安野貴博は何を目指して政治に入ったのか:ブロードリスニング、政治資金の見える化、「テクノロジー×〇〇」の経歴

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概要

チームみらい党首の安野貴博が、中田敦彦のYouTubeチャンネルにゲストとして出演した。中田は冒頭で、「私は安野貴博の凄さを日本人に伝えるために549万人の登録者を得たのだ」と思ったと語り、この回の目的を安野の経歴と考え方をわかりやすく伝えることだと位置づける。前半は都知事選と参院選での戦い方、政治資金や参入障壁といった政治の課題、チームみらいの行動規範について話す。後半は幼少期から起業、小説、アート、政治へと移ってきた経歴をたどる。最後に、政治資金問題への具体策と候補者募集を取り上げる。安野自身は、領域が変わっても「テクノロジーで未来がどうなるかを考える」という同じ思考を続けてきたと説明している。

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19年ぶりの再会

本題に入る前に、2人が初対面ではないことが明かされる。中田は安野の経歴を調べるうちに、安野が開成高校時代の2006〜2008年に高校生クイズに出場していたことに気づいた。中田が同番組のパーソナリティを務めていた時期と重なる。安野によれば、2006年の大会はエンタメ路線で、川下りをしながらクイズを解いた。中田が敗者復活の際にホテルの部屋まで来てクイズを出したことも覚えているという。2人にとっては19年ぶり、2度目の対面になる。

中田は、そのときの高校生がいま国政を動かそうとしていることに感動したと話す。安野の名前は都知事選の時点で知っていたが、当時は「石丸旋風」に目を奪われて十分に追えていなかったとも振り返っている。

3:51

都知事選の15万票とブロードリスニング

安野が注目を集めたきっかけは、前年(2024年)の東京都知事選だった。約15万票で5位になった。安野によると、この票数は30代の候補者として過去最多で、政党の支援を受けない完全な新人としても、過去22回の都知事選で最も多い。

既存政党や大きな宗教団体の後ろ盾がない中で票を得られた理由を、安野は「ブロードリスニング」にあると考えている。56人の候補者の中で最大の差別化要素はそこだったという。普通の選挙では、候補者が自分の考えを伝えるブロードキャストに全力を注ぐ。安野はそれも大事だとしたうえで、逆に有権者が何を考えているかを技術で広く聞き取ることが今ならできる、と前面に出した。そう主張した候補者は他にいなかった。無名のエンジニアが1か月でここまでの票を集められた大きな要因の一つだと安野は見ている。

具体的な手法はまだ模索中だという。その一つとして紹介されたのが、YouTubeライブに置いたAIアバター「AIあんの」である。マニフェストや安野が言いそうなことをすべて学習させたもので、VTuberのような見た目にした。実写よりアニメ調のほうが親しみやすいと考えたからだ。これを24時間、17日間休みなく配信し、視聴者の質問に答えさせた。選挙期間中に答えた質問は約1万件に及ぶ。人間には不可能な量だが、AIならこなせる。

6:51

対話ログの分析と、その限界

安野がもう一つの利点として挙げるのは、AIが安野の代わりに応対するだけで終わらない点だ。何が質問され、どんな批判が多かったかという対話ログがすべて残る。それを解析すれば、どこが伝わっていないか、どこに批判が集中しているかが安野本人まで届く。安野はこれを新しいタイプのコミュニケーションだと考えている。

解析には大規模言語モデルを使う。いまのAIは意味が似たテキストをまとめられるので、1万件を人間がすべて読まなくても、「こういう意見がこれだけあった」と件数や割合を含めて整理してくれる。

ただし安野は注意点も挙げた。ネット上で意見が集計されていると知られれば、同じ質問を大量に送り続けて比率を操作できてしまう。いわゆる多数派工作である。そのリスクを踏まえ、集計結果はあくまで参考程度に見ているという。

地上戦と空中戦、それぞれの偏り

従来の政治家は、SNSに届いたリプライを目で見て感覚的に把握するか、街頭演説で人の声を聞いてきた。安野はどれか一つでは足りないと言う。SNSだけでも、街頭演説だけでも、AIだけでもだめで、全部を見たうえで、媒体ごとにどんな偏りがあるかまで把握することが大事だという立場だ。対面の「地上戦」とネットの「空中戦」の比重は、試行錯誤しながら現在は5対5くらいで考えている。

