妹が言い方をとがめると、弁護士は「口答えをするな」「3000ルーブルが手に入ったら強気じゃないか」と、皆の前で金目当てだと言わんばかりの態度を取る。妹は激怒し、もう結婚したくない、二度と会いたくないと告げ、弁護士は帰っていく。婚約は破談になる。

36:25

ソーニャの部屋――聖書とリザベータ

一方スヴィドリガイロフは、急いで借りた安アパートに戻る。隣の部屋には娼婦の格好をした女性が入っていく。それがソーニャで、二人は偶然隣同士に住んでいた。

食事会の後で傷ついたラスコリニコフは、ソーニャに会いに行く。体を酷使して稼いだ金をすべて家族に渡し、自分は貧しい暮らしをしている。それでいいのかと問うと、ソーニャはそれでいいと答える。部屋に聖書があるのを見て、ラスコリニコフは問いつめる。神を信じているのか、神が君に何をしてくれたのか、父は死に、母も具合が悪い、君が働けなくなれば家族は物乞いになる、それでも信じるのか、と。ソーニャは、人は誰でも苦しい、苦しくない人間なんていない、だから私は祈りたいのだと涙を流す。その顔があまりに透き通って見えて、ラスコリニコフは自然とひざまずいてしまう。理由は自分でも分からないが、神聖なものを感じたと言う。

聖書をどこで手に入れたのかと聞くと、ソーニャは「リザベータさんにもらった」と答える。リザベータは、彼が殺した老婆の妹だった。ソーニャは、生前にもらったその聖書を読んで救われるように祈ってきたが、リザベータは「あんなことになってしまった」と言う。ラスコリニコフは、この娘を苦しめているのも、いちばん神に背いているのも自分だと思い知る。翌日ポルフィーリのもとで捕まるかもしれないという恐怖から、すがるようにソーニャに会いに来ていたのだった。今日が最後かもしれないと言い、もしまた会えたら、リザベータを殺した犯人を君にだけ教えると告げて去る。

41:36

二度目の対決――蝋燭の炎と蛾

翌日、ラスコリニコフはポルフィーリのもとへ行く。「何しに来たんですか」ととぼけるポルフィーリに、彼は怒りをぶつける。油断させておいて一気に証拠をつかむのが警察のやり方だろう、尻尾は出さない、と。

ポルフィーリは「それはまるで斧のように、とおっしゃりたいわけだ」と返し、そんなことはしないと言う。頭のいい人間はそうした手ではボロを出さないと、経験から分かっているからだ。理屈で固める頭でっかちを捕まえる秘訣は「何もしないこと」だという。何もしないでいると、頭のいい人間はあれこれ可能性を考え、泳がされていると気づき、さらに考えて疑心暗鬼になり、精神が壊れていく。それは蝋燭の炎に寄っていく蛾と同じだとポルフィーリは言う。火に触れれば焼けるので触れないが、離れることもできない。炎の周りをぐるぐる回り続け、やがて力尽きて落ちる。それを自分が捕らえるのだと。

ラスコリニコフは、結局証拠はないのだろう、天才の俺を捕まえられるものなら捕まえてみろと凡人呼ばわりして挑発する。そこへ部下が飛び込んできて、ペンキ屋が全部自分がやったと自白したと告げる。ポルフィーリは現場へ向かい、「またお会いしましょう」と言い残す。ラスコリニコフは「もう会うことはないでしょう」と返し、ポルフィーリは「それは分かりませんよ」と答える。

45:11

告白、ソーニャの母の死、スヴィドリガイロフの誘い

しかしラスコリニコフの頭からは、蛾の話が離れない。殺したときの光景が幻覚のように浮かび、どこかで証拠が出るのではないか、落とした宝石はどうなるのかと、すべてが気になる。気がつくとソーニャの部屋にいた。

彼は打ち明ける。犯人は俺だ。金を借りて返せなくなり、誰からも嫌われる強欲な老婆なら殺しても恨まれないと思った。妹まで殺すつもりはなかったが、見られたから殺してしまった。ソーニャは彼を抱きしめ、あなたは世界でいちばんかわいそうな人だから大丈夫だと言う。そして償うしかない、神に謝罪して、広場で自分が殺したと言い、自分が汚した大地に口づけをして償いを始めるのだと自首を促す。ついてきてくれるかと聞かれ、ソーニャは、捕まってもどこまでもついていくと答える。

そこへソーニャの妹たちが駆け込んでくる。母が路上で倒れていた。困窮のあまり子どもたちと物乞いをしていたのだ。中田は、元は役人の妻で良い家柄だった女性が、蔑まれながら物乞いをした末の「惨めな死」だったと語る。そこへスヴィドリガイロフが現れ、葬式に使えと金を渡し、ラスコリニコフを呼び出す。

