大学DX勉強会を4年間見てきて学んだこと:成果物より「どう進めたか」に価値がある

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概要

広島大学情報メディア教育研究センター長の近堂徹氏は、大学DX勉強会の運営に関わってきた立場から、勉強会で何を学んだのか、そしてこの勉強会を今後どうしていくべきかを語った。近堂氏の立場ははっきりしている。大学DXで面白く価値があるのは完成した成果ではなく、小さな実践から変化が生まれていく過程のほうだという。本人も、言語化が難しく抽象的な話や「精神論っぽい」部分も含まれると断ったうえで話を進めた。

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広島大学の事例ではなく、勉強会の側から語る

近堂氏は冒頭で、今回は広島大学の話をするつもりはないと述べた。大学DX勉強会ではこれまでに3回、広島大学の事例を紹介しており、改めて説明する必要はないと考えたためである。加えて、自分が組織の中でDX推進をこう進めていると言えることもそれほど多くないという。そこで、勉強会の運営を通じて何を学んだか、そして12回を重ねてきた勉強会をこの先どうしていけばよいかを、聴衆と一緒に考える話にしたいと説明した。今回のオープンフォーラムが「対話」を掲げていることにも触れ、後のパネルディスカッションで議論を続けたいとした。

近堂氏は現在、情報メディア教育研究センターのセンター長として運営に携わっている。大学DXについては基盤部分を中心にバックアップする役割を担う。経歴上、他の大学に所属したことがないため、他大学の組織文化はこうした勉強会でしか見聞きできない。近堂氏はこれを自分のジレンマであり、ネガティブに感じている点だと話した。他の組織がどうなっているかを知りたくても、実際に体感する機会がない。だからこそ、勉強会を通じていろいろな人と議論できることに大きな価値を感じているという。

始まりは2022年6月の有志の集まり

近堂氏が過去のメールを掘り返したところ、有志が最初に集まったのは2022年6月15日で、ちょうど4年前にあたる。声をかけたのは香川大学の取り組みで知られる先生ら2人で、オンラインでDXについて議論したと記憶しているという。

同じ2022年のオープンフォーラムはオンラインで5月30日から6月2日に開かれていた。近堂氏によれば、始動直後のSINET6やGakuNin RDMの話題が多く、DXという言葉も大いに盛り上がっていた時期である。特別セッションでは先進的な取り組みを進める大学からの報告として、香川大学のDX、広島大学の事務DX、東京大学のmdxなどが紹介された。有志への声がかかったのはその直後だった。

最初の集まりでは、それぞれが思っていることを話し、2時間ほど議論したという。近堂氏はその頃、センターでユーザーサポートを担当する部門の責任者を務め終えたところだった。コロナ禍の前から約4年間この部門を見ており、コロナ禍の間はオンライン化が進む現場をユーザーサポートの立場で支えてきた。コロナ禍が明けつつある時期には、情報部門に求められる役割の幅が大きく広がったと感じていたという。この集まりでは、ヘルプデスク対応やユーザーサポートの大変さを踏まえて、DXをどう進めるかを自分なりに話した。

当時の近堂氏は、実際にシステムづくりにも取り組んでいた。センターの運用にチャットボットを導入し、FAQシステムを作った。施設部の職員とはPower Appsで学内スペースの見える化システムを作り、全学に展開した。そうした経験を話しながらも、「最終的には人だよね」ということをこの頃から言い続けていたと振り返る。DXには正解がないので、いろいろな大学の話を聞いて学ばなければならない。近堂氏は、DX勉強会はそういう問題意識から始まったと理解している。

300人の申し込みで生まれた現在の形式

第1回は2023年3月13日で、広島大学が開いているクラウドサービス利用シンポジウムの1セッションを使って行われた。近堂氏の記憶では、「勉強会」と名乗る以上、参加者に集まってもらいグループワークのように意見を出し合う形を想定して準備していた。ところが申し込みはオンラインも含めて約300人にのぼり、その運営は無理だと判断した。そこで登壇者に話をしてもらい、モデレーターの進行でパネルディスカッションを行う形に切り替えた。これが現在の形式の始まりだという。