どちらにも特有の偏りがある。現場に足を運ぶ人は、特定の分野に強い思いを持っていたり、その時間に外へ出てこられる人に限られたりする。ネットにも別の偏りがある。安野自身の経験では、ネット側の人は技術や経済といったマクロな話題への関心が強かった。現場に来る人には、子育てなど生活に身近な話題に関心を持つ人が多かった。演説の場所によっても違い、新宿と大阪、都市部と地方部ではまったく異なる。その場にいる人の特性がよく出るという。

10:59

国政へ、そして新党という「最短経路」

政治に関わり始めたのは、妻に「意見があるなら自分で出れば」と言われたことがきっかけだったと中田は紹介する。首長には関心があるが国政には関心がないという石丸伸二の立場と比べて、都知事を目指した安野がなぜ参院選へ向かったのかを中田は尋ねた。

安野の説明では、都知事選のあとにさまざまな政治家と話し、東京都の政策アドバイザーのような役割も務めた。それで政治の具体的な姿が見えてきた。そのうえで、政治をアップデートするための最短経路を探し続けた結果、国政であり、しかも既存政党からではなく自分で政党を作ることだと気づいたという。

国会は議席の取り合いなので、大きな党に入ってポジションを上げるほうがよいと考える人が多い。中田がそう指摘すると、安野はそれを認めつつ勝算の根拠を二つ挙げた。一つは、都知事選でこれだけ票を取れたというベンチマークがあったこと。もう一つは、自分が大企業ではなくスタートアップのキャリアを歩んできた人間で、ベンチャーの戦い方を知っていたこと。政治評論家からは「絶対無理だ」と言われ続けたが、勝算はあると考えていた。実際に議席を獲得できた、と安野は語る。

13:26

1議席の政党交付金で何をつくるか

中田が特に目を引かれたのは、「1議席取れば政党交付金が入り、それを活動資金にできる」という訴え方だった。こういう言い方をする政治家は、安野の知る限りほとんどいない。1議席あたりの交付金は計算方法にもよるが、年間およそ1億円になる。安野の見方では、他の政治家は主に選挙活動に使っている。

チームみらいは、テクノロジーを使って実際にものを作りながら議論をリードするという、他の政治家がやってこなかった形で影響力を持てると考えた。だから1議席でも意味があると訴えた。その第1弾が、政治とカネの問題に取り組む見える化ツールである。交付金で永田町にソフトウェアエンジニアのチームを作り、開発を進めている。収録時点で、最初のリリースに向けたコードは7割ほどできていると安野は話している。

まずはチームみらい自身の政治資金を見える化し、使っている様子を見せる。そのうえで他の政党にも使ってもらうことを狙う。安野が参考例に挙げたのはスウェーデンで、閣僚に国がクレジットカードを貸与し、その利用明細が自動的に公開される仕組みが30年前からあるという。2025年の日本なら同じことができるはずで、1政党がやってみせることに意味がある。そうすれば、なぜ他の党は使わないのかという国民の声が高まり、採用する党が増えて全党に広がっていく。安野はそれを期待している。

中田はこの考え方に強く反応した。過半数を取らなければ法案は通らないので、小さな政党や野党にはあまり存在価値がないとすら思っていたからだ。たった1議席で変える方法論を示し、実際に作りながら報告している点に、政治への絶望感が揺らいだと語る。

100日プランと選挙後のYouTube

チームみらいは参院選で、政策として目指すマニフェストとは別に、「当選後100日間でこう動く」という行動計画を示した。1議席では、政策が実現するかどうかは他の与野党の動き次第で、完璧に実現できるとは言い切れない。しかし自分たちの100日間の行動目標なら実行できる。できることとできないことを切り分けて提示したので、進捗を報告するのは当然だと安野は言う。実際、党の公式YouTubeチャンネルで週次の進捗報告を続けている。

中田は、選挙のときだけSNSを頑張り、当選後は公約の進み具合を発信しない政治家が多いことを「もったいない」と指摘した。選挙後の発信こそが本質だという中田の評価に、安野も同意する。YouTubeは政治と相性のよいコミュニケーションツールなのに、選挙のときしか使わないのはもったいなさすぎる。他の政党もやるとよい、と安野は応じた。

19:52

新人を阻む見えにくい参入障壁

政党を作ろうとした途端にあらゆる種類の壁があった、と安野は話す。わかりやすいのは供託金で、参院選では約600万円を納めないと立候補できない。一定の得票があれば返ってくるが、資金に余裕がなければそもそも出られない。

