東大の情報システム担当者はDXをどう見ているか:システム導入の「やり残し」を埋める活動としてのDX

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概要

東京大学情報システム本部の玉造潤史准教授は、大学DX勉強会のパネルで、DXを推進する立場からではなく、一人のシステム担当者としてDXをどう受け止めているかを語った。玉造氏の立場ははっきりしている。DXは特別な新しい活動ではなく、これまで続けてきたシステム導入による業務改善の延長にある。ただし、これまで踏み込みきれなかった部分を変える機会になっている、という見方である。

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DXの捉え方:効率化と、デジタルで新しくできること

玉造氏は、DXの捉え方は人によって異なるとしたうえで、自身の認識を二つにまとめた。一つは、最近使えるようになった様々なツールを活用して業務を整え、効率化や高度化を進めること。もう一つは、デジタルを使って、これまでできなかったことを幅広く実現することである。DXという言葉はこの両方を含んでいる、と玉造氏は理解している。

この定義に照らすと、長年システムを担当してきた玉造氏にとって、自分の仕事の中身を変えろと言われている感覚はあまりないという。DX勉強会の場なのでDXというキーワードで考えてはいるが、日々の仕事で特別なことをしているわけではない、と率直に述べた。

DXが進んだ背景:前提条件の変化とツールとのギャップ

コロナ禍以降にDXが大きく進んだ背景について、玉造氏は一般的な見方として、オンライン業務の普及を挙げた。以前は大学に来ることが基本だったが、来なくてもよいという運用に緩やかに変わった。会議もオンラインで開けるようになり、その場に必ずいなければならないという時間的な拘束がかなり減った。在宅勤務も、人や環境によって違いはあるものの、以前は「なし」とされていたものが今は「あり」になった。

玉造氏は、こうした要件の変化が、システムを作り業務を組み立てるうえでの条件を大きく変えたと見ている。以前なら絶対にできなかったことが今はできるようになっている。そこがDXの「トランスフォーメーション」にあたる部分ではないか、というのが玉造氏の解釈である。

さらに玉造氏は、別の要因も挙げた。Claude Codeのようなクラウドのツールはどんどん進化していくが、大学で一度導入した業務システムはそう簡単に進化できない。そのため、両者のギャップは開き続ける。玉造氏は、このギャップを埋めようとする活動としてのDXもある、と認識している。

「To-Beが甘かった」という自省

それでは従来は業務改善をしていなかったのかといえば、決してそうではない、と玉造氏は強調した。システム導入の際には、As-Is(現状どうなっているか)とTo-Be(どうあるべきか)を分析し、あるべき姿を描いてきた。ただし、あまりに無理な理想像は描けない。変化を望まない人もいるため、大きな変更は難しく、かなりコンサバティブに作らざるを得なかったという。

そのため玉造氏は、今のDXの議論を聞くと、どこか自虐的に受け取ってしまうと明かした。精一杯変えようと思って要件を作ってきたが、DXのツールで簡単に改善できるものが次々に出てくるのを見ると、To-Beのあるべき姿がまだ甘かった、もっと踏み込んでよかったのだと痛感するという。玉造氏はこれを、日々の後悔のようなものだと表現した。

そこから玉造氏は、今のDXを次のように位置づけた。業務システムの導入時に踏み込みきれなかった部分を改善の種にして展開していく。しかも今は、周囲がそれを理解してくれるので、改善が積み重なっていく。その相乗効果で、これまでの壁を乗り越えていくのが今のDXではないか、という見方である。玉造氏自身はどちらかといえば世の中を変えていきたい立場であり、DXの波をうまく利用して、これまでの活動をより盛り上げていきたいと述べた。

「小さなDX」と「大きなDX」

実際にDXに取り組むにあたり、玉造氏は「小さなDX」と「大きなDX」の二種類があると整理した。

小さなDXは、身近な担当者が自分の身近な業務を、ツールをうまく使って改善していくものである。本人のリテラシー向上にもつながり、申請のオンライン化や教育のデジタル化などで多くの実績がある、と玉造氏は見ている。