4年間の発表資料を形態素解析する

話す内容を補うため、近堂氏は勉強会サイトに公開されている過去の資料を調べた。Deep Researchで発表資料を集め、形態素解析でどんなキーワードが使われているかを分析した。本人は「よくやりがちな」分析だと断っている。

過去4年間のワードクラウドには、よく聞くキーワードが並んだ。年度ごとに比べると、2023年当初はインフラや業務改善、システムといった話題が多い。直近2年ほどはデータ、AI、内製化へと重心が移っている。近堂氏は、この結果は自分の肌感覚とも合っていると述べた。

共通の正解はなく、問いを持ち帰る場

発表を振り返ると、テーマも規模も大学の文化も設定している課題もまったく違う。そのため共通の正解があるわけではない、というのが近堂氏の見方である。それでも事例を聞くたびに、自分の組織ならこういう部分を取り入れられる、こういう点が課題だといった問いを考えることができた。近堂氏はそこに勉強会の価値があったと評価する。

最も刺激を受けた大阪経済大学の発表

どの発表も参考になったとしたうえで、近堂氏が特に刺激を受けたと挙げたのが、今年3月の勉強会での大阪経済大学の発表「やってみよう。みんなで育てるDX」である。「すごく感動した」と述べ、録画を何度でも見返したいほどだという。資料は公開されているので見てほしいと勧めつつ、資料だけでは伝わらず、その場で聞かなければあの熱量は伝わらないと話した。

近堂氏が印象に残ったのは、何を作ったかよりも、どう進めたかという部分だった。苦労した話、いろいろな人を巻き込んだ話、失敗した話、それを乗り越えた話が語られた。事例というより、実際に進めた人のストーリーや物語を感じられた点に心を動かされたという。

ボトムアップの「創発」と、それを増幅する仕組み

近堂氏はセンターの立場で大学の方針やさまざまなDXの取り組みを見ているが、個人的にはボトムアップに強い魅力を感じている。トップダウンを否定するわけではなく、どちらも必要だという立場である。先に登壇した講演者が「大きなDX」と「小さなDX」の話をしており、それを受けての発言だった。

近堂氏が共感するのは次のような過程である。小さな実践から始まり、仲間が増え、想定外の展開が起きる。完成したものではなく、その変化の過程が見える。人がどう動き、組織がどう変わったかが見える。勉強会で面白いと感じるのは結果ではなくそのプロセスであり、設計されたものより変化が生まれる過程、近堂氏の言葉では今どきの用語でいう「創発」に魅力を感じているという。

一方で、小さなDXがたくさんあればDXが進むのかといえば、そうではないとも指摘した。生まれてきたものを増幅する仕組みがしっかりしていないと、DXは進まないだろうという。大阪経済大学の発表では、自発的に始まった取り組みが部署の新設にまで至ったと報告されていた。近堂氏は、部署を作るところまで進めたのは、創発を増幅する仕組みがきちんと働いていたからこそだと解釈している。DXは自然には広がらないので、創発を受け止めて増幅する組織やキーパーソンが必要になる、というのが近堂氏の考えである。

勉強会ではこれまで、経営層、中間管理層、現場層の三つの層から登壇者を招いてきた。直近では長崎大学の高田先生や室蘭の佐藤先生が経営層の立場で発表している。近堂氏は、こうした経営層の話を聞くと、増幅することに価値を置いて取り組んでいることがわかり、素晴らしいと感じるという。

休憩時間の会話と「実践共同体」

勉強会はあまり懇親会を開いておらず、近堂氏は本当はやりたいと話す。勉強会の時間以外でコミュニケーションをとる機会は多くない。それでも休憩時間や、3月のクラウドシンポジウムの際に開く懇親の場では、どう進めたか、どう苦労したか、誰を巻き込んだか、どう失敗したかといった話をフランクにできる。近堂氏はこの時間がとても大事だという。パネルディスカッションではモデレーターがそうした話を引き出しているが、それ以外の場で参加者や登壇者と交流することが、その後のつながりにも結びついているとした。