それ以上に問題なのは、見えにくい壁が大量にあることだという。たとえば選挙ポスターの掲示板は東京都だけで約1万4000か所あり、候補者側が自分たちで貼らなければならない。安野自身も選挙に出るまで知らなかった。個人では到底できないので、資金力に加えて組織力も要る。メディアの壁もある。無名だった都知事選のときは、テレビでの報道は本当にゼロだった。早稲田大学の研究所が全候補のマニフェストを評価して点数をつけ、安野のマニフェストは小池百合子や石丸伸二と比べても高く、全候補中1位だった。それでもまったく報道されなかったという。

安野が根本的な障壁だと考えているのは、公職選挙法のグレーゾーンの多さである。経験のある人は「ここまでは捕まらないが、ここからはだめだ」という実際の線引きを知っている。新人にはそれがまったく見えない。安野は完全にホワイトでいこうと決めたので、他の候補が取っているリスクを一切取らずに戦うことになった。「縛りプレイ」のようで、うまく戦えていない感触があったという。運用は選挙区によっても違う。周りがやっているからと同じことをすれば、新人だけが摘発される可能性もある。公職選挙法違反は罰が重い。

グレーゾーンが生まれる背景として、安野は選挙活動と政治活動が分けられていることを挙げた。政治活動は365日いつでもできるが、「この選挙で私に投票してください」という選挙活動は選挙期間中しかできない。その境目は実際には曖昧だ。安野によれば、この二つを分けているのは諸外国では日本だけで、例外は日本の公職選挙法を参考にした台湾と韓国だという。ルールを明確にしてダメなものはダメとする国と比べ、日本はグレーな部分が多い。中田は、捜査機関の裁量によって同じことをしても捕まるときと捕まらないときがある、そこが最大の参入障壁だとまとめた。

こうした障壁があるために、新しい人、若い人、親が政治家ではない人が出られず、政治の新陳代謝が進まない、と安野は言う。政治家になろうとする人は奇特な人と見られがちで、元のビジネスに戻れなくなるリスクもある。障壁が下がれば政治家の新陳代謝が起き、日本はよくなっていくと安野は考えている。

では、参入障壁を下げる「センターピン」はどこにあるのか。安野は正直に、まだ確実な方法は見つかっていないと答えた。最も難しいのは、いまのルールで勝った人がそのルールを決めている点で、変えたいと思う動機がない。そこで安野は二つのことに取り組む。一つは、政治家の新陳代謝がいかに起きていないかをきちんと伝えること。もう一つは、スタートアップ業界出身のAIエンジニアのような新しい人が入ると新しい試みが生まれる、という実例を見せること。直接的ではないが効いていくはずだという。

根本治療で150万票を取れた理由

中田は安野を評価する理由を3つ挙げる。本質的な課題設定、それを実現する革命的な方法論、安定した倫理観である。中田が政治家と対談するたびに日本の根本問題だと感じてきたのが、政治資金と参入障壁の二つだった。それなのにほとんどの政治家はこれを争点にしない。安野はその理由を「鶏と卵」の構造で説明する。いまの仕組みで勝った人がルールを作り、いまの政治資金規正法のもとでお金が手に入るから勝てている。このループを壊すには、新規参入した人たちが着実に成果を出して見せるしかないという。

困窮すると、ばらまきや給付金、減税といった直接的な話が最も届きやすい。その中で根本治療を訴えて票が取れたことに、中田は驚いたと率直に語る。安野にとっては、未来のことを考える政党なら根本治療をするのが自然な流れだった。さらに、150万人を説得できるという自信も元からあったという。都知事選の15万票は都民約1400万人の約1%で、参院選の150万票も人口約1億2000万人の約1%にあたる。無名でもきちんと訴えれば、この程度の人には伝わるはずだという確信があった。

今後については、別の戦い方が必要かもしれないと安野は述べる。キャズム理論では、最初に新しいものに気づくイノベーター層が全体の約1%とされる。その後のアーリーアダプターからアーリーマジョリティへ届くところには断絶がある。そこを越えられるかが次のポイントだと見ている。

30:54

テックから来た政治家と5つの行動規範

中田は、政治家の出身は官僚や法曹、金融関係が多く、テック系はほとんどいないと指摘する。安野はその「ど真ん中」から来たと中田は評価し、安野も政治家の中でテックの方から来た人はほとんどいないと認めた。

三つ目の強みである倫理観について、中田はチームみらいが候補者募集で掲げる5つの行動規範に注目した。「手を動かす」「オープンにする」「人を貶めない」「分断を煽らない」「これが正解だと決めつけない」の5つである。中田の読みでは、1つ目は実行力、2つ目は透明性を表し、残りの3つはいずれも他者との向き合い方、つまり倫理性を表している。5つのうち3つを倫理に割いていることに、強い懸念が表れていると見た。安野は「面白い見方」で、言われてみればそうだと応じた。