ソーニャへの告白を隣の部屋で聞いていたのは、スヴィドリガイロフだった。脅すつもりかと身構えるラスコリニコフに、彼は脅しではなくむしろ自首を止めに来たのだと言う。金はあるから、ラスコリニコフと母と妹と自分の4人で外国へ逃げよう、妹さんをくれればあなたの罪は霧と消える、と。ラスコリニコフは、天才には天才の誇りがある、そこまで落ちぶれてはいないと断る。スヴィドリガイロフは、私には私で考えがあると言って去る。

49:32

「ブロンズの英雄」と、ポルフィーリの最後通告

翌朝、自首するかどうか悩むラスコリニコフは、コーヒーの味もしない。天才や英雄の体はブロンズでできていて、何にも傷つかない。ナポレオンは多くの命を奪っても傷一つ負わず、死後はブロンズ像になって崇められた。それなのに、なぜ自分はこれほど震えているのか。

そこへポルフィーリが現れ、一緒にお茶を飲む。町ではペンキ屋が犯人だという噂で持ちきりだ。ラスコリニコフは、ここに来ても無駄だ、証拠はない、俺の勝ちだと言う。ポルフィーリはそれを否定する。あなたの勝ちなら、なぜあなたはずっと苦しんでいるのか。法律から、つまり人がつくった罰からは逃れられても、罪を犯したという苦しみからは逃れられない。そう言って、1日だけ猶予を与えるから自首してほしい、さもなくば必ず捕まえると告げる。

52:15

妹の拳銃と、スヴィドリガイロフの最期

その頃、妹はスヴィドリガイロフのもとを訪れていた。兄が真犯人である証拠をつかんでいるという手紙を受け取ったからだ。スヴィドリガイロフは、隣室のソーニャのところで聞いてしまったと明かし、兄が犯人だとは言いたくないから、自分のところへ戻ってきてほしいと迫る。

妹は懐から拳銃を取り出す。スヴィドリガイロフの妻が生前、あの男はいつかまたあなたの前に現れるから持っておけと渡したものだった。妹は、奥さんを殺したのもあなただろうと責め、一発撃つ。本気だと示す妹に、スヴィドリガイロフは、愛した女に撃たれるなら本望だから撃てと言う。妹はもう関わりたくないと言って銃を捨てて去る。残されたスヴィドリガイロフは、その銃を拾って自殺する。

54:33

自首とシベリア

ソーニャの部屋で震えていたラスコリニコフは、ついに「行ってくる」と言って警察署へ向かい、金貸しの老婆とその妹を殺したのは自分だと告げて逮捕される。ポルフィーリが言っていたとおり、自首したことで死刑にはならず、減刑されてシベリアで8年の懲役となる。中田はこれを「さほど長くない年数」と表現しつつ、彼にとっては長く辛い日々の始まりだったと語る。

ソーニャは刑務所の近くに住み、面会に通い続けた。心を開けずにいたラスコリニコフは孤独の中で病に倒れる。目を覚ましたとき、面会に来ていたソーニャの手を握り、「ごめんな」と言う。ソーニャはうなずいてその手を握り返す。膝の上には聖書がある。神など信じないと言っていたラスコリニコフの中で、ソーニャを愛する気持ちと、それとは別の何かが目覚めつつあった。中田の語る物語はここで終わる。

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中田の解説――追い詰められた作家と多面的な構成

語り終えた中田は、原作は非常に長く、心理描写や細かな描写、今回省いた場面も多いので、この話を聞いてから漫画を読み、そのうえで小説に進んでほしいと勧める。文章はとてつもなく美しいという。

さらに作者の境遇にも触れる。中田によれば、ドストエフスキーはデビュー作こそ才能を評価されたが、2作目、3作目は鳴かず飛ばずで金に困った。そのうえ政治犯として捕まり、出所後は自暴自棄になってギャンブルや酒にのめり込んだ。資金を得るため、出版社に小説を書くから前貸ししてくれと頼んで何作も引き受け、契約どおりの長編を大量に書かなければならなくなった。そうして追い詰められたドストエフスキーが猛烈なスピードで口述したものが『罪と罰』だ、という話を中田は紹介する。

作品の構成については、キリスト教の神、救済、罪をテーマにしているだけでなく、アダムとイヴが楽園を追放されて原罪を負うという聖書のエピソードにも基づいていると言われ、キャラクターの名前にも多くの仕掛けがあるとされている、と述べる。中田はこれを「言われている」として紹介するにとどめ、ここまで緻密で膨大な小説を、追い詰められた一人の天才が書いたこと自体が興味深いと語る。

最後に中田は、いちばん好きな人物としてポルフィーリを挙げる。なかでも気に入っているのは、「斧でやるみたいに」とラスコリニコフの言葉を受けて、そんなことはしない、頭のいい人間はそれでは引っかからないと退け、代わりに蛾のたとえを語る場面だという。中田はこの場面がいちばん好きだったと述べ、ぜひ読み直してほしいと締めくくった。