近堂氏はこれを、最近読んでいる本にある概念で説明した。ウェンガーが1998年ごろに提唱した「コミュニティ・オブ・プラクティス(実践共同体)」である。共通の関心や情熱を持つ人が定期的に交流し、活動や学習をよりよくしていくグループを指す。研究会、学内のFD、このオープンフォーラムもそうであり、特別なものではない。大学DX勉強会もその一つだろうと近堂氏は述べた。

境界を越えることで当たり前を疑う

勉強会でもう一つ「なるほど」と思うことが多いのが、境界を越える経験だという。そういうやり方があったのか、その発想はなかった、自分のところでは当たり前だと思っていたが実はそうではなかった。近堂氏自身も、こうして当たり前を疑う経験を何度もした。これを境界横断、バウンダリー・クロッシングと呼び、この感覚を得られることが勉強会の大事な点だとした。

そのため、勉強会から持ち帰るのは正解ではなく問いであることが多いという。自分の大学の常識が揺さぶられる、新しい選択肢が見える、当たり前だったことが当たり前でなくなる。こうした問いを得られることを、今後も大事にしたいと述べた。

DX人材とは誰か

DX人材の話題では、近堂氏はデジタルスキル標準の人材類型の図を示した。モデレーターから類型が5つから6つに変わったと聞き、図を差し替えたという。よく引用される図だが、近堂氏は勉強会で見てきた「DXができる人材」はそういうものではないと話す。

近堂氏が挙げたのは、人と人をつなぐ、境界を越えられる、新しい実践を持ち込める、問いを立てられるといった資質である。どれも専門的なスキルではない。日常の中で変化を感じ取り、自分たちの部署の中でそうしたことを考えられる人がとても大事だという。実際に勉強会で登壇する人、特に現場の人たちは、こうした点をとても大事にしていると近堂氏は感じている。

熱量を持つ人を可視化し、循環を生む

ここまでの話を、近堂氏は次のように整理した。勉強会で面白かったのは完成したものではなく、創発してきたものから始まる変化の過程だった。実践共同体や境界横断を通じて考えさせられる問いがあり、それを自分たちの組織でどう消化するかを考えるプロセスを提供できていることに、この勉強会の価値がある。

加えて、熱量を持った人を可視化することも大事だという。育成は難しい一方で、そうした取り組みをしている人はたくさんいる。そういう人をきちんと可視化し、できれば勉強会の運営にも加わってもらう。こうした循環が生まれれば、大学DXはもう少し広がっていくのではないか、と近堂氏は考えている。大学DXで取り組むべきは、デジタル化そのものに加えて、新しい実践を生み出し続ける力と、それを組織として受け止めて学び続ける力だと述べた。

勉強会はこのままでよいのか

最後のスライドで、近堂氏は勉強会の今後について問いを投げかけた。これまで12回、毎回3〜4件の発表があり、事例はおよそ40件から50件弱になる。近堂氏は、このままの形でよいのかと個人的にずっと考えており、勉強会も変わっていくべきではないかと思っているという。本来は有志メンバーの間で話せばよいことかもしれないが、あえてこの場で問いかけることにした。

選択肢として近堂氏が挙げたのは次のようなものである。これまで通り多くの事例を共有することは大事であり、DX人材を育てることや可視化することも大事だろう。さらに、部署や大学を越える境界横断を促進する取り組みができるとよいのではないか。それは「共創の場」のようなものなのか、とも近堂氏は自問した。限られた時間で皆が納得するものを作るのは難しいとしながらも、何か新しいことができれば参加者にとっても価値が生まれるのではないかと述べた。具体的な形はまだ示さず、この点は続くパネルディスカッションでモデレーターに掘り下げてもらい、議論したいとして発表を締めくくった。