安野は、政治を抽象的にいえば、いろいろな人が話し合ってよりよい案を探し、合意していく営みだと説明する。それを難しくしているのが、議論の過程で相手を攻撃することだという。批判は必要だが、「あいつはバカだ」のように過度に貶める発言が今の政治には多い。分断も同じで、「あいつらとは違うから話し合っても無駄だ」という態度は建設的な議論を阻む。個人や集団にレッテルを貼るのは、理解を早めたり選挙戦術として有効だったりするかもしれない。しかし民主主義の観点ではみんなが損をしている、と安野は語る。

「決めつけない」については、ソフトウェアやビジネスの世界から来たからかもしれないと前置きしたうえで、世の中に100%正しいことはそうそうない、と安野は言う。専門家になるほど「こうとも言えるし、ああとも言える」と歯切れが悪くなるものだ。自分が正しいと思うことでも間違っているかもしれない、という謙虚さを持とうという姿勢だという。

中田は、わかりやすく極端なワンイシューを強いフレーズで打ち出し、反対者にレッテルを貼って内側の結束を高める「キャッチコピー政治」が日本でも世界でも趨勢になっていると見ている。それに対してチームみらいは穏やかな正攻法をとっている、と評価した。

キャッチコピーと、意見を変える勇気

安野は、キャッチコピーそのものが悪いとは考えていない。みんなをまとめられるよいコピーはあり、探す努力はすべきだという。参院選ではWeb広告でABテストを重ね、どのコピーが刺さるかを検証した。最も反応がよかったのは「たった1議席でも未来は変えられる」というメッセージだった。相手を貶めも分断もせずに広い層に届いたことがデータでわかったので、こういうものを探していきたいと語る。ただし難しい作業だとも認めた。

明確なスタンスを示すことは大事だと安野は言う。一方で、議論の中で自分たちの考えが違っていたとわかれば変える柔軟性も持つべきだという。言ったことを引っ込めるには勇気が要るのではないか、と中田が問うと、安野は勇気も批判もあるだろうと認めた。そのうえで、いまはむしろ逆方向に行き過ぎていると指摘する。自分の発言を撤回できないせいで、相手をより強く攻撃するしかなくなるコミュニケーションが多い。その瞬間は批判されても、長い目で見れば撤回できるほうがよい政策、よい意思決定につながる可能性が高い、というのが安野の考えだ。

38:27

透明性と「デフォルトパブリック」

中田は、政治不信の根本には不透明さがあると見ている。グレーな法律だけでなく、お金の流れも用語も意図的にわかりにくくされているという。例として挙げたのが、旧文通費の現在の名称「調査研究広報滞在費」だ。中田はこれを「悪魔の言語」と呼び、考えた人はブラックハッカーのような能力者だと評した。租税特別措置法なども含め、お金の問題とわかりにくさが「悪魔合体」している、と中田は言う。

安野は、見えなくすることは権力を生み出す方法だと説明する。「私は知っていて、あなたは知らない」という勾配が、他人に指示できる権力の源泉になる。中田は、聖書の内容を教会の人しか知らなかった宗教改革以前の教会にたとえた。しかし安野は、現代社会ではそのやり方が通用しなくなってきたと考えている。変化が速く不確実性が高い中で会社や国を運営するとき、情報を隠しているとメンバーが動きにくくなり、変化への対応が遅れるからだ。テック業界ではこの20年ほど、大企業でも従業員に情報を開示していく動きが続いてきた。国も同じ運用に変えたほうがよいとチームみらいは考えている。

例として安野はオープンソースを挙げる。苦労して作ったソフトウェアを公開するのは、昔なら考えられなかった。しかしいまは、公開すれば世界中のエンジニアが間違いに気づきやすくなる、興味を持ったエンジニアを採用できる、といった経済合理性があり、そちらが主流になりつつある。もちろん隠すべき場面もある。それでも、オープンにすると変化に強くなるという大きな傾向がある。決算の細部まで公表する新しいタイプの会社も現れているという。また、約20万人の従業員を抱えるGoogleには「デフォルトパブリック」という標語がある。隠すには理由が要るが、公開するのに理由は要らない、という考え方だ。基本を「隠す」に置くか「公開」に置くかのパラダイムシフトを、政治や行政でも起こすべきだと安野は語る。