大きなDXは、システム全体を入れ替えて新しいものを作る、あるいは業務全体を見直すといった取り組みである。前述のように前提条件が変わっているので、その変化を生かした大きなDXもぜひ必要だという。両者をうまく組み合わせることが、今のDXにとって重要だというのが玉造氏の考えである。

小さなDXの実践:お金をかけず、手と頭で

玉造氏は、自身が両方に取り組んでいることを示すために、具体例を紹介した。

小さなDXの例としては、Power Automate、Forms、Entraといったクラウドの機能だけを使い、お金をかけずに「手と頭だけ」で仕組みを作った事例を挙げた。全学アカウントと全学の情報セキュリティ教育・セキュリティテストを連携させる仕組みを実現したという。

もう一つの例はUTokyo Slackである。東大にはSlackの契約があり、そのワークスペースの作成や運営を、職員にGAS(Google Apps Script)を書いてもらうなどして、クラウドベースの仕組みだけで運用しているという。

大きなDXの実践:組織の構造ごと変える

一方で玉造氏は、本当に力を入れるべきなのは大きなDXだと考えている。スタートラインから変えていく必要があるが、当然一人ではできない。その例として挙げたのがutelecon(東大のオンライン授業・会議支援の取り組み)である。教員の主導のもと、従来は教員と職員だけで進めていたシステム運営に学生にも協力してもらい、より良い運営を目指している。玉造氏はこれを本当に大きなDXだと評価した。

次に挙げたのが、全学Wi-FiのUTokyo Wi-Fiである。基本的にすべての建物のすべての区域でWi-Fiを使えるようにしている。以前は学部や研究科など部局ごとに個別に運営していたものを、全学共通で整備する形に改めた。これはお金の構造も人の構造もすべて変えることを基本スタンスとした取り組みだという。

さらに、現在進行中の取り組みとして証明書発行の一元化を紹介した。卒業証明書や成績証明書などは東大では各学部ごとに発行しているが、それを大学全体で取りまとめようとしている。このほかにもマイナンバーカードの活用や会計システムの作り直しなどに取り組んでいるという。玉造氏は、こうした大きな実践を進めながら、小さな改善も重ねていくことがDXに必要だと述べた。

これからの課題:生き残るDXにするために

玉造氏は、DXが立ち上がってきた今、ここから先が重要だと考えている。生き残るために何が必要かをきちんと考えるべきだという。

一つは視野の広さである。これまでは身近なところから取り組む流れだったが、生き残るにはもっと大きく幅広い視野で見ていく必要がある。もう一つは新しい視点である。これまで前提としてできないと受け止めていたことが、どんどんできるようになっている。それをどう捉えていくかが問われる。

玉造氏は、二種類のDXで課題の性質が違うと指摘した。大きなDXは組織改変なので、定着さえすれば生き残る。ちゃんと頑張ってやればよい、という見方である。一方で小さなDXは、自転車操業に近い状況になっていく。これをどうまとめ、回収していくかがとても重要だと玉造氏は述べ、そこは考えながら進めていくしかないとした。

情報システム担当者への呼びかけ

締めくくりに玉造氏は、情報システム担当として感じるDXは、結局これまでのシステム導入活動の延長にすぎないと改めて述べた。そのうえで、同じ立場の担当者に向けて呼びかけた。今は小さなDXがもてはやされている感があるが、これまで取り組んできた大きなDXもとても重要なので、ぜひ連携して進めたい。そして最重要課題は、各所で芽を出した多くの小さなDXをどううまく巻き取っていくかであり、そこは協力して取り組めるとよい、という。

最後にDX勉強会について、玉造氏は参加して多くの取り組みを見ることで大きな刺激を受けていると語った。そうした事例を目にして次のDXにつなげていくことが重要であり、多くの人に参加してほしい、自身も担当者としてそれを次の活動に生かしていきたい、と述べて話を終えた。