中田は、日本の政治が直面している問題を、老朽化、それに伴う腐敗、根本治療にならないポピュリズムの「三重苦」とまとめた。その裏返しが新技術、透明性、合理的解決であり、チームみらいが掲げているのはそれではないかと話す。安野はこの「3本柱」を「パクりたい」と言い、中田は「オープンソースです」と応じた。

45:04

原点:Windows98とExcel、開成での演劇とクイズ

後半では、安野という人間を「オープンソース化」して、こういう人が増えるようにしたいという中田の意図のもと、経歴を順にたどる。安野は1990年に千葉県で生まれ、東京都文京区で育った。父は大企業の会社員、母はパート勤めで、エンジニアの家系といった特別な背景はないという。

プログラミングを始めたのは9歳ごろだった。親が株式投資用に、発売されたばかりのWindows98を買ってきた。安野はそれを朝から晩までいじり続けて「実効支配」することに成功したと笑う。プログラミングを習わされたわけではない。プリインストールのソフトを一つずつ開いて、何をするものかをじっくり調べていった。親によれば、2〜3歳のころにはコンセントに執着していたという。

中でもExcelは「格が違うソフト」だと当時から感じていた。Wordは文章を打ち込むだけだが、Excelは式同士が連動し、表を無限に広げられる自由度がある。小学4年生ごろには、ランダム関数でグー・チョキ・パーを出すじゃんけんゲームを作った。勝敗のスコアを記録する機能もあった気がするという。迷路のようなものや、サイコロを振るすごろく的なゲームも作った。誰かに教わったのではなく、触りながら「これはじゃんけんと同じではないか」と考えて遊びにしていった、という思考回路だったと振り返る。

中学はSAPIXに通って開成中学に入った。小学1年生のころから勉強は得意だと自覚していたが、受験は親の導きだったと安野は言う。開成では、演劇をする人がいなかったので、文化祭で演劇をやるプロジェクトを立ち上げた。小学生のころ2〜3年大阪に住んでいて吉本新喜劇が好きだったことから、コメディをやった。10人ほど出演する30分ほどのオリジナル作品で、脚本は2〜3人で書いた。このときのメンバーがのちに演劇部になったという。小学生のころから星新一などの小説を読みまくっていて、ストーリーを考えるのが好きだったことが下地にあると安野は話す。ほかにも、『テニスの王子様』の影響で軟式テニスをやり、クイズにはまって高校生クイズに出場し、プログラミングの大会にも出ていた。

それだけの時間が取れたのは、中高一貫校で高校受験がなく、高校1〜2年のときは学校の勉強をほぼしなかったからだという。校内順位は「順調に」下がったが、やっていないのだから下がるのは当然で、やれば上がるだろうと思って焦らなかった。ただし高校生クイズは2回戦で、川を下っている最中に敗退している。

57:58

東大受験と学内SNS

受験勉強は最後の1年だけで、東京大学に合格した。最短経路は過去問を解くことだと考えたという。何も勉強していなかったので、最初は問題文の意味すらわからない。だからこそわかりたいというモチベーションが高まり、解きまくるうちに傾向がつかめて、出ない範囲は教科書も読み飛ばせた。

中田は、新党立ち上げと同じ最短経路思考だと指摘した。安野はこれを二つに分けて考えていると答える。課題は最速で解いたほうがよいが、小説を書くような自分が楽しむ活動は時間をかけて味わったほうがよい。全部が最短経路というわけではないという。

大学1年の冬には、学内向けのSNSを作った。同じ授業を取っている学生同士がつながり、ノートを交換できる仕組みである。東大の教養学部では理系の学生も文系の授業を取れるため、知らない人ばかりの授業が多い。安野自身も興味のままに多くの授業を取っていて、情報交換の相手が欲しかった。当時(2009年)はTwitterが東大内で急速に広がっていて、津田大介にちなんだ「tsudaる」という言葉のとおり、授業を実況中継する学生もいた。授業ごとにそれを取っている学生のTwitterアカウントをまとめれば、その授業の実況タイムラインを複数の視点で合成できる。そう考えて作った。登録者は約2000人に達し、教養学部の学生約6000人の3分の1ほどにあたるという。当時はmixiが広く使われていて、SNSへのリテラシーは上がっていた。プログラミングもそこそこできたので、作れると思ったという。安野は、身近な課題をテックで解決してみせたのは、このときがほぼ初めてだったと振り返る。

1:05:12

BCG、未踏、そしてBEDOREとMNTSQ

2014年に卒業すると、すぐには起業せず、外資系コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループに入った。大学では松尾研究室でAIを研究していた。2012年ごろ登場したディープラーニングは、犬と猫を見分けられるようになった段階だった。世間的には「それで何?」という反応だったが、安野は複雑なものを分類し予測できることを意味すると考え、ソフトウェアが賢くなって世界を変えると確信した。社会実装には起業がよいと考えたが、AIにはデータが必要で、日本でビッグデータを持っているのは大企業だ。大企業の中を知らなければ面白いことはできないという仮説から、数か月単位でさまざまな企業に入り込めるコンサルを選んだという。

在籍は1年半だった。0時前に帰れたのは1、2回しかなかったという。1日16時間ほど働いていたので、「どんな会社にも3年はいなさい」という格言の3年分を1.5年で達成したのではないかと考えたと話す。ただし安野は、長時間労働は自分から働いていたもので、現在は解消されているらしいと補足している。同時期に経済産業省系のIT人材育成事業「未踏」に採択され、アンドロイド研究の第一人者・石黒浩のもとで約1年「修行」した。そのあと起業した。

1社目のBEDOREはチャットボットの会社である。当時のAIには森羅万象について話す能力はなかったが、話題を絞り込めば会話が成立した。コールセンターへの問い合わせは返品やパスワード忘れなど内容が限られているので、相性がよかった。そこに行き着くまでには、友達のようなボットや、今でいうSiriやChatGPTのような万能秘書型エージェントも試し、無理だとわかった。試行錯誤しなければ見えない技術と用途のつながりがある、と安野は語る。2021〜22年ごろにはコールセンター市場でシェア1位になり、年商は約10億円に達した。

その後、安野は代表を別の人に譲り、2社目を作った。自分は0から1のフェーズが得意で楽しい。1から10、10から11が得意な人に渡したほうが、会社も安定し双方にとってよいと考えている。ただし渡した先で潰れては、解決したかった問題が解決されない。拡大再生産のサイクルに乗るところまではやりきることが大事だという。

2社目のMNTSQは、AIで契約書を扱うリーガルテックだ。2018〜19年ごろのAIはまだ未熟だった。しかし契約書は弁護士がてにをはまで整え、条ごとに意味の塊に分かれた、AIにとってきれいなデータだった。弁護士の単価は高く、機械に任せられる部分を任せれば経済的なインパクトが大きい。弁護士自身も、交渉など深いコミュニケーションに時間を使いたいと考えている。共同創業者の弁護士と議論する中で業界の課題を聞き、2か月ほどデータを借りてテストしたら意外とよい結果が出たのが始まりだった。中田によれば、三菱商事や日立製作所などの大手企業に導入されている。

同じころ、安野はペッパーくんと組んでM-1グランプリに出場している。NSCに入った高校の同級生が相方を見つけられなかったことと、ペッパーくんにはまっていたことを組み合わせた。ペッパーくんがボケ役で、安野が舞台袖でMacBookからボタンを押して動作させた。業界への思い入れというより、身近に現れた課題を解決したいという気持ちが湧いてくるのだと安野は言う。

1:19:30

小説:起業とSFに共通する「未来予測」

2019年、安野は短編「コンティニュアス・インテグレーション」で星新一賞を受賞した。小学生のころ読みふけった作家の名を冠した賞で、本人も感慨深いと話す。起業家がなぜ小説を書くのかと問われた安野は、スタートアップを作ることとSF小説を書くことは思考過程が似ていると答えた。どちらも「この技術があったら未来はどうなるか」を考える。SFならその世界で主人公が抱く感情を想像していく。スタートアップなら「契約書を読める技術があれば弁護士の働き方はこう変わるはずで、だからこのソフトウェアが使われる」と考えていく。核にあるのは未来への関心だという。

作品名はソフトウェア開発の用語から取った。いまのソフトウェアは、たまにまとめてではなく、連続的にバージョンアップされている。安野によれば、YouTubeも1日100〜200回更新されている。この発想をスポーツ選手に当てはめた。現在の選手はオリンピックなどの節目に合わせて仕上げるが、それは昔のソフトウェアに似ている。いつ本番が来るかわからない環境にすれば、選手は毎日少しずつ積み上げるはずだ。そういう装置がある未来を描いた。中田は、物語が最終的に、システムの一部のように扱われる人間にも意思はあるのかという哲学的な問いに行き着く点を評価した。

2021年には長編『サーキット・スイッチャー』でハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞した。舞台は自動運転が完全に普及した2029年の東京である。アルゴリズムを開発した会社の社長が車ごと人質に取られ、封鎖された首都高を走らされ続ける。犯人は社長の「罪」を公開するよう要求する。開発者本人に意図はなかったが、納品先の自動車会社がある事情でアルゴリズムに調整を加えていたことが明らかになる。最後は、調整の中身も含めて公表し、国民が選ぶという「オープンソースエンディング」に至る。中田は、自動化が進んだ社会でも人間の選択と責任はどこにあるのかが2作に共通するテーマだと読み解いた。この作品の解説文には、令和が続く限りこれを超えるSFは出ないだろうという賛辞まであると紹介している。

1:28:39

ロイヤル・カレッジ・オブ・アートと生成AIアート

受賞の翌年にあたる2022年、安野はイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に入学した。中田は、11年連続で世界1位とされる美大だと紹介する。安野の関心は、イノベーションとデザインの考え方が近いという議論にあった。両者の距離が近い大学としてRCAに出願したところ、工学部出身でアートやデザインの経験がないことを指摘され、未経験者向けのアート&デザインコースを勧められた。ところが入ってみるとデザインの要素は少なく、アート一色だった。しかも周りは各国のアートスクールを出た経験者ばかりで、絵が描けないのは安野だけだったという。入学できたのは、過去2社でのUI・UXデザインの経験をソフトウェアのデザインとしてアピールし、文学の経歴も伝えたからではないかと安野は推測している。

コースは5月に始まった。3か月ほどどうしようかと思っていたところ、8月にStable DiffusionやMidjourneyといった画像生成AIのブレイクスルーが起きた。安野はこれを「僕の美大卒業に技術の進化が間に合った」と表現する。以後は、画像生成AIでどんな新しい表現ができるかという「一本足打法」で卒業まで進んだ。

安野は、AIで描いた絵そのものをアートと呼ぶのは難しいと考えている。プロンプトを書けば誰でもそれなりのものが作れるからだ。ただ、生成AIによって人間が新しく表現できるようになったものは無限にあると見ている。その一つが作品「生成時計」である。一見すると普通の街の風景画だが、光と影による錯視で文字盤と時刻が浮かび上がる。1分ごとに新しく生成され、同じ絵は二度と現れない。錯視画像を1分に1枚描くことは人間には不可能だった。近代の時計は、今日の1時も明日の1時も同じ記号と形で示し、時間の一回性をはぎ取った。安野は、生成AIを使えばその一回性を思い出させる時計が作れると考え、この作品にした。

2023年にはアジアデジタルアート大賞展FUKUOKAで「幻視影絵」が受賞した。スポットライトの前で誰でも手で影絵を作ると、AIがその影を解釈し、輪郭を保ったまま細部を描き込む。キツネのつもりがカエルになることもある。言葉を介さないAIとのコミュニケーションの中で、人間とAIの見ている世界のずれを体感できる作品だと安野は説明する。3歳の子どもも夢中で遊んでいたという。技術があって初めて可能になった体験を作ることが、自分のテーマだと安野は語った。

1:40:07

4つの領域は「一芸」だった

そして翌2024年に都知事選、2025年に新党を結成して参院選で初当選した。中田は、一つの分野で成果を出した翌年に別の分野で成果を出している経歴の異様さを強調する。芸術と自然科学をまたいだレオナルド・ダ・ヴィンチ、自然科学と政治をまたいだベンジャミン・フランクリンは2分野だが、安野はビジネス、文学、アート、政治の4分野にまたがっている。中田は、両者を超えているとしか言いようがないと話し、天才がアメリカや中国ばかりに生まれると嘆いてきた20年を経て、日本に安野が生まれたことがうれしいと語った。

これに対して安野は、ジャンルは分かれていても頭の使い方は一貫していて、実は「一芸」だと答えた。テクノロジーで未来がどうなるかを考え、そのアウトプットの形式がビジネス、小説、アート、政策と変わっているだけだという。

中田は続けて、人は承認やお金といった欲のために生きることが多いのに、ビジネスで成功しても、文学やアートで評価されてもそこに安住しないのはなぜか、何が目的なのかと問うた。安野は、ソフトウェアエンジニアの習性が強いのではないかと答える。バグを見つけたら解決したくなる。一番大きな課題を考えると、それは難しく大きく、未来がかかった政治の課題だった。民主主義は日本だけでなく世界各地で行き詰まり始めていると議論されている。安野は、ブロードキャストではなくブロードリスニングをするといったテクノロジーの活用が、その大きな解決策の一つになりうると考えている。それならやらない理由がない、という。

中田は、34歳の安野がこの道のりを歩いてきたことで、自分が絶望していた政治資金や、世襲がはびこる参入障壁の問題が解決できる気がしてきたと語った。テックジャイアントの創業者には資本の拡大を追う人も多い中で、社会課題に正攻法で向き合っている点を評価する。一方で、都知事選や参院選のときに自分も主要候補しか見ていなかった、それはメディアと参入障壁の限界にとらわれていたということだ、と反省も口にした。

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今後の展望と、政治資金問題への具体策

今後について、中田は総裁選の後に来るであろう衆院選と、2027年の統一地方選挙を挙げ、さらにその先の展望を尋ねた。安野の答えは「全く見えてない」だった。これまでのキャリアでも1年先が読めていた時期はほとんどなく、その場で全力投球を続けてきた。課題がいつ解決するのか、解決したら次に何をしたくなるのかはわからない。ただ参議院の任期は6年なので、6年後までは決まっているという。

中田は、政党交付金がありながら政治資金パーティーが続いている問題と、特定の業界や企業への税優遇を十分に公表しない租税特別措置を、政治の根本問題として挙げた。これを開発中の「みらい まる見え政治資金」で解決できるのかと尋ねる。安野は、これだけで両方をすべて解決するのは難しいが、着実で有効な一歩になると答えた。自分たちの資金の流れを可視化してやり方を示し、それをオープンソースにして、他の政治家がいつでも使えるようにするという。

政治資金パーティーについて、安野はパーティー自体を一定の資金調達手段としてありうるものと見ている。チームみらいはまだやったことはない。問題は、現金を受け取り、それが帳簿に記載されない構造にあり、現在の裏金・不記載問題の大部分はそこから来ているという。入金の部分をPayPayや振り込み、クレジットカードなどでシステムとつなげて電子化し、現金の比率を下げる。現金以外の部分をシステムで捕捉して公開していけば、パーティーをやめさせなくても、そこで得たお金を裏金にすることをやめさせられる、と安野は説明する。租税特別措置は政治資金ではなく国の資金の話なので別のやり方が必要になる。ただ日本は租税の透明性指数が世界でも際立って低い側にあり、公開を進めるべきだと安野は述べた。中田は、ツールと仕組みを作って見せ、国民的な圧力で採用させるという同じ構図だと整理し、安野も同意した。参入障壁については、前述のとおり明確な解はまだ持っていない。それでも新規参入者が結果を出すことは間違いなくプラスになる、と安野は繰り返した。

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候補者募集と次の選挙

最後に話題は、チームみらいの衆院選に向けた候補者募集に移った。求めるのは、ビジョンに共感できる人、5つの行動規範に共感できる人、経験やスキルで貢献できる人である。ビジョンは「未来は明るいと信じられる国へ」。中田は、チームみらいの言葉選びが恐怖を煽らず、ポジティブで具体的な点を評価した。安野は、未来が明るいと信じられれば今リスクを取ってチャレンジしようと思えるが、暗いと思えば人は保守的になり挑戦しなくなると言う。人口の少ない若年層に広がる「無理ゲー」やシルバー民主主義への諦めを踏まえ、これは気持ちの面でも経済の面でも重要なビジョンだと説明した。

エンジニアばかりを集めていると言われることについて、安野は、自身がエンジニアで参院選の候補者にもソフトウェアエンジニアが4、5人いたため、そう見られるのだと説明する。実際に求めているのは新陳代謝であり、これまで政治と縁遠いと思われてきた業界の人にこそ考えてほしいという。年齢制限はない。参院選時の候補者の平均年齢は35.5歳だったが、経験の有無だけで良し悪しを判断しないので、40代や50代にもぜひ応募してほしいと呼びかけた。募集は常時行っているが、9月中に書類を提出した人から優先的に見るという。

参院選との違いについて、安野は戦い方がまったく変わると見ている。参院選は、知っている人がゼロのところから2か月でどれだけ知ってもらうかの戦いだった。次は一度投票してくれた150万人からどこまで広げるかが課題になる。参院選後はチームみらいへの支持を表明するインフルエンサーも増えており、そうした人が立候補する可能性もあると安野は言う。ただし知名度だけでは決めず、政治の中にいなかった人で、ビジョンに共鳴する人を求めるとした。前回の新人候補は「議員として何をしたか」という実績を語れなかったが、次は準備と実績を積み重ねたうえで臨める。衆院選の時期にまた進捗を報告すると約束して、対談は終わった。